忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。229話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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229話 思惑と現実との乖離

 

 

 リムルは思った。

 

 

 人って不思議なもので、誰かが先に怒りだすと自然に冷静になれるものだ、と。

 

 

「問おう。エルリック殿下、貴殿は私だけではなく、西方聖教会も敵に回す事になる。その覚悟はおありですか?」

「安心して欲しい。西方聖教会、ひいては神聖法皇国ルベリオスには迷惑はかけぬ。そこで黙って見学をしてくれるなら、君の身の安全も保障するとも」

 

(ヒナタ。速攻ブチキレ案件なのに……自分の立場を考慮してだろうけど、本当に良く耐えている)

 

 立場上、自分の怒りを呑み込み、必死に我慢しているヒナタを見てリムルは、自分が怒っている事さえ忘れてしまう。

 

 議長以下、必死になって抗議をしている者もいた。

 

 リムル達が四面楚歌という訳でもなく、リムル、魔国連邦(テンペスト)が受け入れられてないという事ではないのだろう。

 

 単に、愚者が暴走したと、言うだけの話なのだ。

 

 

「そういう問題ではないのです。私は今、評議会から()われて第三者としてこの場にいる。公平性の確認こそが役目であり、あなた方の暴走を見逃せる立場にはない。これが評議会としての意志だというのならばともかく、一個人の勝手を見逃せるとは思わないで頂きたい!」

 

 ヒナタは相手の立場に配慮してか、エルリックへの説得を試みる。

 

 だが、エルリックにその言葉は届きはしなかった。

 

 激怒したり、憤慨し、騒ぎ立てる議員も増えて来た。

 

 

「公平性がなければ、何の為の評議会かッ!!」

 

 議長が叫ぶ。

 

 

「うるさいジジイ共だ。俺が魔王を倒して支配し、二匹の番外魔王すらも支配した後で、好きなだけ騒がせてやるさ」

 

 既に勝利した気分でいるライナー。

 

(これ、俺の出番はないかも? ツキハとコハクもな)

 

 だがしかし、ヒナタの怒りを買っているのは確実なので、ライナーがこの後どうなるかは予想が付くリムル。

 

 

 そこへ。

 

「エルリック様。契約では、我々は貴方の護衛しか約束しておりません。それに、番外魔王の二人がこのような場にいるという事は、確実に一桁番号の眷属がどこかに潜んでいるハズです。自ら危険な真似をなさるなら、契約違反となりますが?」

 

(あらら。〝緑の使徒(ヴェルト)〟の団長さん無関係だったのか。それに、同じ傭兵団を率いてるなら、ルヴナンの怖さは熟知してるはずだもんな。まっ、そのイチコ達は俺が止めているんだけどね。先はどうなるか知らんけど)

 

 意外にも、〝緑の使徒(ヴェルト)〟の団長の言葉を聞き、リムルはなるほどねと思う。

 

 

「フンッ、下らん。臆病者は邪魔なだけだ」

 

(そうかあ、ガイもライナーと同類か。自信過剰で、人の意見に全く耳を貸さないタイプだ。しかし、俺を憎々し気に見てるけど、そこまで恨まれるような覚えはないんだけどなぁ。何で?)

 

 鋭い眼光でリムルを睨むガイに、リムルは辟易する。

 

 

 とにもかくにも、会場内は、一触即発の状態に陥った。

 

 

 だが、この膠着した状況を取り仕切るように、エルリックは片手を上げる。

 

 

「静粛に!! 各自傾聴せよ、エルリック様のお言葉であるッ!!」

 

 いつの間にか二階席から下りて来たギャバンが、エルリックの隣に立ちそう叫んだ。

 

 それを受け、満足そうに頷くエルリック。

 

 そして、周囲をゆっくり見回してから、おもむろに告げる。

 

 

「議員諸君!! 今、ここで、その意志をハッキリと示すがいい!! 私達に賛同し、魔王と番外魔王を討伐する勇者となるか。それとも魔王と手を組み、あまつさえ番外魔王とさえ手を組み、人類の敵対者となるのか。国を代表してこの場にいる諸君が正しい選択を成すと、この私、エルリック・フォン・イングラシアは信じているぞ!!」

 

 自信満々の笑顔で議員達を見るエルリック。

 

 

「あーらら。まるで役者みたいに悦に入っちゃってまあ」

 

 ツキハがアチラに聞こえるか聞こえないかのギリギリで、呟く。

 

「ほんまやねぇ。世間知らずもここまで来はると、一周回って清々しいもんどすなぁ」

 

 コハクもツキハと同じように呟いた。

 

 

 エルリックが一瞬ムッとした顔付になるも、そこは王子としてのプライドが働き平静を装う。

 

 

 そしてリムルが。

 

「おいおい、今更投票で決めるのかよ?」

 

 と、思わず漏れ出たリムルの問いに、エルリックは当然だとばかりに大きく頷いた。

 

「ふふ、当然だろう? 勿論、民主的に多数決で決めるのさ。もっとも、投票を行うまでもなく、評議会が賛同してくれると確信しているが、ね」 

 

(ん? それって……)

 

 余りにも自信満々で、既に決まりきったかのようなエルリックの言い方が気になったリムル。

 

(おかしい。たとえ王子であっても、他国の代表が集まる場での暴挙など許されるハズがない) 

 

《解。多数の議員を買収しているのでしょう》

 

(ああ、やっぱり)

 

 リムルがそう確信した時――

 

『リムル。ええもん売ったるさかい、即決しなはれ』

 

 と、コハクから『思念伝達』が入る。

 

 それを聞いたリムルは、迷わず、「買おう」と答えた。

 

『ラファエル。今からうちの記憶の一部を送るさかい、ちゃちゃっと纏めなはれ』

《了解です。コハク》

 

 智慧之王(ラファエル)が答えると同時に、膨大な書類の記憶が送られて来た。

 

 そして智慧之王(ラファエル)は、ソウエイが調べ上げたものと照らし合わせそれらを精査し、次々と纏め挙げていく。

 

 

(しかし、他国の議員まで買収してやるとか、下手を打てば国際問題に発展しかねないぞ。まさか、ここまでやるとはな。思い込みによる俺のミスだ。もっと、あらゆる事を想定しないといけないな。こんな危険な策を実行して来たんだから)

 

 

「それでは、決を取ろうじゃないか。公平に、公正に! 魔王と番外魔王を倒し、支配する。賛成する者は起立せよ!!」

 

 エルリックの声が高らかに響くと同時に、何名かの議員達が(いや)らしい笑みを浮かべて起立した。

 

(やはりキッチリ内通していたか。ま、今回は残念な結果になったとしても、あまんじてそれを受け入れよう)

 

 リムルがそう納得しようとすると。

 

《告。問題ありません。証拠は纏め終わりました》

 

(え? ()やッ!)

 

 リムルの『胃袋』内で、速やかに作成された書類。

 

 取り出して見ると、複数の裏帳簿から、裏社会との繋がりは元より、事細やかに記載されたそれに関わった人物達の表から裏までの行動記録等々。

 

 恐ろしいまでの調査書類だった。

 

(うはっ。裏帳簿に、それに関わるヤツラの記録に、この行動記録とかは、ルヴナンの書類だな。しかも、御丁寧に個人個人の性癖から、女性関係、過去に獣人やエルフの奴隷を娼館で買って遊んでいた面々とか、こりゃあスキャンダルだわ。受け取った賄賂などもキッチリ日付が記載されているな。これもルヴナンか。ソウエイのほうも、裏社会と繋がっている貴族の記録がある。お、この最近の裏帳簿はソウエイが掴んでいたのか、やるなあ。しかし何だ、これ、丸裸も同然じゃないか。よくここまで調べたもんだ、ルヴナンもソウエイも)

 

 リムルは、コレをこの時点で公開すれば、関係者の息の根を止める事が出来るなと考えた。

 

 既に言い逃れの出来ない証拠を掴んだリムルは、(これはもう、茶番だろう)と内心で呟く。

 

 そして、出すかと、決断したところへ――

 

《告。その証拠を出すまでもなく、主様(マスター)の勝利です》

 

 と、智慧之王(ラファエル)から告げられた。

 

 

(ん?)

 

 

 リムルがどういう意味だと思ったら、決が出たようだった。

 

 何名もの議員が立ち上がり、拍手を始めている。

 

 それを見て、エルリックが高らかに勝利宣言をしたのだ。

 

 

「決は出た。過半数に達したので、この議題は可決されたものとする!」

 

 勝ち誇るエルリック。

 

 

「もう、こここまでいくとさ、笑いしかでなくね?」

「せやなぁ。ここまでのアホの子は、そうそういてへんで。どうするねん、まったく……はあぁ」

 

 ほとほと呆れ果てたように呟く、ツキハとコハク。

 

 それを、見下したように笑顔を浮かべるエルリック。

 

 ギャバンやライナー、ガイも厭らしい笑みを浮かべ、リムル達の捕縛に動こうとしていた。

 

 

 だがしかし、それは気が早いというものだった。

 

 

 立ち上がったのは全体の三分の一にも満たない人数でしかなく、議員の大半は座ったままだったのだ。

 

 エルリックは自分の策を疑いもせず、結果も見ずに勝ち誇っていただけだったのである。

 

 

 エルリックに追従して拍手を送っていた議員達も、後に続く者が少ない事に気付いた。

 

 慌てたように周囲を見回し、自分達が少数派と知り、顔から血の気が一気に引いていく。

 

 

 結果は明白。

 

 

 智慧之王(ラファエル)が精神干渉を解除した為に、この策はその時点で破綻していたのだ。

 

 裏帳簿の数は、過半数に達するほどの数だったのだが、精神干渉が解かれた為、心変わりをした者が出たのだろう。

 

 そして、それに智慧之王(ラファエル)が回答する。 

 

《解。先程、精神干渉を解除した結果、良識を取り戻したものと推測します》

 

(なるほどね。正気に戻った事で、自分の愚かさに気が付いた訳だ)

 

《解。精神干渉による影響は、人の〝欲望〟を刺激するものであったと推測します。かなり強力な強制力が発生していた模様》

 

(欲かぁ。賄賂で心が動き、そこを突かれた形なのかねえ。元いた世界もこの世界も、変わらず金の力に溺れる者は多いという事、か。まあ、正気に戻った議員達は、ちゃんと道理を弁えていたようだし、今回だけは賄賂の件は黙ってあげようかね。しかし、ルヴナンがどう出るかは、与り知らぬところだけど。ま、それはそれとして。問題は、今立ち上がっている議員達だ)

 

 リムルは、立ち上がったまま困惑している議員達を見て、やれやれというように首を横に振りながらエルリックに向かって口を開く。

 

 

「おい、落ち着いて状況を良く見てみろ」

「フッ、何を――」

 

 もう何だかなぁというように、心底呆れ果てたように吐き捨てるリムル。

 

 エルリックは、まだ自分の立場に気付いていない。

 

 そこへ。 

 

「道化か?」

「ただの、世間知らずでっしゃろ」

「おぼっちゃんじゃあ、ねぇ」

「何ィ!?」

「いや、失礼。エルリック王子殿下が、余りにも滑稽だったもので」

「しょうもな。皆まで言わんと、わからへんのやろか?」

「外に出ずに、箱庭で遊んでればいいのに。誰だよ、こんな馬鹿を担ぎ出したのは……はあぁ~、めんどくさ」

 

 冷めた目付きで茶番を眺めていたヒナタに、コハクとツキハ。

 

 ここぞとばかりにリムルに加勢する。

 

 

 ツキハとコハクはともかく、ヒナタの口撃は止まらず。

 

 恐らく、ヒナタは我慢の限界をとっくに超えてたのかもしれない。

 

 

「過半数を占める者が、貴方の意見に反対みたいね。第三者である私が公平な立場にて、この投票が成立したと宣言します。まあ、貴方に何の権限があって投票を行わせたのかについては、追って評議会にて査問会議が行われるでしょうね」

「クッ、こんな馬鹿な話があってたまるかッ!! 貴様等、私を裏切る気か!?」

 

 まさかここで、裏切り者が出るとは思っていなかったエルリック。

 

 先ほどまでの余裕はどこへやら。

 

 その姿はあまりにも無様で滑稽であり、笑えるものだった。

 

 実際に、ツキハはとうとう我慢できずに腹を抱え、両足で床をダンダンと踏みしめて大笑をしてしまう。

 

 

 うひゃひゃひゃひゃひゃッ! ハライテ あーっはははははははーーッ!

 

 会場内に響き渡る、ツキハの笑い声。

 

 

 立っている議員達も、座っている議員達も、茫然とツキハを眺めるしかなかった、そしてエルリックも。

 

 それを見たリムルもヒナタも、顔をニッコリさせ、先ほどまでの不快感が消えていくのを感じていた。

 

 

 だがしかし、そこへ。

 

「そ、その通り。エルリック様の仰る通りじゃ! 貴様等、わかっておるのか? このような真似をしたら、我が国からの援助は――」

「待て、それはどういう意味ですかな? ギャバン殿、詳しく話してくれるのでしょうな?」

 

 心底疲れた様子の議長が、ギャバンの発言を遮った。

 

 口から唾を飛ばしながら叫んでいたギャバンが、ふと我に返り、今発言した言葉の中に、言ってはいけない失言があった事に気付き、顔を思い切り曇らせる。

 

 どう言い繕うか思考を巡らせ、グッと唇を噛み締めるギャバン。

 

 

 すると。

 

《解。先程の書類に抜粋しております》

 

 そう智慧之王(ラファエル)がリムルに告げた。

 

 

 言われたリムルは書類に目を通し……。

 

「ラーバッハ王国では、水害の対策工事の支援。カルナダ王国では、旱魃(かんばつ)による被害への食料援助。その他の国々でも、様々な支援を約束しておられる様子。その見返りが、今回のコレですか? とは言っても、随分と昔から支援という名のコレを、やられておりますね。それで今回、貴方達の命令に従わなかったから支援を打ち切るとなると、それは悪質な買収行為だったと自ら白状するようなものですね。まあ、言ってみれば、日頃から裏で行われている大国ならではの、常套手段といったところでしょうか」

 

 と、口に出して言うリムル。

 

「はうあっ――ッ!?」

「な、何故貴様が、そのような内情、を……!?」

 

 絶句するエルリックに、動揺を隠せないギャバンはツキハとコハクを睨み上げ。

 

「貴様らかあああああああッ!? 番外魔王どめがあああああああぁーーーーッ!!」

 

 ツキハとコハクを指差し、絶叫するギャバン。

 

 そんなギャバンに、口端に冷え切るような笑みを浮かべるツキハとコハク。

 

(まあ、あれだ。とっくの昔からルヴナンに目を付けられて、挙句にソウエイまでが調べ上げたんだから、そうもなろう。ルヴナンを、俺の国の暗部を舐め過ぎだ、お前達は。頭お花畑を地で行くようなもんだよ、それは)

 

 リムルも相手を見下すように、薄っすらと笑みを浮かべて見せる。

 

 そう、ツキハとコハクがリムルに教えた事なのだ。

 

 こうすれば、相手が勝手に勘違いをしてくれると。

 

 

 激しく動揺するエルリック一行。

 

 流れは完全にリムル達に傾いた。

 

 そんな中、立っている何名かの議員がこっそり座ろうとするも、それは許されなかった。

 

 

 何故なら、ソウエイが既に『粘鋼糸』で動きを封じていたのだ。

 

「言わんこっちゃない。自ら危険に飛び込もうなど考える馬鹿の面倒など、俺達には見切れん。番外魔王がいる時点で積んでいると、何故思わぬ」 

 

 〝緑の使徒(ヴェルト)〟の団長が、性別不明の声で言い放つ。

 

 この発言により、〝緑の使徒(ヴェルト)〟がエルリックに対して、見切りを付けたとリムルは判断した。

 

 

 これにより、リムルの目的は達成されたも同然だった。

 

 

 だがしかし。

 

 思惑と現実の乖離(かいり)に、向き合えない者達がいた。

 

 

 そう、自分達の敗北を認められない馬鹿が――

 

 

 まだこの場に、残っていたのである。

 

 

 






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