忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。228話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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228話 愚者は踊り出す

 

 

 議会場に入って来た大男が開口一番、大声で吠える。

 

 

「おうおう、威勢がいいな。お前さんが魔王を名乗る馬鹿か。それに、この二匹が番外魔王だと? 何の冗談だ? まるでガキじゃねえか。しかも、魔王はお供三人だけとか、人類舐めてませんかねえ」

 

 入って来るなりこれである。

 

 大男の笑みは下卑たもので、完全にリムル達を見下していた。

 

 最早(もはや)、礼を失するというレベルではない。

 

 完全に喧嘩を売っており、言い訳など不可能な状態。

 

 これにはリムル、ベニマル、ソウエイ、シュナも唖然となり、思わず顔を見合わせる。

 

 ツキハとコハクに至っては、既に呆れ顔全開でジト目になっていた。

 

 

(ええ? 何だコレ……)

 

 リムルは『思念伝達』で、ツキハとコハクに一応聞いてみた。

 

『なあ、これが敵の策略なのか?』

『ちゃうやろ。ホンマの馬鹿や』

『ホント、あまりにも馬鹿過ぎてさぁ、もう帰ってもいい?』

『いやあ、もしかして、何か凄い深謀遠慮と、か――』

 

《解。この男にはそのようなものはない、と推測します》

 

『んなもん、あらへん』

『ある訳ないじゃん。あったら、あたしの全財産をリムルにあげるわ』

『おおう! 巨万の富が俺のものに! は、ならないよなあ……。あの男、見た目通りだし』

 

 リムルが言った言葉に智慧之王(ラファエル)が即否定し、コハクとツキハが後に続き。

 

 ツキハが全財産をあげると言った事に、一瞬だけ喜んだリムルであった。

 

 『思念伝達』を切ったリムルは、念の為に一応この大男に確認をする。

 

 後で勘違いでしたでは済まないので、大男の真意を問う事にした。

 

「あのう……俺も一応、魔王を名乗っているリムルという者なのですが、どなたかと人違いとかされてはいませんよね? それにですね、ガキと言われた二人ですが、正真正銘の番外魔王なんですけど、それも猫違いとかではありませんよね?」

 

 リムルが問う間にシュナの笑顔は完全に消え、ベニマルも余りの怒りに固まり、ソウエイは隠し持った刀を取り出しそうな気配だった。

 

(流石に俺だって腹立たしいが、何か一周回って笑えてきたわ) 

 

 そのお陰かリムルは、冷静さを保ったままそう問いかける事が出来たのだ。

 

 しかし、その結果は何とも空しい結果に終わる。

 

「おう、お前で間違いねーな。馬鹿の名前は確か、リムルと言ってたぜ。それにガキ二匹は、番外魔王なんだろう? 番外とか笑わせるじゃねーか」

 

(おう、間違いないらしい。それにしても、ツキハとコハクをガキ呼ばわりとは、正気かコイツ?)

 

 と、大男の言葉を聞きながら、もう()っちゃっても問題なくね? と、物騒な事を考え始めるリムル。

 

 

 そして、短く溜息を吐くとリムルは――

 

「おい、お前。いい加減にしろよ? 何が目的か知らないが、目撃者が大勢いるこの公共の場で。そんな無法な行為が許されるのか?」 

 

(まあ、机を蹴り飛ばした俺がいう事じゃないんだけども。それはそれ、これはこれだ。ここは法律を盾にして、コイツを追い払うとしよう。そうしないと、マジで()っちゃいそうだし。あ? ツキハとコハクの瞳孔が大きくまん丸になってる。猫って怒ったり興奮したりすると、瞳孔が大きくまん丸になるんだよねぇ。しかも、表情が抜け落ちててスゲエ不気味なんですけど……。もう、この二人、いつ暴れ出してもおかしくない状態だよね。でもその前に、ベニマルあたりが暴走しそうで怖いんだけど)

 

 ツキハとコハクやベニマル達が不穏な空気を巻き散らし始め、逆にどんどん冷静になり始めるリムル。

 

 

 だがしかし、その大男は(なお)も馬鹿げた発言をかます。

 

 

「馬鹿め! これはチャンスなんだよ。お前を痛めつけてこれを嵌めれば、お前達を魔物を言いなりに出来るだろうがッ!! 番外魔王の二匹も、同様だあッ!!」 

 

(え? 何て?) 

 

 リムル、流石にこの発言に素で困惑する。

 

(俺とツキハとコハクを、痛めつけて? 言いなりにする? マジで言ってんのコイツ? どうにも理解が出来ない、コイツの言ってる事は……俺が馬鹿になったのか――)

 

《解。この大男(バカ)は、主様(マスター)と、ツキハとコハクに勝利し、言いなりにすると申してます》

 

(うん、そうだよね。わかっているんだよ、そんな事)

 

 智慧之王(ラファエル)に正論で説明され、スン、となるリムルであった。

 

 そして、いきり倒す大男が手に持っているモノは、ミリムが操られたフリをした時に見た魔宝道具(アーティファクト)支配の宝珠(オーブ・オブ・ドミネイト)だった。

 

(アレ、本物みたいだけど。俺やツキハ、コハクに通用するんだろうか?)

 

《解。支配の宝珠(オーブ・オブ・ドミネイト)では、主様(マスター)はおろか、ツキハとコハクを支配する事は不可能です》

 

(うん、それを聞いて安心した。どこで入手したのか知らないけど、あんな危ないアイテムはキッチリ壊しておいた方が良さそうだ)

 

 そう考えたリムルは席から立ち上がった。

 

 と同時に、事態に困惑していた議長が我に返ったのか、大慌てで叫ぶ。

 

「お、お待ち下され、リムル陛下!! こ、これは何かの間違いなのです。決して評議会の意志ではなく、それは第三者であるヒナタ殿に確認して頂きたい――ッ!!」

 

 議長はリムルに敬意を払い、嘘を吐いてるようには見えなかった。

 

 リムルは、ヒナタからこんな話は聞いてはいないし、寧ろ、警戒するように忠告をされていた。

 

 だから、その内容がこんな馬鹿げたものだとは思わず、今となっては流れに任せるしかないと考える。

 

 

(議長は敵ではないし、ヒナタもだ。それに議員達の中にも味方もいる、しな) 

 

 

 そんな中、リムルはツキハとコハクに目をやると、いつの間にか目が()わったまま口元に薄く笑みを浮かべていた。

 

(怖ッ……どこからどこまでがこの二人の読みなんだろうか? マジに楽しんでやがる、この状況を……) 

 

 これからツキハとコハクがどう動くか、または動かないのか、全く予測が付かないリムルだった。

 

 

「こんな事、聞いてはおらんぞ。どういう了見だ?」

「誰の差し金なのだ?」

「あの兵士は、イングラシア王家の紋章付きの鎧を着ておりますな。という事は、これはイングラシア王国の差し金ですかな?」

「ふむ。誰ぞ絵に描いた議員がいるのかね? この中に」

 

 などといった声が、混乱している議員達の中から聞こえてくる。

 

(明らかに、あの大男とは違う反応。ならば、この件は評議会の決定ではなく、一部の勢力の暴走という事で決まりだな) 

 

 リムルは議員達の声を聞きながら、そう判断した。

 

 戸惑う者が多い中、冷静な判断を下す者もいる。

 

 それが、ヒナタ。

 

 議長から名前を挙げられた時点で席を立ち、リムルと大男の前に立つように前に出て来ていた。

 

 

「ライナー殿。これはどういうつもりなの?」

 

(お。大男の名前は、ライナーと言うのか。ヒナタも知っているという事は、有名人なのかな?)

 

「許可なく立ち入るでない! 現在は会議の最中で、貴様等のような兵士の出る幕ではないわ!!」

 

 ヒナタが動いた事で勢いづいたのか、議長も声を荒げて兵士達を叱責した。

 

 すると、それに答えたのはライナーではなく、一人の議員だった。

 

「ハハハハ、レスター議長殿。良いのです。彼等はワシが呼んだのです。そこの無法者を懲らしめる為に、ね」 

 

 二階席――議長に近い席で笑いながらそう告げる議員。 

 

「ギャバン殿、血迷ったか!?」

 

 議長が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

(あれが情報に合ったイングラシア王国の伯爵のギャバンか。そりゃあ、ねえ。議員の一人が関係していたのでは、無関係を主張出来なくなるもんなぁ。まあ、ツキハの言った通り、コイツらがどう動くのか見ものだわ)

 

 リムルは到って冷静な思考で、様子を窺う事にした。

 

 

「ギャバン殿ッ!! このような話は聞いておりませんぞォ!!」

 

 そう叫んだのは、ヨハン議員。

 

 ロスティア王国の公爵であり、比較的まともで精神干渉を受けてはいない。

 

 ヨハン議員は、最初の騒動の際もどこか苦々しい表情をしていたので、魔国連邦(テンペスト)の味方になりそうな雰囲気ではあった。

 

 そう、全部の議員にはそれは及んではおらず、このような議員もいたのだ。

 

 では、智慧之王が感付いた、敢えて精神干渉を受けたかのような欺瞞行為をしていた幾人かの議員は、一体どうなのか?

 

 明らかにルヴナン側の人間だとわかるが、その真意は? リムルが会議終了後に二人に尋ねた時に判明するだろう。

 

 

「皆様、落ち着きなさい。皆様だって本音では、魔王リムルを恐れている。番外魔王ツキハと番外魔王コハクに関しては、言わずもがなでしょう。違いますかな? ここにいるライナー殿は、我がイングラシア王国で最強の男。彼が魔王リムルを倒し、支配する。そうすれば、〝八星魔王(オクタグラム)〟の一角が手駒となるのです。その上、〝暴風竜〟ヴェルドラまでを掌握すれば、番外魔王ツキハと番外魔王コハクまでも!!」

 

 

 プッ クッ クッ クク クッ

 

 

 ギャバンの演説を聞き終えた瞬間、ツキハとコハクはガバッと下を向き、膝に両手を置き必死に吹き出しそうになるのを我慢し、尻尾をプルプルと震わせていた。

 

 それを見たギャバンは、盛大に勘違いをする。

 

「見なさい、番外魔王の二人を。我が国最強の騎士ライナー殿を見て、俯き震えているではありませんか!!」

 

 両手を大きく広げ、誇らしげに議員達に訴えかけるギャバン。

 

 

(いや違うぞ、それ。あまりの荒唐無稽に、吹き出しそうになるのを我慢してるだけなんだが)

 

 とりあえず真顔になり、心の内で突っ込みを入れるリムルである。

 

 

 ギャバンは議員達に(なじ)られながらも、余裕の態度を崩さなかった。

 

 そして、リムルとツキハとコハクに対する敵対宣言を、堂々と言い放ち、それに賛同するように叫ぶ数名の議員達。

 

 既に事態は、リムル達を置いてきぼりにして動いて行く。

 

 

「馬鹿なッ!?」

「こんな事が許されるものか! ぎ、議会を蔑ろにするでないぞ!!」

「そうとも! あ、貴方は、評議会の意志を無視して、自分の利益を優先するおつもりですか?」

「ゆ、許せませんぞ! 断じてこのような振る舞い、認める訳にはいけません!」

 

 更に多くの議員達が立ち上がり、ギャバンに罵声を浴びせ始める。

 

 しかし、リムルは嫌な予感がした。

 

 議員達の中に、顔色を悪くして俯いている者達の姿を見たのだ。

 

(こりゃあ、ギャバンの様子といい、まだ何か隠し玉をありそうだな)

 

 このリムルの予感は当たっていた。

 

 

 キタカ バカガオドリニ クククッ

 

 ツキハが小さく呟くと。

 

 

「落ち着け、諸君。我が騎士ライナーの言は正しい。魔王と番外魔王がノコノコと出向いてくれたのだから、この機会を利用せずして何とするッ!!」

 

 そんな事を言いながら、金髪の優男が会場に入って来た。

 議員ではないのに、やたら偉そうである。

 

 しかし、その優男が現れた瞬間からザワリと会場が沸き立った。

 

 

 そこへ。

 

「エルリック殿下、これは一体何の真似ですか? 私は貴方に、馬鹿な真似は止めろと忠告したはずですが……?」

 

(ふあっ? 何と、この優男、この国の王子なのか!?) 

 

 ヒナタの言葉で、この優男の正体を知るリムル。

 

(うーん、この国の王子なら、いくら評議会といえども失礼な真似は出来ないし、困惑するのも無理はない。このエルリック王子が黒幕なのかな? うーーーん、どうなんだろう。複数の議員達はコイツに扇動されてるみたいだけど……)

 

 場の様子を窺いながら、思考を巡らせるリムル。

 

 

「ヒナタ、君には失望したよ、魔王と番外魔王に恐れをなし、人類の守護者という立場を放棄するというのだから」

「――何ですって?」

 

 エルリックの言葉に、冷たく低い声で返すヒナタ。

 

(あーらら。本気で怒ってらっしゃる、ヒナタさん。どうなっても、知らねーぞ。俺の周りにいる女性陣は、怒らせるとおっかない者ばかりなんだ。本当に……何で?)

 

 実体験からエルリックを憐れみ、最後には自問自答するリムルであった。

 

 そして、大馬鹿は無自覚にヒナタを煽っていく。

 

「ゴチャゴチャ煩いぞ、ヒナタさんよ。ああん? 聖騎士団長か何か知らんが、イングラシア王国騎士団の総団長であるこの俺様の相手じゃねーんだよ。そこの貧弱な魔王にすら勝てず、挙句は〝第三次番外魔王討伐〟に失敗して、這う這うの体で逃げ帰って来たんだよな? しかも、討伐隊は半壊。情けねえったらありゃしないぜ。魔王との勝負も、小便ちびって逃げたんじゃねーのかい?」

 

 下卑た笑いもそのままに、ヒナタに絡むライナー。

 

(おおおーーーいッ! ヤバイって、コイツはヤバ過ぎる。それにサラッと極秘事項をバラしてるし。うおッ!? ツキハがまた瞳をまん丸にしてライナーを見てやがる。う~む、何か気のせいならいいけど、もしかしてさっきから顔芸して遊んでらっしゃる? ツキハさん)

 

《解。半分は怒っていますが、半分は確実に遊んでいると断言します》

 

(断言来たよ。でもなそれ、精神に悪いからやめて欲しい。いつ、暴れ出すかヒヤヒヤもんだわ。俺の精神力は無限じゃないんだぞおーーッ! だがな、流石にこのヤバイ雰囲気に俺は……もう、知らんよ?)

 

 リムル心の内で叫ぶも、顔から血の気が引く思いだった。

 

 

「貴様……」

「クックックッ、言い返さんところ見ると、図星かい? ええ、聖騎士団長様よ。どうせその役職も、色ボケ枢機卿にでも色仕掛けして手に入れたお飾りなんだろ? 魔王との勝負も、チンケな戦いだったんだろうなあ、クッククク。殺す覚悟もないような魔王など、片腹痛いわ!!」

 

(やめてよね、俺に飛び火したじゃん。ってか、何故にツキハとコハクには飛ばさない?)

 

「だがまあ、ヒナタよ。お前の見てくれだけは悪くない。俺の女になるってんなら、愛妾(あいしょう)として毎晩可愛がってやってもいいぜ?」

 

(ああ、コイツ……死んだな。俺は知らない。しーらないっと)

 

 ヒナタの表情は変わっていなかった。

 

 しかし、逆にそれが怖かった。

 

 今ヒナタの内側では、凄まじい怒りが渦巻いているのは間違いないだろう。 

 

 

「おいおい、ライナー卿。少し下品ではないかね? ワシも魔王には興味があるし、そこの〝短い髪の番外魔王〟も中々に可愛いではないか。一人占めは良くないと思のじゃが、どうじゃ?」

 

 この場で一番言ってはいけない、禁句が飛び出した。

 

(ちよぉおおおおおおおおおおっと、待ていいいいいいいいいいぃーーーーーッ!!)

 

 リムル、心の絶叫炸裂!

 

(それはアカンやつや。で、お、俺を狙っている? 男なのに? 男だぞ、俺。いやいや、男にあるモノがないんだけど、でも、男だ、よ? いやいやそれは置いといて、じゃねえ! ああ、何言ってるんだ俺はッ! ってかツキハも狙ってる!? 駄目え! それは禁句、この場で絶対に向けてはいけない色欲だッ! コハクの逆鱗に触れるんだぞぉーーーーーーーーッ!!)

 

 流石のリムルも半分パニくって、支離滅裂になりかける。

 

 そして、隣に座るコハクを、見ると――

 

(ああああああああああああッ!!)

 

 満面の笑顔で尻尾はもの凄い憩いで左右に振られ、膝に置いた両手は(たもと)に引っ込められていた。

 

 リムルは意を決し、コハクに『思念伝達』を送る。

 

『こ、コハクさん?』

『なんえ?』

『え、えとですね、まさかと思いますけど、呪符をぶっ放すおつもりでは?』

『せやで。うちの大事な大事な大事な、愛するツキハに、色ボケな視線を送りよってからに。もう、みーーーーんな、ぶっ殺してやるねん!! うふふふ、ふっふふふふ』

『ちよぉおーーっと、落ち着いて、頼むから、イングラシア王国を吹き飛ばさないでえ!!』

『いやや、堪忍ならへん!』

 

 とにかく国家間戦争に発展するのだけは阻止しようと、コハクを説得をするリムル。

 

『そこを頼む、コハクさん、いやコハク様!』

『ふふっ、冗談や、リムル。心配せんでもよろし』

『いやいや、コハクさん、絶対に激怒してますよね? ね? ね!?』

『何や、わかってるやないか。今うちな、超が二つ付くくらい、怒り心頭やねん。今からでもイングラシア王国と戦争しても、いいくらいやで!』

『ああーうん、そのお怒りはごもっとも。コハクが許している男はヴェルドラだけだもんな。でも、今暫くそこを我慢して頂きたいと。本当にアレな時は、あのギャバンとかいうオヤジをボコボコにしていいから。但し、殺しは勘弁して。最悪、もしもの時は評議会加盟は諦めるから、その時は死人を出さないと約束してくれれば、ボコって良し! これでどうだ?』

『せやねぇ……リムルがそこまで言わはるのなら、ここはアンタの顔を立てましょ。でもな、これ以上あの色ボケオヤジがツキハにエロ視線向けよったら、問答無用でボコるで?』

『わかった。その時は、ボコれ。俺が全責任を持つ! 正直持てるかわからないけども、何とかしよう、その時はッ!』

『へえ。あんさんがそこまで言わはるのなら、ここは仕方ありまへんけど、我慢したるどす』

 

 何とかコハクを(なだ)めたリムルは、エロ視線って、お前もしょっちゅう風呂場でツキハに向けてるじゃんと思うも、決して口には出さなかった。

 

 今のコハクにそれを言ったら、火に油を注ぐ事になるのは間違いないのだから。

 

 

「――エルリック殿下。この男、ライナー殿の言動をイングラシア王国として許すおつもりですか?」

 

 ヒナタは、怒りを感じさせない静かな声でエルリックにそう問う。

 

 それにエルリックは、笑みを浮かべたまま答える。

 

「ふふふ、ヒナタさん、君が協力してくれたなら、もっと礼遇したのだけどね。まあ、ライナーを怒らせた自分自身を恨むといい。そうそう。言い忘れていたけどライナーは、Aランクの冒険者よりも強い。それに、他にも――」

 

 そう言いながらエルリックは、パチンと指を一つ鳴らした。

 

 それを合図として扉が開き、黒ずくめの男と、緑のローブを纏った人物、そして、見覚えのある紋章が刺繍された外套(がいとう)を着用した者達が入って来た。

 

(あの紋章、迷宮で散々戦った〝緑の使徒(ヴェルト)〟じゃないか。それに黒ずくめの男は、デルタに首チョンパされたガイじゃん)

 

 紋章を見たリムルは、迷宮で死闘を繰り広げた事を思い出し、ガイの事も思い出す。

 

(それにしても、緑のローブの男、チーム〝緑の使徒(ヴェルト)〟の関係者かな? フードで頭を覆っているし、顔もマフラーで隠している。如何にもな感じだよなあ) 

 

「紹介しよう。こちらはガイ殿。Aランクの冒険者で、今やライナーの副官だ。そして彼は――」

 

 そう言いエルリックは、緑のローブの男の肩に手を置いた。

 

(ええーっ。アイツが副官って……。じゃあ、緑のローブの男は、多分――)

 

 開国祭の時に散々いきり散らかして、デルタに首を()ねられたガイを見て、どこか呆れたような表情になるリムル。

 

 そして、緑のローブの男に怪しい感じを抱き、リムルのその予想は当たる。

 

 

 そんな事はお構いなしにエルリックは、芝居がかった仕草で自己陶酔に(ひた)る。

 

「――彼は、悪逆非道なルヴナンとは違い、かの有名な傭兵団、〝緑の使徒(ヴェルト)〟の団長だよ。魔王と番外魔王を討伐するのに失礼がないように、出来る限りの凄腕を集めさせてもらったのさ。君達以上の強者は、幾らでもいるという事だ。多少強いからといって、自惚れないでくれたまえ」

 

 と、自信満々のエルリック。

 

 

『やっぱり呼ぶ? イチコ達』

『いや、それは最終手段で』

『あいよ』

 

 ツキハが『思念伝達』で、リムルに再度イチコ達を呼ぶかと尋ねるも、止めるではなく、最終手段に変わった事で、リムルが余程カチンと来たのが窺える。

 

(ま、俺としては、戦いたいというのなら戦ってもいいんだけどね)

 

《告。そうした場合、名声が下がる確率が百パーセントです。ツキハとコハクなら嬉々としてやるでしょうが、元よりあの二人には悪名しかないので問題はありません》

 

(ですよね? うん、ツキハとコハクなら喜んでボコるだろうね。ある意味そういうところは羨ましいというか、うん、こんな人目のある所で魔王が堂々と戦うのも、ちょっとどうかと思うし。俺は、あの二人とは立場がまるで違うからな)

 

 それに、迷宮を突破出来た者と勝負をする――とう条件がある。

 

 意味も無くその条件を破ると、後々、際限なく現れる馬鹿共の相手をしなければならなくなる。

 

 その事を考えリムルは、最悪な時はツキハとコハクに暴れてもらおうと思うのであった。

 

  

 だがしかし今は、リムル達より怒っている者がいたのだ。

 

 

 

 愚者が踊り出すは、ワルツか輪舞(ロンド)か。

 

 

 不協和音が奏でる音楽に、愚者は舞う。

 

 

 

 





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