忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。三十一話です








31話 ツキハとヴェルドラ そしてコハク

 封印の洞窟を出て、リムルとヴェルドラは街の近くまでやって来た。

 

 すると……。

 

 ヴェルドラが復活しそれに気付いた者がリムルを救出に行くと言う者と、命令あるまで待機と言う者と二つに分かれ、街は騒然としていたのだ。

 

 洞窟方面に続く道に大勢が集まり、激しく揉めている様子だった。

 ベニマルは腕を組み、静観していたのだが……。

 

 言い合いをしているのは、スフィアとディアブロの二人。

 

「だからよ、あの方がいなくなると、オレ達ではカリオン様をお救い出来ない。なんとしても、救出しないと駄目なんだよ!」

「ですから、何度も申し上げているでしょう? リムル様は御自分で向かわれたのです。何らかのお考えがあるのは明白で、我等が口を出すのは許されないのです」

「でもな、もう三日だぜ? このままじゃ……」

「ええい、〝番外魔王〟のツキハ並みに(うるさ)いネコですね。大人しくしないと潰しますよ?」

「なんだと!? オレの事はいいが、ツキハ様の事は許さねえぞ!」

 

 ディアブロが例えで持ち出したツキハに、スフィアが牙を剥き一触即発の状態に陥る。

 スフィアは、度々獣王国ユーラザニアに来てたツキハに子供の頃から体術の手解きを受けていて、何かとツキハに可愛がられていたのだ。

 

 スフィアの思わず出た〝ツキハ様〟の言葉にリムルが(ん?)と思うも、そこは何故か聞き流してしまう。

 

「やめろディアブロ! それじゃあ仲裁になってねえ! スフィアさん、大丈夫です。リムル様が御無事なのは間違いないので、何かあれば俺達が動く。ただ、ジュラの大森林の守護神たるヴェルドラ様が復活されたとなると、我等としても迂闊に動けないんだ」

 

 ベニマルが言い争う二人の仲裁に入り、仕方なそうに頭をかく。

 

 そんな状況を見ながらリムルは、もう三日経ってたのかと呟き、その言い争いに介入する。

 

「ああ、皆。心配かけたようでスマン」

「「「リムル様っ!!」」」

 

 皆が驚きの声を上げる中、リグルドが大丈夫でしたかーっと駆け寄って来た。

 心配そうにするリグルドに「大丈夫だ」と告げ、リムルは頷く。

 

 それから三獣士に心配かけてすまなかったなと謝罪し、リムルが無事だとわかり三獣士は安堵する。

 

 それからリムルは、この三日間の間の事を説明する前にと前置きをし、横にいるヴェルドラを軽く皆の前に押し出す。

 

「こちら、ヴェルドラ君です! ちょっと人見知りだけど、皆も仲良くして上げて下さいね!」 

 

 一瞬にて静寂に包まれた街の一角。

 皆の視線はヴェルドラに集中し、誰も声を出さなかった。

 

「ちょっと待て! 馬鹿なことを言うではない! 我は人見知りではないぞ? ただ単に、我の前まで生きて辿り着く者が少なかっただけなのだ」

 

 不満気に声を上げるヴェルドラに、その場が騒然となる。

 

 そこへ。

 

「我等が守護神ヴェルドラ様、御復活を心よりお祝い申し上げます!!」

 

 真っ先に気を取り戻し、ヴェルドラの前に跪くトレイニー達であった。

 

「クァーーーーハッハッハッ! おう、ドライアドか。久しいな、森の管理ご苦労であった」

「いいえ、勿体ないお言葉です。精霊女王よりはぐれた私共を拾って頂いた御恩、この程度では、返し切れるものでは御座いませんから」

「まあ気にするな。それよりも、今後は我もここに世話になるつもりだから、よろしく頼むぞ!」

 

 リムルの「おい、お前ちょっと待てよ」と言う言葉を置き去りにして、トレイニー達との会話を続けるヴェルドラ。

 

 そこにトレイニーからリムルとの関係を聞かれ、ヴェルドラは――

 

「フフッ、聞いて驚くでないぞ? リムルは、な――友達だ!!」

 

 ドヤ顔で言い放つヴェルドラ。

 

 皆が再び驚き騒然とする中、その時――

 

「ムッ!?」

 

 ヴェルドラが小さく呟き空を見上げる。

 

 と、同時に――

 

智慧之王(ラファエル)が、ここに接近する者がいると警告を告げた。

 

《告。ここに凄まじい飛行速度で急接近する者がいます。これは――〝番外魔王〟の二人です》

 

 

「なんだって!?」

 

 リムルも空を見上げた。

 

 ヒイィーーーーン 風を切り裂く音が見る見るうちに近づき。

 

 それは、リムル達の真上に来るといきなり直角に曲がり、急降下して来た。

 

 ツキハは『重力操作』で重力を無視した軌道で曲がり、着地寸前に重力制御で重力ブレーキを掛け衝撃を完全吸収し、砂塵を巻き上げ突風だけがリムル達を突き抜けていった。

 

 片膝を付いた状態で着地したツキハが、ゆっくりと立ち上がる。

 

 腰には時雨を差しており、既に鯉口を切り戦闘状態のまま、ゆっくりとリムル達を見回していった。

 

「お前等……。ヴェルドラに何をした!?」

「へっ!? 我?」

 

 その言葉には明確な怒りが込められていて、更に凄まじい殺気が周辺の大気を震わしていた。

 ヴェルドラが変な声で「我?」と声を出したが、ツキハには届いておらず。

 

 ベニマルが太刀の柄に手を掛けようとした時――

 

「若、なりませぬ!」

「駄目ですよ!」

 

 ハクロウとディアブロの制止の声が響く……。

 

「!?……なに……」

 

 ベニマルがハクロウとディアブロの声を聞いた時には、既にツキハが自分の目の前にいて。

 角帯から時雨を抜き取り、鞘から三分の一程刃を抜き、それをベニマルの胸に押し当てていたのだ。

 

 先程迄ツキハが立っていた場所には、ふわりと軽く土煙が舞っていただけ。

 

 知覚すらも覚束ない、神速の動き。

 

 ベニマルは右手を柄に掛けたまま動けなかった。

 いや、瞬きする間もなく刃を押し当てられ、驚愕で一声発した後は指一本すら動かせずにいたのだ。

 

 もし、動けば。

 

 押し当てられた刃が逆袈裟に抜き放たれ、返す刃で一刀両断される光景がベニマルには見えていた。

 

 そして――リムルとヴェルドラ以外は皆、一瞬にして殺されるだろう、と。

 

 ベニマルも強者、強者だからこそ相手の力量を見極められ、最良の判断を下すことが出来る。

 だからこそ、このツキハの刃がどう足掻いても自分には(かわ)すことが出来ないとわかり、動くことを止めたのだ。

 

 ツキハが殺気を隠しもせずに放ち続ける妖気(オーラ)に当てられ、耐性の弱い魔物達が少し苦しそうに顔を歪め片膝を付き始めていく。

 

 それを見たリムルが、慌てて声を掛ける。

 

「おい、ちょっと落ち着け! 俺達はヴェルドラに、何もしていないぞ!」

「あ゛あ? じゃあ、そのヴェルドラは、どこにいるのよ? ねえ、どこ? いないじゃん。あぁー、もうめんどうだわー。みんな、殺していいよねぇ? その後にさぁ、ヴェルドラを捜すよぉ」

「なっ!? 待てって! ヴェルドラならここにって、おい、お前も何とか言えよ!?」

「え? ああ……ってかな、リムルよ。あれは、非常にまずいぞ?」

「ええ、なにがだよ!?」

 

 段々と言葉が剣呑になっていくツキハを見て、リムルがヴェルドラに何とかしろと言うも、「うーむ。完全に頭に血が上っておるな。流石にあれはもう止まらんぞ?」と他人事の様に言い、更にリムルがヴェルドラに詰め寄ろうとしたら。

 

「ねえぇ、この間言ってた事なんだけどぉ。もうさぁ、ここでやってもぉ、いいよねぇ?」

「何をだ?」

 

 ツキハの言葉にリムルが問い返す。

 

「ん、そんな事決まってるぅ。(いくさ)だよぉ」

「おいおい、今からか!?」

 

 リムルが焦って声を出すと、そこへ『思念伝達』が『思考加速』付きで飛び込んでくる。

 

『リムル様。ここは私が突破口を開きます。よろしいですか?』

『まて、ディアブロ。無用な争いはここでは、駄目だ!』

『お言葉ですが、リムル様。奴は、ああなった以上もう何があっても止まりません』

『何に怒ってるかそれが判ればいいんだが――』

『〝暴風竜〟ヴェルドラですよ』

『え?』

『際限なく溢れ出ていた妖気(オーラ)が小さくなり、今は微弱な妖気ですから。〝暴風竜〟ヴェルドラの身に何か起こったと勘違いをしたのでしょう』

『あー、なら。今、ヴェルドラが目の前にいるんだから、妖気の波長でわかるんじゃねえか!?』

 

 ディアブロから、ヴェルドラが妖気を抑えたのを、ヴェルドラの身に何かが起こったと勘違いしたと言われ、リムルは呆れたように言葉を吐き出した。

 

『ええ、単純馬鹿猫ですからね、ツキハは』

『へえー、ってかさ。お前、ツキハの事知ってるのか?』

『はい、存じ上げていますよリムル様。ツキハとコハク。二人の〝番外魔王〟は千年以上前から、良く知っています。クフフ』

『あぁー そう……』

 

 リムルはディアブロが少し嬉しそうな笑いをしたのに、どうせ(ろく)な事ではないなと、思う。

 

『ディアブロ。何とかアイツの勘違いした怒りを収められないか?』

『そうですね……!? おや? やっと来ましたか』

『ん? どうしたディアブロ』

『〝番外魔王〟の片割れ、コハクです。いいですか? リムル様。皆にくれぐれも、敵対行動を取らない様にお申し付けをお願いします。一度戦端が開かれれば、あれはもう――何があっても止まりません。全てを滅び尽くすまでは』

『そんなになのか?』

『はい。過去に二度。〝番外魔王〟の怒りを買って、滅んだ国が二つあります』

『マジかぁ……』

『ですが、多分大丈夫かと。奴を止めることが出来る者が来ましたから。敵対行動を取らなければ、コハクが止めるでしょう、ツキハを――』

『本当に大丈夫なのか?』

『ええ、コハクには〝暴風竜〟ヴェルドラがそこにいるのは、わかっているでしょうから』

『ほおぉ、なんでわかるんだ?』

『申し訳ありません。流石にそこまではわかりません、が。恐らく能力(スキル)の類なのでしょう』

『そうか。ありがとうディアブロ』

『いえ、出過ぎた真似をお許しください』

『いや、構わないさ。貴重な助言、助かる』

 

 そこでリムルとディアブロの『思念伝達』での会話は終わり、体感時間は一秒にも満たなかった。

 

 そして――ツキハの後ろにコハクが、ふわりと舞い降りる。

 

 一切の気配を感じさせずに静かに舞い降りたコハクに、そこにいる者達が更に騒然とするも。

 リムルが『思念伝達』でそこにいる全員に『一切の敵対行動を禁じる』と命令を下し。

 皆はリムルを信じ、いざという時の為の備えだけはしていく。

 

「ツキハ! 刃を納めなはれ。まだ、(いくさ)はあかんえ」

「ちょっと待っててよぉ。すぐにさぁ、こいつ等皆殺しにしてぇ、ヴェルドラ捜すからさぁ――」

「このスカタン!! あんさんボケはったか!? そこにヴェルドラはん、おるでっしゃろが!」

「え?」

「え? じゃ、ありまへん。ほんまに、あんさんは頭に血が上ると見境が無くなりますからなぁ。もっと、冷静になりなはれ。いつも、()うてますやろ」

「あ、あぁ……」

 

 コハクから諭されて、頭が冷えたツキハはもう一度周囲の妖気(オーラ)を探ると……。

 

 見知った妖気(オーラ)を放つ者が、いた!

 

 背の高い金髪の髪で、精悍な顔つきの男が。

 

 ベニマルから刃を離し鞘に納め、角帯に時雨を差し直す。

 目の前から離れた所でベニマルは、そっと刃が当てられてた胸の部分を触ると。

 着ている着物が『多重結界』ごと斬り裂かれていて、胸の皮膚には刃が押し当てられてた感触だけが残り、ベニマルの背筋には冷やりとしたものが走っていた。

 

 ツキハはゆっくりと、その男に話し掛ける。

 

「……あんた、ヴェルドラなの?」

「うむ。久しいなツキハよ」

 

 つかつかとヴェルドラの所まで歩み寄ったツキハはおもむろに、鼻をスンスンとしながらヴェルドラの妖気(オーラ)を嗅ぎ取っていく。

 

 一通り妖気(オーラ)を嗅ぎ終わると。

 今度は、ガバッとヴェルドラの腰に両手を回し、加減した自分の妖気(オーラ)でヴェルドラ自身を優しく包んでいった。

 

 ツキハはヴェルドラの妖気(オーラ)を嗅ぎ取った時に、微かに残るリムルの妖気(オーラ)を自分の妖気(オーラ)で包み消していたのだ。

 

 これは猫特有の習性で、他人の匂いが自分の好きな人に移っている時に、自分の匂いで消す仕草と一緒ではあるが。

 

 しかし、真幻魔猫人族のツキハにこの習性があるかは定かではない。

 

 ツキハはヴェルドラの腰から両手を離し、ニコッと笑みを浮かべると。

 

「どこ行ってたのよ……。めちゃくちゃ心配したんだぞ」

「ああ、すまぬな。これには、色々と訳があってだな――」

「どこか行くなら……一言言ってから行けよー!」

「すま――グフォッ!」

「あたしに黙って、いなくなるな!」

「だから――オゴッ!」

「どれだけ心配したと思ってるんだー!」

「いや、だか――グヘッ!」

 

 傍目には久しぶりにあった者同士の、良い場面だったのだが。

 

 いきなりツキハが嬉しそうな顔付きから一転、怒った顔になりヴェルドラの腹に、グーパンを入れたのだ。

 

 それも、全力グーパンで。

 

 その場に居合わせた皆の目が一斉にえ?っという顔になっていくのだが、トレイニー達だけは「ほんとにツキハ様ったら。ウフフ」「あらあら」「まあまあ」とか微笑ましく見ているものだから、更に他の者達の目が点になっていく。

 

 ツキハの全力グーパンにオゴッとかグヘッとか声を上げるヴェルドラだが、意外にも平気そうなのを見てリムルが声を掛けようとすると。

 それをコハクが止める。

 

「まだやめときなはれ。もう少しやりたいようにさせな、また爆発しますえ」

「え? あ、ああ」

 

 やんわりとした言葉だがそれには明確な制止が含まれていて、それを察したリムルは口をつぐみ、事の成り行きを見守る事にした。

 

 数発グーパンを入れた所でツキハが動きを止め。

 少し俯き加減でヴェルドラの体に両手を回し、ギュッと抱きしめる。

 ヴェルドラは「ちょっとお前、近づき過ぎだぞ?」と少し照れ臭そうにするもそれを嫌がりもせず、右手でツキハの頭をポンポンと撫でる。

 

「バカたれ。ほんとうに、消えてしまったんじゃないかと、思ったんだぞ。あの日、洞窟からヴェルドラが消えた日から方々捜したんだけど……。ごめん、もっとこの洞窟に来てればよかった……」

「我等に時間と言う縛りはないからな、そう気にするでない。それよりも、心配かけたなツキハよ」

「うん、無事だとわかったから、安心した」

「この二年もの間に、色々な事が起きておるな。お前達も――〝真なる魔王〟に覚醒したのだろう?」

「うん。まだ進化はしたくなかったんだけど……勝手に世界が進化させやがったのよ。ほんと、腹立つわー」

「そうかそうか。実にお前達らしいな。クハハハハ」

「ところで――」

「――なんだ?」

 

 ヴェルドラが笑いながらツキハの頭をポンポンしていると、ツキハがヴェルドラを抱きしめたまま上目遣いである事を問うてきた。

 

「なんで人化してるの?」

「え?」

「え?っじゃない。なんで人型なんかになってるの?」

「ふむ。実はな――」

 

 ツキハの問いにヴェルドラは、リムルとの出会いから話し始め。

 ヴェルドラが囚われている『無限牢獄』を解析する為に、リムルの『胃袋』という特殊空間に匿われていた事を説明し。

 それが三日前に解析が終わり、リムルから依り代を作ってもらい完全復活したと説明をする。

 

 因みにこの会話だけは軽く『思考加速』を掛けた『思念伝達』で会話されており。

 周りの者達には聞こえない様にされていた。

 

 それからはツキハは、今ツキハ達が関わってる案件や、ここ三百年位に起きた事を話し、お互いの情報交換をしていった……。

 

 そして、およそ体感時間三秒ほどの会話は終わった。

 

 〝暴風竜〟ヴェルドラが、〝番外魔王〟の一人ツキハに抱き付かれているという光景に、皆がありえない光景を見てるようだと思うも、それを口に出す者は一人もいなかった。

 

 そう、リムルを除いては。

 

「あのオッサン、ほんとにヴェルドラか?」

 

 少しリムルの思うヴェルドラと違う側面を見た為に、リムルは思わず口に出してしまう。

 その後にコハクの方を見ると、何やらしょうがないなぁという顔をしていたので。

 何とかツキハの誤解も解けただろうと、安堵するのもつかの間。

 

 ツキハから次の言葉が飛び出て来た。

 

「ふーん、そういう事なのかぁ。経緯(いきさつ)はわかったよ。じゃあ、すぐ元の姿に戻ってね」

「「え?」」

 

 その言葉にヴェルドラと、リムルが声を出す。

 

「うん、だからね。〝竜〟の姿に戻ってね。あたしは、〝竜〟のヴェルドラが一番好きなんだよ!」

「なあツキハよ。人型もいいとは思わぬのか?」

「人化はねぇ、なんかイヤ」

「どうしてなのだ?」

「だって、だって……」

「だって? だってが、どうしたのだ?」

 

 このやりとりに、周りの者は既に置き去りにされ。

 コハクは「あんさんは……」と額に手をやり、リムルは「なんで人型は駄目なんだ?」と不思議そうにツキハを見ていた。

 

「だって――その姿じゃ、頭の上でお昼寝が出来ないじゃないかぁーー!!」

「はあ!? 我の頭は、お前の寝床ではないといつも言ってたであろう?」

「でもね、あのお日様がポカポカしてる時に、〝竜〟の姿のヴェルドラの頭の上でお昼寝するとねぇ。とても心地いいんだよ~。適度に漏れる妖気(オーラ)に、魔素(エネルギー)がねぇ。こう、体に染み渡るというか、もう最高のお気に入りの場所なんだよ!」

「だからなツキハよ。我の頭の上を昼寝の場所にするなと、千年以上前から言ってるであろうが?」

「いいいから早く、〝竜〟の姿に戻ってね。戻れるよね?」

「だからな、聞いておるのかツキハよ?」

「人化もいいけども、あたしは――竜の姿のヴェルドラが好きなんだよ!」

 

 なにやらツキハがヴェルドラに告白してるように見えるが、全然そのような事ではなく。

 ヴェルドラは未だに恋愛感情など理解できず、そのツキハに至っては好きという言葉は口にしても、本人はそこまでの感情は抱いていないといつもコハクには言っていた。

 

 しかし、コハクからすると「思い切り好いとるではありまへんか」と、いつも突っ込まれてる始末である。

 

 ようするに、こんなアホなやり取りを千年以上も続けている二人なのであった。

 ここから進展する事はあるのか? それは、まだわからない……。

 

 こんな二人のやりとりを、点になった目からジト目になった皆がいた。

 

 皆が思う――なに? このアホなやりとり、と。

 

 その乾いた笑いが出るような雰囲気を吹き飛ばすかのような言葉が、またもツキハから飛び出る。

 

「もういい。誰よ、ヴェルドラを人化させたのは? 許さないよ?『あんただよね? 魔王リムル』」

 

 ヴェルドラから今度は、依り代を作ったリムルへと矛先が変わった。

 何故か『思念伝達』でリムルを名指しで。

 それにリムルも『思念伝達』で返す。

 

『え? ああ、俺だ。俺がヴェルドラの依り代を作った』

『ふーん。あんたが、三体目の〝特殊な魔物〟か。ヴェルドラの魔素溜まりから生まれた、魔物だってね?』

『ああ、どうやらヴェルドラが言うにはそうらしい』

『そっか。あたしら以外にもほんとにいたんだ、〝特殊な魔物〟が』

『お前らの事は、ヴェルドラから聞いてなかったからな。友達ではないが、懇意にしている魔物はいるとは聞いていた』

『それはね――あたしとコハクが、ヴェルドラに絶対にあたし達の事は誰にも話さないでと、お願いしてたんだよ』

『そうか、ヴェルドラは約束を守ってたんだな』

『うん……守ってくれてた』

 

 ツキハの最後の言葉にリムルは、妙な感情を覚え。

 魔物にしては、どうも自分と同じ匂いがすると感じていた。

 

 リムルが思う事――それはこの二人は自分と同じ転生者だと。

 しかし、自分の想像通りなら――年代が会わない……。

 

 そこへ。

 

《告。主様(マスター)の推測通り、九十%以上の確立で〝番外魔王〟の二人は転生者です》

 

 智慧之王(ラファエル)からの言葉を聞き、タイミングを見計らいリムルはある事を言うのを決める。

 

 ツキハが『思念伝達』をやめて、素で言葉をぶつけて来た。

 

「あんたがヴェルドラを、『無限牢獄』から助けてくれたんだね。ありがとう……でもね、出来るなら、〝竜〟の姿で助けて欲しかったよ」

「ああ、いや。友達だからなヴェルドラとは。友達を助けるのは当たり前だろう?」

「そうだね。でも、あたしの好きなヴェルドラの姿を奪ったのは許さない。だから――今ここであんたを、斬る!」

「なんで!?――」

 

 リムルが、意味がわからんと驚きの声を上げ、周りの者達も臨戦態勢を取ろうとした時――

 

「こーのスカタンがぁーー!!」

「うごぉっ!」

 

 バゴォーーン 凄まじい轟音が響き渡った。

 

 コハクがツキハの頭に、ガチのゲンコツを落としたのである。

 うーーっと唸りながら頭を抱えるツキハ。

 

「アホちゃいますか!? ツキハ。感謝の言葉を口にして、なにいきなり宣戦布告してますのや。脳みそをそこらに投げ捨てるのは、ニコだけにしなはれ! いい加減にせんと、マジ怒りますえ!!」

「だって――」

「だってやあらへん! 人化したなら、竜化も出来ますやろ? なんでそんな事もわからへんのや!? あんさんはヴェルドラはんの事になると――いつもこうや。なあ、ツキハ。うちらはここに、何しに来たんや?」

「……ヴェルドラの安否を確かめに――」

「せや。なら、目的は――もう果たしたんとちゃいますか?」

「……うん」

「ほな、一旦帰りますえ。次来るときは、うちらはこの国の敵おすからな。そう言う事や、魔王リムルはん」

 

 コハクが見事にツキハを抑えた。

 ディアブロの言葉通りだなとリムルは思う。

 

「ああ、いいさ。お前達もヴェルドラを心配して来たんだろう?」

「せや。ヴェルドラはんは……うちらが右も左もわからん頃から面倒見てくれた、恩人やさかい……」

 

 そう言ったコハクの顔が不思議と、本当にコイツ等は俺達の敵になるんだろうか? と思ったリムルは。

 

 次の言葉を口にする。

 

《お前達に一つ聞きたい。お前達二人は日本人なのか?》

 

 この言葉を聞いた時――ツキハとコハクの目が大きく見開かれ。

 黒く丸い瞳がキュンと縦長に細くなり、瞳孔が淡く金色に光る。

 猫耳が数回ピクピクと動き、尻尾がゆらーりゆらーり振れ動く。

 

 ツキハとコハクが聞いた言葉は――〝日本語〟だったのだ。

 

 

 あんた 日ノ本の人間なのか?

 

 あんさん 日ノ本の転生者おしたか?

 

 

 

 〝特殊な魔物〟三体の。

 

 

 

 運命的な出会いが――今ここに。

 

 

 

 




 三十一話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!






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