忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。二十八話です







28話 道 化(ピエロ)

 

 ――命の奇跡――

 

 リムル『智慧之王(ラファエル)』は、自身が導き出した演算結果を実行し、結果を得た。

 

 ただそれだけの事……。

 

 それを嬉しいとは思わないし、失敗しても悲しむ事など微塵もないだろう。

 何故なら――そう感じる事の意味すら理解出来ないのだから。

 

 だが、しかし……。

 

 そこに、あるはずのない心の、更に奥底の、深淵より深き意識の概念の内側にある……。

 リムルの魂の片隅に――確固たる自我、とも呼べる意思が生まれたのは、間違いないのだろう。

 

 そうでなければ、主の願いを叶えようと能力(スキル)が、自立行動を取るなど有り得ないのだから。、

 

 

 しかして……。

 

 何故そのような行動を取ったのかと、いう問い。

 それは確かに、主と切り離された自我が芽生えた、証拠なのだが。

 

 『智慧之王(ラファエル)』に生じた、ものは。

 

 しかし――自己に対する疑念がほんの僅かに生まれた事から、『智慧之王(ラファエル)』は目を背ける。

 

 ――《我思う、故に我有り》――

 

 それは今後……『智慧之王(ラファエル)』にとって、考えても答えの出ない命題として、付き纏う問いなのかも知れない。

 

 

 そして……。

 

 

 奇跡は街の魔物達も知らぬ間に、密やかに終了したのだった。

 

 それを知る、五名と三匹の魔物。

 ミュウランとグルーシスに、ノワール、そしてツキハとコハク、イチコ、ニコ、サンコ。

 

 

 ――ミュウランは感じた。

 

 魔法の深淵たる御業に到達した、リムルの魔王としての器の片鱗を。

 

 ――ミュウランは思い、誓う。

 

 決して――決してヨウムをリムルの敵にまわしてはならない、と。

 

 それから、〝番外魔王〟の二人。

 この二人も、絶対に敵にまわしてはいけないと、再度認識せざるを得なかった。

 

 もし、リムルと〝番外魔王〟を敵にまわせば――間違いなく自分達は破滅するだろう、と。

 

 だから、何も知らないヨウムを導き――守る。

 

 そして……その誓いは守られる。

 

 

 グルーシスは――

 

 目の前で起きた奇跡に目を奪われる、が。

 

 魔法の知識が乏しいグルーシスにも、この秘術が如何に難解で、常識を超えたものであるかは理解出来た。

 

 故に、動揺し、畏怖を抱かざるを得ない。

 

 生まれたての魔王が成し遂げた奇跡。

 そんなのあり得ないと、心が叫ぶ。

 しかし、哀しくもそれを認める自分がいる。

 

 人智を超えた魔王の奇跡。

 

 グルーシスが見たリムルは、リムルであってリムルでない。

 

 だが、それを知らぬ彼に取って――

 

 そこから……顔を出すのは――恐怖。

 

 そしてグルーシスは……。

 

 今後一切のリムルへの叛意(はんい)を、自身と獣人達に戒める役割を担っていく事になる。

 

 

 前者の二人とは違い、ノワールは歓喜に溢れていた。

 

 静かに、うっとりとリムルを眺める。

 

 だが、不意にふと感じた疑問について考察をするが……。

 

 先程自分と話した召喚主は、召喚主であって召喚主では無かった?

 そう感じるも、その考えはすぐに打ち捨てた。

 

(いやいや、それは考え過ぎというもの――) 

 

 長き時を生きる悪魔にとっても、そんな事例など耳にした事はなかったのだから。

 しかしこの考えは、この世の深淵に潜む悪魔だからこそ、その可能性が脳裏を過ったのかも知れない。

 

 それよりも、ノワールにとって一番需要な課題があったのだ。

 

(クフフフ。背が非でも、配下として末席に加えて頂かねば……)

 

 ノワールの決意はそこ一点に集中し、如何に末席に加わるか思案を巡らせていく。

 

 

 

 ツキハは思った。

 

 五千年もの時間の中生きてきて――初めて見た、命の奇跡。

 

 あれは、ヤバい……あのリムルの姿をした者は、リムルの中にいる何かだ。

 能力(スキル)? いや、無い?……いやいや、あれは―― 

 

 あたし中のにある、あの役立たずの〝権能〟が――魔王誕生に反応した気がする……。

 

 たぶん、恐らくリムルは――他の魔物とは何かが違う、何かが。

 

 それは、なんだ? わからない……。

 

 この世界の常識――ほんとうに、今知り得てる事が、真実であり、常識なのか?

 多分違う……太古から生きてる者ですらも、知り得る事実とは違う、何かがある……。

 

 ヴェルドラが昔話してくれた、長兄の事――始まりの創造主、ヴェルダナーヴァ。

 

 もしかして、これに纏わる何かなのか、な?

 

 それが、進化の果てにあるもの――あの能力(スキル)なのか……。

 

 

 

 コハクは悟った。

 

 あれは、間違いあらへん。

 リムルはんの中にいる、能力(スキル)や。

 

 それが、自我を持った? あらへん、そないな事、絶対にあらしませんのや……。

 

 しかし、常識を覆す何かが、あるんやろか?……。

 あの能力(スキル)は、まともな思考では、理解できひん――常識の範疇外や。

 

 ほなら、あり得んことが、信じられへんことが、あるのも……それも、事実や。

 

 恐らくノワールも気付きよったはずや……。

 

 でも、太古から生きてる悪魔の中に、あのような事実はあらへんかった。

 だから……? その考えを、あっさりと、捨てよったかも知れまへんなぁ。

 

 あえて、その事実を認識しながらも、理解を放棄したん……やろか?

 

 まあ、よろしおす。

 

 なんにしろ、あれはリムルはんであってリムルはんではない、能力(スキル)の一部か何かや……。

 

 この世界の、まだ知り得ない、なにかや。

 

 

 コハクとツキハはリムルの中の存在、『智慧之王(ラファエル)』に気付いた。

 

 気付いて、それが何かは分からなくとも――それを事実と認識し、理解したのだ。

 ある意味、常識に囚われない二人だからこそ、行きついた考えかも知れない。

 

 ――進化の果て――

 

 それはツキハとコハクが目指す、果てしない道。

 寿命の無い魔物だからこそ、技量を磨き、持てる能力(スキル)の進化の果てを目指す。

 

 これこそが元人間であり、この世界に魔物として転生した者の考え方かも知れない。 

 

 そして――そこにリムルも……。

 

 

 こうして、願いは成就され。

 

 リムル『智慧之王(ラファエル)』はスライム状態に戻り、魔素(エネルギー)を使い果たしたので再び深い眠りへと落ち、低位活動状態(スリープモード)に移った。 

 

 スライム状態になったリムルをノワールがそっと抱き上げて、ミュウランの指示で座所へ恭しく運ぶ。

 

 それを見届けたツキハとコハクは、黙ったまま三匹の眷属を引き連れ、何処へと『空間転移』して行った。

 

 その後だった……残った三名の所に駆け寄って来る足音が聞こえたのは。

 

 駆け付けたヨウムやカバル達が目にした物は、そこで寝息を立て寝ている魔物体の姿であった。

 

 口々に大丈夫なのか? もう魔王への進化は終わったのか? など、その場にいるミュウランに質問が殺到する。

 

 何故そんな事になったのか? グルーシスは何が起きたのか理解してなく、ノワールは未だ目の前で起きた、秘術の余韻に浸っていたからなのだ。

 

 仕方なくミュウランが、丁寧に分かり易く皆に起こった事への説明をし、皆が安堵に胸を撫でる。

 

 そこで皆がここに眠る千名を超える魔物を、どう運ぼうかと思案していると。

 

 カバル達やカイジン達が、シュナを運ぶのは自分達だと主張し始め、それは壮絶なる争いに勃発しそうになるが……「こぉの、アホ共がぁ!!」と、エレンの一喝で終息したのだった。

 

 しかし――

 

 そうこうしてる内に、魔物達が次々と目覚め始め……街は喜びに包まれていく。

 

 そんな中――月明かりの中に立つ背の高い鬼人、シオンの姿があった。

 それを、ヨウム達やカイジン達が目にし、更に喜びで溢れていく、街。

 

 

 そうした喜びの影で、能力(スキル)でしかない『智慧之王(ラファエル)』に自我が芽生えた事は、誰にも知られる事はなかった、が。

 

 そう――ツキハとコハクの二人だけは、それに……。

 

 

 

 

 あれから、数日が経った頃。

 

 クレイマンの居城。

 

(ふふふ。西方聖教会と、リムルという魔人を争わせる。中々に良い案ですね。流石はあのお方だ。そう、両者の力を削ぐには最適でしょう)

 

 敵は潰し合わせる、自分が何も苦労する事はないのだと、クレイマンはほくそ笑む。

 

 策も大詰め。

 しかし、最後にしてほんの少し綻びが見え、クレイマンは何とも言えない気持ちに襲われていた。

 

 そう、自身の覚醒の為に用意した魂が、あろう事か全て失われてしまった事。

 忽然として消えた、ファルムス王国の軍勢二万……その行方は(よう)として知れない。

 

 ならば、カリオンのいなくなった獣王国の各地に、まだ弱小種族が多数残ってるはずと、考える。

 

 それらを捕縛連行し、皆殺しにして魂を得る。

 クレイマンはすぐにその考えを実行に移し、狩り魔部隊を送り込んだ。

 後は、吉報を待つだけ……。

 

 だがこの時、その部隊が――ロモコ達によって密かに次々と壊滅させられていることは、知る由も無かったのだ。

 

(さて、魔王達の宴(ワルプルギス)の名目を、どうしますかね)

 

 百年物のワインを入れたグラス片手に、思案に耽る。

 

 テラスに通じる大きな窓のカーテンがふわりと動いた。

 

「クレイマン。派手に動くなっちゅうて、命じられとるんやろ?」

 

 誰もいないはずの部屋に、問う声がした。

 

 クレイマンは慌てもせず小さく笑う。

 

「いたのかい? ラプラス。君も人が悪いな」

「おいおい、気付いてなかったんかい。不用心過ぎやで?」

「クックックッ。仕方ないさ、与えてもらった覚醒の機会を、私の失敗で失ってしまったからね」

「そんなん、気にせんでいいやん。〝番外魔王〟から売ってもろた情報から会長は――そう時を置かずして、東の帝国が動き出す言うとったで?」

「……そうだろうな。だがね、ラプラス。良い案を思いついてね、つい先日それを実行する為に、ある部隊を送り込んだのだよ。カリオン亡き今、あの領土を飲み込み、残ってる者をかき集め――殺す。そうすれば、私の覚醒が成就するはずだと。そう、思わないかね?」

 

 だが、ラプラスの反応は違った。

 

「おいおいおい、ちょっと待てや! そいつは、いくらなんでも強引過ぎるやろ? 覚醒の条件もわからん内に無抵抗の者を殺すんは、やり過ぎちゃうか?」

「ラプラス、君らしくもない。同情か? 弱者は搾取されて当たり前、むしろ感謝すべきだろ?」

「せやけどな、、この前も人間の奴隷を何千人か殺して、無駄にしたばかりやろ? やり過ぎはようない。もっと、慎重に行くべきなんや!」

 

 ラプラスが言う通り、クレイマンは奴隷を購入して数千名も虐殺したが、〝真なる魔王〟への覚醒には至らなかったのだ。

 

「ラプラスの言う通りやで、クレイマン。やり過ぎは、あかんえ」

 

 テラスの窓を音も無く開けて入って来た者の、声がする。

 

「来ましたか、コハクにツキハ。きちんと入り口から入って来て欲しいものですね」

 

 驚きもせずにクレイマンは、コハクとツキハに目を向けた。

 

「来ましたかじゃないわよ、クレイマン。用件はなんなの?」

 

 ツキハが少し不機嫌そうに返す。

 

「単刀直入に聞きます。覚醒への条件はわかりましたか?」

「はっきり言いますけどな、わからしまへん。こればっかりは、何が鍵になるのかは、一応覚醒したうちらでも、わからしまへんのや」

「本当にですか? 貴女達程の者がわからないとは、おかしなものですねぇ」

「あたしらは、いきなり覚醒したからね。それも、不意打ちみたいにね。わかってたら法外な値段を付けて、あんたに売り付けてるわよ」

 

 クレイマンの問いにツキハとコハクは(しら)を切り、クレイマンは慎重に二人の動向を探るも、二人が嘘を言ってる事を見抜けなかった。

 

(体温、妖気の流れ、瞳孔の開き、微妙な表情の変化……。どれも、変化はありませんね。やはり、知りませんか)

 

 クレイマンの洞察力を以ってしても、二人の動向を探れなかったのである。

 経験値の差――五千年もこの世界を生き抜いてきたのは、伊達ではないのであった。

 

「そうですか。まあ、いいでしょう」

 

 あっさりとこの件を終わりにしたクレイマンは、手に持ったグラスからワインを一気に飲み干し。

 ふーっと短く息を吐くと、新しいワインをグラスに注いでいった。

 

 一息ついたクレイマンは、話しを先程の件に戻すように話し始める。

 

「話を戻しますが。覚醒には、魂が必要とわかったのだから。数千で足りぬなら、万を殺せばいいのですよ。その為には――ジュラの大森林に新たな勢力が誕生し、その盟主が魔王を〝僭称(せんしょう)〟したという名目で、魔王の宴(ワルプルギス)を発議するつもりなんだよ」

 

 クレイマンはラプラスと後から来たツキハとコハクにも聞かせる様に、優雅に話していく。

 

「せやな、それで問題はないやろけど。獣王国に攻め入る理由には、弱いとちゃうんか?」

「ふふふ、そこだよ。内情を調査中の私の部下ミュウランが、大森林の勢力の何者かに殺された。その際にカリオンの裏切りに気付いたと、主張するのさ。その根拠は、カリュブディスの一件以来魔国と貿易を結んだカリオンが、いつしか盟主と共謀していたと、ね。そして、部下を殺された私だからこそ、素早く動いてカリオンの領地を占領して、証拠を固めても文句は出ない、という筋書きだね」

 

 ラプラスはクレイマンの言葉を、吟味する。

 

 獣王国に隣接するミリムの支配領域。

 ()の国には面倒事を好む者などいない。

 ならば、魔王ミリムが、魔王カリオンを打ち倒したという事実が、クレイマンの言葉を裏付ける証拠となる。

 

 加えてクレイマンが、ミリムに調査を申し出たという事なら……。

 クレイマンの軍勢が魔王ミリムの領土を抜けて、獣王国に攻め入ってもどこからも文句は出ないだろう。

 そうなれば、証拠を捏造するなど容易い事。

 

 この計画には、なんら不自然な点はない……が。

 

 今動くべきなのか? と。

 

(ちょいと、焦り過ぎなんと違うか? クレイマン。それに、クレイマンは気付いてないかもしれんが、姐さんらがほんまに大人しくしてると、思おとるんか? あの薄ら笑い、余りにも不気味やで……)

 

 ラプラスは、壁にもたれ掛けながら話を聞いてる二人を気にしながらも、クレイマンの考えを変えるのは難しいと判断した。

 

 そしてふと、何とは無しに聞き逃していた言葉を、思い出す。

 

「確かにな、それやったら筋は通るやろが……って、ちょい待ち! ミュウランちゃん殺されてもうたんかいな!?」 

 

 驚き問い返すラプラス。

 

 クレイマンがミュウランを軽視していたのは、知っていた。

 

 ラプラスはクレイマンの配下の中でも五本指に数えられる大幹部として、ミュウランを何かと重宝していた。

 後方支援に優れ、あらゆる状況に対応出来る魔導師であり。

 ラプラス達の相談にも、嫌な顔をしながら応じてくれたりもしていた。

 何よりも、ミュウランはとても常識があり、その点を高く評価していたのだ。

 

 だが、クレイマンは何事も無いように答える。

 

「ああ、君が何を残念がってるか知らないけど、ミュウランは死んだよ」

「そっか、死んでもうたんか。間違いないんやな? クレイマン」

「ああ。私が彼女に埋め込んでいた、〝支配の心臓〟が壊れたようでね。預かっていた本物の心臓が灰になったのさ。それに、きっちり殺せとあの者に言ったのは、そこの二人なんだが、ね」

「なんやて!?」

 

 クレイマンの言葉にラプラスはツキハとコハクを鋭い目で睨むも、妙な違和感が脳裏を過った。

 

(きっちり、やと……。何でや、何でただ殺すのに、きっちり殺せと言うんや。おかしいやないかい、何の意図があって、姐さん等はそんな事言うたんや?)

 

 疑問が疑問を呼びラプラスは。

 

「なあ、姐さん達。何できっちり殺せとか、言うたんや?」

 

 その問いにコハクが答える。

 

「何でもこんなもあらへん。あの状況では逃げられへんし。掴まってえらい拷問されるより、なんもかんも喋ってきっちり殺される方が、よろしおすやろ? それにうちらが助けたら、クレイマンの策略が大幅に狂いますからなぁ」

「せ、せやかて、なんか手があったんちゃいますか?」

「あらへん。うちらがあそこで暴れたら――それこそ、えらい事になりますよって」

「しかし――」

「――ラプラス。あんさん、うちらと戦争したいんか? クレイマンの計画を御破算にしたら、あんさん等は黙ってまへんやろ? なんもかんも巻き込んで戦争したいんなら、それはそれでかましまへんけど、な」

 

 戦争しても構わない、その言葉を嬉しそうに笑みを浮かべながら(のたま)ったコハクにラプラスは、底知れぬ恐怖とは別の物に襲われた。

 

 それは、闇の中からそっと自分の肩を叩く何かに似た感覚。

 

 ラプラスの背中に、氷の精霊の吐息が吹き付けられたかのように、凄まじい寒気が走る。

 

 そして会長の言った言葉を思い出す。

 

 あいつ等は魔王だった頃の私でも、得体の知れない魔物だったと。

 魔王ではないのに、魔王と同格の力を持つ魔物。

 

 太古の魔王ギィが認めた存在であり、魔王ではなくとも野放しには出来ないと――〝番外魔王〟の地位を与えた魔物。

 

 謎の多い眷属に、傭兵商会という組織の表にいるのがツキハとコハクだけ。

 構成員が一体何人いるのか? 更に裏の組織としての顔も持つが……。

 それらを含めて、何一つ敵に実態を掴ませないしたたかさ。

 

 それが今や、〝真なる魔王〟へと、覚醒を果たしている。

 

 はっきり言ってまともに相手をしたくない相手だと、しみじみ言った会長の言葉。

 

(戦争やて? なんちゅう嬉しそうに言うんや……。せやけど、なんか引っ掛かるんや、なんやわからんもんが)

 

 ラプラスが疑問に葛藤してると。

 

「そこまでです、ラプラス。いいのですよ、彼女の役目は終わっていたし、頃合いだったのですよ」

「クレイマン! 有能な部下が死んだんやで? もうちっと悲しんでもいいんやないか?」

 

 ラプラスは余りにも部下に対して淡々と話すクレイマンに、少し忠告を含めた事を言う。

 

 ラプラスは思った。

 

 前はもっと気のいいヤツだったのにと、何故か魔王になってからは、段々と(ゆが)んで来てるんじゃないかと思う。

 

 しかしそれはクレイマンに限った事では無かった。

 何故なら自分の仲間達、中庸道化連は皆が皆、どこか(いびつ)に性格がねじれている。

 

 ラプラスも同様で、クレイマンに文句を言える資格はない。

 それでもラプラスには、以前のクレイマンと違う様に思えてならなかったのだ。

 

 そして、〝番外魔王〟の二人もどこか歪んではいるが、別のベクトルで歪んで、どこか突き抜けてしまってるんちゃうか? と思わざる得なかった。

 

「ハハハ、君は優しいなラプラス。この前ティアに言われましたよ。道具は大切に扱えと。君が教えたそうですねラプラス。だからこそ、その道具を壊した者に責任を取ってもらわないとね。それが道具への供養にになるというもの、そうだろう? ラプラス」

「せやな……せめて、その死を無駄にすることは、やめてやりたいわな」

 

 そこまで言うとラプラスは短い息を一つ吐く。

 

 その時、コハクが何かを感知したかのように、尻尾をピクンと短く跳ねさせた。

 同時に、コハクはツキハと顔を見合わせ――いきなり「急用が出来た!」とツキハが告げ。

 

 テラスに出て一気に上空まで飛び上がると、そのままドンッという衝撃音だけ残し、居城から飛び去って行った。

 去り際にクレイマンがコハクに、「あの件はよろしくお願いしますよ」と言い、コハクは「わかりましたえ」と返し、ツキハを追って同じく飛び去って行った。

 

「いきなりどうしたんや? 姐さん達」

「さあ? わかりませんね。なんせ、あの二人ですからね」

 

 ラプラスの問いにクレイマンは、さもありなんといったように返す。

 

 そこでラプラスは気持ちを切り替え、クレマンの策に問題がないか考えていく。

 

「そう言えば、クレイマン。魔王の宴(ワルプルギス)やけど、文句はでるんちゃうか?」

「まあ、出るでしょうね。でも、ミリムを意のままに操れる今、文句があるなら相手になってやればいいのだよ」

 

 そう言い放ったクレマンの顔は、確かな自信と歪な欲望に塗れていた。

 それを聞いたラプラスは慌てて、蒼褪め窘める。

 

「ちょい待ち、その考えは危険やで!? 〝番外魔王〟が、ミリムは暴走する可能性があるて言うてたんや。いくら会長が作った魔宝道具やから言うて、油断は禁物やで? なんせ、あのミリムと何度もやりあってる〝番外魔王〟が言うたんやで?」

「大丈夫だラプラス。ミリムは完全に私の支配下だよ」

「それは聞いたけどな、でもな太古の魔王なんやで。抵抗(レジスト)も半端ないんちゃうんか? 試作品の時に〝番外魔王〟の姐さんが、あっさり抵抗(レジスト)したやろが。下手に魔王ミリムを頼るのは、自殺行為やと思うで?」

 

 必死に忠告するラプラスだが、クレイマンは聞こうともしなかった。

 

「ミリムが私の完全支配下だから、妬んでるのかね? ラプラス」

「違うて! 切り札は最後まで隠しといて、ここぞという時に使ってこそ意味があるんや! クレイマン」

「黙りなさい、ラプラス。あの人の望みは、私が覚醒する事です。ミリムを従えた今、覚醒の暁にはあの〝番外魔王〟すら従えて見せますよ」

「待てって! 〝番外魔王〟はあかん、あの姐さん達だけは刺激したらあかんのや! どこに何が潜んでるのか、ほんまにわからんのやで。あの人や会長からの命令は、大人しゅう待機しとれって話やったやろ? ええか? お前が考えなあかんのは、無事に魔王の宴(ワルプルギス)を乗り切ることや!」

「私を信用しろ、ラプラス。今のままでは、あの方の望みは達成できない。今が、今こそが攻め時なのだよ!」

 

 クレイマンはそう言い放ち、ラプラスの口を封じた。

 

「なあ、クレイマン。最後に聞くけど、ほんまに自分の意思なんやな?」

「何をおかしな事を言う? 私に命令出来るのは、カザリーム様とあの方のみ。それは君が一番知っているだろう? それに、〝番外魔王〟の事は、遊びのついでみたいなものだよ」

 

 クレイマンが問題ないと言う以上、ラプラスにはそれ以上言う気はなかった。

 

「わかった、ならええわ。ワイはもう行くけど、クレイマンも気を付けるんやで。〝番外魔王〟は遊びのついでで、何とかするもんやないで。ほな、せいぜい油断せんようにな(クレイマン……遊びのつもりが、遊ばれてる事もあるんや、で)」

 

 そう忠告を残しラプラスは、クレイマンに別れを告げた。

 

 

 一人になったクレイマンは――

 

(私が私の意思でないと? 何者かに影響されてるとでも言いたいのか? 馬鹿馬鹿しいにもほどがある。それとも……私がミリムの力を手に入れ、〝番外魔王〟すら手駒に使える私に、嫉妬してるのか? アイツらしくない……)

 

 クレイマンは基本、自分の力を過信しないのだが。

 しかし今、ミリムの力を手に入れ、意のままに操れるといった自負が、クレイマンを大胆にさせていたのだ。

 

 それ故に、誰よりも信じていた友の言葉を、嫉妬であると切って捨てたクレイマン。

 

(――腹立たしい!)

 

 いきなり右手に持っていたワイングラスを握り砕いた。

 まるで飴の模倣品のように砕けたグラスの破片は、細かい欠片となり、ポタポタと滴るワインと一緒にパラパラと床に音を立て落ちていった。

 

 無傷の手を、パッパッと振ると手に付いたワインが綺麗に消えて無くなり、床に落ちた破片もクレイマンの妖気で消える様に霧散した。

 

 そして、その手で懐に手をやり、一枚の仮面を取り出した。

 

 それは笑みを(かたど)った仮面である。

 

 大事そうにその仮面を、そっと撫で

 

 心配するな ラプラス

 私は、きっと覚醒して見せる

 

 

 思いが言葉になり、零れ落ちていく

 

 




 二十八話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!





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