忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。237話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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237話 一触即発か?

 

 

 グレンダが知る限りの情報を聞き出す為に、リムル達は配下用の食堂に足を向ける。

 

 これからは尋問ではないので、夕食を食べながら話を聞く事にしたのだ。

 

 

 食堂はその日の仕事を終えた配下達で賑わっていた。

 

 続々と入って来る配下達で賑わう食堂。

 

 

 そして、食堂に来たリムル達に、いや(おも)にリムルとグレンダにシュナが説明するように話す。

 

「食堂ではメニューの書かれた木札を取り、窓口にて交換してもらいます。ここには日替わりメニュー三種類と、スペシャルメニューがあります。幹部の特典としては、好きな料理を注文出来るんですよ。そして、ルヴナンもこの食堂を利用出来るんです。それで、ルヴナンの幹部も同じように好きな料理を注文出来るんですよ」

「え、そうなの? 俺にはいつも勝手に用意されてたのだけど?」

「アンタ、この国の王じゃん。そら配下が用意するのは当たり前じゃない」

「え、あ、うん」

 

 シュナの説明に今まで気にしてなかった事を痛感したリムルであり、ツキハに突っ込まれた事で自分の立場を再認識するリムルであった。

 

 それを見てクスリと笑みを浮かべたシュナは、説明を続ける。

 

「それで、今から取る木札が一番の人気メニューなのです。我が国では、普段から功労ポイントを集めて予約するんですけど、ルヴナンではお役目(オシゴト)に対する貢献度がポイントなるんです。早く並ばなければ食べられない、スペシャルメニューなんですよ」

 

 ちなみに、ルヴナンはポイントに乗じた分を魔国連邦に支払っている。

 一ポイント銅貨五枚の計算になり、そのポイントが使われた分だけルヴナンに請求する形になっていたのだ。

 

 シュナがニコニコとスペシャルメニューの木札を、リムルに手渡す。

 

 ベニマルとソウエイもいつもそれらしく、密かに幹部達の争奪戦が繰り広げられているらしい。

 

 これはリムルに話されなかった事だったが、リムルにしては容易に察しがつくも、そこは()えて突っ込む事はしなかった。

 

 更にそこに、ルヴナンが入って来るのだから、スペシャルメニューの争奪戦は激化してるのは明らかだったのだ。

 

 その話を聞きながら、リムルは周りを見渡して見ると。

 

 ルヴナンの関係者と思われる者と、傭兵の姿があちこちに見られた。

 

(ほう。結構ルヴナンの関係者が多いな。って、お決まりの眷属達がいるな。ロモコにロロロオに、その他大勢……お? サンコとリンコちゃんがいた。へえー、一緒に食べているけど、仲がいいのかな? んん? ニコとイチオが席を並べて食べている、珍しいな。 後は、地下迷宮(ダンジョン)の案内役やトラブル処理をしているルヴナンのお兄さんやお姉さん達に、子供? ああ、あれ訓練生なのかな。成績優秀者の御褒美なのだろうか? 何か手狭(てぜま)になって来た感じだなぁ。そろそろ大改修でもするかな、この食堂)

 

 と、『魔力感知』で見ていて、そんな事を思うリムル。

 

 食堂内の喧騒に紛れて聞こえて来る、会話の数々。

 

 

 ――にゃあにゃあ。リンコは今回のお手当は弾んでもらったのかにゃ?

 ――うん。結構な貢献度ポイントが付いたよぉ。

 ――だから今日はスペシャルメニューなんだにゃ。

 ――そういうサンコちゃんも、ちゃっかり同じ物を食べてるじゃない。

 ――アチシも日頃から頑張って貯めてるのにゃ!

 ――ちなみに何してるの?

 ――にゃ? 必殺コロコロにゃよ?

 ――あーそう。でも、その満面の笑顔で言うのは()めよう? どこかくるモノがあるから。

 ――にゃんで?

 ――う~ん。何でだろうね?

 ――にゃあ~。何でにゃ?

 ――さあ、何でだろう?

 

 これはサンコとリンコの会話だが、成立してるのだろうか。

 

 ――ニコ姉さん。いつも僕のポイントで、スペシャルメニューを頼むの止めてくれないかな?

 ――何を言ってるのかなぁ、イチオちゃんは。アンタのポイントは、姉である私のポイントでもあるのよ~。

 ――本当に馬鹿な事を言わないでください。僕のポイントは僕のポイントです。自分で稼いでください。

 ――はあ? ぶっ殺すわよぉ、イチオちゃん。

 ――無邪気な顔してそんな事言わない。本当に、何で僕の姉二人は馬鹿なんでしょうか……。

 ――イチオちゃ~ん。ご飯食べ終えたらぁ、地下迷宮(ダンジョン)にいらっしゃ~い。お姉ちゃんがぁ、盛大にぶっ殺してあげるからぁ~。

 ――はいはい。食べ終えたら、幾らでも相手してあげますよ、ニコ姉さん。

 

 ニコとイチオの会話、相変わらずの狂気っぷりのニコである。

 

 ――ねえ、ロモコ。アンタのポイントでたまにはスペシャルメニュー(おご)りなさいよ。

 ――いやですー。自分で稼いで食べやがれですー。

 ――ロモコのくせに、口答えすんな。お前は黙って俺達に奢れば良し!

 ――知らないですー。死にやがれですー。

 ――良し、みんな。ロモコのポイントカードを奪え。

 ――もう、やめなさいな、貴方達。こんなところでロモコを怒らせたら知らないわよ?

 ――ロロロオ。これは必然なんだ。ロモコの物は俺達の物、俺達の物は俺達の物なんだ。

 ――意味がわからないですー。馬鹿共はさっさと消えやがれですー。

 ――「「「「「ああ?」」」」」

 ――あ゛?

 ――ちょ、それ、左手の火炎玉仕舞えって! ここを焼け野原にする気か!?

 ――ねえ、ロロロオ止めてよ。ロモコ怒っちゃったじゃない!

 ――もう、馬鹿なんだから。貴方達でどうにかなさい。私を巻き込むんじゃないわよ、まったく。

 ――「「「「「はあッ!?」」」」」

 ――覚悟は出来た? 遺言(ゆいごん)は済ませた? 死ね、アホども。

 ――「「「「「待ってッ! ごめんロモコ! もう言わないからそれ仕舞って!!」」」」」

 

 いつものロモコ達の会話である。

 

 

(ほんと、愉快で危険な奴らだよ、眷属達って。だから、ついつい忘れるんだよなぁ、アイツ等が悪だって事を。でも、リンコちゃんや教授は違うよ? うん、あの二人は別だからね)

 

 『魔力感知』でつい聞いてしまった眷属達の会話を、変な方向で納得しようとするリムルである。 

 

 とりあえずリムル達は、対面で十人が座れるテーブルに着き。 

 先ずリムルが真ん中に、右側にベニマルとソウエイ、左側にシュナとヒナタ。

 そして対面真ん中にコハク、右にツキハ、左にグレンダが座る。

 

 料理が並び、食事が始まった。

 

「それじゃあ話を――」

 

 リムルが話を聞こうとグレンダを見てみれば。

 

 目の色を変えて一心不乱に食事をしているグレンダがいた。

 

 

(うーん、うちの食事が美味しいのは俺もわかるけど。ここまでとはねぇ。まあ、あれだ、神聖法皇国ルベリオスでは、給料というのは存在していなかったしな。俺のところもそうだけど、それは現在、鋭意整備中だ。しかし、現物支給だったとはなヒナタも含めて。でも、ヒナタは筆頭という立場のお陰で、それなりの国家予算を扱えるらしいし、魔物討伐の報酬などでかなり稼いでいるみたいだし)

 

 リムルも料理に手を付けながら、ぼんやりと食堂に来るまでに聞いた話を思い返す。

 

(それに比べてルヴナンは、給金制度を早くから取り入れてたし、(いくさ)などで敵の大将などを討ち取った場合の報酬(ほうしゅう)もあるしで、そこは充実しているから、俺のところも早く確立しないとだ。そういや、グレンダは見習いからという事で、月に銀貨五十枚と言ってたな。まあ、あそこは普段からある単発の依頼などで稼ぐことも出来るから、自分次第なところが強いよなぁ)

 

 そして、それぞれが食べ終えて、デザートの食後のカスタードプリンとコーヒを楽しむ中。 

 

「アタイは今まで、金が第一と考えていたけど、今日で考えが変わったさね。今日からは、金と貢献度ポイントに生きるさね!!」

「さよかぁ。ええことや、あんじょうやりなはれ」

「はい、コハク様!」

 

 と、いきなり決意表明? みたいな事を言うグレンダである。

 

(おお。それが本気なら、チョロイってもんじゃねーぞ。完全にコハクに取り込まれてるじゃねーか! あんなにルヴナン行きを嫌がっていたのに、金と美味しい飯の力は偉大だわ。ククッ)

 

 グレンダの変わりように、内心で笑いを漏らすリムルであった。

 

 

「それでや。アンタの知っている情報とやらを、全部話しなはれ。うっとこの情報と照らし合わせするさかい」

「了解でさ、コハク様」

 

 そして、グレンダは話し出す。

 

 話の内容は、大方ルヴナンとソウエイが調べ上げた情報と相違はなかった。

 

 細かな事はグレンダの話す内容で修正が成されていった。

 

 今回の主犯はギャバン五大老の一人であり、¥。

 

 その五大老が評議会を牛耳(ぎゅうじ)っているというのも裏が取れた。

 

 ロスティア公国のヨハン伯爵もその一人であり、五大老の長がグランベルである。

 

 そして、この五大老が一枚岩ではないのが判明する。

 

 これは、ルヴナンも掴んではいない情報だった。

 

 グレンダが言うには、これはマリアベルの方針で、敢えて組織を対立させていると説明する――

 

「これは、主流派を生き残らせる為さね。言ってみれば出来レースだが、本人達にとっては生き残りをかけた戦いなのさ」 

「なるほど。組織を活性化させる手法なのかな?」

「せやね。組織の一本化は効率はいいんどすけども、停滞と腐敗の温床を招くおすからなぁ」

「だよななぁ。同族の組織などは、トップ次第で駄目になるとか良く聞く話だ」

「ヨハンもさ、リムルを信用させる事に成功していれば、内情を探りやすかったんだろうけど、詰めが甘いわ」

「そうどすな、ツキハ。あれも、ギャバンが駄目ならヨハンで内側から策を(ろう)するというもんだったおすからなぁ」

「あ~聞けば聞くほど、何と言うか、陰湿だな」

 

 リムルは、話を聞いてる内にウンザリして来て、吐き捨てるように言う。

 

 そして、(しば)し考え込み。

 

 

「しっかし、何で俺を敵視したんだろうな? こんなに人畜無害な魔王なのに」

 

 そう思わずぼやくと、皆が驚いたような顔をしてリムルを見た。

 

 

「え? あれだけ喧嘩を売るような真似をしたら、誰だって敵意を持つってもんさね」

「はい?」

「今更さぁ、何言ってんのよ。あれだけ西側経済圏に喧嘩売ってたじゃん」

「無自覚に喧嘩を売るんも、リムルらしいというか、さもありなんどすなぁ」

「俺も喧嘩売ってるんだと思ってたぜ? ディアブロからは、リムル様が世界経済を手中に収めるつもりだと聞いていたので、てっきり評議会を支配下に置く気なのだってね」

 

(はあぁッ!? ツキハもコハクも、コッチが何言ってんのだけど? それにベニマル、何それ……ディアブロとそういう話をしていたの?)

 

「俺もそのつもりでした。情報収集はその一環だと」 

 

 ソウエイもまたベニマルと同じ意見だった。

 

「……まさか。ツキハとコハクが言うように、自覚なくやっていたわけ?」

 

(え、おい、ヒナタまで!?)

 

「い、いやね。そういう意図がなかったとは言わないけどさ、そんな性急に事を進める気はなかったんだ、よ?」

 

 ツキハみたいにコテリと首を(かし)げ言うも、ヒナタは「ツキハの真似をしても、駄目でしょ」と呆れたように言い溜息を吐く。

 

「だいたい、自分の売り場を荒しに来た新参者を許すような、そんな商売人は少ないんじゃないかしら? ねえ、コハク」

「せやね。うちなら、完膚なきまでにぶっ潰してやるどす。ふふ」

 

 

(クッ、ごもっとも)

 

 

「ま、まあいいさ。どうせ将来的にはぶつかったんだろうしね。という事で、西側諸国での経済活動を一手に――」

「リムル」

 

 そうリムルが言い掛けた時に、コハクがにこやかにリムルの名を呼んだ。

 

(ハウッ!? 勢いに任せて言うところだった。危ない危ない)

 

 コハクの笑みの中に末恐ろしいものを感じたリムルは、言い掛けた言葉を若干修正して言い直す。

 

「西側諸国の経済圏を手中に収め一手に担うつもりだが、ルヴナンの利益だけは犯さないように、ここ大事よ? な訳で、これからも頑張っていこう!」

 

 そう言いながらコハクを見るリムル。

 

(何も言わない。これでいいのかな?)

 

 コハクはコーヒを飲みながら澄ました顔をしていたので、これは問題ないと判断したリムルだった。

 

「最初っからそのつもりです。ルヴナンに関しては、正直、もっとも敵に回したくはない存在ですからね。それには同意ですよ。ま、俺の役目は防衛の強化ですがね」

「俺は、ルヴナンから仕入れた情報を元に、今聞いたロッゾ一族、そして五大老とやらを俺なりに調べてみます」

「良し、慎重に頼むぞ。ルヴナンの情報がまだ欲しければ、ミョルマイルと相談するように。そして、ユウキとロッゾ一族、間違っても二面作戦にならないように注意してくれ」

「わかってますよ」

「御意」

 

 ベニマルが(うなづ)き、同じくソウエイも頷く。

 

 そこへヒナタから待ったがかかる。

 

「ちょっと待って。ユウキとロッゾ一族? どうして君は、ユウキを警戒してるのかしら?」

 

 ユウキに関しては詳しい事を話していなかったリムル。

 

 そんな訳で、ざっくりとヒナタに話す事にした。

 

 

「いや、まあ、色々と考えた結果、俺が〝転生者〟でシズさんと関係があったという事を知っていて、それを東の商人にリークした人物となると――」

「え? 〝転生者〟!?」

「グレンダ」

「は、はい!」

「ここで今聞いた事は、アンタは、なーんも聞いてないんやで。ええか?」

「はい。アタイは何も知らないし、聞いてません!」

「ええ子や」

 

 今のところ、魔王リムルが〝転生者〟だという事は、世間には知らされてはいない。

 

 グレンダはルヴナンの傭兵になったので、これからは機密事項にも触れる機会もあるという事への、コハクの釘差しであり、要は、漏らしたらタダではおかんと、そう宣言されたのだ。

 

 

「――そう。ユウキしかいないのね?」

「ま、そういう事。ついでに言っておくけど、中庸道化連とやらのラプラスって魔人が、魔王役をしてたロイを倒したんじゃないかと推測してる。ルヴナンからこの情報は買っていないから、ハズレてたらゴメン」

「いえ、ありがとう。その件に関しては、私は興味はないのよ。ただ、私達に敵対している点は、看過出来ないけどね」

 

 ヒナタはそう言いながらも、背筋が凍るかのような笑みを浮かべていた。

 

(ヒイッ! 何て顔しやがるんだいヒナタ様は)

(おお怖い。ヒナタだけは、ほんと怒らせないようにしよう。ってか、コハクもツキハもだけど……)

 

 グレンダは一瞬身震いをさせて、デザートのカスタードプリンの皿を持った手をカタカタと揺らし。

 

 リムルは内心で表情に出さずそう思う。

 

 とそこへ、何かを思い出したようにグレンダが口を開いて来た。

 

「あ、あのう、その話なんだけどさ……」

「何だ? 言いたい事があるなら遠慮なく言ってくれ。何か思い出した事があったのか?」

 

 リムルがそう聞くと、グレンダが今日一番の驚きの内容を口にした。

 

 

「ユウキってのは、自由組合総帥(グランドマスター)の事だろう? そいつは五大老のヨハンと繋がってるんだが、ありゃあ、マリアベルに完全に支配されてるさね。そして、アイツはルヴナンからもじょ――」

 

 ズビシッ! 「グエッ!」

 

 グレンダがじょと言い掛けた時、コハクの手刀がグレンダの延髄(えんずい)に打ち込まれた。

 

 白目を()き、カクリと首を左に曲げたまま意識を失っているグレンダ。

 

 それを見たリムルが、怒りの目でコハクに言い放つ。

 

 

「コハク。お前達、ユウキと繋がっていたのか!?」

 

 その声は激しく、周りにいた者達が一斉にリムルを見るが、何故か何事もなかったように食事を続ける。

 

「はあぁ、もう油断したわぁ。まさかコレが、アレを知ってるやなんて、うちの失態やな」

「いつから繋がってた!? クレイマンの時からか、おい!」

「あんさん、覇気が漏れてるで。ここにいる配下達を殺す気どすか?」

「あ!? いや、違う。お前なあッ!」

 

 コハクから指摘されて、慌てて覇気を収めるも、怒りは収まらなかったリムル。

 

 すると、コハクの顔から一切の感情が抜け落ち、瞳孔は瞳を覆い尽くさんばかりに大きくまん丸になり尻尾は勢いよく空気を叩くようにバシッバシッと振られ、凄まじい覇気と殺気がリムルにだけ向かって放たれた。

 

(えッ!? こ、これは? 何ていう覇気と殺気だよ、これ……)

 

 『気動操作』、コハクはこれで周囲には一切覇気や殺気を漏らさず、リムルに固定して放ったのだ。

 

 これは、コハクの本気の威嚇である。

 

「少しは落ち着きなはれ。あの少年はな、あんさんと出会う前から情報を売っていた元顧客や。あんさんがクレイマンと因縁があろうがなかろうが、うちらは何千年も前からあちこちに情報を売って商売をしてるんや。文句を言われる筋合いはないで、リムル」

「ああ、それはわかっている。でもな、ユウキに情報を売っていたんなら、今までの謀略(ぼうりゃく)はわかっていたんだろうが。せめて、それを売ってくれても――」

「アホ抜かしたらアカンで、リムル。うちらは、契約を(おも)んじるんや。だから、魔物や人間相手に商売出来るんやで。どんな相手でも、信用と情報を売ってるんや。あの少年とは、口止めの契約を結んでる。これも商売なんやで、わかるか、リムル」

「理屈はわかる。でもな、それを少しでも教えてくれてたら――」

「甘えたらアカン、リムル」

 

 コハクが低い声で静かに、リムルに言い放つ。

 

 周りにいた者達が、目を大きく見開いたまま固まっていた。

 

「うちらの情報はな、安くはない。皆が身を粉にして集めて来た情報なんや。アンタはそれを、安売りをしろと、あまつさえ、交わした契約を反故(ほご)にしろと言わはるんか? あの少年との取引は、あんさんと出会う前からや。嘘やおまへんで。それに、相手がどうあれ契約は契約なんや。少年がルヴナンに牙を剥かへん限り、うちらは契約を反故(ほご)にはしまへん。これは、あんさんと契約を結ぶ前の事なんやから」

 

 そう言うとゆっくりと立ち上がったコハク。

 

 そして、スッと両手を両袂に引っ込める。

 

「あ、ああ。それは理解した。でもな、どう見てもお前達がユウキと繋がってるように聞こえるだろうがッ!!」

 

 リムルも言い出した手前後には退けず、ガタッと音を立て、椅子から立ち上がる。

 

 

 〝一触即発〟

 

 

「情報を売るんが繋がる言うんなら、どこも繋がってるんやおまへんか? あんさんの怒る気持ちもわからんでもない。でもな、それとこれは別や。うちらが情報を売らんでも、あんさんは少年が怪しいというところに辿り着いたんやおまへんか。なあ、言い掛かりはそれまでにしとき。あんさんとの契約は守っとるで、うちらは」

「ああ、わかってる、わかってはいるんだが……」

「リムル。シオン達があんな目におうたんや。大事な仲間が一度は殺されたんやからな、そら腹立ちますやろ。でもな、それをやったんは、うちらと違いますで。ルヴナンは情報を売ってただけや。嘘やと思うなら、今ここで、契約を破棄してもかましまへん。それで、アンタとはなーんも関係はなくなる。好きに()りあえるおすえ。でもな、ロッゾ一族か少年のどちらかがうちらに契約を求めて来たら、ルヴナンは契約を受けますで。これは脅しやない。アイツ等はな、アンタとの契約が反故(ほご)になったと聞き付けたら、間違いなくルヴナンに接触して来ますんや。そしてうちらは、アンタに遠慮はしまへんさかいな。なあリムル、アンタはこの国の王で、魔王や。もう少し、感情の制御を覚えなアカン。アンタの言葉一つで、うっとこと戦争になるんやで」

「あ、ああ……」

 

 怒るリムルに対して、あくまでも静かに語るコハク。

 

 この会話は、コハクがリムルが怒った時点で『空間遮断』の結界をテーブルごとリムル達を囲むように張っていて、周りには一切聞こえていなかった。

 

 更に、ツキハが『猫騙し』を使用して、周りの注意を完全に()らしていたから、食堂にいる者達は談笑しながら仲間達と楽しい食事を楽しんでいたのだ。

 

 そしてコハクは、契約を破棄した時点で間違いなく起る事を、淡々と伝えて来ただけである。

 

 ベニマル、ソウエイにシュナにヒナタは、怒るリムルを静かに見守り、不足の事態には備えてはいた。

 

 リムルは、クレイマンの策略からシオン達を殺され、その黒幕がユウキではと気付いた時点で、その怒りを抑えて来たが、そのユウキにルヴナンが情報を売っていたという事実を知り、一気に爆発したのだった、が。

 

(クソッ。仲間だと思ってたのに、いや……違う、違うな、アイツらは仲間でも友達でもない。利害の一致で共闘してるだけ、そうなんだけ、ど……)

 

 ふとリムルは、共闘はしながらも、ちょっとした悪巧みや商売などでコハクとツキハと楽しくやっている事を思い出し、そしてそれは現在進行形で進んでもいた。

 

(そういえば、エルメシア殿もアイツらと大喧嘩した事が、何度もあったと言っていたっけなぁ。あの二人が俺に対して線引きをしている部分は、どこなんだろう……) 

 

 ついつい日頃のコハクとツキハを思い浮かべて、皇帝エルメシアが二千年近くも契約を続けていられるのが、不思議でたまらないリムルだった。

 

 自分が怒っても冷静に返すコハクに、リムル自身も段々と冷静さを取り戻していく。

 

(そうだ、な。もっと、アイツらを知らないと駄目かもな。信用と信頼、か……。どうやってエルメシア殿は、あの二人から信頼を得たんだろう……。駄目だ、エルメシア殿はエルメシア殿だ。俺が、俺自身がコハクとツキハに対して、俺自身を見せないと、多分あの二人の信頼は得られない。ふう~。感情を制御しろか、全くその通りだな)

 

 ここに来て、もう一度、番外魔王の二人、傭兵商会ルヴナンの事を考え直して見ようと思うリムル。

 

 ……

 

「ねえ、頭冷えた、リムル?」

 

 いつの間にか席を立っていて、リンゴジュースを取って来たツキハが席に座りながら問いかける。

 

「あ、うん。スマン、ちょっと言い過ぎた――」

「駄目だって。そんな簡単に魔王が頭を下げたら、いかんでしょ。普通に言い過ぎたでいいんだよ。あんのロリババアなんて、胸を張りながらスマヌだから、そんくらいでいいんだよ。ククッ」

「ツキハ。それは看過できないわよ?」

「モノの例えだからいいじゃん。ゴメンって、ヒナタ。ってね、こんな感じ」

 

 ツキハがクスクスと笑いながらリムルに言う。

 

 それを見たリムルも、クスッと笑みを浮かべ椅子に座り直す。

 

 コハクも何事もなかったように椅子に座る。

 

 ベニマル達も、大喧嘩に発展しなかった事に、人知れず胸を撫で下ろす。

 

 グレンダだけは、まだ気絶したままであった。

 

 

「コハク。少し感情的になった、スマナイ」

「へえ。その謝罪、受け取りますで」

「ありがとう」

「でもな、次こんな事が起きたら、めっちゃ高いペナルティ料頂きますで。ええな?」

「ああ、肝に銘じておくよ(はい? 高額なペナルティ料? えーと、契約破棄じゃなくて? 何で?)」

 

 ツンとした顔で言ったコハクの言葉に、リムルは頭の中で疑問符を並べていた。

 

 リムルの望む信頼は、少しづつコハクとツキハから得られ始めているという事を、ある意味天然なところがあるリムルは気付かなかったのである。

 

 

 こうして、〝一触即発〟の危機は、回避されたのであった。

 

 

 それからは、ユウキとロッゾ一族双方の動きに最大限の注意をする事にしたリムル。

 

 間近に迫る遺跡調査では、間違いなくマリアベルはユウキを使って自分達に、何か仕掛けて来るだろうと結論付ける。

 

 最悪遺跡調査を中止してはとベニマルが進言するも、リムルは逆にこれを利用すると告げた。

 

 そして、同行者にはミリムもいるし、護衛にはシオンを連れて行くとも言い、ついでにゴブタとランガも連れて行くと言った。

 

「これで、戦力としては問題はないだろう? それに、ミリムがツキハも連れて行くと(うるさ)いからな。どうするんだ、ツキハ?」

「ああ、それね。あたしはねぇ、めんどくさいから嫌だって言ったんだけど。聞く耳持たないからねぇ、ミリムって」

「じゃあ、お前も行くという事でいいんだな?」

「うん。仕方ないし、どうせ、無理やり引きずられて行くのはわかってるもん」

「と、いう事だ」

 

 そう言ってリムルはベニマル達を見る。

 

「了解です。リムル様が不在時に何も問題が起きないよう、街の警備はお任せを」

「兄に協力をして、『結界』を強化しておきますね」

「俺は、各国に怪しい動きが出ないか見張っておきます。出来ればルヴナンと協力して、五大老の動向にも注視しておきますよ」

「頼むぞ。迷宮にはヴェルドラがいるし、ここにコハクもいるから、万が一の時は頼ればいい。頼めるか、コハク」

「へえ。(うけたまわ)りましたで」

 

 リムルがそう言い、皆がそれぞれの言葉で頷く。

 

「それじゃあ私は、今の話を持ち帰ってルミナス様に伝えるわね。君はたまに抜けてるから、くれぐれも用心しなさい」

「大きなお世話だよ!」

「それには激しく同意だわ」

「ほんまやねぇ」

「お前達なあッ!」

 

 そう言うなりヒナタは、転移魔法で帰って行った。

 これも、ヒナタなりの気配りかも知れない。

 

 そして、ようやく意識を取り戻したグレンダは、訳が分からず周りをキョロキョロと見回すも、コハクから「もう終わったで」と告げられ、どこかホッとした表情を見せる。

 

 

「グレンダ」

「え、あ、はい」

 

 コハクからいきなり名を呼ばれ、ピシッとした態度で椅子に座り直すグレンダ。

 

「アンタの行く部隊の先輩を紹介するさかい、ルヴナンの事を色々と教えてもらいなはれ」

「はい!」

 

 自分が行く部隊どういうところかわからないので、緊張するグレンダ。

 

 コハクが『思念伝達』で誰かを呼びつけ、リムル達が座るテーブルに来たのは――

 

「コハク様、何の用ですかぁ。ゲッ! 何でこの人がいるんですか!?」

 

 と、セーラー服の少女リンコがやって来た。

 

 コハクの隣に座っているグレンダを見て驚きの声を上げる。

 

「〝八咫烏(ヤタガラス)〟の傭兵見習いや。アンタが面倒見なはれ」

「ええええええッ!? 嫌です」

 

 リンコ即拒否る。

 

「コハク。その〝八咫烏(ヤタガラス)〟という部隊が、問題児の部隊なのか?」

「せやで。でもな、リンコは問題児というより、自分からこの部隊に志願したんよ」

「えっ、何で?」

「この子なぁ、使える武器が武器でっしゃろ。どこの部隊からも引っ張りだこでなぁ。やれ、俺の部隊に寄越してくれや、うちの部隊に是非配属とか周りがうるさいねん。で、たまりかねたリンコが、この部隊の存在をニコから聞いて、志願した訳や」

「またどうして?」

「この部隊な、うちとツキハしか命令権が存在しないんよ。うちはロモコ班が専属であるし、ツキハは月光があるんやけど、昔は問題児が多かったさかい、その問題児を集めた部隊を作ったんや、けど」

 

 リムルの質問に、やれやれといったような風で答えるコハク。

 

「けど?」

「この部隊にな、問題児を放り込むとな――何でか、みーんな、真面目になるねん! 面白くないねん!」

「あ、えとな、真面目になるならいいんじゃないか?」

「ちゃうねん。こんな部隊があったら面白くなりますやろ? だから、ツキハと作ったのに、期待ハズレやったわ。ほんま、問題児のままが面白いのに、なんでやねん!」

「まあ、上が上だし、あれ以上の問題児はそうそういないもんねぇ」

 

 ツキハもコハク同様、どこか残念そうに言った。

 

「なあ、ちなみにその部隊の隊長とかは、誰なんだ?」

「ん? 隊長はニコでぇ、副隊長がサンコで、その補佐がムツオだよ」

「あーそれは……」

 

 名前を聞いた途端、何かを察したリムルだった。

 

(しかし、問題児が真面目になったら面白くないとか、感覚が俺達とズレてるというか、うん、アイツ等らしいんだろうな。これも、あの二人の一面の一つなんだろうけど、クッ……クク……)

 

 可笑しくなって笑いが込み上げるのを、必死に我慢するリムルである。

 

 グレンダはただ黙って聞いていて、内心どんな部隊なんだと戦々恐々だった。

 

 

「リンコ。これは命令や、四の五の言わんと、グレンダにルヴナンの流儀を叩き込みなはれ」

「嫌です! 何でこんなオバサンが部下になるんですかーッ! 理不尽です!」

「なッ!? オバサンって、アタイはまだそんな年じゃないよ、ガキがッ!」

「だって、私現役の十七歳だしぃ。ガキじゃないしぃ。撃ちますよ?」

「ハンッ! 上等さね、その頭ぶち抜いてやるよッ!」

 

 ガタタッと席を立ち、銃を抜こうとするグレンダ。

 

 かやたリンコも、いつの間にかガンベルトを出していて、同じく銃を抜こうとすると。

 

「ここで、抜くんじゃねえぞぉ」

 

 と、ツキハがリンゴジュースを飲みながら、気怠(けだる)そうに言い放った。

 

 ただそれだけの言葉なのに、二人の動きがピタリと止まり、ツキハの方を見て固まっていた。

 

 リムルにベニマル、ソウエイとシュナは、グレンダはもはやこっちの管轄ではなくなっていたので、素知らぬ顔をして、お代わりのコーヒを飲んで(くつろ)いでいた。

 

 

「抜いてもいいけど、手が飛ぶぞぉ」

 

 ツキハが、左手の人差し指を立てて、ピッピッと斬るような真似をして二人に言う。

 

 

「はいはい。抜きませんよツキハ様」

 

 リンコはそう言いながら、ガンベルトを空間収納に消し去った。

 

「スミマセンでした、ツキハ様、コハク様。あ、えと、魔王様」

 

 グレンダはツキハとコハク、リムルにペコリと頭を下げ大人しく席に座る。

 

「リンコ。ここで挑発はやめなはれ。やるんなら、地下迷宮(ダンジョン)でやりや」

「あ、はい。ごめんなさいコハク様」

「まったく、アンタは。妙なところで肝が()わってるんやから、かなわんわ。少しは自重しなはれ」

「ええー、それ、コハク様が言います?」

「なんえ?」

 

 にこりとコハクがリンコに返すと。

 

「何でもないです。えへへ、テヘッ」

 

 悪びれもせず舌を出して誤魔化すリンコである。

 

 そのやり取りを見たグレンダが、あり得ないと言ったように口に出す。 

 

「ちょ、ちょっと待っておくれでないかい。ルヴナンでは、配下が主に向かって暴言というか、こんな発言が許されるんですかい?」

 

 その疑問に、リムルが答えた。

 

「こんなのは、まだ可愛い方だぞ。眷属達とか、ベテランの傭兵などはまだ凄いし、まあ、お前からしたらビックリするだろうな」

「え!? マジですかい……」

「うっとこは、自由が売りなんや。その代わり、代償は全て自分が負わなあきまへん。それも含めて、きちんとリンコから教えてもらいなはれ」

「自由? 何かよくわからんけども、わかったさね」

「それでええ、グレンダ。で、リンコ。アンタも傭兵になってもう四年目や。うっとこの誰もが一人前と認めた傭兵なんやから、そろそろ部下を持つ事も覚えなあきまへんで」

「はい、わかりました。有り難く拝命します、コハク様」

「うん、ええ子や。ほな、きばりや、リンコ」

「了解です」

 

 さっきとは打って変わって、真面目な顔付で返答するリンコ。 

 

 そして。

 

「あー、グレンダさん。さっきはスミマセンでした」

「いや、いいさね。アタイもガキ呼ばわりして悪かったね。アタイの事はグレンダでいいさ。アンタが先輩だ、リンコさん」

「えー、それはちょっとやめてほしいかなぁ。普通にリンコでいいですよ、グレンダさん」

「そうかい。それは、日本人の気質ってやつかい?」

「うーん、そうかもですね。改めて、傭兵商会ルヴナンにようこそです、グレンダさん」

「ああ、よろしく頼むよ、リンコ」

 

 とりあえず仲直りをした二人にコハクが言う。

 

「ほな、グレンダ。ここはもうええから、リンコにアンタがこれから住むところに案内してもらいなはれ」

「あ、はい」

「えーと、コハク様。もしかして私が住んでいる寮です?」

「せやで。寮長にはうちが今から『思念伝達』で伝えておくさかい、頼むで」

「はーい。じゃあ、行きましょうかグレンダさん」

「ああ、頼む」

 

 リンコとグレンダは、リムル達に席を立つ挨拶をして、シャルフューズへと向かった。

 

 それから、リムルとツキハは遺跡調査への軽い打ち合わせを済ませ、この場は解散となった。

 

 

 後は、決行日に備えるだけである。

 

 

 

 その夜。

 

 一人月見酒を楽しむ、リムルがいた。

 

 そこへ、リムルの(いおり)に妖しい気配を漂わせた者が、一人尋ねて来た。

 

 しかし、見知った気配だったので、リムルは警戒もせずに、御猪口(おちょこ)に酒を注ぎ一気に飲み干した。

 

 ジャリ、ジャリッ、庭に敷き詰めた砂利を踏み鳴らし、その者は縁側で一人月を見ながら酒を飲んでいるリムルのところへ歩き寄る。

 

「お? どうしたんだコハク。急用でも?」

「いや、違いますえ。散歩や」

「そっか。お前も飲むか?」

熱燗(あつかん)どすか?」

「ああ。ちょい(ぬる)だけどな」

「頂きますえ」

 

 コハクはそう言うと、リムルの隣に腰を下ろす。 

 

 リムルは『胃袋』から御猪口を取り出し、コハクに渡し酒を注いでいく。

 

 コハクは両手で御猪口を持つと、クイッと飲み干して、ホッと息を吐いた。

 

「美味しいどすなぁ」

「そっか。なら、もう一杯どうだ?」

「へえ」

 

 空になった御猪口に酒が満たされ、コハクはそれを優雅に飲み干していった。

 

「今夜は、ええ月や」

「ああ」

 

 コハクが月を見上げながらそう呟き、リムルも一言だけ答えて、暫く二人で月を見上げていた。

 

「なあ、リムル」

「ん、何だ?」

「これはな、うちの独り(ごと)や。あるモンと戦うのなら、絶対的な物理で守り、うちとツキハの技の真髄(しんずい)を思い浮かべてやりなはれ。多分、よお効くでぇ。でな、人間はしょせん人間や。どんな強力な力を持っていても、限界があるねん」

「物理防御? それにお前達の技の真髄、それに人間? その意味は?」

「さあ。後な、誰かさんは人が良すぎて、人を信用し過ぎるところがあるねん」

「俺か?」

「どやろか? 本当の悪党はな、狡猾(こうかつ)でそれこそ、絶対に自分の本性は見せまへんのやで。あらゆるモノや状況を利用し、(あざむ)いて来るんどす」

「それって、お前達、いや、もしかしてユウキの事なのか?」

「さて、どっちやろな。ふふ」

 

 リムルの問いに、意味深な笑みを浮かべるコハク。

 

「う~ん、コハクがどこまで掴んでるかはもう詮索はしないけど、それって助言みたいなものなのかな?」

「知らん。うちは、独り()ちてるだけやねん」

「そっかぁ。ちょーっと意味不明なところがあるけど、頭の片隅にでも置いておくよ」

「さよか。ほな、お酒おおきに」

 

 コハクは酒の礼を言い、立ち上がると、もう帰るとリムルに告げる。

 

「ああ、おやすみ、コハク」

「おやすみどす、リムル」

 

 そう言うとコハクは、『空間転移』で自宅へと帰って行った。 

 

 コハクが去った後に巻き散った魔素粒子を眺めながら、リムルは美味そうにクイッと酒を流し込む。

 

《……》

『ん、どうした? 智慧之王(ラファエル)さん』

《告。何でもありません》

『本当に?』

《是》

『ならいいんだけど』

 

 この時、智慧之王(ラファエル)はコハクの言った事を、ほぼ理解していた。

 

 だがしかし、それをリムルに伝える事を何故か躊躇(ちゅうちょ)してしまう。

 

 

 その理由は、(のち)にわかる事になる。

 

 

 





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