忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。219話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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219話 ツキハとヴェルドラにラミリス、逃げる

 

 

 シュピン キラリと一筋の閃光が走る。

 

 

 一人の男が首筋から霧のような赤い血を散らし、ドサリと地面に倒れた。

 

 何が起こったのか理解出来なかったのだろう、男の目は大きく見開かれたままだった。

 

 

「うわははははは! 油断したな、愚か者め!」

 

 ミリムの嬉しそうな声が響くと同時に、残り五名となった男の仲間達に緊張が走る。

 

 法術師(ソーサラー)を真ん中に集まり、アタッカー二人、シーフと精霊使役者(エレメンタラー)が取り囲み、全方位警戒を行う。

 

「ツキハ! やるのだ!」 

 

 ミリムの呼びかけに、ツキハことミニドラの喉元が発光し。

 

 

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「あいよ、喰らいやがれ! 蒼炎咆哮(ブラスターブレス)!」

 

 パカッと口を開けたミニドラの口から、蒼白い火炎が一直線に走り残った五人を飲み込んでいく。

 

「「「「「なッ!?」」」」」 

 

 集まって警戒する者達を嘲笑(あざわら)うかのように、ツキハの放ったブレスが容赦なく焼き尽くしてしまう。

 

 ミニドラであるツキハの技は更なる進化を遂げ、光線タイプと火炎タイプの二種類のブレスを吐けるまでになっていたのだ。

 

 このコンビの不意打ち待ち伏せは、冒険者達にとってトラウマレベルの悪夢であった。

 

 上手くこのコンビを(かわ)しても、別動隊であるリムル、ヴェルドラ、ラミリスがいる。

 

 何とかツキハとミリムの待ち伏せを逃れても、いきなり背後から動く重鎧(ヘヴィリビングアーマー)が雄叫びを上げて迫って来る。

 

 そして、混乱してるところにヴェルドラの骸骨剣士(スケルトン)が斬り込んで来る。

 

 トドメに、幽霊(ゴースト)であるリムルの魔法。

 竜巻大魔刃(トルネードブレード)が敵を容赦なく切り刻む。

 

 斥候(せっこう)にミリムとツキハ。

 

 その後方でリムルが指揮を取り、ラミリスが突撃、ヴェルドラがそれを支援する。

 

 現在、迷宮(ダンジョン)内でリムル達のこの戦法が猛威を振るい、冒険者達を恐怖のドン底に突き落としていたのだ。

 

 

 そしてまた、別の冒険者達が餌食に――

 

「やべえ! 赤い流星(スカーレット)だ! 気をつけろ!」

「なにいッ!? そいつがいるなら、ヤツも必ずどこかにいるぞ! 小さな暗殺者(ベイビーアサシン)に警戒しろ、アレが来るぞッ!」

「畜生、魔法でマージャとナージャがやられた。ジーンも息がねえ……」

「クソ、テメエら! よくもッ!!」

 

 状況を把握したのか、猛り狂う敵。

 敵とはつまり、迷宮を攻略している挑戦者達である。

 

 今回は冒険者達だったようで、バランスのいいパーティだった。

 

 しかしリムル達は、そのパーティを上回る実力と経験を有していた。

 

 

 最初のミリムとツキハの不意打ちで、敵方の斥候を仕留めた。

 

 そして、こちらの接近を悟らせずに、対集団魔法で先制攻撃。

 

 敵の集団を発見する前から、ツキハは気配を隠し偽り、ミリムは完全に気配を消し。

 リムルは、自分とヴェルドラとラミリスに、常に不可視化(インビジブル)の魔法をかけて行動している。

 

 だから、敵を発見するのはリムル達の方が早いのだ。

 

 攻撃を仕掛けると同時に不可視化(インビジブル)の魔法は解除され、その時には既に敵の人数が一人か二人は欠けている。

 

 それも、後方支援の魔法職(アタッカー)回復職(ヒーラー)が。

 

 この時点で、勝敗は決したようなもの。

 

 認識出来るようになったリムル達を確認し、怒りに燃えた前衛が向かって来る。 

 

 

「クアハハハハ! 甘いわっ!!」

「おーーーほっほつほっ! ここは通さなくてよ!」

 

 と、ノリノリのヴェルドラとラミリスが、その突撃を迎え撃つ。

 

 こうなるとリムルの出番はなくなり、後方支援に徹する事となる。

 

 後方支援のない前衛など、ヴェルドラ達の敵ではない。

 ダメージ軽減や回復魔法がない以上、体力を削られたら終わりなのだ。

 

 既にツキハとミリムは潜伏モードに入っていて、この戦闘をどこかで見てるだろう。

 残りは任せたとばかりに、新たな獲物が来るまでその牙休める二人。

 

 案の定、ヴェルドラとラミリスが嬉しそうに残った敵を血祭りに上げてしまう。

 

 そして、残った一人が光の粒子となって消えて行った。

 

 

 戦闘終了である。

 

 

 もはや、見慣れた光景となっていた。 

 

「やったぞ! コヤツら如き、ワタシ達の敵ではなかったのだッ!!」

「にゃははははは! 戦猫(いくさねこ)のツキハ姉さんのミニドラを舐めるではないわっ!!」

「うっふっふ。その通りよさ! アタシ達は無敵。最強よね!」

「クアハハハハ! 雑魚ばかりで、少々物足りぬがな」

「おいおい。あんまり調子に乗るのは程々にな。お前達の悪い癖だぞ。勝って兜の緒を締めよ、ってな」

 

 調子に乗って、好き勝手な事を言うヴェルドラ達。

 

 それを、やんわりと(たしな)めるリムルであった。

 

 そう、リムル達はチーム〝緑乱〟を撃退してからも、迷宮に潜って挑戦者達との戦いに明け暮れていたのだった。

 

 

 そんな中、とうとうマサユキ達のパーティーが――

 四十階層を見事に突破した。

 

 このマサユキ、本当にリアルラックの申し子だったようで、かなり簡単に目玉のオーガシリーズの装備を揃えてしまったのだ。

 

 必然、その勢いで嵐蛇(テンペストサーペント)を倒し、今では五十階層攻略を目指している。

 

 マサユキ達が四十階層を突破した事で、挑戦者達は更に活気づいた。

 

 これは狙った通りの展開で、実力ある者達が次々と四十階層を目指し始めたのだ。

 

 実験的にボス戦の映像を一部の宿屋や酒場などで公開したのも、大きな反響を呼んだ。

 映写機で流される、マサユキ達と嵐蛇(テンペストサーペント)の戦いの記録。

 

 街でもあっという間に噂になり、何度でも再放送してくれとの要望が後を絶たなかった。

 

 これは商売になる――と、リムルとミョルマイルは思ったものである。

 

 

 リムルがいた元の世界とは違い、TVや映画、ネットもないこの世界では娯楽が極端に乏しい。

 

 だから、迷宮での戦闘風景なんてものが最高の娯楽になるのだ。

 

 そして、観光娯楽地区のギャンブル場もこれに当たる。

 

 トランプやサイコロ、それにルーレットなど様々なギャンブルが遊べるこの施設。

 経営はルヴナンだが、これで得た莫大な利益は、ルヴナン五、魔国五の折半である。

 

 現在スロットも開発中で、教授が、ある出来事がある条件で発動する術式を組み込んだ、確率設定術式スロットマシーンの試作機を作り上げたばかりであった。

 

 ギャンブルとは別に、家族での娯楽が楽しめる、迷宮内テーマパークも計画中である。

 

 着々と魔国内での娯楽を増やしつつあるリムル。

 

 更に、映画劇場を魔国に作る事も構想中であった。

 実写映画にアニメなど、リムルの夢という野望は膨らむばかりである。

 

 もはや魔国連邦(テンペスト)は、他の国々が追随すら不可能な勢いで急速な発展を遂げつつあったのだ。

 

 その始まりが、この迷宮内戦闘映像の放映である。

 

 これは、智慧之王(ラファエル)による、迷宮から得られる膨大な情報を『解析鑑定』し、厳選したモノを映像の再現化を施し編集したものだった。

 

 戦いの見せ場やカッコいいシーンを抜き取り、智慧之王(ラファエル)が見ごたえのある映像に編集する。

 凄まじい演算能力を誇る智慧之王(ラファエル)しか出来ない、手腕であった。

 

 これがまた、大ヒット。

 

 自分が映った映像を見て、俄然やる気を出す者が出る始末。

 

 しかしこの事より、記録した映像が、軍事的に有効だと証明されたのは、何とも皮肉である。

 他国との戦いの映像記録を残し、敵方の戦力や戦術と戦略などを分析して備えるなど、如何様(いかよう)にも利用出来るのだ。

 

 この世界での戦いの歴史が、新しく生まれ変わろうとした瞬間でもあるのかもしれない。

 

 

 そして今、リムル達は〝死を齎す迷宮の意思(ダンジョン・ドミネーター)〟と呼ばれて、恐怖の対象になっていたのだ。

 

 

 見た目も今や劇的に変化している。 

 

 

 リムルが操る幽霊(ゴースト)は、青白い炎のような妖気――

 フィアーオーラ(青白き鬼火)を纏えるようにまでなっていた。

 

 これは雰囲気的にもいいので、リムルはとても気に入っていた。

 

 

 ヴェルドラの骸骨剣士(スケルトン)は、全身の骨をリニューアルしていた。

 

 ラミリスの鎧が入れ替わったのを見て、ヴェルドラが自分もやりたいと言い出したのだ。

 リムルが希望を聞いてみると、「我には、黄金の髑髏が似合う」と言い、リムルを困らせた。

 

 流石に無視しようかと考えたリムルだったが。

 

 ツキハとコハクの件もあるので、どうせならヴェルドラにも、仮初の肉体を用意する為の実験に付き合ってもらおうと思い直したのだった。

 

 性能を試したい金属で骨格を作成して、それと交換してみようと考えたのである。

 

 普通の金では、強度に問題がある。

 

 

 そこで、実験中の一番強度がある素材を利用する事にしたリムル。

 

 

 神輝金鋼(オリハルコン)という、〝魔鋼〟に〝金〟を加えて、通常よりも濃密な魔素を注入する事により精製した特殊合金である。

 

 金という希少金属の『不変』性に着目したリムルは、〝魔鋼〟にもその性質を付与出来ないかと期待して作成したのだ。

 

 そして、その目論見は大成功で、強度だけではなく全ての面で〝魔鋼〟を超える、とんでもない金属として神輝金鋼(オリハルコン)が誕生したのである。

 

 

 だが一つ問題があった――それは、量が少ない事である。

 

 

 金そのものが希少なので、量産出来ないのである。

 

 

 この世界に現存する、金鉱山はそう多くない。

 

 また、それらの金鉱脈にある金鉱石に含まれる金の含有(がんゆう)量は完全秘匿され、世に出回ってはいないのだ。

 

 そして、ルヴナンが採掘権を保有する、長鼻族(テング)の霊山の鉱脈には、勿論金鉱石も含まれている。

 更には、霊山とは別の金鉱脈も幾つか保有していると、リムルは最近聞かされていた。

 

 ちまたでは、霊山の鉱石は一トン当たり約六十グラムという異常なまでの金含有量を含むのではと噂されていたのだ。

 

 例に挙げると、リムルの元いた世界での金含有量を試算すると、一トン当たり三~五グラム程度で採算が取れると言われている。

 

 この金に関しては、ドワルゴンのガゼル王とルヴナンとの密約で、徹底的に取引が管理されている。

 

 そう、この世界の金相場を乱さない為に。

 

 コハクは、この金鉱脈にしても、この世界に対する切り札の一つとして捉えていて、自分達が自由に生きていく手段の一つとして利用している。

 

 商売相手になる経済圏と国を滅ぼしては、自由も減ったくれもない、との考えが番外魔王コハクの考えなのだ。

 

 だからこそ、この世界の金貨制作を一手に(にな)うドワルゴンことガゼル王との密約が成立したのである。

 

 

 それで今回は、ルヴナンから特別に金を卸してもらったリムルであったのだ。

 

 その量は、破格の金のインゴット百キロである。 

 

 これに関してはガゼル王も了承済みで、取引の詳細は一部の者にしか明かされていないが、この金のインゴットはツキハとコハクの〝憑依体〟の作製用として提供されたものであり、研究以外で市場に流すのは禁ズと契約書には記されていたという。

 

 ただし、ちょこっとなら、私的流用は可ともあり。

 要は、お小遣い程度なら使ってもいいよとの事である。

 

 これにより、惜しみなく神輝金鋼(オリハルコン)を用いて、人型の骸骨を作製したリムルであった。

 

 ラミリスの時と同様、〝魔精核(マスターコア)〟だけあれば骨部分は何でもよかったようで、あっさりと変換は成功し金色の骸骨剣士(スケルトン)が出来上がったのだ。 

 

 強度は以前の骨の比ではなく、無駄に高性能に仕上がってしまった、金色の骸骨剣士(スケルトン)

 現在は、どの程度の耐久力があるのか、何か問題は起きないか、ジックリと観察中なリムルである。

 

 

 ミリムは、今や有名である。

 

 赤い流星(スカーレット)と呼ばれて、恐れられていた。

 

 異常な速度で移動する様は、残像が赤い流星のように見えるらしい、と。

 

 素早さ以外の全ての能力を捨てて、速度と致命の一撃(クリティカル)に頼ったその戦闘形態は、ある種の恐れとともに伝説となっているらしい。

 

 

 ラミリスもまた、地味に姿が変わっていた。

 

 紫の陽炎(かげろう)――死の気配(デスオーラ)が、ラミリスの動く重鎧(ヘヴィリビングアーマー)を包んでいた。

 

 死神の大斧(デスアックス)を振り回し、敵を蹂躙(じゅうりん)する。

 引く事を知らぬその戦闘スタイルで、狂気の動く重鎧(ヘヴィリビングアーマー)と、高い知名度を誇るに至った。

 

 

 そして、ツキハ。

 

 ミニドラの姿は変わりはなかった。

 

 しかし、中身の火炎攻撃は劇的に変化していた。

 

 魔電粒子加速術式の最適化が、密かに智慧之王(ラファエル)により施され、格段に効率が上がっていたのだ。

 

 その為に、火炎式と光線タイプが選べるようになったのは、これが理由である。

 

 知らぬ間にそこにいる、そんな恐ろしさを持つ、可愛い顔したミニドラゴン。

 

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 気が付けば、首が飛び、吐く火炎で焼き尽くされる。

 

 冒険者達は、畏怖の念を込めて、こう呼ぶ。

 

 小さな暗殺者(ベイビーアサシン)、と。

 

 

 こんな具合に、たった数日でリムル達も有名になっていったのだ。

 

  

 挑戦者達の反応も上々。

 リムル達を恐れ、警戒しているとの事。

 

 

 そこで一度だけ調子に乗って、自分達だけで迷宮を攻略しようと挑んでみた。

 

 結果は、惨敗。

 

 

 今のリムル達の実力では、五十階層のボス――

 

 ゴズールには勝てなかったのだ。

 

 ミニドラのブレスである火炎も光線も、ゴズールの持つ結界と耐久力に阻まれ通用しなかった。

 

 正面から正々堂々と戦う場合、Aランクオーバーの相手にはまだまだ実力不足で、経験値の差が浮き彫りになった形だったのだ。

 

 

 だから、こうして真面目に自分達のキャラを鍛えていたのである。

 

 ………………

 

 ……

 

 …

 

 

 と、こういう訳で、リムル達は消えゆく挑戦者達を見送った。

 

「楽勝だったな」 

 

 リムルがそう呟くと、四人も(うなづ)く。

 

 さて、この調子でどんどん行こうと、リムルが思った矢先。

 執務室にいる緊急連絡用の分身体から――

 

(ん? 何事だ?) 

 

 『緊急の来客です』と、リムルにメッセージが届いたのだ。

 

(うーん、遊んでいる場合では、いや、違う。遊んでいるのではなく、勉強だからね? ね?)

 

 と、意味不明の自問自答をしながら、急ぎリムル達は執務室へと戻る事にした。

 

 

 そして、執務室へ至る廊下を歩く中、ツキハの猫耳がクリクリッとあらゆる方向に動き、執務室の方向へ猫耳を向けると、ピタリとそこで止めた。

 

(これぇ……)

 

 何かを察知したツキハが、小さく(つぶ)いた。

 

 

 リムル達が執務室に戻ると、そこではシュナとリグルドが待っていて――

 

 そしてもう一人。

 

 それは皆が見た事のある女性。

 

 元魔王のフレイが椅子に座っていた。

 

 急な来客とは、フレイの事だったのだ

 

 

 部屋に入ったリムルを見て、その視線はヴェルドラやラミリス、ツキハを素通りし、最後に入って来たミリムに視線を留めるフレイ。

 

 そして、穏やかにニッコリと笑みを浮かべる。

 

(やべえ……フレイのヤツ、めっちゃ怒ってるよね?)

(うーむ、何故だろう。あの笑顔、ヤバイ……?) 

 

 ツキハとリムルは、フレイの笑顔に不吉なものを感じ取った。

 

 

「あら、ミリム。こんな所にいたのね? ところで私が出しておいた仕事(しゆくだい)だけど、終わったのかしら? 見張りが簀巻(すま)きにされて転がっていたのだけど、何があったのか説明してくれるわよね?」

 

 笑顔のままに言う、フレイ。

 

 何故か、ツキハの尻尾の毛がブワッと逆立った。

 

 それは質問というより、尋問だった。

 

 ミリム、逃げ場なし。

 

 

(あー、これって、宿題を終えて遊んでいるハズの友達が、実は全く宿題には手を付けておらず、それが親にバレて怒られてるようなシーンのようだわ) 

 

 と、そんな事を思うリムルであった。

 

 

 そして、当事者たるミリムは――

 

「げぇ!! ふ、フレイ!? ち、違うのだ。こ、こ、これには深い訳があるのだ――ッ!!」

 

 フレイと目が合った途端、激しくうろたえていた。

 

 そして、グリッと首を動かし、ツキハを見るミリム。

 

 だがしかし、ここでツキハの本能が激しく警鐘を鳴らし、電光石火の如くツキハの巻き込まれ防止の言葉がミリムに撃ち込まれた。

 

「――もう、やだなぁ。仕事があったのなら、そう言えばいいじゃんよ。駄目だよぉ、仕事はちゃんと終わらせてから遊ばないと」

「え、あ、え、と?」

 

 ミリム、何も言い出せず。

 

 ミリムと付き合いの長いツキハは、こっちを巻き込もうとするミリムの魂胆をいち早く見抜いたのだ。

 

 そこへ、畳みかけるように言葉を浴びせかけられるミリム。

 

「はははは、ミリム。仕事があったのなら、ツキハの言う通り行ってくれよ? 引き止めるのも何だし、早く戻って、さっさと仕事を終わらせるといいよ!」

「う、うむ。我等の研究に長々と付き合わせてしまってスマンな。仕事があったのならば、そう言ってくれればいいものを。気を使わせてしまったようだし、その点は謝罪しよう!」

「そ、そうだよ、ツキハの言う通りさ! 水臭いなミリム、言ってくれれば引き止めなかったさ!」

 

 一瞬で空気を読み、ツキハの言葉に追随援護を行う、リムルにヴェルドラとラミリス。

 

 こういう時の連帯感は流石である。

 

 これで事実上、ツキハ達は知らなかった事になり、尚且(なおか)つ、無関係であるとフレイにアピール出来たのだ。

 

 ミリムが泣きそうな目でツキハを見るが、ツキハは『思念伝達』を使い、にこやかに『ゴメンね。助けるのは無理』とトドメを刺し、更に『あたし達を巻き込むんじゃねえ』とも、付け加えたのであった。

 

 

「ち、ちが、違うのだ。は、話を、話を聞くのだ。フレイ、フレイッ!?」

 

 と、最後まで無実を訴えていたミリムだが、フレイの揺るぎない笑顔の前に撃沈し、抵抗は虚しく終わりを告げる。

 

 こうして、フレイの爪で首根っこを掴まれ無力化されたミリムは、フレイに捕獲されてしまう。

 

 「ツキハ、覚えておくのだ! ワタシは帰ってくる! その時は、盛大なゲンコツをお見舞いしてやるのだ――ッ!」

『はいはい、その時があればねえ~。ちゃんと仕事片付けてくるんだよぉ』

「ツキハァ――ッ!」 

 

 最後の断末魔のようなミリムの叫びに、ツキハは『思念伝達』で爽やかな顔で言い放ち、ミリムに別れを告げた。

 

 そしてミリムは、そのまま敢えなく自国へと引きずられて行ったのであった。

 

 

 パタンと閉じられる執務室の扉。

 

 

(助かった……はあ~)

 

 ミリムとフレイを見送ったリムルは、ホッと胸を撫で下ろし安堵(あんど)の溜息をついた束の間――

 

「ところでリムル様、今まで何処(どこ)で何をしておられたのですか?」 

 

 と、ツキハばりに気配もなくリムルの背後に立ったシュナが、微笑みながら鋭い質問をリムルに投げかけて来たのだ。

 

 

 ミリムの次に、災難が降りかかって来たリムル。

 

 

 出るハズのない汗が、額に浮かぶような感覚に襲われたリムルは、凄まじい速さで思考を巡らせ、このヤバイ局面から逃れる術を探す。 

 

(待て待て待て。うん、大丈夫、大丈夫だ。俺達は決して遊んでいたのではない。そう、断じて、ない。研究、そう、研究をしていたんだ。うん、研究の為だから)

 

 リムルは意を決し、言い訳をしようと口を開きかけたその時。

 

 ツキハとヴェルドラが先に口を開く。

 

「あ、ゴメンゴメン。何かさ、お邪魔しちゃ悪いから、ルヴナン本店に戻るわ。コハクから、東方面に展開している傭兵の再編成頼まれてたし。じゃ、またね、リムル」

「うむ。どうやら我等は邪魔になりそうだな。ツキハも仕事なら、我は自室で魔導の研究を行う事にしよう。魔導は奥深く、叡智を授けてくれる故に――」

 

 ヴェルドラはそんな事をゴニョニョと言いながら、愛読書(マンガ)を取り出し(きびす)を返すと、ツキハの後ろに付いて行った。

 

(なッ!? 逃げる気かっ!!)

 

 そうリムルが焦った時には、既に遅かった。

 

「じゃ、じゃあ、アタシもツキハにお供させてもらっちゃおうかな。コハクからの頼まれごと思い出したし」

 

 なんてことを言いつつ、ラミリスまでもリムルを裏切ったのである。

 

 ツキハと三人して、執務室から逃げるように去って行ったのだ。

 

 

(何て奴らだ! こんな時だけは、無駄に息ピッタリじゃねえか! お、お前らなあ……クソがあぁっーー!!)

 

 リムル、心の叫び炸裂。

 

 

 この後リムルがどうなったかは、三人は知らない。

 

 

 しかし、智慧之王(ラファエル)の助言により――

 

 何とかこの局面を切り抜けたとだけ、付け加えておこう。

 

 

 





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