忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。230話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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230話 自惚れ者どもの末路

 

 

 一気に形勢逆転をされたにも拘わらず、怒号の如く声を上げる者がいた。

 

 

「ふざけるんじゃねえッ!! エルリック様、諦める事などありませんよ。この俺が魔王を倒しさえすれば、全ての問題は解決します。そして、魔王を倒した後は、お前達だ番外魔王の二匹ッ!!」

「お、おお、ライナー!!」

「ラ、ライナー卿、そうじゃともそうじゃとも。ワシらにはまだ、貴卿(きけい)という最高の切り札が残っておったのであったな。頼もしい限りじゃ!」

 

 諦めが悪いと言うか、現状を全く把握せず、この期に及んでまだ抵抗しようとするエルリック一行。

 

「えぇ……正気かコイツら?」

「ほんま、物事を知らん過ぎやおまへんか」

 

 流石に呆れを通り越して、哀れみさえ感じる目で言い放つツキハとコハク。

 

 己を知らなすぎるライナーは、逆に睥睨(へいげい)した笑みでリムル達を見る。

 

 

(二人の言う事はもっともだ。馬鹿の考える事は、マジにわからない)

 

 そう思ったリムルは、ライナーに無駄だとわかっても一応問う。

 

 

「もしかして、俺を倒すつもりなの?」

「馬鹿か、当たり前の事を! それとも、ビビッてしまったのか? 今なら、這いつくばって靴を舐めたら、痛い思いをせずに許してやるぜ? 番外魔王の二匹も、覚悟するんだな」

 

 支配の宝珠(オーブ・オブ。ドミネイト)をチラつかせ、ニィッと口角を上げ嗜虐(しぎゃく)的な笑みを浮かべ返すライナー。

 

 そんなライナーにガイが追随し、何事か兵士達に命令した。

 

 すると、扉の外からも兵士達がなだれ込み、扉を固めるように動き、威嚇するように剣を構える。

 

 そして、別の兵士達は二階席へと急ぐ。 

 

 〝緑の使徒(ヴェルト)〟は完全に一歩引くも、他には上位冒険者もいて、武器を取り出しリムル達に向かって構えた。

 

 

「貴様達、この場で武器を取るなど、何と言う愚行を――!!」

 

 議長の怒号が響くも、二階も兵士達に制圧されてしまう。

 

 暫くすると声が聞こえなくなり、議長共々他の議員達は抵抗も出来なく、席から動くなと剣を構えた兵士達に言われ従わざるを得なかった。

 

 

(こうなったら、仕方ない。動くしかないな)

 

 と、リムルが思った矢先、ヒナタがリムルより先に動いた。

 

 

「このような暴挙、立会人として見過ごせないわね。それに、貴方は散々私を侮辱してくれたわね?」

 

 と、ライナーに微笑み言う。

 

 剣の携行は許されていないので、ヒナタは丸腰である。

 

 ツキハが(たもと)から苦無(クナイ)(つか)だけをチラリと見せ、口だけ動かして(いる?)と言うも、ヒナタは同じく口だけ動かし(大丈夫)と返し、ツキハはニコリと笑みを浮かべ苦無(クナイ)を袂に引っ込めた。 

 

 

(うん、ハッキリ言って、今のヒナタは超怖い。死んだな、アイツ)

 

 リムルは怒った時のヒナタを知っているので、心の中で合掌する。

 

 剣を持っていれば、柄に手を掛けていても不思議じゃないくらいの迫力が今のヒナタにはあったのだ。  

 

 

「リムル、ツキハ、コハク。こっちは私が受け持つわね」

「ああ」

「あいよ」

「へえ」

 

 リムル、ツキハ、コハクが、ヒナタに良いよと言うように返す。 

 

「フッハッハッハ、笑わせるぜ。イングラシア王国最強のこの俺が、貴様の化けの皮を剥いでくれるわ! 何が聖人だ。人類の守護者などと(おだ)てられて調子に乗っているようだが、それも今日までよ、グフフッ。この俺が引導(いんどう)を渡してやる、その偽りの強さにな!」

 

 己の実力を(かえり)みず、相手の力量すら読み取れないライナーは、ヒナタに向かって豪語する。

 

 ライナーはAランクオーバーであり、確かに弱くはない。

 

 だがしかし、それはイングラシア王国内と周辺地域に限ってである。

 

 

 では、ヒナタはというと、西側諸国全域に渡って活動し、様々な魔物と戦って来た。

 

 その中には、準魔王クラスの魔物もいた、そしてそれらを全て倒して来ている。

 

 更に魔王リムルとも戦い、ツキハとも戦い、生き延びている。

 

 ライナーのそれは、平和な国で突出した強さであり、常に戦場に立って魔物と戦って来たヒナタとは、比べようもないのだ。

 

 

 そして、ガイも同様だった。

 

「フッ、ならばこの俺に、魔王の相手を譲ってもらうとしようか。その後の番外魔王の相手は、二人でやるとしよう」

「おうよ! 殺すんじゃねーぞ、ガイよ。お前に預けた聖剣の力、見事に制御してみせな」

「言われるまでもない。この装備があれば、俺は二度と不覚を取らぬ!!」

 

 二人して吠え、自信に満ちた笑みを交わす、ライナーとガイ。

 

 そんな二人を見て、ツキハが『思念伝達』でコハクに言う。

 

『へえ~。アイツ、リムルとやる気だよ』 

『そうみたいやな。せやけど、アレが聖剣やて? どう見てもギリギリ特質級(ユニーク)と呼べるかどうかやおまへんか。んん? あの剣、どこかで、見たような気がするおすな。どこやろか……?』

 

 コハクが気になる事を言ったので、ツキハは右目の『魔隻眼』で剣を見ると。

 

『……あ? あたしも見覚えがあるわ、あの剣……そうだ! 何百年か前に、どこかの骨董屋にロモコが売った剣じゃないの? あの両側に伸びたガード()の真ん中に埋め込まれた青い宝石に女神? みたいな顔が浮かび上がる(つか)の作りは見覚えがあるよ』

『せやね、思い出しましたわ。ロモコが、これはゴミ剣だーとか()うて、叩き売った剣どすな。えらいキレてましたなぁ、あの時は』

『そうそう。苦労して潜った古代遺跡の地下迷宮(ダンジョン)で見つけたのがアレと古代金貨と宝石がちょろっとで、『私の労力を返せー!』って凄い怒ってたよね。巡り巡ってイングラシア王国に流れ着いていたんだ。でも、アレが聖剣って……せめて伝説級(レジェンド)くらい持って来て言えよなぁ。まさか、また〝ロモコ怒りの売り捨て剣〟を見るとは思わなかったわ、マジに……』

『せやねぇ……』

 

 ライナーがガイに持たせた聖剣が、何と百年以上前に、ロモコが売り払った剣とわかり、とても残念そうな表情を浮かべてしまうツキハとコハクなのであった。

 

 

 そんなガイを見つつ、面倒だなぁと思いながらリムルは、ガイの前に立とうとすると――

 

 サッとリムルの前に出る人影が。

 

 

「さっきから我慢して聞いていれば……アナタ方は余りにも、私達が敬愛するリムル様に対し無礼が過ぎます」

 

 そう言ってシュナが前に出て来たのだ。

 

 内から湧く怒気を放ちつつ、有無を言わさぬその迫力で静かにガイに歩み寄るシュナ。

 

 

(あちゃあ、俺よりもシュナの方が激怒していたのか) 

 

 リムルはそう思い見回すと、一歩前に出ようとしたベニマルが固まっていた。

 

 完全に出遅れた形であり、ベニマルはリムルと目が合い、どこか気まずそうに苦笑いで誤魔化す二人。

 

 

「フフッ、フハハハハッ!! どこまでも人を舐めやがって!! 魔王リムルよ、そんな貧弱な女の陰に隠れて、貴様は恥ずかしくないのか?」 

 

 シュナを前にしてリムルを煽るガイ。

 

「黙りなさい。アナタ如き、リムル様やお兄様。まして、ツキハ様にコハク様が出るまでもありません。私だけでも十分なのです」

「フンッ、そこまで言うのなら後悔するなよ? 俺は、女子供が相手でも容赦はせんぞ」 

 

 ガイはそう言って、スラリと聖剣を抜く。

 

 そこへ――

 

「シュナ」

 

 と、コハクが呼び。

 

 懐から扇子(せんす)を取り出すと、バッと広げてそれをシュナにふわりと投げた。

 

 開かれた扇子の部分は、濃い紫色の魔紙に枝垂(しだれ)桜の枝と桜の花が舞う絵が描かれていた。

 

 ふわりふわりと緩やかに回転しながらシュナの下に飛び、シュナは扇子を右手で受け取ると。

 

 バッと右手を横にして広げられた扇子をパチリと閉じ、静かに右手を下ろし、コハクに向かって軽く一礼をする。

 

 

 そして、ガイと聖剣を見て、シュナの笑みが冷ややかに深まった。

 

 自身のユニークスキル『解析者(サトルモノ)』によって、ガイの力を見抜いてしまったのだろう。

 

 

 こうして、リムル達や評議会の重鎮や議員達が見守る中、二組の戦いが始まったのである。

 

 

 戦いは、ライナーとガイはまるで相手にはならなかった。 

 

 ヒナタは元より、シュナも日々暇を見ては、自分の身に付けた武術や妖術の鍛錬に(いそ)しんでいた。

 

 この二人と戦おうとするライナーとガイが無謀だったのだ。

 

 

 先ず、ライナーと相対するヒナタ。

 

 評議会に参加する為に正装で着飾ったヒナタは、スッと軽く開いた左手を前に出し、同じく軽く開いた右手をへそ辺りに構える。

 

 動きにくそうな服装にもかかわらず、無駄のない足運びでライナーに迫る。

 

 

 剣を構えるライナーは、勢い良く剣をヒナタの頭に向かって振り下ろすも。

 

 一瞬で懐に飛び込んだヒナタが、ライナーが剣を振り下ろそうと上に上げた右手の腕を両手を交差させた十字受けで止め。

 

 止めた瞬間に右半身(はんみ)になりながら右肘で、トンッとライナーの胸を軽く押した。

 

「――は?」

 

 ライナーはたたらを踏んで四歩ほど後ろに下がり、何が起こったのかわからないような声を上げたのだ。

 

(何が起こったんだ? 俺が剣を振り下ろそうとした瞬間には、ヤツが目の目にい、た。それで、肘で胸を押されただけだ、が!?)

 

 そう思いながらライナーは、胸のアーマープレートに手をやると、肘が当たった部分だけがボコリとへこんでいたのに気付く。

 

(軽く押されただけなのに……何だこの技は? 俺は知らんぞこんな技など……なッ!?)

 

 凄まじい(プレッシャー)を向けられたライナーはヒナタを見ると。

 

 突き刺さるような鋭い眼光でライナーを見るヒナタの視線。

 

(……や、()られ、る)

 

 ライナーは気付いた。

 

 これは警告であり、次に剣で斬りかかろうもなら、確実に殺されると。

 

 それほどまでの迫力がヒナタにはあったのだ。

 

 剣を構えたまま一歩も動けなくなったライナーの剣を握る手は、カタカタと震えていた。

 

 

 ヒナタの使った技は、天牙影千流柔術の受け技であり、天牙影千流ではありふれた基本の防御と攻撃を兼ねた、〝雷鼓〟を応用した技である。

 

 たまに息抜きで魔国連邦(テンペスト)に遊びに来るヒナタは、時折ツキハの鍛錬を見に行っていて、覚えた技だったのだ。

 

 基本の技とはいえ、これを実戦で使うには相当の鍛錬が必要であり、難なく使うヒナタの技量の高さが窺い知れる。

 

 

 では、シュナの方はというと――

 

 ガイは宣告通り、容赦なくシュナに斬りかかっていた。

 

 だが、ガイの繰り出す斬撃は、シュナの軽やかなステップにて全て(かわ)されていた。

 

 そして、躱すと同時に扇子でガイの手や腕などを軽くパンパンッと打っていたのだ。

 

「ちょろちょろと動きやがる、クソがあッ!!」

 

 自分の攻撃が当たらず、イライラを(つの)らせるガイ。

 

 シュナの着ているスーツのスカートは、膝までのタイトなスカートで、両側に浅いスリットが入っていても、とても蹴りとか激しい動きは無理であった。

 

 しかしシュナの動きは、仮に着物を着ていても優雅に動け戦える歩法を使っていたのである。

 

 

 〝朧流〟、剣術と柔術を含む、オーガの里の武術。

 

 

 開祖は、昔に里に訪れた武士の〝転移者〟荒木白夜(ビャクヤ・アラキ)が伝えたとされている。

 

 朧流柔術にも天牙影千流柔術と同じく着物を着ていても戦える歩法があり、勿論シュナもそれを体得していたのは言うまでもない。

 

 

「ぬあっ、クソ、当たらねえ!」

 

 縦横無尽に繰り出すガイの斬撃。

 横薙ぎから切り返しで、上段斬りを見舞うが。

 

 それを華麗に(かわ)したシュナの扇子の一撃が、ガイの持つ剣を打つ。

 

「はあ!?」

 

 剣は真ん中からポッキリと折れてしまい、変な声を上げるガイであった。 

 

 折れた剣を見詰め呆然としているガイにシュナが――

 

ゴミ(・・)ですね、その剣。アナタは楽に殺しませんよ。確か、Aランクがどうとか言っていましたが、そろそろ本気を出して下さいますか? ルヴナンの〝傭兵(忍び)〟見習いでもそんな無様は晒しませんよ? まさか、剣が折れたくらいで戦えぬとは言われませんよね?」

 

 と、扇子を突き付け、ガイを(あお)る。

 

 するとそこへ。

 

「シュナ~、そいつ既に本気だからぁ、それ言うと可哀そうだぞぉ」

 

 更にガイを煽るように、棒読みで言うツキハ。

 

 

「ク、クソがあッ!! 俺を見下すような目をしやがって魔物風情が、人間様を舐めるなあぁーーーーッ!!」 

 

 激高したガイは、折れた剣を投げ捨て予備の剣を抜いて斬りかかる。

 

 それをスイスイと(かわ)し、身を捻るようにしゃがむと、扇子でガイの足を払う。

 

 パンッと乾いた音が鳴り、ガイが勢いよく背中から倒れ落ちた。

 

「グゲッ!」

 

 背中を石床で強打し、カエルが潰れたような声を上げるガイ。

 

「この鬼女があぁーーーーッ!」

 

 更に怒号を上げ起き上がったガイは、シュナの腹部目掛け鋭い突きを放つ。

 

 それを紙一重で躱したシュナは、扇子をガイの顔の前でバッと開いた。

 

「なッ!?」

 

 視界を(さえぎ)られたガイが、何だ? というような上げた瞬間。

 

 ドスッと鈍い音が鳴った。

 

「ゴブウゥッ!」

 

 何かを吐き出すような呻き声を出すガイ。

 

 視界を遮ったと同時に、シュナの左掌底がガイの右脇腹に放たれたのだ。

 

 ガイは身体を左右に揺らしながら後ろによろめき、手に持った剣をガシャリと落とし、右手で右脇腹を押さえ苦悶の表情を浮かべる。

 

 

「うぅ、ガハッ……」

「何をしてるんですか、通してませんよ?」

 

 冷徹な目でガイを見るシュナ。

 

 通すと言ったのは、〝打振〟の事であり、体内に振動波を完全には打ち込まずに、波紋を優しく広げるように打っただけで、振動波は体内で暴れてはいなかった。

 

 それでもこの威力だったのだ。

 

 もしシュナが本気で〝打振〟を打ち込んだのなら、ガイの内臓は破裂していただろう。

 

 

「シュナって格闘技も得意だったんだ。あれさ、天牙影千流の打ち方の〝打振〟じゃないか?」

 

 リムルがシュナの放った掌底を見てポソリと言うと、ベニマルがそれに答える。

 

「ええ、ハクロウから柔術を学んでいますし、ここ最近は、シオンとサンコの組手を良く見に行ってましたね。後、ツキハ様やコハク様に何やら聞きに行っていたようですよ」

「へえー。あれ、見て覚えたんだ」

「多分そうでしょうね。大したものです」

 

 どこか誇らしげに言うベニマルであった。

 

 

 ガイは鎧の重さが(あだ)となり、しかも背中を強打した為慌てて起きようとするも上手く動けずにいた。

 

 そんなガイを見もせずにシュナは、背を向け数歩歩くとガイに向き直る。

 

 そして、その可憐な口から漏れ出る声は、呪文の詠唱。

 

 

 ――神へ祈りを捧げ給う 

 

 ――我は望み 聖霊の御力を欲する

 

 ――我が魔力門を開き 更なる高みへ

 

 

 ここでシュナは扇子を口に咥えると、印を素早く六つ切る。

 

 〝忍魔術〟で体内の魔力回路を操作し、行使する魔法の精度を高めていく。

 

 

 パンッ! 眼前で両手を叩き合わせ、口に咥えた扇子を右手に取り、真横に右腕を伸ばしバッと勢いよく扇子を開く。

 

 左手の人差し指と中指だけを立てて、残った指は握り込み口元に構える。

 

 

 ――我が願い 聞き届け給え

 

 

 それは祈りとなり、時間と空間を超え、リムルに届く。

 すぐ後ろにリムルはいるが、そんな事は関係ない。

 

 

「な? なにいッ!?」

 

 ようやく立ち上がり驚愕するガイを、無情なる積層型魔法陣が囲い込んでいく。

 

「ちょっ、ま、待てッ!! これは、この魔法は、やめろおおおおぉーーーーーッ!!」

 

(ああ、ガイはこの魔法を知っているのか。Aランクの壁を越えたのは伊達ではないみたいだね。まあ、知っていたところで、対処は不可能なんだけど。もう、積層型魔法陣に捕らわれたし、逃げるのも無理だね。しかも、〝忍魔術〟で魔法の精度を高めてるしねぇ。威力も上がってるんじゃないかな。どっちにしろ、耐えるのも防ぐのも無理だ。それ、神聖系最強魔法なんだから)

 

 憐れんだようにガイ見るリムル。

 

「や、やめ、やめ、ヒ、ヒイィ――ッ! やめて、やめてくれぇーーーーーーッ!!」

 

 絶叫するガイの声も空しく――

 

「――万物よ尽きよ! (はな)て、〝霊子崩壊(ディスインテグレーション)〟」

 

 ――呪文は唱え終わり、シュナが扇子をパチッと閉じる。

 

 ガイの足元から光の奔流が、クワアァーッと(まばゆ)く立ち昇り、全てを消し去った――

 

 かに見えた。

 

 

(あっちゃあ、シュナのヤツ、本当に()っちゃった?)

 

 リムルがそう思ったが、そうではなかった。

 

 

「ヒ、ヒクッ、ヒグッ、ヒッグ、ウワ、ウゥッウウゥゥ」

 

 光の奔流が消えた後、そこには白いトランクスタイプのパンツだけの、パンイチ姿のガイがいた。

 

 腰が抜けたのか、床にペタンと座り膝を抱え込んで、幼児退行したように涙と鼻水を垂れ流し泣いているガイ。

 

「あら、私の腕が未熟(・・)だったから、魔法が不発だったみたいです。練習中の魔法なんて使うものじゃありませんね」 

 

 ニッコリと笑い、そう言うシュナ。

 

(いやいや。鎧と服だけを〝霊子崩壊(ディスインテグレーション)〟で消し去るなんて、完璧に制御しないと出来ない芸当だからね!)

 

 シュナの言葉に、心の内で突っ込みを入れるリムル。

 

(しかしなぁ、〝忍魔術〟で印を切って精度を高めて制御したんだろうな。アダルマンと協同で<神聖魔法>の研究を任せたけども、こんな短期間で最高難度の魔法を習得して、更に〝忍魔術〟までも応用するなんて、魔法に関しては凄まじく有能だな。恐らくユニークスキル『解析者(サトルモノ)』による補助が優秀なんだろう。ほんと、良く頑張ったな、シュナは)

 

 シュナの成長を喜ぶリムルであった。

 

 そこへ。

 

「あれ、あたしらの術を盗んだよね?」

「せやなぁ。授業料をもらわなあきませんなぁ」

 

 と、クスクス笑いながらリムルを見るツキハとコハク。

 

「うっ」 

 

 冗談とわかってても、何故か二人から視線を逸らすリムルである。

 

 

 こうしてシュナは、アッサリとガイを倒したのだった。

 

 

 残るはライナーだけだが。

 

 結果はお察しの通りである。

 

 

「ラ、ライナー卿! 何を遊んでいるのですか!?」

「さっさとその生意気な女を黙らせろ。貴様は魔王と番外魔王も倒さねばならんのだ、遊んでいる暇などないんだぞ!!」

 

 状況の理解が出来ていないギャバンとエルリックが、ライナーに向けて吠えたてる。

 

 

 だがしかし、ライナーは動かない。

 

 いや、動けなかったのだ。

 

 

 既に構えさえ取っていないヒナタの圧倒的な(プレッシャー)に、完全に萎縮していたのである。

 

 トンッと肘で押されただけの行為が、自分では絶対に到達出来ない領域だと悟ってしまったのか、ライナーは完膚(かんぷ)なきまでに心を折られてしまう。

 

「あら、来ないのかしら? なら、こちらから行くわよ?」

 

 そう言い、ヒナタが一歩足を踏み出すと。

 

「あ、うわぁあー、あっ、あ、ぁぁ……」

 

 何とも情けない叫び声を上げて、構えていた剣を床に落とすと、ガクンとその場に両膝を着くように床に崩れ落ち。

 

 両手はだらりと下げ、顔を上に向け、口からは泡を吹き白目を剥いて、ライナーは気絶していた。

 

 更に、股間からは(おびただ)しい湯気を上げる液体が駄々洩れであった。

 

 

「あ~らら。小便チビってやんの」

「チビると言うよりな、あれは盛大なお漏らしやで。自分がお漏らしして、どないすんねん」

「だよな~。自分が漏らしてるようじゃねぇ」

 

 もう何だろうねという雰囲気満載でツキハとコハク、リムルが言い捨てる。

 

「なっ、ライナー卿!? ライナー卿?」

「ど、どうしたというのだ? 最強である貴様なら、聖人ヒナタとて敵ではあるまい? 立つのだ、ライナー。立たぬか、貴様ッ!」

 

 現実が全く見えていない二人は、気絶したままのライナーに必死に呼びかけていた。

 

 

(ガイもライナーも駄目だな。相手するのも馬鹿らしいわ。さてと、そろそろこの茶番も終わりにするか)

 

 そう思ったリムルは、一回席で起立している議員をゆっくりと見回した。

 

 最早(もはや)、挙動不審に(おちい)ってるエルリック。

 

 エルリックの隣には、〝緑の使徒(ヴェルト)〟の一行が寄り集まっていたが。

 

 リムル達とは敵対するつもりはないとアピールするように、自然と少し間を空けていた。

 

 

「さて、エルリック――王子殿下だったかな? お前は俺と番外魔王の二人に喧嘩を売った訳だが、今後どうするんだ? まだ続けるつもりなのかな? 番外魔王の二人を本気で怒らせたら、俺は何も出来ないぞ?」

「あ、いや、それは……」

「それと、そこの君達。君達の祖国も、当然だけど君達の行動を承認しているんだよね? 同罪って事で、いいよね? それに、ルヴナンの報復があったとしても、それは俺の与り知らぬ事だからな。そこのところを理解しているのかな?」

「い、いや、それはですな、その……」

「お、お待ち下さい、リムル殿、いや、リムル陛下――」

「発言を、発言をお許し頂きたい!!」

「違うのです。これは、何かの間違いなのです!」

 

 ソウエイによって立ったまま拘束された議員達に出来るのは、必死になって慈悲を乞うだけ。

 

 しかし、リムルはそんな声など気にも留めはしない。

 

 

(しかし、見事にお粗末な策だったな。こんな雑魚では魔王はおろか、その配下すら倒せないよ)

 

 もうこうなっては、彼等には何も出来ない。

 

 リムルの優位性はここに確定したのだ。

 

 美少女容姿のリムル、それに同じく美少女のコハクに可愛い少女のツキハが、悠然とした態度で大の大人を圧倒する図。

 

 (はた)から見れば、さぞや滑稽な事だろう。

 

 己の力を過信した〝自惚(うぬぼ)れ者ども〟の末路は、あっけない幕引きとなったのだった。

 

 

(まあ、俺を怒らせて、ついでにツキハとコハクも怒らせて手を出させるのが目的だったんだろうけど……)

 

「さて、それではこの落とし前を――」

 

(いや、待てよ? 今回、大半の議員が〝精神干渉〟を受けていた……〝欲望〟を刺激された議員達。もし、あのままだったら、過半数の賛同を得て、エルリックの提案が可決されていた。すると、間違いなくルヴナンは報復行動に出るだろう。そうなれば俺の対場は悪くなる、いや最悪を通り越して、西側諸国の殆どの国々が俺達の敵に回る。内情がどうであれ、議会で承認された事を覆すのは困難だからな。だが、こんなお粗末な結果になったのは、ルヴナンの膨大な調査資料と智慧之王(ラファエル)さんがいたからだ。でも何か、こう……)

 

 結果はリムルの思惑通りに進んだが、どこか腑に落ちない感が拭えないリムルだった。

 

  

 そこへ――

 西方聖教会の屋根で置物のようになっているリンコが、何かを捉える。

 

【挿絵表示】

 

 

(……後方二時の方向……微かだけど、異様な殺気を放つ者が一人。議会場から二キロ離れている。これ、プロだ)

 

 リンコは静かに身体を後ろに回し、スコープを覗きながらターゲットを探す。 

 

(……いた。女の人?)

 

 リンコの位置から更に一キロ離れた、三階建ての宿屋が連なる一つの屋根の上に、その者は立っていた。

 

 まだリンコは気配を周りと同化させ隠しているので、その者には気付かれてはいない。

 

 リンコはやおらコハクに『思念伝達』を飛ばした。

 

『コハク様、出ました、女の人です。撃ちますか?』

『いや、ちょい待ち。その女、背後関係を吐かせなアカンから、殺すんやないで』

『また無茶な事を。プロですよ、その人』

『でも、()れない相手ではおまへんやろ、リンコ?』

『えぇ~、もう帰りたいんですけど? 帰っていいですか? 強いですよ、あの女の人』

『ふふっ。それがわかってはるなら、よろしおす。最悪誰が狙われようと、うちとツキハにリムルがさせまへんで。とにかく、うちの指示を待ちなはれ』

『はあ~い』

 

 そこでリンコの『思念伝達』は終わる。

 

 

(本当の狙いは、どこだ……。俺を狙うのか、もしくは他の誰かを……) 

 

 リムルが警戒を露わにすると――

 

 

「周囲に、邪魔者はいない、か。さあて、()るさね」

 

 女は右の太腿(ふともも)に付けたホルスターから拳銃を引き抜くと、スライドを少しだけ引き、弾が薬室に入ってるのを確認する、と。

 

 

 女の殺気が、全開になった。

 

 

『リムル、来たで』

《告。殺意を感知しました。対象は、個体名:エルリックです》

 

 

(ヤバイ!)

 

 リムルも『魔力感知』で、その殺意を(とら)える。

 

 

 

 そして、リンコが呟いた。

 

(あ、あれ、ワルサーP99だ)

 

 

 

 

 






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