忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。224話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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224話 ガンスリンガー(後編

 

 

 リンコはツキハとコハクの間の少し後ろに立つも、リムルが席に着くように促し、喫茶店の給仕に椅子を一つ要してもらい、そのままツキハとコハクの間に置かれた椅子に座る。

 

 ツキハが好きなものを頼んでも良いよと言い、リンコはイチゴののったショートケーキを二つとフルーツジュースを頼んだ。

 

 

 そして、もう一度ツキハとコハクを見て、二人が頷くと話始めた。

 

 

「うーん、そうですねぇ。今の歳は十七歳です。中等部に入学して三ヶ月くらい経った頃かなぁ。帰宅の為に地下鉄に乗ってたんですけど、友達二人とお喋りをしていたら、急に周囲の空間と言うか光景が歪み始めたんです。その後に、激しい眩暈に襲われて意識が遠くなって、それから、なんだろうおかしな声が頭の中に響いて来て、ユニークスキルやエクストラスキルとか、はい? それゲームの中の設定とか思ってたら。なんか森の中にいたんですよねぇ。ナニコレ状態ですよ、ホント、笑っちゃいますよね。漫画やアニメ、ラノベの設定かっちゅうのですよ」

 

 そこまで言ったら、リンコはフルーツジュースを美味しそうに飲んだ。

 

 ホッと息をつくと、話を再開する。 

 

「いきなり訳もわからず森の中でしょ? もう、パニックですよ、パニック。地下鉄の電車の中からいきなり見知らぬ森の中。とにかくどこか人がいないか森の中を走り回っていたら、何か人の気配というか、感じたんです。今思えば、魔力感知が働いたんでしょうね」

「それは、私も似たような感覚にあったわね」

「へえー、ヒナタさんも〝転移者〟でしたね。でえ、何とか人がいる道に出たんですけど。そこは舗装もされていない剥き出しの土の道で、馬車とか旅人? みたいな人がポツポツいて安心したら、みんなの着ている服がゲームのRPGに出て来るような服でしょ? それで二度ビックリですょぉ、ホントに。それで何だかパニックを通り越して、道の端に腰を下ろして……泣いていたんです。直感的にもう帰れないと、わかったんですよねぇ。だって、旅人の人が、どうしたんだいと声を掛けてきたらその言葉がスッと理解出来て、話せたんですよ? 普通におかしいじゃないですか、こんな事。そしたらそこからもう、号泣ですよ、号泣」

 

 はあっと短い溜息を付き、フルーツジュースを一口飲むリンコ。

 

 そして、年相応の表情を見せていたリンコの顔から、スッとあどけなさが消えた。

 

「もう涙も涸れはてて、ふと周りを見ると、自分が置かれている状況が嵐のように押し寄せてきました……」

 

 そう言うとリンコは一度顔を伏せ上げると、フウッと短く息を吐き話を続けていく。

 

 ひとしきり泣いた後、とりあえず教えてもらった近くの大きな村まで行こうと考えました。

 

「でも私が持っている小さなリュックには、スマフォとリップクリームに、学生手帳。後は財布に日本円で、五千八百円しかなかったんです。異世界では何も役に立たないモノばかり。途方に暮れましたよ、ホントに……」

「そうか。それは大変だったな」

「いえ、そんな」

 

 リンコの言葉にリムルが同情めいた事を言ったら、リンコは少し恥ずかしそうに笑顔を返した。 

 

 そして、次のリンコの言葉からは、信じられないような事が次々と飛び出して来たのだった。

 

「とりあえず真っ先に考えたのは、水の確保でした。それに(けもの)(さば)けるようなナイフにぃ、携帯食料みたいなもの。後は雨風を(しの)いだり暖を取る為のポンチョみたいなもの。ようは、サバイバル用具の調達を考えたんです」

「え? 十三歳でその発想って、普通はないよな?」

「あ、そうですよねぇ。年相応の考えじゃないですよね」

 

 リムルの問いにリンコはクスリと笑うと、自分の家族の事を話し始める。

 

 ()ず、自分には五つ歳上の兄がいて、その兄がアウトドアとインドア両方の趣味を持っている事。

 

 たまの連休などには、家族でキャンプに行く事が多かった。と。

 

 その時に兄から、水の確保の仕方や、火の起こし方、夜に焚火で暖を取る方法など教えてもらったと。

 

 そして、その兄がサバイバルFPSのゲームが好きで、よく二人でオンラインでプレイしていたと。

 

 更にそれが高じて、エアガンで撃ち合うサバイバルゲームまで一緒に遊んでいたと言う。

 

「へえ~。多趣味なお兄さんなんだ」

「はい。ちょっと変わった兄でしたけど、とても優しいお兄ちゃんでした」

 

 そう言いながらリンコは、少し寂し気な表情を見せたが、すぐに話を続けていった。

 

「で、田舎に住んでいるお爺ちゃんがいるんですけど、猟師の免許を持ってて、ライフルで猟をしていたんですよ。遊びにくと、よく取って来た猪や鹿を食べさせてくれたんですけど、その猪や鹿を解体するところを兄と私に見せていたんです。決して無理強いはしなかったんですけど。いつも解体する時に、お爺ちゃんが、こう言ってたんです」 

 

 そう言うとリンコは、どこかあの時の事を思い浮かべたかのような顔をする。

 

「この、取って来た猪や鹿は山の神様の贈り物だから感謝しつつ、使えるところは余すことなく使わなければならない言ってました。まだ小学生の私からは何の事かピンとこなかったんですけども。それからいつしか怖くなくなって、それを手伝うような事もしてましたね。だから、獣の解体の手順は知っていました」

「ほお。異世界にもそんな考え方をする人間もいるんだな。俺達も森で狩りをして狩って来た獲物には、感謝を捧げつつ、余すことなく骨や毛皮など、使える部分は全部使っていたからな。ちょっと懐かしい事を思い出した」

 

 ベニマルはリンコの話を聞きながら、もの思いに(ふけ)るようにその頃を懐かしんだ。

 

 リンコは運よくそれらの知識があったから、あの時生きようと思えたかも知れないと言った。

 

 そして銃の知識は、兄から教えてもらったのと、ゲーム内に出て来る銃などで知識を得たと言う。

 

 後は、ゲーム内に出て来る銃をネットで調べたりしていた、変な子でしたと、下をペロッと出して笑う。

 

 また、学校の友達ともチームを組んでFPSゲームを遊んでいたとも言った。

 

 ここでリンコは話を戻し、村に付いてからの事を話し出す。

 

「それで運よく日が暮れる前に、そこそこの大きさの村に着いたんですけど。お金がない、ほんとどうしようかと色々考えていたら、私の持っているリップクリームが売れないかなと思って、村にある何でもお金に換えてくれる換金所に行ってみたんです。そうしたら、何と、リップクリームが銀貨五枚で売れたんです。まあ、私がセーラー服を着ていたから〝異世界人〟の持ち物だとわかったからなんでしょうけども。それでその日は大きめのナイフだけ買って、村にある安宿に泊まったんです――」

 

 次の日からリンコは皮の水袋の水筒と、ポンチョと大きめの旅用のリュックを買い、その村で簡単な仕事を見つけ日銭を稼いでいたと。

 

 その時村の住人の一人の中年女性が、この界隈には奴隷商人が亜人狩や獣人狩りなどをしているから気を付けるようにと、そして一人旅の若い女性なども拉致されて奴隷として売られるから、身を守る武器は持っておきなさいと忠告をしてくれたと、リンコは言った。

 

 とは言っても、剣を買うほどのお金は持っていなかったので、もっと大きな町に行こうと決意したと。

 

 そう、冒険者ギルドがある町へと。

 

 何とかお古の小剣を雑貨屋から買い、大きな町を目指し旅をしたと。

 

 この世界に飛ばされて来てから、二ヶ月経った頃だったと言った。

 

 途中、親切な旅人や行商人が一緒に旅をしてくれたけど、どうしても一人で行かなければならない時もあったとリンコは言う。

 

「ホント、子供一人旅とか、襲ってくれと言わんばかりですよね。マジあり得ないですよ」

 

 どこか投げやりのように言うリンコ。

 

 何度も荒くれ者から付け狙われ、その度に森に逃げて、やり過ごしていたと。

 それも何故か、暗闇の森の中でも周りの景色が読み取れ、更に方角までもがわかったと。

 

「これ、『魔力感知』が働いていたんでしょうね。あの頃は、能力(スキル)の使い方など、まるでわからなかったんですよ。でも、アレが、あの時から、私のユニークスキルの使い方がわかったんです」

 

 そう言いリンコは一度目を伏せると、再び目を開け話し出す。

 

 旅を始めて二週間経った頃、ある五人組の尾行に気付いたと。

 

 付かず離れず、距離を保ちながら自分の事を見ていたと。

 

「何か異様な視線が纏わりつくよな感覚で感じたんです。そして、それを感じ始めた三日目の夜、街道から少し外れたところで野宿をしたんです。とりあえず、お爺ちゃんから教わった獣用の簡単な罠を周辺に仕掛けたんです。それで穴を掘った中に焚火を起こして、それをそのまま埋めて少し肌寒いのでその上に獣の毛皮で作られたブランケットを敷いて暖を取りながら寝てたら、うわッと一瞬声がして、すぐに起きて息を殺していると。微かに落ち葉を踏む音が聞こえて来て、暗がりの中、多分『魔力感知』の影響でしょう。その近寄りつつある者達の輪郭がぼんやりと見えたら、一人が走り出して来ました。私目掛けて――」

 

 剣を持った男がリンコを目掛けて駆けながら接近して来て、少し手前で止まり。。

 

『お前の姿は見えている。大人しくすれば命までは取らない。抵抗はするな、すれば、少々痛い目に遭ってもらう。なぁに、ポーションがあるから死にはしないさ』

 

 と、男が下卑(げびた)た声で言ったとリンコは言った。

 

「そいつら、奴隷商人だったんですよ。もう潰れてないけど、奴隷商会オルトロスの下部組織の人間だったんです。これは、後からわかった事なんですけども。そして、小剣を構えるも剣を使えるハズもないのに、もう半狂乱で小剣を振り回していたんですけど、そこはアレ、あっけなく小剣を弾き飛ばされて、殴り倒されたんですよね。普通殴ります? 少女の顔をグーパンですよ、グーパン!」

 

 少し興奮気味に吐き捨てるように言い、新しく来たフルーツジュースをグイッと一口飲む。

 

「で、倒れたあたしの喉元に剣先を突き付けたまま、男が言ったんです。『大人しくすれば、命は取らない。だがな、お前は奴隷として売られるがなあ。グハハハハ』と、いやらしく笑いながら言ったんですよ。ホントに、キモかったですよ、マジに……」

 

 そう言うと(うつむ)き、リンコはニーッと口端を薄く上げ、冷たい笑みを浮かべた。

 

(え? 何だ、雰囲気が変わった? これは……殺気か?)

 

 リンコの雰囲気がガラリと変わったのを感じ取るリムル。

 

 ベニマル達も同じように感じ、リンコを注視する。

 

 ヒナタは、皆と違う目線でリンコを見ていた。

 

 リンコは俯いたまま、静かにその時起こった事を話す。

 

「その時、頭の中に囁く声が聞こえたんです。〝武器を創作しますか? YES/NO〟と。何を言われたかなんて、まるでわからなかった。でも、私は答えたんです。はい、と。そうしたら、私の右手に、淡い光と共にコレが具現化したんです」

 

 そう言うとリンコは、椅子に掛けたリュックからそれを取り出し、ゴトリとテーブルに置いた。

 

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「ん、それって、ベレッタM92Fじゃないか?」

「はい。良くご存じですね。ゲーム内用にアレンジされたコピー銃で、火薬爆発という物理エネルギーで鉛の弾を飛ばす道具です。9mmパラベラム弾使用のマガジン弾数十五発、チャンバー(薬室)内に一発入れての総弾数十六発の銃です」

 

「これって、ユウキの持っている銃とは、ちょっと違うわね」

 

 テーブルに置かれた銃を見て、ヒナタがポソリと(つぶや)く。

 

「へえ、こんな武器があるんですね」

 

 ベニマルが興味深そうに言う。

 

「なるほど。これが使われたのなら、俺が察知出来なかったのも納得だな」

 

 ソウエイが感慨(かんがい)深く呟いた。

 

「この大きさなら、私でも扱えそうですね。でも、少し作りが複雑そうなので、作るには色々と大変そうです。ドルドさんなら、時間を掛ければ複製出来そうではありますけども」

 

 と三者三様の反応が返って来たのだが、シュナに至っては、一番物騒な銃を作るという発想になっていた。

 

 暫く皆が銃を手に取って見たりしていたところに、ヒナタが確信の一言をリンコに言った。 

 

「リンコ。その時初めて、人を殺したのね」

 

 穏やかな顔で言うも、その表情にはどこか察するものが込められていた。

 

「はい。咄嗟に銃口を向けたら、引き金を引いていました。何故引けたかはわかりません……死にたくない、奴隷になりたくない、元の世界に帰りたい……。そんな思いが頭の中でぐちゃぐちゃに駆け巡って、後は、ワ―ッワ―ッって叫び声を上げながら撃っていました。森の中に反響する火薬の炸裂音と、倒れていく男達の断末魔の叫び……それは今でも、耳に残っています、しっかりと……」

 

 膝の上に置いていた両手をグッと握りしめ、唇をキッと噛み締めるリンコ。

 

 そこへ、リンコの握りしめた両手に、コハクの手が添えられ、ポンポンと(いた)わるように柔らかく叩いた。

 

 そんなコハクの手をリンコは、そっと握り返した。

 

「全弾を撃ち尽くして、それでも私は暗闇に向かってガチッガチッと引き金を引続けていたんです。そして、不意に襲い来る静寂と、人を殺したという現実が一気に押し寄せて、気持ち悪くなって……吐いてしまいました。それはもう、ゲェゲェと。震える右手は銃を握りしめたまま開かず、腰が抜けたようにその場に座り込んでしまい、ガタガタと震えていたんです。恐怖で……」

 

 

 怖い 怖い 怖い

 

 帰りたい 元の世界に帰りたい 帰して 帰して 帰して!

 

 人を殺した 何で 何で 何で 撃てたの!?

 

 わからない わからない わからないよ!

 

 人殺し? 人を殺した? でも 死にたくはなかった だから 仕方ない?

 

 何で? どうして? 何で? どうして? 何で 私が……こんな目、に?

 

 

 そんな葛藤が自分を責め立て、どんどん精神が壊れていくのを感じたと、リンコは淡々と言った。

 

 

「完全に半狂乱でしたね、その時は。暫くして、私の目の前にツキハ様が現れたんです。いきなり何の気配も無しに、立っていたんです。普通はびっくりしますよね、でもその時は、もうここで死ぬんだなと思いました。手には全弾撃ち尽くした銃しかありませんでしたし、ユニークスキルの使い方もほぼわかってはいない状態だったし、ああ、家に帰りたいなぁとだけ、呟いたんですよ。そうしたら、いきなり日本語で、「アンタ、日ノ本の人間か?」と聞かれたんです。いきなり日本語ですよ? びっくりしますよね、ホント、もう頭の中真っ白でしたよ」

「まあ、いきなり異世界に来て日本語はビックリするよな。うん、俺でもビックリするかも知れん」

 

 リンコがそう言うと、リムルがすかさずフォローを入れる。

 

「ありがとうございます、リムルさん。で、その目の前にいた人が、可愛らしい猫亜人か猫獣人みたいな人じゃないですか、それも私よりちょっと年上くらいの。それで、はいと答えたら。死にたいか? 生きたいか? と聞かれたんです。え? 何それって思ったんですけど、選択は一つしかないので、生きたいと答えたら、「じゃあ、あたしと来な」と言われ、手を差し出されたんです。すごーく迷いましたけど、異世界では頼れる人もいないし、ましてこの先生きていけるかもわからないしで、私はその手を取ったんです。それから後はもう、いつしかルヴナンの傭兵になっていて。後からツキハ様のコハク様の正体も、二人から聞かされました。戦国時代から転生して来た〝忍び〟ってわかって。何それ!? 漫画やラノベ、アニメの世界じゃんと大笑いしましたよ。とまあ、かなり端折(はしょ)りましたけど、これが、この世界に無理やり飛ばされて来た私の身に起こった事かな」

 

 最後は、はにかむ様な表情を浮かべながら話を終えるリンコであった。

 

 すると、リムルがツキハに素朴な疑問をぶつけて来た。

 

「なあ、ツキハ」

「ん?」

「お前さ、あの時何であの場所にいたんだ?」

「ああ、それ。追ってんだよ。エルフや獣人を攫い、奴隷商に売る集団がいるってね。で、あの周辺に小さな村が一つあってさ、そこが奴隷商人の拠点の一つだったんだよ。で、そこをぶっ潰してくれと、〝ある人の依頼〟でね。それでその拠点をロモコ達が強襲して、残りの外に出ている者を追っていたら、偶然にリンコを見つけたんだよね。見た瞬間にユニークスキル持ちだとわかったし、それに、人を殺したという罪悪感に、喰われかけてたからだよ」

「ああ、そうだったな。お前達って、魂の扱い方に()けて感情すら喰う事も出来たんだっけか?」

「うん、そこは悪魔族(デーモン)と似たようなもんだね」

「じゃあ、喰ったのか? リンコちゃんの罪悪感という感情を」

 

 リムルが少し怒ったような物言いで言うと、ツキハはそれを否定した。 

 

「食べてないよ。リンコが望めば、その記憶の感情だけ食べてあげるけども、リンコはそれを望まなかった。あの時の十三歳の子供としては、良く精神を破綻させずに耐えてたと思う。何となくでも、自分が置かれている現実を理解していたからね。普通なら、人を殺した時点で気が狂ってしまってもおかしくない状況だったにも関わらず、ギリギリそうはならなかった」

「そうだな。その事に関してだが、俺の推測で済まないんだけど、この世界に来る時に魂を強化されてるんじゃなかと思うんだ。実際、俺も二万の兵を殺した時に、精神が揺るがなかったんだよな。不思議と、ね」

「そうだねぇ、意外にもそれはあるかも知れないよねぇ」

 

 リムルの推測に、ツキハも同意するように(うなづ)いた。

 

「それで、リンコちゃんに何をしたんだ?」

「〝乱波(らっぱ)の里〟に代々伝わる、〝心の(かせ)〟を外すやり方をリンコにしたんだよ。でも、前提をすっ飛ばかしてるから、精神が持ちこたえられるかどうかは、五分五分だったんだけどね」

「なあ、それってどんな方法なんだ?」

「ごめん、リムル。前にも言ったけど、これだけは教えられない。アンタの理想とする世界には、不要なものだから」

 

 ツキハは首を横に静かにふるふると振りながら、そうリムルに言った。

 

 リムルは、「そうか」とだけ返し、その場に沈黙の空気が漂って来る。

 

 そこへ、場の空気を察したリンコが

 

「まあまあ、ツキハ様。それで私の精神が崩壊することなく保たれているのは事実ですから。リムルさん、それが悪であれ何であれ、私が救われたのは本当なんです。戦力という打算があるのは、御二人から言われましたし。それを生きる為に受け入れたのも私なんです。まあでも、いきなりあっちこっちの戦場に放り込まれたのは、流石に恨み節の一つでも言いたくなりますけども」

 

 そこまで言うとリンコは、ツキハとコハクの顔を覗き込みながら、クスリと笑う。

 

 そして、スッと真面目な顔付になると、本題を切り出す。

 

「それで、銃の説明でしたね。どのような事をお知りになりたいのですか?」

 

 と、リンコがリムルに問うと、事の顛末をリムルが説明した。

 

 ……

 

 それを聞いたリンコは、何事かを呟きながら考え込む。

 

 ……

 

 ―― うーん。音がしたと言う事は、遠距離からの狙撃は、間違いないけども

 

 倒れた後に銃声、かぁ。普通ならライフルによる狙撃だよねぇ。

 

 でも、この世界では、私がいた世界の常識は通用しないしぃ。

 

 それこそ、ファンタジーみたいなモノが実現出来る、トンデモ世界な訳だし。

 

 銃声、タァーンという音ではなく、パンッという子気味(こぎみ)良い音だったと言ってるから。

 

 拳銃だよねぇ、この発砲音は。空間操作による弾道誘導とか? 

 

 能力(スキル)による狙撃なら、流石に予測はつかないなぁ、自分が狙われたなら予測がつきやすいんだけどねぇ……。

 

――

 

 結論。

 

「これ、多分ですが、通常の狙撃ではないと思います」

「その根拠は?」

 

 リンコの言葉にリムルが問い返す。

 

「うーん、私の勘なんですけども、使われたモノは拳銃だと思います。もし拳銃で暗殺するなら、サプレッサーが必要ですし、コレを使っても音が完全に消せるものではありません。でも、この世界でなら、ん? 何か音がした? くらいしか思われないですね。本当に無音に近付けるなら、22口径サブソニック弾を使えば可能ですけど、射程の問題も出てきますし。この世界で言えば、能力(スキル)による狙撃だと考えた方がいかと」

「ふむ。確かにそう考えた方が理に適ってると言えるかもな。因みに、リンコちゃんは狙撃は出来るのか?」

「はい」

 

 リムルの問いに答えたリンコは席から立つと、席の後ろに行き「うーん。ギリギリ大丈夫かな」と小さく呟きながら、内部が空間収納になっているリュックを床に置き上部チャックを開け、あるものをズルズルと引き出していった。

 

 ゴドッ 重く鈍い音が部屋に響く。

 

 高さ三メートルの天井に向け立てられたそれは――

 

 二十ミリ口径の対物ライフルであった。

 

 

 重量――約六十キロ

 

 長さ――二百五十センチ

 

 バレル長――百九十センチ

 

 魔導カートリッジ――20×102mm

 

 初速――2,000メートル

 

 最大射程――約一万メートル

 

 アクション――ボルトアクション

 

 装弾――三発着脱式ボックスマガジン

 

 

「でかっ!?」

 

 リムルは、リンコが出した馬鹿デカイものを『解析鑑定』して思わず声を上げる。

 

「これの元になった対物ライフルは、私が元いた世界のアメリカという国で作られている、〝ANZIO(アンツィオ)〟という20mm口径の対物ライフルです。そして、私の愛銃の一つ、パンツァーランツェ(戦車への槍)です。とあるサバイバルFPSゲームの中でレア中のレアアイテムだったんですよ。フフッ」

 

 リムルの驚きに気分を良くしたのか、リンコはどこか嬉しそうに言った。

 

「しかしデカイなぁ。もうライフルというより、ちょっとした大砲じゃないか?」

「ええ、弾も20mmですから。戦闘機とかの機関砲に使ってる弾と同じですからね」

「流石にそれは、オーバーキル過ぎるんじゃなくて?」

 

 リンコが出した対物ライフルを見て、ヒナタが疑問をぶつける。

 

「ええ、そうですね。この対物ライフルは、能力(スキル)を持った者用です。後は大きい魔物とか、魔王ですかね。これで普通の人間は撃ちませんよ。普段は、これを使っていますよ」

 

 サラッと怖い事を言いながらパンツァーランツェ(戦車への槍)を空間収納リュックに仕舞うと、ガチャッと二丁のライフルを出した。

 

 

 一丁は、セミオート式、12・7mm口径の対物ライフル・バレットM82A1。

 

 二丁目は、M24E1 ESR(XM200)ボルトアクション式、300ウインチェスターマグナム弾使用。

 

 

「お!? このライフルは知ってるぞ。良く映画やアニメ、漫画に出て来る定番のヤツだな」

「はい。バレットは向こうの世界では有名ですものね」

「こっちのライフルは、う~ん、見た事ないなぁ」

「このスナイパーライフルも、世界中で使用されている、アメリカ製のライフルです。日本の自衛隊も使っていますよ」

「へえ~。そうなんだ。これもゲームに出て来る銃の(たぐい)なのか?」

「はい、そうです」

「じゃあ、普段はこれで狙撃とかしてるの?」

「用途によって使い分けてますけど、(おおむ)ねその通りです、リムルさん」

「これ、触っても大丈夫?」

「ええ、お好きに触って下さい」

 

 リンコがそう答えると、皆が出されたライフルを抱えてみたり、リムルとヒナタはライフルを構えてみたりした。

 

「しかし、リムル様が元いた世界の武器は、本当に変わっていますね」

 

 ベニマルがバレットM82A1を持ちながら、そんな事を言った。

 

「まあ、向こうの世界では、非力な人間でも最強になれる凶悪な武器だったんだ。こっちではどこまで通用するかは不明だけど、リンコちゃんみたいな能力(スキル)持ちが使うと、かなり厄介な武器になるだろうな」

「確かに。弾切れはあるけれども、魔力切れはないものね。その大口径対物ライフルになると、本当にAランクオーバーの魔物すらも一撃で倒せるでしょうし、数を揃えれば脅威かもね。でもだからって、貴方の国で量産するような真似は謹んで欲しいわね」

 

 ヒナタの釘を刺しに来たような発言にリムルは、出来はするだろう、時間を掛ければ可能だろうと考えた。

 

 そこへ、リンコがちょっとした悪戯(いたずら)っ子みたいな笑みを浮かべ、一丁の銃をテーブルに置いた。

 

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「おお! これ、コルトのシングルアクションリボルバーのピースメーカーだろ?」

 

 リムルがその銃を見て感動したように言う。

 

「ええ、コルト社製のゲーム内コピー銃ですけど、これは45口径じゃなくて、44-40口径モデルの、フロンティア・シックス・シューターと呼ばれているモデルなんです」

「44-40口径? そんな口径のモデルがあったんだ」

「リムルさん、レバーアクション式のライフルって知ってますよね?」

「ああ、ウインチェスターだったか」

「そのライフルの弾が44-40口径だったんです。ピースメーカーは45口径といえば、わかりますよね?」

 

 そう言いながらリンコは、ウインチェスターM1873ライフルを取り出し、レバーをガシャッと引き、中の弾を一発取り出して、フロンティアの回転式弾倉に蓋のような役目をしている、ローディングゲートをパチッと開けて、シリンダーに一発装填した。

 

 それを見たリムルは、理解したような声を上げる。

 

「ああ、弾の互換性なのか。一発の弾で拳銃とライフルを使えて、別々の弾を持ち歩かなくて良いって事なんだな」

「はい。これ、民間向けに作られたモデルだそうです」

「へえー。俺はてっきり45口径だけだと思ってたわ」

「フフッ。シングルアーミーの方が有名ですもんね」

 

 それからリムルは、暫くフロンティアのシリンダーをチーッと音立て回したり、指でクルクルと回してガンスピンをして楽しんでいた。

 

 そして、シュナもフロンティアを触り、「これなら作りもシンプルなので、ドルドさんならすぐにでも作ってくれそうですね」と、怖い事を笑顔で言っていた。

 

 皆がリンコの出した銃を触ったりしてる中、リンコがまた一丁の銃をテーブルに置く。 

 

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 真っ赤な色をしたその銃は、明らかに他の御銃とは違う異質な雰囲気を放っていた。

 

「何だこの銃は? SFに出て来る銃みたいな?」

 

 リムルが疑問をぶつけるようにリンコに言うと。

 

「これは、SF系FPSゲームに出て来る、ビームを発射するマグナブラスターというビーム発射型リボルバー銃で。魔導カートリッジを使用する、五発装填の銃で、一発あたり二十発撃てるものです」

「ほおお。ロマン武器だな、いいなあ、その銃」

「リムル。その銃は、リンコが持つ銃の中で最強の一丁に当たるモノだよ」

 

 驚くリムルに、ツキハがニヤリとした顔で言った。

 

「なるほど。どんな性能なんだろ。リンコちゃん、教えてもらえる、みたいな?」

「リムルさんたら、そんな顔でお願いは反則ですよぉ、もう」

 

 ツキハみたく小首をコテッと傾げてお願いしてみたら、リンコが思わずププッと吹き出してしまう

 

「この銃は、ちょっとした特徴があって、魔導カートリッジに、他人の魔力を充填して撃てるんです。だから、今この魔導カートリッジには、ツキハ様の魔力が充填されてるんです」

「「「「「!?」」」」」

 

 リンコの説明に皆がギョッとした表情をする。

 

「ねえ、リンコ。もしかしてだけど、魔王にも効果があるんじゃないでしょうね?」

 

 ヒナタが怪訝(けげん)な顔してリンコに問う。

 

「そうですねぇ、旧魔王のクレイマンクラスなら、一撃で瀕死に追い込めますね。魔核に当てれば、それこそ一撃で仕留めれかなぁ、と」

 

 リンコがそう言うと、「また厄介な武器を」とヒナタがぼやき、リムルが「それってどうやって撃つの」と尋ねる。

 

 何かとこういう時に比較対象にされる、今は亡きクレイマンであった。

 

「この銃の特性として、二十発分のエネルギーを一発に集束しても、撃てるんです。まあ、その点反動ももの凄いんですけども。それに、四発撃ったらオーバーヒートして、暫く使い物にならなくなるから、普段は私の魔力を充填して使ってますね。だから、ツキハ様の魔力充填した魔導カートリッジは奥の手の一つかな」

「なるほどなぁ。そんな威力の光線をポンポン撃てたら、敵にしたら悪夢だろうしな」

 

 リターンがあればリスクがある、この世界の能力(スキル)でも決して万能ではない。

 

 だがしかし、ある一部の者達に限っては、理不尽なまでにこれを覆して来るのも、この世界の(ことわり)なのだ。

 

 

 ここでリムルが結論を出す。

 

「ま、様子見だな。使い方によれば魔法より厄介かも知れないけど、この世界の一般人に銃は必要ないな」

 

 能力(スキル)持ちじゃなくても、剣より簡単に人を殺せる兵器をこの世界に安易に広めるのは危険だと思うリムルであった。

 

「わかりました。それでは極秘扱いにして、研究に留めておきますね」

 

 シュナもリムルの意向をくみ、納得を示す。

 

《告。正しい知識のない者からすれば、目の前で射殺された者を見ても何が起きたか理解出来ません。近くにいる者が疑われる可能性が高いでしょう。個体名:リンコ・ハヤミの言った、能力(スキル)持ちの狙撃者の可能性もあると推測します》

 

(うん? 突然の智慧之王(ラファエル)さんからの忠告だが、どういう意味だ? 近くにいる者が疑われる……?)

 

 リムルは、智慧之王(ラファエル)の忠告に、思考を巡らせる。

 

(ああっ、そうか!! 俺の傍の人間が暗殺された場合、俺が疑われるって意味じゃん。会議中に俺の傍にいる者が、凶弾に倒れる。音も無い、それもいきなり、だ。そうなれば、ヒナタは俺に肩入れしているから、証言を封じてくる可能性がある。もちろん俺が否定しても、凶器は勿論見つからない。そこで、アウト。そのまま俺が犯人になるのが確定する。危ねえー。これ、大いに考えられる罠だ。この雑談をしていなければ気付かなかった。そして、リンコちゃんが言った、能力(スキル)持ちの狙撃者の可能性。下手をすれば、完全に罠に(はま)っていたかもな。まあどっちにしろ、そんな罠があるかわからないが、智慧之王(ラファエル)さんが警戒するなら、あると考えて警戒した方がいいだろう)

 

 リムルは暗殺の事について、警戒する事を決めた。

 ないかも知れないが、ないとは断言できない以上そうするべきだと考えたのだ。

 

「何にせよ、明日の会議は要注意だな」

「魔力が通った弾も撃てるというのなら、当たりさえすれば殺せるでしょうが、リンコとは違う感じがしますね」

「いや、それは油断だよ、ベニマル。リンコちゃんみたいな大口径銃を持っている可能性もある。そして、魔力を通した弾丸がある事も考慮しないといけない。それに、会議中に誰か撃たれでもしたら、真っ先に疑われるのは俺だと思うしな」

「自分もそれが心配です。会議場の周囲にも『分身体』を配置して、警戒を念入りに行いますよ」

「うむ、頼んだぞソウエイ」

「承知」

 

 ベニマルの発言に苦言を(てい)し、ソウエイの進言に(うなづ)く。

 

 更に警戒網を盤石なものにするべく、リムルはコハクに向き直る。

 

「コハク」

「なんえ?」

「緊急の依頼だ。受けてくれるか?」

「かまへんで。()うてみなはれ」

「明日の会議、ソウエイと一緒に会議場周辺の警戒を、リンコちゃんに頼みたい。理由は、銃の事に関しては、ここにいる誰よりも銃の知識が確かだからだ」

「ええやろ、その依頼受けましょ。でも、臨時の依頼やから高くなりますえ、よろしおすか?」

「構わない、助かる」

「リンコ、ご指名や。明日の会議中、ソウエイと一緒に会議場周辺の警戒に当たりなはれ」

「えええ? 私今、休暇中なんですけど。ちょっと人使いが荒くありません?」

 

(うっ。ここで拒否とは、流石ルヴナンの傭兵だな。眷属達の悪いところが移ってないか?)

 

 即拒否るリンコに、リムルは思わず内心で苦笑いを漏らす。

 

「はいはい、お手当弾んでやるさかい、四の五の言わずにやりなはれ」

「えっ!? 本当ですか、コハク様?」

「本当や。だから、明日は会議場周辺の警戒を、ソウエイと一緒にやる事を(めい)じますで」

「了解です、コハク様!」

 

 コハクに命じられると、キリッとした顔付になり、それを受けるリンコ。

 

(ほお、一気に顔付が変わるなんて、流石はルヴナンの傭兵といったところか。多分、短期間で相当修羅場を潜って来たんだろうな)

 

 一気に傭兵の雰囲気を表すリンコに感心するリムルであった。

 

「じゃあ、私はこれで帰ります。あ、そうそう、帰る前に狙撃のポジション取りに良いところを下見していきますね」

「頼むで、リンコ」

「はい、コハク様。それと、ここのお店のケーキをテイクアウトしても良いですよね、ツキハ様?」

「良いよ。好きなケーキを好きなだけ買って帰りな」

「やったー♪ それでは皆さん、明日は宜しくお願いします」

「うむ。頼むよリンコちゃん」

「はい。リムルさん」

 

 リンコは席から立ち、ペコリと頭を下げると部屋を後にする。

 

 ウキウキとするリンコが去ってひと安心してから、リムルは本題に入る。

 

 

「それで、ヒナタさん。今回、何で俺は呼ばれたの?」

 

 リムルは、明日の会議の内容を、まだ聞いてはいない。

 

 どこかで猫と一緒に竜が暴れているのではとか、突然番外魔王が出現したとかなどなどと、考えるも。

 

 そんな事はあるハズもなく、恐らくあの(・・)事だろうと予想する、リムルであったのだ。

 

 

 






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