忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。236話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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236話 元傭兵の転職先

 

 

 再度リムルの尋問が始まった訳だが、グレンダの表情は固かった。

 

 

 口を割らない自信はあったが、コハクの言う拷問をされた場合、耐えれるのかというと、多分耐えられないと理解していた。

 

 しかし、リムルが質問する内容事態は読めず、これもまたどう答えるかで自分の身が最悪な結果になるであろう事もわかっていた。

 

 

 そして――リムルは智慧之王(ラファエル)の発言をそのまま口にしていく。

 

 

「君みたいなプロに、素直に情報を漏らせと言っても無駄だし、コハクの拷問以外では口を割らない事はわかっている。しかしだ、俺は君にそこまでの行為はしたくはない。だから、君はただ、俺の話とコハクの話を聞いてるだけでいい。実に、平和的だろ?」 

 

(ほほう、なるほど。相手が動揺する内容を言って、その表情から情報を読み解く感じかな? コハクは何を言って来るんだろうか。ん? ツキハが暇そうな顔をし始めて来ている。まあ、こういう場合になると、コハクの方が口が立つから仕方ないよねえ)

 

 と、智慧之王(ラファエル)発言を言いながら、そんな事を思うリムルであった。

 

 

「まあ、せいぜいポーカーフェイス崩さぬ事だ」

「せやね。ボロを出さないよう、おきばりやす」

「ハンッ! 舐めないで欲しいね。言われるまでもないってもんさ」

 

 こうして、グレンダは受けて立つ事になる。

 

 

「コホン。それでは、ユニークスキルとは魂に根付くものが多い。君もまたその例に漏れず、強固な力で魂と癒着しているようだ」

「へえ、初耳だね。で、それがなんだい?」

「うむ。さっきの会議の時、〝欲望〟に染まった議員達が大勢いた」

「へえ、それはまた……」

「その〝欲望〟は、強制的に植え付けられれたものだった」

 

 リムルがここまで言うと、次はコハクが語り掛けるように言って来る。

 

「それな、魂に対し影響を与える能力(スキル)やと思うねん。だから、その影響を受けたんやと思うとるんよ。うちとツキハ、眷属はな、〝悪魔族(デーモン)〟と同じく魂を扱う事に()けてるんや」

「それがどうしたって言うんだい?」

「でな、アンタもその影響下にあるんやで、これがな」

「何だって?」

 

 これには、表情を崩さずとも驚き交じりの言葉になるグレンダ。

 

 ここでまたリムルが、グレンダに事実を突きつけて来る。

 

「ただし君の場合、自身のユニークスキルによって魂が保護されているお陰で、完全には染まり切ってはいないみたいだな」

「クッ――」

 

 リムルとコハクの言葉を否定出来ないからか、グレンダは無言で二人を睨みつけて来る。

 

(うん、俺が代理で話しているんだけど、それ初耳なんですけど?)

 

 ここまで智慧之王(ラファエル)とコハクが語る内容が、自分も知らない内容でどこかまんじりともせずに口を動かすリムルであった。

 

「でだ、そんな素晴らしいユニークスキルなんだが、その有無を見抜ける者もいる訳だ」

「――それは、鑑定眼かい?」

「そうだな。有名なのは、魔王ミリムの『竜眼』だろうな。俺も詳しくは知らないけど、〝魔王ミリムは何でも見通す〟という伝承が残っているんだろ? これに関してはその通りらしく、ミリムは見ただけで、相手がどんな系統の能力(スキル)を持っているか大体わかるらしい。そして、ここにいる番外魔王コハクとツキハも、『忍魔眼』と『魔隻眼』というものを持っているんだよ――」

 

(これは本当だ。とは言っても内面系は見抜けないらしいし、相手が使用しなければ詳しい情報は読み解けない。コハクとツキハのも、ミリムほどではないけど、それに近いものがあると聞いていたしな。それに――) 

 

 リムルは、ギィ・クリムゾンと初めて会った事を思い出す。

 

 ギィは、リムルに対して魔素量(エネルギー)を偽装していた。 

 

 それでリムルは、能力は(スキル)は自分からバラさなければ隠蔽可能だと思っていた、この時は。

 

 

 だが、違った。

 

 

 ただし、鍛えあげた『解析鑑定』ならば能力(スキル)の有無は見抜けるのである。

 

 リムルの場合は、究極能力(アルティメットスキル)が四つあったお陰で、『暴食之王(ベルゼビュート)』を前面に出しギィを欺いた。

 

 絶対に暴かれてはならない能力(スキル)は『智慧之王(ラファエル)』なので、これに関しては今も細心の注意を払いながら行動している。

 

 しかし現在は、『智慧之王(ラファエル)』が秘匿管理しているので安心なのだが、それでも万が一を想定しいるリムルであった。

 

 更には、鍛え上げて完全に能力(スキル)を自分のモノにした場合、解析系の能力(スキル)を欺く事が出来るらしい事をリムルは知った。

 

 今では能力(スキル)の隠蔽を可能にするまでに至っている。

 

 

 ここで、コハクとツキハが日頃から言っている、〝技量を磨け〟に繋がって来る。

 

 技、(すなわ)能力(スキル)を鍛錬で磨き上げ、更なる能力の向上を計る。

 

 与えられた能力(スキル)の力に溺れず、上を目指すのが二人のやり方であるが。                                             

 これは、人であった〝忍び〟の頃からの師の教えでもあり、それを魔物になっても実践しているのだ。

 

 そして、己の自由の為に、それを脅かす者に抗う為に日々研鑽(けんさん)を続けている。

 

 与えられた技や術を、日々の鍛錬や実戦で磨き上げていく。

 

 戦場(いくさば)では、これを怠ったものから死んでいく、例外もなく等しく死んでいくのだ。

 

 だから、この世界に転生してもコハクとツキハは〝技量を磨く〟事を怠らないのだ、何千年経っても。

 

 これを実践している魔物で代表的な者に、ディアブロがいる。

 自分に制限を掛け、負けたら終わりの戦いを悪魔界で延々と続けている、異端魔とも言える存在。

 

 何故なら、今まで貯めた魔素量(エネルギー)が負けた時点で全て失われ、振り出しに戻るからである。

 それが一万年だろうと、二万年だろうと、一瞬で今までの成果が無に()すからだ。

 

 そして、初めてコハクとツキハに出会った時、二人の能力(スキル)にそれらしい痕跡を見つけ、歓喜し、興味を持ったのが始まりであった。 

 

 一度、ツキハがリムルに言った事がある、『ディアブロだけは、本当に実力が読めないんだよねえ』と。

 他の魔王、特にギィやミリムにダグリュールなどは、ヤバいとわかるくらい強いのがわかるとも言った。

 

 ただ、ディアブロに関してだけは、この強さの定義が曖昧(あいまい)だとも言ったツキハ。

 しかしリムルは、これと同じ事をディアブロから聞かされていた。

 

 とどのつまり、この〝技量を磨く〟を実戦している三人だからこその発言だろうとリムルは考えている。

 

 ただし、他の魔王や魔物が隠れて〝技量を磨く〟事も想定はしているディアブロとコハクとツキハ。

 そこに、油断や(おご)りは一片も存在しない。

 

 

 だがしかし、どんなに強力な解析眼も判別不能な例外もある。

 それは、ツキハの権能『猫騙し』であり、これに関しては智慧之王(ラファエル)ですら規格外の何かとしか説明のしようがないと答えていた。

 

 

 それでは、ここで話を戻そう。

 

 与えられた能力(スキル)は、鍛える事が出来き能力を向上させる事が出来るのである。

 

 

「で、何が言いたいんだい? アタイには確かにユニークスキルが」ある。そのお陰で〝欲望〟に染まり切っていないのだとしても、それが何だってのさ?」

 

 リムルが少し間を置くと、グレンダが()れたように問い返して来た。

 グレンダは、自分が知らぬ内に〝欲望〟の影響を受けていると聞き、内心穏やかではいられなくなっていたのだろう。 

 

 当のリムルは、智慧之王(ラファエル)の言い回しが少し難し過ぎて自分の言葉にするのに苦労していたが、今は智慧之王(ラファエル)の助言により『思考加速』を併用し、スラスラと返す。

 

「君が欲望に染まっているかどうかは、俺には関係ない。ただ一つ確かなのは、君の雇い主、いや、真の主と呼ぶべきかな、かなり強力なユニークスキルを所有している点だ。これは、間違いないだろう?」

「ノーコメント――って言いたいが、そいつは認めるさね」

「ありがとう。では続きだが、この前の開国祭の時にも、欲望に染まった奴がいた。ガイって男で、今日の昼にシュナが成敗した野郎だ。他の来客は影響を受けていなかったが、一部の商人はその影響を受けていた。かなり大勢の対象に影響を及ぼす場合、術者が近くにいる場合が多い。俺はそう考えたんだよ。そして、それはほぼ確定したんだ。コハク、頼む」

 

 グレンダが何かを答える前に、リムルはコハクに言葉を促す。

 

「あの時なぁ、どこかの爺様の孫が遊びに来てましたんや。年に見合わぬドス黒い感情を身に纏ってな」

「……(クソッ! どこまで掴んでいるんだ? ルヴナン、恐ろしいまでの情報網を持つ組織。ロッゾ一族が警戒するのも(うなづ)けるもんってさね)」

 

 コハクの言葉に僅かながらも動揺が走り、無言のままのグレンダの表情が微かに曇る。

 

 

 そんなグレンダに、コハクが次の事を突き付けて来た。

 

 

「ロッゾ一族の(おさ)の孫である、マリアベル・ロッゾ、この名前に聞き覚えがありますやろ? ないとは言わさへんでぇ」

「――ッ!?」

 

(うはッ。コハクがド直球で来たよ。あそこも、魔物が国に潜入は難しいと言ってたけど、ガットエランテを使って長年調査を行って来たと言ってたからな。その調査資料が今まさに智慧之王(ラファエル)さんによって、俺にもわかりやすく纏められている) 

 

 リムルは、凄まじい勢いで流れてくる思考イメージの記憶情報を読み解きながら、そう思った。

 

 そして、ここでリムルが畳みかけて来る。

 

「コハクの言った事に、間違いないだろう? 俺の『解析鑑定』は優れていてね。能力(スキル)の有無を見抜けるだけじゃなく、何かを隠蔽しようとする気配も感じ取れるんだ。そして、開国祭の時に怪しい気配を感じた訳だが、その一人がマリアベルという名の少女だったんだよ。これは、コハクとも答え合わせが終わってるんだな」

 

 リムルとコハクの話を聞く内に、グレンダの顔色が先ほどよりどんどんと悪くなっていく。

 

 頬を流れる一筋の汗、ここまで隠し通す気でいたが、その心は次第に折られていった。

 

 「お、お前達は――」

 

 あからさまに動揺の言葉を吐くグレンダ。

 

 そこへ――

 

「マリアベル・ロッゾですって? ロッゾ、ロッゾ一族の(おさ)の孫、なるほどね」

「ヒッ!?」

 

 何かを言い掛けたグレンダを遮り、ヒナタがそう口にした。

 

 突然発言の横入りをしたのだから、グレンダは怒ってもいいはずなのだが、その後の発言は止まったままだった。

 

 何しろヒナタは、全てに合点がいったような表情をしていたのだ。

 

「グランベル・ロッゾ。ロッゾ一族の創始者にして、元〝勇者〟だった偉人。グレンダ、貴方も当然知っていたわよね? 〝七曜〟の(おさ)である日曜師の正体が、グランベルだという事を。そして、ルヴナンはその情報を掴んでいた――」 

 

 ヒナタはここまでの話しから、自力で真実に辿り着く。

 

 そして、裏で繋がっていた者達の全貌が明らかになって来る。

 

「〝七曜〟ってのは、この前のアイツ等の事か。全員死亡したって聞いているが、そのグランベルってヤツは今も生きているのか?」

「ニコラウスがトドメを刺したと言っていたけど、何百年も西方聖教会を牛耳っていた怪人ですものね。生き延びていたとしても、不思議ではないわね。ねえ、そうでしょうコハク」

 

 ヒナタはそう言うと、コハクを見る。

 

「あの爺様を、あんな不意打ちくらいで殺せますかいな。何重にも不測の事態に備えて、逃走手段を用意してはる爺様どすからなぁ。()るなら、他の〝七曜〟を()る前に、真っ先に狙わなアカン。それでも、五分と言ったところやろな。それだけ用周到な爺様なんやで、アレは」

 

 フフッと笑みを返し言うコハク。

 

「そう。よくそこまで把握していたわね。本当に一番怖いのは貴女達だわ。ところで、その情報はどこに売っていたのかしら?」

「フフッ」

 

 ヒナタはルヴナンに大口、いや、リムルより最優先で情報を売っている人物がいるのではないかと感じていた。

 

 それは当たりであり、コハクの笑みがより怪しく深まったのを見て、ヒナタは確信を得たがそこからの詮索を止めた。

 

「はあ。今度からは、こちらにもそういった情報は融通してくれると助かるのだけど」

「それは、あんさんより〝上のもん(ルミナス)〟がどう言うかでっしゃろな。情報に見合う対価を払うんなら、それなりに融通するどすえ」

「そう、話は通しておくわ」

「まいどおおきに」

 

 ヒナタとコハクはどこか牽制し合うように笑みを交わし、この話はここで終わる。

 

 どこか置いてきぼりを喰らったようなグレンダは、コイツら何を話してるんだというような顔で二人を見ていた。

 

 そして、核心をリムルが言い放つ。

 

「でさ、黒幕はグランって事かな?」

「間違いないわね。マリアベルという強力な能力者を利用して、何事か企んでいるのでしょう? ねえ、コハク」

「せやで。でもな、一つだけ間違ってますえ」

「え?」

「何かしら?」

 

 コハクが投げた言葉に、リムルとヒナタが疑問の顔を浮かべる。

 

「あれは利用やない。共闘や。そこを間違うと、寝首を()かれますでぇ」

「なるほどな」

「そう、覚えておくわ」

 

 こうして、リムルとヒナタ、そしてコハクにより情報のすり合わせが行われ、答えは出揃う。

 

 もはや、グレンダの価値は失われたも同然であった。

 

「チクショウがあッ!! アタイは何もゲロっていないのに、そこまで見通せるもんなのかい!? クソがッ!  一体ルヴナンって、なんなんだ! 何故そこまで情報を得られるんだい、おかしいだろうがあッ!! フザケンナよ! これじゃあ、アタイが全部ゲロっちまったのと、何も変わらないじゃないか――ッ!!」

 

 自分の立場を忘れ激高するグレンダ。

 

(う~ん、残念だったね。相手が悪かったと、しか言いようがない。めっちゃ優秀な智慧之王(ラファエル)さんに、異常なまでの情収集能力を誇るルヴナンが合わされば、君がとうてい(かな)う相手ではなかったという事なんだよ)

 

 感情のままに(まく)し立てるグレンダを見ながら、内心でどこか(あわ)れむように思うリムルであった。

 

「ま、そう思われても仕方がないだろうな」

「せやねぇ。喧嘩売る相手を間違(まちご)うとるのは、どもなりませんなぁ」

 

 リムルがそう言うと、コハクが腕を組んだまま右頬に手を当て、言い捨てる。

 

「いい気味ね、グレンダ。裏切り者の末路に相応しいじゃない」

 

 そして、ヒナタは冷淡な目つきで言い放つ。

 

「チクショウ、このままじゃ、マジに殺されてしまう……」

 

 

(まあね、俺は殺す気はないし、全部白状させたらどこぞへ放り出そうかと思っていたんだけど。そんなに――)

 

 心底怯えるグレンダを見て、リムルはマリアベルが気になって。

 

「なあ、そのマリアベルってのは、そんなに強いのか?」

 

 と、聞いてみた。

 

 

「――そんな問題じゃないさね。アタイ達のような〝召喚者〟は、逆らえないように術式で魂を縛られているのさ。裏切ったと判断された瞬間、魂を砕かれちまう。そうなりゃ完全に終わりさね」

「魂がなければ、蘇生も出来やしまへんからなぁ。古来から、奴隷や手駒を縛るには有効な手段おすからな」

「そうさね。つい最近で言えば、マジもんにヤバイ奴が一人、〝血影狂乱(ブラッドシャドウ)〟にいたんさね。ソイツが魂を砕かれて死んだらしい、と、聞いたからね」

 

(ヤバイ奴? んん……ああ! ヤスケとかいう、ヒナタを狙った刺客(しかく)かぁ。あれって、ツキハがおもしろいからって理由で逃がしたんだよなぁ。今頃何してるんだろうか……?)

 

 リムルはグレンダの話を聞きながら、あの時の事を思い出す。

 

「そう。では、貴方は自分の意志でルミナス様を裏切った訳ではなく、逆らえなかっただけだとでも?」

「それに関しちゃあ、複雑さ。神の慈悲に(すが)りたいと思っても、グランベル様の目が光ってたからね。何をするにも、見えない監視の目が常にアタイを見ていたから、何も出来ないなってのが本音さね」

 

 ヒナタはそう言いつつ、冷たい視線でグレンダを睨んではいたが、どことなく怒りが収まったようには見えていた。

 

(まあな、そう聞くと同情できる点は確かにある。勝手にこっちの世界に召喚されて、変な術式で意思を縛られ、手駒として使われるんだからな。さもありなんと、言うとこだろう)

 

 今までやって来た事はさておき、グレンダにも言い分はあるとリムルは思った。

 

「終わりさ。アイツは、マリアベルはアタイの感情を読んでいるんだ。コッチに裏切ったつもりがなくても、アイツの判断でアタイの魂は砕かれちまう」

 

 悔しそうに嘆くグレンダ。

 

「そうね、神の慈悲ではどうにもならないわね。コハクが言う通り魂を砕かれた者は、人間であれ魔物であれ、死者蘇生(リザレクション)でもどうにもならないもの」

 

 そんなヒナタもまた、冷たい表情のままグレンダの助かる道を模索してるようだった。

 

 

(俺なら、その術式を解除出来るんだろうか?)

 

 リムルがそんな事を思い。

 

《解。問題ありません。解除し――》

 

 智慧之王(ラファエル)が解除しようとすると。

 

 

「ちょーっと邪魔するでぇ」

 

《!? ……》

 

 と、コハクがグレンダの前に行き、いきなり右()き手をグレンダの胸の中心に刺した。

 

「はあッ!?」

 

 グレンダは驚きの声を上げ、智慧之王(ラファエル)はどこか不機嫌なオーラをコハクに対して放つ。

 

『そないに怒りなさんな。これな、多分古式魔法の術式やねん。下手に解除すると、即お陀仏やでぇ』

《問。いつの時代でしょう?》

『千年以上前の魔導士が組んだ魔法術式やろな。まだこないなもん、使う奴がいたんやねぇ。あの爺様、どこで見つけて来たんやろな。ほんま、喰えん爺様やで』

《では、その情報を頂きます》

『もらう前提かい!? まあええけど』

 

 コハクの腕は既に肘まで入り、本来ならグレンダの胴体を貫いていても不思議ではないのに、痛みも触られてる感覚もないこの現象に、目を見開いたまま固まるグレンダであった。

 

 

 そしてコハクは、グレンダの魂を探すべく、差し込んだ右手をグリグリと動かしていく。

 

 

 ……う~ん ここやな 

 

 ……ふふ 当たりやな やっぱり古式魔法やねん

 

 ……しかも 一番厄介なもんやないか まあ ツキハがヤスケの術式を破壊した時に それはわかってはいたんどすけど

 

 ……これ 正攻法で解除しても トラップになってる魔法術式をどれか一個解体しても 発動しますやないか

 

 ……ツキハが言ってましたな 一気に纏めて全てのトラップと魂を縛る術式を破壊せな アカンと

 

 ……《脳筋猫はある意味怖いものですね。美しくないです》

 

 ……ほっときなはれ! ツキハはそれがいいんやでぇ♪

 

 ……まあ うちなら こんなもん 片っ端から解除して トラップの元になる術式すら解体してみせますで

 

 ……ふっふふ~♪ ほら トラップを起動させる術式が見えましたで ほな これを 解体してぇ

 

 ……《コハク。そこは後回しに、先にそこからでは?》

 

 ……そう思うやろ? それもトラップなんやでぇ♪

 

 ……《なんと。では、それは?》

 

 ……これか? 本命や ほおら 顔を出しましたでぇ おおもとのトラップ術式が

 

 ……《なるほど。現在の術式よりかなり複雑化されてますね》

 

 ……まあ 今の魂を縛る術式は かなり簡略化されてますさかいな

 

 ……ほっ!? なんやなんや まだトラップあったんかい これ 解除したら 即あの世行きやな

 

 ……《何重にも仕掛けられた術式。なかなかに興味深いですね》

 

 ……せやろ♪ おもろいやろ? しかしほんま しょうもないトラップばっかり仕掛けよってからに あの爺様 

 

 ……こんなもん チョチョイのチョイやで~♪ ふふふっ

 

 ゴソゴソと動いていたコハクの右腕が、スーッとグレンダの胸から引き抜かれた。

 

 

「終わったどす」

 

 コハクがにこやかにグレンダに告げる。

 

「は、はあぁ?」

「もう心配いらん。アンタに仕掛けられた〝魂を縛る術式〟は、うちが解除したさかい。もう、アンタを縛る物は、なーんもあらへん」

「え、はあ……」

 

 今までコハクの右手が刺さっていた胸の部分を触りながら、気の抜けた返事をするグレンダ。

 

 そして、リムルがグレンダに告げて来た。

 

「と、いう事だ。もう用事は済んだし、好きに生きたらいい。相手も多分、君が死んだと考えるだろうしね」 

「い、いや、そういう話をしてるんじゃなく、アタイを縛る支配の〝呪言〟を解除したっていうのかい?」

 

 今起きてる事が信じられなくて、聞き返すグレンダ。

 

「うん、コハクが解除したって言ったよね。だから、言葉通りだ。俺達に敵対しなければそれで良し。もし、敵対するならば容赦はしないし、次はない」

「まあ、私としても今回だけは目を(つむ)ってあげる。リムルが見逃すという相手を始末したら、私が恨まれてしまうもの。ただし、肝に銘じなさい。貴方はルミナス様を裏切った。西方聖教会は、それを決して許さない、と。それに、貴方にはルヴナンの監視が付くでしょうね。どこに行こうがそれから逃れる事は出来ない。要は、大人しく生きればいいだけよ」

 

 完全に放し飼いみたいになった自分に、グレンダは戸惑いながら声を上げる。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待っておくれさね。アタイを許すと言うのかい!?」

「うん。だから、もう行っていいよ。我が国に滞在したければ好きにしてもいいけど、問題を起こしたらその時点で、わかっているよね?」

「い、いや、待って、待ってください!! アタイを本気で逃がすと?」

「うん。ツキハじゃないけど、今更殺したら、無駄な殺しになるし。別に殺したい訳もないし」

「リムル様が許すというのなら、俺達が反対する理由はない」

「まあお前如き、大した脅威ではないからな」

 

 ソウエイとベニマルも、リムルに追随してそう言った。

 

 そんなリムルに対して、グレンダが急に(ひざまず)いた。

 

 

「お、お願いがあるんだ! アタイの知る限りの情報を話すから、どうかアタイを雇っちゃくれませんか? 汚れ仕事でも何でもするので、何卒(なにとぞ)お願いさね!! 魔王様、どうかどうか――」

 

 そう懇願するグレンダに、リムルがうーんと、考え込んでいると。

 

「なあなあ、リムル。コレ、うちがもろてもよろしおすか?」

「え? アタイがコレ? コレって――」

「なんえ?」

「いや、何でもないです」

 

 ニコニコとリムルに、コハクがそう言って来て、これ呼ばわりされたグレンダに嫌な予感が走る。

 

「ああ、うん、まあいいけど」

「さっきの報酬の話しな、コレにするどす」

「本当に、コレで、いいの?」

「ええねん。コレ気に入ったから、うっとこで使いますねん」

「そうか。じゃあいいよ。お前のところで面倒見てくれ」

 

 即断即決、グレンダはルヴナンの傭兵になる事がこの場で決まった。

 

「あ、いや、アタイはルヴナンじゃなく――」

「ん? 何や、不服どすか?」

「いえ、滅相もない。文句はないさね、いや、ないです(マジか! アタイの人生、終わった……)」

「アンタはなぁ、うっとこの問題児ばかり集めた部隊があんねん。まあ、部隊といっても人数は少ないんやけど、そこで働いてもらいましょかぁ。汚れ仕事から(いくさ)に要人護衛や潜入工作、なんでもぎょうさんありますえ~♪」

「あ、あの、コレに、問題児って――」

「何どすか?」

「いあえ、いえ、どこでも文句はないで、す」

「さよか。ええ()や♪」

 

 グレンダとしては魔国連邦(テンペスト)に雇ってもらいたかったのだが、まさかのルヴナン行きとなり、ガックリと肩を落とす。

 

 

 そんなグレンダを、リムルもヒナタもご愁傷様ですという顔で見ていた。

 

 こうしてグレンダは、運が悪い事にコハクに貰われる事になったのである。

 

 

「どうして、どうして、こうなったさね?」

 

 心の中で言うつもりが、表に駄々洩れのグレンダ。

 

 

「まああれだ。コハクに気に入られたのが運の尽きってね」

 

 これはリムル。

 

 

「アタイはコッチじゃなくて、魔国に雇って欲しかったんだ!」

 

 もう形振(なりふ)りを構わないグレンダ。

 

 

「ルヴナンなんて、貴方にはお似合いじゃなくて? これで衣食住は保障されたんだから、諦めなさい」

 

 ヒナタがクスリと言い放つ。

 

 

「よりにもよって、ルヴナンなんて……。じょ、冗談じゃ、ないさねえぇーーーーッ!!」

 

 グレンダの叫びは、空しく響くだけ。

 

「ほーん。そないに言うのなら、うっとこで一番過酷な部隊に放り込みましょか?」

「いやいや、流石にロモコ班は不味くね?」

「え? ロモコ班? 何さねそれ?」

「楽しいでぇ♪ そこな、うちの専属暗殺部隊やねん。めっちゃ愉快な猫の集まりやから、可愛がってもらえるでぇ~」

 

 ニヤーッと言うコハクにツキハが口を出し、グレンダの額に汗が(にじ)み始める。

 

「もう、こうなったら何を言っても無駄だから、アンタも観念しな。コハクは言いだしたら聞かないし。大人しく従った方がいいぞ? あんまり駄々をこねると、すんごい〝お仕置き〟を喰らちっまうよ?」

 

 やれやれと言うツキハは、リムル達と顔見合わせ肩をすくめる。

 

「ア、エ……オシオキ?」

 

 流石に言葉が出なくなるグレンダ。

 

「なあなあ、ロモコ班で良いでっしゃろ?」

「いや、あの、出来れば普通の傭兵でお願いさ、じゃなくて、お願いします」

「なんや、嫌なんか? しょうもない()やねぇ」

「まあまあ、コハク。もう夕方近くだから、場所を変えて話を聞く事にしようじゃないか」

「うーん、せやね」

「じゃあ決まりだ。」

 

 リムル達一同は、応接室から場所を移すべく執務室を後にした。

 

 

 いきなり強制的にルヴナンの傭兵となったグレンダ。

 

 ここから色々な事で、振り回される事になるのだが……。

 

 

 再び、グレンダの楽しい? 異世界傭兵人生は、始まったばかりである。

 

 

 





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