忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
リムル達は冷静に行動した。
決して油断なきよう、リムルは皆に言い含めていた。
そして――
チーム〝緑乱〟と接敵したリムル達は、迷宮の四十九階層手前で戦闘を始める。
最初にチーム〝緑乱〟の前衛と接敵したのはヴェルドラ。
今のヴェルドラは後ろに目があるのかと疑うほど、
「クワハハハ! 我が〝ヴェルドラ流闘殺法〟には、剣の技とて無数にあるぞ。おっと、これは駄目か。ならば、〝天牙影千流〟から盗んだ、じゃない。幾多の手合わせから学んだこれを!」
何て事を言って、漫画にあるような技を真似したり、ツキハの〝天牙影千流〟剣技を真似したりしていたのだ。
元々が、ツキハの修める天牙影千流に触発を受け、〝ヴェルドラ流闘殺法〟を編み出したヴェルドラ。
普通なら付け焼刃にしかならないのだが、ヴェルドラの場合は元が出鱈目なのである。
パーティの司令塔、リムル。
冷静沈着に後方から戦況を分析し、的確な指示を出す。
後方からの支援魔法に、幽霊という身体を活かした隠密攻撃も得意である。
「良し、今だツキハ、ぶちかませ! ミリム、前方には余り出過ぎるなよ。そこに敵が固まっている。攪乱だ、ミリム!」
何かと暴走しがちのツキハとミリムを、自由にさせつつも
何故かラミリスに関しては、とある理由から完全に自由にさせていた。
そして、ミリム。
速度特化と言うだけあって、異様に速い。
普通なら制御出来ない速さであっても、ミリムの反応速度なら全くもって余裕であった。
その動きは、摩擦抵抗を無視したかのように地面を滑り動き。
弾力のある体を活かして壁を弾み、敵に迫る。
まして、天井でも同じ動きをするのだから、普通の人間なら視認するのも難しいだろう。
「わはははは! 遅い、遅いのだ。ノロマめ、ワタシの一撃を喰らうがいい!!」
調子に乗りまくりのミリムが、音も無く相手の背後を取り、首筋を
凶悪極まりないの一言に尽きる、ミリムの攻撃だった。
更にそこへ、ツキハのミニドラが襲い来る。
凄まじい速さで駆けて来るミニドラがトンと軽くジャンプしてバサリと羽ばたき。
地面の上約五十センチの高さで翼を小さく折り畳み加速して、一分隊の十名目掛け滑空する。
そして四名が固まってる中心を通り抜け
瞬間、尻尾の先に付いた刃で四名が切り刻まれ絶命し、光の粒子となってその場から消えた。
ツキハはダンと地面に着地すると、ズザザッと地面を滑りながら首を持ち上げ、一気に魔電粒子放射熱線を放つ。
「喰らえ、燃え散らかすがいいわ! うひゃひゃひゃ!」
狂気の笑いを巻き散らしながら、青白い熱放射光線が残る六名を無情に
ジャウッ! 何かが蒸発するような音が響き、六名の上半身が一瞬で蒸発して、残った下半身だけが虚しくその場に残る。
こうなったツキハはもう手に負えない何かであり、まさに漫画の中に出て来る凶悪ドラゴンそのものだった。
そんなヴェルドラやミリムにツキハ、リムルを引き立てるのが、〝縁の下の力持ち〟的な役割をするラミリスである。
「みーつけぇーたあっーー! オラオラアァッ――ッ! アタシの力を見せてやるっ!!」
とにかく、敵を見つけると真っ先に走り出す。
それも、ツキハが駆け出す間もなくラミリスは、超ご機嫌状態で突進するのだ。
そして、正面から戦いを挑むのがラミリスの戦闘パターンだ。
普通なら、悪手であり、馬鹿そのものである。
だが、リムル達の場合は、これが正解になるのであった。
何度も注意をしたが改善の気配もなかったので、リムル達は逆にコレを利用する事にしたのだ。
つまりは、ラミリスを囮にして、残り四人が攻撃に回る作戦である。
普通ならば、こんな見え透いた手などは通用しない。
だがラミリスは、防御を完全に無視したかの如く暴れ回る。
それと遭遇した者達は、嫌でも相手をしなくてはいけなくなる。
防御無視のラミリスは『痛覚無効』なので、意に介する事なく暴れ倒す。
重厚な全身鎧は、軽量化なfど一切考えずに〝魔鋼〟を贅沢に使用している。
しかも、ある程度の『自己修復』機能が備わってもいたのだ。
そんな鉄の塊が雄叫びを上げ襲ってくるのだから、敵対する者からすれば悪夢以外の何者でもない。
そして、リムルの回復魔法もある。
リムルは実験の一環として、<神聖魔法>を使ってみたのだが、何と驚くほどに簡単に発動したのだ。
自分で自分を信仰するというよりも、本来ならば触れる事の出来ない〝霊子〟を、祈りを代償にして操作してもらうという感じだろう。
要は、自分の本体の力を借りて、魔法を行使するイメージである。
ここで言う祈りの言葉というものは、イメージを伝える手段みたいなものであろうか。
〝霊子〟を操作する際に、イチイチ相手の希望を聞いてその通りに動かす――
そんな面倒な処理を行えば、どれだけ演算能力が高くても追い付きはしない。
だから、個々人に演算能力を任せるという方法を取っている訳なのだ。
祈る者――自分の信者――が増えれば、それだけ魔力が増大する。
言い換えれば〝神〟としての格が上がるという事にもなり得る訳だ。
そう、信者との繋がりで、自分を信仰する者達の〝脳〟を使って自分の演算領域を増やすという裏技も可能になり、魔力と演算能力を、少しづつ代用させる事が出来るのだ。
これにリムルは、ある事に気付いたのである。
(なるほどねぇ、ルミナスが信者を増やしていた目的はコレだったんだろうな。で、コハクは、ルヴナンの傭兵達や眷属達、シャルフューズの住人達が信者の代わりなんだろう。膨大な数の信徒がいれば、大規模な魔法を行使するのも一瞬で可能になるだろうから)
リムルはしみじみとそう思った。
(〝信仰と恩寵の秘奥〟、か。何とも恐ろしい技を教わったものだな。でも、千年以上前にそれに独学で辿り着いたコハクも、末恐ろしいものがあるよ、まったく……)
と、そんな訳で、リムルは<神聖魔法>も使用可能となっていたのだ。
今やリムル達は、パーティとしてかなりの強さを誇っていたのである。
正面から戦えば、百対五、流石に勝てはしなかっただろう。
だがリムル達は、連携を磨き極限にまで高めた。
特に、忍び近寄り暗殺する、ツキハとミリムの活躍も大きかった。
ヴェルドラの遊撃的な行動も見事であり、ラミリスの全力特攻も功を成していた。
そして、そんな
ツキハの口から吐く魔電粒子と火炎混合の熱放射光線は、敵を灰にすると同時に武具破壊も行っていた。
ラミリスが暴れ、ミリムが忍び寄り暗殺して回り、それに右往左往する者達をヴェルドラが始末する。
更に分散した者達を、リムルの攻撃魔法が襲う。
とにかく厄介なのが、ツキハの吐く凶悪極まりないブレスだったのだ。
青白い光が走るたび、武具が破壊され、死に戻りする事になる。
だがしかし、死に戻りするにも、肝心の武具が破壊されては継続戦闘は実質不可能であったのだ。
「もう! 何なのあのチビドラゴンは、あり得ないでしょ! せっかくの今までの稼ぎが――ッ!!」
その悲痛な叫びから、リーダー格は女性だと判明した。
それも驚きなのだが、リムルが気になったのは次の会話だった。
「潮時でしたし、良いタイミングでしょう」
「まあね。
生き残っていた部下らしき男との会話で、本国から呼び出しという声をリムルは確かに聞いた。
〝
(資金の出所がイングラシア王国だそうだが、もしかして完全に雇用されて、いる? 本国からの呼び出しという言い回しからは、顧客の対するもの以上の忠誠心が感じられるような気がする……)
とにかく、この会話からコイツ
それは最初から覚悟の上だったが、今一度、皆には注意喚起した方が良さそうだと、リムルは思ったのだった。
これに関してはルヴナンは動いていないので、リムルの範疇で行わなければならないのだ。
しかしながら、そうは言いながらも、裏では実態把握に動いているだろうルヴナンのしたたかさは、リムルは忘れてはいない。
今回のチーム〝緑乱〟の一件で、リムルはその認識を新たにした。
そして――
「やったな」
「ちょろいちょろい。うひひ」
「ああ。我々の勝ちだ!」
「当然よね。アタシ達は最強だもん!!」
喜ぶ四人を尻目にリムルは。
(全くコイツらと来たら。あまり調子に乗らせると、後が大変だからな。まあ、今はいいか、フフッ)
そう思いつつも、その時だけはリムルもまた、ミッションを達成した喜びに身を委ねたのだった。
*****
転生者マリアベル。
かつては、欧州の支配者として君臨した記憶を持つ者。
前世では、金融を意のままに操り、戦争すら駒の一つとして扱ってみせた。
そんな世界でマリアベルは、天寿を全うした。
そして、その魂は数奇な運命により小国シルトロッゾの姫としての転生に到る。
西側諸国を牛耳る、支配者の一族の娘として。
魔物が蔓延る暴虐の世にあって、国家同士でいがみ合っている場合ではなかった。
そうした環境から、西側諸国評議会が生まれたのは必然だった。
それを纏め上げたのが――
偉大なるロッゾの祖、グランベル・ロッゾなのだ。
年齢不詳の怪人。
評議会で実権を握る五大老の最長老。
そんなグランベル・ロッゾに対しては、直系の姫でも面会すら出来ない。
現にマリアベルの兄達でさえも、誰一人として五大老に合う事は叶わない。
それが普通だったのだ。
しかし、マリアベルだけは違った。
マリアベルの記憶と意思は、グランベルにとって無視出来ないものだったのだ。
マリアベルは生まれながらにして、強欲だった。
そう、転生した時に与えられたのが、ユニークスキル『
人の根源的な罪悪に由来する、大罪系の
感情や願望の具現化した形がユニークスキルだとすれば、欲望の源流そのものである大罪系の力は、ユニークスキルの中でも特殊なものだと位置付けられるのかも知れない。
事実、マリアベルは生まれながらにして、ロッゾ一族で最強だった。
人の欲望を支配する――それこそが『
マリアベルには、他人の欲望が視える、手に取るように。
そして、それが大きければ大きいほど、支配が容易になる。
誰にでもある欲望、それを刺激するだけで意のままに操れるマリアベル。
そうしてマリアベルは、身近な人物から自分のシンパを増やしていあったのだ。
慌てる必要はなく、ゆっくりと、ゆっくりと慎重にそうしていった。
何故なら、周囲を観察して、この世界の文明レベルが低いと見抜いたからだ。
経済圏は成立している。
しかも、その経済圏では統一通貨が流通していた。
言語の壁はなく、前世とは何もかもが違うこの世界。
しかも、前世ではファンタジーと言われる魔法などが、現実にこの世界に存在した。
これらを見たマリアベルは、自分が遊ぶ為の箱庭が、目の前に広がっていると思えたほどだったのだ。
(そうね、そうなのよ。この世界でも、私は支配者として君臨するのだわ)
そう考えるには、マリアベルにとっては自然な考えだった。
だから、成長して発言権得るまでは慎重に慎重を重ね、正体がバレないように行動したのである。
そして、マリアベルが三歳になった頃――
グランベルと
「お前が、マリアベルか」
「はい。お初にお目にかかります、御爺様」
それは、三歳児らしからぬ挨拶。
そんなグランベルは、マリアベルの本質を見抜いていた。
マリアベルが密かに、兄達、乳母、召使、その他諸々を、自分の手駒として支配下に置いていた事を。
それを見抜いたからこそ、今この時なのである。
「ワシを操ろうとしなかった理由は何だ?」
三歳児の演技をやめたマリアベルに、ストレートに質問をぶつけた。
そこには、直系の身内に対する優しさなど皆無。
支配者と被支配者の関係が存在するのみ。
そして、マリアベルもまた、グランベルの怖さを見抜いていた。
グランベルは他の者とは違い、別格だ、と。
もしもグランベルを欺こうとすれば、その瞬間に殺されていただろう、と。
マリアベルの『
それ故に、ツキハ達は
仮に、少しづつ繰り返せばグランベルを支配下に置く事も不可能ではなかったが、それを許すようなグランベルではなかった。
だから、マリアベルは全てを明かす事にしたのだった。
どの道、自分の欲望の達成には協力者は不可欠。
そう考えるとグランベルは、これ以上にない協力者と成り得る存在に思えたマリアベルだった。
「私は、人の欲望が視えるわ。視えるのよ。それを刺激する事で、他人を意のままに操れるの。でも、御爺様は別。誰よりも大きな野望を抱きつつ、それを見事に抑え込む意志の強さを感じたわ。だから――」
「ふむ。そこまで見抜くか、小娘――いや、マリアベル。単刀直入に問う。お前は、何者だ?」
「私? 私は、転生者マリアベル。〝強欲〟のマリアベル」
「ふふっ、ふはははははっ!! 面白い、実に面白い。ワシを前に、堂々と自分を主張するかッ!!」
マリアベルは、グランベル・ロッゾに気に入られた。
それから二人は、腹を割って語り合い。
互いが知る秘密を共有する事になる。
グランベルからは、西側諸国を取り巻く状況や世界を支配する魔王達と、西側諸国の経済圏の闇の奥底で暗躍する、人類の
マリアベルからは、前世の知識と、今世で得たユニークスキル『
これは、マリアベルにとって一世一代の賭けだった。
知能はともかく、肉体は三歳児でしかない。
こんな自分では、一人でこの世界を生き抜く事は難しいと考えたからだ。
(何としても、何としてでもここで、ここで、私の地位を確かなものにするの、しなければならないのよ。その為には――)
支配者であるグランベル・ロッゾに、自分が有用だと思わせなければならなかった。
そうする事が、自分が支配者となる最善の行動であると、本能的に理解していたのである。
そして、マリアベルは、その賭けに勝った。
「マリアベルよ、お前はワシに何かあった時、ワシの野望を引き継ぐのだ。ワシが願うのは、この世の平安。それには人類の怨敵、番外魔王の二人と傭兵商会ルヴナンは、この世界に平安をもたらす為には必ず潰さねばならない。今は実態はわからずとも、マリアベルよ、お前ならいずれ掴めるだろう。そして我等、ロッゾ一族の支配の下で、
「ええ、わかったわ。わかったのよ、御爺様。私は御爺様に、全面的に協力すると誓うのよ」
こうして二人は、他の何者も入り込めぬ
祖と、娘。
元〝勇者〟と〝強欲〟の同盟は、この瞬間に成立したのである。
それから数年かけて、グランベルはマリアベルにこの世界の事、西側諸国経済圏や、裏社会の事まで様々な事を教え込んだ。
ロッゾ一族の支配者の全容と、それに連なる協力者の数々。
それに加え――
神ルミナスの正体と、グランベルの秘密までも。
自身の正体――〝七曜の老師〟としての座を守る為に暗躍を繰り返している現状。
そして、実態が掴めない傭兵商会ルヴナンの、現在わかっている情報の事も。
更に、魔王ルミナスの力で、西側諸国が守られているという事実を。
グランベルは、全てマリアベルに伝えた。
そして、現在。
マリアベルは
今や、傭兵商会ルヴナンの実態を掴むよりも、急激に西側諸国経済圏に食い込んで来た、
こうして、マリアベルはその全権能を駆使して、対リムルへと動き出したのであった。
マリアベル、この世界の運命の歯車に翻弄される、転生者の一人。
この数奇な運命は、どこに向かうのであろうか。
その答えは……
静かに、影となってマリアベルの背後に、忍び寄る。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
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