忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。251話です。

 新章の始まりです!

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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時 と 月編
251話 レオン・クロムウェル 


 

 

 ここは、白い館。

 

 色とりどりの花が咲き乱れる庭。

 

 少女の笑顔と、それを見守る一人の少年。

 

 

 それは、色褪(あ)せる事のない幸せだったころの記憶。

 

 

 

 彼は、その幸せを取り戻したいと切に願っていた。

 

 

 

 しかし、それはとても難しい……事だった。

 

 

 彼は――黄金の都を創造した。

 

 

 天上の楽園を再現したような、眼下に広がる美しい庭園。

 

 記憶の中のそれよりも、遥かに豪華で荘厳(そうごん)に。

 

 

 なのに、肝心要の最後のピースが、どれだけ探しても見つからない。

 

 一度、ルヴナンに依頼を出そうとコハクに直接依頼したが法外な依頼料を提示され、断念せざるを得なかった。

 

 

 この世界の頂点の一角に坐する彼の力をもってしても、最愛の少女を探し出せずにいる。

 

 彼女が見つからなければ、彼に笑顔が戻る事はないだろう。

 

 それら全ては、彼が愛する少女の為に用意したものだから。

 

 

 彼の名は、レオン・クロムウェル。

 

 ‶白金の剣王〟という二つ名を持つ、魔王の一人。

 

 そんなレオンが捜す少女の名は――

 

 

 レオンが統(す)べる国――黄金卿エルドラド。 

 

 そこの中心に聳(そび)える、螺旋の王城の謁見の間に、三人の怪しげな者共が跪(ひざまず)いていた。

 

 この者共は、ラプラス一行であった。

 

 ラプラス達は、黒ずくめの衣装に、帽子傘という変わった衣装。

 

 武器商人ダムラダと、同じ格好をしていたのだ。

 

 

 ラプラス達がレオンのところへ来たのは、以前まではダムラダが取り仕切っていた‶特定機密商品〟の取引の一時中止を伝える事に合った。

 

 このレオンに納品する‶特定機密商品〟とは、‶召喚者〟の事である。

 

 何故なら、ユウキの立てた計画に従い、西側諸国での活動を休止する事が決定していたからだ。

 

 ユウキ達は活動拠点を東の帝国に移す為に、既に動き出している。

 

 それで、今までの‶特定機密商品〟の供給元はシルトロッゾ王国であったが、マリアベルを失ったシルトロッゾ一族の力が目に見えて低下していて、今までのように安定して召喚儀式を行えるとは思えなかった。

 

 それに、魔国連邦(テンペスト)が西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)に加盟した今、西側諸国は魔王リムルの影響下に入ったも同然である。

 

 その監視の目は更に厳しくなり、魔王リムルがルヴナンに要請して監視の目の一端を担わせれば、その目を欺く事すら困難になるだろう、と。

 

 魔王リムルは、‶異世界人〟の召喚を快く思ってはおらず、これを固く禁ズとも表明していたのだ。

 

「なるほどな」

 

 そう、ここは潮時だと、レオンも説明を聞きながら深く頷(うなづ)いた。

 

 西側諸国に紛れ込ませている手の者からも、同様の報告が上げられていたのだ。

 

 

 そもそも、この方法は恐ろしく不確定要素が強い。

 

 これの目的は、ある特定の人物をこの世界に召喚しようしてるのだから、成功率は天文学的に低くいのである。 

 

 レオンは配下の者共に命じて、何度も召喚を行わせた。

 

 三十人以上の召喚術師(サモナー)が協力して、細かく条件を付与する為に七日間も費やして儀式を行い、レオンの指定する条件を盛り込んでさえ、成功率は一%未満。

 

 しかも、同じ者が召喚儀式を行うにはインターバルを必要とするので、試行回数そのものが限られて来るのだ。

 

 最初から、この召喚の成功する可能性など、ほぼゼロに近いも同然だった。

 

 レオンも自分自身で召喚儀式を行ったが、ことごとく失敗している。

 

 その最後の一人が、井沢静江(シズエ・イザワ)であり、それからもう六十年の時が過ぎていた。

 

 条件の絞り込みをすればするほど、儀式は複雑化し再召喚までのインターバルがとてつもなく長くなる。

 

 これでは、いくら年月をかけようとも、成功する確率は途方もなく遠い。

 

 そこでレオンが考案したのが、何度も試せる‶不完全な状態での召喚〟儀式であった。

 

 レオンの探している人物は、幼い少女。

 

 ならば、幼い子供という条件だけに絞った方が、目当ての少女が召喚される可能性がほんの僅かでも高い可能性があった。

 

 だから、それを西側諸国に広めさせて、少しでも試行回数を増やし、多くの子供達を集めようとレオンは考えたのだ。

 

 因みに、旧ファルムス王国の魔人ラーゼンは、これの条件だけを極力若い者と条件付け、ショウゴ達みたいな少年少女を召喚していたのだ。

 

 

 そして――

 

 たった今、この目論見も完全に終わった。

 

 

 もう、次なる案も思いつかない。 

 

 焦がれるような焦燥感がレオンの胸を圧迫するが、それを表には微塵も出さず涼しい顔をして口を開く。

 

 

「リムル、か。協定を結んでいた訳でもなし、協力要請もしていない。結果的には邪魔をされた形だが、その件に関しては仕方あるまい。だが、取引中断とはどういう事だ? 西が駄目でも、東が残っているだろう?」

 

 良く通るレオンの声が、謁見の間に響いた。

 

 それにラプラスが答える。

 

 

「それに関してはなんやけど、引き続きワイが説明しまっさ。実は、東もキナ臭くなっとるんですわ。どうやら、秘密裏に戦争準備を始めとるようで、ジュラの大森林の東との国境線でルヴナンとの小競り合いがここ最近頻発してるんですわ。あっこは、古くから小競り合いをしてまっしゃろ? それもあってか、魔法使いに余分な作業をさせる余裕などない、ちゅう話や。せやから、儀式に必要な人材の確報が難しくなりましてん」

 

 レオンはそれを聞き、本当に面倒くさく忌々しいと思った。

 

 西側諸国と東の帝国、レオンの本音としては、両者がどうなろうと知った事ではないが、戦争が長引けば自分の目的に影響が出るので、根本的から方針を見直す必要が出て來る為、頭の痛い話でもあった。

 

 ジュラの大森林は、元は‶暴風竜〟ヴェルドラの領域であり、そこを犯す者は何人(なんびと)であれ許すなかれが、番外魔王ツキハとコハクの考えである。

 

 だからレオンは、ジュラの大森林と東の帝国の国境線では、古くからルヴナンが東の帝国のちょっかいを防いでい来たのを、ギィから聞かされ知っていた。

 

 レオンは冷たい表情のまま、ラプラスを静かに見つめ続ける。

 

(やっぱ、厄介やな。ワイが殺した偽物の魔王なんて目やない。本物は違うっちゅう事かい。ボスの言うように、コイツに直接復習するんは考えものやで。せやけど、強さがわかる分まだましや。ボスが、番外魔王の姐さん二人と争わないと言ったんは、賢明やと思う。あの姐さん二人は、マジに強さの境界がわからへんのや。ワイが一度だけ、本気で姐さん二人を殺そうと対峙した時、生き残れる未来がまったく見えへんかったんや……) 

 

 ユウキの命令により、当面は水面下での活動は自粛する方針だが。

 

 だが、それでも、目の前にカザリームを殺した仇がいるなら、当然値踏みもする。

 

 しかし、命令を無視して事を起こすなど、愚かではないラプラス。

 

 相手の力を見極め、少しでもレオンの弱点を探ろうとするも、見えてくるのは、化け物じみた強さだけであった。

 

 それでも、フットマンとティアの三人で挑めばと考えたが、勝てるかどうかの保証はどこにもない。

 

 しかし、今ここで思った事は、番外魔王の二人とはまったく違って来る。

 

 三人、いや、ユウキとの四人で戦ったとしても、勝てる気がしないのはラプラスにとって気味の悪い感覚であった。

 

 魔王の存在、魔王ではない魔王の力を持つ魔物の存在。

 

 何故こんな番外魔王という魔物が存在するのか、いくら考えても答えが出ないラプラスであった。

 

(魔王ではない一介の魔物が、魔王と同等の位置にいるっちゅうのがおかしいねん。しかも、魔王達に意見するならいざ知らず、あの魔王ギィに何度も喧嘩を吹っかけるとか、頭おかしいと違うんかと、ワイは思うで。まあ、ヤツに関しては、確実に勝てるという算段が付くまで、手を出さん方が賢明やろ。今までルヴナンから仕入れた情報を駆使すれば何とかなるかも知れへんしな。本当に、情報の力は偉大やで)

 

 そう結論付けた、ラプラス。

 

 今は、静かに息を潜め、レオンの寝首を掻く瞬間を虎視眈々(こしたんたん)と狙うだけ。

 

 そして、ラプラスは更に言葉を重ねる。

 

「何も、これで取引が終了って訳やあらへん。また、召喚の儀式が行えるようになったら連絡しまっさかい。それまで待ったって欲しいんですわ。それに、世界各地にワイらの独自ネットワークがありますよって、異世界から迷い込んだ子供等がいたら保護しまっせ? もっとも、あのルヴナンも異世界から迷い込んだ人間共を保護してるっちゅう噂や。もしかすると、ぎょうさん異世界から迷い込んだ子供達を抱え込んでいるかも知れまへんで? と、は言うても、あくまでも裏社会の噂やさかい、真偽の程は定かやありまへんのやけど、あのルヴナンや。どんなにこっちが探そうとも、尻尾を掴むのはほぼ不可能やろうな」

「――それに関しては仕方あるまい。貴様達に任せるとしよう。ただ一つ、聞きたい事がある」

「何でっしゃろ?」

「お前はなぜ、そうも口が軽いのだ?」

「えっ?」

 

 ラプラスは、レオンからの質問に意表を突かれ呆けた声を出した。

 

(ワイは何かしくじったか? しゃーない、このまま殺(や)り合うっちゅんなら、せいぜい派手に暴れたるわい。さてと、暴れた後の逃走ルートは、あっこと、あっこが、一番逃げ安いやろな)

 

 一瞬ヤバイと思うも、ラプラスは動揺しない。

 

 何事も楽しまなければ、損だと考えるのがラプラス。

 

 自分が失敗したとしてもそれはその時と、割り切っているのだ。

 

 これこそが‶享楽の道化(ワンダーピエロ)〟たる所以(ゆえん)なのだろう。

 

 殺気を押し殺しつつ、覚悟を決めるラプラス。

 

 そんなラプラスにレオンが告げる。

 

「利に聡(さと)い商人が、戦争という一大事を簡単に口にし、更に、暗にルヴナンと対立させようとする口ぶり。前任者だったダムラダならば、そんな馬鹿な事は絶対に言わなかったぞ?」

「そ、それは……」

 

 ここでラプラスは、レオンの考えを見抜くべく頭をフル回転させ思考する。

 

(ボスからこう言って断れと命じられたから、ワイには落ち度はないんやけど……そう言えば他にも何か言うてたんやけど。せや、ルヴナンの事は当たり障りのないよう言えというたんやった。戦争、ルヴナン……!? ボスの思惑通りになるとしたら……)

 

 ここで、ユウキから言われた言葉が心の中で全て繋がった。

 

 ならば、次にレオンが口にする言葉は――

 

「何を隠している? 私の目を戦争とルヴナンに向けようとしたようだが、それは甘い考えだと知れ」

 

 という、疑惑の言葉がラプラスに向けられたのだ。

 

(なんや、これ、ビンゴやないか。全く、敵(かな)わんお人やで。こうしたやり取りになるのも全部、あの方の計算通りなんやろな。まるで、あの姐さん達のやり口まんまやないか。ほんま怖いお人や。敵のやり口まで自分のもんにして、更にそこから自分なりの計算を加えるなんて、そうそう出来るもんやおまへんで)

 

 レオンはラプラスの言葉を深読みし、勝手に何かを隠してると考えた。

 

 思考誘導、これはルヴナンが得意とする情報戦の一つでもあった。

 

 それをユウキは、模倣し、レオンに仕掛けた形になっていたのだ。

 

 情報の価値を正しく知る魔王レオンだけに、これに引っ掛かり、他の目的から目を逸らせる事が本命だと誤認させたのである。

 

 しかし、事実は違う。

 

 ラプラスはユウキの言葉通りに動いただけであり、そこに深い考えなどなかった。

 

 それだけの話であり、ここから先の事はラプラスにもわからない。

 

 そうし向けたのは、この場にいないユウキである。

 

 だがしかし、ユウキのこの目論見には意味があった。

 

 ラプラスには、もう一つ手札があったのだ。

 

 そして、ラプラスは手札を切る――

 

「流石でんな、魔王レオン様。実はな、特定機密商品がこれで最後なんはホンマやねんけど、とある場所には五名ほど、残ってるんですわ。あの井沢静江(シズエ・イザワ)が介入して保護しとった子供等なんやけどね」

「――ふむ」

 

 この情報は最初から渡す事になっていたが、そのタイミングが重要で、今がそれなのだ。

 

 子供達の事をそのまま口にすると、それはそれで何か意図があると疑われてしまいかねない。

 

 だからこそユウキは、子供達の事については最後に口にするように念を押していたのだ。 

 

 交渉の流れ次第ではどうなるかも不明なのに、それを平然と読み切る事がユウキの恐ろしいところでもある。

 

 しかし、ユウキも最初からこのような手法を知っていた訳でもない。

 

 そう、このような手法のお手本は目の前にいたのだ、番外魔王コハクという、お手本が。

 

 取引を重ねていく過程で、コハクから学んでいったというのが正解だろうが、コハクがユウキという悪を育てる為に、暗に手の内の一部を晒し、覚えられるものなら覚えてみろというように教えて来たのかもしれない。

 

 マリアベルといた時のユウキに向けて、コハクが言った言葉。

 

 ‶ユウキを気に入ってる〟と言い、これが意味する事は、ユウキが悪として真の悪になれるか否かをずっと見ていた事になる。

 

 そしてユウキは、コハクに認められた数少ない、悪の一人になったといっても過言ではない。

 

 ちなみに、番外魔王ツキハは戦いが主本でありこのような頭を使っての絡めては、性格がめんどくさがり全開故、苦手である。

 

 

 ユウキの思惑は、動く。

 

 

「男子三名で、女子が二名。お望み通り‶異世界人〟ですわ。ただ、そのおる場所っちゅうんが問題でして、ワイらでは手を出せんのです」

「シズエ・イザワ……シズ、か。という事は、その場所とは魔国連邦(テンペスト)だな?」

「正解ですわ。実に残念なんやけど、ワイらも商人ですんで、好き込んで危険を冒したくないんです。なんせ、あそこには、ルヴナンの眷属達が居付いていまっしゃろ? それに番外魔王の二人もいてますし。流石に潜入とかするのは、命捨てますっちゅう事になりますさかいな。ちなみに、その子等の名前は……」

「ケンヤ・ミザキ、リョウゼキ、ゲイル・ギーブス、アリスン、クロベ・ホエールだ」

 

 名前を思い出そうとするラプラスの代わりに、ずっと沈黙を守っていたフットマンが答える。

 

 交渉事は苦手なフットマンには黙っていてもらったが、子供達の名前だけは覚えてもらっていたのだ。

 

 がしかし、微妙に名前が間違ってるのはラプラスもティアも敢えて突っ込まない。

 

「そうそう。ま、手に入らん商品の名前になんて、魔王レオン様には興味ないでっしゃろうけどな」 

 

 そう言って、ラプラスは笑った。

 

 対してレオンは、不愉快そうに眉を顰(しか)め言い放つ。

 

「貴様の発音は聞き取り難い。クロエとかではなく、本当にクロベなのだろうな?」

 

 若干苛立たしそうにレオンがそう問うも、フットマンは黙ったままであった。

 

 下手に口を開くと、レオンへの怒りから喧嘩腰ではなく、純粋な殺し合いに発展してしまう恐れがある。

 

 だから、本来なら何も喋らないのが正解。

 

 ここいいるだけで危険極まりない人物、それがフットマンである。

 

 即座にフットマンに代わり、ティアが謝罪する。

 

「失礼しました、魔王レオン陛下。‶異世界人〟の名前は、こちらの文字には起こし難いものばかりでして、正確性には欠けるのです。ですが、名前は重要視しないとお聞きしておりましたので、失礼致しました」

 

 そう述べて一礼するティア。

 

 それに合わせて、フットマンとラプラスもお道化(どけ)たように頭を下げた。

 

「そうだな、確かに名前などどうでもいい。商品を奪われたのは貴様達の失点だが、それも契約違反というほどのものではないな。裏でルヴナンが暗躍していたという可能性も捨てきれない。だから、戦争が起きるという情報は、その詫びとして受け取るとしよう」

 

 レオンは色々な感情を飲み込み、普段の態度のままでそう告げた。

 

 これを最後に面会は終わり、ラプラス達は商品の代金を受け取り、無事にエルドラドを後にしたのだった。

 

 

 

「さて、どうしたものか……」 

 

 ラプラス達が去った後、レオンはそう呟(つぶ)いた。

 

「今の者共、消しますか? レオン様の御心を乱すようでしたら、これ以上生かしておく価値などないかと」

 

 レオンの玉座の隣に立つ、直立不動の騎士。

 

 銀騎士卿(シルバーナイト)アルロス、レオンの相談役であり腹心の一人が、そう言う。

 

 ふむ――と、アルロスの言葉を吟味するレオン。

 

 前任者のダムラダと比べ、ラプラス達は怪しいなどというレベルではない。

 

 同じ商人かと問えば、否(いな)というしかないほどである。

 

 そもそも、レオンは商人など信用はしていなかった。

 

 しかし、秘密結社‶三巨頭(ケルベロス)〟と敵対するのは、傭兵商会ルヴナンほどとは言わないないが避けたいと、考えていたのだ。

 

 レオンの手の者も人間社会に溶け込ませてはいるが、‶東側〟に拠点を置き、‶西側〟にも影響を及ぼうそうとする巨大組織には及ばない。

 

 もっとも、‶西側〟には、傭兵商会ルヴナンが存在する。

 

 このお陰で‶三巨頭(ケルベロス)〟が思ったように勢力を拡大出来ない事実がある。

 

 それを知っても、‶三巨頭(ケルベロス)〟と事を構えるのは得策ではないと考えても、仕方のないことだろう。

 

 傭兵商会ルヴナンに至っては、‶西側〟のどこに手の者が潜んでいるのか、レオンの力を持ってしても把握出来ていない、というより、把握出来ないといった方が正解だろう。

 

 以前レオンは、ダムラダに依頼した事がある。

 

 傭兵商会ルヴナンの手の者が、一体どのくらいの規模で‶西側〟に潜んでいるのか、調査してくれと。

 

 返って来た答えは、触れる事は不可能、この一言である。

 

 いくら関連した人物を追ってみても、当たりを付けた人物に接触を図るも、ある地点でぷっつりと接点が途切れるのだ、と。

 

 時には、その関連した人物を探し出し拉致して、手荒な手法でルヴナンの事を聞き出そうとしたが――

 

 今度は逆に自分達の手の者が始末されるか、徹底的にマークされてしまうと。

 

 そして、この闇で暗殺に動くルヴナンの手の者の正体すらもわからないと、言った。

 

 なので、ダムラダが依頼された事への答えは、存在自体がどうなってるのかわからないし、触れること事態こちらにとって余りにも危険であると、いうのがダムラダの見解だったのだ。

 

 被害が出たとはいえ、ルヴナンの秘密に触れた事実は、‶三巨頭(ケルベロス)〟を油断のならない組織だとレオンに印象付けたのである。

 

 そこで、レオンの考えは定まった。

 

 ならば、利用出来る内は利用すべきだと――と、レオンはこれらに対して冷静に判断しただけなのである。

 

 適材適所、‶異世界人〟を探索させるには、魔物よりも人間の方が適しているとレオンは考えたのだ。

 

 レオンの目的を達成する為には、人間の協力が必要不可欠なのだった。

 

「捨て置け。それよりも、奴らが口にした情報の方が問題だ。東の帝国が本気で動くのならば、それは本格的な大戦となるだろう。他の魔王がどう動くは知らぬが、そうだな、番外魔王コハクにツキハの率いる傭兵商会ルヴナンは間違いなく嬉々として参戦するはずだ。その世界の混乱に我等まで巻き込まれるのはゴメンだな」

「左様ですね。このエルドラドはレオン様の威光により照らされておりますが、他の地では大規模な戦乱が巻き起こるでしょう。それに備えなければなりますまい」

 

 レオンの言葉に頷くアルロス。

 

 レオンの支配地は、海を隔てた別の大陸にある。

 

 リムルの以前いた世界、地球におけるオーストラリアよりも大きな大陸。

 

 その全てがレオンの支配領域であった。

 

 大陸中央には巨大な火山が活動中で、年がら年中噴火を繰り返している。

 

 しかし、その火山灰は魔法によって操作されたか座に流され、美しい中央都市に火山灰が降り注ぐ事は一度もない。

 

 そして、火山の付近には多種多様な金属鉱床があり、魔法金属へと加工される。

 

 また、産出量の多い金鉱脈もあり、そのお陰でレオンは密かに人間社会との取引を行っていた。

 

 勿論‶西側〟との取引もあるが、秘密裏に制御されているドワルゴンとルヴナンが権利を持つ金鉱脈の産出とのバランスを壊さない程度には入って来ていたのだ。

 

 それに、銅や鉄に亜鉛に鉛といった鉱石も、エルドラドから‶西側〟に一定量輸出されたりもする。

 

 栄華を極めし、魔法によって守られし王国。

 

 それが、レオンの支配する黄金郷エルドラドなのだ。

 

「緊急時の防御魔法も発動させ、警戒態勢を厳(げん)にします」

「ああ、そうしておけ。それにしても、儘(まま)ならぬな」

「――? 何がでしょうか?」

「戦争だよ。人々の死が重なれば、目覚めさせては厄介な者共を顕現(けんげん)させてしまう可能性がある。この地にも確か、原初の黄(ジョーヌ)が眠っていたはずだ。流石に受肉する事はなかろうが……」

 

 レオンは心底ウンザリする。

 

 東の帝国が何を考えているのかは知らないが、‶西側〟と戦争をるならば、必ずジュラの大森林を攻略しなければならなくなる。

 

 その時立ち塞がる者は、間違いなく現ジュラの大森林の盟主である魔王リムル。

 

 そして、それに間違いなく味方するのが、‶暴風竜〟ヴェルドラである。

 

 更に、ヴェルドラが動けば、番外魔王ツキハが動き、番外魔王コハクも動く。

 

 レオンの予想では、この四者を相手に、いかな東の帝国であろうと容易に西側を占領は出来ないだろうと考える。

 

 戦火が拡大する一方なのは、目に見えていた。

 

 多くの血が流れれば、その血を浴びた多くの魔物が活性化し、下手をすれば、人類にとっての災禍となる、危険な悪魔達が目覚める恐れがあった。

 

 元‶勇者〟という特殊な立場にあるレオンからすれば、それはとても愚かな行為に見えたのである。

 

 もっとも――

 

 魔王となった今のレオンとっては、単なる感傷に過ぎなかった。

 

 哀れだと思うが、自分に関係のない他者がどれだけ不幸に見舞われようが、何の痛痒も感じないのである。

 

 レオンが唯一心配してるのは、自分が探している少女がどこかで被害を受けないかという、万が一の可能性だけであった。

 

「その時は、我等の力をお見せ致しましょう!!」

「そうだな、期待しよう。それと――」

「彼の国に、青騎士団から数名ほど派遣しましょう。その中の一人に、番外魔王の眷属の一人と顔見知りの者がいるので、その者に戦争の有無をそれとなく聞くように命じましょう」

 

 アルロスは細かく命令されずとも、レオンの意を酌(く)んで行動を実行に移す。

 

「任せる」

 

 そう言うとレオンは、静かに目を閉じる。

 

 配下が退室して、静かになった謁見の間。

 

 レオンは切れ長の目を開いて、虚空を睨んだ。

 

 

(――それにしても、クロベ・ホエールだと? 期待し過ぎるのは良くないが、紛らわしいほどに似ているではないか。これが罠だとしても、無視は出来まい。しかし、ヤツめ、この事を知っていてあの法外な依頼料を言ったのではあるまいな。だとしたら、信憑性も出てくる訳だが……)

 

 レオンにとって、罠であろうが関係ないのだ。

 

 

 何故なら、彼女を探す事だけを至上の目的としているのだから。

 

 

 彼女。

 

 

 レオンの幼馴染にして――

 

 

 ――その名は、クロエ・オベールと言い、レオンの最も大切な人物であり、守るべき存在。

 

 

 

 






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