忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。246話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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246話 小さき命、ここに果てる

 

 

 ユウキが元に戻り、リムルにとって最大の問題は、逃げたマリアベルとカオスドラゴンのみであった。

 

 

 正気に戻ったユウキはリムルに謝罪を入れ、リムルはそれを快く受けた、表向きは。

 

 どこか引っ掛かる部分を残してはいるが、それは杞憂(きゆう)だろうと思う事にしたのだ。

 

 

 そして戦いは終わり、一時の静寂がリムル達を包み込んでいく。

 

 シオンは無事だった。

 

 ユウキの『能力封殺(アンチスキル)』に永続効果はなく、時間経過で『超速回復』が復活したのである。

 

 

 それで、ゴブタの方はというと。

 

「この人にグレンダさんは生きているって説明したっすけど、ルヴナンにいると言ったら、もうめちゃくちゃ怒って、人の話をまるで聞いてくれないんすよ……」

 

 そう言いながら、酷くグッタリするゴブタであった。

 

 ランガの力を使いこなせるようになったゴブタには、ラーマは敵ではなかった。

 

 しかし、殺す訳にもいかず、手加減に苦労していたのも疲労の原因でもあった。

 これからは、手加減の仕方を覚えていくのが課題となろう。

 

 

 ここで、リムルはのんびりしている時間はないと気持ちを切り替え、ユウキに話しかける。

 

 

「怪我はいいのか?」

「ああ、はい。カガリは治癒魔法が使えるので」

「はあ? いや、お前って魔法が通じないんじゃ……」

「ああ、全然大丈夫です。この体質、自分でオンオフの切り替えが出来るんですよ」

「ええ……」

 

(何、その反則的な体質……呆れて物が言えない。ヒナタも魔素を浄化する体質だったけど、オンオフなんて出来なかったんだぞ)

 

 と、ユウキの説明を聞きながら理不尽な話だと思うリムルであった。

 

 そして、ユウキがリムルに向かってある提案を言う。

 

「リムルさん、逃げたマリアベルは僕が追いますよ」

「勝てるのか?」

「油断しなければ余裕ですよ。というか、勝手に操られたなんて、僕の誇りにかけて許せませんし――」

「リムル様、ワタクシからもお願いします。マリアベルの狙い、それは恐らくこの遺跡の破壊ではないかと。ワタクシが調査した遺跡〝ソーマ〟にも、都市を運営するのに使用した思われる魔法動力施設があったのです。この都市も似たような構造ですし、それを暴走させれば、この地方一帯は間違いなく消滅するでしょう。それを阻止出来るのは、ワタクシのみと自負しております!」

「……マリアベルがそれを暴走させられると?」

「あれは、魔力を過剰に供給するだけでも不安定になります。まして、長らく使用されていなかった遺物では、どのような事が起きるのやら……」

 

(ふーむ……。そんな遺物があるかどうかも不確定なのだけど、その予想が当たっていればヤバイな)

 

「それで、その仕組みはわかるのか?」

「〝ソーマ〟で調べ尽くしましたわ。もしもの場合でも、ワタクシなら止められます!」

「なら任せる。ユウキ、頼んだぞ!」

「ああ、屈辱は倍返しだよ」

 

 リムルの言葉に飄々(ひょうひょう)と返すユウキ。

 

(本当に元に戻ったんだなユウキのヤツ。いや、というより、最初から欺いていたと、か? う~~む、疑い出したら切りが無いのはわかる。けどなぁ、どこかこう、引っ掛かるモノがあるというか無いというか……まあ、いいいか。何かあれば、その時に対処すればいいだけだし、後手に回るのはあれだけど、こちらが構えていれば何とかなるだろう) 

 

 今のユウキの姿を見て、信用せざるを得ないのだが、どこか思うところがあるリムルだった。

 

 

 こうして、ユウキとカガリ女史がマリアベルの追跡を行う事になったのである。

 

 

 それからリムルは、シオンとゴブタに(めい)じる。

 

「シオン、ゴブタ、お前達は隊員の皆さんを誘導して、ダークエルフ達と合流。そのまま護衛に当たれ!」

「了解っす!」

「了解ですが、リムル様は?」

「俺はミリムとツキハの援護に向かう。早くしないと、カオスドラゴンの攻撃に巻き込まれてしまいそうだからな」

 

 現状、ミリムとツキハが頑張って抑えてはいるが、流れ弾だけでもかなりヤバイ状況だったのだ。

 

「では、私も!」 

「駄目だ。お前の怪我は表面上は治癒したが、内面にはまだダメージが残っているし、乱れた魔力回路も完全に修復は出来てないだろう? それよりも、皆の護衛を頼んだぞ!」

「クッ、承知しました……」

 

 不承不承だが、リムルの説得にシオンは納得をした。

 

 ユウキとカガリ女史は、墳墓の中央へとマリアベル追って行き、既にこの場にはいない。

 

 そしてリムルは、シオンとゴブタに後を託してミリムとツキハの応援に向かったのである。

 

 

 時折、流れ弾による爆発の振動が遺跡内部を揺らしていた。

 

 

 ズズンッと響く重低音と振動に足を取られながら逃げる、マリアベル。 

 

 しかし、まだ勝利を諦めてはいない。

 

 取っておきの切り札だった、〝封印されしカオスドラゴン〟を出したのだ、この作戦の失敗は許されないのである。

 

 だからマリアベルは、最後の手段である墳墓の奥――

 

 エルフの古い都の心臓部には、旧世界の魔法技術の結晶が眠っている、そう聞いていた。

 

 それを暴走させてリムルを葬るつもりだったのだ。

 

(あのバケモノを倒すにはこれしかないのよ。私の最強の手駒であるユウキなら、後少しは時間を稼げるはずなの。その隙に、魔導制御動力炉を暴走させるのよ――)

 

 そう、マリアベルは――ユウキからの報告には、古代遺跡〝ソーマ〟の報告もあった。

 

 そして、この地〝アムリタ〟もまた、古代に同種族が作ったものだと聞かされていた。

 

 であれば、その仕組みが同じものであれば、自分にも操作は簡単だと考えていたのだ。

 

 だからこその最後の奥の手であり、リムルがユウキとの戦闘に集中してる今こそ――

 

 意識外からの攻撃こそが、結界を張る隙も与えず魔王リムルを倒せる手段と信じてやまないマリアベル。

 

 

 やがて、墳墓の中央に辿り着いたマリアベル。

 

 しかし、その目は大きく見開かれ、唇が(かす)かにわなわなと震えていた。

 

 

 そこには、ユウキからの報告にあった施設などは、どこにも見当たらなかったのだ。

 

 それどころか、その空間には何もない。

 

 いや、金銀財宝は宝箱も混じり(うずたか)く積まれていたが、魔法武具(マジックウェポン)の姿は只の一つもなかったのである。

 

 

「おかしいわ、おかしいの。ど、どういう事、どうして、これは――?」

 

 思わず疑問が口をつく。

 

 その問いに答える者などいない――

 

 そう思われたのだが。 

 

 

「あはははは! この遺跡には、魔導制御動力炉なんてものはないぜ?」

「――ッ!?」

「ちなみに、〝ソーマ〟にもありませんわよ」

「……ユウキなの?」

「ああ、僕だとも」

 

 マリアベルの呼びかけに応じたのは、間違いようもなくユウキ本人だった。

 

 悪意に満ちた笑みを浮かべ、堂々と姿を見せたユウキ。

 

 その隣には、寄り添うようにカガリの姿もあった。

 

 

「貴方、魔王リムルの相手は――?」

「終わったよ。本気でぶつかってみたけど、アレは番外魔王と同じく無理だね。リムルさんには手加減する余裕があったのに、僕の方は全然駄目。勝てそうだったらそのまま倒そうと思ってたんだけどねえ」

「見ているこっちは冷や冷やものでしたわ。本気で裏切られたのかと焦りましたわよ。それに、番外魔王ツキハが魔王ミリムとカオスドラゴンの方に行ったのは不幸中の幸いでしたわね」

「あはは、ゴメンゴメン。君にも黙っていた方が真実味が出ると思ってさ。それに、君なら僕の意図を見抜いてくれるって信じてたからね。ほんと、番外魔王ツキハがあの場にいなくて良かったよ。いたら、間違いなく僕は斬られていただろうから」

「まあ、いいですわよ。結果的には最善になりましたし、それがユウキ様の狙い通りなのでは、文句の付けようがありませんもの」

「まあでも、番外魔王コハクには僕の意図は見抜かれていたんだけどね。本当に(しゃく)(さわ)るし、恐ろしい化け物だよあの二人は」

「そうなんですの?」

「うん。その話はまた皆がいるところで話すよ」

「わかりましたわ」

 

 そんな会話を楽しそうに交わすユウキとカガリ。

 

 それを見ていたマリアベルもようやく悟ったのだ。

 

 自分がユウキに騙されていたのだ、と。

 

「嘘よ、嘘だわ。でも……ユウキ、貴方は私の力を打ち破ったとでも!?」

 

 そんな事は在り得ないと思いつつも、その現実を受けいれるしかなかったマリアベル。

 

「ユウキ、どうやって〝強欲〟を?」 

「気になるかい?」

「いいから答えるのよ!!」

「フフッ、いいさ。じゃあ、教えてあげよう」

 

 ユウキは憐れむようにマリアベルを一瞥し、その答えを実演してみせた。

 

 晴れ渡るようなユウキの感情が、一瞬にして黒い霧によって覆われた――

 

 ように、マリアベルの目には映った。

 

「まさか……嘘よ、嘘なの……」

「あはははは! 信じられないかい? でも、これが現実さ。答えは最初から、君に支配されたフリをしていたんだよ。どうだい、名演技だっただろ?」

「なっ……」

「ちなみに、番外魔王コハクには僕の演技も通用しなかったんだけどね。恐らく番外魔王ツキハにも見抜かれていたんだと思うよ」

 

 楽しそうに笑いながら言うユウキ。

 

 マリアベルの顔色はみるみるうちに悪くなり、唇をギュッと噛み締めていた。

 

「馬鹿な、私は〝強欲〟の……感情に由来する最強の力を――」

 

 マリアベルは小さく呟き、必至に状況の理解に努めようとしていた。

 

「確かに、君の欲望は大きかった。でもさ、残念だけど僕の〝強欲〟はもっと大きいんだ。この世界は僕の箱庭(あそびば)。そして、番外魔王の二人はこれを見て楽しんでる訳だ。腹正しい事に、ね。だから、僕の邪魔はしてこないし、僕はルヴナンには仕掛けない。アレは、〝触れざる者(アンタッチャブル)〟なんだよ。僕の野望は、この世界の王となる事なんだ。君の『強欲者(グリード)』なんて、『能力封殺(アンチスキル)』がなくても僕には通じないんだよ」

 

 笑顔のままで、ユウキはそう言い放った。

 

 マリアベルにとって、ユウキの言葉は死刑宣告にも等しかった。

 

「舐めるな! 私はマリアベル。〝強欲〟のマリアベル。貴方如き、私の敵ではないのよッ!!」

 

 マリアベルはそう叫ぶと、残った魂の力を全力で振り絞りユウキへと放つ。

 

 強欲の波動(グリードフレア)――強靭な意思の力が物理的な破壊力と還元され、ユウキを襲う。

 

 しかし、通じない。

 

「無駄だって、君では僕に勝てない」

 

 ユウキはそれを正面で受け止めた。

 

 そして、黒い波動は『能力封殺(アンチスキル)』により無効化され、あっけなく霧散してしまう。

 

 マリアベルを見て、嘲笑(あざわら)うユウキ。

 

 次の瞬間――

 

「ガフッッ!?」

 

 カッと見開いたマリアベルの目が、自分の胸を凝視する。

 

 目にも止まらぬ速さでユウキの右手刀が、マリアベルの心臓を貫いていたのだ。

 

 しかも、それだけではなかった。

 

 マリアベルの力が流れ出て、あろう事かユウキへと吸い込まれていく。

 

「グ、ガハッ、……まさか、わ……私の力、を……」

「正解」

「ば……そ、そんな事が、で、出来……るもの……」

 

 マリアベルの瞳から徐々に光が失われていき、ユウキの腕を掴む手からも力がぬけて……。

 

「もしも君が、後十年早くこっちの世界で生まれていたら、あるいは世界を支配していたのかも知れないね。もっとも、ルヴナンには仕掛けていただろうから、どっちにしろ君の命運は決まっていたんだよ。その幼い身体では、能力(スキル)を十全に操れはしなかっただろう?」

「そ……ん、な……こ、と……」

「番外魔王コハクはね、僕が君を殺してしまう事すら見抜いていたんだよ。だから、君は忠告を受けたじゃないか。その〝小さな足元を(すく)われないように〟と、ね。あれこそ極悪と称してもおかしくない、化け物だよ。僕ですら(かす)むほどにね。マリアベル、君の敗因は、番外魔王を利用しなかった事にある。アレはね、利用し利用される存在なんだ。もっとも、人類至上主義の君達では無理な話なんだろうけど、ね。でも、僕は違う。フフッ」

「……」

 

 マリアベルは答えない。

 

 その表情に悔しさと憎しみを(にじ)ませて、ユウキを睨む。

 

 そして、マリアベルの魂は――

 

 まるで断末魔を上げるかのように、最後の輝きを明滅させて消失した。

 

 力無き者が敗者になるという、極自然にこの世の真理に導かれるままに。

 

 

「君が自分で言ったんだよ? 僕の野望が大き過ぎるってね。君の欲望は、僕がちゃんと引き受けるから。安心しておやすみ、マリアベル――」

 

 マリアベルの耳元で(ささや)き言うも、ユウキの言葉はもうマリアベルには届かなかった。

 

 ユウキは左手でマリアベルの背中を支えながら、右手刀をゆっくりと引き抜く。

 

 ツーッとユウキの右手先から(したた)り落ちる血の(しずく)

 

 そして、マリアベルの身体はユウキの左手からスルッと抜け落ちるように地面に落ちる。

 

 トサッと軽い音を立て、左側を上にした横倒しになるマリアベル。

 

 

 投げ出された右手と、光を失い(うつ)ろに開かれた目は。

 

 偶然なのか、シルトロッゾ王国がある方向に向けられていた……。

 

 

 転生して、この世界の激動の時代を生きたマリアベルは――

 

 ここに、小さき命は無情にも果て、その生涯を終えたのだった。

 

 

 

 





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