忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。226話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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226話 狐と狸の化かし合い

 

 

 一晩立ち、本会議当日の朝。

 

 

 リムル達は会場の開催場所へと向かう。

 

 

 リムル、ベニマル、ソウエイ、シュナ。

 

 そして、ツキハ、コハク。

 

 因みに、ソウエイは本会議に参加しない予定だったのだが、リムルの(めい)により急遽参加になった。

 この参加したソウエイは、『分身体』を外に配置しており、『分身体』はリンコと一緒に本会議場警戒に当たっている。

 

 リンコは、本会議が行われる建物を見渡せる三階建ての建物の屋根にいた。

 その建物は、西方聖教会のイングラシア支部であり、緩やかな三角屋根であったので、その屋根の真ん中に座り本会議場を視界に納めていた。

 

 この聖教会の屋根に上る許可は事前にヒナタに願い出ていて許可を得ている。

 

 その距離、約千メートル。

 使用するライフルは、サプレッサー付きM24E1 ESR(XM200)ボルトアクション式狙撃ライフルである。

 装弾数は、ボックスマガジン式十発装填で、薬室内に一発装填の総弾数十一発。

 

 今回、権能『無音(サイレンサー)』は使わない。

 この権能は意外な使い方があり、その恐ろしさは後の〝大戦〟でわかる事になる。

 

 屋根の真ん中に腰を下ろしたリンコは左膝を立てて、その膝の上に左腕の肘を置き。

 ライフルに装填されたボックスマガジンより前の銃身を掴むように構えていた。

 

「さぁてさて、どんな狙撃者が現れるのかなぁ。そろそろ始まる時間だから、『跳弾結界』を展開しておこうかなっと」

 

 そう言うとリンコは、一辺が十メートル四方の不可視の結界を展開すると。

 

 ショルダーホルスターの左側からグロッグ17を引き抜き、結界右側面に向かってパンパンパンパンパンッと五発撃つ。

  

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 そして、右側のホルスターにはマガジンが二つ入っていた。

 

 撃たれた弾丸はリンコを中心に、対象者を守るように結界内を超音速で跳ね回る。

 

 リンコはゆっくりと数回深呼吸をし、自身の気配を周りに同化していき、心拍数も限界まで落として気配を隠す。

 

 目を瞑ったまま自身の魔力感知を最大限に働かせ周囲の気配を探っていく。 

 

 今のリンコはまるで屋根と一体化したかのように置物と化す。

 

 これでリンコの準備は整った。

 後は、狙撃者が現れるのを待つだけ。

 

 

 会場に入ったリムル達は、全員がスーツでビシッと決めていた。

 

 (なお)、ツキハとコハクは紫の通常丈の牡丹の花が刺繍された小袖に、白色の半幅帯。

 そして、薄桃色の羽織。

 足には白足袋(しろたび)を履き、礼装用の草履(ぞうり)を履く。

 羽織の背中には、真の紋章ではなく、アッカンベーをした猫の紋章が刺繍されていた。

 

 これがツキハとコハクの要人と会う時の礼装である。

 

 ここで武器はどうしたかというと、リムルは『胃袋』の中に保管していた。

 ベニマル、ソウエイ、シュナも、『簡易空間収納』に各々が隠していた。

 ツキハとコハクは、言わずもがな。

 

 これで全員一見すると、武器を携帯しているようには見えないだろう。

 

 リムルは気を引き締めながら会場入りを果たした。

 

 ベニマル、ソウエイ、シュナも表情に変化はないが、密かに周囲を警戒する。

 

 ツキハは、どこかめんどくさそうないつもの表情で、コハクはニコニコと微笑んだ表情をしていた。

 

 

 リムル達が会場に着くなり、数名の議員が足早に近づき挨拶をした。

 

 この者達は、コハクからの『思念伝達』で皆に魔国連邦(テンペスト)近隣の者だと告げられる。

 

 どうやら開国祭に参加した者から話を聞き、リムルと(よしみ)を結びたいと考えているそうだった。

 

 リムルは今後の事も考えて、愛想よく対応していると相手も安心したのか、笑顔を見せるようになっていた。

 

 更には、番外魔王の二人を始めて見たのか、興味深そうにツキハとコハクのところにも近寄って来る。

 

「わはははは。リムル陛下は魔王だと聞いておったのですが、気さくな方ではありませんか!」

「今後とも是非に、仲良くして頂きたいものです」

「いやいや、こちらこそ。これからもちょくちょくイベントを考えていますので、興味があれば是非とも参加して下さい!」

 

 開国祭の時は、まだ恐れられている感じだったリムル。

 

 しかし今は、かなり親しげに話しかけられている。

 これも、日頃からリグルドやミョルマイル達が頑張っているお陰だろう。

 

 そんな感じに気を良くしたリムル。

 

「ほうほう。この御二方が番外魔王であらせられますか。何とも可愛らしいお嬢さんではありませぬか。是非我が国とも傭兵契約を結んで欲しいものですな」

「人類の怨敵と言われた番外魔王の御二人が、このような麗しき獣魔人であるとは、誠に史実は奇なり」

「へえ、おおきに。もし、商談のお話しがありますのなら、是非、魔国連邦(テンペスト)内のルヴナン〝支店(実は本店)〟におこしやす。今なら、初見様の特別サービスしますえ」

「おお、何ともお優しいお言葉」

「そうですな。使いの者を明日にでも、そちらに出しましょう」

 

(うわあ、ちゃっかり商売を始めているわ、コハク。油断も隙もねえ)

 

 早速商談を始めるコハクを見てリムルは、商魂たくましいなと思うのであった。

 

 そこへ、楽しげなリムルの気分を最悪にする者達がやって来る。

 

 

「ウォッホン! 君達、リムル殿と番外魔王の御二人が困っておるぞ。見るべきものがないような小国の代表風情が、長々と話し込むではないわ!」

「いやはや、まったくですな。礼節を知らぬ者が多いと、リムル殿が評議会に対して誤解をしてしまわれます。分を弁えて、さっさと去るがいい」

 

 いきなり現れた偉そうな態度の議員が、リムルやコハクと話していた議員達を追い払ったのだ。

 

(はい?)

 

 商談を邪魔されたコハクの尻尾が左右にブンブンと振れる。

 

(おい、やめろ! コハクを刺激するんじゃねえ!)

 

 不快感を思い切り尻尾に表すコハクを見て、リムルは内心で警戒の声を上げる。

 

(礼節を知らぬのはどっちだよ! いかん、いかんいかん。ここは、グッと我慢我慢)

 

 流石にリムルも怒り心頭になりかけるも、頭の中を冷静に保つ。

 

 そこへ、ソウエイが『思念伝達』でリムルに告げて来た。

 やって来たのが、それなりの規模の国の者達だと。

 

 評議会議員は平等というのが建前だが、それは必ずしも守れてはいない。

 

 その証拠に、後から来た者達はそれが当然という顔をして悪びれる素振りもない。

 

 そこには確かに、身分の上下関係が存在していたのである。

 

 

「やあやあリムル殿、それにコハク殿。あのような者共とでは、建設的な話など出来ますまい」

「どうも。それで、建設的と言いますと?」

「相変わらずあんさんらは、遠回しに言わはりますなぁ」

 

 リムルはどうにも意味が掴めず、コハクは若干呆れたように言った。

 

「これはしたり。遠回しな言い方では、リムル殿には伝わりませぬか? コハク殿は古くから生きておる故、よくご存知ですな」

「ハハハ、さもありなん。リムル殿には、貴族としての作法など無縁でありましょうからな。今後はワシらが教えて差し上げましょうぞ」

 

(うわ、なにこの上から目線。うっ……コハクの目が笑ってねえ。ツキハは、あ、欠伸(あくび)を噛み締めてやがる。しかし、この後から来た議員達、これが素なのか? ツキハじゃないけど、めんどくせー)

 

 やたら偉そうに笑られるも、態度があまりにも自然な振る舞いだったから、悪意があるのかないのかわからないリムルだった。

 

 そうリムルが思っていると、次なる言葉が議員から飛び出す。

 

「ところで、リムル殿。何やら色々と、面白い品を作っておられるとか?」

「左様。何でも、〝魔導列車〟なるものの運用を考えておられるとか? 我が国でも、その商品を取り扱って差し上げても構いませぬぞ?」

「おう、その事よ。我等も同様じゃ。協力してやっても宜しい。無論、それ相応の見返りは――おっと、これ以上は野暮ですな」

 

(あ、うん。開いた口が塞がらないとは、この事か? スゲエな、ツキハとコハクは。こんなヤツラをいつも相手にしているのか……。しかしな、無礼ってレベルじゃねえぞ!)

 

 リムル、内心で憤慨(ふんがい)してしまう。

 

 どうやら、下出に出たのが失敗だったようだ。

 

 だが、ここは相手の土俵。

 

 リムルは喉まで出かかった言葉を飲み込み、笑顔を崩さない。

 

 柔軟に対応しないと、面倒になりかねない。

 

 事実、ツキハは我関せずモードに突入していて、コハクは微笑みを絶やしてはいない。

 

 ヒナタに大見得を切った手前、こんなところでリムルは起こる訳にはいかないのだから。

 

「〝魔導列車〟は、軌道(レール)を引かねば運用出来ません。それに、敷設(ふせつ)工事する順番は決まっていますので、どんなに頼まれても無理なんです」

「ああ、そんな細かい事など気にせずとも良い。我が国には話を通しておくので、優先して商品を納入して下されば宜しい」

 

(コイツらぁ、実物を見ていないものだから、思いっ切り勘違いしているな。そもそも、〝魔導列車〟がどういうものかわかっていないから、話が通じねえ。しかも、こちらの都合などお構いなしに、一方的に要求を突き付けて来やがる。ほんと、どうしてくれようか……うーぬ、我慢、我慢だ。ツキハ、怒らねえかなあ……)

 

 リムルが社交辞令を交えつつ、どうにかやんわり断りを入れるも議員の声は止まない。

 

 そして、ツキハが怒る事を期待するような、不穏な事を考え始めてしまうリムルだが。

 

「いやいや! ですから、それには順番が――」

 

 と、内心ウンザリしながら断ろうとするが、議員達の要求は留まる事を知らなかった。

 

「ならば、違う商品でも構わん。武器や防具を買い付けるゆえ、早急に手配して下され。無論、礼を忘れては困りますぞ」

 

 この、今リムルに話しかけている人物、ラキア公国代表のヒゲ面伯爵。

 

 暗に賄賂を要求するなど、リムルが魔王である事を忘れているような振る舞い。

 ベニマル達の雰囲気が、ピリピリしたものに変わり始めていた。

 

 そして、この伯爵はあろう事かコハクにまで一方的な要求を突き付けて来たのだ。

 

「そうそう。傭兵商会ルヴナンとも契約を結ぶゆえ、近日中にでもルヴナンの使者を我が国に送って下され。出来れば、人間の使者をお願いしますぞ」

「へえ……」

 

(おい、ヒゲオッサン! 相手が番外魔王だとわかっててそれ言うか!?)

 

 コハクの右眉がピクンと跳ねたのを見たリムルが、内心で叫ぶ。

 

 ベニマル達もヤバいと思ったのか、コハクよりツキハの方を見てしまう。

 

「くあ~っ。ウ~ハヨオワレ~」

 

 ツキハは、コハクの後ろで隠しもせず欠伸(あくび)をかまし、何事か小さく呟いていた。

 

 とりあえず、この場の状況にまるで関心を示してはいないのを確認したリムル達は、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 ジュラの大森林に接する国は、常に魔物の脅威に晒されている。

 リムルがジュラの大森林を治めてからは、それも軽減され始めてはいるが、以前は大変だったのだ。

 

 だからこそ、傭兵商会ルヴナンと契約を結ぶ小国や村などが多かったのである。

 

 しかし、内陸部に位置する国々になると、平和と安寧を享受していた。

 

 そうであるから内陸部の国々は、ジュラの大森林隣接国より富んでおり、魔王を驚異だと感じていないのかも知れないの、だが……今の状況は酷いと言わざるを得ない。

 

 そこへ、更にリムルの気分を害する言葉が飛び出て来た。

 

「それにしても、あのミョルマイルという者にはどういう教育をしておるのですかな? 役人に申し付けて取引させようとしたのだが、のらりくらりと返事を寄越さぬそうだ。違う者に窓口を代えられぬのかね?」

 

(はあ!?) 

 

 リムルは額に小さな青筋を浮かべ、うるせえよ!と怒鳴りたいのを我慢しながら、ミョルマイルがこんな者達を毎度相手にしていたかと思うと、途端に怒りを鎮めてしまう。

 

 とそこへ、コハクが伯爵の隣に近付き、右手をそっと握りにこやかに喋りかけた。

 

「まあまあ、伯爵はん。そないに言わんでも宜しやおまへんか」

「ん? おおう、コハク殿。いや何、これからの貴族の付き合い方を教えるまでの始めとして、苦言を呈したまで。貴殿なら、古き魔物ゆえわかるであろう?」

「せやねぇ。あんさん――」

 

 そう言いながら、伯爵の手を優しく下方向に引っ張り姿勢を下げさせたコハクは、誰にも聞こえないよう伯爵の耳元で何事かを囁いた。

 

 ……アレ、イツモオサカンオスナァ。デモナァ、エライケッタイナ、セイヘキトヲオモチドスナ

 ……ナ、ナンデソノコトヲ

 ……フフ、ウチヲ、ダレヤトオモテマスネン

 ……ウ、ウム。コノコトハ、ナイミツニ、タノム

 ……アンマリオイタガスギルト、ヨカラヌウワサガ、ヒロガルコトニナルオスエ、ハクシャクハン

 ……ア、アア、ワカッタ。ココハヒク、ダカラ――

 ……サヨカ。ホナ、ワルサモホドホドニシトキナハレ

 

 そう言い終わるとコハクは、他の議員達のところへ行き同じように耳元で何事かを囁いて回る。

 

 そして、コハクから何かを言われた議員達は、どこかバツの悪そうな表情を浮かべながらコハクを見て、皆一応に口を(つぐ)んだ。

 

『リムル。あのオヤジ共は黙らせたから、安心しよし』

『え? お前、アイツらに何言ったの?』

『言うもなんも、ただ、変わった性癖してはるなぁと、()うただけどすえ』

『うっ。性癖って、そこまで調べてるんかよ。お前らって、ほんと怖いわ。絶対に敵に回したくねえ』

『ふふっ。ああいう(やから)は、大抵良からぬ趣味を持ってるもんやで。特に、権力と富を手に入れたモンはな』

『出所はと、聞くのは野暮だな。まあ、そういう話は元いた世界でも、聞いた事があるよ』

『ほな、そういう事や。後は上手くやりなはれ』

 

 『思念伝達』でリムルに話しかけたコハクは、そこで『思念伝達』を終える。

 

 それでも、リムルに何か言いたげな議員達を見てリムルは。

 

「何はともあれ、善処します」

 

 と、笑顔を振りまき、そう言った。

 

 これは、物事を正しく対処する――という意味であると同時に、何時までにという期限を設けない事で、実際には何もしないという意味にもなる。

 

 その場を誤魔化しつつ、話そのものを無かった事にする作戦であった。

 

 リムルの言葉を聞いた議員達の顔が、パッと明るくなった。

 

「おお、頼もしいお言葉!」

「期待しておりますぞ」

「それでは、我等はこれにて」

「商品の件も何時までも協力するゆえ、遠慮なく申されよ」

「今後ともよしなに頼みますぞ」

 

 善処という言葉にコロッと騙され、議員達はその場から去って行った。

 

「ああ、そうですね。その時はお願いしますね」

 

 一応の社交辞令で返し、議員達を見送るリムル。

 

「相変わらず大半の貴族どもはうるさいし、偉そうだねぇ」

「ほんまやねぇ。でも、あれでいて狡猾な者もいるんやから、始末が悪いねん」

 

 去って行く議員達を見ながら、ジト目でツキハとコハクが小声で吐き捨てる。

 

「そうだな。欲しければ、そっちから買いに来いって話だ」

 

 リムルも二人の言葉に同意するように小さく言った。

 

 

 とりあえず、無礼千万な議員達を何とかあしらったリムル達は、会場内に入った。

 

 

 扇型に広がる椅子。

 

 リムル達が座っているのは、本来なら議長が座る場所である。

 要するに、扇の付け根部分にあたり、皆の視線が集中する形になっていたのだ。

 

 机が一つと、椅子が三つ。

 

 本来なら一つなのだが、これは番外魔王の二人に対しての椅子の用意だった。

 

 真ん中にリムルが座り、右にコハク、左にツキハが座った。

 

 ベニマル達は、立ったままリムルの後ろに控える。

 

 そして司会役の議長は、安全な二階席の真ん中に席を移していた。

 

 安全というのは、リムルとツキハとコハクに対してである。

 

 特に、番外魔王の二人を招いたゆえの警戒なのだろう。

 

 しかしながら、ツキハとコハクをこの場に招いた事が既に積み状態なのだが、よほど平和ボケしているのか、自分達が用意した策に自信があるかのどちらかなのだろう。

 

 議会としては、番外魔王の二人が暴力に訴えて暴れてもらった方が都合が良い訳で、魔国連邦(テンペスト)(おとし)め、議会側が制御しやすくなると考えたのかも知れない。

 

 ただし、リムルが人類とは敵対しないと公言はしているので、舐めてかかっている事は間違いないのだろう。

 

 

 そして、本会議が議長の開催宣言により始まった。

 

 

 ()ず、会議の流れだが――

 

 魔国連邦(テンペスト)側が西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)に加盟するにあたり、様々な条件が提示された。

 

 

 その一、国際法の遵守。

 

 その二、経済圏の開放。

 

 その三。軍事力の提供。

 

 その四、契約中の傭兵商会ルヴナンの傭兵戦力を一部提供する事を、番外魔王に要請する事。

 

 その五、魔国連邦(テンペスト)と契約中である傭兵商会ルヴナンは、人類に対して信用の証として全戦力を早急に開示する事。

 

 

 要求されたのは、大きく分けてこの五つ。

 

 リムルとしては、その一は問題はなかった。

 

 加盟国ならば、その大小に関係なく遵守する義務を負うからだ。

 とはいっても、評議会には他国の国内法まで関与する権限はないので、問題はなかったのだ。

 

 ここで、もし国家間の問題に発展した場合だが。  

 

 この国際法に従って裁判が行われる事になる。

 

 国際司法裁判に出向き、第三国を交えた裁判が行われるが――

 これも評議会の役割だったりするのだ。

 

 これにあたり、公平さを保つ為には、魔国連邦(テンペスト)で制定している法律を公開しておく必要がある。

 

 新しく国を興して日が浅い為にこれが問題だったのだが、そんな時の頼れる智慧之王(ラファエル)

 

 各国の法律を全て網羅し、わかりやすく完璧に要点を押さえて、魔国連邦(テンペスト)の法案を作成したのだ。

 

 これは既に提出済である。

 

 

 次に、経済圏の開放についてだが。

 これは多少問題があった

 

 特許という概念が存在しないこの世界では、真似た者勝ちな風習がある。

 

 そもそもそれ以前に、文明が発達し過ぎると、〝天の軍勢〟百万体の天使族(エンジェル)が空から襲来して、完膚なきまでに発達した文明の街を破壊し尽くすのだ。

 

 だから、西側諸国では電気やガスなどはなく、蒸気機関すらもない。

 

 では、それが不便かというと。 

 

 魔法が異常に発達し、魔法や魔道具などがそれらを代替えしてるので、なんら問題はなかったりもする。

 

 それに、服飾関係などは日本のものと遜色ないレベルだった。

 

 食料品については、鮮度の高い食料品の流通はまるで駄目だが、食料の保存に関しては優れている。

 

 建築技術などに関しては、魔法を駆使した高度な技術が編み出されていた。

 城などの目立つ建造物は魔法技術を使っているので、現代日本の建築後技術では再現不可能なレベルである。

 

 とまあ、こんな感じで衣食住は満たされていたのだ。

 都市部などは意外に快適なのである。

   

 では、何が問題なのかというと。

 

 

 それは、開国祭で発表された技術を盗もうと各国の密偵達が暗躍を始めた事だ。

 

 いや、まだ盗もうと暗躍するのなら防止策はいくらでもある。

 

 

 彼等の場合はもっと(たち)が悪いのだ。

 

 

 魔国連邦(テンペスト)と取引をするという名目で軌道(レール)の敷設工事を優先するように各国が主張をしているのだから。

 

 

「先ずは我が国、ラキア公国へ!」

「何を勝手な!? リムル殿、我がザームンド共和国こそ、魔国連邦(テンペスト)の盟友たるに相応しき国ですぞ!!」

「いやいや。魔国連邦(テンペスト)に比較的近い我がレッティン王国こそ優先されるべき!」

 

 とこんな感じで、言いたい放題を始めてしまう。

 

 それに、この軌道(レール)敷設工事の費用も魔国連邦(テンペスト)に全額負担させる気満々であったから始末が悪い。

 

 喧々諤々(けんけんごうごう)の会議場内。

 

 そこへ。

 

「鎮まれ! 鎮まれい! 今は各国の主張を聞く時ではない。リムル陛下も困惑されておられるではないか!!」

 

 白いヒゲをたくわえた議長が騒ぎ立てる議員達を一喝し、場は静寂を取り戻す。 

 

 ここで既に、リムル達を便利屋のように利用しよと画策し始めているのは明白だった。

 

 この時点で憂鬱になったリムルだが、会議は始まったばかりである。

 ツキハなどはもう飽きていて、着物姿のまま足を組もうとしてコハクから(にら)まれる始末。

 

 そして、後は軍事力とルヴナンについてだが。

 

 魔国側の軍事力提供については、要検討だった。

 

 これに関してはヒナタから忠告を受けていたので、リムルはソウエイの情報とルヴナンからの情報と照らし合わせ、向こうが利用したい事実の裏取りを終え、リムル側としても逆に利用したいのは同じだと結論を出した。

 

 ジュラの大森林の管理を魔国連邦(テンペスト)に一任するというのは、リムル達に魔物対策を任せるという事であり、そこは問題はなかった。

 

 何故なら、その方がリムルとしては都合が良かったのである。

 

 ヒナタとの打ち合わせでも、ジュラの大森林の防衛はリムル達とルヴナンが担い、不毛の大地方面の防衛を聖騎士団(クルセイダーズ)が担う事になっていた。

 

 これに関する費用は全て魔国連邦(テンペスト)が負担するので、評議会としては納得の案件だろう。

 

 何より、円滑な経済活動を行うには、世界情勢が安定しているのが望ましいからだ。

 

 そして最後のルヴナンの戦力派遣要請なのだが、これはいくら契約主であれ無理だと言わざるを得ない。

 更に、ルヴナンの戦力を明らかにするなどツキハとコハクが了承するはずもなく、これは明らかに嫌がらせだろうと思われる。

 

 この件に関してリムルは、ルヴナンの案件を断った時点でそれに代わる代案が提示され、それを飲まざるを得ない状況に持っていかれるかもと考えた。

 

 まあ、こうなったらこうなったでリムルはとことん評議会を利用してやろうと内心ほくそ笑む。

 

 実際、ジュラの大森林から出て来る魔物が減ったとしても、突発的に発生する魔物は防ぎようがない。

 

 また、空から襲来する危険な魔物もいる訳で、国としては防衛費をケチる事が出来ない。

 それをカバーするのが傭兵契約のルヴナンなのだが、ルヴナンは無作為には依頼を受けない事は周知の事実だった。

 

 それに、魔物を発見してから自由組合に発注する流れでは、被害を未然に防ぐ事など出来はしない。

 

 では、西方聖教会を国教に定めている国々などは、聖騎士団(クルセイダーズ)が巡回を行っていた。

 しかし、彼等の数は無限ではない。

 

 広大な範囲を転々としており、肝心な時に不在となる事も多々あったのだ。

 

 

 そこでリムル達の出番である。

 

 

 各国は魔国連邦(テンペスト)と傭兵商会ルヴナンに防衛費を支払い、リムル達は良いように利用される事になる訳なのだが。

 

 だが同時に、国防を魔国連邦(テンペスト)と傭兵商会ルヴナンに頼る事になる訳で、各国はリムル達を無視出来なくなるという筋書きである。

 

 この事は、リムルが事前にコハクと話し合い、お互いに利益を折半するという事で合意に至っていた。

 

 いくらリムル達でも、評議会加盟国の国々全部の防衛を見る事は出来ない、だからコハクにこの案を持ち込んだのである。

 

 ジュラの大森林周辺の数々の小国などは密かにルヴナンと契約しているのはリムルも既に周知していたので、リムルの目的としては内陸部の国々が本命であり、そこに魔国連邦(テンペスト)の軍を派遣する事を目論んでいたのだ。

 

 そう、リムルはルヴナンのやり方をそのまま模倣する事にしたのである。

 国防という名目に、〝藍闇衆(クラヤミ)〟の密偵を大手を振って送り込む事が出来るのだから。

 

 内側から相手の実状を把握して、最後にはこちら側の制御下に置く。

 

 古くから傭兵商会ルヴナンが行って来た手法の一つである。

 

 

 そして、リムル達はリムル達で力を誇示し、強大な軍事力を背景として西側諸国への影響力を強める事が出来る訳なのだ。

 

 魔国連邦(テンペスト)としては金も入る上に影響力も強まり、傭兵商会ルヴナンには純粋に契約国が増え大儲け、これこそ一石二鳥の作戦である。

 

 

 それに、もしも本当に帝国が攻めて来た場合、魔国連邦(テンペスト)は幸か不幸か、帝国の侵攻ルートに位置している。

 

 どうせ戦いになるのなら、背後を纏め上げた方が良いのは当然とリムルは考えた。

 

 これを成立させるには、戦争しても絶対に勝てないと思わせるほどの絶対的な戦力差が必要となる。 

 そうでなければ、国防を他国に委ねるなど語の骨頂に過ぎないからだ。

 

 旧ファルムス王国を事実上解体し、西側諸国にその存在を大きく知らしめた魔国連邦(テンペスト)

 

 かたや、古くから傭兵派遣という商いを生業とし、ルヴナンの最大戦力というツキハとコハク。

 そして、千体の眷属達。

 実態がわからぬとも、ここと戦争をしようとは、西側諸国に属する国は思わない。

 

 何故なら、ツキハとコハクだけで過去に二つ小国を滅ぼしているのだから。

 

 そんな傭兵商会ルヴナンと契約し、協力関係にあるという事を西側諸国に知らしめる事もリムルの目的であった。

 

 ルヴナンに対する人類が抱く絶対的な恐怖を武器に、リムルはこれらを絵に描いたのだ。

 

 新参国の魔国連邦(テンペスト)として、あと一つインパクトが欲しかった。

 

 だからリムルは、虎の威を借りてると言われようともルヴナンを利用する事にした。

 魔国連邦(テンペスト)の戦力とルヴナンの戦力が合わされば大国といえど、無理難題を言えなくなる。

 

 そこが狙いだったのだ。

 

 小事は捨て大事を拾う。

 

 ちっぽけなプライドなど、捨ててしまえばいい、リムルはそう判断しこれを立案した。

 (まつり)は綺麗事では決して行えないのだからと、リムルは腹に決めていたのだ。

 

 

 だから、 魔国連邦(テンペスト)と傭兵商会ルヴナンを利用する――相手にそう思わせる事が出来たのなら、この策は成功したも同然なのだった。

 

 リムルはこれから訪れるであろう魔国連邦(テンペスト)の未来を思い描き口端に薄く笑みを浮かべ、議長の説明を聞いていた。

 

 

 さながら〝狐と狸の化かし合い〟のようなこの会議。

 

 

 混迷を極めながらも続いて行くのだった。

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

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