忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
喫茶店の奥の部屋で待っていたのは――
先にイングラシア王国に来ていた、ヒナタだった。
皆が軽い挨拶を交わし、大きめの丸いテーブルに着く。
リムル達が軽い雑談をしていると。
ほどなくして、それを見計らったように人数分の昼食が運ばれて来た。
ヒナタが先に来て注文していたのだ。
七人分、銀貨一枚と銅貨七十五枚の、かなり豪華な内容となっている。
とりあえず、詳しい話は腹を満たしてからとリムルが言い、皆がそれに同意すると、各々に食事を始める。
…………
……
腹も満たされ、リムルは自分と皆のコーヒーを注文した。
(やはり大人には、コーヒーの苦味が似合う。砂糖とミルクをたっぷり入れて、苦味と甘さのハーモニーが良い♪)
この時リムルは、心の声で呟いたのだが。
「それはもう、カフェオレじゃないわよ。せめてブラックならまだしも、それだけ甘くしておいて何が大人かしら。見てみなさいツキハを。コハクが半分飲んだら、自分のコーヒーを半分コハクのカップに注いで。自分のはミルクを半分以上入れて砂糖もドバドバ入れて。あれはもう、カフェオレじゃなくてコーヒー牛乳だわね。しかも、ニコニコとして飲んでるし。あそこまで吹っ切れていると、流石にツッコミを入れれないわね」
「ほっとけ。あたしはこれが好きなんよ」
と、鋭い突っ込みがヒナタから飛んで来て、ツキハはツキハはで、ブラック嫌い宣言をする。
どうやらリムルの心の声が、無意識に口をついて出て来たようだ。
「う、うるさいね君は! いいんだよ、こういうのは雰囲気で!」
「ふう、その格好もそうだけど、大人の雰囲気なんて全然ないわよ」
(うぐっ、コーヒーどころか服まで。ん? ちょっと待て……やはりそうだったのか?)
店員がリムルに見繕ったのは、ちょっとお洒落なピンク色のポンチョ風の服だったのだ。
(くそ……あの時ツキハとコハクが俺を見てニヤニヤしていたのは、これだったのかぁ……)
リムル、店員に任せておけば堅実で間違いないと思ったのを、今盛大に後悔する。
「くっそ、やはりこれは子供服だったのか!?」
「普通はさ、そこで気付くよね? 服の色が可愛いピンクなんだから」
「ぐぬっ……」
即座にツキハが突っ込む。
「せやねえ。でも似合ってるんやから、かまへんやろ。ほんま、可愛いいで。ふふっ」
「ぐぬぬっ……」
コハク追い打ちをかける。
と、そこへ。
「まあまあ、ツキハ様、コハク様。もう、宜しいでしょう? 駄目ですよ、言い過ぎは」
弄られるリムルに、シュナがやんわりと助け舟を出す。
「あい」
「へえ」
微笑むシュナの仲裁に、即座に黙るツキハとコハク。
こういう時のシュナは、怒らせると怖いのを熟知しているツキハとコハクであった。
唯一リムル以外で、番外魔王の二人に直球で物言いが出来るシュナ。
その手腕は、リムルの心の守護神とも言えるかもしれない。
「でもリムル様。その服、大変お似合いですよ!」
そして、シュナがリムルの服を褒めると、ベニマルとソウエイもそれにウンウンと
(うーむ……。俺が子供っぽいって事!? なんか、ちょっとショックかも。まあ、着心地もいいし、この服が嫌いって訳じゃないんだけどねぇ。でもさあ、そういうんじゃなくて。ダンディな俺のカッコよさが、ね?)
リムル、心の内で
そこへトドメの一撃が来る。
「可愛い感じで似合っているから、諦めなさい」
「そうそう」
「せやねえ」
ヒナタにそう断言され、ツキハとコハクも即それに追従する。
それを聞いたリムルは、肩を落とし観念してそれを受け入れた。
(あ、うん、そうだね。もう今更だよね。いいじゃん! 可愛いは正義! そう、いいんだよ!)
そんな会話をしながらリムルは本題に入るべく、キリッと真面目顔をして口を開く。
「じゃあ、雑談はここまでにして。最初に、ソウエイから報告を聞こうか」
リムルがそう言うと、場の空気がピリッと一変した。
「はい。それでは、開国祭後からのミューゼ公爵の調査から――」
ソウエイは、各地で仕入れた噂話から雑談に至るまで、重要な点だけを抜き出して話始めた。
今回の調査は、ルヴナンで学んだ諜報の手法など取り入れた、ソウエイ独自の調査である。
まず、各地での開国祭の評判は上々。
上は王侯貴族から下は農民まで、凄い勢いで話題になっていると話す。
そして、
貴族達への宣伝が功を奏し、迷宮攻略の為の挑戦者チームを結成するものもいると言う。
しかも、魔国に近い国だけではなく、遠方の国々までもが興味を持ち始めているとの事だった。
(ふむ。この調子なら、まだまだ挑戦者の数は増えそうだな)
この報告にリムルは満足した顔を浮かべ、本題に入る。
「それで、商人共の身辺調査と、ミューゼ公爵の背後関係は?」
「抜かりなく。商人達は、各々の家族構成から取引先からの商家まで、念入りに調査しました。また、この情報は正確性を取るべく、ルヴナンが持っている一部情報と照らし合わせております――」
(ほう。調査を開始する前に、
ソウエイの報告を聞きながらその成長ぶりを喜ぶリムルであったが、ルヴナンに払った諜報活動指導料金の高さに、思わず内心で苦笑いを漏らす。
「――その結果、特に怪しい人物との接触は確認されておりません。ただし、各国で商業許可を取る際に、何名かの役人を仲介していたようです。この役人の関係先を
(ん? どういう事?)
《解。個体名:ミューゼの意図するままに、商人達は動いたのでしょう》
(なるほど。なら、これ以上商人達を探っても、大した情報は得られそうもないな)
リムルの疑問に
「それで、その厄介な男は、今はどうしているんだ?」
ミューゼ公爵がどれだけ有能であろうと、ルヴナン譲りの監視を誤魔化せはしないだろう。
逆に怪しい組織と接触したり何かを企もうとすれば、こっちが先に尻尾を摘めるだろうとリムルは考えた。
だがしかし、ソウエイは驚くべき事を言う。
「死にました」
「はあ?」
いきなりの言葉に、リムルは思わず変な声を出してしまう。
「遠距離からの、何らかの攻撃によるものと推測します」
(これって……ミューゼはガストン王国の公爵であり、かなりの大物だった。そんなミューゼを暗殺? う~ん、本気で謎の組織が関与している可能性が高くなる。これが完全に〝トカゲの尻尾切り〟だとしたら、相手はかなり大きな力を持っているな)
《告。個体名:ソウエイの追尾に、気付いていた可能性があります》
(ソウエイの監視に気付く? ならば、その暗殺者は相当な手練れ。間違いなく口封じか……あるいは開国際での失敗から来る粛清か、だな。恐らくあの時点でミューゼの命運は決まっていたんだろう。これは、厄介な相手だ。さて、ルヴナンはどこまでコレの事を掴んでいるのかな。まあ、ここで答えを聞いたらソウエイの成長の妨げになるか。しかしだ、あの二人のニコニコ顔が、怖えわ)
リムルは、本気でヤバイ相手だと認識した方が良いと考える。
そして、ソウエイの報告を聞きながらツキハとコハクは、どこか怪しげな笑みを口元に浮かべていた。
「ソウエイ。お前でも気付かなかったのか?」
「ああ。目の前でミューゼが倒れるまで、何の気配も感じられなかった」
ベニマルの問いに、ソウエイが淡々と答える。
ただ、ミューゼ倒れた後に、何か破裂したような音が聞こえたと、ソウエイは付け加えた。
リムルは申し訳なさそうに報告をするソウエイに、慰めの言葉をかける。
「信じられんな。ソウエイが気配を探れなかったという事は、相手は何百メートルも離れた場所から攻撃した事になる。魔法なら魔力を感じるはずだし、
リムルは、ソウエイの言った、倒れた後に音が聞こえたという事に何か引っ掛かるものがあった。
(後から聞こえて来る、破裂したような、音? これって、遠距離からの――)
そして、リムルはある事に気付く。
「狙撃、っぽいよな?」
「狙撃?」
「何ですか、それ?」
(ああ、そうか。ベニマルやソウエイは知らないよな。シュナも疑問そうに俺を見てるし。あら? ツキハとコハクが何も聞いて来ないのは何故? こっちの世界には銃なんてないものな。でも、〝異世界人〟なら銃を持っていても不思議ではない、か)
リムルは銃の存在があるかも知れないと、考える。
「そうだな。銃、という武器だよ」
「銃、ですって? ユウキなら確か、拳銃を持っていたわよ」
「え? マジっ!?」
この世界にあるという事をヒナタから聞き驚くリムル。
「あるのか。なら、やはり狙撃かな?」
「私は詳しくはないけど、ピストルって、五十メートルも射程がなかったんじゃない?」
と、リムルとヒナタが話しているところに、コハクが口を挟んで来る。
「ちゃうで」
「「え?」」
「それな、十メートルから五十メートルが有効射程やねん。最大射程は、弾がちっこいさかい、百から二百メートルが限界やな」
「コハク。何で銃の事知ってるんだよ」
いきなり拳銃の事をスラスラと答えたコハクに、リムルが問う
「ああ、それね。うちにさ、いるんだよ」
その問いに、ツキハが答える。
「「いる?」」
「えとね、リムル」
「なんだ?」
「ちょっとここに、人を呼んでもいいかな?」
「あ、構わんぞ。ルヴナンの傭兵か?」
「そだよ」
そう言うと、ツキハは『思念伝達』で誰かと話始める。
――ねえ。今さ、暇?
え、いきなり何用って、ちょっとね、ある場所に来て銃の事説明して欲しいのよ
はい? いや? 今、喫茶店でスイーツを堪能中?
こっちも喫茶店なんだけど?
え? 今は休暇中だから、お仕事は却下する? ちょ、待って。
うーん、じゃあさ、こっちであたしがスイーツを奢ってやるから、しかも食べ放題だよぉ。
そうそう、今イングラシア王国にいるのよ。なんと、吉田さんの弟子の喫茶店だよぉ。
来る? 直ぐ行くってアンタ、休暇は? ああ、スイーツ食べ放題なら、別ね。
じゃあさ、こっちの空間座標を送るから、来れる?
そう そうそう、その座標で間違いないよ。
待ってるから、よろしくねぇ――
ここでツキハは『思念伝達』を終える。
「来るって」
「お、悪いな。わざわざ呼んでもらって(凄い男の軍人タイプだろうな、きっと)」
「いいよ、このくらい」
来ると聞き、リムルは屈強な狙撃兵を思い浮かべる。
そして、部屋の片隅に縦長の楕円空間が開くと、そこから一人の少女が現れた。
と同時に、驚いたような第一声を上げる。
「うおっ!?」
いきなり転移して来て部屋の中を見てみれば、魔王リムルに聖騎士団長ヒナタ、魔国幹部のベニマルとソウエイにシュナがいるのを見て、目をまん丸に見開く。
「ああ、と。えと、お初にお目に掛かります」
とりあえずペコリと頭を下げ、挨拶をする少女。
「じょ、女子高生!? 何で?」
現れた少女を見て、予想と違い思わず声を上げるリムル。
それを見たシュナが、にっこりと「リムル様」と声をかける。
「すまん、いきなり女子高生? が現れたものだから、ビックリしただけなんだ。うん。それだけよ?」
(なんと、女子高生スナイパーとか、アニメか漫画かよ。いいじゃん! でも、あのセーラー服って、記憶にあるような、ないような?)
意味不明な言い訳と思い出しをしつつリムルは、心の内で歓喜の声を上げる。
そしてツキハが、クスクスと笑いながらその少女の自己紹介を始めた。
「この
ツキハがコテッと首を
「違います、ツキハ様。ガンスリンガーです。っていうか、それワザとなんですか?」
「ちゃうで、リンコ。至って真面目に言ってはるから、
「筋肉言うな!」
ツキハの間違った呼称にリンコが即返し、コハクがやれやれと言った顔でツキハにトドメを刺す。
そんなところに、リムル以下皆が自己紹介を始めていく。
「そうか。俺は魔王リムルだ、よろしくな。もう知ってるだろうと思うが、元人間だ」
「俺はベニマル。よろしく」
「ソウエイ」
「よろしくお願いします。ハヤミさん」
「聖騎士団長、ヒナタ・サカグチ。私も〝転移者〟よ。しかし、貴女みたいな人がいたのは驚きだわね」
と、皆の自己紹介が終わり、ツキハが銃の事を皆に説明してもらえる? とリンコに尋ねると。
「はい」と、どこかはにかむ様な表情を浮かべそれを了承するリンコ。
「なるほど。ガンスリンガーか。ハヤミさん、それって
実際、リムルは『解析鑑定』を試みたが、リンコの
《ツキハ。『猫騙し』の解除を要請します》
『却下。あんたが解析して、どうすんだ。ダメ、プラバシイの心外だからね、それ』
《告。それはプライバシーと言います。修理しますか?》
『どこを修理するのよ。ほっとけ!』
《……》
『ねえ、ラファ。今舌打ちした?』
《気のせいです》
『したよね?』
《気のせいです》
『あんた、やっぱり感情あるんじゃない?』
《気のせいです》
『白状しろ。あるよね?』
《気のせいです》
と、ツキハが
「ツキハ様。別に良いですよ、見られたって」
「良いの? 隠すべきものは隠さないと命取りだよ?」
「はい、構いません。今はユニークスキルだけど、『
「うん、その通り」
「なら、今より私が強くなれば良いだけです」
「良く言ったリンコ。ルヴナンの傭兵ならではの言葉だ。うんうん、ちゃんと傭兵をやってて嬉しいよ、お姉さんは♪」
「フフッ。私を拾ってくれたツキハ様とコハク様の教えですもの」
リンコの返答に嬉しそうに返すツキハ。
そのリンコもどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
ツキハが権能『猫騙し』の影響を解除すると、リムルはリンコの
種族:人間
加護:
称号:シューティングスター
魔法:元素魔法 ※簡単な攻撃魔法なら使えるが、魔導カートリッジに属性魔力を込めるのと、生活魔法が主である。
技術:天牙影千流・隠形術 体術(まだ修行中の段階ではあるが、十分戦えるレベルには達している)
エクストラスキル:魔力感知 思念伝達 思考加速(現段階で千百倍までは可) 多重結界 空間操作 解析鑑定 空間移動
ユニークスキル:
権能:跳弾結界(自分を中心に、十メートル四方の不可視の正方形型結界を展開し、自分が撃った弾丸または魔弾を結界内で跳弾させ、結界内に侵入して来た物理的攻撃や攻撃魔法を迎撃する。その迎撃反応速度は刹那を超える)
弾道予測(自分に向かって撃ちだされた物理体の攻撃や、魔法、
○○銃(奥の手だから見せられないよ。ツキハより)
耐性: 物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃耐性 自然影響耐性
聖魔攻撃耐性 痛覚無効 耐熱耐冷耐性
(ほお。女の子なのに、中々にマニアックというか、うーん、攻撃的な
リムルはリンコの
それを見たリンコが、ん? という表情をリムルに向けるが、リムルは何でもないよ気にしないでくれというように、手を軽く顔の前で振る。
そこへヒナタが、拾ってくれたという言葉に反応して、リンコに尋ねて来る。
「ねえ、ハヤミさん――」
「団長さん。敬称無しで構いません。私はこの世界に来て、まだ四年しか経っていない新参者ですから。リムル陛下も幹部の皆さんも、遠慮なく呼び捨てで、ハヤミでもリンコでもお好きに呼んで下さい」
と、リンコが言うと。
「いや、俺もそのくらいだから、この世界に来てからの年数はあまり言えないんだけどな。でも、そう言うのなら、うーん、リンコちゃんと呼んででいいか?」
「ええ、構いません、リムル陛下」
「あ、えとな、同じ日本人だし、俺の事もさんでも君でも、好きに呼んでもらって構わないぞ?」
「えーと、元が私より年上の男性でしたよね?」
「ああ、そうだ」
「えーと、普通にリムルさんでも良いですか? 流石に形式的な場では陛下を付けて呼びますけど、非公式な場でならよろしいですか?」
「ハハッ。ルヴナンの傭兵にしては、中々に礼儀正しいな、それで良いよリンコちゃん」
「まあ、サンコちゃん達がアレですからね、フフッ」
リムルとリンコは顔を見合わせたまま、クスリと笑い合う。
「俺は、ベニマルで良い、リンコ」
「いや流石に幹部を呼び捨てはマズイでしょ。ベニマルさん」
「俺は好きに呼んでくれても良い」
「わかりました、ソウエイさん」
「リンコさん。私もの事もシュナと呼んで頂いても構いませんよ?」
「はい。シュナさん。でも、リンコと呼んで下さい。その方が正直、気楽なんです」
「そうですか。わかりました、リンコ。これから、宜しくお願いしますね」
「はい、宜しくですシュナさん」
と、ヒナタの問いが思わず敬称無しの呼び方を言い合う事になってしまう。
そして、ヒナタがその問いにもう一度戻して来る。
「リンコ。私の事も、好きな敬称で呼びなさい」
「はい、ヒナタさん」
「それで、さっきの問いに戻るのだけど、拾われたってのはどういう経緯からなのかしら? それと、そのセーラー服。東京にある、真京女子大学付属の女学院中等部のセーラー服じゃないかしら?」
「はい、その通りですヒナタさん。このセーラー服は、そこの制服です」
「思い出した! あそこって、めっちゃお嬢様学校じゃね? どうりでその制服を見た記憶があった訳だ」
リムルがようやくリンコのセーラー服に付いて思い出す。
「お嬢様学校って、フフッ。確かにアッチでは世間一般にそう呼ばれていたんですけど、面と向かって言われると恥ずかしいですね。それで、ちょっと殺伐とした話になりますけど、良いのかなぁ?」
そう言いながらリンコはちょっと頬を赤らめつつ、ツキハとコハクを見る。
「かましまへん。ここには、アンタの身の上話を聞いて感情を動かす者はいてへん。それがどんな内容だとしてもや」
そうキッパリと言い切るコハクを見て、リンコは黙ったまま
そしてリンコは、淡々と自分に起こった事を、リムル達に話し出していった。
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