忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
※作中使用の特殊フォントは、〝ライム様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。
特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。
時を少し戻す。
ベニマルが仮面の女と戦ってる時。
サンコは木の枝の上で呑気に寝そべり、適当な言葉を並べ立てていた。
『ニャー、がんばるニャよー。鬼人頑張れニャ~。アチシの出番作ったら、怒るニャよ? そんな仮面の女など、とっとと、ぶっ殺すニャア。ああぁーめんどくさ、ってか、あの仮面の女……強そうニャア。そこニャ! いけニャー、鬼人の男ー、ファイトニャよー! ふにゃあにゃああぁ~』
出来れば戦いたくないサンコは、もう帰ろっかニャーとか考えながら、尻尾をぷらんぷらんさせながら、
「しかしふざけた仮面だな。奇妙な模様が、まるで顏みたいに見えやがる」
「……」
ベニマルは車手裏剣を弾きながら言うも、仮面の女から言葉は返って来なく。
車手裏剣の炸裂する爆発音だけが、返って来た。
一枚の車手裏剣を仮面の女が、ベニマル目掛け投げる。
「一枚だけだと? 舐められたものだな。――!?」
ベニマルがそう発した刹那――
仮面の女が
「幻遁・分身影車」
さんえい
(散影)
仮面の女がパンと眼前で両手を叩き合わせると、一枚だった車手裏剣がベニマルに当たる手前で無数の車手裏剣に分裂し、覆い囲むように襲い来る。
「チイッ!」
ベニマルは自身の周りに、黒炎の障壁を展開させ、それを防いだ。
大気を震わす爆発音が鳴り響き、爆炎がベニマルを包み上げていく。
爆発の衝撃で巻き上げられた土砂がバラバラと降り注ぐ中、無傷のベニマルが太刀を一振りする。
その剣風で、もうもうと立ち込めた煙が一気に払われた。
だが、煙が払われた先には仮面の女はいない。
「なに!?」
爆発に紛れてベニマルの懐まで飛び込んで来た仮面の女は、ベニマルの右手首を掴んだ。
ベニマルは右手首関節を極められる前に、あっさり太刀を手放し。
自分の手首を内から外に回し、逆に仮面の女の掴んで来た右手を左手で押さえながら内側に極め、その場で地面に押さえ込んだ。
朧流柔術・交差取り。
「女、いったいどこの者だ?」
片膝を付く仮面の女を上から押さえ込んだまま、ベニマルが問う。
しかし、返る言葉は無言のみ。
「……」
「そうか。少し痛い目に――」
「火遁・爆轟」
痛い目にと言われた仮面の女は、左手指に挟んだ呪符をベニマルに投げ、
はせろ
(爆ぜろ)
「またか!」
ベニマルが怒号を上げ、仮面の女から飛び離れる。
その飛び離れたベニマルに寄り添うに仮面の女も飛び付いて来た。
そして、ベニマルが着地した瞬間、拳打を見舞う。
ガガガッ、三連打の拳が胸に打ち込まれ、打撃振動波がベニマルの体内を暴れ回る。
「ハッ!」
だがベニマルは、この打振の防ぎ方をゲルドから聞いており、己の
打ち込まれた打撃振動は相殺されたように見えたが、波紋のように全身に広がった打振は、ベニマルの
まるで脳震盪を起こしたような
「くそ……ただ、の、打撃振動波では、ないの、か……」
ガクガクと震える両膝を支えながら、眼前に迫る仮面の女に対して拳を構えようとするが……。
倒れない様に体を支えるだけで、精一杯であった。
「ふう。中々に厄介な鬼人ですね。あなたは、とても危険です。死になさい」
初めて言葉を発した、仮面の女。
それに、ベニマルは。
「やっと、口を開い、たかと思えば……そんな言葉か。若い声、だな、お前(まずいな。魔力回路が乱されて、『思念伝達』が、飛ばせん……)」
仮面の女が後ろ越しに差した小太刀を抜こうとした時――
「にゃあああ。にゃにゃああーにゃ」
ベニマルと仮面の女の間に、サンコが割り入って来た。
にゃあにゃあ鳴きながら割り入った魔猫に、ベニマルと仮面の女は何だこれは? と、訝し気にサンコを見た。
「ま、魔猫? なんでこんな魔獣が、こんな所にいるんだ?」
「……?」
打振から回復して来たベニマルが何とも言えない声で言い、仮面の女は無言で首を傾げる。
「にゃにゃあーにゃ、にゃ?」
『おっと、これじゃわからないニャね。そこの鬼人、命を助けてやるから、恩に着るニャ。でも、アチシが死ぬ可能性は高いから、油断するニャよ?』
『思念伝達』で伝え言う魔猫が、いきなり助けに来て、助けに来た己が死ぬ可能性高いなどと、訳のわからない事を言う魔猫にベニマルが『思考加速』を掛けつつ、呆れたように返した。
『あぁー。すまんがそれ、助けになってないと思うぞ?』
『にゃ!? 細かい事は気にするニャよ。
『あーいや、俺が言うのもなんだが、主の言い付けを守らないのは駄目だろ?』
『それなのニャ……猫使いが荒いのニャ。いつも、むちゃぶりを言ってくるニャよ……。泣いてもいいかニャ?』
『泣くって……お前、何しに来たんだ?』
『んゃ~。決まってるニャ、ニャ? 何しに来たんニャ? ニャぁー、そうニャ、お前を助けに来たニャよ? 多分』
何故か首を傾げ言うサンコ。
『あ? なんでそこで、首を
『助けに来たけど、もしかしたら――アチシが助けて欲しい事に、なるかもニャよ? という事?』
話が噛み合ってるようで噛み合わないサンコに、ベニマルの語尾が少し荒くなる。
『はあっ!?……。お前、もしかして――馬鹿だろ?』
『失敬ニャ! アチシを馬鹿と言っていいのは、ニコお姉だけニャ! ぶっ殺すニャよ、鬼人』
『あー、もう訳がわかんねえ。なんで助けに来たと言ってる魔猫に、殺される事になるんだ!?』
『にゃははは、気にするニャ、鬼人。最悪、仮面の女にアチシの方が先に、ぶっ殺されるかもニャよ? それに、
支離滅裂、意味不明の会話にベニマルは、段々と投げやりになって来る。
『あー、そうかい。で、その
『うニャ? 決まってるニャ、ツキハ様、コハク様お二人がアチシの
『なるほどな、〝番外魔王〟か。わかった。体が回復するまで、時間稼ぎを頼む。魔猫よ』
『違うニャ。アチシら眷属は、〝忍魔猫〟ニャよ! って、これ言ってもよかったのかニャ? 鬼人、今のは忘れるニャよ? それと、あの打振を甘く見るニャ。あのダメージは根深く体内に残るニャよ。アレは一度喰らって、二度美味しい厄介なものニャ』
『意味わかんねえよ! ククッ、わかったよ。回復に専念すればいいんだな?』
『そうニャ』
サンコの
サンコはおもむろに後ろ足だけで立つと、前足を胸元で構える。
体長四十センチ余りの魔猫の取るファイティングポーズは、見る者にシュールな感覚を与えた。
ベニマルは目が点になり、仮面の女は小刻みに顔を揺らしていた。恐らく仮面の下で声を殺して爆笑していたのだろう。
そこへサンコが、仮面の女へ『思念伝達』で言葉を吐き捨てる。
『いいニャよ。笑うのもこれを見てからに、するニャ』
静かに言葉を吐き捨てた瞬間、サンコの姿が消えた。
その場に砂塵だけ残し、仮面の女の眼前に現れた。
瞬動で仮面の女の眼前までジャンプし、パンチを見舞う。
『ね~~こ~~パ~~ン~~チィッ!!』
超高速のネコパンチ炸裂!
ババババババンッ! 一瞬で三十数発ものネコパンチが打ち込まれる。
仮面の女は腕を交差させて防御するも、サンコのパンチは〝魔闘気〟を纏っており、肉を抉り骨を砕いていく。
それを仮面の女は、超速再生で傷を再生しながら耐える。
サンコが身体を捻り、お尻を仮面の女に向けると、ぐぐっと後ろ足に力を溜め。
一気に蹴り放った。
『ねぇーーこぉーーキィーーッーークーー!!』
バガンッ! 重々しい激音が轟く。
仮面の女は腕を交差させたまま両足を踏ん張り地面を抉りながら、二百メートルの距離を蹴り飛ばされた。
『にゃふふふ。これが、アチシの――にゃんこ柔術、打の型。〝猫鉄拳〟ニャ!』
サンコの言った、にゃんこ柔術も猫鉄拳も、実際は無いのである。
これは、サンコのサンコによるサンコの為の拳法であり、勝手にサンコがそう呼称してるだけなのだ。
眷属の中で唯一、サンコだけが使う〝魔獣体術〟であった。
「そう、Aランク超えの魔物と、言う事ね」
『やっと、声を出したニャ。仮面の女、ぶっ殺されたくなければ、引くニャ!』
仮面の女の
サンコはタシッと四つん這いに戻り、凄まじい速さで仮面の女の横を通り抜ける。
左横を通り抜ける瞬間に仮面の女の左
足を払われるように蹴られ、体が横に傾き左手を地面に付いたその時。
ズガンッ、サンコの後ろ足が仮面の女の顔を蹴り、真上に打ち上げた。
『死ぬのニャーー!』
打ち上げた仮面の女が落下してくる所へ両前足の爪を十センチ伸ばし、そのままジャンプして首を刈る。
両前足が交差し首を刈ったかのように見えた、が。
それは空しく空を切り、代わりにサンコの尻尾がガッと握られた。
『なんニャ!?』
仮面の女は首を刈られる瞬間、右足に『重力支配』で不可視の力場を作り、それを蹴ったのだ。
瞬時に身を捻り、体の位置を入れ替えあたかもその場から消えた錯覚を、サンコに与えた。
『あにゃあーーーー』
尻尾を掴まれたサンコは勢いよく地面に叩き付けられる。
激しい地響きを立て地面が陥没して半径二十メートルのクレーターを作り、盛大に土砂を巻き上げた。
ザァーッと音が鳴り土砂が降り注ぐ中、サンコがヨロヨロと立ち上がる、そこへ。
十枚の車手裏剣が投げられ、分裂した。
分裂した無数の車手裏剣が、サンコを追尾する。
ダメージの抜けきってないサンコは、ふぎぁっ!と変な鳴き声を上げて、脱兎の如く逃げ出した。
『ま、まつニャ! それは、ヤバいニャよー。アギャ、これヤバい奴ニャー。死ぬ、死ぬニャー。はあ!? え?――』
死に物狂いで車手裏剣を避けて逃げ回るサンコの元へ、強制的に『思念伝達』が飛んで来た。
『サンコちゃ~ん。ちょっと、お姉ちゃんピンチなのぉー。お助けに来て、くれるかなぁー?』
『バカお姉! 今それどころじゃないニャ! こっちが死にそうなのニャ! そっちはそっちで何とかするニャよ!』
一瞬の隙。
『思念伝達』で一瞬気を取られたサンコの目の前で、車手裏剣が炸裂した。
『にぎゃぁー!』
次々に飛来する車手裏剣の爆発の衝撃でにサンコは宙高く放り上げられ、ひゅるるるーと放物線を描きながらベニマルの前まで飛んでいき――。
ボスッ、あちこちの毛が焦げて白い煙を上げながら、落ちた。
『あぁー、鬼人のお兄さん、う、動ける、かニャ? ちょ、ちょっと助ける、ニャよ……』
『おい、おい! 動けるが、お前を守りながらは少し無理があるぞ!?』
舌をだらりと出したままサンコは白目を剥き、気絶していた。
そのサンコを両手で前足の両脇を抱え抱き上げ、眼前で揺らしながら「おい、起きろ! おい!」と起こそうとするが、サンコはぴくりとも動かなかった。
『サンコ、アンタ何してますのや? 鬼人を守らなあかんアンタが、そないな無様晒して――いっぺん、ほんまに死にますか?』
何も無い空間から声がして、ベニマルの目の前にまるで色を塗るかのように、亜人の姿が頭から現れる。
空間が揺らぎながら、どんどんと下にいき、頭から、胸、腰と現れて揺らぎが収まると、番外魔王コハクの姿が完全に現れた。
コハクは『空間迷彩』で姿を消し、気配を周辺の生き物の気配と同化させ自分の気配を偽り、サンコが戦ってる時には既にここいたのだ。
「なあ、サンコ。いつまで遊んでるんや? ええかげんにせんと、しばきますえ!」
『ふニャ! こ、こ、コハク様――もう、ダメージは抜けたから、いけるニャよ?』
足元から『空間迷彩』を解除し出て来たサンコにベニマルは驚き、自分が両手で掴んでるサンコに目をやると、ポフっと魔素粒子に変わり霧散した。
連続爆発に巻き込まれる前に〝幻遁・変わり身の術〟で、退避していたサンコだったのだ。
「はぁ……」
どうにもサンコに遊ばれてるように感じ、短い溜息を付くベニマル。
そこへコハクが、声を掛ける。
「あんさん、ベニマルと言いましたか?」
「あ、ああ。そうだ、〝番外魔王〟」
「そのサンコはな、サンコが幻遁で作り出した、変わり身や。驚かしてすんまへんな」
「いや、こちらこそ助かった」
「でな、あんさんはそこのサンコと下がってなはれ。うちは、ちょっとけったいなお面の女に用があるさかい」
「ああ、わかった」
有無を言わさない言葉にベニマルはサンコと、後ろに下がる。
「さて、そこの女。あんさんは、歩き巫女の忍びおすな? 何が目的で、ここに来ましたんや?」
「……」
「まあ、だんまりおすよねぇ。うちは少し、イラついてますんや。素直に話せば、楽に死なせてあげますえ」
「……」
「よろしおす。ほな、いきますえ」
コハクは後ろ手に手を組み優雅に歩き、仮面の女の間合いに入っていく。
左半身の構えを取る仮面の女は、不用心に間合いにはいって来たコハクの右脚を狙い、
コハクは右脚の脛部分を少し外側に向ける。
下段蹴りを放った仮面の女の足の甲は、その固い脛の骨に当たり、木が割れるような音を立て足の甲の骨が砕けた。
「せやなぁ。一割位の加減で、ええでっしゃろか?」
コハクはゆるりと流れるように仮面の女の側面に回ると、左手は後ろに回したまま、右拳を脇腹にポンと打ち込んだ。
ズムッ、鈍い打撃音が鳴り、仮面の女の脇腹がたわむように波打つ。
一瞬怯んだ仮面の女はすぐさま右廻し蹴りを放ち、コハクはスッと軽く身を引きそれを
躱されたと同時に仮面の女は身を沈め、水面蹴りでコハクの足を刈りに来た。
それも躱されると地面に両手を付き、背を向けたまま右後ろ蹴りを放つ。
「ふふ、海老蹴りどすか」
それすらもゆらりと躱し、淀みのないない歩法でスッスッと円を描くように動いていく。
すぐさま立ち上がった仮面の女は右脇腹を押さえるも、すぐに無手の構えを取る。
「効きますやろ? まだ握ってはいませんえ? 波紋だけや」
仮面の女の脇腹の表面は、打撃振動波が表面で波打ち、波紋のように広がっていっていたのだ。
内部にはまだ浸透しておらず、コハクは拳を打ち込んだと同時に拳を握り打撃振動波を内部に送り込む打ち方はしておらず。
ただ、拳を打ち込んだと同時に、ほんの僅か体を一直線に真下に沈めるように全体重を拳に乗せただけである。
乗せた体重は『重力操作』で軽く百キロだった。
これに、拳を打ち込んだ瞬間に軽く握った拳をインパクトの瞬間ギュッと握ると、〝魔闘気〟を乗せた打撃振動波が内部に通り浸透し、内部破壊を引き起こすのであった。
この人間の頃の
そして、仮面の女も同様の事をしていた。
「なあ、あんさん。その髪型……なんか見覚えあるんどすが、うーん……思い出しまへんなぁ」
「……(〝番外魔王〟、本当に化け物になったんだね――お前は。忍びの
ブンッ、多重残像。
仮面の女は動く度にその場に残像を残し、コハクに肉薄してパンチの連打を放つ。
それを片手で捌きながら残像を裏拳、縦拳、鞭打、孤拳で打ち、次々と残像を消していった。
コハクは最後の残像を消し、本体を見つけると、下上中の三段蹴りを見舞う。
〝天牙影千流・柔術 蹴り技 孤蝶三段蹴り〟
パパパン! 一拍の間に三発の蹴りを放ち、空気を叩くような乾いた音が響く。
三段目の蹴りを肘で防御した仮面の女の右腕が、ぐしゃりと潰れ曲がった。
潰れた腕を無視し、仮面の女が左拳でコハクの水月に打振を打ち込んだ。
バグンッ、コハクの胸の中央がへこみ、ぼわんと波打った。
打ち込んだと同時に間合いを空けた仮面の女は、コハクを見てコテリと首を傾げる。
それは、コハクが打ち込まれた打振に対し、自分の内部に掌打で打振を打ち込み、仮面の女の打振を相殺したからだ。
「はあ……結構効きましたな。いい打振おしたえ。もう少し精進すれば、魔王にも効きますかも知れまへんなぁ」
コハクの淡々とした言葉に、仮面の女の握りしめた拳が心なしか〝怒り?〟で震えていた。
『おい、魔猫』
『なんニャ?』
『お前の
『ニャ? 詳しい事は知らないニャよ。それとニャ、アチシにはサンコと言う名があるニャ。魔猫言うニャ!』
『ああ、スマン。いや、そうじゃなくてだな、サンコ。何故敵になったり、今俺を助けてくれたりするんだ?』
『うーんとニャ、半分は気まぐれニャよ、多分? コハク様とツキハ様は、人間との全面戦争は望んでないニャ。人間がいなくなると、商売上がったりだからニャ。鬼人も――』
『〝ベニマル〟だ。お前の
『ニャ? まぁそれよりもニャ。〝ベニマル〟も、くつろぐといいニャ。もう勝負が付くニャよ。それと言っとくけどニャ、コハク様とツキハ様は、人間を嫌いではないが、好きでもないニャ。過去に人間の住む国を、二つ滅ぼしてるからニャ。ああみえて容赦の無い、猫使いの荒い
『お、おう、そうなのか。(猫使いが荒いって……普通
そう言うとサンコは毛づくろいを始め、ベニマルは腕を組み『思念伝達』でリムルに連絡を取り、現状はそのままで〝番外魔王〟の行動を観察、危険だと判断したらすぐ撤退せよと命令を受けた。
コハクは仮面の女が手の内を見せてないのに感付いており、終始片手と蹴りだけで戦っていた。
その戦いも、終わりが近付いていた。
仮面の女が
もえろ
(燃え盛れ)
「火遁・
コハクも同時に言霊を発し、印を三つ結んだ。
もえろ
(燃えなはれ)
「火遁・
二人共大きく息を吸いこみ、勢いよく吹き出した。
凄まじいまでの黒炎が二人から吹き出され、それはぶつかった。
中央で黒炎同士がぶつかり渦を巻き、その膨大な熱量は熱風となって周辺を焼き尽くす。
瞬時に周りの樹々や騎士の死体が炭化、灰になり。
半径数百メートルは灰燼と化し、地面を焼き焦がした黒炎が消えずに揺らめいていた。
ベニマルは凄まじいまでの黒炎の威力にしばし言葉を失うも、目の前の二人の実力に気後れは無く。
むしろ口端に軽く笑みを浮かべていた。
「かなわんなぁー、同じような術を使わはるなんて」
「……『どうしますか?……はい、はい……そうですね……わかりました』」
笑みを消したコハクが、重く背筋が凍り付くような声で、仮面の女に言い放つ。
仮面の女は誰かと『思念伝達』でやり取りをしてるように見え。
コハクが、次の言葉を言うと。
「まあ、よろしおす。あんさんの、正体を教えてもらいましょかぁ」
言いながら仮面の女に、捕縛の結界を張ろうとすると。
それより早く、仮面の女は二本指を立てた左手を眼前で真横に切り、空間を歪ませる。
そして、仮面の奥からコハクをじっと見据えたまま、パンと両手を叩き合わせ魔法陣を足元に呼び出すと。
その魔法陣から発する光が『空間転移』と同時に光が弾け、そのまま仮面の女を包み『空間転移』して行った。
コハクはすぐに権能『
先程の魔法陣が幻術の類か何かで、無数の転移痕跡が周辺にばら撒かれていた。
一瞬自分の〝権能〟を知られていたのかとコハクは考えるも、おそらく追手から逃げる為の術式だと判断し、一応の警戒を解いた。
ツキハに『思念伝達』で追えるかと聞かれ、こちらの仮面の女は痕跡を消して逃げたと伝える。
あの何か知ってるような感覚が頭から離れなかったコハクだが、「しょうもな」とめんどくさそうに吐き捨て、それを頭の隅に追いやった。
ベニマルの所へ来たコハクは、もう危険は無いからここは安全だと告げる。
「まあ、そう言う事おすな。あんさんも、報告がありますやろ? うちはもう行きますさかい、ほなな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。コハク様は、一体どちらの味方なんですか?」
「どっちやろな? ふふっ」
「ええ? どっちって……やっぱり敵ですか?」
「まあ、そうなるやろなぁ。あんさんも、今日の事はラッキーくらいに思いなはれ。ほな、あんじょうきばりや。いくで、サンコ」
『はいニャ。じゃあニャ、またがあればまたニャ。ベニマル』
『ああ、またがあればな。じゃあなサンコ』
コハクがサンコを連れて『空間転移』して行き、その場を後にした。
後に残ったベニマルは、油断をしなくてもあのような格上の敵が来た時にどうすべきかと、思案を始め。
リムルに報告を終えたベニマルは、立ったままサンコとコハクの戦いを思い出し、自分ならどう対処し、どう動くか、最初から頭の中でシュミレートしていく。
リムルの配下達。
リムルの影響なのか常に向上心に溢れ、一度負けてもそれを次に繋げるその考えは、ある意味他の魔物と一線を画していた。
それ故他の魔物とは違う進化をし、強さを身に付けていく。
リムルが魔王になり、その進化の恩恵を受ける時、ベニマル達の強さは……。
ツキハとコハクが、〝次からは手強くなる〟と言った言葉は、これに
そして……。
まもなくそれは、訪れる。
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