忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。233話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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233話 グレンダ・アトリー

 

 

 グレンダが空き倉庫に入り、奥にいるリンコに向かって銃を構えた。

 

 

「はあ?」

 

 しかし、倉庫の奥にいるリンコを見て、(いぶか)しんだ声を上げる。

 

 

「あぁ、と、えと、えと、どうしよう――」

 

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 などと、明らかに戸惑いオロオロしているリンコがそこにいたのだ。

 

 

(何だい、アレは? 逃げ道がなくて完全にパニくってるじゃないかい。いや、あのガキは躊躇せずにここに来た、ハズ。演技? 待て待て、どう見ても慌ててる感じしかしないさ、ね……?)

 

 一見、完全にパニくって、戦う状態ではないのは見て取れる。

 

 だがしかし、グレンダは演技か本当にパニくってるのか、判断が付かなかった。

 

 リンコの慌てぶり様が、そう見えなかったのだ。

 

 そこでグレンダは、限られた制限時間の中銃を構えたままで油断せず、リンコに問いかけた。

 

「アンタ、さっき、アタイのグレネードを狙撃したスナイパーだよね?」

 

 目は鋭く、いつでも跳躍の魔弾(ワープショット)を撃てるように引き金に指をかける。

 

 そして、リンコは弱々しくそれに答えた。

 

「あぁ、はい、私です。すいませんすいませんすいません、お仕事だから、そう命じられただけなんですぅ」

 

 口に両手を当て、涙目でグレンダを見るリンコ。

 

(フンッ。どうにもいけ好かないねぇ。まあいいさ、時間は限られてるんだ、さっさと殺しちまおう)

 

 そう思った瞬間グレンダは、躊躇なくリンコに向かって引き金を、二度引いた。

 

「死にな」

 

 音も無いそれは、魔弾。

 

 

 ガキュキュンッ!

 

 

 リンコの頭の前後に黒い穴が出現したと同時に魔弾は、小さな火花が二つ散り、リンコの結界内で飛び回る跳弾に弾かれ消滅した。

 

 

「何ッ!?」

 

(あれは、あのガキの周りに何かが飛び回っている?) 

 

 そう判断したグレンダは、近接に持ち込むべくリンコに向かってダンッと勢いよく地面を蹴り、身体を一足飛びに加速させる。

 

「首、もらったあーッ!」

 

 叫ぶと同時に、コンバットナイフでリンコの首を右から()ぐ。

 

「うひっ」

「はあッ!?」

 

 接敵した時は、既にリンコの持つ雰囲気は一変しており、グレンダが驚きの声を出す。

 

 グレンダが右横にコンバットナイフを勢いよく振り抜いた。

 

 だがしかし、リンコはそれを紙一重で躱し、右手でグロッグ17をホルスターから引き抜くと、グレンダの額目掛け一発撃つ。

 

 バンッ!

 

「チイッ!」

 

 グレンダは激しく声を上げ、瞬時に頭を右に(かし)げ銃弾を避けると、すぐさま後方に飛び退(すさ)った。

 

 そして、憎々し気に吐き捨てる。

 

「アンタ、猫を被ってたのかい? ほんと、生意気なガキだよ(後、二百秒ちょっとかねえ。しかし何だい、あの反応速度は、ガキが持っていいもんじゃないさね)」

 

 左手に持った銃をリンコに向け、コンバットナイフを持った右手を左腕に交差させた構えのまま、残り時間を数えるグレンダ。

 

 リンコが素早くバックパックを下に落とすと、グロッグ17を両手でコンパクトに構える。

 

 互いの距離は十メートル弱。

 同じ構えの中、睨み合う。

 

「アンタ、〝転移者〟か〝召喚者〟、どっちだい?」 

 

 グレンダが殺気をぶつけるように問う。

 

「え~、それ、今聞きますぅ? まあ、いいですけど。元、日本の中学生で〝転移者〟ですよぉ」

 

 どこかお道化たように返すリンコ。

 

「なるほどねえ。それは、その日本の学生服なのかい?」

「ですよぉ。セーラー服って言うんですけどね」

「そうかい、ふざけたガキだね。そんな短いスカートで戦ったら、パンツ丸出しじゃないか。ガキの癖に露出狂たあ、中々に頭の中イってるねえ」

 

 グレンダが少し煽り気味に言うも。

 

「あーこれですか? 大丈夫ですよ、中は見せパン穿いてますからぁ」

 

 そう言うとリンコは、左手でスカートの()を摘み少し上に上げて、ニヤリと笑いながらグレンダに黒色のショーパンを見せた。

 

「変なモノが流行ってるんだねぇ、アンタの元いた日本って国は」

 

 そう吐き捨てたグレンダは、また一発魔弾を撃つ。 

 

 今度は跳躍》の魔弾(ワープショット)ではなく、通常射撃だった。

 

 音無き魔弾は、リンコの心臓を目掛けるも、バムッと爆発音が響くと。

 あっけなく、リンコの跳弾に迎撃された。

 

 そして、グレンダの洞察力は、おおよそだがそのカラクリに気付く。

 

「なるほどなるほど。アンタの周りには何かが飛び回っているね? 多分、何かを……いや、銃弾を跳弾させて、結界を作ってるとか? そんなところかねえ。なかなかに、厄介な能力(スキル)を持ってるじゃないか」

「ありゃあ、そこまでわかるんですかぁ。流石、元凄腕の傭兵だっただけありますねぇ。困っちゃうなぁ」

「アンタも、そこまで掴んでいる、いや、ルヴナンの傭兵なら当然だろうさね。殺す前に、一つ聞いておこうかね。アンタ、歳は幾つなんだい?」

 

 グレンダがそう聞くと、どこか嬉しそうに返すリンコ。

 

「四年前に、この世界に転移して来たんですよ。だから、今は十七歳ですね。そこから、なんやかんやあって、ルヴナンに拾われたんですよ。幸か不幸か、ってか、不幸なのかな? ふふッ」

 

 イタズラっ子みたいに笑い返すリンコであった。

 

(地面に転がった潰れた弾丸。アレは、アタイの撃った魔弾を迎撃したと見るべきだね。なら、あのガキの周りを跳ね回っている弾丸を全て消費させれば、魔弾、もしくは通常弾でも通用するだろうね。なら――)

 

 グレンダはそれには返さず、代わりに引き金を引き、リンコも同じく引き金を引く。

 

 無音の魔弾と、乾いた火薬の爆発する音が倉庫内に反響する。 

 

 

 グレンダは『予測演算』で弾道を読み、身体を左に跳ねさせる。

 

 

 対してリンコは、右に飛んだ後、後ろの壁を垂直に駆け上がると真ん中辺りで身体を入れ替え。

 

 下を向く形でグッとしゃがみ込むように力を溜めると、ドンッと壁を蹴りグレンダに向かって飛んで行く。

 

 

 すると、進行方向にグレネード(手榴弾)が二個投げられていた。

 

 すかさずリンコはそれを撃つ。

 

 ドドォンッ! 球体状の爆炎が空中で二つ上がり、その中をリンコが突っ切って来る。

 

 グレネードの破片を迎撃した弾丸が、カランカランと音を立てて四つ地面に転がり落ちた。

 

「やっぱり、アタイの推測は当たっていたかい!」

 

 そう叫ぶと、また魔弾を一発撃った。

 

 魔弾がリンコに届く数メートル前で爆発し、また跳弾する弾丸が一発消費される。

 

 リンコは何も言わず、しかし、口端には得体の知れない笑みが薄っすらと浮かび上がっていた。

 

 

(チイッ。迎撃範囲は、ガキを中心に数メートルくらいかねえ。それに、後何発残ってるかは読めないね。しかもあのガキ、笑ってないかい? 不気味だねえ。ガキでもあのルヴナンの傭兵ならば、弱くはないってところだろうさ。それでも、アタイの方が戦闘経験は上さね)  

 

 この時、グレンダが思った事は推測通りだった。

 

 だがしかし、読み違えたモノが一つだけあったのだ。

 

 ルヴナンでは、単独任務を一人前であってもめったにさせない。

 もし、させるなら、それ相応の腕前がなければ、コハクもツキハも許可は出さない。

 

 ならば、リンコはソウエイの支援とは言っても、単独で行かせるはずもなく。

 

 リンコは、それが許されるルヴナンの傭兵の一人だと、いう事なのだ。

 

 

 グレンダはほぼ自分の手の内を見られている。

 

 対してリンコはというと、まだ『跳弾結界』しか見破られていない。

 

 

 マグナブラスター、これを使われたらグレンダは一瞬で蒸発するだろう。

 

 しかし、これを街中で使うのは、コハクから固く禁じられているし、生かして捕らえる事が目的なのだから尚更である。

 

 (いくさ)以外では事実上封印されているのだが、(いくさ)ならば場所は限定されない。

 

 戦闘経験が上であるグレンダに、リンコが勝つ方法はというと、いかに相手を(あざむ)き、自分の土俵に引きずり込むかである。

 

 だから、格闘戦には付き合わない。

 ナイフの腕前では、リンコはグレンダに敵わないとわかったから。

 

 己を知り、相手を知る。そして、〝己の技量を磨く〟。

 この事を、この世界に来てまだ四年だが、ツキハとコハク、そして眷属達に叩き込まれたリンコだった。

 

 経験の浅い十七歳の娘に、唯一勝機があるとすれば、銃撃戦に持ち込む事であるが……。

 

 とにかく、グレンダを近付けさせない。

 

 それに徹するリンコ。

 

 タンタンッ。リンコが牽制でグレンダの足元に撃つ。

 

「クソッ! アタイを近付けさせないってか!?」

 

 どうにかナイフ戦に持ち込もうとするグレンダだが、リンコの正確な射撃がそれをさせない。

 

 

(何なんだい、あのガキの正確な射撃は。魔弾も残り少ないし、どうしたらいいかねえ?) 

 

 空き倉庫内に点在する、大きな木箱の陰で打開策を練るグレンダ。

 

(こうなりゃ、通常弾で銃口を密着させて弾丸をぶち込んだら、あの厄介な結界? も役には立たないだろうさ。それに、ナイフの攻撃も迎撃されそうな気がするねえ。魔弾はアタイまで爆発の影響を受けるし、そうするかねえ)

 

 そう決断したグレンダは、コンバットナイフを後ろ腰にあるシース()に納めると、魔弾が入ったマガジンを抜き取り、音がしないように地面に置いた。

 

 そして、通常弾が入ったマガジンを入れると、スライドを少し引き、チャンバー内にある魔弾を確認して、意を決したように木箱の陰から飛び出す。

 

 

「あらあらっ? 突っ込んで来るの!? マジ? 何考えてんのよー!」

 

 自分に向かって一目散に駆けて来るグレンダに、リンコは慌てたように叫ぶと、グレンダの胸目掛け二発撃つ。

 

 タタンッ! しかしグレンダは、『予測演算』によりギリギリで身を捻り(かわ)した。

 

 

「うそおぉッ!? あれを躱すの?」

 

 既に数メートルの距離まで近づかれたリンコは、その距離で躱された事に驚く。

 

 そこに、グレンダがチャンバー内に残る魔弾を撃った。

 

 

 バムンッ! 激しい爆発が起こり、それに合わせてリンコは右に飛び回避したが。

 

 しかし、グレンダはそれを読んでいて、リンコの一メートル前までに接敵していた。

 

 そして、リンコの左肩に銃口を押し付け。

 

「先ずは、左腕を頂くよ!」

 

 そう叫んだ刹那――

 

 リンコの左手が押し付けられた銃口を、パシッと外側に払う。

 

「何だって!?」

 

 今度は、グレンダがリンコの反応速度に驚く。

 

 

「もうッ! 何するんですかぁー! ってか、これ、ヤバくない?」

「チッ。アンタ近接も出来るんじゃないか!」

「いやいや、近接格闘は苦手なんですけどぉー! 本当に、キライなんですけどーッ!」

 

 お互いに罵り銃口を押し付け合い、左手でその銃口を払う攻防。

 

 パシッパシッと、銃口を払う音が淡々と響いていく。

 

 まだ二人とも、引き金を引かない。

 確実に、当たる瞬間を二人とも狙っていた。

 

「これ、ガン○タじゃん。何でこんな事してるんだ、私ぃッ!」

 

 まだ日本にいた頃に、兄と見た洋画のアクション映画DVDを見た事を思い出すリンコ。

 それは、銃を使った近接格闘の映画だった。

 

 能力(スキル)持ちのバトル。

 

 大抵は、こちらに〝界渡り〟をして来た時に、身体が作り変えられていて、身体強化が成されていた。

 だがしかし、そうでない者もいる。例に上げれば、吉田氏とかそれに当たる。

 

 能力(スキル)持ちであるリンコが、この世界で戦えるのは、これのお陰でもあった。

 

 

 パン、パンパンッ、銃口を押し付け撃つ瞬間に払う。

 

 そんな攻防を繰り広げる中、フッと、リンコの姿がグレンダの目の前から消えた。

 

「なッ!? グフッ!」

 

 いきなり視界外からリンコの右足が下から突き刺さるように伸びて来て、グレンダの腹部を思い切り蹴り飛ばす。

 

 〝海老蹴り〟、リンコはツキハとコハクから、格闘戦も仕込まれていたのだ。

 

 ズザザザーッと、蹴られた腹を抱えたまま踏ん張り、数メートルほど吹き飛ばされたグレンダ。 

 

 

「何が格闘戦は、苦手だい。ほんと、癪に障るガキだねえ!」

 

 怒号を上げるグレンダ。

 

「いやあ、ほんと、格闘戦は苦手なんですよぉ?」

 

 そんな事を言いながら、にへらと笑みを浮かべるリンコ。 

 

(あのガキの話しからすると、この世界に来てまだ四年。その四年の中でここまで戦えるものなのかい。一体ルヴナンは、あのガキにどんな訓練をしたんだい。どこか人を食ったような仕草に、まるで強さを誇示しない上、弱々しい姿を前面に出すとか。あのガキを舐めたら、アタイが逆に喰われるね)

 

 この攻防で、リンコに対する認識を改めたグレンダは、牽制で一発撃つと、近くの背丈よりも大きい木箱に身を隠す。

 

 リンコが向かって来るかと迎撃に備えたが、リンコも同じように大木箱の陰に身を隠していた。

 

(来ない? 何考えてるんだろうねえ。しかし、急がないと後数十秒しかないね)

 

 グレンダは左手に手榴弾(グレネード)を持ち、安全ピンを口に咥え引き抜き、飛び出るタイミングを計る。

 

 

 そして、『思考加速』三百倍で思案するリンコ。

 

(う~ん、どうしよう……。これ、見てるよねえ、コハク様もツキハ様も。野良か半野良魔猫がいたからねえ、あっちこっちに。多分だけどぉ、眷属の方達は来てないと思うんだけど。あんまり無様見せると、後からお小言を頂く羽目になるしぃ、特にコハク様から。あ~もうっ。殺さず生け捕りとか、無理でしょがあ、と、私は言いたいよ。ソウエイさんなら出来るでしょうけど、私には無理! 無理無理無理無理、無理ィーーーッ!)

 

 何故か、逆切れを始めて、次はガクーンと肩を落としたように項垂れるリンコだった。

 

(と、文句言っても始まらないしぃ。アレを使ったらめっちゃ怒られるよねぇ、持って来てないけど。もう、バックパック型ベルト式給弾倉付きM134ガトリング持ってくるんだったかなぁ。あ~でも、アレだとミンチになってしまうし、何か凄くリムルさんにも怒られる気がする。あれだ、454カスール弾撃てるリボルバーのスーパーレッドホークか、50口径弾使用のS&W.M500を持って来れば良かったかも……いや、あれ、腕か脚に当てないと即死するよね? そもそも、腕とか脚狙うとか、そんな暇ないし、ねぇ。そうよ、あれよあれ、ポンプ式セミオートショットガンのベネリM4持ってくれば良かったんだよ。何で持ってこなかった私ぃーーッ!)

 

 どんどん物騒な方向へと思考が偏っていく、リンコ。

 

 そこへ――グレンダの手榴弾(グレネード)がリンコに向かって投げ込まれ、派手に爆発する。

 

 ドオンッ!

 

「ほえッ!?」

 

 放物線を描いて投げ込まれ、察知はしていても頭上で爆発したのに驚き、変な声を上げてしまうリンコ。

 

 手榴弾(グレネード)の破片を迎撃した跳弾が、三発地面に転がり落ちたと同時に。

 

 グレンダが飛び込んで来る。

 

 

 タンタンッ! 走りながら撃つグレンダ。

 

 かたやリンコは、後方に転がりながらそれを(かわ)す。

 

 グレンダは瞬時にそれに対応し、地面に背を向けて転がったリンコに銃口を向け。

 自分もしゃがみ込むようにして、引き金を引く。

 

 タンッ! 「なッ!」 グレンダは撃った瞬間に前のめりに倒れ込んでしまう。

 

 リンコは撃たれる刹那、寝ころんだまま 右足をグレンダの右肘にかけ。

 左足は、グレンダの左脇腹に引っ掛けて、勢いよく身体を右に捻りグレンダを地面に向かって倒したのだ。

 

 そして、そのまま中腰で起き上がりながらワルサーP99を右足で踏みつけ。

 後ろに倒れるように左足で思い切り蹴とばした。

 

 カラカラカラーッと、地面を横に回りながら滑り飛ぶワルサーP99。

 

 

「このガキッ!」

 

 怒号を上げながらグレンダは、素早くリンコの右腕を巻き込むように抱き抱え、逆にリンコの銃を奪おうとする。

 

「ちょおッ!」

 

 リンコが大木箱を背に体を捻って抵抗しようとすると、グレンダはそのままリンコの右腕を腕ひしぎ十字固めに持っていく。

 

「あいたたたた、何するのよーーッ!」

 

 ギリギリで耐えるリンコは、左手で右手の銃を掴む。

 

 そして、グレンダに向けて撃とうとすると。

 

「させるかあーーッ!」

 

 グレンダの左足がリンコの左手を、大木箱に向かってダンッと激しく打ち付け、そのまま大木箱に向かって足で押さえつける。

 

「痛い痛い痛い痛いって、このおぉーーっ!」

 

 リンコは、左手を上に上げるように大木箱に押し付けられ、それでも手首だけを動かしながら、グレンダの顔を狙う。

 

「小さいくせに、何て馬鹿力だい! ってか、アタイを殺したら駄目なんじゃないか、アンタッ!?」

 

 ありったけの力でリンコの右腕を折にいってるグレンダだが、リンコの力が意外に強く粘っていたのだ。

 

「ち、い、さい、言う、なぁーーッ! あた、まじゃ、なければ、いいでしょうがあーーっ!」

「顔でも死ぬじゃないか、アンタは馬鹿かッ!」

「バ、カ、言う、なあぁーー!」

 

 プルプルと震える銃口がグレンダの顔を狙い定め、撃つ。

 

 バンッ!  

 

 グレンダは、リンコの引き金を引く人差し指にだけ集中し、ピクリと人差し指が動いたその瞬間。

 

 顔を左横に傾け銃弾を(かわ)し、同時に右足で大木箱を蹴り飛ばし。

 

 身体左を上にした形で身を屈めるようにして、まるでブレイキンのようにその場で高速回転をする。

 

 リンコが地面に手を付き、グレンダに向けて銃口を構えた時――

 それを待ってたかのように回転の勢いを残したまま身を起こしながら、右足でリンコの銃を蹴り飛ばしたグレンダ。

 

 まさかこの瞬間を狙われるとは思っていなかったリンコは、思わずグレンダと顔を合したまま、一瞬だけ固まってしまう。

 

「「あ?」」

 

 二人を中心に、前後にワルサーP99とグロッグ17が見えた。

 

 そして、一番近い銃は――

 

 リンコが蹴ったワルサーP99だった。

 

 一瞬で身体を起こして身を(ひるがえ)し、自分の愛銃ワルサーP99に向かって猛ダッシュするグレンダ。

 

 リンコもまた、ワルサーP99に向かって全力でダッシュする。

 

 お互いが平行に身体をぶつけ合いながら走り、グレンダの右側にいるリンコがタッチの差でワルサーP99を拾い。

 

 グレンダに銃口を向けると同時に、グレンダがスライドごと銃身を掴み、リンコの手を払ってワルサーP99を奪い返す。

 

 

 身体を半回転させリンコを撃とうとするグレンダ。

 

 

 リンコはスッとしゃがみ込むように身を(かが)め、グレンダの右脚の右(ひざ)の裏に左手を当て。

 

 右手でグレンダの左膝に右手を当て、右手は押し、左手は手前に引くようにグレンダの身体を回転させ。

 

 そのまま自分の頭をグレンダの右脇腹に押し付けて、更にグレンダをすぐ後ろの壁に押し付ける。

 

「くっ付くんじゃないよ、ガキッ! おわッ!?」

 

 身体を強引に正面に向け、リンコの背中に撃とうとしたら。

 またもくるっと身体が一回転して、壁に押し付けられてグレンダは声を上げる。

 

 リンコが自分の身体を押し付けたまま、グレンダの腰を両側から両手で掴みクルリとグレンダの身体を回したのだ。

 

「このおッ!」

 

 グレンダが叫び、再度自分の身体を強引に回し正面を向くと。

 

「こっち向くなぁーっ!」

 

 リンコが叫び、再びグレンダの身体を回し壁に押し付ける。

 

 それを何回か繰り返し、一瞬の隙を見てグレンダは膝蹴りをリンコの腹部に入れ、力づくでリンコを自分から引き剥がすと。

 

「ウゴッ! このおぉッ!」

 

 離れ際にリンコがナイフを投げて来た。

 

「何っ!?」

 

 不意打ちぎみに投げられたナイフを(かわ)したグレンダは、リンコに向かって手榴弾(グレネード)を三個放り投げると、ダッと後方に飛び退()いた。

 

 至近距離で爆発した手榴弾(グレネード)の破片は、『跳弾結界』の弾丸を全て消費してしまう。

 

 リンコは近くの大木箱に飛び込み身を隠す。

 

 

(あのガキ。アタイから離れる瞬間に、ナイフを掠め取りやがった。何て手癖の悪いガキだい!)

 

 忌々しげに左手で、腰後ろに差してあったコンバットナイフの有無を確かめ吐き捨てるグレンダ。

 

 

 一方リンコの方は。

 

「あーいーたたー。膝蹴り喰らいましたよ。マジ腹立つわぁ、あの女の人」

 

 リンコは腹部を擦りながら、ブツブツと文句を(つぶや)く。

 

「どうしよう? バックパックは離れてたところに落として来たし、グロッグ17は蹴られて取りに行けないし。これもう、八方(ふさ)がりだよね? コハク様とツキハ様の説教が目に浮かぶよ、ほんと……」

 

 リンコは、大木箱を背にガックリと肩を落とす。

 

「しかし、強いなぁ、あの人。やっぱり、戦闘経験が段違いだよね私と。とほほだよ、マジに。『跳弾結界』の弾丸補充も出来ないし。もっと想定外を予測すべきかも。これ、反省ものね。とは言っても、ソウエイさんの支援として、無様を晒すわけにもいかないしなぁ。うん、次でキメよう、あれで。最悪、何とかなるでしょ。あーでも、めちゃくちゃ怒られるのは覚悟しないとかなぁ」

 

 そう呟きながらリンコは、スッとへそ下の辺りを撫でると、空間収納されていた西部開拓時代のリボルバー用のガンベルトが具現化した。 

 

 そして、ベルトを触りながら、ベルトの位置を少し右下側に下げて調整し、右ホルスター先にある革紐を太腿に巻き絞める。

 

 ホルスターにある拳銃は、シングルアクション六発装填のコルト・シックス・シューター。

 

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 リンコはそれを、ホルスターから抜き一発撃つと、またホルスターに戻した。

 

 

 その銃声を聞いたグレンダは、ニヤリと笑いを浮かべる。

 

(ん? 銃声が一発だけ? そうかいそうかい。アタイの勘は当たってたって事さね。あの厄介な結界は、跳弾を補充出来るんだ。そして、一発だけ撃ったのは、手持ちの銃の弾が六発しかない銃の可能性がある? という事はリボルバーか、あのガキのサブウェポンは。しかも、残り五発。アタイも残り六十秒切ったし、これでケリを付けようじゃないかね)

 

 グレンダはそう考えると、リンコが隠れている大木箱に向かって歩き出し、ポイと最後の手榴弾(グレネード)を投げ込む。

 

 自分に多少の破片が当たるのは、意に介さない。

 

 ドンッと爆発音が轟き、爆煙が立ち込める。

 

 リンコまでの距離、約八メートル。

 

 グレンダには、確実に仕留められる距離であった。

 

 

 カチンと地面に転がり落ちる、『跳弾結界』の弾丸。

 

 

 爆煙が晴れつつある中に、人影が見える。

 

 それは、少し後ろに()()るようにして、拳銃のグリップに手を添えるようにして、左手をハンマーレバーに添えるように構えるリンコだった。

 

 それを見た瞬間に、グレンダの警戒本能が雄叫びを挙げ――

 

「チイッ!」

 

 グレンダは即座にリンコの心臓目掛け引き金を引いた。

 

 バンッ! 『跳躍の魔弾(ワープショット)

 

 

 ――同時にリンコもコルト・シックス・シューターを抜き、撃った。

 

 バウンッ!

 

 

 銃声が倉庫内に響き渡り、やがて、静寂が訪れる。

 

 

 ツーッと、口から血を滴らせ、リンコがその場に崩れ落ちるように女の子座りをして、ガクンと前のめりになる。

 

 弾は右肺を貫通しており、軽傷ではないリンコ。

 

「あぃ~たぁ~……マジ、痛いんですけどぉ~カハッ、カハッ。もう、死ぬかと思ったぁ~、カハッ」

 

 込み上げる血を吐きながら、文句を言うリンコ。

 

 

 そして、グレンダは勝ち誇った顔をしていたが――

 

 パタタタ、パタッ、パタタッと両膝から吹き出た血が、地面に滴り落ちる。

 

 リンコに向けたワルサーP99は、手の中になく、空しく右手だけがリンコに向けられていた。

 

 更に、両肩にある腕の付け根を撃ち抜かれたグレンダの両腕がだらりと下がり。

 

 両膝を撃ち抜かれた為に、ガクリと地面に両膝を着くと、グレンダはそのまま前向けに倒れ伏す。

 

 

「な、何なんだい……あの、早撃ちは。銃声は一発にしか、聞こえなかったじゃないか。一瞬で、五発とか、反則さ、ね」

 

 振り絞るように言うと、倒れたまま前に伸ばした自分の右手を見詰める、グレンダであった。

 

 

 リンコの、早撃ちとは――

 

 通称ファニング撃ちと呼ばれ、シングルアクション・リボルバーのトリガー(引き金)を引きっぱなしにし、もう片方の手でハンマーレバーを連続して弾き叩いて高速連射する技術である。

 

 これを、初弾は抜きながらトリガーを引きっぱなしにして、左手親指でハンマーレバー弾き撃つ――ワルサーP99を(はじ)き飛ばす。

 

 間髪入れずに、左手の人差し指で二発を撃つべくハンマーレバーを(はじ)き撃つ――右膝を撃ち抜く。

 

 三発目は中指でハンマーレバーを弾き――左膝を撃ち抜く。

 

 四発目は薬指でハンマーレバーを弾き――右肩と腕の付け根の部分を撃ち抜く。

 

 最後の五発目は小指でハンマーレバーを弾き――左肩と腕の付け根の部分を撃ち抜く。

 

 見た目には、左手の親指から順番にハンマーレバーを撫でるように見える。

 

 この一連の動作を、一瞬で行うのがファニング撃ちという技なのだ。

 

 通常、リンコの元いた世界では、実銃を使った競技として左手には厚い革手袋をしてやるのが主である。

 

 しかし、身体強化されたリンコの手は、これくらいは何でもない。

 

 

 そして、グレンダが最後に撃ったワープショットは、リンコが撃つ瞬間に更に身体を後ろに()()らせた為、空間座標が狂い、心臓ではなく右肺に着弾したのであった。

 

 これは全くの偶然であり、空間連結の瞬間に身体を動かせば、弾の空間座標が狂う事をリンコは知らなかった。

 

 リンコの『弾道予測』が導いたのは、己の心臓への着弾。

 

 相打ち覚悟ではあったが、最悪死んだばかりならば、コハクが蘇生してくれる事に望みを賭けていたのだ。

 

 これにより、グレンダのワープショットの欠点が、リンコに知られたのは言うまでもない。

 

 

「フッ。流石はルヴナンの傭兵だな」

 

 グレンダのスタングレネードの効果が切れて、この場に『空間移動』して来たソウエイが言った。

 

「いやあ、めちゃくちゃ痛いんですけどぉ、カハッ、カハッ」

 

 自分の前に現れたソウエイの分身に、リンコは何とかしてと言う。

 

「ポーションは、持って来てないのか?」

「え~とですね、あそこにあるバックパックの中にあるんですよねぇ、テヘッ。カハッカハッ」

 

 血を吐きながらお道化るリンコに、(なか)ば苦笑いを浮かべつつソウエイは、懐にあるハイポーションの小瓶を取り出しリンコに振りかけた。

 

 ハイポーションにより、瞬時に傷口が塞がったリンコが、勢い良く立ち上がる。

 

「私、ふっかーーつ!」

 

 元気よく宣言し、ウキウキとバックパックとグロッグ17とワルサーP99の回収に行くリンコだった。

 

 

 そして、ソウエイは倒れたままのグレンダの前まで行く。

 

 

「あ、アンタ、やっぱり死んでなかったのかい……」

「あの程度で俺が死ぬものか。しかし、あの目くらましは、良い手だった」

「そうかい」

「あの場には、もう三体の俺の『分身体』が潜んでいたからな」

「チッ……。アンタもしや!? 実体を持った分身だと、か?」

「そうだ」

「マジかい……」

 

 グレンダの問いに、感情無き言葉で返すソウエイ。

 

「本当に、何の冗談だい。こんなバケモノと()り合うなんざ、逃げる事さえ無理じゃないか……」

「そうだ。お前の敗因は、見つかった時に決していた」

「チッ、バケモノが言うじゃないか」

「最低限の治療はしてやる。だが、逃げようとすれば、今度は四肢を切り落とす」

 

 倒れたままのグレンダに、ソウエイが静かに告げる。

 

「もう、指一本動かす元気はないさね、好きにしな」

 

 グレンダは、観念して完全に負けを認めた。

 

 ウキウキとワルサーP99を回収しているリンコを見て、グレンダはどこかやるせなさそうに呟く。

 

(あのガキに油断しなければ、さっさとナイフ戦に持ち込み、首を斬れば良かったさね。騙されたねえ、あのガキの手口に。いや、ガキだからだと侮ったアタイの油断さね。それに、アタイの必殺の技の欠点も、見破られたかねえ。本当に、忌々しいガキだよ、クソッたれが……)

 

 

 美しき元傭兵、グレンダ・アトリー。

 

 

 グレンダの、ソウエイとリンコとの激闘は。

 

 

 ここに決着をし、グレンダの敗北で終わりを迎える。

 

 

 

 





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