忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。232話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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232話 魔弾の射手

 

 

 グレンダ・アトリー。

 

 

 異世界から〝召喚〟された、美しき元傭兵。

 

 

 この世界に召喚されるまでは、アカデミ(旧ブラックウォーターUSA)である民間軍事会社 (PMC: Private Military Company)に所属していた、傭兵。

 

 中東などの紛争地帯で軍事作戦中に、突如として異世界へ召喚されてしまう。

 

 

 この世界に界渡りを行った際、グレンダはユニークスキル『狙撃者(ネラウモノ)』を得ている。

 

 

 そして、召喚された時から手にしている愛銃ワルサーP99。

 グレンダの持つ最強武器であり期待を裏切らない、物言わぬ鉄の相棒。

 

 既に自身の一部と変化しているようで、整備すらも不要となっている。

 

 これは、明らかにリンコとは似て非なる能力(スキル)

 

 能力(スキル)の質の違いなのか不明だが、リンコは記憶にある重火器を制限付きだが何種類も創造出来るが、創造した銃は定期的なメンテナンスを必要とする。

 

 ただし、例外が一つだけあり、リンコの持つ最強銃であろうリボルバー型魔力式マグナブラスターだけは、メンテナンスフリーで使用出来た。

 

 

 グレンダのユニークスキル『狙撃者(ネラウモノ)』――

 

 この能力(スキル)に含まれる権能は、主に三つ。

 

 絶対的な認識能力である『魔力感知』と、行動結果を読み解く『予測演算』、そして『空間操作』。

 

 

 特に最後の『空間操作』は凶悪な能力(スキル)であり、グレンダが最強である所以(ゆえん)なのだ。

 

 グレンダが認識する空間内ならば、点と点を繋ぐように空間を繋ぐ事が出来る、という事は、視界内が全て有効射程となる訳である。

 

 

 オールレンジ射撃――ターゲットを中心とし、障害物や魔法障壁すらも無視して、目標にあらゆる方向から弾丸を叩き込む事が出来る、グレンダの持つ必殺必中の能力(スキル)。 

 

 重力や空気抵抗、要はあらゆる自然現象を無視出来る為、狙撃銃などなくても超遠距離狙撃を可能とする。

 

 このユニークスキルにより、グレンダは無敗だったのだ、が。

 そう、あの戦いがなければ。

 

 前回の戦いでグレンダは、上には上がいる事を思い知らされた。

 

 

(アレは駄目だね。あんな化け物二人なんて、アタイの手に余る)

 

 一目見るなり、グレンダはその相手の危険性に気付いた。

 

 

 その相手――ディアブロとイチコにはグレンダの持つ拳銃とユニークスキルなど、通じないと。

 

 ディアブロとイチコに、物理攻撃が通じないとか、そういう話ではない。

 

 

 グレンダもまた、リンコと同じように、通常弾と魔力弾を使い分けていた。 

 

 物理攻撃が通用しない魔物相手には、自身の魔力を固め弾丸に変えて、オリジナル魔法として使用していたのだ。

 

 どんな相手にでも戦える万能性を誇り、グレンダには死角などないハズだった。

 

 

 だがしかし、ディアブロとイチコに対しては、勝手が違った――

 

 グレンダの本能が告げたのは、〝逃げろ〟、という脳内で駆け巡る警告。

 

 頼れる『予測演算』が導き出すのは、いかな手段を用いても、〝死〟という文字が脳裏に浮かび上がるのみ。

 

 

 反則級の力を持ってしても、勝利の糸口さえも見えぬ相手がいる。

 

 その日、受け入れ難い現実を前にしてそう悟ったグレンダだったのだ。

 

 

 そして、今――

 

 グレンダは、必殺の殺意を込めて引き金を引いた。

 

 

 グレンダは自身の『魔力感知』の限界ギリギリの距離から、対象の暗殺を決行した。

 

 発射された弾丸は、対象の五十センチの距離に出現し、後は瞬きする間もなく対象の頭は粉砕される――

 

 ハズだった。

 

 

 この五十センチという距離は、実に絶妙だったのだ。

 

 空間を繋げる際、繋げる先の空間に一定以上の質量が重なれば、失敗する。

 

 つまりは、対象が不意に動いた場合、繋げようとする空間が破壊され、撃ち出された弾丸は空間座標と運動エネルギーを失い亜空間内に彷徨う事となるか、間違った方向に出現する可能性があったのだ。

 

 これが、グレンダの持つ『空間操作』唯一の短所であった。

 

 一般的に『空間操作』系の能力(スキル)は、ユニークスキル、究極能力(アルティメットスキル)持ちが持っている事が多い。

 

 しかし、その能力は『空間操作』一つを取っても、その個人の魂の強さや能力(スキル)が持つ特性によって、変化する。

 

 

 一つ例に挙げれば、魔人ラーゼンの手駒であったキョウヤは、『空間操作』系の中でも、空間斬撃を使用していた。

 

 と、このように個人によって色々な力が存在する。

 

 ただし、『空間移動』や『空間転移』は得意な者と苦手な者、または出来ない者に分かれる。

 空間系能力(スキル)を持っていても、その用途は様々なのだ。

 

 シオンは『空間移動』は出来るが空間座標認識が苦手で、魔王ミリムに至っては、めんどくさいから飛ぶ方が早いのだという謎持論もある。

 

 

 さて、ここで話を戻そう。

 

 だからこそグレンダは五十センチ離す。

 

 

 いかな達人でも、近距離に不意に出現した物体への対処は困難。

 

 音速を超える小さな弾丸なら、尚更だろう。

 例外は、超感覚を持つ魔王かそれに準ずる力を持つ者くらいである。

 

 

(あんな化け物は滅多にいやしない、大国の王子なんて楽勝ってもんさね。でもまあ、泣き言なんて言ってもいられないし、次に出会うまでに対策を用意しなきゃね)  

 

 と、そんな風に余裕があったグレンダなのだが、次の瞬間、驚愕する事になる。

 

 

 王子の頭目掛け吹き飛ばそうとする凶弾が、突如として消滅したからだ。

 

 

「なっ、馬鹿なッ!? 一体何が起こったってんだいッ!!」 

 

 あまりにも想定外、通常では在り得ない事が起って、声を上げるグレンダ。

 

 理由はわからないが、直感で魔王、もしくは番外魔王が何かしたのだろうと気付く。

 

 

「アイツ等か! あの悪魔野郎の主と、猫女の主を甘く見てたって訳かいっ!?」

 

 怒りでギリッと歯切りしをした瞬間、もう一発撃つかどうか思案する。

 

 

 ここで運命の分かれ道となる決断を、グレンダは一瞬で下さなければならなかった。

 

 

 完璧な不意打ちが通用しなかったのだから、次弾を撃っても無駄。

 

 それは理解しているが、この時点で暗殺任務は失敗したも同然。

 

 であれば、この失態を、グレンダの主であるマリアベルやグランベル翁は決して許さない。

 

 だから、初弾が失敗した時点で、何があってもすぐさま逃げに転じなければならなかったのだ。

 

 この一瞬の間が、グレンダの命運を決定付けてしまう。

 

 

「フッ、そうだな。貴様はリムル様を舐めている。番外魔王の御二人もな。特に、リムル様を舐めているのだけは許せないし、許す気もない」

 

 いきなり背後に現れた気配に振り向くと、忌々しげに吐き捨てるグレンダ。

 

「チィ、何者だい、アンタ?」

「俺の名はソウエイ。ルヴナンの〝忍び〟とは同じであって同じではない〝忍者〟であり、魔王リムル様の忠実なる〝隠密〟だ」

「へえ、そうかい。それって、ルヴナンのいけ好かない〝忍び〟とは別のって、意味かい?」

「……」

 

 グレンダは驚きを隠しながらも覚悟を決め、ソウエイはグレンダの問いには答えない。

 

(本格的にヤバいね、これは。アタイの名も聞かないところをみれば、アタイを捕獲した後で拷問なり精神操作をして尋問にかけるつもりだろうさ。忌々しいったらありゃしない!) 

 

 心の内で毒づくグレンダは、暗殺の失敗は確定したと判断し、今ここで捕まるのは悪手だとみる。

 

 これ以上の失態を重ねれば、役立たずとして廃棄処分は免れない。

 

 そんな同僚を何人も見て来たグレンダとしては、どんなに無様に足掻こうとも逃亡する事を第一目標として心に設定した。

 

 

 こうしてグレンダは、意を決してソウエイと対峙する。

 

 

「……襲撃を予想してたって事かい? よくアタイを見つけたね」

「フッ――」

 

 グレンダの問いに、ソウエイはそれがどうしたという様な笑みを漏らす。

 

 この戦いは、ソウエイなりに相手を見極めつつ戦うつもりで、リンコには(あらかじ)め最低限の支援だけで良いと『思念伝達』で伝えていて、リンコもそれを了承していた。

 

「――その通り、全てはリムル様の御心の内だ。抵抗するなら好きにしろ、殺す気はない。だが、抵抗すればするだけ痛い思いをするだけだ。それにお前は、ここに現れた瞬間に死んでいたかも知れないからな」

「はあっ!? フザケタ事を抜かすお兄さんだねぇ。ここには、アタイとアンタしかいないさね」

 

 ソウエイにそう言われたグレンダは、表情を隠しつつその言葉の意味を探る。

 

(……『魔力感知』で感知出来る範囲には、殺意も敵意も感じられない。現れた瞬間と言ったね? 伏兵がどこかにいるのかい……。駄目だね、やっぱり感知出来ないねぇ。いや……この感覚は……いる。元いた世界の戦場で感じた、妙に粘り付く感覚と、同じさね……こりゃあ、得物を狙うスナイパーの感覚に間違いないね。まいったねえ、アタイと同じ銃使いがいたとは、驚きだねぇ)

 

 傭兵だった頃にいた戦場で、時折感じる妙な感覚。

 

 そんな時に限って、部隊の誰かが狙撃で()られていた事を思い出したグレンダだった。

 

 グレンダは、自分の身に迫る危険を察知する能力が高かった、そう、感が鋭かったのだ。

 このお陰で、戦場では何度か命拾いをしていた。

 

 そして、この傭兵だった頃の経験が、狙撃者の存在を感じたのである。

 

(気配は、完璧に消しているかい。実質二対一、どうにも笑いが出てきちまうじゃないか。フフッ、楽しいねぇ)

 

 自分が追い込まれているにも拘わらず、内心でどこか嬉しそうに笑ってしまうグレンダは、キッとソウエイを睨むと。

 

 

「そうかい! お優しいこって。じゃあ遠慮なく、アタイは好きにさせてもらおうかね」

 

 グレンダはそう言い返すなり、銃口を下に向けたまま迷いなく引き金を引いた。

 

 タンタンッ! 乾いた銃声が空に響く。

 

(二刀流かい。でも、他にも手の内を持ってると思った方が良さそうだね)

 

 通常弾は既に一発撃ち、今二発撃ったので、残弾数は十三発である。 

 後は、左太腿(ふともも)に付けているマガジンホルスターに二本のマガジンが入っているだけ。

 

 計四十三発の弾丸がグレンダの持つ総弾数である、が。

 

 ソウエイと名乗る鬼人相手に、コレが通用するとは思ってはいない。

 

 魔力弾なら通じるかもだろうがと考えるも、ソウエイを見る限り得体の知れない匂いをプンプンと感じるグレンダ。

 

 そう考えつつ、右手に持った銃を左手に持ち替え、右手で後ろ腰に差している刃渡り二十センチのコンバットナイフを抜く。

 

 

 と同時に、ソウエイの頭を挟む様に黒い穴が出現する。

 

 

 ガキュキュンッ! 壮絶な火花が飛び散り、弾丸が屋根の上にカラカランと転がり落ちた。

 

 黒い穴が出現した刹那、ソウエイが腕をクロスさせ、両手に持つ直刀で弾丸を(はじ)いたのだ。

 

 

「やっぱりかい」 

 

 グレンダは予想していたかのように呟く。

 

 そして、しなやかに無駄のない動きでソウエイに斬りかかったグレンダ。

 

 

 キンッ、キキン、タンッ、キンッ 刃が交わるたびに火花が散り、フェイントで銃を撃つグレンダ。

 

 軍隊近接戦闘術――〝Close Quarters Combat(クローズ・クォーターズ・コンバット)

 

 通称、CQCと呼ばれ、グレンダはこれの達人でもある。

 

 

 グレンダがナイフでソウエイと斬り結ぶ中、拳銃を撃つ。

 

 また一発、空間射撃がソウエイを襲う。

 

 

 しかし、ソウエイは心臓目掛けて来た弾丸を超反応で、またも刃で弾く。

 

 そして、グレンダのナイフ攻撃は全て刀で受け流すか、紙一重で(かわ)していた。

 恐らく、ナイフが危険と判断したのだろう。

 

 それを見たグレンダは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 コンバットナイフに魔力を纏わせ、物理と魔法属性を付与した攻撃も出来る。

 

 これは、魔物相手に有効な手段であった。

 

 物理攻撃が通用しない相手に使う戦法。

 

 空間射撃と組み合わせて、ソウエイに肉薄していくグレンダ。

 

 

 そして、戦う内にソウエイの癖を見抜く。

 

 

(コイツ、無駄を嫌うタイプだね。だったら、案外単純な手に引っ掛かりやすい。その余裕、剥ぎ取ってやるさね) 

 

 そう思うとグレンダは、サッとナイフと拳銃を持ち替え、拳銃を太腿のホルスターにぶち込むと、右手に丸いボール型をしたM67手榴弾(グレネード)を握る。

 

 リング状の安全ピンを口に咥え一気に引き抜き安全レバー飛ばし、二秒待ってソウエイに向かって投げつける。

 

 ドォン! 激しい炸裂音が(とどろき)、爆炎がソウエイを包み込む。

 

 が、ソウエイは素早く後方に飛び退(すさ)って回避した後だった。

 

「ほお、爆裂魔法の一種か?」

「さあね」

 

 二刀を構えたままソウエイが無表情で問うも、グレンダはとぼけた様に返す。

 

 これが当たるとは思っていないグレンダは、牽制の為に手榴弾(グレネード)を投げただけだったのだ。

 

 しかし、グレンダには懸念があった。

 

 それは、もう一人の伏兵、自分を見つけたと言われた、狙撃者の存在である。

 

(気味が悪いねえ。アイツとの戦いの最中に、アタイを狙って来ると思ったんだけどね。何もしてこない。この色男を()っても、スナイパーがいるんじゃあねえ)

 

 警戒しながらもグレンダは、もう一つ手榴弾(グレネード)をソウエイに向かって投げつけた。

 

 身体強化されたグレンダの腕力は、手榴弾(グレネード)を時速百八十キロで投げる事が出来る。

 

 だがしかし、剛速球のようにソウエイに迫る手榴弾(グレネード)は、ソウエイの手前約十メートルで突然爆発した。

 

 

「なッ!?」

 

 グレンダが驚きの声を上げる。 

 

(何が起きたさね。もしや……)

 

 タンッ! ソウエイの足を狙い空間射撃を一発撃ち、その後に手榴弾(グレネード)を投げるが。

 

 またもソウエイに届く前に、爆発してしまう。

 

 

「チィ、出て来やがったかい……そこかッ!」

 

 憎々しげに怒号を上げ、周囲を警戒するグレンダ。

 

 そして、グレンダから約千メートル離れたところでスナイパーライフルを構えるリンコを発見する。

 

 流石に撃つ時は、漏れ出る殺気を隠しきれずに、その僅かに漏れ出た殺気を捉えられたのだ。

 

 

 ガシャ、ジャキッ。ライフルのスライドボルトを引き、空の薬莢(やっきょう)を排出し、次弾を装填する為にボルトを戻すリンコ。

 

「やっぱりプロだねぇ。見つかっちゃったかぁ。コンバットナイフに、手榴弾(グレネード)も隠し持っていたんだ。う~ん、拳銃はワルサーP99だけなのかなぁ。おや?」

 

 リンコがスコープを覗きながらブツブツと言っていると、スコープ越しにグレンダと目が合った瞬間。

 

 グレンダがリンコに向けて、一発撃った。

 

 

 小さな黒い穴がリンコの額の五十センチ前に開き、弾丸が音速で飛び出した。

 

 ――『跳弾結界』反応。

 

 ギンッ、何かが弾かれる音が鳴り、二発の弾丸が屋根に転がり落ちる。

 

 『跳弾結界』の飛び回る弾丸は、同じ弾丸に物理攻撃やリンコに向けられた魔法攻撃などを弾くと、その役割を終え運動エネルギーを失う。

 

 ただし、弾丸ではない小さな飛翔体などに対しては、ある程度の耐久性が備わっていた。

 

 この能力(スキル)は、決して万能ではなく、結界内を跳ね回る弾丸も制限があり、現在のリンコでは二十発が限界であり、それ以外増えると自分の行動を阻害する恐れがあるのだ。

 

 これが『跳弾結界』の唯一の弱点ともいえる。

 

 

 「はいぃッ!? 何今の? 小さなブラックホール? 信じられな~い。『跳弾結界』なかったら、私、死んでたよね? 即死だったよね? 頭、パンッってなってたよね?」

 

 流石に肝が冷えたのか、文句を独り()ちるリンコ。

 

「えーと、これぇ、ヤバくない? とりま、残り全部撃っておこうっと」 

 

 ショルダーホルスターからグロッグ17を抜き、おもむろにパンパンッと連続して引き金を引き全弾撃ち尽くして、新しいマガジンを装填してからホルスターに戻す。

 

 グロッグ17は、ダブルカラム・マガジン(複列弾倉)で十七発装填でき。

 チャンバー内の一発を足して計十八発が総弾数であり、一発消費したので今は、計十七発の弾丸が結界内を飛び回る。

 

 

 かたや、グレンダの方はというと。

 

「何だって!? 何をした?」

 

 それは確実に狙撃者の頭を貫くハズだった、一撃。

 

 しかし、その手ごたえは全く無く、グレンダの『魔力感知』にも狙撃者の存在は健在だった。

 

(これは、本格的にヤバいね。投げた手榴弾(グレネード)を、あの距離で撃ち抜くのかい。何てデタラメなんだい、あの狙撃者はッ! しかも、若い、というか、少女? ガキかいッ!? (しゃく)だねえ、本当に。恐らく、アタイを逃がさないように狙っているんだろうさね。フフッ、四面楚歌ってやつかい。本当にこの世界は、理不尽さね。さあて、どっちを先に()るかねぇ)

 

 この状況においても、まだ逃亡を諦めないグレンダは、冷酷な笑みを口元に漏らす。

 

 現状況では、狙撃者は自分を直接狙ってはこないと判断するも、油断はしない。

 

 そう考え、追撃に入るグレンダ。

 

 もう、用意した手榴弾(グレネード)は牽制にもならないと判断し。

 

 また右手にナイフ、左手にワルサーP99を構えて。

 

 ソウエイの胸目掛けて実弾を連射し、反応を見る。

 

 

 バシッ バシッ バシッ ソウエイに命中した弾丸が潰れ落ちていく。

 

 

 グレンダの予想通り、ソウエイは反応しなかった。 

 純粋な物理攻撃は、当たっても効果はないと見切っていたのだ。

 

 しかし、油断している訳でもなく、グレンダの持つコンバットナイフへの警戒は怠っていない。

 

(やるねえ。アタイが戦ってきた中でも、最強の一人かも知れないね)

 

 あくまでも、ディアブロとイチコはノーカウント。

 

 勝てない相手はカウントしない、それがグレンダの流儀なのだ。

 

 

 激しい攻防が繰り広げられる、屋根の上。

 

 足場は悪いのに、二人ともそれを意に介しない足運びで縦横無尽に屋根を飛び回る。

 

 

 刃を交え、ソウエイが回避の為後方に飛んだ時、ソウエイの左の人差し指がピクリと動いた。

 

 

「ッ!?」

 

 刹那――グレンダの背筋にゾワリとした感覚が走り、即座に危険を察知して後方に飛び。

 

 更に、タンッと右側転宙返りで回避し、速やかに距離を取るグレンダ。

 

 そして、空になったマガジンを落とすとワルサーP99を上に投げ。

 マガジンホルスターからマガジンを引き抜き、そのまま足元に落とし。

 

 上に放り投げたワルサーP99をキャッチすると同時に、落ちて来たマガジンを爪先でコツンと蹴り上げ。

 

 そのままワルサーP99をそれに合してスッと少しだけ並行に下に落とし、蹴り上げたマガジンを装填して、カシンとスライドを戻す。

 

 

 グレンダの予感は正解だった。

 

 

 その直後、グレンダのいた位置と、後方に回避した位置へと極細の糸が迫ったのである。

 

 グレンダが後方に回避するだろう位置まで予測した、ソウエイの『粘鋼糸』攻撃。

 

 

「ほう、なかなか感がいい」

「そりゃあどうも。アンタもなかなかのもんさね」

 

 二人は軽口を叩きながら、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 

 

 その瞬間、グレンダは不意打ちの如くソウエイに向かって一発撃った。

 

 

 しかしそれは、ソウエイにとっては脅威ではない。

 

 回避は無用とばかりに、グレンダに向かって来る。

 

 

(あれ!? 一発だけ無音? 何か交ぜたか、な? ソウエイさんに教えようかなぁ。う~ん、でも大丈夫だね、ソウエイさんなら。だって、あのソウエイさんは――)

 

 リンコは『思考加速』三百倍でスコープ越しにグレンダの手の内を見破るが、伝えられていた通り、最低限の支援にだけ徹する。

 

 

(やはり、単純だねえ。こういう相手はやりやすくて助かるってもんだ) 

 

 魔力弾には火薬は用いない。

 

 音も無く発射可能なそれを、通常弾に交ぜて撃つだけ。

 

 新しいマガジンは、最初の一発目が通常弾、残り十四発全て魔力弾が装填されていたのだ。

 

 通常弾の攻撃力に慣れて油断し切った相手に、不意を狙って本命を叩き込むグレンダの戦術。

 これしか手がないと言った攻撃を繰り返し、相手に誤認させるやり方であり、要は、攻撃手段の刷り込み。

 

 グレンダは、二つの事を戦術に用いていた、一つ目はこれ。

 無駄だと見切ったはずの攻撃が、必殺の一撃に変わる。

 

 

 だがしかし、グレンダの本命は……。

 

 

 ソウエイは、今までグレンダが倒して来た強者とお同じ様にそれに引っ掛かり、右肩に魔力弾を受け、肩口から破裂したように右腕が吹っ飛んでしまい、その反動で後ろに勢いよく倒れてしまう。 

 

 

「アーッハッハッハ。色男がざまあないねえ。今まで倒して来た相手は、皆同じ手に引っ掛かったけどさ。自分い自信があるヤツほど、こいう単純な手が効果的なんだよ」

 

 高笑いしながらも、油断なくソウエイとの距離は一定に保ちつつ、警戒をするグレンダ。

 

 そもそもグレンダは、ソウエイ相手に一発で倒せるとは思っていなかった。 

 

「……なるほど、思ったよりも厄介だな」

「フンッ。負け惜しみかい? アンタも運がなかったね。アタイは、死ぬわけにはいかないのさ。だから、アンタを始末する他ないんだよ。あのスナイパーに、やられる前にね(なーんてね)」

 

 立ち上がったソウエイの右腕があった肩口の部分からは鮮血が吹き出していたが、ソウエイがそっと左手で傷口に触れると、ピタリと吹き出していた血が止まり、血の(しずく)がポタリと屋根に落ちた。 

 

 

 戦いはグレンダの勝利に思えたが。

 

 だがグレンダは油断する事もなく、ワルサーP99を正面に構える。

 

 

(魔力弾なら通じる。ならば奥の手で言いたいところだけど、どうにもこの、首の辺りがチリチリするねえ。コイツは本当に、こんなもんなのかい? いや、確実に逃げるには、あのスナイパーのガキを先に始末しないといけないね。あーあ、とっておきのアレ使うしかないかい。忌々しいったらありゃしないよ。とりあえず色男を動けなくして、というか、()れれば儲けもの。さあて、あのガキを先に()るとするかね)

 

 

 二つ目の戦術――グレンダは標的をリンコに切り替えた。

 

 ソウエイの動きを封じて、スナイパーであるリンコのところまで一足飛びで接敵して倒す。

 

 これが、グレンダの導き出した逃走の手段だったのだ。

 

 

「フッ。俺に下った(めい)は、お前を殺さずに確保するようにとの事だ。情報を聞き出すのが目的だろうが、リムル様はお優しいからな。大人しくしていれば、殺されずに済むぞ」

「そうかい。余りにも慈悲深くて涙が出て来るねえ。魔物が偉そうな口を叩いてんじゃないよ!!」

 

 そう叫びグレンダは、『狙撃者(ネラウモノ)』を発動させ、引き金を引いた。。

 

 

 頭部に対して、三方向。

 

 心臓に目掛けて、二方向。

 

 両足首を狙って、二方向。

 

 

 計七発の魔力弾を狙い定めて連射した。

 

 撃たれた魔力弾は、直後に空間を超えて、ソウエイの正面から頭上、右側頭部付近。

 続いて心臓正面から心臓後方に、両足首の左右から出現。

 

 七発の魔力弾全てがソウエイに着弾、その身体を粉砕せしめた。

 

 

 〝跳躍の魔弾(ワープショット)〟の大盤振る舞い。

 

 

 ソウエイと相対した時から、一発しか撃たず、〝跳躍の魔弾(ワープショット)〟を単発しか撃てないと印象操作を行って来たグレンダの戦術。

 

 魔力で生成された魔力弾は、通常弾と異なり魔素を乱す。 

 再生能力がろうとも、これを喰らっては復活出来ない。

 

 いかな達人であろうと、四方八方から襲い来る超音速の弾丸に狙われたら、魔王でもなければ対処など不可能。

 

 グレンダは今までの経験から、自分の力を熟知していた。

 それが生き残る秘訣だから。

 

 ソウエイの死亡を敢えて確認せずに、グッと身体をしならせると、一目散にリンコ目掛けて駆けだした。

 

 そして、直系五センチ長さ十五センチの円筒状の物を、黒い煙となり消えつつあるソウエイに向かって投げつけると。

 

 ドンッという爆発音と共に、凄まじい閃光が辺りを包み込み、キィー―ンという甲高い音が鳴り響いた。

 

 グレンダが投げたのはスタングレネード。

 

 半径百メートルにいる対象者の魔素を乱し、『魔力感知』を妨害、更に対象者の視力聴覚をも奪う、逃走手段の奥の手。

 

 もし、ソウエイが生きていたら、何かしらの手段を持っていたら、それを踏まえてのスタングレネードだったのだ。

 

 リンコまでの距離、およそ千メートル。

 

 連なる屋根を飛び越え疾駆するグレンダ。

 

 

「うおッ!? こっち、こっち来るの? ちょ、どうしようどうしよう、待って待って、もうーッ!」

 

 スコープ越しにそれを見たリンコは、慌てたようにスコープの前後にあるレンズキャップを閉じると、いつもの小さめのリュックではなく、同じく空間収納式黒のバックパックの上部ファスナーをガバッと開くと、スナイパーライフルを放り込み、バックパックを背負う。

 

 通常、動き回る標的に狙撃をするのは困難。

 それが、ユニークスキル持ちならば尚更である。

 

 リンコの即断即決――

 

「あーもうッ! ここでドンパチやったら、ヒナタさんにめっちゃ怒られるじゃない。場所、人に被害が出ない場所、どこか戦う場所は、あったかなぁ? って、なにのんびり考えてるの私ッ!」

 

 リンコは、この辺一帯を下調べした時の記憶を急いで探る。

 

 疾駆するグレンダは、既にリンコまでの距離五百を切っていた。

 

「えと、えと、えと、おっ! あそこがいい、あそこなら大丈夫だよね?」

 

 リンコから、丁度二時の方向に、天井の高さが十五メートルはある石造りの大きな空き倉庫があったのを思い出す。

 

 リンコが屋根から飛び降り地面に着地すると、猛ダッシュで空き倉庫へと向かう。

 

 

 この時、リンコとグレンダの距離は三百メートルを切っていた。

 

 

「スタングレネードの効果は、三百秒。この間にあのガキを殺して逃げる。あの色男が死んだように一瞬見えたが、生きていてもスタングレネードを放り込んだんだ。何か企んでいても五分は身動きが取れないさね。さあて、殺しの時間だ。制限時間付きの、ね」

 

 そうグレンダが呟いたと同時に、リンコが倉庫の扉を蹴破り中に飛び込むのが見えた。

 

 リンコは奥の壁まで行くと、扉の方へ向き直る。

 

 そして、蹴破られた扉の前には、冷徹な笑みを浮かべ銃を構えるグレンダが立っていた。

 

 

 一方、死んだと思われたソウエイは『分身体』の一体であり、残りの『分身体』は五体。

 

 その内二体は議会場の周辺を警戒していた。

 

 では、残り三体はというと、グレンダが逃げないように近くに潜伏していたのだが、それが裏目となっていたのだ。

 

 スタングレネードにより、三体とも体内の魔素が乱され、『思念伝達』に『魔力感知』すらも妨害されてしまい、リンコとグレンダの位置を見失っていた。

 

(このような奥の手を隠していたとはな。侮ったつもりはないのだが、生に足掻く者の力は凄まじいという事だな。しかし、目も耳も塞がれたか。だが、恐らく……)

 

 ソウエイは冷静に今起きている現象に思考を巡らせ、この妨害がそう長くはないと推測する。

 

(これは本来なら、完全に逃走用の手段だ。フッ、俺を倒そうと必死に見せ掛けて、本命はリンコだったか。俺を出し抜くとは、流石だと言っておこう。だが、リンコを俺より弱いとみたのだろうが、それは間違いだ)

 

 一本取られたとグレンダを褒めつつも、リンコの心配は何故かしないソウエイだった。

 

 ソウエイは感付いていた、どこか弱弱しい風を装うリンコには、どこか末恐ろしいものを感じていたのだ。

 

 それは、喫茶店を出てベニマルと話していて、同じ感想だった。

 

 それを聞いていたシュナでさえ、強いですよねと、二人の意見に頷いていたのだから。

 

 

(まあ、大丈夫だろう、リンコなら。ならば、俺のする事は――)

 

 焦って動いても碌な事にはならない、常に冷静沈着なソウエイは、じっとスタングレネードの効果が切れるのを待つ。

 

 

 魔弾の射手、グレンダ――

 

 

 ソウエイに続きリンコとの戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 

 





 グレンダの戦い終われませんでした……ごめんなさいー(汗 
 次で決着がつきます。

 この作品を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新も宜しくお願いします!



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