忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
何ッ!?
二キロも離れてるところからの、狙撃だと?
リムルの『魔力感知』に映るのは、ちょっとワイルドな赤毛の女。
その手には、黒い物体――拳銃が握られていた。
(はあっ? この距離で拳銃って!? 完全に有効射程外だろ!)
《解。正式名称ワルサーP99――九ミリ・パラベラム弾使用のマガジン弾数十五発+
(うん。拳銃の有効射程はもうわかってるんだけども、わかってはいるけど……)
そう、リムルが疑問に思ったのは――二キロも離れているのに、何故、拳銃なのかだった。
今リムル達がいる会場は、イングラシア王国の中央付近に位置している。
特別警戒区域に建てられていて、その壁には魔法対策まで施されており、生半可な攻撃では破壊も困難なほどに頑丈なのだ。
ならば、せめて大口径の狙撃ライフルか、極端に言えば大砲を撃ち込んだ方が確実である。
だがしかし、それ以前に撃ち出された弾丸は、様々な自然現象の影響受ける。
先ずは風――風力、追い風や向かい風は、高低や飛距離に影響し、横風になると弾丸が流される事も考慮しなければならなくなる。
次に重力――弾が放物線を描いて落下する原因でもあり、長距離になるほど落下量は増える。
更に、コリオリ効果(自転)、 超長距離(通常、1,000m以上)射撃において、惑星の自転によって弾道が左右に
そして、気温と気圧差――空気密度、気温が高い、あるいは気圧が低い(高地)と空気が薄くなり、空気抵抗が減るため弾が遠くまで届きやすくなり、逆に低温、高気圧下では弾が失速しやすい。
他には――湿度は、空気の密度にわずかに影響を与え、光の屈折を起こし、地面付近の温度差が生じる事により陽炎が発生し、ターゲットが実際の場所とは違って見える現象を引き起こす。
更に天候なども、雨や雪なども視界を遮り、弾丸の速度や弾道に影響を与えてしまう。
これら全ての複雑な自然現象の影響を計算して、狙撃を行うのである。
だから、リムルが元いた世界における現代狙撃は、軍や警察も含め、射手と観測手の二人一組が基本になっている。
観測手――スポッターは、特別な観測機のスコープであらゆる自然現象の計算を行い、ターゲットまでの位置を割り出し、凄まじく精密な狙撃データを導き出すのだ。
超長距離の狙撃を成功させるには、このスポッターの役割が不可欠であったのだ。
だが、この世界では、
例に挙げると、リンコの権能:弾道予測は、この複雑な自然現象を含めた計算を精密に行う。
だから、一人で正確なスナイピングが出来るのだ。
この世界では、観測機器などで得ていた情報などが、
(どうやって、エルリックを狙うんだ? 貫通弾? 魔法障壁に弾かれる。魔力弾? それも結果は同じ……じゃあ、空間系とか――)
リムルがそう思った瞬間――赤毛の女が拳銃を撃った。
それと同時にリムルは、『思考加速』を発動させる。
引き延ばされた時の中、コマ送りのように弾丸が発射されたのが視えた。
秒速四百メートルを超え音速に達した弾丸は、突如として現れた直径五センチほどの黒い穴に――
(――えっ!?)
リムルが驚くと同時に吸い込まれていく。
《告。『空間移動』の一種で、あちら側とこちら側を繋ぐ『空間連結』です》
距離が比較的近くて、繋げる範囲が狭いから、それほど大きな労力を必要とはしないだろう。
同じくして、リンコもスコープ越しにそれを確認して、『弾道予測』が弾丸の行く先をリンコに示す。
(ちょッ、弾丸が消えた!? ヤバぁ、もしかして空間操作系の狙撃とはね。あららぁ、これ、間に合うの?)
空間系の
赤毛の女は、『魔力感知』で空間を把握していた。
そして、エルリックの直近に弾丸が出現するように狙い澄まして、
その結果、二キロという距離や外壁を無視して、空間狙撃による暗殺が成功しようとしていた。
エルリックの頭部横五十センチの位置に、先ほどと同じくらいの大きさの黒い穴が出現した。
黒い穴から弾丸の先が少しづつ飛び出して来る。
引き延ばされた時間の中で、徐々にその姿を現す凶弾。
それを、ゆっくり、ハッキリと、認識するリムル。
(クソッ! どうするッ!?)
この状況で打てる手はなかった、リムルが今動くにしても、声をかけようにも間に合わない。
「大丈夫や」
コハクがそう言うと、黒い穴の前に小さな〝呪符〟が、数枚出現し、瞬時にエルリックの頭の周りをぐるりと囲んだ。
更にそこへ――
《――問題ありません。
(えっ、〝呪符〟? 『
などと思いながらも、
《起動》
コハクの〝呪符〟は、万が一の為の保険だったのだ。
「――ッ!? 無事、なのか?」
血相を変えたヒナタが、エルリックに駆け寄りそう聞く。
議員達以下、〝
しかし、何も言わずにエルリックの無事を確かめる。
問われたエルリックは、全く状況が理解出来ずに、呆然としたままだった。
この状況に気付いた者は、少数のみ。
しかし、魔法警戒網には引っ掛かったようで、建物内にけたたましい警報音が鳴り響く。
これにより、会議は一時中断される事になったのである。
◆◆◆◆◆
「ソウエイ、犯人を確保しろ」
「既に『分身体』が向かっています」
リムルがソウエイに
『リンコ。ソウエイを援護しなはれ。殺したら、アカンで』
『りょ~か~い』
コハクもまた、リンコに
リムル達は議員が落ち着きを取り戻すまで、成すべき事を行う事にした。
そんなリムル達の横でも、状況検分が始まっている。
「まさか、このような小さなもので人を?」
「それは、弾丸と言うの。私達の身近にはなかったけど、それを撃ちだす為の道具が必要なのよ」
「では、犯人の狙いはエルリック殿下なのか。目的は……」
「言うまでもなく、魔王リムルと番外魔王ツキハに番外魔王コハクを陥れるつもりだったのでしょう」
「確かにのう。あの状況でエルリック殿下が殺害されておれば、疑いの目がリムル陛下、特に番外魔王の御二人に向くのは必定であった。そうなると、
「まあ、それが本当の目的だったのでしょうね。踊らされた馬鹿共は、捨て駒として利用されていたのでしょう」
状況検分で話し込んでいるのは、警備隊の隊長に、〝
エルリックの身柄は保護されるが、今回議会を騒がした事で、追って沙汰が言い渡される事になるだろう。
「わ、私は、ず、ずっと命を狙われるのだろうか? ルヴナン……もし、ルヴナンに命を狙われたら、私は、どこに逃げればいいのだ……」
完全に
今になってルヴナンの恐ろしさを思い出すのは、平和ボケも極まれりと言った事かも知れない。
「まあ、大丈夫だと思うよ。お前――失礼、エルリック殿の命を奪い損ねた時点で、何者かの思惑は
リムルは、今更自分に罪を被せるのは無理だし、そうするとエルリックの利用価値は失われたと考える。
「し、しかし、私は大国の王子で、王位継承権第一を持つ身で、利用価値は――」
まだ自分には利用価値があると、そう言ったエルリック。
そこへコハクが。
「――んなもん、あらへん。こんな馬鹿をしでかした時点で、真っ当な王なら、その者の王位継承権剥奪及び城の一角に死ぬまで幽閉やろ。ここの王が、自分の息子であるアンタにどんな沙汰を申し付けるかはわからへんけども。普通なら、そうなりますやろなぁ。ほんま、しょうもない。曲がりなりにも
「は、破滅、この私が……」
と、エルリックに対して既に興味を失っているコハクは、感情もなく冷たく言い捨てる。
イングラシア王国の王子であれ、流石にここまで馬鹿をしでかしたら、コハクの言う通り、即位は絶望的であろう。
「ま、王になるだけが人生じゃないって。何らかの形で今回の件の償いをしなければならないだろうけど。その後は、まああれだ、ゆっくりと自分の人生を見詰め直したらいいんじゃないか? 俺だって、成り行きで魔王になっちゃったけどさ、本当はツキハやコハクみたいに自由気ままにやりたかったんだよ。だからといって、悪に徹する訳ではないけども、必要なら悪にもなるぜ、俺は。でもな、なった以上は仕方ないし、せいぜいその地位を利用するさ」
「フフッ、魔王が私を、僕を慰めてくれるのか? 番外魔王とは違うのだな。魔王とはもっと怖くて、人に仇なす存在だと思っていたよ……」
「別に慰める気はないけどね。俺は魔王だけど、基本平和主義者なんだよ」
そう言うとリムルは、エルリックを含めて議員達を見回し。
「それとだ、一つ言っておく。他の魔王達は、俺ほど寛大ではないからな。そこのところは君達が、一番よく知っているだろう? 番外魔王の二人が、その典型的な例だよな。君達が言う、人に仇なす魔物、それが番外魔王の二人だ」
ここでまた、リムルは議員達を見るも、誰一人として反論をしなかった。
「ルヴナンとの契約は、俺達に利があるからと判断したから契約をしたまでだ。勿論、ルヴナン側も利があると見て、俺達との契約を了承した。俺も番外魔王の二人を、ルヴナンを利用しているし。ルヴナンも俺を、我が国を、利用している。お互いに、そんな関係でしかないんだよ、本当にね。だから、ルヴナンに対して俺に過度の期待をされても困るし、何も出来ないのが実状だぞ。ルヴナンを敵に回したいのなら、そちらで勝手にやってくれ。俺達を、俺の国を、巻き込むんじゃねえよ」
最後の方は少し語気を荒め、釘を刺すリムルであった。
それを聞いたエルリックは、ガクリと肩を落とし、観念したように大人しくなる。
甘い言葉に
しかし、そこには情などは存在せず、ただ魔王としての自分がいるだけであった。
「騙された僕が、愚かだったのだな。ギャバンよ、責任は取らねばなるまい」
「で、殿下!? な、何を?」
「計画を持ち掛けたのは、お前であろう。無論、口車に乗った僕も罪に問われるだろうが、貴様も覚悟を決める事だな、ギャバン伯爵よ」
エルリックは観念したらしく、素直に警備隊の者に従っている。
そのギャバンも警備隊の者が後ろに付き、最早、逃げ道などどこにもなかった。
今回の騒ぎの黒幕はギャバンである事は間違いないのだが、その後ろには、真に糸を引く者がいる事もリムルはわかっていた。
今この場にいるギャバンでさえも、捨て駒だと。
後は、赤毛の女を確保して背後関係を吐かせれば、全容がわかるだろうとリムルは考えた。
「それで、ギャバンさん。一つ、お聞きしたい事があるのですが?」
「な、何じゃ? 魔王がワシに、何を聞きたいと言うのじゃ?」
この期に及んでも、ギャバンは威厳を保とうとする。
「エルリック王子を
リムルは穏やかなれど、有無を言わせない迫力を纏っていた。
それでもギャバンは、誤魔化しの言葉で逃げようとする。
「はてさて、何の話なのやら。知らんな。ワシは、何も知らぬ」
「な、何を言う! 貴様が私を――ッ!?」
「はて、証拠は? ワシは確かに、王子殿下に頼まれてこの場に誘いました。しかしですな、まさかこのような真似を企んでおったとは。いやはや、全く驚きですな」
「ギャバン殿、そのような言い逃れは通用せぬぞ。私もそうだが、この場にいる議員全てが証人となろう」
ヨハンがギャバンの言い逃れを封じるも、ギャバンは悪あがきを
誰もがもう無理だろうと見ていても、ギャバンは
「フンッ、知らぬものは知らぬ! ワシは、本当に知らぬのだ。王子殿下が全てを計画し、ワシはそれに従っただけだ!!」
「馬鹿なッ! 口から出まかせを言うな!
「はてさて、何を
あくまでも
(う~ん。そこまで言うとこをみると、証拠は残してないんだろうな。証拠がなければ、罪人として扱うのも、困難か)
リムルがそんな事を考えていると。
「ああぁ~、もう」
ツキハが立ち上がり、もの凄くめんどくさそうな溜息を吐く。
そして、ギャバンの方を見ると。
「おい、オッサン」
「お、オッサンだと? 貴様のような小娘に――」
「うるせえよ」
「ヒッ」
オッサン呼ばわりされて反論すると、目の
こんな事で茶々を入れるツキハではないのだが、あまりにも悪あがきがみっともなくて、癇に障ったのだろう。
「たかだか何十年しか生きてねえ小僧に、小娘呼ばわりされる言われはないわ。ねえ、アンタ、証拠と言ったな?」
「ああ、言った。証拠を出せないようならば、ワシを主犯とは断定出来ぬであろう。薄汚い人類の敵、番外魔王めがッ!」
証拠はない、その自信からギャバンは、ツキハに暴言で返す。
すると、ツキハは一度顔を伏せて、スッと上げると。
ニヤーッと悪辣な笑みを
その笑みは、十七歳の容姿の少女が浮かべる笑みとはかけ離れていて、見られているギャバンは、心底怖気が来るような感覚に見舞われ、額に薄っすらと脂汗を滲ませ、ゴクリと唾を飲み込む。
「証拠ねぇ。あたしらは、銭にならない事はやらない主義なんだけど。でもな、ほんと舐めてやがるし、ちょっとムカついたから、殺す代わりに、ほれ――」
そう言うとツキハは、
コン、コココンッと、水晶球は床を跳ね、ギャバンの足下まで転がっていき、コツンと足先にあたり止まる。
ギャバンはそれを一度見て、ツキハに恐る恐る視線を戻すと。
ツキハは
ギャバンは躊躇するも、それを拾うと、水晶球からいきなり音声が流れだす。
――王子殿下 この度は このような場所にお呼び立てして申し訳ありません
――うむ して 何用なのだギャバン
――はい 今日はこれを見て頂きたく ここに御招待した次第で御座います
――む!? 何だこの首飾りは?
――これは〝
――何と!
――とある ところからとしか今は言えませぬ しかしですな これを使えば あの魔王リムルを飼い犬として支配できます故 皆まで言わなくても 賢明な王子殿下なら 察せましょう?
――フッ では聞こう 貴殿は私に 何を願うのだ?
――お話が早くて 嬉しく思います 王子殿下
水晶球から流れ出る音声に、ギャバンの顔は真っ青になり、目が視点を結ばない程にグリグリと動く。
プルプルと震える唇が、怒りに任せて反論を叫ぶ。
「出まかせだ! これは、ルヴナンによる工作だ! おのれ番外魔王、ワシを罠に嵌めるとは、どこまでも卑劣な魔物。皆様、真の犯人は奴だ、捕えよ、番外魔王を捕らえるのだッ!」
ツキハを指差し、捲し立てるギャバン。
どうみても苦しい言い訳に、議員の誰もがギャバンに向けて冷ややかな視線を送る。
そんな中、コハクが右人差し指をクイクイッと動かし、一瞬だがキラリと光る極細の糸みたいな物が見えた。
その極細の糸は、コハクが魔素と魔闘気で作り出した〝念糸〟で、何かを手繰り寄せるように動かしたのだ。
(え?)
リムルは偶然にも、ある〝物〟が一瞬消え、また元の姿に戻るのを見てしまう。
(あれって……まあ、いいか)
コハクが何をしたか
そしてツキハは、ギャバンに
「クックックッ。アンタさ、密談御用達の高級酒場を持っているよな?」
「なッ!? 何故、それを……」
「表向きは大商人の所有する店だ。巧妙に隠してはいるけど、裏で資金を提供して店の実権を握っているのは調査済なんだよ。そうそう、その大商人も、アンタの子飼いの商人だったよな。色々と便宜を図り、融通してもらってるよな? 闇取引もかなりやってて、ほんと、真っ黒だな、アンタ。ねえ、まだ言おうか?」
「な、な、ッ……」
ツキハから次々と暴露されて、絶句するギャバン。
何か言い返したくとも、その言葉が見つからない。
「悪はさ、結局悪に喰われるんだよ。もう、逃げ場はないんだ。悪党なら悪党らしく、覚悟を決めな。あたしからしたら、アンタは小悪党にも満たないよ。策を
そう言うとツキハは、一旦言葉を区切り、腕を組み首を少し右に
「策を持ち込むんなら、その策を持ち込んだ奴を上回るくらい狡猾になれよ。利に聡いだけじゃ、悪党にはなれないよ。馬鹿じゃあ、真の悪党にはなれない。ただの利用される、駒だ。あたしらはね、千年以上も悪党をやってんだ。こんな策なんて、笑いしかでないわ。そんなんだから、あっけなく利用されて喰われちまうんだよ、アンタは。せめて、もう少し遊べるかと思ったんだけどなぁ。ほんと、残念だよ、小僧」
さんざん言い尽くしたツキハは、はあーっと深い溜息を吐き、どこか臆病な小動物を見るような目でギャバンを見る。
「ワ、ワシも、捨て駒? そんな、馬鹿、な……」
完全に絶望したかのように、ガックリと頭を下げ、虚ろな目で自分の足下を見るギャバン。
ツキハは、そんなギャバンから目を離すと、何故か
(はあ? 何だ、その薄気味悪い笑みは……?)
ヨハンは、何でツキハがこちらを見たのか訳が分からず
そこへ、ガコンッという重々しい音と共に、突然扉が開け放たれた。
「エーギル陛下のお成りである! 一同、その場に控えなされぃ!!」
近衛があらん限りの大声で叫び、その声に反応した者達がその場に控える。
ツキハは腕組みをして立ったまま、コハクは椅子にふんぞり返ったまま。
議会に喧嘩を売られた形であったので、大国の王であろうと、ツキハとコハクは遠慮はしない。
リムルがつられそうになったが、シュナが素早く止めて事なきを得た。
もしもリムルが
後は、リムル達を除いて、大半の者がその場に
ヒナタは、王に対して敵意はないと表す為右手を胸にやり、軽く頭を頭を傾斜させ、礼を示す。
評議会の議長も、ヒナタと同じように、礼を示した。
流石は大国の王といったところだろう。
イングラシア国王エーギルは、ソウエイに拘束されて動けずにいる議員達を
そして、興味なさそうに視線を戻し、リムルとツキハ、コハクを見る。
(へえ、中々の美中年だね。ふさふさの金髪に、カイゼル
国王の姿を見て、そんな感想抱くリムル。
「余の息子が迷惑をかけたようだな」
「まあね。でも、誤解は解けたみたいだよ?」
「そうか」
リムルとしては、大袈裟にするつもりはなく、人類社会に受け入れてもらえるなら、多少の無礼には目を
ただし、ツキハとコハクを怒らせてしまった結果がどう出るかはわからないので、成り行きを見守るしかないリムルであった。
次に、エーギル国王は、椅子にふんぞり返ったままのコハクの前に行き。
「番外魔王。
大国の王が番外魔王に頭を下げた事で議員達がざわつくが、エーギル国王は敢えてそれを無視する。
椅子の肘掛けに右手で
「へえ。もう少し、世間の厳しさを教えなあきまへんで、エーギル王。何なら、うっとこと、戦争をしはりますか?」
妖艶な笑みでそう言うコハク。
戦争とコハクが口に出し、その場にいる議員達は目を剥いて固まってしまう。
「お
「ふふっ。さよか、ええやろ。今回だけは、引いてやりますえ。でもな、それなりの対価は頂かんとあきまへんなぁ」
「承知した。それなりの対価を支払おう」
戦争と言う言葉をアッサリ受け流し、コハクの要求に応じるエーギル国王であった。
コハクとしては、あくまでもリムルが今回の主役であり、これ以上事を荒立てるつもりはなかった。
だから、エーギル国王が謝罪を口にした事で手打ちにしたのだ。
そして、エーギル国王はリムルに向き直ると。
「王ではなく父として、謝罪と感謝を告げたく思う」
エーギル国王はリムルに軽く頭を下げた。
国王自ら頭を下げたのだから、リムルもこれで手打ちにした。
「許すとも。だが、次はない」
「うむ、心得ている。余としても、良い関係を築きたいと思っているのだ」
そう答えるエーギル国王の視線は真っすぐで、嘘偽りのない言葉に見えた。
(ここは素直に信じるとしよう。裏切られたなら、それはそれで、後から考えればいいさ)
リムルは表情を緩め、ニコリと笑うと。
「それじゃあ、今後とも宜しく」
「こちらこそ」
そして、リムルとエーギル国王はガッチリと握手を交わした。
余談だが、この後にイングラシア王国はかなりの大金を迷惑料としてルヴナンに支払ったと、リムルは聞かされたのであった。
とにもかくにも、この騒動は一件落着をしたのである。
「一同、
その声で、一斉に顔を上げる一同。
この場のやり取りは隠せもせず筒抜けであるが、公式ではないと暗に物語っていた。
それもその通りで、一国の王が軽々しくも頭を下げるべきではないのだ。
ましてや、人類に仇なす魔物と言われる番外魔王に対して、謝罪の言葉を口にするなど
番外魔王、ルヴナン、これは先代国王から、絶対に番外魔王の二人の怒りに触れてはならぬ、ルヴナンも同様に絶対に利用してはならぬと、等々と言い利かされ、その怖さを知っているからこその謝罪だったのだ。
リムルへの謝罪も含め、これは、エーギル国王としても苦肉の策だったのだろう。
そして、エーギル国王はエルリックの前に立つ。
「ち、父上……」
「良い。貴様には、再教育が待っておる。バカモノガ」
最後はエルリックにだけ聞こえるように言い、エルリックは
「――はい。承知しました」
「うむ」
そう頷くとエーギル国王は、ギャバンへと視線を向けた。
「ギャバン伯爵」
「ハ、ハッ!!」
「証拠がどうとか言っておったな。既に、番外魔王から暴露されてしまっておるが、余が出張らぬと思うて、甘く考えたか?」
「い、いえ、決してそのような事は……」
「番外魔王も言っていたであろう。悪党なら悪党らしく、覚悟を決めよ、ギャバン伯爵」
「うっ……」
「へええ、エーギル国王、聞いていたんだ。食えぬ王様だ。ククッ」
「フッ。悪党の上前を堂々と
ツキハとエーギル国王は、口元に薄く浮かべた笑みを交わし合う。
「ギャバン伯爵。魔法審問官呼んである。卿の処遇は、彼等に任せるとしよう」
「げえぇ!?」
それを聞いたギャバンは一気に取り乱して、王に取り
「お、お許しをッ! 全て、全て話しますので、
「連れてけ」
「「「ハハッ!!」」」
近衛が目線で合図するなり、王を護衛する騎士達がギャバンを取り押さえる。
「い、嫌だあぁーー!! ワシは行きたくない、放せ、放せえぇーーッ!」
騎士達に連行され、扉の向こうに消えたギャバンの叫び声が、廊下に空しく響き渡る。
「ライナー殿、それにガイ殿。卿等にも出頭して頂きますぞ」
エーギル国王がそう告げると、騎士達はライナーとガイを引き立てる。
「止めろ、放せ!」
「クソッ、俺を誰だと思っている!?」
騒いで抵抗しようとする、ライナーとガイ。
「来たよ」
「来はりましたな」
猫耳をピクピクと動かし、ツキハとコハクが言うと。
黒頭巾達が議会場に入って来た途端、ライナーとガイは急に大人しくなった。
ライナーとガイが抵抗しようとも軽々と押さえつけていた、黒頭巾。
二人を赤子扱いのようにしている事から、黒頭巾達が只者ではないのは明白だった。
(なるほど、ね。コイツらが魔法審問官とやらなのか。流石は大国と言われるだけあって、中々にヤバそうなのを飼っているじゃない。怖い怖い)
リムルは、どこかお道化たように呟く、と。
《告。示威行為の一種でしょう。
(つまり、舐めるなよ? って事だよね。まあ、わかるわ。ライナー程度が最強ではないと明言する事で、イングラシア王国としての対面を保つ訳だな)
《是》
(王様も大変だねぇ。しかし、椅子にふんぞり返ったままのコハクには、驚いたわ。立ったままで腕組みしてるツキハにもな。本当にアイツ等らしくて、笑いが出るわ。大国の王であろうと、舐めた真似をしたら許さんぞという雰囲気満々だし。そんな番外魔王や魔王相手に、足下を見られるぬように、必死に色々と画策しなければならないなんてな。しかしあれだ、エルリックの策が成功していれば、俺を支配してツキハとコハクを抑え込み、イングラシアの覇権を確かなものにする気だったくせに。まあ、ツキハがとっくに見抜いていたのは、面白かったな。
色々と思うところがあるリムルだったが、とりあえずは良しとする事にしたのだった。
「邪魔をした。後の件は、我が国に任せてもらおう」
そう言い残し、エーギル国王一行は去って行った。
(あ、〝
アレは悪用されると面倒なのだが、偽物を掴まされたと気付いたエーギル国王の顔を思い浮かべ、リムルはプッと吹き出しそうになる。
ある意味、一番ヤバイところへ行ったのは黙認するリムル。
とにかくにも、リムルはこれ以上は出しゃばるつもりはないので、そのまま大人しく見送ったのだ。
その後、休憩を挟んで議会が再開した。
午前とは打って変わり、もはや議員達に元気はない。
心底疲れたような議員達を置きながら、重要な議題が次々と可決されていったのである。
一・
一・
一・
重要一・ルヴナンに契約等を依頼するならば、自国の裁量で行うべし。
重要一・ルヴナンに関しては、
今回承認させたのは、この五つだった。
有無を言わせず案件を受理させ、問題なく全て可決した。
満場一致で。
今回の場合、結果的には腕力による制圧で問題が片付いた。
手を下したのは、ヒナタと、可憐な少女シュナである。
リムルとツキハにコハクは、最後まで手を出さなかった。
そして、魔王、番外魔王相手に武力行為は無意味――
それを今一度皆が確認してくれたのは、
こうして議会も無事に終了し、リムル達は会場を後にする。
今回巻き起こった騒動の結末は、あっけなく幕を閉じたのだった。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
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