忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。二十七話です

 





27話 紫 苑(シオン)

 

 リムルが魔王への進化が始まった、中央広場。

 

 ベニマル達の前でリムルの身体は、スライム状から、不定形への変化を繰り返していた。

 

 それはやがて落ち着き、流線形の形へと変化安定する。

 

 しかし今度は、怪しげな明滅を繰り返し始める。

 赤、青、黄、緑、紫、黒、白、灰色と様々な色に。

 

 どれだけの時間が経ったのだろう……。

 

 その時、皆の心に〝世界の言葉〟が響き渡った。

 

『来るニャ。あの時……木から落ちたまま寝てたのニャ』

『あれ、ものすごぉーーーーく、眠くなるのよねぇ~。そう言えばサンコちゃん、魔蛇に呑み込まれてて、目覚めて『ここ、どこニャー!?』って、魔蛇の腹を喰い破って出て来たのは。お姉ちゃん、爆笑したわよぉ~』

『あれは……生臭くて、ドロドロのグチョグチョで、嫌な思い出ニャ……』

 

 ニコとサンコにもリムルの進化が完了した事がわかり、自分達が祝福(ギフト)を受けた時を思い出す。

 

《告。個体名:リムル=テンペストの魔王への進化(ハーベストフェスティバル)が完了しました。続いて、系譜の魔物への祝福(ギフト)の授与を開始します》

 

 皆に襲い来る、猛烈な眠気。

 

「うぐ、なんだコレは!?」

「――ッ!? これが祝福(ギフト)ですか!? リムル様との繋がりを強く感じます!」

 

 突然の事態にベニマルもシュナも、それに他の魔物達も驚きを隠せなかった。

 どうやらリムルの進化が無事に終わったことを、皆が悟った。

 

 次は皆の番だろう。しかし誰もが自分達まで眠気が襲うとは、考えてもいなかったのだ。

 

 抵抗が出来ぬ者から順にパタリパタリとゆっくり倒れ、眠りに落ちていく。

 

 ベニマルはリムルとの約束がある為、この猛烈な眠気に抵抗し耐えていた。

 

 

 その時。

 

 目の前のリムルの身体が眩く光りを放つ。

  

 その光が収まるとそこには、長く艶やかな銀髪を靡かせた人物が身体に何も纏わずに、立っていた。

 

 仮面を外した素顔の、少し背が伸びたリムルである。

 サラサラと流れるような煌めく銀髪が頬にかかり、それは見る者を魅了する美しさ。

 右手をふわりと胸から下に振ると。

 

 キラキラと輝きながら魔素粒子が渦巻き、それはやがて白く美しい布に変わり、胸から下を覆う様にふわりと巻き付いていく。

 

 その銀髪と体に巻き付けた白い布を靡かせたリムルに、ベニマルは思わず見蕩(みと)れてしまう。

 

《告。後は任せて、眠りにつきなさい》

 

 ふわり優しく、頭に直接響く――

 

 声。

 

 その声は深い安心感をベニマルに与え、逆らう事を許さず。

 されど導かれるように抵抗できぬ、深い眠りへと誘われる。

 

 リムルの姿をした何者かは、ゆっくりと周りを見渡す……。

 まだ、起きている者が居ないかを、確かめるように。

 

 ………………

 …………

 ……

 

「これは……魔物達が皆、眠りに落ちていく……」

 

 ミュウランは不思議そうに、周囲で眠りに付く者達を見回した。

 もう自分以外に起きてる者は、先程空間を歪ませ姿を現した〝忍魔猫〟を除いては、誰もいなかった。

 

『あ、あれは……なんニャ? あれは誰ニャ? 恐ろしく……それでいて、優しくも神々しくも感じるこれは――ツキハ様とコハク様とは別の、なにかニャ、よ?』

『な、な、なにかしらぁー? この感じ……ツキハ様とコハク様とは別のぉ……この感じは、なんなのかしらぁーー』

 

 ニコとサンコはリムルの姿をした何者かに、自分達が『空間迷彩』と『猫騙し』を用いて隠れてる空間を凝視される。

 

 その目はまるで『何もしないから、出て来なさい』そう言われてる様に感じ、二匹は引き寄せられるように『空間迷彩』と『猫騙し』を解除していく。

 

 呆然と立ち尽くす、ニコとサンコである。

 

 

 そして、この街に残る人間やドワーフ達は、この中央広場から離れた建物に移動していた。

 人間達には危険な程魔素濃度が高まり、やむなくの避難である。

 そこではエレンが結界を張り、皆を守りながら状況を見守る。

 そこにこっそりとニコとサンコが、更に結界を張り重ねていた。

 

 ヨウムとその仲間達は、ギリギリまで残ってミュウランを守っていたが、ランガが連れ帰ったエドマリス王とレイヒム大司教をカバル達に引き渡す為に、去っていった。

 

 もうヨウム達も限界だったので、いい口実になったとミュウランは思う。

 そんな理由がないと、死ぬまでヨウムが傍らから離れそうになかったから。

 本当に馬鹿だと思うが、それでもミュウランは嬉しかった。

 

 ともかく今ここに残ってるのは、ミュウランとニコとサンコだけである。

 

 ………………

 …………

 …… 

 

 リムルの姿をしたその者は、無機質な瞳でそれを確認した。

 

 そして……。

 

 

 ミュウランとニコ、サンコを一瞥し問題ないと判断したのか――

 おもむろに両手を広げそれを始める。

 

《告。『智慧之王(ラファエル)』の名において命ずる。『暴食之王(ベルゼビュート)』よ、この結界内の全ての魔素を喰らい尽くせ――ひと欠けらの魂さえも残さずに》

 

 その命にて起動する『暴食之王』――

 そして解き放たれるのは、凶悪な力。

 

 だが、その力はこの空間内にある全ての魔素だけを喰らい尽くす。

 それは『智慧之王(ラファエル)』の演算結果に導かれ、この街を覆う結界内の魔素は全て吸収され、更に結界さえも綺麗に喰われ、そこで『暴食之王(ベルゼビュート)』は停止し、そこは純粋なる空間に変わっていた。

 

 『智慧之王(ラファエル)』は、横たえられたシオンのもとに歩み寄ると、手を(かざ)し『解析鑑定』を実行する。

 

 慎重に、ゆっくりと……主の望みを叶える為に。

 

 ミュウランはその光景を驚愕とともに、呆然と眺めていた。

 自分の張った結界が一瞬で喰い尽くされ、それ以上に――

(あり得ない!!)と心の内で絶叫していた……そう、主の意思無き状況で、能力(スキル)が自立行動を取るなど、絶対にあり得ないの、だと。

 

 何よりも、その神々しい姿と気配が、あまりにもリムルと異なるのだ。

 

 そして――

 

 ニコとサンコの目とリンクしてこの光景を見ていたツキハとコハクに、先程帰って来たイチコ。

 

「ねえ、あれ誰かな? リムルであって、リムルじゃないよね?」

「せやなぁ。あれはリムルはんの姿をした、何かおすな」

「ほんとに生まれてまだ二、三年の魔物なの? あのスライム」

「わからしません。けど、言える事は――あれは、究極能力(アルティメットスキル)の一つが――信じられへんけども、自立行動を取ってますえ!」

「だね……あいつの力は未知数だけど、油断は出来ないね。恐らく、強いよ!」

「せやねぇ。うちらが全力を出さな、()れまへんなぁ……」

「でもあれ、リムルの自我は目覚めるんかな?」

「目覚めますやろ、多分」

 

 魔国を見渡せる小高い丘の上から二人は、沈みゆく夕日に照らされ立ったまま見ていて、その表情はリムルを同格、またはそれ以上と認めた顔であった。

 

 〝番外魔王〟の二人が、こんな顔付になるのは、ヴェルドラ、ヴェルザード、ギィ、ミリム、ダグリュール、ルミナス、ディーノと原初達だけであったが――

 

 そこにリムルも、新しく加わったのだ。

 

 二人は二本指を立てた右手を右斜め下に切ると、その場からイチコを伴い『空間転移』で飛んだ。

 

 真っ赤に燃える夕日が地平の彼方へと沈んで行き。

 辺りには虫の声と、緩やかな風が舞っていた。

 

 

 中央広場にいるミュウランの近くにいきなり『空間転移』して来たツキハとコハクを見てミュウランは驚くも、この儀式を邪魔をしてはいけないと、出かかった声を飲み込んだ。

 

 ツキハとコハク、イチコの姿を見たニコとサンコが、二人の足元にすり寄って来る。

 

 リムルの姿をした者は、『空間転移』して来たツキハ、コハクとイチコをチラリと見たが、すぐに蘇生の儀式の準備に入る。

 

 その者は――

 

 これから起こる究極の儀式を見届けなさいと、〝番外魔王〟に言ってるようだった。

 

 それを感じたツキハとコハクが、口端に薄く嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 このめったに見られない……いや、これを行使できる者など、この世界に数える程もいるのかわからない――

 

 秘術に。

 

 

 そして。

 

 ミュウラン、ツキハとコハク、イチコに、ニコとサンコが見守る中、それが始まろうとしていた……。

 

 

 そのほんの少し前。

 

 

 ランガはエドマリス王とレイヒム大司教を引き渡すと、魔人グルーシスと共に街の入り口に戻り待機していた。

 リムルの命令に従い、あの悪魔達が戻った時に、顔繫ぎをする為に。

 

 そんなランガと魔人グルーシスは、何とは無しに話を始めていた。

 今から始まろうとしている事について。

 

「生き返ると、いいな」

「大丈夫だ。魔物がしぶといのは、承知であろう? それに――我等は皆、リムル様と魂でつながっている。リムル様の庇護下にある以上、そう簡単に滅ぶなど有り得ぬよ」

「そうだな……」

「フフ、心配ない。我が主が無事に進化を終えれば、皆無事に復活するであろうよ」

 

 ランガはリムルへの信頼を寄せて、断言する。

 

「しかし、魔王への進化をこの目で見る事になるとはね……」

「リムル様だからな。何も驚くことはないぞ?」

「いやいやいや! 魔物が〝魔王種〟になるなんて、数百年に一度の出来事なんだぜ!? それが、三百年程前に〝番外魔王〟のツキハ様とコハク様が魔王種に進化したんだ――そしてだぜ、そう時を置かずして――また、〝魔王種〟の誕生だ。普通なら、数百年の間に〝魔王種〟が三体も誕生なんて、有り得ないんだぜ!?」

「魔王、種?……」

 

 ランガは〝魔王達〟と言う言葉を、不思議そうに口にした。

 

「そうさ、この世界に認められた。力ある魔物の証拠なんだ。カリオン様を含み、世界に十名しかいない魔王と――魔王の名に連ならない、番外の二名。世界に十二名しかいない、最強の存在なのさ」

「ほう? リムル様もそこに加わり、十一大魔王になるのであろうか?」

「さて、ね。他の魔王連中がどう判断するかわからんしな。あ、〝番外魔王〟の御二人は我関せずだから、問題ないな。それよりも――今回の件で魔王間の力の近均衡が崩れたから、激動の時代を迎えるかもな。それに、もし〝番外魔王〟が絡んだら激動どころじゃなくなるかも知れないな」

「〝番外魔王〟とは、そんなに脅威な魔物なのか?」

「カリオン様から聞いたんだが、一言で言えば――〝暴風竜〟ヴェルドラとガチでやりあえる、魔物らしいぜ」

「なんと……。しかし、何者が来ても我等の力でリムル様をお守りするのみ!」

「それは俺も同じさ。カリオン様の剣となるだけだ。でもまあ、アンタ達と〝番外魔王〟とだけは、敵対したくないがな」

「フッフッフッ。それは我も同じだ」

 

 あ互い同じ思いであるとわかり、軽く笑い合うランガとグルーシス。

 

 それから二人は他愛も無い話しに時間を潰していく……。

 

 

 暫くすると、ランガがうつらうつらし始めていた。

 シュナはこうなる事を予測してランガに同行するよう、グルーシスに頼んでいたのだ。

 

「グッ、グヌヌ。我も……これ以上は、無理だ…………。しかし……このまま眠ると……任務が……。グルーシス、殿……頼まれて……くれないか…………?」

 

 ランガは、暫くすると捕虜を連れた悪魔三体が来ると告げ。

 無念そうに眠りに落ちていった。

 

 それから半刻もせずに、三体の悪魔が現われた。

 

「おや? ランガ殿は、進化の眠りについたようですね」

 

 眠るランガを見て、その悪魔は言った。

 

 グルーシスは目の前の悪魔が見るまでも無く受肉していて、尚且つ上位悪魔と聞いていたのに、その力強さは間違いなく、それより格上だと感じた。

 

 全身の毛が逆立つような恐怖に本能が、最大限の警鐘を鳴らす。

 

「おいおいおい……。初めて見たぜ、上位魔将って奴か?」

「クフフフ。正解ですよ、上位魔人さん」

 

 それはベニマルや三獣士を見た時の威圧感……いやそれ以上の物を、感じた。

 

「クフフ。そう警戒しないでください。私は、新たなる魔王に召喚された、名も無き悪魔なのです。後ろの二体は雑用係ですので、気にしなくて結構ですよ」

 

 気さくな言葉で話す悪魔に、これが気にしなくていい? 雑用係でも上位魔人クラスじゃねえか!、と。

 心の中で口にするも口には出さず、黙って肩を竦め頷くのみ。

 

 その二体の内一体が、気絶した男を肩に担いでいた。

 

「なるほど、ランガ殿から三体の悪魔が来ると聞いている。で、そいつがリムル様の攻撃から生き残った奴なのか?」

「攻撃、ではありません。あの御方にとっては、遊びのような物でした。ですが、この者が生き残っていたお陰で、私は召喚されたのです。少しは、感謝しているのですよ」

「感謝ねえ……」

 

 上位悪魔に無造作に担がせてる男を見て思うも、それ以上は突っ込まなかった。

 

 それからグルーシスは警戒を解き、三体の悪魔を中央広場へと案内する。

 

 すると街を覆っていた結界が消え失せ。

 グルーシスは慌てて「ここで、待っててくれ」と言い残し、中央広場へと向けて走り出した。

 

 ノワールは二体の悪魔に「決して殺さず、逃がさぬよう」と、言い付け一人『空間転移』して行く。

 

 

 ――そして、この日……究極の秘術が開始される。

 

 

 リムルの側に転移したノワールは。

 

「只今戻りました。我が君」

 

 恭しく一礼し、跪く。

 

 それを見たツキハが。

 

「ゲッ!? クロか! そういや、受肉したんだっけか? (たち)の悪いことだわ」

「いたのですか? 駄猫女」

「あ゛あ? 殺すぞクロ!」

「死にたいのですか? 駄猫女」

 

 やって来たノワールを見て、ツキハがいかにも嫌そうな顔をして吐き捨て、ノワールも冷ややかに言葉を吐き捨てる。

 

「はあっ、二人ともやめなはれ。あんさんらは顔を合わすたびに、そんなんおすなぁ。今は、あかんえ」

 

 ため息混じりにコハクが諫めると、ツキハはブツブツ言いながらそっぽを向き、ノワールはリムルに向き直り今から始まる儀式に胸を躍らせる。

 

 上位魔将――

 

 正確には〝原初〟の悪魔なのだが、そんな悪魔にツキハが平気で喧嘩を売るのを見てグルーシスは目が点になり、ミュウランは静かに固まっていた。

 

 そうしてる内に儀式は厳かに進み、その光景をノワールは(美しい)そう感想を抱く。

 

 リムルを中心に粒子化した魔素が集まりだし、それはとても美しく幻想的な光景であった。

 

 誰もがその儀式を見守る中、ツキハはコハクに『思念伝達』で、『これ、足りなくない?』と聞き、『せやなぁ。ちと、足りませんなぁ』とコハクが返す。

 

 そこへノワールが邪魔にならぬよう近づき、細心の注意を払い声をリムルに掛けた。

 

「失礼ながら申し上げます。どうも、魔素量(エネルギー)が足りぬようですが?」

 

 ノワールの知識では、今行っている儀式は〝反魂の秘術〟である。

 リムルが集めた分量では、その秘術を行うのに足りていない様子だったのだ。

 

 ツキハとコハクも〝反魂の秘術〟に関する知識はあり、それに気付いていたのである。

 

 この秘術は、人間の理解を超えた英知を元に編み出された、秘術。

 当然この秘術を行使するには膨大な魔素量が必要で、更にそれを制御する魔力は、想像を絶するものとなるのだ。

 

 上位魔人でさえ、不可能。

 

 魂の操作に長けた悪魔族(デーモン)の、更に一握りの最上位者にしか行使出来ない秘術であった。

 

 この一握りの中にコハクも含まれるが、理論は知っていても行使した事は――

 まだ一度も、無い。

 

 

《是。規定に必要な魔素量(エネルギー)を満たしておりません。生命力を消費し、代用します》

 

 この言葉にノワールが慌てて口を挟んだ。

 

「お待ちください、我が君! ご自身の命を、代用に用いずとも……。そうです、良き考えが御座います――」

 

 ノワールは提案した。

 

 速やかに呼び寄せた二体の上位悪魔に視線を向け、値踏みするように見やり、満足そうに頷くと。

 

「この者共をお使いくださいませ!」、と。

 

 進言した。

 

 その言葉に背後に控えていた二体の上位悪魔は、前に進み出て跪く。

 

「この者達も貴方様のお役に立てるなら、光栄です。それこそが、我等にとっての最大の喜びなのですから」

 

 それに上位悪魔達も頷き、それが彼等にとって当然であったのだ。

 

 そこへツキハが。

 

「なんか、引くわぁー。いいのか、それで?」

「ツキハ!」

「あいた!」

 

 ジト目でツキハが言い放つと、コハクがすかさず右手でツキハのお尻を(はた)いた、

 (はた)かれたお尻を撫でながらツキハは、口をつぐむ。

 

 

 そしてリムル『智慧之王(ラファエル)』は……。

 

《………………》

 

 金色に輝く瞳で二体の悪魔を観察して……。

 

《了。規定に必要な魔素量(エネルギー)を補填可能。その案を承認します》

 

 悪魔達の頭上の空間が捻じれ、二体の悪魔は引き伸ばされるようにその捻じれた空間に、一瞬にして飲み込まれていった。

 

 リムル『智慧之王(ラファエル)』は躊躇なく『暴食之王(ベルゼビュート)』で、一瞬にして空間ごと『捕食』し、純粋な魔素(エネルギー)へと分解する。

 

 そのエネルギーは喜びに満ち溢れた色に染まり、それは主の役に立つという願いが叶えられたからだろうと思い、ノワールは思い満足する。

 

 

「おおお……羨ましい。流石は、我が君です。先程お見かけした時とは比べ物にならないほど、御身から圧倒的な力が溢れております――」

「だからぁ、羨ましいとか、感覚おかしいだろうがぁ――ぷぎゃっ!」

 

 召喚主の進化に憧憬の念で眺めるノワールに、またもやツキハが茶々を入れようとして、コハクに尻をつねられる。

 

 魔王として再誕した美しき主に仕える事こそが、ノワールの願いであり。

 その為に、役に立つという事を証明せねばいけない……。

 

 それ故に、これ以上出しゃばりは不要。

 もう余計な手出しは反感を買う恐れがあると判断し、ノワールその場から静かに離れて控える。

 

 離れ際ツキハに向かって口に右人差し指を立て、もう黙れとジェスチャーを送り、ツキハは尻尾をブンブンと振り、お前こそ黙れと尻尾の先で指す。

 

 それもつかの間、示し合わせてもいないのに、ノワールとツキハにコハクは静かに気配を殺していく。

 

 

 儀式の再開。

 

 リムル『智慧之王(ラファエル)』は両手を横に広げたまま、眼前に現れた魔素が収束した光りの球を形成する。

 

 無色透明な光りの玉を、薄紫色の膜が淀みなく包み込んでいく。

 

 それが魔核たる魂と、その守りたる幽星体(アストラル・ボディ)であった。

 

 それから『智慧之王(ラファエル)』がその玉を覆う様に両手を(かざ)し、一気に横に広げると。

 

 百体の魔物の遺体を覆う様に地面に強大な魔法陣が出現し、光りの玉が分裂してそれぞれの遺体の上にふわりと浮かんでいた。

 

「なんて、綺麗な術どすか……」

 

 その幻想的にも美しい光景にコハクが思わず声を漏らし、その秘術を記憶に焼き付けていく。

 

 続けて〝死者再生の秘術〟へと移行し、魔物達の再生された魂が肉体へと戻される。

 

 成功確率三・一四%――それは、魔王に進化する前に算出された確率。

 

 今は……。

 

 この広場に並べられた魔物達の魂は、祝福(ギフト)により『完全記憶』を獲得していた。

 これはリムルの希望に沿う形で授けられた、祝福(ギフト)

 

 エクストラスキル『完全記憶』――

 

 この能力(スキル)は、脳が破壊された状態からも、記憶の完全再現を可能にする。

 

 魂が無事ならば、死亡状態から何度でも再生が可能な恐るべき、力。

 

 

 ――魂と肉体の繋がりが確率した……。

 魔物達の魔核(コア)が、力を放ち始める。

 

 そして、再び魔物達の心臓が、静かに鼓動を始めていく――

 

 

 ここに、今――死者蘇生の秘術が成立したのだ。

 

 

 トクン トクン トクン

 

 まるで眠りから覚める様にその鼓動は、明確に、少しづつ、力強く、生命の息吹を奏でる。

 

 

 紫 苑(シオン)

 

 並べられた魔物達の遺体の中央に横たえられている、シオン。

 

 額の折れた一本角の折れ口に、小さな魔素粒子が集まり、蛍が遊び舞う様にそこで魔素粒子が舞い踊り。

 

 スーッと折れた角が再生されていく。

 

 そして、雪の様に白かった肌に、徐々に赤みが差していき……。

 

 やがて透き通るよな肌色に変わっていった。

 

 

 大きな胸が一度、ゆっくりと息を吸う。

 

 それを、何回か繰り返すと。

 

 

 瞼がぴくぴくと僅かに動き……。

 

 静かにその目を、開く。

 

 

 その瞳には

 

 昇ったばかりの月が差す

 

 月光が 

 

 柔らかく 差し込み 

 

 仄かに光り輝いて いた

 

 

 




 二十七話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!





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