忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
《告。対憎念結界稼働準備》
リムルの眼前に白呪符が具現化し、ポワーッと光り始めた。
そしてその白呪符は、
人狼とシオンの頭上にも飛んで行き、頭の上でピタリと止まる。
《対呪結界・
《個体名:カガリと他の者達の精神に浸食する〝憎念〟の浄化を開始します。
カッと輝いた白呪符は、カガリ女史達の精神を汚染する、〝憎欲〟を一瞬にして浄化した。
(えっ、え? 心の奥底から私を喰らおうとする憎悪とは違う何かが、消えた?)
通常の精神状態に戻ったカガリ女史は、自分の両手の平を見詰めながらそう
そして、隊員達も正気を取り戻し、お互いに顔を見つめ合い安堵したような表情を浮かべる。
その光景を見たマリアベルは、驚きの声を上げた。
「何をしたの、魔王リムル!?」
激しい感情を顔に出し、リムルを睨むマリアベル。
「お前が取り込んだ〝憎念〟は、一度体験したんだ。その術の持ち主によってね」
「持ち主ですって?」
「ああ。俺の国にまんまと忍び込んで、散々嫌がらせをして帰って行った東の帝国の〝忍び〟、チヨメ・モチヅキという女性だよ」
「東の、帝国?」
リムルから言われた事に、驚くマリアベル。
魔王リムルと同じように、東の帝国を警戒していたマリアベルは、まさかそこの人間に自分が手助けされるとは思ってはいなかったのだ。
(ユウキは東の帝国とも商品の取引をしていたわ。恐らく、私が使った黒玉もそこから仕入れたもののハズ。まさか、東の帝国と手を組んでいた、と? いえ、それはないわ。私の支配は完璧なの。多分、
今までのマリアベルなら、この時点で素早く状況を分析し、
しかし今は、
この〝憎念〟は、マリアベルにとって分不相応な力だったのだ。
「いいわ。私にはまだ攻撃手段はあるの。ブラックレインを防がれただけでは、私のこの、憎しみは消せないの」
「おい、お前。強欲が力の根源だったんじゃないか? 何故それが、憎しみに変わるんだ」
「それは簡単な事なの。〝強欲〟だけでは魔王である貴方を殺せない。だから、〝憎念〟を利用するのよ。新しい力〝憎欲〟。
そう言うとマリアベルは、眼前で両手をパンと叩き合わせた。
「何ッ!? 忍魔術を使うのか?」
「違うのよ、これは。〝憎念〟が教えてくれたわ。良くはわからないけれども、この世界に合せた甲賀流忍術というものらしいの。いくわよ、魔王リムル!」
バッババッと素早く印を七つ切ると、術名を告げた。
(ん?
そう、リムルが思った通り、チヨメやコハク達が使う時に具現化する
恐らくこれは、チヨメの〝憎念〟を通しての術だからなのだろう。
「闇の底より
マリアベルの足元から黒い霧が立ち昇り、やがてそれは蛇がうねる様にマリアベルの身体に巻き付き。
両肩までいくと、両腕に巻き付くように
「もう、小細工はナシなの。貴方を殺せば全てが終わるの。死になさい、魔王リムル!」
両手に具現化した霧のような黒蛇を、鞭のようにリムルに叩きつけるマリアベル。
「なんとお―ッ!」
リムルの真上からと、右横から襲い来る黒蛇。
リムルは、真上の黒蛇を紙一重で
右横から来る黒蛇は、回し蹴りで蹴り飛ばした。
そして、蒼炎の魔力弾をマリアベルに撃つ。
ゴウッと唸りを上げマリアベルに撃ち出された蒼炎弾を、マリアベルは黒蛇を交差させそれを防いだ。
蒼炎弾が弾け、蒼い炎が立ち上がり、その炎を物ともせずリムルが飛び込んで来て、マリアベルに渾身のパンチを放とうとする。
「舞い触れなさい、
バッとマリアベルを中心にして、
「チィッ!」
リムルはギリギリでそれを回避して、後方に飛び間合いを
(クソッ! チヨメの術を行使出来るなんて、聞いてないぞ! マジあの女忍び、どうしてくれようか!? ほんと、厄介極まりない〝忍び〟だよ)
流石に心の内で、毒づくリムル。
しかし。
《告。〝憎欲〟の解析が終了しました。
(よっしゃー! 流石
フオォーッとリムルの両拳が蒼白く輝き始める。
〝破邪の拳〟。
対憎念結界を拳に展開した、攻撃用結界。
邪を払うに相応しい輝きを放つリムルの両拳だった。
「そんな輝きなど、私の双黒蛇で喰らってあげるのよ!」
凄まじい形相で叫び、右手の黒蛇をリムルに向かって突き出す。
うねる様にリムルに襲い掛かる黒蛇。
だがしかし、それはリムルが事無げに振った右手により掻き消された。
「何なのッ!?」
自分の放った黒蛇が、アッサリ消され事に驚きの声を上げるマリアベル。
「魔王リムル!」
リムルの名を叫び、左手の黒蛇を振り下ろす。
それも、リムルの軽く払う仕草によって、またも掻き消されてしまう。
「まだ、足りないの? これだけ魂も〝強欲〟も憎しみも燃やしても、まだ足りないの!?」
マリアベルは天を仰ぎ、呪いのように言葉を吐き出していく。
そこからは、半狂乱のように黒蛇を繰り出すも、それはもうリムルには通用はしなかった。
「何で、何でなの? これほどまでに命を燃やしているのに、何故魔王リムルを倒せないの!?」
悲痛な叫びともいえる言葉をリムルに叩きつけ、それでも攻撃の手を止めようとはしないマリアベル。
ドンッ、ドドンッと重く響く衝撃音。
だがそれも空しく、リムルの手が動くたびに黒蛇は霧散してしまう。
そして、マリアベルの攻撃を無効化しつつ、間合いに飛び込んだリムルの右手の平がマリアベルの眼前で止まり、気合の声が轟く。
「消えろ〝憎念〟、破邪!!」
パアッと
マリアベルを侵食していた〝憎念〟を、完全に浄化した。
「あ、あぁ……力が、黒き〝憎念〟が消えて、いく……」
アラ ザンネン ココマデノヨウネ ヨイ ヨキョウ ダッタワ オジョウチャン
マリアベルの深層意識に、小馬鹿にしたような声が
「なっ!? 待ちなさい! 今更ここで消えるなんて、許さないわよ!!」
マリアベルが叫ぶも、既に消滅した〝憎念〟は何も答えはしなかった。
一気に力を失ったマリアベルは、、その反動で内臓を引っ掻き回された感覚に襲われ、大量の吐血をしてしまう。
「ゴフッ、何で、ガハアッ――」
吐き出された血がダバダバと地面に吐き落とされ、足元に
よろよろと小さな体が揺れ動き、足下もおぼつかなくなるマリアベル。
「私、は、負け、る、訳には、ロッゾ一族の悲願は――」
倒れそうになる身体を無理やり気力で支えながら、リムルを睨み言うマリアベル。
しかしリムルは、感情のない顔でマリアベルに宣告する。
「こんどこそ、終わりにしようマリアベル。俺の――」
その時。
「困るなぁ、リムルさん」
どこか冷たくも不気味な感じを振りまく言葉を発する者が、リムルの後ろから声をかけて来た。
その右手には、髪の長い女性の襟首を掴み引き
そして、無造作に引き摺っていた女性をリムルの足元に投げつける。
ドサッと鈍い音が鳴り、転がり止まるその女性は満身創痍のシオンだった。
ユウキと戦っていたシオンは、ユウキとのパンチと蹴りの応酬だけで、ズタボロにされ。
『超速再生』のあるシオンが立ち上げる事すら出来ない異常事態だった
「シオン――!?」
「リ、リム……ル、サ、マ……」
「おい! しっかりしろシオンッ!!」
その隙を見逃さず、すかさずユウキのところへ移動したマリアベル。
「あははははははははははッ!!」
リムルの呼び掛けを掻き消すような笑い声。
それを発するのは、ユウキ。
「良いタイミングだわ、ユウキ。魔王リムル、
「本当だよ。まさか、〝憎念〟をも利用したマリアベルに勝つとは思わなかった。でもね、僕がいる事を忘れてもらっちゃあ困るぜ?」
(まだ、〝強欲〟の力が残っているの。幸いにも〝憎念〟を利用した事で、憎しみの感情を利用する事も少し理解出来たの。魔王リムルに対する
マリアベルから放たれる〝強欲〟の黒き波動は、まだその力の大半を残しており、〝強欲〟の力を憎悪で増幅させユウキへと降り注ぐ。
《解。個体名:ユウキ・カグラザカの力が跳ね上がりました。個体名:マリアベル・ロッゾがユニークスキル『
(クソッ、一体どれだけの切り札を隠し持っているんだよ)
《解。〝憎念〟を利用した事で、憎しみの感情の利用を理解したのでしょう》
(ああ、もう、全部アイツが悪いってか、チヨメが!?)
《解。個体名:チヨメ・モチヅキはキッカケであり、最終的には〝強欲〟を操る者である事からの応用でしょう》
(ああ、確かにそうかもな。それじゃあ、今度はユウキか。〝強欲〟による支配を受けているだけなのだから、出来れば殺さずに制圧したいところだな)
そう内心で思うと、ユウキと相対するリムル。
「チッ、死んでも恨むなよ?」
「それはこっちのセリフさ!」
二人は言葉を言い終えると、同時に動いた。
フワッと二人の足元から土煙が舞い。
蹴りと蹴りが激しく交差する。
ドゴオーンッと轟音が鳴り渡り、両者同時に吹き飛ばされた。
両者共に本気故、
ユウキは強かった。
身体能力に限れば、マリアベル以上だろう。
あのシオンが手も足も出せずにやられたのだから、とんでもなく強いのは明らかだった。
そんなリムル達の隙を突くように、マリアベルはリムル達に背を向け、墳墓の中央へと逃げ始める。
リムルは逃げるマリアベルの姿を見ながら、ユウキの相手で手一杯で追う事は出来ずにいた。
(まあいい。コハクとツキハみたいじゃないが、マリアベルの魂の波長は完全に把握した。
リムルはそう考えて、マリアベルよりもユウキを優先すべきと、視線をユウキに戻す。
不敵な笑みを浮かべて、リムルの前に立つユウキ。
リムルは視界の端で、シオンがカガリ女史達に介抱されているのを確認する。
意識はあるが立てない、そんな状態である。
悔しそうにしているが、どうする事も出来ない様子。
(あのシオンをあそこまで追い込むとはな。ユウキのヤツ、決して侮れない。しかし、
リムルは、
(そう、〝魂〟の強度の問題だったか。全ての次元においてユニークスキルを超越する力に覚醒する者は、それに見合うだけの心の強さが必要になるらしいだったな。それだけの心的強度を前にしては、ユニークスキルで及ぼせる影響など皆無、そう言っていた。
と、リムルは自分の勝利を確信したが――
その自信は、次の瞬間
「本気で行くよ?」
ユウキがそう言いフッと姿を消すと、一瞬で間合いを詰め。
凄まじい速さの右回し蹴りをユウキが放った。
リムルは余裕でその回し蹴りを左腕で受け止めた。
「なッ!?」
そして、リムルは信じられないものを目にする事になる
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