忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。220話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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220話 欲と悪意渦巻く評議会の面々

 

 魔王リムル・テンペスト。

 

 

 突如としてこの世界に頭角を現して来た、転生者三上悟の、転生体スライム。

 

 ユニークスキル『大賢者』から、究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)』に進化した能力(スキル)を持ち、更に三つの究極能力(アルティメットスキル)を持つ。

 

 この世界に三人しかいない、ツキハとコハクに次ぐ、三人目の〝特殊な魔物〟のリムル。

 

 

 その魔王リムルに対して、評議会の面々が虎視眈々と策謀を巡らせていた。

 

 

 評議会――西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)とは、ジュラの大森林周辺の国家集合体である。

 

 

 各国から選出された議員達が、イングラシア王国にて毎月会議を開催している。

 

 言うなれば、国家の運営とは別の全体的な利益調整が目的なのだ。

 

 小国だからと蔑ろにする事なく、平等の観点から相互に助け合い、人類全体の利益を守る事こそを理念としている。

 

 

 利益とは、人類圏の維持だ。

 

 

 だがしかし、いくら理想を掲げても、文化も思想も違う国家が集まれば、それは(いびつ)なモノと化す危険性も(はら)んでいるのも事実。

 

 それを良しとしない国家もあるにはあり、参加していない国家も少ないながらも確かに存在する。

 

 大国でありながら評議会に加盟しない、独立国家のサリオンとドワルゴンという、稀有な例もある。

 

 

 しかしそれだけではない、きちんとしたメリットがあるのも確か。

 

 

 この世界での一番の脅威、魔物討伐を筆頭として、 旱魃(かんばつ)や疫病、様々な自然災害。

 そうした災害対策を行うのが、評議会の役割である。

 

 

 各国の余剰食料や特産品。

 こうした物品の輸出入の調整に関しては、それぞれの国家の方針によって異なるので、大抵は協議が難航する事になる。

 

 なので、実質的な支援にだけ搾り、評議会で議論される事になるのだ。

 

 この調整がまた大変で、様々な問題が噴出する。

 

 評議会の予算は各国から捻出されているのだが、当然その割合は異なる。

 それぞれの国の規模により金額が上下するのに、発言権は同じ。

 

 それでは不満が生じるので、負担額に応じて選出議員の数を増やせる仕組みになっていた。

 

 しかしながら、これを際限なく認めれば国家間の平等など、あっという間に吹き飛んでしまう。

 

 その為、議員を一人増やすごとに、拠出金の割合が大幅に増えるよう定められていたの、だが。

 

 それでも、議員の数が増える、(すなわち)ち、発言権の大きさに関わって来る。

 だから、大国は己の国の資産力にモノを言わせ、通常の何倍もの拠出金を払ってでも、数名の議員を送り込んで来るのも事実なのだ。

 

 

 ここで一つ言うならば、評議会の活動は直接的な国家利益と直結しない。

 

 だがそれでも、大国としての矜持を示すには絶好の場所でもあったのだ。

 

 要は、発言権が大きければ、巡り巡って自国への優遇も可能となる、という事。

 隠れた利権がそこに存在する事になるのである。

 

 加盟議員による多数決で、徴収された資金の各調整を行う。

 

 例を一つ上げるとすれば、危険度の高い魔物が現われたとしよう。

 魔物対策として、評議会の下部組織である自由組合が対応する事になる。

 

 評議会が魔物の討伐依頼を出して冒険者を派遣してもらうのだが、発生する魔物は一体とは限らない。

 

 仮に複数の国に、危険な魔物が同時に出現したならば? どうなるのか。

 

 結果は、発言力の大きな国が自国を優先させて、腕の良い冒険者を確保する事になる。

 これに異を唱える事が小国は出来ないのだ。

 

 何故なら、拠出金の割合が大きければ大きいほど、それだけ西側諸国の中でも価値ある国家という図式が出来上がってしまうのだ。

 

 拠出金の少ない国を守る為に、有限たる資源が投入される事はない。

 

 余裕がある時は助ける、が。

 そうれなければ、平等に弱者を切り捨てる。

 

 それが現実であり、とてもシビアな数の理論。

 

 決して高くない分担金の支払いの遅延は、いかなる理由があろうとも許されない。

 

 これが出来ないと、評議会から強制的に脱退させられる。

 弱小国にとっては、これは死活問題であった。

 

 だがしかし、この問題を解決する手段が、この世界に一つだけ存在した。

 

 そう――傭兵商会ルヴナンである。

 

 弱小国に分担金よりリーズナブルな価格で、傭兵派遣の契約を提案する事でその問題を解決する。

 魔物という事に(こだわ)らなければ、自国の安全が守られるのだ。

 しかも、派遣されて来る傭兵の中には人間も含まれていた。

 

 そして、この傭兵契約を結ぶ時の相手をするのも、ルヴナン側の人間だった事が、小国の警戒を解く事にもなっていたのだ。

 

 しかし、この世界の人間達の間では魔物は忌み嫌う存在として捉えられていた。

 

 だから、傭兵商会ルヴナンと契約する者は人類の敵だと、過激な発言をする者もいるのも事実。

 

 それでも弱小国にとっては、背に腹は代えられぬ、といったところであろう

 

 

 事実、少ない人数で魔物の討伐や、周辺の国からのちょっかいや侵略を防ぐのを見て来た弱小国であれば、評議会に加盟するより遥かに利益が大きいのだ。

 

 

 では、大国からの食料輸入や貿易を止められたとしたら?

 それも、ルヴナンは秘密裏に対応していた。

 

 西側諸国の大国から小国、果ては大きな村から小さな村まで幅広く行商する、行商隊ガットエランテ。

 

 どの国にも所属せず、また、どんな国家権力にも怯まず従わない、完全に独立した組織。

 

 過去この行商隊の歴代隊長を亡き者にしようと画策した国々があったが、そのどれもが失敗した。

 また、別のガットエランテの行商隊を盗賊に見せかけて襲撃したりしたが、ことごとく撃退されている。

 

 そんな事があり、ガットエランテに手出しをしようとする者は〝余程の馬鹿〟でない限り、今は誰もいない。

 

 ガットエランテの扱う品は、食料品から武器防具、それらを作る鉱石から素材まで、雑貨から趣向品に到るまで何でも揃える事が出来、更にはその国の特産品や食料品まで買い取るといった、古くから〝動く大商店〟とも言われた存在。

 

 その思い通りにならないガットエランテが、食料品の輸出入を行うのだから、評議会にとって頭の痛い話なのは有名である。

 

 どんなに大国や評議会が、加盟しないもしくは脱退した弱小国を妨害しようとも、それをさせない傭兵商会ルヴナン。

 

 まさに、人類の敵とも言われ恐れられる存在だが、評議会に加盟しない、脱退させられた弱小国にとっては、蜘蛛の糸をも掴む存在だったのだ。

 

 しかし、この傭兵商会ルヴナンも慈善事業ではないので、契約金が支払われる限り契約者、または国や村を守るが、それが滞ったり、過度な値引きを要求したりすれば、その時点で契約破棄となり孤立する事が確定なので、そこは評議会と何ら変わる事はない。

 

 だが、評議会とは違って不平等が生じる事だけは断じてない、それだけでも大きなメリットになるのも事実だったのだ。

 

 人間の心理をついた商売は、元人間の忍びであり、今は魔物であるツキハとコハクにとって造作もない事であった。

 

 そこに現在は、魔王リムルも含まれる。

 

 これでは、同じく転生者であるマリアベル・ロッゾが出し抜かれるのも仕方ないと言えるかもしれない。

 

 一応、人間対魔物の図式だが、実質、人間対人間の戦いであるだろう。

 

 そして、このガットエランテを、傭兵商会ルヴナンと関係があると唱える評議会議員もいたが、その証拠は未だに掴めず、今では都市伝説的な話になっていた。

 

 ロッゾ一族も古くからこのガットエランテを敵対視していたが、そのロッゾ一族ですら、背後関係までには至らず、最近では西側諸国に何ら不利益を与えていないのを理由に、(なか)ば監視しながらも放置していたのだ。

 

 

 そんな評議会に、更なる頭の痛い案件が舞い降りて来たのだ。

 

 急激に西側諸国に影響を与え台頭して来た、魔王リムル率いる魔国連邦(テンペスト)である。

 

 そして、新たに興されたファルメナス王国への対応。

 

 評議会に動揺が走り、各国が騒ぎ立てたのも無理なき事だった。

 

 

 魔国連邦(テンペスト)の開国祭の後、臨時に開催された議会。

 

 その日は、大いに荒れていた。

 

 そこかしこから、声を荒げる議員達。

 

 

 そうした議会を眺める賓客として、ヒナタ・サカグチの姿もあった。

 

 魔王リムルを知る者として、参考人招致されたのだ。

 

 ヒナタとしては、断る事も出来た。

 西方聖教会は評議会の下部組織ではないからだ。

 

 だがしかし、議会で取り上げる議題を聞いて、ヒナタは参加する事を決意したのだった。

 

 さて、そんなヒナタも会議の紛糾(ふんきゅう)ぶりに辟易(へきえき)していた。

 

(無能が集まると、こうも話が進まないのね……)

 

 実際、この前参加した魔国連邦(テンペスト)の会議でも、呆れるような大物ばかりが参加していたというのに、いとも簡単に重大事項が決定されていた。

 

 その夢物語のような光景は、ヒナタにとっても信じ難いものであった。

 あの場に、番外魔王ツキハとコハクに〝暴風竜〟ヴェルドラもいたのも、そう思わせる要因だったのもある。

 

(流石にアレは例外だとしても、もっと建設的な話し合いをするべきではないのかしら?)

 

 という思いが、ヒナタの胸に(くすぶ)る。

 

 

 今目の前で繰り広げられる口論は、茶番以外の何物にも思えなかったのだ。

 

 

「あの国は信用出来ますぞ! 私としては、是非とも加盟に賛成し、仲間に迎えるべきかと考えております」

「君はそう言うがね、相手は魔王だぞ? あの〝暴風竜〟と交渉出来るそうだが、怒らせたらけしかけられるのではあるまいか? しかもだ、あの人類の怨敵、番外魔王の二人が率いる傭兵商会ルヴナンがあるのだぞ。〝暴風竜〟と番外魔王の二人を同時にけしかけられたら、それこそ西側諸国にとって最悪のケースになるのではないか?」

「いやいや、心配はいらんよ。〝虎の威を借りる狐〟のようなもので、魔王自身には大した力はないのじゃろう。だからこその傭兵商会ルヴナンであり、あの邪猫二匹を刺激しなければ、大丈夫じゃよ」

「馬鹿な! それでは、そこにおられるヒナタ殿と引き分けたのを、どう説明なされるおつもりなのか? (しか)れば、()の魔王は本人自身もそれなりの実力者だと見るべきだろうが!!」

「左様。聖騎士団長ヒナタ殿に引き分けられる魔物などそうおるまいよ。まあ、西方聖教会から〝触れざる者(アンタッチャブル)〟認定をされた番外魔王ならわかるが、ポッと出の新参魔王がヒナタ殿と引き分けたなど、信じられないのも、またわかる話ではあるがのう」

 

 という具合に、醜い意見の押し付け合いが行われていたのだった。

 

 

(馬鹿みたい。私がいるのに、よくそんな話題が出来るものね。その無神経ぶりが、逆に凄いわ)

 

 と、そう思わざる得ないヒナタであったが。

 そんな喧々諤々(けんけんがくがく)の会議の中、ほとんど発言もせず静かに静観している議員(・・)達がいた事に、気付きはしなかった。

 

 

「いいですか? 魔王リムルは、ジュラの大森林が自分の領地だと宣言したのです。しかし同時に、森の外縁部まで魔物を出さぬようにするつもりであると、開国祭にて話しておられました。この意味、途轍もなく大きいのです。各々方、よく考えて結論を出しましょうぞ」

「左様。我等の祖国では、日々魔物に怯えて民が多い。そして、独立した村々などは傭兵商会ルヴナンと契約し、魔物や盗賊などから守ってもらっておると聞き及んでいる。ならば、魔王の言葉は救いであるし、事実、魔国連邦(テンペスト)が誕生して以降、魔物による被害が減っておるのも確かなのじゃ」

「馬鹿なッ!! 貴公らは、魔王に(たぶら)かせられたのか!? それに、傭兵商会ルヴナンと契約した村など、人類に反逆しておるのと同じぞ!!」

 

 そう、現在ジュラの大森林は魔王リムルによって管理されている。

 

 ジュラの大森林に接する長大な国境線に面する、傭兵商会ルヴナンと契約をしていない国々や村などは、その恩恵を被る事となっているのだ。

 

 

 その他の脅威に晒される国々。

 

 比較的安全な、内陸部に点在する国々。

 

 立場が違えば、思惑も異なる。

 

 

 なれば、魔王リムルの統治を歓迎するのは、魔国連邦(テンペスト)に接する国々だ。

 開国祭にも参加し、魔国連邦(テンペスト)の繁栄ぶりを目の当たりにしているのだから。

 

 魔物の国であろうが、自国の利益に直結するのならば歓迎する――

 というのが、こうした国々の主張だった。

 

 それもそのはず、番外魔王ツキハとコハクの二人とは違い、魔王リムルは人類とは敵対せずに共存したいと宣言していたからである。

 

 因みに、番外魔王ツキハとコハクは、古くから、もし自分達に牙を剥けば即敵とみなし、殲滅すると公言して(はばか)らない。

 

 その証拠に、過去に二つの国が滅ぼされている事が、伝承や史実として残っているのを世界の誰もが周知している事だから。

 

 だからそんな国々を守る為に自由組合と聖騎士団(クルセイダーズ)存在し。その庇護によって魔物の被害に対応している。

 

 その庇護すらも敢えて拒む弱者国や村などが、傭兵商会ルヴナンとの契約で庇護されているのだ。

 

 こういう国などは、自由組合や聖騎士団(クルセイダーズ)庇護のもとに入るのは、(すなわ)ち、西方諸国評議会に議員がいなくとも間接的に属する事を意味するので、はなからその選択肢を捨てたといえよう。

 

 様々な思惑が交差する西方諸国評議会。

 

 少数ながらも、それを良しとしない国もあるという事である。

 

 実際は、どこの国も似たようなもので、現状の維持を考えるだけで精一杯というのが実情なのだ。

 

 

 目端の利く国ならば、魔国連邦(テンペスト)を利用しようと考え、画策する事だろう。

 意見の対立が激しく、どちらにも(くみ)するのが立場の弱い弱小国群なのだ。

 

 だがしかし、そもそも最初から魔物を信用していない国々は、開国祭への参加を見送っていた。

 

 このように、人類と魔物の対立は、リムルが思う以上に根深いものだったのだ。

 

 リムルが進む道は険しく、前途多難にも見えるが、そこはこれからのリムルの手腕にかかっている事だろう。

 

 

 まあ言うなれば、賛成する側もいれば反対する側もいる、この会議。

 

 反対する側は、魔王リムルの政策に懐疑的な立場の者達という構図だった。

 

 

 何か問題が起こった場合――矢面に立つのが自分達である。

 そう妄信するからこそ、彼等の反対は激しい。

 

 実際、現会議中に、魔国連邦(テンペスト)に面する国々を、魔王に懐柔された人類の裏切り者と叫ぶ者まで出る始末。

 

 ここまで反対派の声が激しいのは、魔国連邦(テンペスト)に傭兵商会ルヴナンが存在する事にある。

 

 今までは闇に紛れ、決して日の当たる場所に出て来なかった存在が――

 魔国連邦(テンペスト)という場所に、その姿を現した事が要因なのだ。

 

 この傭兵商会ルヴナンが、西側諸国経済圏、果ては西側諸国評議会の目の上のタンコブとして存在するからである。

 

 大国と言えど簡単には手出しが出来ない、下手に潰そうと戦争を仕掛ければ、間違いなくこちら側が潰されるであろう事を熟知しているからだ。

 

 西側諸国評議会議員の中で極一部が知る機密事項――第三次番外魔王討伐戦。

 

 聖騎士団長率いるヒナタの、第三次討番外魔王討伐隊が全滅はせずとも、一瞬で半壊させられた事実。

 この時の討伐隊の聖騎士は、ヒナタしか参加していない。

 何故なら、この番外魔王討伐を知ったルミナスが、ヒナタの参加しか認めなかったからだ。

 

 討伐など出来るハズもない無意味な戦いに、聖騎士達を投入するなど出来るハズもなく、ヒナタだけなら生き残れるであろうと信じたルミナスの判断だった。

 

 この敗北は、人類に知れれば激しい動揺と、魔物に対する更なる絶望と恐怖心が蔓延するのを恐れ、西方聖教会と西側諸国評議会の一部の者達で、極秘とする事を決めた事案であった。

 

 これを決めた背景には、ヒナタの報告の中に、『もしあの場で、番外魔王の二人が気まぐれで引かなければ。間違いなく自分も含め全滅していた』と報告したからである。

 

 これを受けて、西方聖教会が〝触れざる者(アンタッチャブル)〟認定を出したのが、この理由だったのだ。

 

 余談だが、ヒナタが一度ツキハに、何故あの時引いたのか聞いたところ。

 返って来た言葉が、『めんどくさくなったから』と聞いて、『それだけ?』と、絶句したのは言うまでもない。

 

 どちらもの素性を知るヒナタからすれば、この会議の内容など愚かな事この上ないとしか思えない。

 しかし、そうは思っても、大半の議員達は国益を守ろうと必死なのである。

 

 それがわかるからこそ、我慢をしているヒナタなのだが……。

 

 

「ふむ。認めてやれば宜しいでしょう。我々の仲間になると申すのなら、歓迎してやれば良い。しかし、土産は持参してもらうがのう」

「うむ。それが良い。争ってもファルムスの二の舞になるだけよのう。忌々しい事に、あの番外魔王の二人がいるという、厄介な国故に」

「ただし、立場は(わきま)えてもらわねばならぬ。我等の定める国際法を守る意思があるのかどうか――」

「それは問題ないようです。ミューゼ公爵が失脚した噂は御存じでしょう?」

「まあ、今更だ。知らぬ者などおるまいよ」

「そうであるな。そうそう、いっその事、番外魔王の二人もついでに呼び出してはどうか? アヤツ等に(かせ)()める事が出来るやも知れぬぞ」

「ふむう。魔王リムルと来るならば、問題を起こす事も出来まい。あの者等は契約を重んじると聞いておる。それも一興かもしれぬな」

 

 ここで問題なのは、大国に属する議員達であった。

 

 彼等は最初から、ある程度の情報を把握している。

 

 その上で、混沌とする議会を更に掻き回し、混乱をワザと助長していたのだ。

 

 その目的は、明白である。

 

 結論は既に出ており、それに到る道筋へと不自然にならぬよう誘導しているだけなのだ。

 

 

 ここでヒナタは思う。

 

(憐れなのは、小国の議員達ね。何も知らされず、選択を迫られる。それでは、自分の票を無駄に捨てるよなものなのに……。でも、傭兵商会ルヴナンの存在がここまで影響を及ぼすなんてね。本当にあの二人は、人類にとって十分脅威ではあるのはわかっているんだけども、間近に接してみるとそう感じさせないところが怖いのは事実なのよね。本当に……)

 

 無知は罪であり、正しき情報を知らぬ者は、それだけで大きな損失に繋がるのだ。

 

 そして、傭兵商会ルヴナンがここまで西側諸国評議にとって、極めて厄介なものだと改めて肌で感じ取った。

 

 ツキハとコハクと私的に交流を持つヒナタは、この会議をみていながら少し複雑な気持ちに(おちい)る。

 

 様々な思惑と欲が絡み合い、自分達の利益を追い求め議論は続く。

 

 

「魔王リムルの思惑などどうでも良い。所詮ルヴナンなど、契約上、魔王リムルの意志に反して動く事もなかろう。利用出来るか、出来ないか、それが大事なのだよ」

「その通りだ。〝東〟の動向も気になる今、魔王の戦力が味方になるのを拒む理由はあるまいて。更に、傭兵商会ルヴナンの戦力がオマケで付いて来るのだから尚更(なおさら)だ」

 

 議員の中でも重鎮の一人、ロスティア王国の公爵であるヨハン・ロスティアが、東の動きを匂わせた。

 

「〝東〟ですと? まさか、帝国が!?」

「動くというのですか? しかし、今やジュラの大森林にはヴェルドラ、が……」

「ここだけの話だが。最近ジュラの大森林に接する東の平原にある帝国との国境線で、何度も小競り合いが発生しておるのだ。恐らく、ルヴナンの傭兵との小競り合いだろうな」

「何と……」

 

 ヨハンの言葉に、議員達がざわめく

 

 そして、 会議の注意がヨハンに向けられた。

 

 

(やっと本題に入ったわね)

 

 それを聞き、ヒナタは思った。

 

 

 前置きが長過ぎるが、それが貴族というものなのだ。

 

 相手がどのような情報をどこまで掴んでいるか、互いに腹を探り合う。

 自分の優位を確信してから、初めて牙を剥くのが彼等の流儀なのだ。

 

 そう、ヨハンが今、この場を支配してみせたように。

 

「皆様も知っておろうが、東の帝国――ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国の軍部に動きがある。出入りの商人からの報告だが、ここ最近、軍事演習が盛んに行われておるそうだ。そして、その一環で、国境線を警備するルヴナンの傭兵と小競り合いが発生したのであろう。あくまでも互いに牽制し合うだけだそうだが」 

 

 続いて出たヨハンの言葉に、会場が静まり返った。

 

 この情報はヒナタも把握していた。

 コハクから東の帝国の動向の情報を、聖騎士団長として買っていたからだ。

 この情報買い取り経費は、非正式ながらルミナス経由で出ている。

 

 そして、当然ドワーフ王ガゼルも、帝国に隣接する大国として把握しているだろう。

 しかも、ルヴナンからも詳細な情報が売られて来ているのは確実だから。

 

 さて、ヒナタにとってはヨハンより先に知り得ていた情報であったが、ここに集まった大半の議員達にとっては寝耳に水であった。

 

 その衝撃は大きく、皆がヨハンの言葉を待っていた。

 

 東の帝国が動くのなら、国家としては一大事。

 少しでも多く情報を集め、自国の安全を守るべく対策を考えねばならぬからだ。

 

 常時軍を備えている大国ならまだしも、小国には平時より軍を維持する余裕はない。 

 そう、小国故に軍の規模は小さいのだ。

 

 戦時には傭兵を雇うのが主流、特に小国はそうである。

 

 だが、各国が同時に戦力備蓄を始めるのならば、人手が足りなくなるのは道理であった。

 

 だから、目端の利く国々は魔国連邦(テンペスト)にある、傭兵商会ルヴナンの下へ傭兵契約を求めて来ていたのだ。

 

 一説では、表の傭兵とは違い、少数で大人数を相手に出来ると言われているルヴナンの傭兵。

 しかし、この説には少し誤りがある。

 確かに小数で大人数を相手に出来るが、千を超える軍勢には眷属が一人ないし複数人当たるのが本当の説である。

 

 もし、万の軍勢が来たら、その時はツキハとコハクが相手にする事になるのだ。

 

 それでもルヴナンの傭兵達は、(いくさ)()け、眷属やツキハとコハク無しでも、余程の軍勢でない限り対応出来る力を持ち合わせているので、表と裏問わず、予備戦力や護衛に警備、情報の買い取りなどで契約を欲する国や村などが後を絶たないのもコレが理由である。

 

 

「皆様、落ち着かれよ。帝国が動くのは、今直ぐという訳でない。冷静に対策を論じようではないか!」

 

 良く通る声で、ヨハンが言う。

 

 ここでヒナタが思った通り、今から本題が始まるのだ。

 

 

「どうするというのかね?」

 

 一人の議員が声を上げると、それに大勢が続いていった。

 

「対策だとォ!? 一体どのような手が取れると言うのですかッ!?」

「あの忌まわしきルヴナンの傭兵を雇えと申すのかっ!? そんな事、我が国の国民が許しはしませんぞ!」

「うむ。表の傭兵も、今からではどれだけ集まるのやら……」

「ファルムス王国も今はないッ!! 防衛線を敷くにも我等小国だけではどうしようもないぞ!!」

「落ち着け! 帝国が動かぬのは、ジュラの大森林にアレがおるからぞ。それに、あの番外魔王の二人までもがアレと一緒のところにおるのだ。封印から解かれ、現実に復活したのだぞ。これこそ幸いではないか!」

「いや、待て!? あの邪竜と邪猫どもを当てにするのは……」

「だから落ち着くのじゃ! あのヴェルドラは今や、魔王リムル――陛下に飼い慣らされておるそうではないか。それに、番外魔王の二人はリムル陛下と傭兵契約を結んでおる。奴らとて、そうそう下手な動きは出来はしまい。そしてリムル陛下は、評議会への参入を希望されておるのであろう? であれば、答えは出たも同然じゃ」

 

 喧々諤々(けんけんがくがく)の議員達を一喝したのはイングラシア王国の議員、ギャバン伯爵だった。

 

 そして、ギャバンに相槌を打つように、ヨハンが続ける。

 

「ギャバン議員の言う通り。東の脅威を前にして、我等が意見を戦わせておる場合ではあるまい。魔王リムルが評議会に参加するならば、その武力もまた、我等の助けになるであろう。ルヴナンの傭兵戦力共々にな」

「お、おお……」

「それは確かに……」

 

 ヨハンの言葉に、同調する者がチラホラと出て来る。

 

 それを確かめ気を良くしたヨハンは、こうも続けた。

 

「私としては、魔国連邦(テンペスト)の加盟を承認すべきだと思う」

 

 周囲の反応を確かめるように、ヨハンは重々しく結論を口にした。

 

 

 それだけで、会場の空気が一変する。

 

 

 魔王という存在に怯えていた者達も、現実的な脅威である東の帝国の存在を思い出した。

 

 

 魔国連邦(テンペスト)は魔物の国ではあるが、人の常識が通用する交渉可能な相手である。

 傭兵商会ルヴナンも同様。

 

 

 それに対して帝国は、全てを飲み込む貧欲な敵。

 

 そう、同じ人類だからこそ、帝国との(いくさ)に敗北した場合に取られるであろう、自分達の行く末が読めるのだ。

 

 支配者階級は皆殺し――これが行われる事は間違いない。

 

 帝国は巨大な軍事国家であり、今までも多くの諸国を喰らい飲み込んで成長して来た歴史を持つ。

 

 敵国への対処は徹底しており、その事が西側諸国でも恐怖の対象になっていたのだ。

 

 

「ふむ。ヨハン議員の意見も聞くべき点があるな。ワシもその意見に賛成するとしようぞ」 

「おお、わかって下さるかギャバン議員! 他の方々でも、私の意見に賛同してくれる者がいると思う。そこで先ずは、魔国連邦(テンペスト)の加盟について決を取りたいと思うが、如何(いか)に?」

「おお、そうであるな。先ずは西側が一丸となるのが先決であろう」

「もっともな話じゃ。我等がいがみ合っておる場合ではないわい!」

 

 ヨハンの提案に、何名かの議員が同意の声を上げ、それで流れが決まる。

 

 そして、議長が「静粛に!」と声を張り上げ、ゆっくりと皆を見回した。

 

 そこから議長の進行に従い、投票が始まる。

 

 散々恐怖心を(あお)った後に、狙いすましたように同調圧力をかける。

 如何(いか)にも貴族らしい手腕であった。

 

 

(これも筋書き通りというところかしら? それにしても、本題に入ってから長かったわね……)

 

 ここまでくれば、ヨハンとギャバンが結託しているのは明らかで、しかも、それに同調するような配役の者まで紛れている。

 

 議決権を持たぬ第三者の立場であるヒナタは、冷静な視点で会議を眺めていてそれを見抜いていた。

 

 結局のところ筋書きの決まった台本通りの茶番会議で、これでようやく終わりかとヒナタは内心で安堵した。

 会議が始まって八時間も経過していて、休憩を挟んだとはいえ、肉体出来ではなく精神的な疲労感も漂い、いい加減辟易していたのだ。

 

(それにしても、くだらない質問を色々とされたわね。もっと素直に、魔王リムルが暴走しないように監視して欲しい、ついでに番外魔王の二人も監視して欲しいと頼めばいいのに――)

 

 結局、ヒナタが呼ばれたのはそれが理由であったのだ。

 

 とにかく魔王をこの地に呼び寄せる。

 知らぬ者からしたら、恐怖でしかない。

 

 しかも、話の流れからして、番外魔王の二人も呼び寄せようと画策しているのは明らかだった。

 

 故に暴れだした場合に備えて守りを固める必要があるというのが本音なのだろう。

 特に、番外魔王の二人が来るのならば。

 

 そこで、魔王リムルと引き分けた――という事になっている――ヒナタならば、評議会としては安心出来るという事なのだろう。

 

 回りくどいが、それが貴族の交渉術である。

 

 

 実際、帝国が動くというのも、単なる脅しにしか過ぎない。

 

 動くのは本当だろうが、それは単なる示滅(じめつ)行動でしかない。

 

 本格的に西側に侵攻するならば、その前に片付けねばならない障害が山程あるのだから。

 

 ジュラの大森林もそうだし、武装国家ドワルゴンもある。

 

 そして、恐らく最大の障壁はヴェルドラと同様に、本拠地も不明、持つ戦力の全貌も未だに不明の、傭兵商会ルヴナンなのだろう。

 

 国境線での小競り合いは、人知れず長年行ってきており、その小競り合いに眷属を投入して来てもいるからだ。

 

 事実、眷属やルヴナンの傭兵に、帝国の斥候部隊を何度も全滅させられている。

 

 更に魔国連邦(テンペスト)とドワルゴンが同盟を結んでいる今、迂闊に動けないのだ。

 

 

(せめて、リムルが魔王になる前に動くべきだったわね。そうすれば、あのヴェルドラも復活していなかったのだから、帝国が世界を手にする事もあったのでしょうけども……。いや、違うわね。ヴェルドラと同様に警戒していた番外魔王ツキハと番外魔王コハクの存在。この二人が持つ戦力の全貌が見えてこないのも、要因の一つかもしれないかもね)

 

 ヴェルドラの封印が解かれるのを恐れて、帝国は動けなかった。

 

 番外魔王の二人が率いる、傭兵商会ルヴナンの実態が掴めずに動けなかった。

 

 ヴェルドラの反応が消えた時も、傭兵商会ルヴナンの動向に慎重になり過ぎて、行動を起こさなかった。

 

 そして今となっては、動く機を逃してしまったのだ。

 

 

 リムルやガゼル王は、それでも東の帝国に対して警戒している。

 特にリムルは、ツキハとコハクと同じ異世界の忍びであるチヨメとカゲロウに、自国侵入を許してしまっていたのだから。

 

 

 やがて、票が開示され、賛成多数で魔国連邦(テンペスト)の評議会への加入が可決された。

 

「これによって、ジュラ・テンペスト連邦国を我等の盟友として承認するものとする。当事国であるジュラ・テンペスト連邦国へ招待状を送る事とする。尚、今回の招待には、特別に番外魔王の二人も同席する事を許可するとし、魔王リムルの評議会への参加の意思を確認して後、次回の会議を開催するものとする。以上!」

 

 議員が重々しく宣言し、長い会議は終わった。

 

 

(はあぁー。やっと終わったのね)

 

 長い溜息を静かに吐いたヒナタ。

 

(ほんとめんどくさいわ、貴族って……)

 

 次はともかく、今後は絶対に貴族と関わるのは()めようと――

 

 固く決意したヒナタだったのだ。

 

 

 





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