忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。234話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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234話 幼女は渇望する 全てを手に入れる為に

 

 

 荒れた評議会と、暗殺者グレンダの騒動は一件落着を迎えた。

 

 

 そして、局面は新たな場面へと移行していく。

 

 

 

 ここは、花が咲き誇る庭が見えるバルコニー。

 

 少女と少年、そして老人が丸いテーブルを挟むように向き合い座っていた。

 

 マリアベルとユウキ、ヨハンの三人だ。

 

 

「失敗したわ、失敗したのよ」

 

 と、マリアベルの可憐な唇から漏れ出る。

 

 そう口にはしたものの、その表情にはまだ余裕があった。

 

 今のところは予想通りでもあり、そしてマリアベルの中では予定通りでもあるからだ。

 

 

「ギャバンも災難だな。あれだけ君に尽くしていたというのに」

 

 マリアベルの前に座り、ワインを片手にして、そう嘆いてみせた。

 

 本心ではないが、あの現場を見て来た者としては、少しだけ同情していたのだ。

 

 そうなのだ、ヨハンはギャバンと同じく五大老の一人。

 

 いや、だったと言うべきだろう。

 

 今回の失態で、既に失脚していたのだから、ギャバンは。

 

 

「ギャバンは無能だったの。あれだけ長くイングラシアに滞在していたから、王に対して情でも湧いたのかしら? 全くもって不愉快なのよ。そうでなければ、もっと早く王族を従えていたハズなのよ。それに、ルヴナンの猫共に尻尾を掴まれていたなんて、無能極まりないの」 

「……無茶を言う。我等ロッゾも、イングラシアの中枢までは手が届いていないのだ。それに、ルヴナンを出し抜くのは至難の技。ギャバンとて油断を――」

「違うわ、違うのよ。中枢を掌握するなんて簡単なの。赤子を一人残し、その他を皆殺しにすればいい。その赤子に、ギャバンの血が入っていれば完璧ね。それに油断? 馬鹿を言わないで欲しいの。いくら密談する場所を秘密裏に作っても、アイツ等の目は誤魔化せないの。作るなら、王子を(そそのか)して、城の中の目立たない場所に作らせるべきだったのよ」

「いや、それはそうだろうが……」

 

 血塗られた歴史を知るマリアベルにとって、それは別に大した手段には思えなかった。

 

 (むし)ろ、流れる血の量からすれば、余程平和的だと考える。

 

 だがヨハンからすれば、大国の警備はそこまで甘くはないと言いたい気分であった。

 

 そんな方法を思いついたとしても、実行は困難だと言える。

 

 それよりも、ギャバンがあんなに用意周到に密談御用達の酒場を作ったのに、どこからそれを嗅ぎ付け辿って来たのかが、余程気になるヨハンだったのだ。

 

 

 ここでマリアベルが、もう一つの目論見を口にする。

 

 

「でも、魔法審問官には興味があったの」

「――イングラシアの王に仕える異形の者共か」

「ええ。小癪(こしゃく)ね、小癪なの。我等ロッゾとルヴナンに対抗すべく、必死で戦力を蓄えたのでしょうね。ルヴナンは、本当に目障りなの」

「それで、君はどう思うのだ?」

「強い、でしょうね。ルヴナンの眷属共には及ばないけども。ギャバンがその身で体験し、私に知らせてくれたわ」

 

 マリアベルは、自身の権能である『強欲者(グリード)』で支配した者と、ある程度の情報共有が行える。

 

 対象が知り得た情報を、マリアベルも知る事が出来たのだ。

 

 

 (ゆえ)に、ギャバンを〝捨て駒〟として用いた。

 

 魔法審問官が対処しなければならないような事件を起こし、その秘密を探ったのである。

 

 

 その事件として打って付けだったのが、今回の魔王リムルと番外魔王に対する愚行だった。

 

 そして、イングラシア王国の伯爵位を持つギャバンならば、間違いなく誘い出せるとマリアベルは目論んだのだ。

 

 

 知って見れば、何という事はなかった。

 

 魔物の力を取り込み魔人と化した人間である、というだけのモノ。 

 

 旧ファルムスの魔人ラーゼンのように、自己を研鑽(けんさん)して高みに到った訳ではない。

 

 かたや、魔法審問官は魔物の因子による拒絶反応で、自我を失っている 

 

 ただし、魔人に変化していない時だけは、自我を保っていたのもわかった。

 取り入れる因子によって、様々な環境下での活動が可能なうえに、強さは文句なしのAランクオーバー。

 

 だが、それだけである。

 

 マリアベルはこの時点で興味を失い。

 

 それなりには有用である――というのがマリアベルの感想だった。

 

 

「恐ろしい。それを知るのが目的で、ギャバンの策が失敗するとわかっていたのに承認したのだろう?」

「違うわ。私の目的は、貴方の信用を高める事よ。これで魔王リムルは、貴方を信用の置ける人物と見做(みな)したの」

「それは……」

 

 ここで、マリアベルの思惑を聞きながら、表向きは平静を崩さぬヨハンだったが。

 

 あの時、番外魔王ツキハの言った言葉が今になって突き刺さり、何か嫌なモノを感じざるを得なかった。

 

 

(ちょっと、待て。番外魔王ツキハが言ったあの言葉……。逃げ道を用意されなかった者の、末路? 〝成功しても失敗しても良かったんじゃないの〟、と、言った、確かに言ったな。馬鹿な馬鹿な馬鹿な……番外魔王ツキハは、とっくにマリアベルの思惑に感付いていたと、いうのか……? それに、ヤツは、私を一瞬見て、笑った……)

 

 ヨハンの背中に、冷たい汗が一筋ツーっと、流れ落ちていく。

 

 マリアベルの真の目的は、ヨハンに魔王リムルの内情を探らせる事だったのだ。

 

 それは魔王リムルの排除であり、ルヴナンの行動を邪魔する事。

 

 魔法審問官など、マリアベルにとってオマケに過ぎなかったのだ。

 

 

(これが失敗したら、私もギャバンのように消されるのだろうか? いや、成功する事はおろか、既にこちらの思惑は見抜かれているのではないか、番外魔王に……)

 

 ツキハの薄気味の悪い笑顔が、脳裏に張り付いて離れないヨハン。

 

 自分はギャバンのように無能ではないと、思い込もうとすると同時に、マリアベルに感じる恐怖以上に、番外魔王に対する言い知れぬ恐怖以上のモノを感じるヨハン。

 

(ふ、ふざけるな、五大老という頂点に立つ為に、この私がどれほど苦労して来たのかも知らない、このような小娘と、番外魔王という魔物風情に……違うな――)

 

 (いきどお)りのない怒りに襲われたヨハンだが、フッと我に返る。

 

(マリアベル。君はこの世界を手玉に取るつもりだろうが、もしかすると、我等こそが番外魔王の手の平の上で踊らされているのかも知れないのだぞ。ギャバン、お前は番外魔王にもう少し遊べるかと言われた。次は、私の番かも知れぬな……)

 

 ヨハンはそう思ったが、それは絶対に口にしてはならぬ言葉だった。

 

 とにかく今は、今後の保身を全力で考えるべきだと悟ったヨハン。

 

 そして、敢えて話を戻す事にする。

 

 

「ところで、魔法審問官を、魔王リムルにぶつけてみてはどうかね? 魔王リムルか番外魔王にでも何か、罪状を押し付けて――」

「無理ね、無理なのよ。魔王も番外魔王も怒らせるだけだわ。特に、番外魔王を今怒らせるのは駄目なの。魔法審問官は確かに強いけど、それだけよ。どちらにも対するにはまるで駄目。話にならないの」

「それほどか……。ならば、やはり魔王リムルと手を組むのが最善なのではないか?」

 

 ヨハンの言葉を聞いたマリアベルは、話にならぬと首をふる。

 

「駄目よ、駄目だわ。そもそも、貴方を含めて御爺様以外の者達は、大きな勘違いをしているの」

「勘違い?」

「そうよ、そうなのよ。人類と魔王が対等である――という勘違い。私が御爺様に魔王の排除を提言した理由、それを理解している?」

「それは、魔王リムルが新たな経済圏を創出させる事で、我等を経済的に脅かすからだろう? しかも、あのガットエランテもそれに加担して来ているというからな」

「そう。でも、それは表向きの理由なの。本当の理由はね、魔王リムルに対して何も打つ手がなくなるからなのよ。そして、あの忌まわしいルヴナンが、番外魔王の二人が気まぐれか何かわからないのだけど、魔の国に住み着いたのも大きな理由なの」

 

 ヨハンにとって、とても恐るべき少女マリアベル。

 

 そのマリアベルが、顔を青褪めさせてそう答えた。

 

 ヨハンはその事に、一抹の不安を覚えつつも、マリアベルに先を促す。

 

「それは、どういう意味なんだい?」

「魔王リムルは、恐るべき戦力を有しているの。そんな魔王が、武力を背景として交渉を仕掛けてきたらどうなるかしら? もしも、そうなったら真っ先に投入されるのが、ルヴナンの傭兵戦力なの。それも、最強戦力の一つである、全眷属達が投入されたら、どうなるかしらね?」

「ルヴナンの傭兵の眷属達。自国の戦力は、温存して……そ、それは……!?」

 

 マリアベルからそう言われて初めて、その危険性に気付いたヨハン。

 

 この世界では、魔物の脅威に対抗する為に、国家間での戦争はほとんど生じない。

 だがしかし、国同士の国境付近での領地の取り合いなどの小競り合いはあるのも確か。

 

 そうはあっても、何か問題が起きても評議会が調停を行う為、悲しいかな経済力が高い国の発言が優先される。

 

 このような事で、貴重な領地を奪われた小国も少なくはない。

 

 だから、ルヴナンがそのような国を相手に商売をしているのだ。

 

 

 評議会に加盟していない小国や公国、大きな村などは、ほぼほぼルヴナンの傭兵に頼っている。

 

 

 評議会から、魔物に(くみ)する人類の裏切り者と罵られようとも、背に腹は代えられないのも小国故の現状だが、ルヴナンの傭兵がいる限りには、他国に戦争でも仕掛けない限り、評議会が手出し出来ないのもまた確かなのである。

 

 ルヴナンは、小国などが大国からのいわれなき要求から守る手段でもあり、盾でもあったのだ。

 

 

 更にマリアベルは、武力だけが彼の国の力ではないと言った。

 ルールに縛られるという事は、自由を失う事と同義だと言い。

 そのルールを自ら作れる立場の者ならば、何も失わないともヨハンに言った。

 

 経済圏と戦力で、大国すらも上回る魔国連邦(テンペスト)が西側諸国にその価値を周知させてしまえば。

 後は、西側諸国の方が従わざる得なくなる、とも。

 

 そう、平和的に魔王の西側諸国の支配が完了する訳なのだ。

 

 そして、いずれ魔王の顔色を窺わないといけない時代が、必ず来ると宣言したマリアベル。

 

 

「だが、魔王は人類との共存を――」

 

 マリアベルは、思わず出たヨハンの言葉を一蹴し、冷たい視線でヨハンを射貫く。

 

「馬鹿ね、馬鹿なの。貴方だけじゃなく、評議会も同じ。馬鹿ばかりなのよ」

 

 そう言い捨てたマリアベルは、ヨハンにもわかるように説明する。

 

 現状まだいいとして、これから先の未来はどうなるのか?

 

 もしも、〝暴風竜〟とそれと懇意にする番外魔王という脅威を忘れた人類が、魔王リムルの機嫌を損ねたら?

 

 それは考えるだけ恐ろしい結果をもたらすと、マリアベルは言った。

 

 〝暴風竜〟もそうだが、番外魔王の二人の恐ろしさは、グランベル翁から直に聞かされていたから尚更である。

 

 千年以上前に番外魔王の二人が小国を滅ぼしたのは歴史でしか知らないが、三百年前に番外魔王の二人が小国を滅ぼしたのは、グランベルは直にこの眼で見ていたのである。

 

 怒り狂う番外魔王の二人。

 

 一片の情けもなく、その小国は一夜にして焦土と化したのだ。

 

 元勇者であり、番外魔王の二人の凶行を目にして、番外魔王の二人と戦うべきか否かを迷うグランベルだった。

 

 あの二人の力を目の当たりにしても、今戦えば倒せるであろう事はわかった、が、グランベルは躊躇したのだ。 

 

 何故そう思ったのか、グランベルはそこに疑問を持った。

 それは、ほんの微かな違和感。

 

 もしかして、そう思わされている(・・・・・・・)のではないか、グランベルはそう感じたのだ。

 

 そして、滅びゆく小国を見ながら、二人と戦う事を(いな)としたグランベルは、この事を目に焼き付け決して忘れてはならないモノだと、己の心に刻みつけたのであった。

 

 それを聞かされていたから、魔物の魔王の恐ろしさを一族の誰よりも知っているマリアベルである。

 

 だから、マリアベルは魔王を排除するという思考に到ったのだ。

 

 

「魔王がどれだけ生きるかわからないけど、人の寿命は短く(はかな)いの。ここで魔王の野望を阻止しなければ、ロッゾ一族の悲願は絶たれたも同然なの。あの番外魔王の二人ですら、もう五千年以上もの永き時を生きてるのよ――」

 

 元来魔王とは気まぐれなモノである。

 だから、心変わりをする可能性も無きにしも(あら)ず、と。

 

 相手は人にあらず、長命種相手に人の常識など当てはまらず、またそれを期待するなどあってはならない。

 

 そんな愚かな真似は、断じて認められないとマリアベルは語る。

 

 だから魔王と手を組む、あるいは利用するなど根底から間違っていると、言う。

 

「――そんなもの、成立するはずはないのよ」 

「な……」

 

 そう言いながら、幼きながらもヨハンを見るマリアベルの視線。

 ヨハンは何もかも見透かされているような感覚に(おちい)り、絶句する。

 

 そこへ、ヨハンに追い打ちをかけるように、子飼いの〝血影狂乱(ブラッドシャドウ)〟から、〝魔法通話〟で報告が届く。

 

 

 内容は、グレンダの敗北。

 

 

「馬鹿な、グレンダが捕まった、だと!?」

 

 もたらされた報告に、驚愕するヨハンに。

 

「――本当なの?」

 

 流石のマリアベルも、これには驚きを隠せなかった。

 

 

 グレンダの用心深さは、マリアベルですら称賛したほどだ。

 

 どんな危地からも生還する彼女を、マリアベルが絶対の信頼を置いていたほどである。

 

 それは性格や素行ではなく、飽くなき生への執着さを。

 

 

「信じられん、あの狡猾(こうかつ)な女狐が、まだ十代くらいの少女に負けを喫しただ、と……」

「ルヴナンの傭兵ね。少女ですらも強大な力を持つ、忌まわしき存在。どこまでも、影として付きまとうロッゾ一族の怨敵、〝傭兵商会ルヴナン〟」

 

 この報告を聞いて、ギリッと唇を噛み締めるマリアベル。

 

 

 グレンダは、ロッゾ一族が秘匿する召喚術の成功例であり、魂を縛る術式により忠誠心を強制させた〝異世界人〟である。

 

 強さは折り紙付き。

 その扱いは、戦術級の兵器に匹敵するほどだ。

 

 そんなグレンダが敗北し、しかも年下の少女に負けて捕縛されたなど、ヨハンには到底信じられるものではなかった。

 

 それは、マリアベルも同じであった。

 

「グレンダと同じ武器を使う少女? ルヴナンの傭兵にも似たような能力(スキル)を持つ者がいたのね。何て事、何て事なの。一体、どれほどの戦力を隠し持っている、の?」

 

 流石にこれは想定外の事であり、ルヴナンの傭兵にも〝異世界人〟がいる事がわかった為、マリアベルの中の傭兵商会ルヴナンに対する危険度が、更に跳ね上がる。

 

 今まではそれらしき痕跡もなかったのに、ここに来て隠していた〝異世界人〟という戦力の一部を見せたのには、番外魔王の思惑が見え隠れしているように思わずにはいられなかったマリアベル。

 

 もはや人間レベルでは、これに対応する事は出来ないと考えるマリアベル。

 

 しょせん単なる人間では、人の常識の中でしか物事を考えられない。

 

 マリアベルは、そんなヨハンを無視して対策を考える。

 

 

(倒すという選択は論外。でも、支配してしまえば問題はないの。番外魔王の二人は、見え隠れする思惑が限りなく不気味なのよ。目的は、魔王リムルのみ。だけど、傭兵商会ルヴナンも、そろそろ潰さないと駄目かもなの)

 

 やるしかないと決意するマリアベル。

 

 

「――罠を仕掛けるわ」

「罠? 何をすつもりだい?」

 

 今まで聞くだけに徹していたユウキが、おもむろに質問をして来た。 

 

 

「そうよ、罠なの。貴方の部下が、魔王リムルと遺跡調査に出向くのでしょう? そこで仕掛けるわ」

 

 マリアベルはユウキに向き直り、そう告げた。

 

 それは確認ではなく、確定事項を告げたのである。

 

 

「ああ。カガリは出向くけど、でも、それはちょっと不味いぜ?」

「何故かしら?」

「魔王ミリムも来る。だとすれば、恐らく番外魔王ツキハも来る、というか、魔王ミリムに無理やりに連れて来られるだろうね。だから、策を弄するのは危険だ」

「本当に魔王ミリムと、番外魔王ツキハは仲がいいのかしら?」

「僕は開国祭で、あの二人がどつき合いをしながらじゃれ合ってるのを見たからね」

「史実は本当だったのね」

「ああ、そうだよ」

 

 ユウキはそう忠告をした。

 

 そして、ここは魔王リムルの信用を勝ち取り、番外魔王とは敵対せず、長期的な視野で計画を立てるべきだ、と。

 

 しかしマリアベルは、既に決定した故に、ユウキの忠告を聞き入れない。

 

 

「駄目よ、駄目なの。時間を与えれば与えるだけ、あの魔王は厄介になるわ。しかも、番外魔王の二人があそこに住み着いているのよ。アレが本格的に動き出せば、何もかも喰らい尽くされてしまうわ。そうなったら手遅れなの。私の勘が、魂が、そう(ささや)くのよ。ユウキ、魔王ミリムを来させなくは出来ないのかしら? そうすれば、番外魔王ツキハも来ないわ」

「それこそ無理だね。僕は既に怪しまれてるみたいだし.番外魔王に至っては、バレる以前の問題だね」

「何で番外魔王の二人は、ユウキの正体をバラさないのかしら?」

「口止めの契約を交わしたのさ。法外な値段を吹っかけられたけどね。それに、ここで断ったらリムルさんに、完全に黒認定されるから無理だよ」

「そうなのね。では、魔王ミリムと番外魔王ツキハも同時に潰しましょう」

「は?」

「無茶だ! それは無謀を通り越した何かだぞ、マリアベル!!」

 

 マリアベルの言葉を、ユウキは呆然(ぼうぜん)と聞き返し、ヨハンは思わず立ち上がって反論する。

 

 当たり前の話しである。魔王一人潰すにしても、国家レベルで慎重に事に当たらねばならない。

 

 それでも、討伐出来るか(いな)かは未知数なのである。

 

 それなのに、三名の魔王を同時に相手をするなど、自ら成功率をゼロにする愚かな行為。

 

 それでも、マリアベルは微笑みを浮かべ二人を見る。

 

 

「全力を投入するの。全力よ?」

「いや、だから無理だって! 全力と言ったって、僕の部下、中庸道化連は使いに出してて今はいない。っていうか、番外番外ツキハに手を出せば、番外魔王コハクと、眷属全員が出て来る事になる。あれを全て相手にするのは、絶対に無理だ! 僕達は、時を置かずして間違いなく全滅させられるぞ!」

「そう。いない者は仕方ないのよ。それに、番外魔王コハクとて、四六時中番外魔王ツキハを監視してるわけではないでしょう?」

「そ、それはそうだが……」

「あの猫の片割れが来る前に、片付ければいい事なのよ」

 

 ユウキの反論は、結局、何を言ってもマリアベルには聞き入れてもらえなかった。

 

 

 そう、マリアベルには、より大きな力――

 

 魔王に対抗出来る戦力に当てがあったのだ。

 

 

「ユウキ。貴方には以前、〝竜の巣〟から〝とある品〟を調達してもらったわ。今こそアレを使う時なのよ」

「〝とある品〟って、まさか!? アレを使う気かい? アレは不味いって! 流石に僕でも制御不可能なんだぜ?」

「問題ないわ。アレは元々、魔王ミリムのものなんだもの。返してあげるだけなのよ。筋書きはそうね、魔王クレイマンが切り札として保管していたアレを、残党共が利用したってところかしら? これなら、魔王ミリムの怒りが私達に向く事はないのよ」

「番外魔王ツキハはどうするんだ?」

「ユウキ。心配し過ぎなのよ。筋書き通りに事を運べば、ルヴナンの調査は残党に向く事になるわ。血祭りに上げられるのは、生き残っている残党の方なのよ」

「そうだね、そうあってくれればいいね」

「大丈夫よ、ユウキ」

 

 ここでユウキは、反論するのを諦めてしまう。

 

 そこへヨハンが。

 

「し、しかし、下手をすれば、、人類にも甚大な被害が出ますぞ……」

「だから? 番外魔王の二人が暴れるのと変わりはないのよ」

「い、いや……」

 

 マリアベルに思い直してもらおうと提言するも、その言葉は軽く流されて終わる。

 

 こうして、マリアベルの作戦は決定となってしまう。

 

 ユウキは反論を諦め、マリアベルの思考を理解しようと思案していた。

 

 その結果、その作戦が思った以上に成功率が高いと判断する。

 

 

「……確かにね。アレなら、魔王ミリムが自ら相手をするだろう。リムルさんが戦おうとしても止めるだろうし、魔王を分断するという目的には最適かもね。恐らく番外魔王ツキハは、魔王ミリムの手助けをするだろうからね」

「うふふ。流石ね、流石なの。そして、魔王ミリムと番外魔王ツキハがアレと戯れている間に――」

「僕達でリムルさんを支配する、って感じかな?」

「そうね、その通りよ」

「だが、気掛かりな点が一つある」

「〝暴風竜〟の事かしら?」

「うん、その通りだよ。もしもリムルさんの支配に失敗して、ヴェルドラが暴走したらどうする気だい?」

 

 もしも、予想以上の抵抗を受けた場合、支配する余裕などない事も考えられる。

 

 そうした場合、ユウキはリムルを殺すしかなくなる。

 だからそれを危惧して、暗にマリアベルに伝えようとした訳だが、それは想定内だったらしい。

 

「それに関しては心配ない、心配ないのよ。〝暴風竜〟が暴走したとしても、番外魔王コハクがそれを止めるわ。今や、魔の国との関わりは魔猫の鈴、(かせ)とも言えるのよ。どっちにしろ、動かなければいけなくなるわ。それほど〝暴風竜〟と番外魔王二人の繋がりは、とてもとても古くて深いの。番外魔王の二人が、この地に生れ落ちてからずっと、暴風竜〟が面倒を見ていたのだから」

「何だって!? それは、本当かい?」

「ええ、本当なの。御爺様が以前に、〝とある者〟から一度だけ聞かされたと教えてくれたのよ」

「これは、驚きだね。伝承や史実にはない事実があったなんて……」

 

 マリアベルの言葉に驚きを隠せないユウキ。

 

 番外魔王の二人が、そんなに古くから〝暴風竜〟ヴェルドラと繋がりがあったなんて、想像も出来なかったのだ。

 

 

「ユウキ。貴方は何も気にせずに、魔王リムルを倒す事だけを考えればいいわ」 

「――わかったよ。君がそう言うのなら、信じるさ」

 

 ユウキの返事を聞いて、マリアベルはコクリと(うなづ)いた。

 

 

 マリアベルは、より深く世情が見えている。

 

 祖たるグランベルから聞かされた、魔王に関する知識によって。

 

 

 だがしかし、情報の闇を覗く時、情報の闇もまたこちらを見ている。

 

 そう、ルヴナンという、情報の闇という深淵に巣くう怪物が。

 

 

 その事にマリアベルは、気付いてはいない。

 

 

 仮に、〝暴風竜〟が暴れたとしても、番外魔王コハクと魔王ルミナスが対処するだろう。

 

 人類に甚大な被害が出る事にはなるだろうが――

 

 いや、むしろそうなった方が、マリアベルにとって都合がいいのだ。

 

 このまま魔王リムルの支配が進むよりはマシだと、考えるから。

 

 

 西側諸国の裏側、(すなわ)ち闇に巣くうルヴナンもろとも滅んでくれたら儲けもの、そのくらいまでにマリアベルは魔王リムルを敵視し、ルヴナンを忌み嫌っていたから。

 

 

 目の上のタンコブたるルヴナンの打倒。

 

 魔王リムルの台頭(たいとう)が進めば進むほどに、それは密接に絡み合い手の施しようがなくなる。

 

 それを危惧し、今ここで手を打たねばと、策を(ろう)するマリアベル。

 

 

(それだけは、絶対に阻止するのよ。多少ならば、世界が壊れても――)

 

 その為ならば、世界が〝暴風竜〟ヴェルドラの脅威に晒されようとも構わない。

 

 と、マリアベルは内心でほくそ笑む。

 

 

 それから、マリアベルとユウキは二人だけで詳細な作戦を検討立案し始めていく。

 

 もはやここまで来ると、ヨハンは作戦の成功を祈るばかり。

 

 

 かくして魔人達は、入念に、そして緻密に悪意を()めて、リムルを封殺し、ツキハとミリムをも封じ込めようと作戦を練り上げていくのだった。

 

 

 

 

 





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