忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。213話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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 ――作中に出て来る、〝抜き打ち〟という技は、刀の抜刀術において、いきなり斬るとか、抜く動作を知らせずに急に斬る事などを指します――





213話 ミョルマイルの受難

 

 

 地下迷宮(ダンジョン)百階層にある、運営会議室。

 

 

 そこにリムル達、いつものメンバーが集まったのだが。

 

 マサユキだけは、現在迷宮攻略中なので今回の会議に出席はしていない。

 

 

「遅いぞリムルよ!」

「そうだよ、その通りさ! アンタがリーダーなんだから、しっかりしてよね!」

「え? いつから俺がリーダーだったの?」

「初めからよ、初めからなワケ!」

 

 いきなりラミリスのリーダー発言に、ちょっと困惑するリムルだった。

 

「ねえ、あたし忙しいんだけど?」

「ツキハ、アンタはいつもの怪しい酒造りでしょうがッ! そんなのはいいから迷宮臨時会議に大人しく出なさい!」

「あ、そっ。めっちゃ美味しい密造酒が出来てもやらないからね」

「え? あ、そうね。ちょっとだけ出て――」

「ツキハよ。事は迷宮の一大事に関わるかも知れぬのだ。お前も迷宮運営の一人なのだから、そこは自覚するのだぞ」

「うん、わかった」

 

 ヴェルドラが(さと)すように言うと、アッサリ(うなづ)くツキハである。

 

 ラミリスが「何でアタシが言うと、渋るのよ!」と騒ぎ立てるも、繰り出されるラミリス必殺のドロップキックを華麗に(かわ)すツキハであった。

 

 それを見ながらリムルが、やれやれと口を開く。

 

「それで、状況はどんな感じなんだ?」

「これ見て。もう、大変なだからね、本当に。今はもう、三十八階層まで突破しちゃってるよ」

 

 そう言ってラミリスが、攻略状況を映像化してリムルに見せる。

 

 ラミリスが見せた映像は、一辺が二百センチ四方の透明な箱の中でミニチュアが動いてるような感じだった。

 

 精巧極まりない三次元映像である。

 

 それを見てリムルは――

 

(うーん……。これを見ただけで『解析鑑定』が出来れば……)

 

 と、内心思っていると。

 

《――案。個体名:ラミリスの固有能力『迷宮創造(チイサナセカイ)』への干渉が許可されれば、より正確で精密な情報収集が可能になります。番外魔王の迷宮領地は、個体名:ラミリスから迷宮維持の権限を譲渡されておりますので、それも可能かと》

 

(おお、珍しく智慧之王(ラファエル)さんからの提案だ。聞いてみる価値はありそうだな)

 

 そう思ったリムルは、早速ラミリスに聞いてみる事にした。

 

「ラミリス君、お願いがあるんだが、いいかな?」

「え? 改まって何なのよさ?」

「実はね、君の『迷宮創造(チイサナセカイ)』に干渉したいのだが、いいかな?」

「干渉? ツキハ達みたいに、権利を譲渡しろと?」

「違う違う。干渉だよ、干渉。この迷宮から色々と情報を集めたい、的な?」

 

 とりあえず適当に説明して、ラミリスを誤魔化すリムル。

 

《告。大体合ってます》

 

(おお、凄いぞ俺。智慧之王(ラファエル)先生の説明を、正しく理解出来ていたようだね)

 

「ああ、うん。言いたい事は大体理解したけど。アンタは大丈夫なの?」

「え、俺? 何で俺の心配を?」

「いや、だってさ、アタシの迷宮の情報量って、もの凄く膨大なんだよ? アタシだって把握出来ないから、全部その場で破棄してるんだもん。ツキハとコハクに至っては、一瞬で頭がパンクするからって、はなから迷宮領地の情報を全部シャットダウンしてるのよさ」

「うん、そうだね。あの莫大な報量を受け入れたら、頭の中がえらいこっちゃになるよ? 一度やったら、一瞬で卒倒したもの。いくら並列演算が出来ても、個人の能力じゃありゃ無理だわ。あたしの迷宮領地は、今は三層あるけどさ、あたしとコハクは迷宮領地の維持だけに徹してるんだよ。要は、迷宮領地の維持に定期的に魔素量(エネルギー)を補充してるだけ、昔からね」

 

 ラミリスの説明に、ツキハも同様に頷き言う。

 

(はい? ちょっと待って? 膨大な情報量、そう言われればそうだよな。この迷宮を利用している千名以上の挑戦者達、各階層の情報、その他諸々に加えて九十五階層には住民までいる。ツキハのところも三万以上の住人がいるとなると、そりゃ一階層だけでも卒倒する訳だ。ましてや、この地下迷宮(ダンジョン)の全てを把握するなど――)

 

《解。問題ありません》

 

(へ? 何と、問題ないと?)

 

《是》

 

 リムルの懸念に智慧之王(ラファエル)が自信たっぷりに返す。

 

「うーん、大丈夫っぽい……?」

「何でアンタが疑問系なワケ? ツキハじゃあるまいし」

「あ?」

「まあまあツキハよ、今は怒るでない。それにラミリスよ、こういう事は全てリムルに任せておくといい。我等が心配するような事ではないぞ!」

 

 ヴェルドラの説得で、文句を言いかけたツキハは大人しくなり、ラミリスは簡単に納得をしてしまう。

 

「わかったわ! それじゃあリムルにも、アタシの『迷宮創造(チイサナセカイ)』への干渉権限を与えるね!」

 

 そう言ってラミリスは、リムルの額にそっと触れた。

 

 すると、リムルの脳内に一瞬何かがチカッと光った感触が(よぎ)った。

 

 そしてリムルは、アッサリと迷宮にアクセス可能になったのである。

 

《告。個体名:ラミリスの固有能力『迷宮創造(チイサナセカイ)』へ設読しました。これより情報収集を開始します》

 

 待ってましたばかりに、智慧之王(ラファエル)が行動を開始した。

 

 その瞬間、リムルの脳中に凄まじい情報量が駆け巡ったが、リムルはそれは(ん?)と感じただけで、何も体調には影響が出なかったのである。

 

(ありゃ? ツキハが一瞬で卒倒したと言ってたから身構えていたのに、肩透かしを食った気分?)

 

《告。チーム〝緑乱〟の『解析鑑定』が終了。リーダーはAランクオーバーですが、その他は事前の鑑定結果と大差ありませんでした》 

 

 いとも簡単に智慧之王(ラファエル)は、必要な情報を探し出したのであった。

 

(流石先生! こうも簡単に情報を探すとは。でも、まだ何か探してる? 気になる事でもあるの?)

 

《解。迷宮内で行われた戦闘の全てを解析中――》

 

(邪魔をするなと、言われた気がするんだけど?)

 

《……》

 

(あ、はい。御存分(ごぞんぶん)にどうぞ。まあ、智慧之王さんの考える事は難しくて、ハッキリ言ってわからん。でも、また何か凄い事をやってくれそうな気がする。ここは任せておくとしよう)

 

 という訳で、リムルは本題に戻る。

 

「なるほど、な」

「何かわかったんかリムルよ?」

「早いわね。やっぱり無理だったんじゃ……?」

 

 と、リムルの(つぶや)きにヴェルドラが反応を示し、ラミリスはどこか懐疑的にリムルを見ていた。

 

 そして、ツキハは。

 

「ふーん。相変わらず仕事が早い事で」

 

 と、小さく呟き一人頷く。

 

 この情報は、〝疑似魂の回廊〟で繋がっているツキハにも智慧之王(ラファエル)が即座に開示していたのだ。

 

(うーむ。ラミリスのヤツ、絶対に俺を疑っているよな。何か釈然としないんだけど、まあ、いいか。お、ツキハにも、先生から情報が行ったみたいだな)

 

 リムルはそう思いながらも、ちょっぴり自慢気に指摘する。

 

「コイツは、Aランクオーバーだね」

 

 そう言うとリムルは、ラミリスが出している映像とは別の映像を表示させ、それを拡大して見せた。

 

「何と!?」

「はえっ!?」

「ほお!?」

 

 誰もが驚いたようだが、ラミリスが一番ショックを受けたようだ。

 

 ちなみに、ツキハは既に智慧之王(ラファエル)から示された情報を把握していたので、驚いたフリをしていたのである。

 

「ちょ、ちょっとリムルさん? どうしてアンタがアタシの能力(スキル)を使いこなしているのよさ!? ツキハとコハクでさえ無理だったんだけど!?」 

「そだね~」

 

 ラミリスが驚き声を上げ、ツキハがそれに間延びした感じで答える。。

 

「はっはっは。お前が干渉権限をくれたから、出来るようになったっぽい?」

「何その他人事のような疑問系は!? アンタ、最近ツキハに似て来ていない?」

「そこでさぁ、あたしを引き合いに出すなよ、ダメ妖精」

「何ですとおぉ!」

 

 リムルの仕草に、ラミリスがツキハに似ている発言をすると、ツキハが面倒くさそうに返し、ラミリスが怒りながらドロップキックをツキハにお見舞いする。

 

 暫し、ラミリスとツキハのしょうもないジャレ合いが続き、全てのドロップキックを(かわ)されたラミリスが、少し疲れたようにリムルに言った。

 

「でもアンタ、マジに凄いわね。アタシでさえ、特定の位置か見知った人物しか映し出せないのに……」

 

 どうやらラミリスは、迷宮管理者の目を通した物しか映せないようだった。

 

「まあまあ、これに関しては俺の方が得意だからって事で」

 

 そう言ってリムルはラミリスを(なだ)めつつ、自分が出した映像に目を向けた。

 

 そこへツキハが『思念伝達』で、『ラファのお陰だよねぇ。ククッ』と突っ込みを入れ、リムルは『うん、まあ、そうとも言う』と返し誤魔化した。

 

 Aランクオーバーなのは、チーム〝緑乱〟のリーダーである精霊使役者(エレメンタラー)なのだ。

 これだけの力を隠し持っているのならば、行使可能な精霊はもっといるハズである。

 

 とりあえずリムル達は、これらを考慮して話し合いを続ける中、リムルはふとラミリスの慌て方に素朴な疑問を抱く。

 

(ラミリスの慌て方……ちょっと、違和感が、あるみたいな? うーむ……)

 

 そう思いつつもリムルは会議を続けていく。

 

「とにかくだ。俺が仕掛けた罠も、召喚した魔獣を先行させて回避しているみたいだし、手馴れてるよな、コイツら」

「そうだね、このままだと、時間の問題でアタシの準備した階層まで来ちゃうね」

「不味いな。実に不味い展開だ」

 

(んん? もっと喜ぶかと思えば、何を悩むんだ? 俺は自分が仕掛けた罠を回避されて面白くないけど、ラミリスとヴェルドラは挑戦者が来るのを待ちわびていたハズ。それに、ツキハの尻尾がさっきから左右に不規則に揺れているのも気にかかる。ん~、良し)

 

「何か隠してる?」

 

 リムル、怪しさ満載の三人に、ド直球をかます。

 

 すると、ヴェルドラとラミリスにツキハは互いに相手の出方を窺って、ラミリスが圧し負けたのか口を開いた。

 

「実はね、アンタが部屋に籠っていた間で……」

 

 そして、ラミリスから語られた内容とは。

 

 それを聞いたリムルは、頭を抱える事になる。

 

 

 ラミリスが言うには、聖騎士団(クルセイダーズ)の訓練が始まったらしい。

 

 

 開始場所は、五十一階層から。

 五十一階層から六十階層までは、ラミリスが罠を仕込んでいた。

 

 ワクワクしつつ結果を見守っていたのだと言う。

 

 六十階層のボスモンスターに任命したアダルマンが、多数の不死系魔物(アンデッド)を召喚している。

 

 その結果、無限にアンデッドが湧き出る回廊や、 不死系魔物(アンデッド)が呼吸を必要としないからこそ可能な無酸素部屋。 

 

 その他諸々の凶悪な罠を用意したのだと、ラミリスは言った。

 

「自信あったんだよ? それなのにさ聖騎士(ホーリーナイト)達はどんどん浄化していってさ、無酸素部屋には戸惑っていたけど、後続が直ぐに蘇生して助けちゃうんだもん……」

「相性が最悪だったな。それはまあ、仕方ないよ」

 

 リムルは落ち込むラミリスを慰めつつ、続きを聞いた。

 

 力を失ってただの死霊(ワイト)になったアダルマンでは、召喚者としての役割しか期待出来ない。

 

 本人が戦うには、聖騎士達は余りにも相性が最悪だったのだ。

 

(今は死霊(わいと)とはいえ、聖騎士達はアダルマンの後輩にあたる。後輩を前にして逃げる訳にもいかなかっただろうし、悔しい思いをしたのでは……) 

 

「落ち込んでなかった?」

「うん、めっちゃ落ち込んでた……」

 

(ああ、やっぱり。後で慰めてやろう)

 

「それで、その後はどうなった?」

 

 次に、ヴェルドラが口を開く。

 

「アダルマンを倒した奴らは、そのまま我が罠を張り巡らせた階層に攻め込んで来たのだ。そこで苦戦するものと高みの見物を決め込んでおったら――」

「腹立つ事に、師匠の罠も回避されちゃたのさ!」

 

 ここまでツキハの言葉はなし。

 

「師匠の滑る床や、幻惑の壁、真なる暗黒回廊、殺戮光線が飛び交う部屋、ツキハみたいに極悪な罠の数々だったのに、アイツらは乗り越えちゃったんだよ」

 

 二人が悔しそうに歯軋(はぎし)りをしながら報告をする。

 

 ヴェルドラが張り切って仕上げたのは、六十一階層から七十階層まで。

 犠牲は出たのだが、即死しなければ復活は可能。

 それに〝復活の腕輪〟もあるので、聖騎士達の危機感は薄かったらしい。

 

(六十一から下は、かなり高難度に仕上げて難しいと思っていたんだけど、Aランク以上の実力者達ならば全滅しなければ立て直せるんだな。うーむ、こうなると難易度の調整を見つめ直す必要がありそうだ) 

 

 悔しがる二人を見ながら、漠然とした思いを巡らせるリムルであった。

 

 そこへラミリスが、言葉を重ねて来る。

 

「でもね、アタシの聖霊の守護虚像(エレメンタルコロッサス)が頑張ってくれた。アンタに壊されたヤツを改良して、凄い強いのが出来たんだよ。それが挑戦者達を皆殺しにしてくれたんだけど……」

「凄いな、それ」

 

(それにしても、ラミリスのヤツ何故浮かない顔をしているんだろう……?)

 

 リムルが、そんな思いでラミリスを見ていると。

 

「実はですな、どうやら聖騎士の皆様は、ヒナタ様にかなり呆れられたのだと。それで悔しかったのか、挑戦者の一人だったフリッツ様が『ヒナタ様でも攻略は無理では?』と、疑問を口にしてしまったそうですわい」

「ほんと、アイツは無自覚にモノを言い過ぎるわ。前に、サンコを怒らせた事もあったしねぇ。ってか、ヒナタを(あお)るのはマジにやめて欲しいわよ」

 

 ミョルマイルとツキハが苦笑いをしつつ、リムルの疑問に答えてくれた。

 

「それで、ヒナタはどこまで……?」

「う、む」

「あー、あれよ」

「それが問題なのよさ!」

 

 リムルは聞いて驚いた。

 

 ヒナタはたった一日で、九十五階層まで辿り着いたというのだ。

 

 六十一階層からスタートしたとはいえ、脅威的な攻略スピードである。

 

(あー、なるほど。ツキハがどこか不機嫌な感じを尻尾で表してたのは、これか。しかし、フリッツとかいう聖騎士はやっちまったなあ。あんな事言われたら、そりゃあ行くしかないじゃん、ヒナタなら)

 

 と、リムルも内心で苦笑いを浮かべる他なかった。

 

「我れとツキハの弟子のゼギオンは、今は(さなぎ)状態となっておってな――」

「ヴェルドラ、それちょっと違うよ。あたしは、お手伝いで組み手をしてるだけだし」

「ん? まあ、どっちでも良かろう。現に、体術の基本を教えているのは間違いないだろう?」

「それはそうなんだけどぉ」

「ツキハ。弟子は嫌か? 我と一緒に育てる。面白いではないか」

「まあ、確かにねぇ。蟲型魔獣(インセクト)を鍛えるなんて、普通はないものね。んじゃ、弟子でもいいよ」

「うむうむ」

 

 正式にツキハもゼギオンの師匠という事になり、御満悦のヴェルドラ。

 そして、()れた話を元に戻す。

 

(うわぁ。ヴェルドラだけならまだしも、ツキハもゼギオンを鍛えてるのかよ。いやあ、これって、とんでもない事になる予感がする……?)

 

 リムルの不安が的中するかしないかは、神のみぞ知る、という事である。

 

「すまぬ、話を戻そう。ゼギオンは動ける状態ではなかったのだ。先に目覚めていたアピトが相手をしたのだが、あの女(ヒナタ)の動きに対応出来ずに倒されてしまったのだよ」

「アレ、本当に凄かったね。アピトって女王麗蜂(クイーンワスプ)だからさ、全ての魔物の中でも頂点に位置する素早さがあるんだよ。そんなアピトが死に物狂いで一撃を入れようとしていたのにさ、ヒナタって女は完全に見切っていたからね」

「ヒナタさ、あたしの〝抜き打ち〟に割と反応出来ちゃうんだよねぇ。結構厄介よ」

「え? アンタの〝抜き打ち〟に反応って、マジに?」

「マジ。あれでまだ二十数年? しか生きてないんだから、驚きよ。まあ、本気で殺しに行く〝抜き打ち〟は見せた事ないんだけども。それでも災厄級(カラミティ)程度なら瞬殺出来るほどなんだけどね、ヒナタに見せたのは」

 

(うん、まあ。ヒナタなら、そうだろうな。しかしなぁ、災厄級(カラミティ)なら瞬殺って、サラリと怖い事言ってないですか、ツキハさん?) 

 

 事無げに言い放ったツキハの一言に、内心で突っ込まざるを得なかったリムル。

 

(でも、俺だって勝てたのが不思議って思うくらい、ヒナタは強かった……)

 

 そして、今一度ヒナタの強さを噛み締めるのだった。

 

「ほんと、ヒナタって、〝勇者〟じゃないのが不思議なくらい、とんでもなく強かったよ」

 

 七十一から八十九までの、ツキハ特製の凶悪な罠も難なく回避して各階層のボスを倒したと、ラミリスが言った。

 

 九十階層のボスはクマラだったのだが、まだ幼いという理由でベレッタが代わりに戦ったのだが、やはりヒナタが勝ったと、諦め顔でしみじみと語るラミリス。

 

 こうしてヒナタは、九十五階層で優雅に一泊したのだそうだ。

 

 そして昨日、ミリム御自慢の九十六から九十九階層の最難関ドラゴン部屋を、一気に攻略してのけたのだと。

 

「そして遂に、我の出番となったのだ」

「嘘だろ? お前、戦ったの?」

「うむ。来る者拒まず、迷宮の王(ラスボス)たる我は、逃げも隠れもせぬのだ!」

「で、どうなったんだ? ――」

「あたしが戦ってないんだから、わかるじゃん」

「ああ、それはそうだけど……」

 

 裏のボスたるツキハが戦ってないのだから、結果はわかってるとは思っても、ヒナタがヴェルドラとどう戦ったが気になるところのリムルである。

 

「言うまでもなく、無論、我の勝ちだ。だが、かなり強かったぞ。我を封じた〝勇者〟と剣筋が似ておったが、その戦い方は正反対だったな」

「ありゃあ、見ものだったわね。ヴェルドラとあそこまで戦えるのは、超久しぶりに見た感じ」

「ふむふむ。そうかあ、直接見たかったなあ、その戦い……」

 

 リムルが残念そうに言うと。

 

《解。残念ながら、戦闘記録も全て破棄されているようです》

 

(だよね……。くそう、俺の馬鹿馬鹿馬鹿、そんな大事な場面を見逃すなんて……)

 

「正直、目を奪われましたわい。流石はヒナタ様、とても美しかったですぞ」

 

(見たのかい! 羨ましいぞ、このおぉ)

 

 心の内で地団駄を踏むリムル。

 

 ヴェルドラが言うには、ヒナタは様々な攻撃を行ったらしい。

 

 あらゆる魔法に、呪符、魔宝道具(アーティファクト)まで、惜しみなく投入したと。

 

 ヴェルドラには、単純な物理攻撃は通用しない。 

 通用させるならば、ツキハが打つ拳打並みの物理エネルギーが必要となる。

 

 だからヒナタは、どんな攻撃が通用するか色々と試していたのだろう。

 

 だが結局、ヒナタの持つ攻撃手段では、ほとんど何も通じなかったようだ。

 

「だがな、最後の攻撃は中々に良かったぞ。我に(かす)かだが、ダメージを与えるに至った。それこそ〝勇者〟の、『絶対切断』に通じるものがあったな」 

 

(ヴェルドラが褒めたのは、崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)だな。しかし、それでもヴェルドラには届かなかったか。ツキハなら、どうだろう?)

 

 と、そんな事を思いツキハを見たリムル。

 

「なに?」

「え? いや、何でもない」

 

 ツキハが訝し気に返すと、慌てて(つくろ)うリムルであった。

 

「でさ、戦い方によっては、脅威になりそうだった?」

「うーん、クレイマンとか、下手な魔王よりも強いのは間違いないね。八星魔王(オクタグラム)だって、油断してると危ないと思う――」

「今のところは、そこまでには達していないよ、ヒナタは。ただ、ラミリスが言うように油断していると、手酷い傷は負うかもね」

「うんうん。でも、師匠は別格だから――」

「クアハハハ、その通り! 我とまともに戦いたければ、せめてあと十倍はエネルギー量を増やさねばな。なあ、ツキハよ」

「うん、十倍は欲しいよねぇ」

「そうだな。ヒナタの事は事故だと思って忘れよう」

 

 と、リムルは、ヒナタの事は諦めるとして、話を最初に戻す。

 

「話はわかった。つまり現在、聖騎士達とヒナタを相手にした事で、五十一階層から先が機能していないって事か? でもさ、ボスは復活する仕様だったよな?」

「それがね、アダルマンはゴズールより弱いじゃん? アタシの研究も手伝ってくれてるし、教授のお手伝いにもたまに行ってるからとっても優秀だとは思うけどさ、六十階層のボスとしては頼りないって感じなの。それに……」

 

 ここでラミリスはワナワナと震え始め――

 

「あ、あた、アタシの傑作の聖霊守護巨像(エレメンタルコロッサス)がね……壊れたままで……復活してくれないのよさッ!!」

 

 そう言って、ワアワアと泣き出してしまった。

 

「ボスなのに? 腕輪してなかった、とか?」

「グスッ……。ううん、違う。アンタに壊された時もそうだけど、何故かゴーレムは復活しないんだよ……」

 

 ションボリと、力なくそう告げるラミリス。

 

 ゴーレムでも、自然発生したタイプは復活するらしいのだが、ラミリスが制作したタイプは駄目だったのだと言う。

 

 それを聞いたリムルは、ある事に気が付く。

 

「もしかすると、魂がないから、かもな。ベレッタはちゃんと復活したんだし、迷宮での聖霊守護巨像(エレメンタルコロッサス)はアイテム扱いなんじゃないのか?」

「――え?」

「ふむ、その可能性は高そうだぞ。お前の権能が及ばぬのは、対象外だからではないかラミリスよ」

「多分そうだろうね。ただのカラクリ人形扱いなんじゃないの?」

 

 リムルの考えに、ヴェルドラとツキハが賛同した。

 

「アレって、作るのに時間かかるよな?」

「ウン。だからね、今は七十階層のボスは空席なんだよ……」

「そうなるよなぁ」

「付け加えると、八十階層のゼギオンも、暫くの間は眠ったままであろうな。アピトもなかなか強くなったのだが、如何(いかん)せん実戦経験が少なすぎる。ボス任せるには、少し鍛えてやる必要があるだろうて。なあ、ツキハよ」

「実戦経験も必要だけど、基本がね、まるで、駄目」

「ほう。ならば、ツキハはどう見るのだ?」

 

 アピトの事でツキハが以外にもダメ出しを言って、それにヴェルドラが興味深そうに聞いて来た。

 

 リムルも気になったので、黙ってツキハの言葉を待つ。

 

蟲型魔獣(インセクト)は、持って生まれた強靭な身体を持っててさ、そのオーバースペックともいえる能力だけで、ほとんどの敵を圧倒出来るんだよねぇ。だから、普通に戦えば、ほぼ誰も(かな)わない」

「ふむ。だから、ヒナタという女みたいな技巧派を相手にすると、それが仇となるのだな?」

「そう。今のアピトは自分の身体を使いこなせてないんだよ。普通に動いても、他を圧倒出来るスピードを持ってるからね」

「ふむ。では、どう鍛えるのだ、ツキハなら」

「あたしなら、徹底的に身体の動かし方を教え込む。体術の基本を、蟲型魔獣(インセクト)の骨格と筋肉に合わせてね。基本が出来てれば、あとは応用だから」

「ふーむ、なるほど。本当にツキハは、戦いの事になると、驚くような指摘をして来るな、昔から。普段とは大違いで我は、驚く限りだぞ」

「だよね、師匠。普段は、面倒くさがりの馬鹿だもんね!」

「あ゛?」

「ひいッ!?」

 

 ヴェルドラの言葉につい調子に乗ったラミリスが口を挟むと、一瞬で目の座った顔付でツキハがラミリスに言い放つ。

 

 それにビビったラミリスは、リムルの後ろに避難をする。

 

「まあまあ、そう怒るなって、ツキハ。お前の指摘には俺もビックリしたよ。本当に〝忍び〟って、戦いに()けているんだな」

「うん、まあ、そうしないと、生きていけなかったからね。あの頃は」

 

 リムルの一言で機嫌の直ったツキハは、「まあ、あたしならそうするって事だよ」と、自分の意見を締めくくる。

 

 とりあえずヴェルドラが今まで戦闘訓練を施していたのだと、告げた。

 

 で、ここからは、アピト本人がやる気になってるそうで、リムルとしては好きにさせる事にしたのだ。

 

 ちなみに、新たな教官はヒナタである。

 

 何と、ヴェルドラとの再戦をエサに、ヒナタにアピトの指導をお願いしたらしい。

 

 そしてヴェルドラが、ツキハに体術の基本をアピトに教えてやってはくれぬかと頼むと、手の空いてる時にならいいよと、快諾をする。

 

 ヒナタは子供達の相手も引き受けてくれていたので、そのついでにアピトへの指導も面倒を見てくれる気になったのだろう。

 

 そして、クマラも。

 

 八十一から八十九階層を守るクマラの配下とは、クマラの尻尾が魔人化した存在なのだそうだ。

 個々が自由意志を持ち、独自に進化、学習を行う。

 その配下を解き放った事で、今のクマラ自身の魔素量(エネルギー)は激減しているとの事。

 

 アリスやクロエ達に交じって、六人でヒナタに指示する事になったそうだ。

 

 ――というのが、昨日の時点で決定した事内容だと。

 

「って事は、六十から九十階層まで、全てのボスが機能していないんだな?」

「その通りさ!」

「まあ、ぶっちゃけ、そうなのよね!」

「うむ。だから、困ると言っておるのだよ!」

 

 何故かドヤ顔の、ラミリスとツキハとヴェルドラ。

 

「な、なんと……」

 

 現在の迷宮の状況を聞いて驚いている、ミョルマイル。

 

 今日この場にいなかったマサユキは、幸運ともいえるかも知れない。

 あとで知る事にはなるだろうが、聞いた時のショックは少ない事だろう。

 

「…………状況はわかったよ」

 

 リムルはそう言って、やれやれと溜息を付いたのだった

 

「とりあえず、忘れてはならないのは、俺達の迷宮は普通のそれとは違う事だ。進化型地下迷宮(アドバンストダンジョン)は、色々な問題を乗り越えてより強化されるべきだろう?」

「――ッ!!」

「うむ、当然だ」

「だね、ヴェルドラの言う通り」

「だったら、次は対応出来るようにすればいい。まず、アダルマンだな。彼に付いては俺が何とかする。ボス部屋の雰囲気も変えたいので、ラミリスにも協力をしてもらいたい」

「勿論さ!」

 

 こうしてリムルは、次々と打開策を打ち出し、聖霊守護巨像(エレメンタルコロッサス)に関しては、丁度適任者が戻って来るとラミリスに告げた。

 

 それで、適任者とは。

 

 カイジンである。

 

 これで新型の性能向上が期待出来ると、ラミリスは大喜びをした。

 

 八十階層にしても、時間が解決してくれるだろうと、リムル言う。

 

 クマラも未だ成長途上だし、慌てる事もないと。

 

「そうだな。ゼギオンが目覚めれば、生半可な挑戦者では歯が立つまいて。それにミリムとツキハが準備したドラゴン達も、もう暫く迷宮で過ごせば進化するであろうさ」 

「そうそう。急いては事を仕損じる、と言うものね。あたしもさ、もう少し罠を改良してみるよ。もっと、えげつなくしてやんよ。うひひひ」

「ほんと、アンタって、そういうところ容赦ないわよねえ」

「ほっとけ! そういうアンタの罠も、相当えげつないじゃん」

「え? てへっ」

「まあまあ、そこまでにせよ、二人とも」

 

 話が纏まりヴェルドラとツキハにラミリスが、笑いながら言い合う。

 

 

「よし、方針は決まった。あとは時間稼ぎだが、俺の罠とツキハの罠だけでは心許ない。そこで一つ試したい事があるので、ヴェルドラとラミリスとツキハには協力をしてもらいたい事がある」

「無論だとも」

「わかったさ!」

「あいよ」

 

 嬉しそうに頷く三人。

 

「それじゃあ、こっちはこっちで対策を取るから、ミョルマイルは普段通りの対応で頼む。マサユキには、この会議の結果報告を頼む」

「了解ですわい」

 

 こうして、リムルが会議を終えようとすると。

 

「それじゃあ、これで――」

「あ、お待ち下さい、リムル様。一つ相談したい事が御座いまして……」

 

 リムルが解散を宣言しようとした瞬間、ミョルマイルに止められてしまう。

 

「何かな?」

「実はですな――」

 

 ミョルマイルの発言は、リムルの想定外だった。

 

「ヒナタ様から、迷宮攻略の褒賞金が出ないのかとの問い合わせが……」

「はあ?」

 

 思わず素で問い返すリムル。

 

「公式に突破された訳では御座いませんが、ヒナタ様から『正攻法で挑戦していたら、支払う必要があったのでしょう?』と申されまして……」

 

 ミョルマイルが困ったようにそう言った。

 

(うーーーーん、そりゃそうだろうけど、ヒナタさん。そこはお互い様じゃないんですかね? 俺達としてもテストになるし、彼女達からすれば実戦訓練になる訳だし、賞金はナシでいいじゃんよ!)

 

 リムル、心の叫び。

 

 そして。

 

「お断りしなさい」

「ですが、宜しいのですか? もしも断った場合、真面目に挑戦されてしまうのでは?」

「いいんだよ。その時は、『迷宮の王に負けたと、噂が広まる事になる』と脅せば。ツキハ、その時は噂の拡散を頼む」

「あいよ~」

「クワハハハハ! 案ずるなリムルよ。我が負けるなど有り得ぬからな!!」

「そう、ヴェルドラが負けるなどないのよッ! 裏ボスのあたしは、出番はなくてもいいの! でも、万が一が起きたら、あたしがヴェルドラの仇を討つ! ぶっ殺してやんよッ!!」

「おお! 万が一など有り得ぬが、ツキハ、その時は頼むぞ」

「まっかせなさ~い」

 

(うむ。こういう時の二人は頼もしい) 

 

「わ、わかりましたぞ。ですが、出来ればリムル様の方から断っては――」

「え、嫌だよ?(だって、嫌われたくないもん)」

「で、ですが、ヒナタ様を怒らせるのは怖いと申しますか……」

「頼んだぞ、ミョルマイル君ッ!!」

 

 何かを言いかけたミョルマイルを即座に遮り、リムルはそう言い切った。

 

 するとミョルマイルはツキハに助けを乞う。

 

「え、えとですな、ツキハ様がヒナタ様にお断りを入れてもらうとかは、出来ないでしょうか?」

「いいけど」

「!?」

 

 意気消沈したミョルマイルの顔に、生気が戻る。

 

 しかし、次ぎの言葉に再び意気消沈する事になるのであった。

 

「いいけども、多分、あたしは秒で言い負かされると思うよ。だって、あのコハクが言い負かされる事もあるくらいだからね」

「え? そ、それでは――」

「でね。言い負かされたあたしは、多分、キレる。そりゃあもう、激オコだろうね」

「で、では、喧嘩になると?」

「うん。喧嘩という名の、殺し合いになるだろうね。街に被害が出ないように迷宮で喧嘩になるけども。迷宮の無事は、恐らく保障出来ないよ? それでも、いいなら――」

「いえ、わかりました。ワシが何とかしましょう。ええ、ええ、ワシが……」

 

 最後の方の言葉で、どこか達観した顏になるミョルマイルなのであった。

 

 (ゴメンね、ミョルマイル。ああなったヒナタは、アタシでもめんどくさいんだ。だって、ヒナタを負かしたらその後ろが出て来そうでね、あの吸血ロリババアが、ね。アレは、ヒナタよりめんどくさいんだよッ!!)

 

 ツキハ、心の叫び炸裂。

 

 ミョルマイルの、「ワシのポケットマネーで……」などという悲しい呟きは、きっと空耳だろうと、リムル以下三人は思うのだ。

 

 

 これにて、会議は終了した。

 

 

 トホホと嘆くミョルマイルを置いて、リムル達はその場を後にしたのだった。

 

 

 

 





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