忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。241話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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241話 猫は自由で気紛(きまぐ)

 

 

 〝襲撃が起る一時間前〟

 

 

 マリアベルとユウキは、混沌竜(カオスドラゴン)の卵の封印を解き放った。

 

 そしてマリアベルは、己のユニークスキルで混沌竜の感情を黒く染め上げ、満足そうに薄く不気味な笑みを浮かべる。

 

「ふふ。これで準備は全て整ったわ。後は、私のユニークスキルで魔王リムルを従えるか、殺すのみなの」

「しかし、アレは本当に僕達を襲わないのかい?」

「大丈夫よ、心配はしないでユウキ。アレは真っすぐに魔王ミリムに向かうから。それに、あの魔王ミリムが見逃すハズがないもの」

「そうかい。そうあれば本当にいいんだけど」

 

 ユウキはそう言いながら、こっそりと後ろ手に持った〝黒い呪符〟をピッと空中に弾く。

 弾かれた黒い呪符は直ぐに霧散して、混沌竜(カオスドラゴン)の胸に小さい黒い玉となり吸い込まれるように消えた。

 

 この現象にマリアベルは気付かなかった。

 

 

「では、遺跡に向かいましょう――」

 

 そうマリアベルがユウキに促すと、いきなり背後に凄まじい殺気を纏った者の気配が現れた。

 

「なっ!?」

「何者!?」

 

 ユウキが素早く背後を向き、マリアベルも後ろを見ると――

 

 そこには、番外魔王コハクがいたのだ。

 

「邪魔するでぇ、少年と小娘」

 

 殺気を放ちながらも、妖しい笑みを浮かべゆっくりと二人の前に近付き歩を止める。

 

「番外魔王コハク、どうして、私達の居場所がわかったのかしら?」

 

 動揺を隠し静かに問うマリアベル。

 

「どうしてやて? しょうもない事を聞きはりますなぁ。敵に手の内をバラすアホがどこにいてますねん。アホちゃいますか?」

 

 右頬に手を当て首を(かし)げ、煽るように返すコハク。

 

 既に開国祭の時に、マリアベルの魔力波長と魂の波長は、コハクの権能『追跡神(ゴッドストーカー)』によって記録されていたのだ。

 

「そうなのね。ユウキの行動をずっと監視していたと、いう事かしら?」

 

 その挑発には乗らず、何とか情報を引き出そうと返すマリアベル。

 

「何でそないな事せなアカンのや。めんどくさいだけやで、ほんまに」

「では、今ここにいる私達をピンポイントで探し当てるなんて、それこそ不可能じゃないかしら、番外魔王コハク」

「うちを誰やと思てますねん。神出鬼没の〝忍び〟なんやで。うちはな、どこにでもいるし、どこにもいてへん、でもな、ここにいるんやでぇ。ふふ」

「まるでお伽話のチェシャ猫みたいね。馬鹿にするのもいい加減にして欲しいかしら、番外魔王コハク」

 

 のらりくらりと話すコハクに、少し苛立ちを覚えて言葉を返すマリアベル。

 

 そして、いつ攻撃がされるのか警戒するマリアベルだったが、殺気は放つも、一向に襲う気配を見せないコハクに(いぶか)し気な表情を浮かべる。

 

「別に馬鹿になどしてへんで? うちが用があるのは少年のほうや」

「えっ!? 僕?」

 

 ユウキは、いきなり自分に用があると言われ、疑問の表情で言葉を返す。

 

「なあ、ちょこっとだけこの少年と、話してもええやろか?」

「ユウキと? 何の話があるのかしら? 私も当然聞いてもいいのよね?」

「はあ? 何でアンタにうちの用を聞かせなアカンのや? アンタに用はあらへん。しょうもない事を言うんなら、今ここでいてまうで?」

「そう。()れるものなら、()ってみるがいいわ」

 

 コハクの目がスーッと鋭利に細くなり、(たもと)から呪符を抜き右手指に挟み、マリアベルも戦闘態勢に入ろうとすると――

 

「ちょ、ちょーーっと待ったあ!!」

 

 緊迫した空間に、ユウキが叫んで割って入った。

 

 そして、マリアベルの前で真剣な顔をして説得を始める。

 

「いいかい、番外魔王コハクの行ってる事は本当だ。僕に用事があるみたいだし、襲う気もないみたいだ」

「そんな事を言っても、それが嘘だったらどうするの?」

「いや嘘じゃない。本当に僕達を殺す気なら、後ろに気配を感じた時に殺されてる。今は本当に僕に用があるみたいなんだ」

「番外魔王コハク。そんなに危険な魔物なの、魔王リムルよりも?」

「わからない。番外魔王の二人は、本当の強さがわからないんだ」

「わからない? 何故なのかしらね」

「わからないからこそ不気味なんだよ。アレは、触れては駄目な魔物なんだ。今はここで戦ったら、僕はきっと番外魔王コハクに殺される、間違いなくね。そして、君も」

「そうなのね……」

 

 ユウキに(なだ)められ、暫く思案するような仕草を取り、最終的にはユウキの言葉に(うな)く。

 

「わかったわ、ユウキ。番外魔王コハク、本当に私の邪魔はしないのね?」

「しまへん。うちは邪魔しに来たんやあらへんし、リムル達でどうにかするやろ。それに、ツキハもいてるしな」

「そう、わかったわ。好きになさい、番外魔王コハク」

「へえ、おおきに」

 

 マリアベルがそう言って退くと、コハクは印を三つ切り、自分とユウキを幻想領域で覆い隠す。

 

 薄い膜のような空間に包まれた二人が消え失せ、そこには波打つ空間だけが取り残された。

 

(空間結界? いや、空間事覆ったこれは……見た事のない結界だわ。ユウキとの繋がりも、消えている……) 

 

 波打つ空間を指で突くと、ポワンと波打つが指は押し返されその空間に指は入らなかった。

 

 コハクが展開した幻想領域には、ユニークスキルしか持たないマリアベルでは、中に入るのも中の状況を知るのも出来なかった。

 

 

「で、何だい僕に用って」

「少年、アンタあの小娘に操られているんやろ?」

「さあ。僕には何の事だか」

「さよか、まあ、ええやろ。でや、アンタがさっき使った呪符な、東の帝国の〝忍び〟からもろたんやろ? あの小娘のユニークスキルは、対象の『欲望』を喰らうか増幅するんやろ? 混沌竜(カオスドラゴン)の憎しみを支配をしたまではええんやけど、アンタの投げた黒呪符は、更にそれを増幅させよった。憎しみだけを増大させる、〝憎念〟や。チヨメ・モチヅキ、この女の使う〝憎念〟は、あの小娘の比やありゃしまへんで。確実に破滅を導くシロモノなんや。なあアンタ、自由組合のグランドマスターでありながら、三巨頭(ケルベロス)のボス、ユウキ・カグラザカ」

 

 このコハクの言葉に、ユウキの眉がピクリと跳ねる。

 

 三巨頭の事を言い当てられた事もだが、何よりも、情報の売買をやり始めてから今まで、ただの一度でさえ名前を呼ばれた事がなかったからだ。

 

 そしてユウキは、額に右手を当て(うつむ)き加減になりながら笑いを漏らす。

 

「ククッ、ククククク、アハハハハハッ! 見事、見事だよ、番外魔王コハク。そこまで探り当てるなんて、本当にお前達の情報力は、僕にとって脅威だよ」

 

 俯き加減のままにユウキは、上目遣いでコハクを睨み言い放つ。

 

「さよかぁ。ユウキ、アンタええ目をしはりますなぁ。ほんまにええ悪党やで、アンタ」 

「番外魔王コハク、一体何しに来たんだ、僕達の邪魔をしに来たのか?」

「さっきも()うたやろ。アンタに用があるて。殺すならさっき殺しとるで。うちが来たんは、ただの答え合わせや」

「答え合わせ?」

 

 そう言われてユウキは、何を? という表情を見せる。

 

「そうやで。もう、済んだけどな」

「まさか、三巨頭(ケルベロス)のボスという事だけを確認しに来ただけとでも?」

「せやで。まあ、ようもこう巧妙に隠して来はったな。骨が折れたでぇ、ここに辿り着くまで。アンタ、ほんまに油断のならん悪党やったんやな、気に入りましたで。ふふ」

「気に入っただと?」

 

 コハクの言葉にユウキは、更に訳が分からないといった顔をする。

 

「言葉通りの意味やで、ユウキ」

「そうかい。だから、僕の名を呼んだと」

「せやで。まあ、アンタと取引を始めた頃は、ここまで悪党をやれるとは思うてなかったんよ。で、これやろ? ほんま、ええ根性してはると感心したねん」

「何だよそれ、本当に意味がわからない。ククッ」

 

 一気に警戒心の解けたユウキは、乾いた笑いを出す。

 

「なあ、アンタ。自分の意志で動いてるやろ。見事どすな、周りの者を騙すその意志の強さ。称賛に価しますで」

「……」

 

 この言葉にユウキは、無言で返した。

 

「大丈夫や。うちが張った幻想領域には、魔法通信に『思念伝達』、あらゆる支配の力ですら妨害出来るんやで」

「……」

「だから今は、アンタの魂を砕く事も出来しまへん」

「本当にか?」

「嘘やおまへん。完全隔離結界の中や」

「お前のその力は、一体どれほどのモノなんだい?」

「それは、ヒ・ミ・ツ、やねん。女の秘密を(あば)こうとすると、えらい目に合いますでぇ」

「本当にいつも、のらりくらりとして腹が立つよ、お前は」

「へえ、おおきに」

「褒めてはいないんだけど、どうにも調子が狂うな。それよりも、何で僕が自分の意志で動いてるとわかったんだい?」

「簡単な事や。うちとツキハ、それに眷属達は感情の色が視えるねん。でな、アンタの色は、操らているそれとは色が違いますねん」

「感情の色か……」

 

 コハクがいう事に、どこか考えを巡らせるユウキ。

 

 そして、幻想領域の外では数分が経過しており、未だ出て来ない二人にイライラを募らせるマリアベル。

 

(遅いわね。話というのは、まだかかるのかしら?)

 

「うちらはな、相手の感情を視覚的に捉える事が出来るし、魂も同じく色や波長で判別も出来ますのや。悪魔族(デーモン)と同じでな、感情を食べる事も出来ますし、魂を扱う事に()けて、それを喰いますねん」

「お前達は、悪魔族(デーモン)の亜種なのかな?」

「ちゃいます。あんなんと同じにせんでくれますかぁ、しばくで?」

「ああ、いや、失言だったね。スマナイ」

「へえ」

「それで、本当の目的は何だ? 番外魔王コハク」

 

 そう言うとユウキは、殺気を込めた表情で返す。

 

「アンタの動向は、ここ数日うちが単独で探っていたんや。でな、さっき使った〝黒呪符〟を持ってるのに気付いてなぁ。そこで全ての辻褄が合ってしもうたねん。だから、忠告に来ただけや」

「忠告とは?」

「東の帝国に取り入るつもりなら、精々(せいぜい)用心しなはれ。あそこはな、アンタでも(あらが)えんバケモンがようけいるさかい。それに喰われんようにしや」

「クッククク。そこまで読んでるとは、末恐ろしいバケモノだよ、お前も……」

 

 完全に自分の思惑を言い当てられたユウキは、腹を立てる事もなく苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 しかし、コハクが今からやろうとする事に手出しはしないと確信が出来て、どこかホッとする。

 

 そして、コハクの顔を見て口を開く。

 

「一つ質問してもいいかい?」

「ええで」

「何故、ここまで僕を排除しようとしないのかな。僕は、世界征服をするつもりなんだが」

「別に誰が世界を征服しようとかましまへん。うちらの自由を(おびや)かすなら徹底的に潰しますけどな、そうやおまへんやろ?」

「ああ、お前らと全面戦争はリスクが高過ぎるし、利用した方が賢いだろ?」

「ようわかってるやおまへんか」

「でも、お前達はリムルさんの理想にも乗っかってる。もしかして、僕とリムルさんを天秤に掛けてるんじゃないだろうね」

「リムルのやる事は利害の一致があるだけやねん。(いくさ)ばかりじゃ、リムルが台頭して来たお陰で食いぱっぐれるかも知れへんやん。だから、表の商売も増やさなと思うただけやで。うちらは常に、臨機応変に動くだけやねん、何時でもな」

「それ、それなんだ! お前のその思考は魔物にはない思考なんだよ。そう、そうなんだ、ある意味リムルさんの考えに似ているんだ、凄くね。お前の正体は、元人間の〝転生者〟じゃないのか?」

「前にも()うたやろ、ちゃうで。それに質問が二つになってますえ」

「ああ、ゴメンゴメン。でも、この推測は当たってると思うんだけどなぁ」

 

 どうにもコハクの言葉を信じ切れないユウキは、しつこく問い返す。

 

「番外魔王コハク、本当にお前は――」

「しつこいどすなぁ。あんましつこいと、いわしますで?」

「はあ、わかったよ。もうこの詮索はしない」

「そうしなはれ。アンタも目的を果たす前に死にたくはありまへんやろ?」

「ああ、全くその通りだよ。僕は今ここで死ぬ訳にはいかないからね。しかし、番外魔王コハク、お前は僕より悪党だね。全てを騙して生きている訳だ」

「それはちょっとちゃいますで。うちとツキハは自由にやってるだけやねん。だから、リムルと契約しようが協力しようが、アンタと今ここで話そうがうちの勝手やねん。だから、誰も邪魔する事は出来はしまへんし、それを、うちは許しまへん」

「〝猫は自由で気紛れ〟、前に聞いた言葉だけど、本当に猫みたいだな、お前と番外魔王ツキハは」

「当たり前や、うちとツキハ、眷属は魔物の猫なんやから。眠たいこと()うたらアカンで」

「魔物の猫、ね。そういう事にしておこう今は」

 

 少し納得は出来ないが、納得をしたユウキであった。

 

 そんなユウキを見てコハクが、ふと思い付いたように言葉を投げかけた。

 

「せや、ユウキ。アンタな、次に合う事があるんやったら、アンタの疑問に答えてあげますさかい、それまで気張って生きなはれ」 

「えっ!? それは本当なのかな?」

「嘘やおまへん、本当に答えたる」

「何でそこまでしてくれるのかな?」

「ただ気に入ったと()うたやろ? それだけやねん」

「悪党が悪党を気に入る、ねぇ。どうにも意味不明だけど、長く生きているとそれも余興の一つでもあるのかな」

「せやね。そう思ってくれてもかましまへん」

「リムルさんは、僕の事にもう気付いているのかな?」

「気付いてはるで。うちは何も()うてはないどすけども」

「そうか。なら僕は僕はで、このまま動くよ。それでいいのかな」

「かましまへん。精々、ツキハに殺されんようにな」

「そうだね。君よりも別の意味で怖い存在だからね、番外魔王ツキハは」

「あ、せやせや。もう一個あったねん。チヨメ・モチヅキに会う事があるんやったら、絶対にあの女の言葉に耳を傾けたらあきまへんで。小娘とは比べようもない能力(スキル)を持ってるさかい、いくらアンタでも一瞬で喰われ取り込まれてまうで。ええな、あの女は正真正銘のバケモンやねん」

「わかったよ。肝に銘じておこう、番外魔王コハク」

 

 ここで二人の会話は終わり、コハクが幻想領域を解除した。

 

 既に十数分もの時間が過ぎており、マリアベルがユウキを叱り飛ばすが、ユウキは必死にマリアベルに謝る。

 

(なーんも知らん〝転生者〟の子は、健気どすなぁ。もう少し成長してはったら、まだどうにかなったものなんやけど。そこは惜しいどすな。せやけど、また悪党が一人減ってまう。正義ばかりになるのは(かな)わんおすえ。とは言っても世の常。勝ったもんが正義やから、どもなりまへん。うちらはこうならんように、ほんま気を付けんとなりまへんなぁ) 

 

 心の内で、不穏な内情をぶちまけるコハクである。

 

 そして――

 

「なあなあ、そこの小娘」

「何かしら? 番外魔王コハク」

 

 ずっと小娘呼ばわりされて気分を害しているマリアベルは、ぶっきらぼうに言葉を返す。

 

「策士策に溺れる、という言葉を知ってはるか?」

「フンッ。私の策は完璧なのよ」

「さよか。精々、その小さい足元を(すく)われんように、気い付けやぁ」

「邪魔をする気がないのなら、もう帰ってくれるかしら」

「へえ。ほな、さいなら」

 

 含み笑いを口元に浮かべ、コハクは『空間転移』でその場を後にした。

 

 ふわっと巻き散らされた蒼白い魔素粒子が、キラキラと光りながら霧散する。

 

 それを見届けたマリアベルは、リムル達を襲撃する為に遺跡内部に潜り込んでいった。

 

 

 

 〝これがリムル襲撃前の出来事である〟

 

 

 

 襲撃が起り、一気に切迫した事態に陥ったリムル達に、カガリ女史と隊員達。

 

(ミリムなら問題なく勝てるだろうし、それにツキハもいる。再びカオスドラゴンを眠りに就かせる事も出来るハズ。それなら、俺もやるべき事をやろう)

 

 リムルは完全に思考を切り替え、戦闘態勢へと移行する。

 

 

「ゴブタ、シオン、お客さんがお出でだぞ」

「了解っす!」

「お任せを。あのような人形共など、私の敵ではありません!!」

 

 統制の取れたゴーレム達は、扉の前で固まるリムル達目掛け殺到した。

 

 シオンが前に出て、大太刀を振るうも、天井が低くて引っ掛かってしまった。

 

「チッ、仕方ないですね。素手でお相手しましょう!」

 

 大太刀を振り上げることも出来ず、すかさず戦闘方法を切り替えるシオン。

 先頭に立ち、ゴーレムを殴り飛ばしていく。

 

 ゴーレムの槍に貫かれるシオンだが、そんな事はお構いなしに闘気を纏わせたパンチや蹴りを繰り出し、ゴーレムを破壊する。

 

 『超速回復』を持つシオンには、ただの槍の攻撃など意に介さないのだ。

 

 ゴブタも銃を構えたまま、撃つタイミングを計る。

 

 リムルもこの場所では不味いと考え、取り急ぎ戦う場所を変えようと考えた。

 

「このままじゃあ狭すぎて戦い(にく)いな。この先がどうなっているか不明だけど、最下層部の方が広いかも」

「それでは、扉の封印解除を急がせて――」

「いや、情況は切迫している。俺がやるよ」

「わかりました。お任せします」

「ランガ、あの二人を手伝ってやってくれ」

 

 リムルの(めい)にダッと駈け出すランガ。

 

 この三名が時間稼ぎをしてる間に、リムルは扉の封印解除を終えた。

 

「さあ、中へ!」

 

 リムルの言葉に従い、隊員達とカガリ女史が階段を駆け下りて行った。

 

 その後に、リムルがカガリ女史と隊員達の背中を守るように階段へと向かう。

 

 

 最下層、死者が眠る墳墓(ふんぼ)

 

 

 そこは死者が眠る場所には似つかわしくなく、明るい光に溢れていた。

 

 そして大地には、草原が広がっていた。

 

 リムル達がそこに着くと同時に、ゴブタも転がり落ちて来て、それを追うゴーレム達との戦闘が再開される。

 

 

 状況はこの場にて一転する。

 

 

 大太刀、〝剛力丸・改〟を存分に振るう事が出来るシオンが、一気にゴーレムを破壊し始めていた。

 

 一振りするごとに数体のゴーレムが砕け散り、集団で槍を突き出したゴーレム達を横薙ぎで、一閃。 

 

 ガゴーンと重々しい轟音が響き、ゴーレムの破片が辺りに飛び散った。

 

 こうなると最早(もはや)、シオンの独壇場である。

 

 縦横無尽(じゅうおうむじん)に大太刀を振るうシオンは、まさに最強の悪鬼(オニ)であった。

 

 

 次々と現れるゴーレム。

 

 

 だがしかし、戦闘は明らかにリムル側が有利である。

 〝剛力丸・改〟を存分に振るえるシオンに死角はなかったのだ。

 

 そんなシオンの横を疾風のように駆け抜け、(いかづち)を放つランガ。

 

 ゴーレムの集団に突撃し、並み居るゴーレムを破壊せしめるシオンを援護するゴブタも余裕があるのか、撃ち尽くした銃の弾を焦ることなく装填していた。

 

 ゴーレムの破壊音とランガの雷、ゴブタの撃つ銃の音が周辺に木霊(こだま)する。

 

 リムルはカガリ女史と隊員達の前に立ち、時折、討ち漏らしたゴーレムがこちらに来た時に銃を撃ち破壊していた。

 

 そんなリムルに、後ろからカガリ女史が――

 

「リムル様には敵が多いのですね。やはり、魔王だからでしょうか?」

 

 ポツリと、そう呟いた。

 

 シオンとランガにゴブタだけでゴーレムを破壊するものだから、リムルはほとんどやる事がなく、何の気なしに答えを返す。

 

「そうだな。〝アイツ等(ツキハとコハク)〟ほど多くはないと思うけど、俺としては不本意ではあるんだけどな」

「何故でしょう?」

「ファルムス王国は俺の逆鱗に触れた。魔王クレイマンの時は、相手がチョッカイ出して来たから仕方なく。聖人ヒナタの時は、相手の誤解が発端で。いずれも相手から仕掛けて来たんだから、俺は相手をしただけ。これは言ってみれば、正当防衛だよ」

「そうですか。では、武に頼らない解決策は?」

「可能だったかもな。ただし、相手がこちらが飲み込む形でしか決着つかなかっただろうから、それが嫌なら相手の出方は正しいのかもね。どっちにしろ、双方の思惑が相容れぬ場合は、無理だよ」

 

 ドワルゴンとサリオン、この二つの大国を引き込み、更に傭兵商会ルヴナンとも契約を結んだ魔国連邦(テンペスト)ならば、西側諸国との経済戦争にも勝てるだろう。

 

「えっ? それでは、相手の正義を認めると?」 

 

 出されたカガリ女史の言葉にリムルは――

 

(うーん、それはどうだろう? 相手が正義なら、こちらも正義なんだよな。どんなに主義主張を唱えても、勝った方が正義であり、負けた方が悪だ。これが道理なんだよなぁ)

 

 自問自答するように内心で考えるリムル。

 

「立場の違いによって、正義なんて無数にあるからなあ。俺が絶対に正しいと思わないけど、ここで退いたら俺達の立場が悪くなる。だったら、全力で(あらが)う道を選ぶしかないんだよな……」 

 

(俺が折れたら、俺の仲間達が道連れになる。だから、ツキハとコハクは、何があっても折れないんだろうな) 

 

 ふと、二人の事を考えるリムルである。

 

「それでも、相手の立場を尊重して、もっと意見を交わしてより良い関係を模索すれば、敵対せずとも済んだのではないでしょうか?」

 

 カガリ女史のもっともな言葉に、返答に困るリムル。

 

(その問い掛けは難しいな……)

 

 リムルがどう答えようと悩む中、その答えに少女の声が答える。

 

 

「無理ね、無理なの。人の欲望は激しく、自分が我慢すればいい、というものではないのよ。相手が折れれば、より要求が大きくなるのが人間なのよ」

 

 肩より長い金髪に赤い瞳の可愛らしい少女が、リムルの前にいた

 

(来たか、黒幕自らお出ましとはね)

 

 リムルも、突如として現れた少女に向き直った。

 

 

 





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