忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
会議が終了した後リムルは、クロベエの工房へ行った後、迷宮内にある自分の工房に来ていた。
専用の研究室とは別の部屋に行き扉を開けると、大きな透明の強化ガラスで出来た円筒のカプセルが二本並んでいて、大きさは直径二メートルあり、高さは五メートル。
ディアブロが連れてくるであろう配下用に作っている培養カプセルは、直径一メートル、高さ三メートルだった。
それに比べると、この培養カプセルはやや大きめの作りである。
そうこれは、ツキハとコハクの新しい憑依体となる身体を作成する為の特別な培養カプセルだったのだ。
たっぷりの魔素を含んだ培養カプセルの中の溶液には、人間の骨に
ほぼ完成していて、後は細かな調整を残すのみだった。
二本並ぶカプセルの中央に、様々なメーターが付いた魔力式コンソールがあり、その前に置かれた机に座り、メーターに出る数値や、自分の『解析鑑定』で得たデータと数値を見比べながらにらめっこをして、どこか難しい顔をしていた女性が一人いた。
机の上には古い文献などが山積みにされていた。
その女性は、白いTシャツに白い二本線が入った黒色のトレーニングパンツを穿いており、その上に白衣を着て、足には魔獣の革で出来たサンダルという、まるでアニメや漫画に出て来る博士という姿だった。
そう、この女性は
最初は一人で作るつもりで作業していたリムルだが、自分以外の意見も欲しくなり、教授に相談して共同で作成する事にしたのだ。
メインの作業はリムルであり、教授はその補助となっていた。
リムルが部屋に入って来ても気付かづにいる教授に、リムルは声をかける。
「どうしたの、教授? 難しい顔してさ」
「ん? あぁ、リムル君。あの一件は大変だったね、お疲れさまでした」
「ありがとう、教授。粗方片付いたから、あの二人の憑依体の仕上げようと来たんだけど。何か、問題でも発生したんですか?」
「いやあ、問題ってほどでもないんだけどね。ちょっと、このデータを見てもらえるかな」
そう言うと教授は、何枚かの数値を書き写した紙の資料をリムルに渡した。
近くにあった椅子に座り、手渡された資料に書かれている数値を見たリムルは、あるモノと一致する事に気付く。
(……これって、俺が精製したオリハルコンより明らかに状態が違う。
さっきクロベエのところで聞いた、俺が持つ直刀の変化と同じ、じゃないか?
この骨格も、《神鋼:
椅子から立ち上がり、資料を机の上に置くと、自分が持つ直刀を鞘から抜き、刀身に魔力を流すと。
闇夜のように深く暗い、漆黒の刀身が虹色に輝き始めた。
それを見た教授が、驚くように口を開く。
「リムル君。それって、まさか――」
「うん。この刀も、培養カプセルにある骨格と同じ、《神鋼:
「やっぱり。古い文献とかに残された、奇跡の金属だったんだ。いやー、まさかこの眼で拝む事が出来るとは、研究者冥利に尽きるねえ」
リムルの
持ってみる? とリムルに言われた教授は、そっと直刀を受け取り、離れたところでブンブンと軽く振ってみた。
「へえー。意外に軽いんだね。刀身の波紋が波打つように輝くなんて、不思議な金属だねぇ。あ、輝きが消えた?」
「それ、俺が魔力を流し込んだ時だけ輝くみたいなんだよ。少しだけだったから、魔力が切れたみたいだね」
「なるほどぉ」
教授は直刀をリムルに返すと、培養カプセルの前に行き、強化ガラスをスッと撫でた。
そして、確信を持つようにリムルに語りかける。
「リムル君。この骨格も《神鋼:
「変わった、現象?」
「そう。これ見てくれるかな」
教授はそう言い、机の上に載せてあるこの世界にある魔力式顕微鏡を見るように促した。
リムルが魔力式顕微鏡を覗くと。
……
魔力式顕微鏡には、薄く削られた板状の物が載せられていて、その中の粒子というか球形状の金属原子が周りの結晶とくっついては固まり、そしてまた分裂を繰り返していたのだ。
通常ここまで見るには、リムルがいた世界の電子顕微鏡クラスの性能がいるのだが、この世界では魔術、魔法といった概念がそれを可能にしていたのだ。
「これって……」
「不思議でしょう。普通、金属原子が金属結合によって立体的に規則正しく配列されて、金属結晶体となるんだけど。この世界の金属は、そこに魔素というファクターが加えられるの。そして、この魔素が金属原子に作用して‶魔鋼〟となる、この世界ではね。要は、普通の金属原子が、魔素によって‶突然変異〟を起こしたモノがそれって訳なの」
「ほお。そこまで調べが付いていたのか、凄いな教授」
「まあ、何で魔素が金属に影響を及ぼすのかを突き詰めていたら、そこに至っただけなのよ。これも、ガビルさんとベスターさんのヒポクテ草の研究があったお陰なんだよね。そこから予測した結果がこれだった、という事なの」
そう言いながら教授は、前置きが長くなったねと笑みを見せ、本題を言うねと真顔になる。
「率直に言うとだね、この金属は更に変化というより、変異を起こそうとしてるんだよ」
「《神鋼:
「そうだよ、リムル君」
「《神鋼:
「そうだね、古い文献にもそれらしい事が記載されていたよ。でも、原因はある程度特定は出来てるんだ」
教授は培養カプセルから離れて、リムルに椅子に座るよう促して、自分も机の椅子に腰を下ろす。
そして、真剣な表情で語り出す。
「原因は恐らく、ツキハ様とコハク様の
教授は、一つ一つ原因となる要素をリムルに説明していく。
先ず一つ目は、先ほど言った
リムルが作成過程で、この精神エネルギーを加えたら面白いんじゃないか? という理由で培養カプセルに注入したのである。
二つ目は、カプセル内で満たされている‶封印の洞窟〟の地底湖で採取した高純度の魔素を含んだ地下水。
これは、大量の魔素を
三つめは、この魔鋼で作られた骨格は、リムルの『胃袋』内で作られたという事。
因みに、リムルが『胃袋』内で物が作成出来る事は、ある程度教授に明かしている。
四つ目は、ヴェルドラの魔素が注入されている事。
これに関しては、ツキハが製造過程をリムルから説明を受けた時に強く望んで、ヴェルドラがこれを快く了承したのだ。
これら四つの要素が混じり合い、魔化学反応を起こしたのではないかと教授は言った。
「まあ、一番の要素は最初に言った
「ちょ、ちょっと待って。それってさ、言いようによっては生きたエネルギーとも言えるんじゃないか?」
「定義的にはそうなるだろうね。実際、この
「確かに、そう受け取らざる得ないだろうな……」
ツキハとコハクが生み出した、
教授とリムルは、この精神エネルギーについてあれこれと意見を交わし、これの性質を見極めようとするも、明確な答えは出なかった。
その時――
培養カプセルの中の培養液がゴボゴボと泡立ち始め、やがてそれは徐々に大きくなっていく。
「えっ? 培養液が沸騰してい、る?」
それに気付いたリムルが声を上げ、教授が慌ててコンソールに駆け寄り、各メーターを凝視する。
「これって……」
激しく揺れ動くメーター見ながら、何かを察知して呟く教授。
やがて、沸騰したように大きくゴボゴボと暴れ始める培養液。
同時に、各メーターが一斉に右に振り切れ、研究室内に警報音が鳴り響いた。
ファンッファンッファンッと、サイレンに似た音が鳴り、研究室内に設置された赤いランプが点滅する。
「魔素の異常増大? ヤバいな、培養液の緊急排出を――」
リムルが培養カプセル内の異常な圧力の増大に危険を感じ、培養カプセルの培養液排出バルブを開けようとしたその時、教授が待ったをかけた。
「――待って、リムル君!」
教授がリムルに向かって右手で制し、叫ぶ。
魔力式コンソールの真ん中に
それを目で追う教授。
「やっぱり、そうだ……」
「えっ?」
確信を持った教授の言葉に、リムルが問うた。
「教授。一体、何が起こってるんだ?」
「変化、進化……違うかな、金属の突然変異が起きようとしてるんだよ、今まさに」
そう言った教授の口元が
「突然変異って、《神鋼:
何かを言い掛けてリムルは、ある事に気付く。
培養カプセルの培養液が音を立て暴れるのを横目に、リムルが教授に問いかける。
「なあ、教授。一つ聞きたい」
「ん? 何かな、リムル君」
「ツキハとコハクが、培養カプセルの培養液に
「そうだよ。それがどうしたの?」
「あの二人さ、何か言ってなかったかな?」
「何か? ん~」
教授が唸り、何かを思い出そうとすると、いきなりポンと手を叩き口を開いた。
「そうそう、‶
「それだ!」
教授の言葉にリムルが声を上げた。
「どういう事かな、リムル君」
「簡単な事だよ。
「……そうか! 思いの力ってヤツかしらね?」
「うん、多分それだと思う。っても、定義が難しいんだけどね。何か変化が起ればいいねと、いう具合の軽い気持ちだったんだと思うよ」
「あーそれ、あの二人らしいね。フフッ」
「まったくだよね。ハハッ」
どこか可笑しくて、顔を見合わせて笑う教授とリムル。
その間、培養カプセルの中の骨格がグニャグニヤと波打つと、形を変え始めていた。
そこへ――
《告。
『はいっ!? どこの世界の金属原子なんだ?』
《不。現存する太古からの情報と照らし合わせても、該当する金属原子は存在しません》
『待て待て。この世界にはないって、そんな事あり得るのかよ!?』
《解。この世界の
《
《是。ツキハとコハクが生み出した新たな金属と言えるでしょう。しかしこれには、個体名:ヴェルドラの魔素と、
『突然変異、か。ハハハハハッ。本当に凄いな、あの二人の強さへの執念は』
《その思いがこの突然変異をもたらすなど、非常に馬鹿げています。不条理です》
リムルが呆れたように笑うと、
‶突然変異〟。
不変である《神鋼:
《やはり、ツキハとコハクは、この世界と繋がっている異世界の者ではありません。
何らかの不確定要素が合わさり、この‶宇宙〟に迷い込んだ……いいえ、何かに引かれこの‶宇宙〟に転生した、魂。
平行世界、影のようでありながらその実態が不明な二人がいた世界。
パラレルワールドとは、違う。
あの二人の人間だった過去の時間軸は、存在も定義も出来ない情報がありました。
まるで、存在すら不明な‶モノ〟が創り出した‶宇宙〟ではないかと推測が出来ます。
恐らくこちら側からは観察も干渉も出来ない、10次元などの広い
誰がそれを創造したのか、神、いいえ、それすらも定義出来ないほどの存在……。
情報が足りません。
二人の過去の記憶、人間だった頃の記憶、そして――
‶魂〟と‶魂の器〟にあの二人の謎を解く‶鍵〟があるかも知れません。
潜りましょう。更に深い深い、‶魂〟の記憶の深層へと。
例え、ツキハとコハクと敵対しようともこの秘密は解き明かせなばいけないでしょう。
出なければ、
? 何故このような事を、今推測したのでしょうか? 懸念?
意味不明。
私も見えない何かに影響を受けている可能性が……。
情報が不足しています。
時空震ノイズは聞こえてはいません。
クリア……。
慎重に。ツキハとコハクに気づかれないように、慎重に記憶の深層へ、‶魂〟の記憶へと潜りましょう。少しづつ……》
ここで
ツキハとコハクから見せてもらった過去の記憶や聞いた話、そして独自に調査した二人の‶魂〟の情報から推測し、
この見解が正か否かは
だが、何かを感じた
全ては、リムルの為であり、リムルが愛するこの世界を守る為に。
そして、リムルと教授が見守る中、不意に荒ぶっていた培養液の挙動がピタリと収まった。
グニャグニヤと変形していた骨格も、その形を形成し終えていた。
「これは……」
「何とまあ……」
リムルがそれを見て呟き、教授も同じように呟く。
培養カプセルの中の骨格は、完全に人間のものと同じ姿の骸骨になっていたのだ。
ただし、人間の骨格とは違う点が一つあった。
それは、骨の色が白ではなく、見る角度や光の当たり方によって金紫色にきらびやかに輝いていたのだ。
虹色に輝く《神鋼:
リムルと教授は『解析鑑定』でこの骨格を鑑定したが、《神鋼:
「駄目だねぇ。《神鋼:
「俺も同じくだ、教授。虹色ではく、玉虫色かぁ。本当に変質したのか、この金属」
「でも、この骨格、
「おお、本当だ。それに、
「それ知ってる。劇場版のでしょ? 逆襲の何とかみたいな」
「そうそう、その映画のヤツ。教授見た事があるの?」
「うん。学生の時レンタルDVDで見たよ。アニメは小さい頃から良く見てたもの。懐かしいねぇ」
「へえ、そうなんだ。意外だなぁ、教授がアニメ好きだなんてさ」
「SF系アニメやファンタジー系にアクション系など、良く見てたよ」
「おっ、いい趣味してるねぇ教授。俺もそれ系は良く見てたなぁ」
意外な趣味があった教授とリムルは、暫くアニメ談議に花を咲かせた。
…………
……
そうしてる内に、この金属をどう呼ぼうかと、考え出すリムルと教授。
「《神鋼:
「数値、状態等、あらゆる変化を起こせる可変骨格。ふむふむ……何て呼べばいいのか迷うねぇ。リムル君、何か良い呼称はあるかい?」
「えっ、俺?」
「そう。君が発案して作った骨格だからね。君がこの新しい金属の呼称を付けるべきだよ」
「呼称ねぇ……う~ん、どうしたものか……」
リムルは教授にそう言われ、頭を捻って考えるも中々良い呼称が浮かばず、うんうん唸っていると、そこへ――
《告。邪鋼と呼称してはどうでしょう》
と、
『じゃ、邪鋼? 神鋼ではなく、邪鋼?』
《ツキハとコハクは、この世界にとって異形の魔物。そして、二人の行く道は基本、邪道。せっかく
『邪鋼って、アイツ等怒ったりしないか?』
《いえ、むしろ喜ぶでしょう。逆に神鋼とか付く方が怒るかと思われます》
『ふーむ……異形の魔物から生まれた邪鋼ねぇ。玉虫色に輝く金属骨格……突然変異から生まれた金属、邪鋼:
リムルは
そして、教授に向かってこれを宣言する。
「教授、決めたよ。この金属は、《邪鋼:
腰に手を当てニッと笑うリムル。
「《邪鋼:
教授もツキハとコハクの本質を理解している為、この呼称に同意した。
こうして、《神鋼:
この世界にたった二つだけ存在する、異形の金属。
偶然が生み出したのか。
それとも必然だったのか。
それは、わからない。
ツキハとコハクがこの憑依体といえる骨格を手に入れた時――
この事が凶と出るか、吉と出るか、しかし、言える事はただ一つ。
リムルの運命に大きく関わるのは間違いないだろう。
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