忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。221話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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221話 ヒナタの憂鬱

 

 

 混迷を(よそお)った茶番会議も終わり、精神的に疲れたヒナタはさっさと協会に戻ろうとしたヒナタ。

 

 

 しかし、その日の受難は終わりではなかったのだ。

 

 

「ヒナタさん、少しお時間を頂戴したい」 

 

 会議場から出て、広い廊下を歩くヒナタに声を掛けたのは、十名近い護衛に守られた、まだ若い青年だった。

 

 サラサラの金髪に爽やかな笑顔の中々の美男子ではあるが、ヒナタの趣味ではない。

 

(なに? また面倒な男が……チッ)

 

 まして今は、あの茶番に八時間も付き合い、精神的疲労感が強い苦行に耐えた後にも関わらず声を掛けられたヒナタは内心で舌打ちを漏らす。

 

 そうはいっても、この男の立場が厄介だった。

 

 評議会があるイングラシア王国の第一王子、エルリックだったのだ。

 

 流石に無礼な態度を取れば国際問題に発展する恐れがあるので、ヒナタの立場では無視出来なかった。

  

 

「何かしら? 私に何か用事でも?」

 

 ヒナタは嫌々ながらも精一杯の社交性を発揮して、エルリック王子に問い返す。

 

 それに答えるようにエルリック王子は、キザな笑みを浮かべてヒナタに答えた。

 

「実はヒナタさん、貴女にお願いしたい事があるのです」

 

(はあ?)

 

 このエルリックとは、そもそも〝さん〟付けで呼ばれるほど親しくはない。

 というか、相手の立場が立場なので、顔と名前は知っている、その程度の認識でしかないのが現状。

 

 エルリックと会話するのもコレが初めてであり、ヒナタとしては相手が王子であろうと、その馴れ馴れしさに内心で不快感を(あら)わにしたのだった。

 

 それでもその不快感を内に押し込めつつ、ヒナタはエルリックに(うなが)されるように応接室へと移り問うた。

 

「それで、お願いとは何でしょう?」

「私は、次回の会議にて魔王リムルを試そうと考えてます。そして、番外魔王コハクと番外魔王ツキハの人類に対する考えの真意を問いたいとも、考えてます」

 

(コハクとツキハの真意? 馬鹿馬鹿しい。そんなの太古から決まっているでしょうに。ってか、何でコハクとツキハも来る前提になっているのよ!?)

 

 いきなりコハクとツキハに対して、人類への考えの真意を問うと言い始めたエルリックに呆れるヒナタだが、それよりも、コハクとツキハを呼び寄せると聞いて驚き、何かを言い出そうとするもそれをグッと呑み込み、そのままエルリックの話を聞く。

 

「ふふっ。これはまだ一部上層部しか知らぬ事ですが、やはり魔王が評議会に加入するのもさることながら、特に人類の怨敵である番外魔王の二人がその魔王と傭兵契約を結んでおるのです。そうなれば、民草の不安も大きいでしょう。あの、番外魔王の二人が魔物の国に住み着いているのだから、ね」

 

 そこでエルリックは言葉を止め、ジッとヒナタの目を見詰める。

 

(チッ!)

 

 瞬間的に、イラっと来たヒナタ。

 内心で盛大に舌打ちを打つ。

 

 そうとは知らずエルリックは、会話を続けていく。

 

「であれば、魔王にもそれなりの責務と義務を負ってもらわなければなりませんし、その責務を番外魔王にも共有してもらわないといけません」

 

(はい!? 馬鹿なの? ルヴナンはリムルと契約をしているだけなのに、リムルと同じ責務の共有? これ、次回の会議で難癖付けて、加盟の条件に盛り込む魂胆ね。はあ……モノを知らぬとはこの事なのだけど、公の場であの二人を怒らせるのは本当に勘弁してもらいたいものだわ……)

 

 呆れるを通り越して、どこか達観したように思うヒナタ。

 

 そして、コハクとツキハに盛大にしっぺ返しをされたその時、どうあの二人を止めればいいのか、頭を悩ますヒナタだった。

 

 そんなヒナタを置き去りに、エルリックは言葉を続ける。

 

「それに、魔王リムルがこちらの言い分をどこまで聞いてくれるのか、それを確かめる必要があるのです。そこで、貴女の出番という訳ですよ」

 

 そう言うと、自信満々にキラリとした笑顔を見せるエルリック。

 

(ウザッ!)

 

 ヒナタ、思わず声に出しかけるも、必死にそれを抑え込み内心で声を上げ、そして――

 

「私の出番とは?」

 

 さっさと要件を言えとばかりに、エルリックに言葉を促す。

 

「――ッ!?」

 

 協力的な反応を確信していたエルリックは、ヒナタのどこか面倒そうな様子に鼻白(はなじろ)んだ、が。

 

 それでも何とか余裕がある態度を繕い、説明を始める。 

 

「そ、そうですね、説明しましょう。試すにしても、相手は魔王です。万が一、暴れられると困る訳だ。特に、番外魔王の二人は、ね。そこで、我々の警備を貴女にお願いしたいと、こういう訳です」

 

 第一王子として、常にかしずかれるのが当然だったエルリック。

 色男である自覚を持ち、どんな女性も自分の願いを断らないと思い込んでいた。

 

 だからこそエルリックは、ヒナタが引き受けるものと信じて疑わなかったのだ。

 

 エルリックの護衛達も、それが当然であるという雰囲気で成り行きを見守っていた。

 

 

 だがしかし、ヒナタは純粋に疑問に思う。

 

 何故私が従わなければいけない? と。

 

 当たり前だが、ヒナタが従う理由はどこにもない。

 

 

(はあぁ……こういう時、ツキハだったら〝うざっ〟と、一言だけ言って、グーパン一発でしょうね。考えても仕方ないのだけど。全く、そんな態度で私が頷くとでも思ってるのかしら?)

 

 何故かツキハの事が頭の中を(よぎ)り、思わず疑問を口にしてしまう。

 

「何故、でしょう?」

「何故、ですって? それは貴女の強さを認めているからです。歴代最強の聖騎士団長、神の右手にして、〝法皇直属近衛師団筆頭騎士〟である貴女の強さを! この西側諸国で、貴女に並ぶ者などいない。貴女が魔王リムルと引き分けたと噂もある。また、あの番外魔王ツキハと剣を交え、対等に戦ったとの噂もあるのです」

 

 そこまで言うとエルリックは言葉を一度区切り、ヒナタの表情を(うかが)う。

 

 エルリックが言った、リムルと引き分けたという噂は意図的に流したもの。

 

 しかし、あの時ツキハと剣を交えたという噂は、別だった。

 

(ツキハと剣を交えた事は、西方聖教会の中でも一部の神官くらいしか知らないハズだし、外部には一切流してはいなかった。全く、ルヴナンのリストにあった汚職者共は幾人か処罰したけど、まだ大半は泳がせているから、その中の誰かでしょうね。多分、アイツ等かしら?)

 

 エルリックから出た言葉、聖戦の時にツキハとヒナタが剣を交えた事を知っているのはあの場にいた者達か、後は、終わった後の報告を受けた高位の者か、その下に付く位の者にしか知らされていない。

 

 内部事情を漏らし、それで対価を得ている神官の存在は、西方聖教会に取って由々しき問題である。

 

 しかし、組織が巨大化すれば、少なからずもこういう(やから)が出て来るのは致し方ない事でもあり、早急に腐った膿は出さないと組織の腐敗化が進む事になる。 

 

 だから、その流れを追う為に敢えて大半を泳がせていたのだ。

 

(それにしても、ここまで内部情報が評議会に流れてるのも問題だわね。そろそろ、大掃除の時かしら、ね)

 

 ヒナタは少し(うつむ)き加減になり、口端に一瞬だけ冷たい笑みを浮かべた。

 

 それに、エルリックと護衛達は気付きはしなかった。

 

「だから、そんな貴女が協力してくれれば、番外魔王の二人も制し、安全に魔王リムルの本性が暴けるからですよ!」

 

 長々とヒナタを褒め(たた)えつつ、エルリックは自己陶酔したように言う。

 

 

(……ここまで世間知らずとは、呆れたものね) 

 

 流石に何言ってるんだコイツ――と、ヒナタは思った。

 

 リムルは基本的に温厚ではあるが、正真正銘の魔王である。

 

 コハクとツキハに至っては、言わずもがな。

 

 好き好んで怒らせるなど、愚の骨頂なのだ。

 

 それに、実質リムルとの勝負に負けたヒナタではリムルには勝てない。

 

 まして、本気になったコハクとツキハは、止める事すら無理であろう。

 

 もしも、魔王リムルが本気で怒ったのならば、止められるのは同じ魔王のルミナスくらいであり、後、ヒナタに思い付くのは番外魔王コハクとツキハくらいのものなのだ。

 

 

「それは止めておいた方がいいですわ。あの方は、本当に強い。次に戦ったとして、私が勝てる保証などどこにもないのです。番外魔王の二人に至っては、強さの底が知れないのですよ」

「これはまたご謙遜を。僕の前だからって、しおらしい女性のフリなどせずとも良かろうに」

 

(あ゛?)

 

 ヒナタの顔から、完全に笑みが消えた。

 

 

 エルリックの自惚れた発言に、心底気分を害してしまったのだ。

 

 

 そんなヒナタの変化に気付きもせず、愚かにもエルリックの護衛の一人が間に入る。

 

 その際立って偉そうな大男は、イングラシア王国騎士団の総団長、ライナーだ。

 

 しかもライナーは、更にヒナタの神経を逆なでる発言をかましてしまう。

 

「ハハハ、ヒナタ殿。エルリック様に惚れるのは無理はないが、今はそのような場合ではない。この俺がいれば心配は要らぬのだが、君の力が加われば間違いはなくなる。番外魔王の二人とて、伝説に過ぎぬだろうよ。傭兵商会ルヴナンの影に隠れた魔王にはなれない、所詮(しょせん)ただの小者よ。だから――」

 

 その、余りにも人を馬鹿にした物言いに、伝説ではなく史実だと理解していない事に、ヒナタは最後まで話を聞く気を完全に失ってしまう。

 

(ッ……ここまでモノを知らないとは、ある意味一周回って逆に清々しいわね)

 

「お断りします。西方聖教会及び神聖法皇国ルベリオスは、魔国連邦(テンペスト)との相互不可侵条約を結んでおりますので。番外魔王の二人に至っては、未だ〝触れざる者(アンタッチャブル)〟認定を解いていはいません。そして、これは忠告ですが……魔王リムルを怒らせるのは止めておきなさい。まして、番外魔王コハクとツキハを怒らせるなど、この世界の地図からイングラシア王国が消え失せる事になりますよ?」

「――何だと?」

「こ、この僕に命令するのか!?」

 

 断られるとは思っていなかったのか、唖然とするライナーに、エルリック。

 他の護衛の者達も、ポカーンとした表情で立ち尽くしていた。

 

 既にヒナタには、そんな二人の相手をする気など毛頭ない。

 

 もしもこれが、筋を通した上での正式な依頼であったなら、ヒナタとしても断れなかったかも知れない。

 

 評議会からの要請と考えるならば、対魔物の専門家のヒナタを呼ぶという選択は正しいからだ。

 

 

(これが正式な依頼だったら、面倒だったでしょうね)

 

 と、ヒナタは思った。

 

 

「後悔しますぞヒナタ殿! この御方、イングラシア王国騎士団の総団長であるライナー様を敵に回すおつもりか?」

「その通りです! 人類の為にも、魔王を好き勝手にさせる訳にはいかん! 評議会の暴走を許せぬのは、西方聖教会とて同じ気持ちでないのですか!?」

「そうです! 魔物の評議会加盟など、人類にとって災厄を招くだけなのですよ!!」

 

 などと、取り巻き連中が喚き始めたが、逆にヒナタは安心した。

 

(やっぱり……そういう事なのね)

 

 これは一部の者達の勝手な暴走だと、その言葉から判明したからである。

 

 

「生憎ですが、私は魔王リムルを信頼していますし、番外魔王の二人に関しては〝触れざる者〟認定が解除されない限り聖騎士団長の立場とて、勝手に事を起こせないのです。それでは失礼します」

「ひ、ヒナタ殿ッ!?」

 

 相手が馬鹿で助かったと思いつつ、ヒナタはその場を後にする。

 

 そして、最後にライナーが呼び止めようとするも、既に背を向けて歩き出したヒナタに言葉は届かなかった。

 

 

 ヒナタとしては最低限の礼節は(わきま)えたし、これなら外交問題に発展する事はないだろう。

 

 そもそも、評議会に招致されたヒナタに対して、事前連絡も入れずに交渉する方が失礼な話なのだから。

 

 相手が大国の王子である点を(かんが)みても褒められる事ではないが、ヒナタの対応は及第点ではあった。

 

 

 ただし――

 

(あの馬鹿共、まさか、リムルを怒らせるような真似を仕出かさないでしょうね。それに加えてコハクとツキハを怒らせるなんて愚行を犯すとか、流石にやらないわよ、ね?)

 

 という不安が、ヒナタの頭の中を駆け巡る。

 

 絶対に貴族とは関わるのを止めようとした矢先にこの出来事。

 

(私が計画に加わらなかったのだし、彼等も冷静になればいいのだけど……。傭兵商会ルヴナンとの全面戦争など、笑えない話になるのは勘弁だわよ……)

 

 魔王を相手にするのには、国家戦力が必要になる、それも大国の国家戦力が。

 

 少人数で事を起こそうとすれば、それこそ名のある英雄達を招集する必要があるのだ。

 

 しかし、現実的にはそんな準備を行うには時間が足りない。

 

 あらゆる策を講じても、偶発的な状況に便乗するだけでは計画の成功率など、たかが知れている。

 

 

 だが、もしも――

 

 これが、最初から計画されていたのだとしたら? そう思うヒナタだったが……。

 

 

(流石に在り得ない、か。でも、これは次回も気が抜けそうにもないわね。リムルだけならまだしも、何を考えて番外魔王の二人まで呼び出すのよ……。元戦国時代の〝忍び〟。あの者達がコハクとツキハに太刀打ち出来るとは思えないし、それにリムルもだけど。はあー、考えれば考えるだけ、頭が痛くなってくるわ。頼むから、三人を怒らせる事だけしないで欲しいものね……)

 

 と、ヒナタは憂鬱に思うのだった。

 

 

 

 そして、魔国連邦のリムルのもとに、西方諸国評議会から招待状が届いた。

 

 

 

 リグルドから招待状を手渡されたリムルは内容を確認し――

 

(……マジかよ、これ。まいったなぁ、何でアイツ等もなんだ? 考えても仕方ないか)

 

 と、半分諦め顔ですぐさまリグルドに、コハクとツキハに至急執務室へ来て欲しいと、伝言を頼んだ。

 

 

 これは、(まつりごと)の案件であり、『思念伝達』で気軽に来てくれなどは流石に非礼に当たる事なので、形式的に伝言を頼んだのである。

 

 

 暫くしてから、コハクとツキハが来た。

 

 扉をノックして開けるなり、コハクとツキハが口を開く。

 

「どうしたんやリムル? なんや急ぎの用でも出来たんか?」

「どしたの? 急ぎって、荒事?」

 

 と、いきなりの質問攻めであった。

 

 リムルは少し難しい顔をしながら、これを読んでくれないかと、招待状を差し出した。

 

 コハクが受け取り、ツキハが横から覗き込む。

 

 

 …………

 

 ……

 

 

 読み終わったのか、ツキハがくるっと(きびす)を返し、執務室から出て行こうとすると。

 

 ガシッと、コハクの左手がツキハの襟首を掴んだ。

 

 

「待ちや。どこいくねん」

「ちょっと(かわや)

「うちらに、そんなもん必要あらへん」

「いや、ほんと、ちょっと月のものが」

「そんなもん、五千年も前に転生した時になくなってもうとる」

「えと、ね? 持病の(しゃく)が、ね?――」

「シバくで? ええんやな?」

「あ、はい。治りました。あたしは元気です」

「よろしおす」

 

 目の座ったコハクがドスの効いた声で言い放ち、大人しく逃亡を諦めるツキハ。

 

 そこへリムルが苦笑い気味にツキハに話しかける。

 

「スマンなツキハ。どうやら、加盟の条件にお前達二人の同席というのが盛り込まれていたんだ」

「うん、そこは読んだ」

「まあ、そういう事だ。我慢して来てくれないか?」

「いいけど、舐めた真似されたら、斬ってもいいいよね?」

「いや、それは駄目。その時点で西側諸国と戦争になるぞ。全くお前と来たら、戦争上等は勘弁してくれよ。まあでも、あんまり舐めた真似をして来たら、ちょこっと脅すくらいならいいよ」

「ほんと?」

「ああ。でも、刃傷沙汰(にんじょうざた)だけは駄目だぞ? それは本当に我慢してくれ」

「わかった、いいよ(はあ、アイツ等エルリックの小僧を使って何しようっていうのかね。ほんと、人間はめんどくさいわぁ)」

「おお。助かるよ、ツキハ」

 

 仕方なく了承したツキハに、リムルが安堵の顔を見せた。

 

 ツキハが内心で呟いた言葉は、評議会に行けば面倒事が確実に起きる事を予見しているような言葉だった。

 

 

 こうして、次回の評議会にコハクとツキハも、リムルに同席する事となったのであった。

 

 

 

 





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