忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。225話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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225話 馬鹿が踊る

 

 

 とりあえず、ミューゼ公爵の暗殺の件は、リンコによる説明により銃での暗殺という事に落ち着き、リムルは今回の本題に入った。

 

 そして、リムルの問いにヒナタが答える。

 

「前回の臨時会議で、魔国連邦(テンペスト)の評議会入りが承認されたわ。明日の本会議で、貴方への質疑応答で経て正式に決定されるでしょう。そして、ツキハとコハクにも、何らかの質疑応答があるでしょうね――」

「やだ。めんどい」

「なんやそれ。しょうもな」

 

 ヒナタの言葉に、即拒否感を示す二人。

 

 それをわかっていたかのようにヒナタは、やれやれと言葉を続ける。

 

「はあ、もう何でもいいけど。お願いだから刃傷沙汰だけは止めてよね。私の立場では、貴女達と剣を交えなければいけなくなる。そうすると、あちら側の思惑通りになるのよ」

「あたしが暴れると、その思惑すらも消し飛ぶぞ? 舐めた事されたら――やるよ、マジに」

「わかってるわ。貴女と剣を交えた私だから、今回だけは我慢してとお願いしてるのよ。流石にイングラシア王国が壊滅的打撃を被るのは、勘弁してもらいたいわ。それとも、リムルの思惑も消し飛ばす気かしら?」

 

 本質的に悪であるツキハとコハク。

 

 その点を理解してるヒナタは、どうにか二人が本会議の間だけでも自重してくれるように説得を試みていたのだ。

 

 そのへんを理解しているコハクが、どこか意味ありな含み笑いを浮かべつつ告げる。

 

 

「まあ、リムルの目指す道の一つやから、水を差すつもりはあらへん。ツキハもええな?」

「あいよ。よっぽどの事がなければ手は出さないよ。尻尾は出すかもだけど」

「尻尾も止めて、ツキハ。私の仕事を増やすのは許さないわよ?」

「へいへい」

「でも、そやねぇ。リムルがキレたら、うちらも一緒にキレましょかぁ。魔王と番外魔王二人がキレたら、めちゃおもろいおすえ。フフフ」

「え! 俺?」

 

 いきなり自分に振られたリムルが、人差し指で自分を指す。

 

 

「本当に頼むわよ、ツキハとコハク。そして、貴方も」

 

 頭を抱えるように言うヒナタ。

 

「あいよ」

「へえ」

「うんまあ、大丈夫だって」

 

 ヒナタに言われてめんどくさそうに返すツキハに、どこ吹く風のように言うコハク。

 そしてリムルは、俺はキレたりしないよというように返した。

 

「まあいいけど。まだ正式に発表された訳ではないから、せいぜい油断しないように。質疑応答も、魔王である貴方を怒らせるような質問が出ると思うわ。番外魔王である二人も同様ね。ツキハとコハクはともかく。貴方は策に乗せられたりしないでしょうね?」

 

 ヒナタの心情としては、リムルとツキハとコハクが、会議を台無しにするのは避けたいところなのだ。

 

 そんな事になると、魔国連邦(テンペスト)を支持する立場にある神聖法皇国ルベリオスに迷惑が掛かるのは確実。

 

 更に、ツキハとコハクが暴れれば、〝神敵認定〟をせざるを得ない状況に追い込まれる為、それはルミナスも望んではいない。

 

 何故なら、本気になったツキハとコハクの恐ろしさを身をもって体現したのだから。

 だから、ルミナスは二人を〝触れざる者〟認定にし、他国が容易に手を出せない状況を作り出していたのである。

 

 ルヴナンが抱える戦力の全貌(ぜんぼう)が見えぬ以上、二人を怒らせるのは愚策だと判断した所以(ゆえん)なのだ。 

 

 ヒナタはそれを心配して、リムルとツキハとコハクに注意するのを優先したのであった。

 

 

「心配し過ぎだな。俺は君と違って、社交性のある大人だったからね」

「は? 喧嘩売ってるのなら買うわよ?」

「あ、いや、そういう訳ではないです……」

 

 ヒナタからギロッと睨まれて、怒らせるのは非常に不味いと察したリムルは、そのまま黙ってやり過ごす。

 

「リムルって、案外あたしよりキレやすかったりしてね」

「せやねぇ。意外に激情なところあるさかいなぁ」

「お前等、何でトドメを刺しに来るんだよ。俺はお前達より温厚で、本当に平和主義者なんだぞ?」

「そうなの?」

「せやろか?」

「えーと、うん、多分そう、だよ?」

 

 必殺ツキハ系疑問返しで、首をコテッと(かし)げるリムル。

 

「ふ~ん」

「まあ、そういう事にしときましょ」

 

 そこへ、クスクスと笑いながら突っ込みを入れるツキハとコハクである。

 

 今ここで言い返したら、更なる突っ込みが入るのを悟ったリムルは、コホンと一つ咳払いをして流れを変えて行った。

 

「ま、確かに。仰々(ぎょうぎょう)しく国賓で呼ばれたから、俺達に何らかの頼み、いや、頼み事という強制を押し付けるんじゃないかと心配になったのは事実だな。ソウエイも色々と調べていたんだろ?」

「はい、情報自体は掴んでおります。それと――」

 

 ここでソウエイは言葉を濁し、コハクの方をチラリと見る。

 

 ソウエイの言いたい事を察したコハクは、それを了承するかの如く静かに頷く。

 

「ここ、イングラシア王国を探る諜報員、ルヴナンの眷属であるヤトコ(八十番)殿から幾つか情報も買い、それらを照らし合わせて各国の王族の思惑と、その部下達の考えを……」

「それに関しては後でまた、詳しい報告を頼むね」

「承知しました、リムル様」

 

(うんうん。ちゃんと調査経費の使い方を学んで来てるね。やっぱり、ルヴナンとの合同調査とそれらを見て感じて学ぶ形式は良かったな。中々に良い傾向だ) 

 

 ソウエイの調査行動に満足して、内心で嬉しそうにほくそ笑む。

 

 そして、そこで話が終わりと思いきや、ソウエイがある事を口にする。

 

「――ですが一つ、ヒナタ殿に聞きたい事が」

「何かしら?」

 

 ソウエイは、ルヴナンと同じように配下の者達を各地に派遣し、色々と調査を始めている。

 

 その範囲はまだまだ広くはないが、徐々にその範囲を広げて来ているのも事実。

 

 実際リムルも、知りたい事の大半はソウエイに聞くようになっていた。

 

 ただし、西側諸国を牛耳る影の委員会を探るのは骨が折れる案件であり、そこはルヴナンに頼らざるを得ないところもあった。

 

 これに関しては、時間を掛けて行わなければならず、どんな能力(スキル)持ちでも限界がある。

 

 そう、経験を得て何が真実か、何が疑わしいかを学ばなければならい。

 

 ソウエイ達は今それを学び、次の段階へと至る道に差し掛かっていると言えるだろう。

 

 

 ツキハとコハク、魔物の〝忍び〟としてルヴナンを立ち上げて以来、幾千年。

 その間に張り巡らされた、表と裏の情報網はとてつもない規模になっている。

 

 

 いくらソウエイが優れていても、この差は埋まらない。 

 

 

 しかし、〝藍闇衆(クラヤミ)〟がルヴナンに次ぐ諜報組織へと変貌しつつあるのも確か。

 

 短期間でここまで至るのも、ソウエイの実力が恐ろしいまでに諜報というモノに適合したのかもしれない。

 

 そんなソウエイだからこそ、調べていく内に何か気になるのものを感じたのだろう。

 

「各国の大臣の中には、我が国を利用しようと考えている者共がいるようです。これはルヴナンから得た情報とも合致しており、そうした者達が口にしていたのが――」

「もしかして、あなた達を東の帝国に対する防衛戦力に加え、その最も最前線に〝傭兵商会ルヴナン〟の戦力を配備させるという話しかしら?」

「流石ですね。その通りですよ、ヒナタ殿」

 

 ソウエイが全てを言い切る前に、ヒナタが正解を口にした。

 

 そう、ヒナタとしても状況を把握しており、評議会の不穏な動きに気付いていたのだ。

 

「戦争が始まる前から助けて欲しいとか、そんな話なのか? だったら、俺達に助ける義務があるのはブルムンドだけだ。違うか? それに、傭兵商会ルヴナンを無償で動かそうなんて、そいつらは正気なのか?」

 

 ベニマルもベニマルなりに状況を分析し、ソウエイが心配し過ぎだと笑った。

 

 だが、その意見は正しくも、それ以前の問題に発展しつつあったのだ。

 

 そんなヒナタは、先の展開を見通していた。

 

 そして、リムルも同じ結論に至っていた。

 

 リムルの場合は智慧之王(ラファエル)からの予測であり、かなり信用度が高かった。

 

 それを裏付ける事をコハクから、『思念伝達』で受け取っていたからだ。

 

 リムルはそれを確かめる為に、答え合わせするように口を開く。

 

「ベニマルの言う通り、条約があるのはブルムンド王国だけだ。それ以前に、帝国に関しては心配する必要はないよ」

「理由をお聞きしても宜しいですか?」

 

 かなり心配していたのか、ソウエイがリムルに問う。

 

「うん。先ず重要なのは、帝国の立場になって考える事だね。帝国が西側諸国を攻めようとした場合、どういう戦略が立てられるのか――」

 

 ここでリムルは、考えられる帝国の戦略を語っていく。

 

 

 帝国が戦争を仕掛ける場合、侵攻ルートの選定が重要になる。

 

 ジュラの大森林を通る侵攻ルート。 

 

 武装国家ドワルゴンがある、カナート大山脈を越えていく険しい登山道。

 もしくは、深い渓谷に挟まれるルートを通るか。

 

 最後に海路。

 

 リムル達が街道整備を行う前の、旧来の貿易ルートと同じである。

 

 帝国遠征軍の規模にもよるが、どのルートを通るにしても問題があった。

 

 

 特に海路は難易度が高い。

 

 距離的には、今は無き旧ファルムス王国に直通。

 

 沿岸部はまだいいが、近海区域まで出るとそこは大海獣の棲家となる。

 Aランクオーバーの凶悪な魔物の巣であり、大船団を組んで航行したとしても安全は保障はされないとても危険な海域なのだ。

 

 例を一つ上げれば、あの美味しく食した槍頭鎧魚(スピアトロ)は海中を六十ノット――

 つまり秒速三十メートルで水中を泳ぐ事が出来て、時速に換算すれば111.12キロメートル。

 その速度で船体に突撃し、大穴を穿(うが)つ化け物である。

 

 だがしかし、大海獣の中ではスピアトロでさえ小物。

 

 大海獣のほとんどは知能が低いが、中には高い知能を誇る希少種もいる。

 

 これらは総じて、自分のテリトリーを侵す者への攻撃本能はかなり激しいのだ。

 

 大きい物は十メートルを超える物から、最大三十メートルを超す魔鯨(マゲイ)までいる。

 

 そんな大海獣が体当たりをすれば、どんな軍艦でも大ダメージを喰らう事は間違いないだろう。

 

 そうすると、安全な海路を知る商人しか、海を渡ろとは考えない。

 

 

 では、登山道だが――カナート大山脈には、竜の巣と呼ばれる魔境が存在する。

 

 通常、商人の一行くらいならば目溢(めこぼ)しされる。

 

 しかし、それが大規模な団体とすれば、その団体の接近は竜の逆鱗に触れる事になる。

 相手は人間ではないので、あらゆる交渉が一切通じない。

 敵対行為であると認識、または誤認された時点で終わりである。

 

 誇り高き竜王(ドラゴンロード)に率いられた竜族から狙われれば、西側諸国と戦う前に戦力を大幅に削られてしまう。

 

 それに、時期的にも真夏の短い期間しか通行は出来ない。

 深い雪に閉ざされた極寒の山地は、魔法があったとしても生存が困難であり、自然の難攻不落の要塞と化してしまうのだ。

 

 だから、このルートも、普通の戦略家なら避けて通るだろう。

 

 

 となれば、最終的にジュラの大森林を通るルートしか残らない。

 

 

 だが、しかし。

 

「ジュラの大森林は、魔王である俺の領地だ。それ以前に、ヴェルドラがいるし、千年以上前からルヴナンの傭兵が東とジュラの大森林の国境線である東の平原で小競り合いを今も続けている。ヴェルドラが封印されている間は、この――」

 

 と、言い掛けて、リムルはツキハとコハクを見る。

 

「ヒナタ、これは他言無用だよ」

 

 ツキハがヒナタに告げた。

 

「ええ、承知したわ」

 

 そう言われてヒナタはそれを了承し、リムルは話を続けていく。

 

「この、国境線で小競り合いをしてる傭兵の部隊は、ツキハ直属の部隊、〝月光(ゲッコウ)〟が帝国軍のちょっかいを防いでいたんだ。帝国軍もルヴナンの戦力を把握出来ない以上、迂闊に攻められない。しかしだ、帝国の〝忍び〟であるチヨメが俺の国に潜入して来たのを考えれば、キナ臭い事は間違いないけども。恐らく帝国は、ヴェルドラの復活を確かめたかったのかも知れないと思う」

「そうだぜ。ヴェルドラ様の復活を大々的に宣伝した上、ルヴナンもいるから、帝国も迂闊に動けなくなった。だから、あの〝忍びの女〟を差し向けたんだろうさ」

 

 ベニマルがリムルの言葉に呼応するかのように言う。

 

 昔からヴェルドラを恐れ、ルヴナンを警戒する帝国。

 ある意味、帝国は慎重になり過ぎたとも言える。

 

 これがもし、ヴェルドラ復活前に帝国が行動を起こしていれば、ルヴナンも参戦する未曽有の大戦になり、その被害は東と西側諸国全土に壊滅的な被害をもたらしていただろう。

 

 そうなれば、魔国連邦(テンペスト)になる前のリムル達に、全滅しかねない被害が及んでいたかも知れない。

 

 だが今となっては、ヴェルドラと番外魔王のツキハとコハクがいる。

 

(そうだ。これこそが、智慧之王(ラファエル)さんが心配ないと断定する理由だったよな)

 

《告。断定ではなく、予測です。状況は日々変化します。新しい情報を得たのなら、それを取り入れて想定し直す必要があるでしょう》

 

(心配性だね、智慧之王(ラファエル)さんも。とは言っても、言ってる事は正論だし、思い込みで行動する事自体、後でとんでもない落とし穴に嵌るハメになるかも知れん)

 

 と、リムルは智慧之王(ラファエル)の告げた事を肯定した。

 

「帝国が不気味なのは事実です。しかし、使い魔にした影魔(シャドー)を差し向けたのですが、役には立たず。自分も出来る限りで本格的な調査に乗り出すべきなのではと考えておりました。ただ……」

 

 ソウエイは今、西側諸国の調査で手一杯。

 配下の藍闇衆(クラヤミ)も、それぞれが任務を与えられた状態。

 

 出来るのは下位の妖魔である影魔(シャドー)を放つ程度である。

 Dランクの魔物だが、『影移動』と『思念伝達』が扱える、偵察には最適な魔物だった。

 

 しかしながら、低級の魔物では帝国を守る『結界』を破れなかったのだ。

 

 それもそのはず、ツキハとコハクでさえこの『結界』を突破出来なかったのだから。

 

 進化したソウエイは、自分の『分身体』を同時に六体までは出せる。

 一度だけ、ツキハに忠告されながらも、帝国領に侵入しようとした。

 だがしかし、侵入してから直ぐに察知され、知覚する暇もなく『分身体』を殺されてしまう。

 

 それがどんな攻撃かもわからずに、一瞬で殺されたのである。

 

 (のち)に、この事をツキハに話したところ、〝帝国の忍〟び、(すなわ)ち チヨメかカゲロウの仕業か、もしくは帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)近衛騎士(ロイヤルナイト)の上位者だろうと。

 

 だからソウエイは、直接帝国を調査するのを断念せざるを得なかった。 

 

 そもそも、『分身体』はソウエイの切り札でもあり、常に危険な任務を請け負ってくれる。

 もしもの時の戦闘時に、一定数は残しておく必要もあるし、無駄に帝国に差し向けても結果は見えているので、悩んでいたのも事実だったのだ。

 

(確かに。東の帝国領潜入はリスクが高過ぎる。ツキハとコハクでさえ潜入出来ない以上、これ以上のリスクは負えない、か。ここは、ルヴナンの情報を上手く活用して、慎重にいかないとな……) 

 

 とりあえず、リムルは現段階での帝国の動向を深く探るのは危険だと考えた。

 

 そして、ルヴナンからもたらされる帝国の情報は長年に渡り蓄積されたものであり、信憑性(しんぴょうせい)が高いのも理解していたリムルだった。

 

「帝国の動向は、実はそこまで重要視されていないのよ。魔国連邦(テンペスト)を加盟させる大義名分として、一部の者達が吹聴していただけ。ルヴナンの傭兵と小競り合いを繰り返してるのも、議会は把握はしているみたいだし。それが、ツキハ直属の部隊とは流石に知らないけれど。でも、ソウエイ殿がそこまで気になるというのなら、私の方でも調査してみるわ」

 

(おお、ヒナタも智慧之王(ラファエル)さんと同様に、自分の考えを過信しないタイプなんだな。用心深いとは知ってたけど、それを目の当たりにすると、感心させられるな。俺も慎重に行動するとしよう)

 

 ヒナタが独自の調査を申し出てくれ、それに伴いリムルもまた、気を引き締めるのだった。

 

《告。武装国家ドワルゴンの内部の情報をコハクから聞き出して下さい。地下都市内部での軍事行動が可能かどうかの確認もお願いします》

『ん? 智慧之王(ラファエル)さんが直接コハクに聞けばいいんじゃないか?』

《告。この件は主様(マスター)が聞いた方が宜しいかと》

『俺ねぇ。ああ、そういう事か。わかった、そうしよう。話の流れである程度の情報は引き出せれるかもな』

 

 智慧の王(ラファエル)が意図したのは、直接聞くと対価の要求が発生するのは避けられないと判断し、ある程度の情報が得られれば、予測が付くと考えたのだ。

 

 中々に抜け目がない智慧之王(ラファエル)である。

 

「なあ、コハク」 

「なんえ?」

「ドワーフ王国の構造ってわかるか?」

「へえ。カナート大山脈にある地下大洞窟を利用改造した都どすな。抜け道から、今は使われていない洞窟道まで網羅してるで」

「なるほど……そういう可能性もあるのね。やっぱり貴方って、抜けてるように見えて油断ならないわね」

「は、ははは。そうだろう?」

「わかったわ。ドワーフ王国の件も含めて、こちらで調査してみるわよ。コハク。ドワーフ王国の内部構造の情報を売ってくれるかしら?」

「毎度、と()うところやけど。あそこのなら、あんさんが独自に調べてもそないに手間は掛からへんやろから、ロハでええで」

「そう。ありがとう、コハク」

「へえ」

 

 コハクは何とも言えないような顔で返し、リムルをチロリと見た。

 

(うっ、何か感づかれてる?)

 

『ラファエル。アンタ、この場の雰囲気を利用しはったな? 全く油断ならへんなぁ』

《意味不明》

『アンタがうちに直接聞かへんかった理由は、わかってますねん』

《気のせいです。意味不明》

『もうよろし。今度やったら、マジもんでリムルに請求しますで? おぼえときやぁ』

《……》

 

 もう、お約束のようになりつつある智慧之王(ラファエル)とのやり取りである。

 

 それからリムル達は、もう少し念入りに話し合った。

 

 昼下がりの喫茶店で、気軽に国家機密ばりの重要事項を語り合う。

 

 もっとも、コハクが密談を他愛もない話に変化する『言語暗号化結界』を展開し、他人にはリムル達の会話は和やかな世間話にしか聞こえない。

 

 これもツキハの権能『猫騙し』の効果を利用して、コハクが開発した術式だった。

 

 それからも暫く、ヒナタから色々と説明を受けた。

 

 軍事だけに留まらず、リムル達を利用しようと企む者は多いのだと。

 

 そして、ヒナタはツキハとコハクに、貴女達もそれには気付いているのでしょう? と尋ね、二人はそれに(うなづ)く。

 

(本当に、人間は疑い深い。元人間だから、俺にはわかる。そして、ツキハとコハクも俺以上にわかっている)

 

 ヒナタの説明を聞きながら、リムルは元の世界の人間も、こちらの世界の人間も同じだなと思った。

 

 だからこそ、ヒナタの言い分にリムルは頷けるのだ。

 

「いいわね? 貴方達を利用しようとする者もいるみたいだから、決して相手の思惑に乗ったりしないように。ツキハとコハクは、決して騒ぎを起こさない事。そして、敢えて乗って楽しまないように」

「あいよ」

「へえ」

「何だそれ? 俺達が利用されるのか?」

「そうなんじゃね?」

「せやろねえ?」

 

 リムルの疑問にツキハとコハクが含み笑いを浮かべながら言った。

 

「そうね、軍事的には利用されるでしょうね。それ自体は、私も望んでいるし、貴方達にとっても思惑通りなのでしょう? もっとも、ツキハとコハクは別の思惑があるみたいだけど」

「ないよ」

「あらへんで」

 

 ヒナタの言葉に、にこやかに否定を返す二人。

 

 評議会に加盟する条件に、魔国連邦(テンペスト)にジュラの大森林の管理を丸投げするつもりだとも、ヒナタは言った。

 

 その理由は、帝国に対する防波堤にもなるので、各国からの要望でもあるらしい。

 

「問題ないな。もともと、街道沿いには魔物を寄せ付けないようにしてるんだし。大森林の生態系を壊さないように管理をするつもりだからな。それの効果で迷宮攻略者が増えるだろうし。確かに俺達が望んだ事だ」

「甘く考えない事ね。私達は実際に体験しているのだけど、各国の首脳部はかなり狡猾よ? 魔物の被害を抑える為に、自国への駐留まで狙っているかも。特に、ルヴナンの傭兵派遣を狙っているみたいよ。あそこは、人間の傭兵もいるからね」

 

 本来ならば、他国の戦力を自国に逗留(とうりゅう)させるのは抵抗があるものである。

 

 だがしかし、魔物という人類共通の敵がいるこの世界では、可能な限り自国の戦力を温存しておきたいと考えるものなのだと。

 

 西方聖教会の神殿騎士団(テンプルナイツ)がそうであるように、他国の戦力すらも利用しようと考える国は多いのだ。

 

 

《案。ならば逆に、戦力を派遣して恩を売るという策もあります。ルヴナンの傭兵派遣ならば、初めは安く、定着した頃合いを見計り、派遣料の値段を吊り上げる策もあるでしょう》

 

(そうだな。ルヴナンの傭兵派遣を俺が口を利いた事にする事も出来る訳だ。国として認められた上に、堂々と他国に戦力を派遣する事も出来る。そうなると、何かあった時には軍事力を背景として、睨みを利かせやすくなるしね。俺の祖国もそんな感じだったしな)

 

「ほほぅ。なるほど、ねぇ。いいんじゃないかな、それ。利用されちゃおうか? 更に、ルヴナンの傭兵派遣を俺が口を利いた事にして、最初は安く、そして段々と派遣料を吊り上げていけばいいんじゃないか? 俺達はそこから手数料頂く。ルヴナンも俺達も、ウィンウィンじゃね?」

「リムル。あんさん、中々にえぐい事考えはりますなぁ、ええ、悪党になりますえ。うちが、悪の道を手解(てほど)きしてあげましょかぁ?」

「それ、あたしらが普段やってる事の一つなんだよね、金を持ってる国限定だけど。ククッ」

「まあ、相手が俺達を利用してるつもりになるのが気に食わないが、ね。でも、ルヴナンの真似をしてみるのも、面白いでしょうね」

「実質は、我が国が影響力を持つ訳ですね? それに、ルヴナンの用いる手段もかなり狡猾(こうかつ)ですから、相手は内側から喰い破られてしまう羽目になるでしょう」

 

 リムルがニヤリと笑うと、ツキハとコハクが薄い笑みを口端に浮かべ、ベニマルとソウエイはリムルの意図を即座に理解した。

 

 そして、シュナは笑顔のままで文句を言わないところを見ると、リムルの意見に賛成なのだろう。

 

「悪い顔をしてるわよ? 貴方達」

 

 呆れたように言うヒナタ。

 

 しかしヒナタは、それ以上は何も言わなかった。

 つまり、黙認するつもりだろう。

 

 こうして、話し合いは終わった。

 

 ヒナタは去り際に、思い出したようにリムルに告げる。

 

「そうそう。〝何か企んでいる馬鹿共〟がいるみたいだから、用心を怠らないようにね?」

 

 絶対に怒って暴れたりしないようにと、特にツキハとコハクは念入りに注意をされた。

 

 その時、ツキハが(うつむ)きニィッと軽く口角を上げ、誰にも聞こえないように囁いた。

 

 

 〝馬鹿が、踊るか〟と。

 

 

 ヒナタは聞き取れなかったが、ギョッとしてツキハの顔を見たが。

 その時には既に、気怠そうな顔に戻っていた。

 

「ツキハ、頼むわよ」

「何が?」

「貴女……。とにかく、明日は暴れるのだけは厳禁よ」

「わかってるよ、ヒナタ」

 

 心配そうに言うヒナタにツキハは、ニコニコとした顔で返した。

 

 

 そんなヒナタを見たリムルは、心配し過ぎだとヒナタに言い。

 

 

 ヒナタとリムル達は別れたのであった。

 

 

 

 

 






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