忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
予期せぬ出来事が起こった。
《神鋼:
不変に対して可変。
《神鋼:
それはまるで、ツキハとコハクの為だけに生み出された金属のようだった。
性質は頑丈でありながら柔軟性も併せ持ち、あらゆる変化に対応する骨格。
五千年以上もの年月をかけた最強の
もう憑依体を作り変える事すらいらず、ツキハとコハクの鍛錬によりその性能を上げて行く事が可能になった骨格。
このような憑依体を作り上げたリムルは、半ば半笑いになる自分を抑えられなかった。
(ハハッ、ハハハハ。俺、とんでもないのを作ったんじゃないか?
調べれば調べるほど、あの二人にこの骨格を渡していいものかと思うんだが……。
いやいや、これは約束した事だし、言った手前きちんと責任を果たさないとだな。
まあ、何かあったら全力で抑えるしかないと、うん、何とかなるさ。ハハハハ、ハハッ、ハハハ……)
採算度外視の、思いつく限りの案を惜しみなく投入した結果にちょっぴり後悔と
その翌日。
ツキハとコハクは憑依体の受け取りの為、リムルの研究室に訪れていた。
研究室に入るや否や、ツキハとコハクは憑依体の元である骨格が漂う培養カプセルの前に張り付き、嬉しそうに言葉を連ねる。
「おほぉー! なにこれ、スゲエもんが出来てるじゃん、アンタなら出来ると思ったよ、リムル!」
「なんやなんや、こんなんよう
大絶賛の二人である。
見た瞬間にその骨格の特性を見抜き、自分達が思い描き続けて来た最強の身体の到達点の入り口が見えた瞬間でもあった。
「ああ、まあ、最終的にはお前達の
ここまで二人からべた褒めされたのは初めてのリムル。
照れくさそうに言葉を返すも、上機嫌なリムルであった。
そして、リムルから《神鋼:
「《邪鋼:
「ほんまやねぇ。まさにうちらの為だけの金属骨格やねん」
「神鋼とか付いていたら、作り直しを要求だったわ」
「神とか、そんなんいらんわと、叩き返すところどすな」
(うっ。
「それに、教授もありがとうね。本当によくやってくれたよ」
「ほんま、えらい難儀な事手伝わせて、感謝やで」
ツキハとコハクは教授に向かってぺこりと頭を下げた。
「いやあ、こんな金属の突然変異に立ち会えただけでも、私がお礼を言いたいくらいですよ」
教授は頬をポリポリと軽く掻き、少しはにかみ気味に言う。
ツキハとコハクはそう言うと、また培養カプセルの前に行き、まじまじと骨格を眺めていた。
……。
そして、リムルがいつでも憑依は出来るぞと、二人に告げる。
「うんじゃあ、新しい身体に移るかぁ」
「せやな。新しい身体にいきましょかぁ」
子猫ツキハはコハクの胸の谷間から飛び降り、リムルの視点から右側の培養カプセルの前に行く。
コハクは左側に行くと、サッと右手を振り着ているいつもの
(おっ! 引き締まっているのに出るとこ出ていい、あっ!?)
いきなりコハクの裸を見たリムルが眼福とばかりに思っていると、突き刺さるような教授の視線に気付き、グリッと首を動かし、コハクから視線を外した。
ツキハが子猫の身体を分解して、魔素粒子がふわっと巻き上がる。
コハクも同様に身体を分解して、魔素粒子を巻き上げて極小さな光る玉になった。
魂ともいえるその小さな光る玉は、それぞれの培養カプセルの中に浮かぶ骨格の胸の中心に『空間転移』する。
そして、小さく明滅を繰り返すと、無数の光の粒子に変異し、骨格全体を覆い尽くしてしまう。
「始まるか……」
リムルが小さくそう呟き、教授が目を見張ると、それは始まる。
リィンリィンと軽やかな素鈴の音みたいな音が空間を優しく揺らし、培養カプセルの中の培養液がコポコポと泡立ち始め。
骨格の中に、集まった魔素粒子が塊り、心臓を形成する。
そして、肺、肝臓や腎臓といった、生物に不可欠な臓器を次々と創り出していった。
ただし、これは疑似的なものであり、臓器一つ一つが魔力や超魔電粒子の生成に特化したものになっていたのだ。
(なんだなんだ? 臓器を創り出しているのか、これ。
ふーむ、『解析鑑定』によると……心臓が魔素を循環させる機能か。
肺が魔素を取り込むポンプみたいな仕組ねぇ。二つある腎臓が、超魔電粒子を生成してより純粋な魔電粒子に濾過するのか。
胃袋は、食べたものや飲んだものの魔素還元率百%の消化器官ね。各種腸は、
肝臓は、魔素以外の不純物を排除する機能なのか?
排泄機能は、ある訳ないか、魔素還元率百%だものな。まるでサイボーグみたいな、あっ!?
ツキハって、
多分あれを参考にして憑依体を構築してるんじゃないか?)
リムルの予想は大方当たっていた。
ツキハとコハクが漫画にある設定を参考にしていたのは確実だが、そこまで深くは考えてはいなかった。
ツキハもコハクも、こう出来ればいいなぁくらいで、提供された骨格を使い憑依体の構築していただけである。
(うはっ、マジもんにヤバイものが出来そうで、背筋が凍りつく感覚に襲われるみたいだ。やっぱり自重した方が良かったのか?)
《告。時すでに遅しかと》
(うっ……)
内心でぼやいていると、即ツッコミを喰らうリムルであった。
そうしてる内に、神経網が形成され、それに伴い神経網に沿うように魔力回路が形成されてゆく。
それが終わると、筋肉が形成され、肉体が完成に近づいて行った。
顔の部分に出来た眼球がぐりぐりと動き、瞳が猫目になる。
頭の上に猫耳が形成されて、
そして、皮膚が体全体を覆っていく。
手足の指には爪が生え、頭と局部と尻尾に毛が生えていき、見た目には完全な獣人に近い姿となる。
顔の筋肉がうにょうにょと動き、ツキハの顔とコハクの顔が出来上がった。
最後に、胸の形が作られていき、二人のいつも通りのサイズへと形成され、憑依体の構築が終了した。
コポコポと培養液が小さく泡を上げ、カプセル内に漂うツキハとコハクの身体。
リムルは思わずそれを凝視してしまい、教授のコホンと咳の音に慌てて後ろを向く。
「あーっと、完成したみたいだな。かなり凄い憑依体になったんじゃないかな?」
誤魔化すように感想を言うリムル。
「うん。これは、想定以上の出来上がりだと思うよ、リムル君」
そんなリムルに、クスッと笑いを漏らしながら返す教授。
培養液の中で揺れ動くツキハとコハク。
閉じられていた目がカッと見開くと、浮いていた身体がスーッと培養カプセルの底に着底し。
培養カプセルの底にある培養液排出口から勢い良く吸い出されていった。
ゴボゴボと音を立て、完全に排出されたカプセルの強化ガラスが床に下りて行った。
濡れた髪を振りながらカプセルから出て来るツキハとコハク。
二人は右手をサッと振り、早着替えの魔法でいつもの装束を身に付ける。
そして、リムルに声をかけた。
「もういいよ、こっち向いても」
「もうええで、こっち向きなはれ」
上機嫌のツキハとコハクは、笑みを浮かべながらそう言言った。
「お、おう」
「しっかりと見たよね? お代もらおうかな」
「せやねえ。うちの裸は、高いどすえ」
「はいっ!? いや、あれはいきなりだし、不可抗力じゃないかと、思うよ?」
「なに焦ってるの? 冗談だし。ククッ」
「ほんまやで。あんさんもしかして、おぼこい男やったんか? フフッ」
「えっ? ちょっ、うん、何言ってるのか俺にはわからないなあ。今の俺は性別不明だし」
二人に
そこへ。
「クソッ。まただ、胸が全然成長してないぞ!」
自分の胸を触りながら、吐き捨てるように言うツキハ。
それに呆れたように言うコハク。
「まだ
「うっさい! いいじゃん、希望くらいもってもさ」
「はあぁ、しようもな。
「やっかまっしいわッ! 落ちチチ女が!」
「なんやてえ!? 無いチチ女がなに言うねん。ドつくで?」
「はああッ!? やってみろよ! 返り討ちにしてくれるわ!!」
いつもの如く、口喧嘩を始めてしまうツキハとコハク。
リムルも教授も、また始まったというように顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
やがて、ツキハとコハクは言い合いを終えると。
おもむろに二人は、新しい憑依体を確かめるように、軽くパンチや蹴りを出す。
パン、パンッと空気を叩く乾いた音が鳴り、二人のパンチと蹴りは軽く音速を超えていた。
次にツキハは、スーッと両足を左右に大きく開き腰を下ろすと、そのまま床に百八十度開脚をしてぺたりと座り、更に両腕を前に伸ばしながら上半身を床に伏せた。
コハクは立ったまま上半身を前に折りたたむようにして、膝は曲げずに両手で両足首を掴み、頭も両脚にピタリと付ける。
そんな柔軟体操みたいな事をして、おもむろに向き合うと、いきなり組み手を始めた。
向き合ったまま動かずに、小さな動きだけで拳打や蹴りをお互いに打ち込み、最後にお互いの腹部目掛け縦拳をを寸止めで打ち込んで組み手を終えた。
ドパンッ! とけたたましい衝撃音が鳴り、研究室内がビリビリと振動して微かに揺れた。
「うん。これならもう、憑依体を作り変える事もないね」
「せやな。この
「アレ? んん? なにこれ……」
ツキハの言葉にコハクがそう返すと、ツキハがスンスンと鼻を鳴らす。
そしてリムルと教授も、研究室内に漂う微かなモノに首を傾げていた。
ツキハがコハクの近くに来て鼻をスンスンと鳴らし、妖しい何かを嗅ぎまわると――
「へっ!?」
いきなり変な声を上げて、ズザザザッーとリムルの背後に逃げてひょっこり顔だけ出して、怯えたような声で言い放つ。
「ア、アンタ、今、何をしたッ!?」
尻尾の毛をブワリと逆立て、あからさまに警戒心を露にし、どこか頬がほんのり
「おいおいツキハ。何そんなに怯えているんだよ? コハクが何かしたのか?」
「えっ? ああ、えとね、なんか凄まじいエロ臭がしたようなしなかったような、でも、スゲエ
リムルの後ろからコハクに詰め寄るツキハ。
そのツキハの言葉に、少し俯き加減でクスリと不気味な笑みを浮かべるコハク。
右手の人差し指で唇をスーッと撫でると、小さく呟くようにコハクは言った。
「フフッ、フフフ。あのド変態女に対抗するもんの目途が付いたでぇ」
そう、コハクはチヨメに対抗するあるモノを創ろうとしていたのだ。
そして、以前の憑依体でどうしても創り出せなかった、
「まあ、今はこんなもんやろ。これから、じっくりと取り掛かるとしますかいな。見とれド変態女。次
急に高笑いを始めたコハクにツキハは。
「ア、アンタねぇ、その得体の知れない何かをあたしに向けたら殺すよ? マジにぶっ殺すかんね!」
と、尻尾の毛を逆立てたまま怒鳴る。
ツキハのあまりの怯えようにリムルは、内心なにが起こったのかを考えた。
(うーん。コハクのヤツ何をしたんだろう。
見当も付かないんだけど……。
でも、あのツキハの怯えようというか凄い警戒心はなんだろうか。
あそこまでのツキハを見たのは初めてだよな。
《不。何をしたのか不明。恐らく、とんでもない何かを創り出そうとしてるのでしょう》
(とんでもない何かねぇ……。まあ、チヨメと相対した時にそれはわかるか)
とりあえず、チヨメに対抗するものなら良いだろうと、コレに関して追及するのは止めたリムル。
「う~ん。これって、微かに桃の花の香りみたいな、感じ?
教授も皆目見当が付かないようで、頭を捻りうんうんと唸っていた。
そこへ、コハクが皆に向けて口を開く。
「そう心配せんでもええで。これは、あのド変態女をキャン言わせるモノやさかい。アンタらには
「ホントに、ホントだね? 嘘ついたら、マジにぶっ殺すかんね! マジに怒るからねッ!!」
「くどいどすッ!! あんましつこいと、もう一回コレをぶちかましますえ?」
「いやッ! やめて、ホントやめて!!」
コハクが妖艶な笑みを浮かべツキハに言うと、ツキハは完全にリムルの後ろに隠れたまま叫ぶように返した。
コハクが何を創り出そうとしたのかは、わからなかった。
だがしかし、ツキハの警戒心から
はてさて、コレの正体がわかるのは、もう一度コハクがチヨメと相対した時に判明するだろう。
こうして、新しい憑依体を手に入れたツキハとコハク。
東の帝国とジュラの大森林の国境線もキナ臭いこの頃。
この新しい憑依体が猛威を振るう機会は、意外に近かった。
グランベル翁の策略が、刻一刻と近付きつつあったのだから。
戻って来たリムルの平穏な日常も、またもや暗雲が立ち込めて行くのだった。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
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