忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。243話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 

 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。






243話 黒イ雨(ブラックレイン)

 

 

 相対する、リムルとマリアベル。

 

 

 両者、手加減無しの全力戦闘に入る。

 

 

「本気でいくわ。私の全てを賭けて、貴方を殺す!!」 

「ああ。俺も全力で応じるさ」

 

 リムルの妖気(オーラ)が渦を巻き立ち昇ると――

 

 それを合図に、マリアベルは駆けた。

 

 ブンッとマリアベルの身体が二重にブレると、タンッと地面を蹴って、リムルへと蹴りを放つマリアベル。

 

 

 ドズンッ! と、重々しい打撃音が鳴り響く。

 

 

 その身体能力は、幼女のそれではない。

 

 巨人の放つ蹴りよりも激しく重く、鉄柱さえ捻じ曲げる威力。

 

 

 しかし、リムルには何の痛痒(つうよう)も感じさせなかった。

 

 リムルはそれを軽く受け流し、その力を利用してマリアベルを投げ飛ばす。

 

 

 マリアベルは投げ飛ばされながらも、クルッと身体を宙で反転させそのまま地面に手を付き、一気にその場から飛び退(すさ)り、リムルとの間合いをあける。

 

 ふわりと舞ったスカートの影から、膝上までの西洋下着の白いドロワーズが覗き見える。

 

 それを気にもせずにマリアベルは、パンと軽くスカート部分を(はた)いた。

 

 

 そして、リムルからの追撃である連射魔力弾を連続バク転で回避し、タンタタンッと左右に素早く動きながらリムルとの間合いを詰めると――

 

 『強欲者(グリード)』を発動させた。

 

 

「死ね!! ――『死を渇望せよ!!』――」 

 

 黒い波動がリムルを襲う。

 

 それは〝生きとし生ける者〟が本能的に持つ、生への渇望。

 

 それを反転させる、マリアベルのスキル奥義。

 

 

 自らの意志で、ユニークスキルを極めし者――マリアベル・ロッゾ。

 

 人の根源的感情に由来する、大罪系スキル。

 

 その強化された欲求に抗える者など、今までに存在しなかった。

 

 マリアベルは、勝利を信じて疑いもしない。

 

 

(そうね、これは仕方ないのよ。殺すのは本意ではないのだけれど、最悪ではないのよ。こんな危険なヤツを放置するのが愚かなのよ)

 

 本来ならリムルを支配して、傀儡(くぐつ)の魔王として利用したかったマリアベル。

 

 だがしかし、魔王リムルはそんな甘い相手ではなかったのだ。

 

 だから、マリアベルの取るべき手段は、自ずとリムルを殺して勝利するしかなかったのである。

 

 

 黒い霧のような波動に包まれたリムルは、抗う様子も見せずに立ち(すく)んでいた。

 

「あっけないものね。どんな強者も、生への渇望は捨てられないのよ。そう、だから私は、無敵なの」 

 

 事実、マリアベルは西側最強の一人だった。

 

 覚醒したクレイマンや、フレイ、カリオンが相手でもマリアベルが勝利しただろう。

 

 〝聖人〟ヒナタであってさえ、マリアベルの権能の前には抗えなかっただろう。

 

 それほどまでに、マリアベル強かった。

 

 己が持つユニークスキル、『強欲者(グリード)』が。

 

 

 だが、しかし――それも、この世界の(ことわり)からは、逃れる事は出来ない。

 

 リムルは、究極能力(アルティメットスキル)に覚醒している。

 

 その時点で、マリアベルの勝利の可能性はゼロだった。

 

 

 ――マリアベルの最強は、ユニークスキルの次元での話なのだから、悲しいかな、究極能力(アルティメットスキル)(かな)うはずもないのだ。

 

 

(強い、確かに強い……)

 

 リムルはマリアベルと格闘戦を繰り広げ、それを体感していた。

 

 そして、黒い波動を浴びた時、背筋が凍るような感覚を覚えた。

 

 自分が死ぬとは思わなかったが、これがもし、ゴブタ達に向けられたらと考えて、一瞬ゾッとしたリムル。

 

(俺以外なら、間違いなく死んでいたな。これを耐えれるのはディアブロくらいだろうな。いや、もう一人いる。シオンも恐らく耐えれるかも知れない。後は、ベニマル以下他の者達は間違いなくアウトだろうな。やはり、ツキハやコハクが実戦している通りに、もっと――〝精神〟――〝魂〟――を鍛えさせ、技量(スキル)も磨かせた方がいいのかもな) 

 

 常日頃からツキハとコハクが口にしていた事を、今一度真剣に考えるリムルであった。

 

 

 そして、リムルはマリアベルに最後通告を言い放ったのだ。

 

「残念だったな、『解析』終了だ。これでもう、お前の力は俺には通じない」、と。

 

 他者を操り人形にするのを許す気はないが、これからの人生誰にも迷惑をかけず、ひっそりと生きてくれるなら、という思いからのリムルなりの言葉だった。

 

(これは間違いなく甘いと思う。何しろ見た目が十歳そこそこの少女だからね。殺すとなると、罪悪感が半端じゃないかも。俺も、この罪悪感を〝業〟というもの置き換える事が出来たら少しは楽なんだけど……流石にツキハやコハクみたいには出来ないな。まあ、アノ二人は戦国時代の元人間で、それが日常といってもいい世界だったから、その考えをそっくり真似をするなんて無理があるな。そうは言っても、俺も転生して魔物だし、冷静に割り切る事は出来るんだけど、ねえ……)

 

 何とも言い(がた)い思いが交差する。

 

 まだまだ、ままならない事も多いと思わざる得ないリムルであった。

 

 

 リムルの言葉を聞いても、攻撃の手を止めないマリアベル。

 

 それは、止めるどころか、益々激しさを増す攻撃だった。

 

「――ふざけないでもらいたいの。もっと、もっとなの。私の全てを費やしてでも、ここで勝利を勝ち取るのよ!!」

 

 そう叫び、狂ったような連続攻撃をリムルに浴びせるマリアベル。

 

 

 しかし、その攻撃の全てを、リムルはいとも簡単にいなしていた。

 

 

(駄目よ、駄目なのよ。私の攻撃が、一撃すら魔王リムルに届かないの。もっと、もっと、もっと力を!!) 

 

 マリアベルが自分の〝魂〟に、そう呼び掛けた時――

 

 脳内に、いや、精神の奥深いところで、何者かの声が囁きかけて来た。

 

 

 ホシイノ? チカラ ソレトモ ニクシミノ チカラ ヲ ホッシテ イルノ?

 

(誰なの? 貴方は、誰!?)

 

 マリアベルが精神の内側から囁く声に、そう問うた。

 

 すると。

 

 ナニモノ? ワタシハ アナタガ ポケット ニ イレテイル コクギョク ニ フウジラレタ モノ

 

 返って来た言葉に、ふとポケットに入れていた物を思い出すマリアベル。

 

(黒玉? あれは、ユウキがもしもの時と言って、くれたモノ。あの小さい黒玉に凄まじい憎悪の念を感じたから、使わずにいたのだけど。何故にアレが私に問いかけて来るのかしら? 誰かの思念が込められているの? 一体アレは……?)

 

 マリアベルが使うか否かを迷っていると、また黒玉が囁いて来た。

 

 ナゼニ マヨウノ? アナタノゴウヨク ト コノコクギョクニコメラレタ ゾウネンガアワサレバ マオウリムルニ ヒトアワフカセルコトガ デキテヨ

 

(まだ、戯言(ざれごと)を言うのかしら? そんな事を信じる――)

 

 ナニヲ コワガッテイルノ? モウ アナタニハ センタクハ ナイノデハ?

 

 ソノママ マオウリムルニ タマシイヲ クワレテモイイノナラ コクギョクヲ ワレバイイ 

 

 サア アナタハ ドチラヲ エラブノ カシラ ネ

 

 

(私は……負ける訳にはいかないの……何としても、魔王リムルを、殺して、世界の――)

 

 

 今まさに、リムルから最後の宣告がなされた時だった。

 

「それじゃあ、せめてもの情けだ。苦しまずに逝かせてやる。俺の中で反省しろ」

 

 リムルはマリアベルにそう告げて、『暴食之王(ベルゼビュート)』の『魂喰(こんじき)』を発動させようとした。

 

 

 その時――

 

 

 ドオンッ!

 

 

 轟音が鳴り響いたと同時に、マリアベルの身体が何重にもブレて凄まじい赤色の妖気(オーラ)が足元から渦を巻き立ち昇った。

 

 

「なっ!?」

 

 トドメを刺そうとマリアベルの前まで近づいていたリムルが、咄嗟(とっさ)に後ろへと飛び距離を空けた。

 

「何をしたんだ、マリアベルのヤツは」

 

 さっきまでとはあからさまに違う魔力がマリアベルの身体から満ちていたのだ。

 

 そして。

 

主様(マスター)。あれは、〝憎念(ぞうねん)〟です》

 

(はあっ!? チヨメがここに来ていたのか?)

 

《否。何らかの思念、いえ、〝憎念〟が込められたモノを使用したと推測します》

 

(呪符か、それに準ずる何かか……ちょっと厄介だな)

 

《是。〝強欲〟と〝憎念〟が融合し、一時的にですが、ユニークスキルを超える何かに変貌しつつあります》

 

(クソッ! 間に合うか?)

 

 リムルは完全融合するまでに、『魂喰』でマリアベルを喰らおうとする、も。

 

 既にマリアベルから漏れ出る妖気(オーラ)に隊員達が、頭や胸を押さえ苦しみ出していた。

 

 カガリ女史だけはまだ影響を受けていないのか、隊員達を心配して駆け寄るも、どこか歪な表情の隊員達を見て言いようのない恐怖感に襲われ、足が止まる。

 

 

 ニクイ ニク イ ニクイ オマエガ ニクイ

 

 アナタガ ニクイ コノ ニクシミヲ アナタニ

 

 

 口々に憎しみの言葉を吐き出す隊員達。

 

「あ、貴方達、何を? 正気に戻りなさい! 一体どうしたのですか!?」

 

 じりじりと、カガリ女史を囲もうとにじり寄る隊員達。

 

 カガリ女史は必至に言葉を隊員達にかけるが、それは隊員達の耳には届かなかった。

 

 

「アハッ、アハハハ、アッハハハハハハっ!!」

 

 天を仰ぎ、甲高く狂気の笑い声を上げるマリアベル。

 

「この憎しみの力は、何て素敵なの。私の〝強欲〟を優しく包み込んで、葛藤(かっとう)を癒してくれ、る、の」

 

 マリアベルの頭上に紅い霧みたいな雲が現われ、サーッと赤い雨のようなものが降り注ぐ。

 

 それを仰ぎ見て両手を顔にやり、(いびつ)(ゆが)んだ笑みで言うマリアベル。

 

 赤い雨で顔が真っ赤に濡れ、手の指の間から(しずく)が地面に流れ落ちていく。

 

「フフフ、もっと早くに使っていれば、こんなに追い詰められる事はなかったの」

 

 それはもう、可愛い少女という枠から大きく外れた、何かだった。

 

 

「〝憎念〟の影響か! えーと、あの時コハクはどうしたっけ?」

 

 隊員達が〝憎念〟の影響下に入りつつある事に、マリアベルを殺すのが先か、カガリ女史を先に避難させるべきか。

 

 早急な判断を迫られるリムルであった。

 

 仮にマリアベルを先に倒しても、〝憎念〟の影響が消えるとは限らない。

 それほど、チヨメの〝憎念〟は強力であったのだ。

 

《告。個体名:マリアベルの変貌(へんぼう)が完了しました》

 

(なッ!?)

 

 一瞬の間。

 

 リムルはここに来て、戦闘経験の浅さを露呈してしまう。

 

 覚悟はあの日に決めた、がしかし、まだ幼い少女のマリアベルを前にして、無意識の内に人の心の部分にほんの少しブレーキが掛かってしまったのかも知れない。

 

 これも、これから先の戦いにおける、リムルへの試練なのだろう。

 

 

「〝強欲〟を超えるもの。〝憎欲〟が完成したの」 

 

 そう言うと、マリアベルの姿がフッと消えて、いきなりリムルの前に現れ、サイドキックを放つ。

 

 ズンッ!

 

「おあッ!?」

 

 両腕をクロスさせ、それを受け止めたリムルの身体が後方に吹き飛ばされた。

 

「何ていう威力だよ。さっきとは大違いだな。ん? これって――」

 

 攻撃を受けた腕に薄っすらと、霧みたいな灰が(まと)わりついていたのに気付くリムル。

 

《告。〝憎念〟の影響がこの攻撃に乗せられています。個体名:マリアベルの〝強欲〟と合わさり、あの時の〝憎念〟とは違う異質なモノに変貌しています。憎しみの汚染と推測します》

 

(マジか”!? あの時と同じだな)

 

《是。受けるではなく、完全回避を推奨します》

 

(うーん、何か難しそうだけど、やってみるわ。その間に解析頼む、智慧之王(ラファエル)さん)

 

《了》

 

 

「魔王リムル。貴方は、ここで死ぬの、終わりなのよ!! アーッハッハハハハハハ!」 

 

 狂ったような笑い声を上げながら、リムルに猛攻を仕掛けるマリアベル。

 

 それを、何とか紙一重で(かわ)し続けるリムルであった。

 

 それでも時折、マリアベルのパンチやキックがリムルの身体を(かす)めていく。

 

《……解析不能な部分が存在。個体名:チヨメ・モチヅキの能力によるものなのでしょう。厄介極まりないですね》

 

 マリアベルの猛攻を(かわ)し続けるのにも、限界があった。

 

 今のマリアベルは、疑似的にユニークスキルが究極能力(アルティメットスキル)並みに強化されていたからだ。

 

 本来なら在り得ない事なのだが、チヨメ・モチヅキの能力(スキル)がそれを成し得たという事なのなら、人の〝憎しみ〟は〝欲〝より激しく、〝欲〟をも凌駕(りょうが)する感情なのだろう。

 

 

「死ぬの。魔王リムル、貴方はここで死ぬのよ!」

 

 赤き妖気(オーラ)が赤黒く染まり、まるで黒炎の中に赤い炎が灯ってるのかのように不気味に光を放っていた。

 

 そして、マリアベルがリムルに右手の平を向けると。

 赤黒く渦巻く、憎炎弾を連続して撃ち出した。

 

 ドンッ ドドンッ! 

 

 リムルはその憎炎弾を、魔力弾で迎撃していく。

 

「ちょ!? 何だそれ? クソおぉッ! カガリ女史達のところに流れないようにしないと!」

 

 リムルは大きく円を描くように回避しながら、カガリ女史達とは反対の方に背を向ける。

 

「アハッ、アハハハハッハハハハハハハ!!」

 

 (わら)いながら憎炎弾を撃ち続けるマリアベルのその笑い声は、どこか異質で別人が嗤っているような感覚に聞こえていた。

 

「カガリ女史の方は!? 何とか逃げ回っているようだけど、マジにこの状況はヤバいな」

 

 リムルの焦りが顕著に成り始めて行き、智慧之王(ラファエル)も解析を急いでいた。

 

《〝強欲〟の解析は完了。しかし、〝憎念〟は、同じ究極能力(アルティメットスキル)から創られているモノ。しかも、能力者の精神から生み出されているモノ。確かにあの時の〝憎念〟の波長とは違うものではありますが。〝強欲〟と〝憎念〟が合わさり、異質なモノへと変貌したモノであれ、本質は同じモノ。ならば、その波長の解析は……成功しました。至急対抗手段を構築します》

 

 チヨメと相対した時の情報から智慧之王(ラファエル)はそれを元に解析をし、対抗手段を導き出した。

 

 

 マリアベルの敗因。

 

 

 それは、リムルと智慧之王(ラファエル)が、既にチヨメと相対していた事に合った。

 

 

 その情報は智慧之王(ラファエル)が纏め上げ、更にコハクとツキハから、精神波(サイコウェーブ)の原理を教えられた事にある。

 

 精神波(サイコウェーブ)の全てを明かした訳ではないが、智慧之王(ラファエル)にはそれで十分だったのだ。

 

 だから、いくら〝強欲〟と〝憎念〟が合わさろうとも、その精神波長は特定されてしまう。

 

 これが究極能力(アルティメットスキル)持ちならば結果が変わっていただろうが、やはり、ユニークスキルの限界が見えてしまう。

 

 唯一例外があるとしたら、シオンの持つユニークスキル『料理人(サバクモノ)』だけであろう。

 

 そして、コハクとツキハが進化する前のユニークスキルがそれに該当するかも知れない。

 

 

 激しい猛攻を続けていたマリアベルが攻撃の手を止め、後方に大きく飛び退(すさ)った。

 

「やはり、これでは駄目なの。もっと大きな力で、全てを憎しみと強欲で満たさないとなの」

 

 両手を天に向けて大きく広げ。

 

 呪文を口にする。

 

 赤い文字の言霊(ことだま)が、宙を切る。

 

 うたえおどれ ごうよくのれんさ

(歌え踊れ 強欲の連鎖)  

 

 にくいよくぶかい おあいてはいずこ

(憎い欲深い お相手はいずこ)

 

 つらなるよくとうらみに おぼれなさい

(連なる欲と恨みに 溺れなさい)

 

 つきぬごうよくは ここにあり

(尽きぬ強欲は ここにあり)

 

 ぞうおとよくでみちた そのちからをわがてに

(憎悪と欲で満ちた その力を我が手に)

 

 さあ のろいとよくのあめを ふらせましょう

(さあ 呪いと欲の雨を 降らせましょう)

 

 

「あの呪文は!?」

 

 リムルは、今マリアベルが唱えている呪文に聞き覚えがあった。

 

 あの時、戦いの中チヨメが発した呪文である。

 

 内容は多少違うが、チヨメが使った呪文に酷似していたのだ。

 

 

「憎しみと強欲に、溺れ苦しみなさい。降り注げ、〝憎欲〟の雨――ブラックレイン(黒 イ 雨)!!」

 

 呪文が完成し、リムル達がいる領域の天井を埋め尽くさんとばかりに、ドス黒い雲が一面を覆う。

 

 

 すると、黒イ雨がポツポツと振り始め。

 

 やがてそれは、豪雨のように降り注ぐ。

 

 

智慧之王(ラファエル)さん!」

 

 何とか防御結界でそれを(しの)ぐリムルだが、結界を表面を侵食し始め、内側にポタリポタリと(しずく)のように落ち始めていた。

 

「ちょぉーッ! 『絶対防御』の結界貫通してるんですけどぉッ! 雨漏りしてるんですけどぉーッ!」

 

 落ちる黒い雫を起用に避けながら、慌てるリムル。

 

《告。霊子でも魔素ではない攻撃ですので、完全に防ぐ事は出来ません》

 

「はああッ!? 何それ?」

 

 智慧之王(ラファエル)の説明に、上擦(うわず)った声を上げてしまうリムル。

 

主様(マスター)、ご安心を。〝憎欲〟の精神波長特定に成功しましたので、結界の波長をそれに合わせます……成功しました》

 

「お、おお? 雨漏りが、止まった?」

 

 フォーンと何かが唸るような音が響き、結界が(ほの)かに輝くと黒イ雨の浸食が止まり、不可視の半球状の結界の表面を流れ落ちていく。

 

「あ!? カガリ女史達は、大丈夫なのか?」

 

 リムルがカガリ女史達の方に視線を向けると。

 

 隊員達の皆は、黒イ雨に打たれて真っ黒にずぶ濡れになり、獣が唸るような声を上げ顔や胸を掻きむしっていた。

 

 カガリ女史の方はというと、咄嗟にリュックから魔法の外套(がいとう)を取り出し、被って黒イ雨を防いでいたが、魔法ではそれは防げず、じわじわと精神を汚染されていた。

 

 

「アハハハハハッ! 皆、精神を壊されて死ぬと良いの。〝憎欲〟の〝黒イ雨〟は、何人たりとも防ぐ事は出来ないのよッ!!」

 

 狂気に満ちた歓喜の声を上げ、〝黒イ雨〟に打たれ全身がドス黒く染まっているマリアベル。

 

 そして、〝黒イ雨〟は、ユウキ達だけを避けて降り注ぐ。

 

 

 

「ヤバッ、智慧之王(ラファエル)さん!」

 

 それを見たリムルは、智慧之王(ラファエル)に呼び掛ける。

 

 

《告。お任せを》

 

 

 智慧之王(ラファエル)は、それに答えるように対抗手段を発動させたのだった。

 

 

 

 ――〝憎念〟 もし コハクとツキハの生み出した 精神波(サイコウェーブ)がなければ 対抗手段がなかったかも知れません。

 

 いずれ近い内に また 個体名:チヨメ・モチヅキが 主様(マスター)の前に立ち塞がるかも知れないでしょう。 

 

 その為にも 私は万全の態勢を整えて 主様(マスター)を支えるのです

 

 

 私は智慧之王(ラファエル) 主様(マスター)の一番の相棒なのですから――

 

 

 

 

 





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