忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
ツキハとコハクがこの世界に来てから、数百年以上経っていた。
そして――
度重なる人間との争いで、とうとう討伐対象にされたツキハとコハク。
ツキハは「ま、いっか! めんどくさ」ってな感じで、来た奴ら皆殲滅し。
あまりにしつこく討伐に来た戦士団に二人は、「うぜぇーー!」「しつこいおすえ!」とマジ切れして――
勢いあまって、小国一つを滅ぼしてしまったのだ。
爆炎渦巻く小国の中心地に
そんな中、原初の魔王が二人の前に現れる。
「よお お前ら 何もんだ?」
「ほえ? だれ あんた?」
「はえ? あんさんは だれおすえ?」
それは、赤い髪をした魔物。
「オレか? 魔王、魔王ギィ・クリムゾンだ」
「魔王ギィ・クリムゾン? あぁー! また、めんどくさいのが、来たもんだねぇ」
「魔王ギィ・クリムゾンおすかぁ。えらい、厄介な魔物が来はったなぁ」
二人は、灰燼に帰した小国の跡地でいきなり現れた魔王ギィ・クリムゾンに警戒を示しながらも、いつ戦闘になってもいいように、間合いを計っていた。
「で、もう一度聞く。てめえら、何もんだ?」
「あんたさぁ、〝解析鑑定〟もってるんだろう? あたしらのこと、もうわかってるんじゃないの?」
「ふっ、くくく。口の減らねえ野郎だな」
「野郎、違いますえ。せめて、小娘と言っておくれやす」
ジリジリと間合いを詰める二人にギィは、笑いながら警告を告げる。
「ハッ、ハハハハッ。いいな、お前たち。このオレにそんなふざけた口を利いた奴は、あいつ以来だな。ふん、幻魔……か。ほおぉ、
「へえ~ 魔王が人間の味方するの? おもしろい魔王だねぇ」
「先に手え出したんは、人間おすえ。うちらは、それを撃退しただけや。言い掛かりは、やめておくれやす」
ツキハとコハクは、ギィを挟む様に位置取ると。
コハクが先に仕掛けた。
「死になはれ! 忍魔術・
黒雷と爆炎の同時発動。
ゴガガガガガガ! 激しい黒雷が降り注ぐ轟音が空間を響かせ、急激に圧縮した酸素を気化燃焼させた気化爆発がギィを襲った。
辺りは急激に蒸発した大気の水分が、白い水蒸気の煙と化し。
地面を焼き焦がした黒雷の熱で、ギィの周りは赤く焼けただれた大地が陽炎で揺らめきながら、ガラス化した地面が異様な輝きを放っていた。
しかし……。
コハクの現最強忍魔術を避けもせず、軽い笑みを浮かべ、魔王ギィは立っていた。
「ほぉ、このオレに傷を付けるなんて、大したもんだな」
「傷? 腹立ちますなぁ。それ、カスリ傷にもならしませんえ?」
「いやいや。生まれてたかだか数百年程度しか経ってない魔物が、このオレの右腕にカスリ傷を付けたんだぜ。素直に褒めてるんだがなぁ。クククク」
「ちっ……(かなわんなぁ。これ、あきまへんわ)」
(あー こいつめんどくさっ。ってか、これマジにヤバいわぁ、この魔王……。あのコハクが言い返さないで、舌打ち一つで黙るなんて、ヤバすぎでしょ!!)
それでもツキハは仕掛けていく。
天牙影千流・柔術で。
魔王ギィの前に瞬歩で高速移動をして、右足でギィの左膝に
この世界には体内の魔素を練って、闘気となす
ツキハとコハクは忍びの頃に体内の気を練って、拳の衝撃波で鎧を貫通させる打撃技術を持っていた。
それ故、この〝気闘法〟もすぐに体得して、〝魔気闘法〟なるものを編み出した。
それに
あっさり内回し蹴りを、魔王ギィは軽々とガードする。
(あの切り返し蹴りに反応して、〝魔気闘法〟の打撃を受け流すなんて、流石魔王ってか? でも、〝天牙影千流〟の怖さはここからなんだよ)
魔王ギィが内回し蹴りをガードした右手を、ツキハは左手で手首を掴み。
更に右手で握手するように魔王ギィの右手を掴み腕をしならせ、〝闘気〟を波のように打ち込み、斜め下に右腕を引き落とした。
ゴギャッ!
波のように伝わった〝闘気〟が腕から魔王ギィの延髄へと伝わり、首を折り。
がくっと上半身を下げ魔王ギィの水月に、トドメとばかりに零距離打撃。
通称、〝鎧通し〟をお見舞いする。
〝天牙影千流・柔術打技
右半身の状態から、右拳の縦拳で水月に振れるくらいに添えて。
後ろ左軸足から、螺旋のように魔闘気を流し込んでいった。
凄まじい轟音が大気を斬り裂き、鳴り響いた。
ツキハの中心から半径十メートルくらいが、クレーター状にへこみ土煙を上げる。
その衝撃波は右拳から魔王ギィの背中を抜けて、内臓はグチャグチャになり、即死コースのはずであった、が……。
魔王ギィは、その場から地面を抉り、僅か数メートル程動いただけでツキハの〝鎧通し〟に耐え。
「なるほど。闘気を独自の気に練り上げ、オレに放ったか。魔闘気、か……悪くない。並みの魔物なら、一撃で葬れるな。クククッ」
蔑みでも煽りでもなく、口端に嬉しそうに笑みを浮かべる、魔王ギィ・クリムゾン。
「ちっ……これが効かないとなると、厳しいな。えっ!?――」
魔王ギィがパチンと指を鳴らすと、ツキハとコハクの立つ地面の真下から、凄まじい魔力爆発が起こり。
二人は、即死してしまう。
爆炎と砂塵が薄らぐ中、魔素粒子が渦を巻き、ツキハとコハクが復活して来る。
それを見た魔王ギィは、更に嬉しそうに笑みを深めていく。
「くそ― 反則級の強さだな、魔王って奴は。どうしようかね、こいつ」
「どもなりませんなぁ。打つ手がありまへん、悔しいおすが。でも、逃げるはありまへんなぁ」
復活した二人は、今の自分達が敵わないとわかり、逃げに徹するかと思えば、まだまだやる気は衰えてなかった。
「ほお。死んでも復活出来るのか。どれ……」
〝解析鑑定〟でツキハとコハクの能力を見た魔王ギィは、ある事を思いつく。
「そうかそうか。ハハッ! 面白い、テメエらもオレたち
「なっ!?」
「なんおすっ!?」
二人が声を発したその時――
瞬殺された。
どうやって殺されたかもわからず、ツキハとコハクは〝魔核〟を砕かれ、きっちり百年死んだままにされた。
幾つもの季節を迎え。
ちょうど百年経った頃、ツキハとコハクは復活して来た。
「ああぁぁー めちゃくちゃ暇な百年だったわ」
「ほんまに、腹立ちますなぁ。行きますか?」
「いや。ちょっとヴェルドラ探して、手合わせの相手してもらうわ」
「ヴェルドラはんおすかぁ。仕方ありまへん、うちも行きますよって」
「じゃあ、いこうか」
「へえ、いきますか」
ヴェルドラを探し当て、手合わせを頼むと、ヴェルドラは笑いながら「魔王ギィに喧嘩を売り行くのか? くわっはははは。無謀を通り越して、本物のバカだぞ、お前たち。しかし、おもしろい! 見事、一矢報いて見せるがいいぞ」
豪快に笑い飛ばし、二人の相手をするヴェルドラ。
一年程ヴェルドラと手合わせを繰り返した、ツキハとコハク。
そして、魔王ギィ・クリムゾンのいる北の居城へと――
無謀なバカ二人が、殴り込みを掛けた。
「うらああああああ! 出てこいやぁあああああ! 魔王ギィ・クリムゾンンンンンンンーーーー!」
「出て来なはれ! その首、落としてやりますえええええぇーー!」
居城の正門の前にいる、手下達をボコりながら突き進む、ツキハとコハク。
正門を破り、居城の中にはいると……そこには。
ミザリーとレインが待ち構えていた。
「なんだ? こいつら」
「魔王の愛人おすか?」
ミザリーとレインを前に立ち止まり、二人はこてりと首を傾げ、言葉を吐いた。
それを前に、ミザリーとレインはやれやれと言った顔で、同じく言葉を吐く。
「こいつらですか? ギィ様に歯向かうバカは」
「みたいですね。さっさと片付けましょうか、レイン」
「ですわね、ミザリー」
言葉を吐くと同時に四人は動いた。
その戦いは激しく、周りにいる手下達も巻き込んで、激化を極めた。
しかし、ミザリーとレインは悪魔族の中でも、上位に位置する原初。
二人は善戦をするも、敵うはずも無く、ミザリーとレインにきっちり殺され。
また百年死んだままに、された。
「くそおおおおおぉ また来るからなぁああああああ!」
「またきますえええええええぇ!」
最後の断末魔を残し、ツキハとコハクは魔素に立ち返り、その場から消滅した。
ミザリーとレインの背後に来ていたギィが、軽やかに口を開く。
「なあ、面白い奴らだろ?」
「ギィ様の手を
「そうですね。レインの言う通り、弱いですね」
「そうかあ。最初にあった頃より、格段に強くなってたぞ。ククク」
「「?」」
「まあ、いい。次の百年後の襲来には、気を付けておけよ」
「「えっ?」」
「そう言う事だ。ククッ」
ギィの言った言葉に、?を浮かべながら聞いていた二人は、その意味を思い知る事になる。
二回目の百年後の復活。
ギィの居城近くに復活して来た二人は、ブリザードが吹きすさぶ環境に悪態を付きながら、〝空間転移〟していった。
「百年後も変わらず、さむいわ! こんなところに居城おくとか。バカだろ、魔王ギィは!」
「ほんま、かなわんなぁ。なんぎなとこに居城とか、バカおすか?」
小川が流れる所で適当に腰を下ろし、原初に対する案を練りだしていく。
「あいつら、〝核撃魔法〟とか言うの使ってたな。あの、なんだ、ミザリーとレインって言ったっけ?」
「そうでしたなぁ。あの女二人、
「ねえ、コハク」
「なんおす?」
「あんたさ、あの〝核撃魔法〟っての、使えたりする?」
「う~ん どやろなぁ……かなり精密な魔力制御がいりますから、割と
「難儀か……ってことは、やっぱり無理かな?」
「ふふ。うちを誰だと思てますの?」
「だよね。忍びの頃は、稀代の呪符忍術使いと言われたあんただ――できるよね?」
「まかせなはれ。きっちり会得して見せますえ」
「うん、まかせた」
「ところで、あんさんはどうしますの?」
「あたしか? 得物を探す――とびっきりの魔剣クラスを、ね」
そこまで話すとツキハは、ニヤリと笑みをこぼす。
「魔剣おすか~ あんさんは、剣を持ってこその
「いつかヴェルドラが話してだろ? かなり強力な魔剣が眠ってる大陸があるって」
「ああぁ、あれおすな。今から行くおすか? ヴェルドラはんの
「相変わらず他人事の様に言ってて、コワい女だよねぇ、コハクは。うくく」
「なめたらあきませんえ。うちの権能〝
「おおぉ、コワいコワい。くくっ。じゃあ、さっそくヴェルドラの所に行こう」
「ふふふ。じゃあ、飛びますえ」
ヴェルドラの所へ〝空間転移〟して来たツキハとコハクを見てヴェルドラは、「また復活に、百年掛かるまで殺されて来たのか。うわっははははは」と腹を押さえて大笑いをし、ツキハが以前話していた魔剣の在りかを教えてくれと頼むと。
「ん? おお、あの魔剣の事か。ここから、遥か西へ行った大陸の一際高い山脈にある、古い朽ちた城の中に、って……おい、ツキハ……。ふむ、あの魔剣は魂を喰らう呪いがあると言うのに、最後まで話しを聞かぬとは。まあ、よいか。あいつなら、大丈夫であろう」
ヴェルドラが場所を言った瞬間には、既に空中に飛び上がり。
一瞬で音速を突破し、ドンッ! と言う衝撃音だけ残して消えていた。
やや呆れ顔で心配するも、まあ大丈夫だろうとツキハとコハクが飛び去った空を眺めていた。
魔剣の眠る大陸に来た二人は、方々の山脈を探し、朽ちた古い城を見つける。
朽ちた城の深い地下に眠る魔剣を見ると、禍々しい
それを見たツキハがコハクに、めんどくさそうに話す。
「うあぁ~ ねえ、コハク。これさ、呪いかかってるよね? めっちゃたちの悪い呪いが」
「ですなぁ。これ、多分魂が喰われるおすな。それくらい、ヤバいものですえ」
「あぁーもう、ヴェルドラー! 呪い掛かってるなら、先に言ってよねえ。うぬれー」
さっさと飛び出したツキハに、溜息を付きながらコハクが言葉を投げる。
「はあぁ。なに言うてますのん。あんさんが最後まで話しを聞かず、飛び出したんやから。仕方ありまへんえ」
「うっ……それは、そうなんだけど……ぐぬぬ」
「しょうがありまへんなぁ。うちが結界だけは解除したりますから。後は自分で、なんとかしなはれ」
「えっ、ああ……おっしゃる通りです。ごめん、頼むよ。コハク」
流石に最後まで話しを聞かなった自分が悪いと思い、ツキハは結界の解除をコハクに頼んだ。
厳重に張られた結界をコハクが解除すると、台座には刃渡り百三十cmのバスタードソードが置かれていた。
おもむろにその剣を手に取り、鞘から抜くと。
呪いが発動して、ツキハの魂を吸収に掛かって来た。
ふはははは また 愚かな 者が 我を手に 取るか さあ 我に魂を差し出すのだ
ぬおおおおお なあにが、魂をよこせだ! ふざけんな!
矮小なる魔物よ 汝が魂を 差し出せ そして 我が一部となるのだ
はあぁっ!? よこせだあぁー? あたしの魂を喰おうなんて いい度胸だわ 逆に食い散らかしてやんぞ!
なっ!? やめろ! 我を喰うな! 離せ!
やなこった てめえ 呪いと言うか 相当な未練を残した残留思念だな?
それも かなり 強い魔人の残留思念だよ、な?
ふふふ いいな 気に入った お前 あたしに喰われろ そして 従え!
やめろ! いや やめてください お願い 喰わないで お願いします!
うひひ もう遅いわ ……へえ~ 元は破滅の魔剣 レーヴァテインか
や……め……ろ や………………
呪いと称した残留思念を食べ尽くしたツキハは、魔剣をかがけて、ニヤリと薄い笑いを口元に浮かべる。
「はい、ごちそうさま。あんま、美味くないな。さてと……ふむふむ、へえー この魔剣、〝
ツキハの思考イメージを受け取ったレーヴァテインは、眩い光を放ちながら形状を変化させていき、やがてそれは――
忍びの頃に使ってたい打刀へと変化し、同時に鞘も黒塗りの鞘と変化した。
「あらま。それ、転生前に使ってた打刀やおへんか。あの魔剣がこんなになるなんて、おもろいおすな」
「ふふふー やっぱり、打刀じゃないとね! 今から、この剣は――妖刀・
「あら。名前も、忍びの頃に
ツキハは虹色に輝く刃紋を眺め、嬉しそうにヒュヒュッと軽やかに刃を振ると、青白く煌めく剣閃がツキハの周りに走る。
一通り刃を振り、鞘に納めると、腰に三重に巻いている角帯の、二重目と三重目の間に刃の方を上に向け差す。
鞘に巻いてある
これは、咄嗟に素早く鞘ごと帯から抜き取れるようにした、ツキハの好むスタイルだった。
〝天牙影千流〟は帯刀からの抜刀に加え、左手に鞘を持ち、右逆手抜刀もする流派であり、
その剣技は千差万別、まさに字の如く型にはまらない流派で、戦国乱世で
ツキハとコハクはすぐには魔王ギィの居城には向かわず……。
十年程、己の鍛錬に日々を費やした。
百年過ぎても来ない二人に、ミザリーとレインは、もう来ないんじゃないかと思い、復活から十年経った頃。
そのバカ二人が、懲りずに殴り込んで来た。
ミザリーとレインは、前と同じように相手をしたが……。
たった百年と十年前とは違う強さに驚き、ミザリーはコハクの放った積層型魔法陣に囚われていた。
「核撃魔法に加え、<神聖魔法>〝
「うふふふ。うちの想い魔は、一筋縄ではいきませんのや。だから、
「あぁ……だから、それで<神聖魔法>を会得したと……バカは怖いですね」
「まあ、よろしおす。うちの勝ちで、かまへんやろ?」
二本指を立てた右手を真横に切り、積層型魔法陣を消すと。
先程とは打って変わって冷徹な笑みで、ミザリーに告げた。
「まあ、いいでしょう。今回は、負けにしておきます。次は、確実に――殺しに行きますよ」
「ふふ、やってみなはれ。次に相対するうちは、今日より強いおすえ」
お互いに底冷えのする
一方、ツキハもレインと相対していた。
下級悪魔族の十五人がレインの前に、守るように入って来た。
「レイン様。ここは我らに、お任せを!」
「あなた達では、敵わないわよ。引きなさい」
「たかだか、数百年しか生きてない魔物な――!?」
左腰に差した打刀の鞘に左手を掛けて、怠そうに見てたツキハが、いきなり動いた。
「ねえ、ぐだぐだ言ってる間にさぁ、掛かって来なよ。じゃないと、死ぬよ?」
残像をその場に残し、レインの方に向いて話していた悪魔族の一人の前に瞬歩で移動したツキハが、めんどくさそうに言葉を吐き、
バッと血飛沫を上げ、その悪魔族の腰から上の上半身がずるりと横にずれ、どさりと大理石で出来た床に内臓をぶちまけながら転がり落ちる。
そこから返す刀で、側にいた五人をあっという間に斬り伏せ、刃を鞘に納めると。
角帯から鞘を少し前に出しながら、刃を三寸(約九センチ)ほど抜き、素早く鞘に納めた。
チンッ! 軽やかな金属音が鳴り響いた。
〝天牙影千流・抜刀術
鍔鳴りの音が響いた瞬間に、ツキハを中心に不可視の空間斬撃が、円形状に広がっていく。
音が聴こえた刹那にレインは、〝多重結界〟を自身に張り巡らせ、対処が遅れた下級悪魔族の残り九体を空間斬撃が斬り裂いていく。
その空間斬撃はレインの〝多重結界〟を半分以上斬り裂いていた。
「そうですか……これが、ギィ様のおっしゃっていた事ですか。えっ!?――」
レインは十メートル離れた所にいるツキハが、右半身で前に出した右脚を折り曲げ腰を低くし、左足は膝が付く程に後ろに伸ばし、鯉口を切った時雨の柄に右手を添えたまま構える姿を見たと同時に、それは来た。
〝天牙影千流・抜刀術
ツキハの左足が床を蹴り飛ばした瞬間。
凄まじい轟音が城内に響き渡り、まるで爆破されたかのように床が抉れ、粉々に砕け散った大理石の床が辺りに降り注いだ。
ツキハの忍びの頃に得意とした飛び込み抜刀術を、魔物の身体能力でやったのだ。
レインまで一直線に抉られ伸びた線、それは巾二メートルであったが、ツキハの超高速移動の衝撃波で、左右にいた下級悪魔族達がミンチになり、
プスプスとその線の軌跡は大気の摩擦熱で真っ赤に焼け、焦げた臭いを発し、レインの眼前に一瞬で飛び込んで来たツキハは、レインの右脇腹の胸の辺りで刃を止めていた。
真横に振り抜けば、レインの〝魔核〟を両断する位置で。
レインは一度軽く目を閉じ、すぐ開くとツキハに言葉を投げた。
「一つ、聞いてもよろしいですか?」
「いいよ」
「百十年前とは、明らかに強さが違うのですが――進化したのですか?」
「進化? 違うよ。原初のアンタらに比べて、あたしとコハクは劣る。だから、十年間技の鍛錬に日々を費やしたんだよ。少しでも、あんたらに
「鍛錬に日々を費やす……理解できませんね。しかし、それで貴女達が強くなったのは、認めざるを得ないようですね。ギィ様が、お待ちです。どうぞ、こちらへ」
その言葉にツキハは刃を納め、レインの後ろに付いて歩き出す。
同じようにコハクもツキハの横に来て、一緒に歩き出す。
ギィの居室前に着き、レインとミザリーが大きな扉の前で左右に立ち、扉を手で指し示すと、ギィイッと乾いた軋む音を立てながら扉がひとりでに開き、ツキハとコハクは中に入っていく。
豪華な椅子に足を組み座っている、ギィがいた。
そして、その傍らに佇む、一人の女性。
その女性を見た瞬間、ツキハとコハクの目がカッと見開かれ、スーッと細くなった。
『コハク、あの女』
『ヴェルドラはんの、姉君おすな』
『どっちだろ?』
『ここは氷の法則が強いおすから……ヴェルザードはんどすな』
『ヴェルドラが一番怖がっていた、あの姉君かぁ。マズいな……あたしら一瞬で消し飛ぶわよ!』
『ほんま、命が残ってたら、めっけもんどすな』
〝思念伝達〟で話していた二人を見透かすように、ギィが口を開いた。
「よく来たな、お前ら。十年程遅かったが、ミザリーとレインを負かすなんて、ほんと――おもしろいな! お前ら。 あぁ 横にいるのは、〝竜種〟である、ヴェルドラの姉、ヴェルザードだ。今日は、ヴェルドラとつるんでるお前らを、一目見たいと言ってな。だから、ここにいる。心配しなくていいぞ。口は出さないで、見るだけなんだとよ」
「はあ……」
「へえ……」
ギィの言葉に二人は気の抜けた返事をして、次の言葉を吐く。
「でさ、また――
「いや、もういい」
「いいとは?」
ツキハの問いにギィは、意味深な笑みを浮かべ、二人に告げた。
「なあ、お前ら。魔王を名乗る気はあるか?」
ニヤリと告げる言葉に、二人は。
「魔王かぁ。う~ん めんどそうだから、いいかな」
「やめておくれやす。そんなめんどいこと、堪忍え」
いかにもめんどくさそうにツキハは答え、コハクも嫌そうに返した。
それを聞いたギィは、いきなり大笑いしながら「ハッハハハハハ! 魔王が面倒くさいとか、ほんと面白いな。お前たち!」
膝をパンパンと叩きながら、人仕切り笑うと。
急に真面目な顔付になり、魔王覇気を放ちながら二人に、究極の選択を迫る
「そうか……。だがな、お前らの力は無視出来ないくらいに、強力になって来てる。更に年月を重ね、進化などされると、勢力バランスが崩れる恐れがある。それは、色々とマズいんでな。選べ――魔王になるか、オレに殺されるか」
ギィの言葉に、二人が出した答えは。
「あぁー そう来るのね……いいや、
「仕方ありまへんな。精一杯、抗ってやりますえ。只では、死にまへん!」
ツキハは時雨を抜き放ち、左半身を取り、刃を上にして真横に構え、切っ先をギィに向けた〝霞の構え〟を取る。
コハクは、二本指を立て後の指は握った右手を眼前に構え、左手の平は上に向け、そこに〝
「おしいな。結構、お前らを気に入ってたんだがな」
椅子から立ち上がったギィの右手には、いつの間にか現れた長剣が握られていた。
「じゃあな」
「「!?」」
そう言った刹那――
ツキハとコハクの間に現れていて、ツキハの首に刃が振り降ろされたところで、声がした。
「待って、ギィ」
その刃はツキハの首の皮一枚のところで、止まった。
魔法の発動も感じず、瞬動の気配も無く、更に『空間転移』の予兆も感じず、二人はギィがいきなり現れた事に驚き、一歩も動けず、口を開く事も出来なかった。
そう、声を発したのはヴェルザードであり、それが無ければ二人は――
確実に殺されていたのだ。
死んでも復活出来る――
だが、心核を砕かれては、それもかなわないのだ
たとえ復活出来ても、それはもうツキハとコハクではない、何かになるのである。
「はあ……ヴェルザード、口は出さないんじゃなかったのか?」
「そうね……でも、気が変わったの。ちょっと提案があるのだけど、いいかしら?」
「仕方ねえな、好きにしな」
ギィは長剣を消し去るように何処へと納め、その場で腕を組み二人を見て、ヴェルザードの言葉を待つ。
「ねえ、貴女達。魔王を名乗るのが嫌ならば、魔王を名乗らない魔王に、なりなさいな」
「魔王ではない、魔王?」
「ええ、そうよ」
「それは魔王ではないが、魔王と同じという事おすか?」
「そうよ。魔王達は、たまに会合と称してここに集まることがあるのだけど、貴女達は出なくてもいいわよ。正規の魔王ではないもの。でもね、野放しには出来ないの。そうね……ギィがたまに貴女達を呼び出すから、その時は必ずここに来ること。魔王たちの会合で決まった事や話の内容は、ミザリーとレインが説明すると思うわ。それと――やりすぎは厳禁。どうしても大暴れしたい時には、ギィに相談しなさいね。後、他の魔王の領域も聞いておくこと――」
相談と言う言葉を聞いた時に、ギィが苦笑いを浮かべヴェルザードに言葉を投げる。
「おいおい、相談って、それ面倒じゃないか?」
「ふふ。ギィ、あなたもこの子達を気に入ってるんでしょ? 行く末を見るのも、よい暇潰しにならなくて?」
悪戯っぽく微笑みながらヴェルザードは言い、それにギィは「しょうがねえな」と返す。
「どう? この提案を受けてみるかしら?」
にこやかに微笑みながら二人に話すヴェルザードだが、その微笑には凄まじい殺気が込められており、今まで二人が感じたことの無い、殺意であった。
是非も無し。
現時点でツキハとコハクには、抗う術も、勝つ手段も無いのである。
二人はゆっくりと頷き、それにヴェルザードは殺意を消した笑みで「ふふ、いい子ね」と返す。
この時点でツキハとコハクの魔王ではないが魔王と言う、何とも面白い立場が出来た。
二人はいつか、ギィとヴェルザードに挑もうと、心に決める。
だが、ギィとヴェルザードはそれも織り込み済みで。
むしろそれを、楽しみにしていたのだ。
そう、二人に取っては遊びみたいなものであり。
後に、想定外にツキハとコハクが強くなるのだが、それはそれで、楽しむ二人でもあった。
ギィの現状いる魔王の説明と領地を聞き、ツキハとコハクが居城を後にしようとした時。
ツキハとコハクを呼び止めた。
「おい。ツキハ、コハク」
「なに? 魔王様」
「なんおす?」
「お前らに、オレの事をギィと呼ぶことを許そう。これから、敬称無しでいいぞ」
「へえぇ。わかったよ、ギィ」
「そうどすか。ギィ」
「じゃあな、ツキハ、コハク」
「じゃあね、ギィ」
「ほな、また。ギィ」
別れの挨拶を交わし、ツキハとコハクは『空間転移』でギィの居城を去った。
これから後、度々ギィの頭を悩ませる事になるのだが。次第にその頭角を現していき、人間達や他の魔物達に――
〝番外魔王〟と呼ばれるようになる。
「ねえ、コハク。ギィがいきなり現れたの、なんのスキルか見当つく?」
「さあ……わからしませんなぁ。魔力、魔法、闘気、空間転移の痕跡は、なんも感じられなかったおすえ」
「そうかぁ……なんだろうね、あんな事が出来るなんて」
「知覚出来ない現象……時、とかは、あらしませんな。あったら、超反則級おすな」
「時の操作ねえ……まあ、いいか。考えてもわからないし、晴れて自由に暴れられるお墨付きを貰ったんだし、
「あんさん、やりすぎは厳禁と言われたの、忘れたのおすか?」
「気にしないで行こうよ。無差別に暴れるのは、流石にやらないよ? あたしらの範疇でやれば、いいんだよ。あたしらの、〝範疇〟で、ね!」
「はあー まったくあんさんは。こと
「そうそう。のんびり、いこうよ。先は長いと言うか、寿命ないしね。うくくく」
西の大陸に来たツキハとコハクは夕日が差す平原を歩きながら、こらから何をするか楽しそうに笑いながら話していく。
ツキハとコハクは、まず色んな
〝忍びの傭兵〟ツキハとコハク。
次は、如何なる者と出会うのか。
まだまだ二人の〝転生珍道中〟は始まったばかりである。
三話を読んで頂き、ありがとうございます!
次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。