忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
リムルから日本語で話し掛けられたツキハとコハクは一瞬驚くも、スライムの魔物リムルが自分達と同じ転生者だとわかり、リムルの言葉に耳を傾ける。
リムルの日本語での言葉は続く。
《お前等いつの時代の日本人なんだ? 戦国時代か? それとも、もっと前の時代の日本人なのか?》
それにコハクが返した。
《あんさん……元日ノ本の人間おすか?》
《お!? 京言葉か。やっぱり日本人だったんだな。その恰好は戦国時代から江戸時代の恰好に似てるけど、どの時代なんだ?》
今度はツキハが返す。
《乱世の時代だよ。あたしらは信長様の配下、秀吉様に雇われてた忍びだったんだよ》
《え!? 忍びなのか?》
《そうだよ、
《乱破ノ忍か……伊賀や甲賀とかあったのか?》
《もちろんあったよ。他にも風魔や歩き巫女とかあったよ》
《歩き巫女……なるほど、たしか武田信玄のお抱え忍びだったかな?》
《へえ、良く知ってるね。あんたも戦国時代からの転生者なの?》
《いや違う。俺はな、もっと未来の平和な時代の日本で死んで、こっちの世界に転生して来たんだ。人間だった頃の名は――三上 悟、三十七才だった》
《あたしは、
《うちは、
リムルとツキハ、コハクが日本語で会話を始めていても、ベニマル達以下皆は驚きもせずその様子を見守っていた。
ただ一人ヴェルドラだけは、リムルの記憶を漁り漫画を見ていたお陰で完璧に日本語を理解していた。
《へえー。若いんだな、って。そうか、お前達の時代は成人するのが早かったんだよな?》
《うん、ほんとよく知ってるねえ。未来の日ノ本の民なのに》
《まあな。歴史書という物が残り、受け継がれていたからな》
《そうどすかぁ。あんさんは三十七才って、えらく災難な目に合いはったんか?》
《まあな。暴漢に刺されて死んでしまってな、ハハハッ》
《そうなんだぁ。でも、呪符忍術で吹き飛ばせばいいんじゃない? 暴漢くらい軽く殺せるでしょ?》
《え? なんだそれ?》
《え? あんたの時代には伝わってないの、呪符忍術は?》
《んー、ちょっと待てよ。お前達の日本って、どんな時代だったんだ?》
《おかしなこといいますなぁ、あんさんは。
《ええええ!?(あぁーこれ……あれだ。並行世界……違うな……これって――)》
リムルが何かを言い掛けてると、そこへ。
《解。
《あぁー それそれ。多分だが、その別時間軸の日本から来た転生者だな。歴史は似かよっているが、所々違うしなぁ》
《すまないな、少し考え込んでいた》
《いや、かまわないよ》
《かましまへん》
《それでなんだが、お前達はどのくらい生きているんだ?》
《んー 五千年を過ぎたくらいかな?》
《なるほどな。でも、なんでそんなに時間がずれてるんだ? 普通なら、お前達がここに転生して来るのは、約六百年くらい前になるはずなんだがなぁ》
《せやなぁ……。ようわからしまへんが、なんや死んで魂がこの世界に来る時に、時空乱流?とかいうのに巻き込まれてしまいましてな。五千年も時間を遡ったこの世界に、転生したんどすえ》
《ほうー。そうだ! お前達は何で死んだんだ?》
《朝倉軍の追撃を防ぐ役目の途中でコハクの呪符忍術が暴走して、それに巻き込まれて死んだんだよ。間抜けなことに、ね》
《へえー。それはなんとも、大変だったんだな》
そこまで言うとツキハはチラリとコハクを見るも、コハクは(うちは知らん)とばかりに、プイッとそっぽを向く。
(朝倉軍と織田軍の戦い……織田家に付いていた浅井家の裏切りで、織田軍が撤退戦に追い込まれた〝金ヶ崎の戦い〟かぁ。このあたりは俺達の歴史と、一緒なんだな)
それからはリムルが色々とツキハとコハクに質問し、逆に二人に質問されるリムルであった。
時間的には一時間以上も話し込んでいた三人なのだが、『思考加速』のお陰で数秒も経っていなかった。
日本語での会話を終え、リムルは一番大事なことをツキハとコハクに問う。
「なあ、お前達。どうしても――俺達と戦うのか?」
「せや。契約してるさかいな、クレイマンと。その分の代金も、もろとるし――何より相手がどんなクソ野郎でもな、一度交わした契約は――
「契約は契約、それがどんなクソ野郎でも、か。それに、信用か……(確かになぁ。俺も大手ゼネコンでサラリーマンやってた時に、嫌という程それを実感したんだよなぁ)」
リムルはサラリーマン時代の自分を思い出して……。
その時に苦労した事を思い出し、それを苦笑い気味に噛み締めていた。
(驚いたな……。アイツら意外にちゃんとしたポリシーを持って、傭兵業をやっていたのか。そうだな……なら、俺が出す答えは――)
「わかった。その戦い受けよう」
この言葉にベニマル以下皆が一瞬ザワッとするも、すぐに静まった。
リムルが、ザワつく皆を手で制したのだ。
「それでだ、提案が……いや、俺からのお願いだ。俺とだけ勝負してくれないか?」
「「リムル様!」」
ベニマルとディアブロが声を上げるが、リムルは首を横に振り口出しを禁じた。
「お前達は強い。今の俺でも、勝てるかはわからない。そんな戦いに皆を――巻き込みたくないんだ」
「おかしなことを言いますなぁ。あんさんは魔王に成りましたんやろ? ほなら、配下総出で戦うのがいいんとちゃいますか?」
「そうだな……『これは俺の我が儘なんだ。もう誰も……失いたくないんだよ。それに、強いお前達と――俺が戦いたいと思ってるんだ!』」
そうだなと言うとリムルは『思念伝達』で、本音を二人に告げた。
その本音を聞いたツキハとコハクは顔を見合わせ、コハクが軽く頷く。
これはリムルの賭けだった。
情に訴えるではなく、自分の本音をぶつけて、それに二人がどう出るか?
この二人、一件理不尽そうに見えて、どこか憎めないところがあるとリムルは感じていた。
何故そう思ったのか……。
それは、ヴェルドラである。
あのコハクがヴェルドラを、自分達の恩人と言った。
そう、自分も只のスライムだった頃にヴェルドラと出会わなかったら……。
そんな思いが幾度なく交差し、頭の中を駆け巡っていった。
この二人は、話が通じる――リムルはそう感じた自分の勘を信じたのだ。
そして、二人の出した答えは?
「いいよ。そのお願い聞いてあげる。あたしらも、色々と思うところが今回はあるしね。あたしが――相手するよ。その代わり、全力で殺しにいくよ? いいよね? 戦いであって、試合ではないからね。これは――死合だから」
そう言ったツキハの表情からは、一切の感情が抜け落ち――そこには、乱破ノ忍びと呼ばれたツキハの顔があった。
その静かながらも、冷え斬るような殺気に満ちた目と、身体から漏れ出る覇気は――まごう事無き、〝真なる魔王〟に覚醒した者の、覇気である。
それはディアブロすらも舌打ちするほどの、重圧だった。
お願いは聞いた、しかし戦いはガチの殺し合いと告げて来たツキハ。
(うーむ、徹底してるなぁ。手心は全くなしか……まあ、それはわかってたんだけどな。まあ、いっか。何とかなるだろう)
《告。全力で当たれば〝番外魔王〟とて、簡単には勝てないと推測します。否――私が全力でサポートするので負けはありません》
勝つぞ! と、気合を自分に入れていると。
そこへ、ディアブロが一言リムルに言葉を掛ける。
「リムル様。ツキハは殺しても、時間を置けば復活再生をして来ます。殺すのではなく、封印が妥当かと」
「おい、クロスケ! なに口を挟んでくんのよ!」
「クククク。クロスケとは失敬な。私には、偉大なるリムル様から頂いた、素晴らしい名前があるのですよ!」
「はあっ!? なんだってぇー!?」
「はいっ!? なんやそれ!?」
「「あぁぁ……」」
名前があるとディアブロが言うと、ツキハとコハクは変な声を出して……固まった。
「ディアブロ。それが、私の頂いた名です! これからは名前で呼ぶ事、わかりましたか? クフフフフフ」
「だ、誰や! この悪魔に名付けしたんは!?」
「あ、俺だけど……」
条件反射的にリムルが右手を軽く上げ、それに答える。
それをコハクがキッと睨みつけながら、更に言葉を吐き出す。
「な、なっ……なんちゅう事をしてくれはったんや!! リムルはん、あんた事の重大さわかってますのか!?」
「え? 上位魔将に名付けただけなんだけど?」
「はあぁぁ……あんさんは、天然馬鹿どすか?」
「口を慎みなさいコハク。殺しますよ?」
「なんやて? あんさん、
えらい剣幕で捲し立てるコハクにリムルは、何でコイツこんなに怒ってるんだろうと不思議に思う。
その傍らでディアブロとコハクが一気に険悪なムードになり、それをリムルがディアブロに「挑発はやめろ」と窘めて、その場を収めたのだ、が。
「ねえ、コハク。クロスケに名付けしたのなら、この国ヤバいんじゃね?」
「どすなぁー。なんや、えろう手間が増えた様に感じますわぁ」
「前言撤回して、もう今から潰す?」
「仕方ありまへんな。そうしますかいな」
「おいおいおいおい! なんでそうなる!?」
唐突に前言撤回など言い出したツキハとコハクに、焦りとも困惑とも付かない声を出すリムル。
この場合誰が悪いのか? そこに尽きるのだが……原初がわざわざ配下にしてくださいと、召喚されて来てたのだから、尚のこと始末が悪いとも言えるこの状況。
ディアブロは以前、格下の悪魔にリムルからの悪魔召喚を出し抜かれた事があり。
いつ来るかもわからないリムルの悪魔召喚を、虎視眈々と狙っていたのだ。
その執念たるや見事と言わざるを得ないのだが……。
そもそも、何故これほどディアブロが、リムルに執着するのか?
それは、リムルがシズと出会う前の事。
ディアブロは一度、シズと相対した事がある。
それからは何故かシズの事を密かに追い続け、その時にリムルを知る事となった。
これが始まり。
そして――シズが被っていた〝抗魔の仮面〟。
〝抗魔の仮面〟がリムルに渡ったことで、シズからリムルへと興味が移っていたのだ。
その〝抗魔の仮面〟は時空を超えた代物であり、何故この世界に存在するのかはわからない。
いつどこで? 誰が作ったのか?
悠久の時を生きるディアブロにしても、理解出来ない代物であった。
ディアブロがシズに興味を持ち、更にリムルに興味を持つきっかけとなった仮面。
ただ一つ、〝抗魔の仮面〟には
ディアブロは、それに気付いていた。
そして、ディアブロでさえ傷一つ付けられなかったその仮面に――リムルは傷を付けたのだ……。
その事でディアブロは、リムルに――自らを真理の道へと導いてくれる存在と、そう確信したのかも知れない。
悪魔族の中でも、もっとも異端に近い存在のディアブロならではである。
こうなると、リムルの運が良いのか悪いのか?
〝番外魔王〟が絡まなければ戦力増強で喜ばしい。
しかし、ディアブロは何やら〝番外魔王〟との長きに渡る因縁が見受けられる。
必死に打開策を探るリムル。
「おいおい、お前達。いきなり前言撤回って、理由はなんなんだ!?」
「ん? クロスケがいるから」
「ディアブロですよ、ツキハ。貴女は一度、きっちり殺さねばなりませんね」
「あぁ? やってみな。今度こそ、一万年位眠らせてやんぞ?」
「ディアブロやめろ! お前も落ち着け? なっ?」
「あんたさぁ。なんに名付けしたか、自覚あんの?」
「え? だから、上位魔将の悪魔に名前を付けただけだぞ? なんでそれが、いきなり宣戦布告になるんだよ!?」
「あんた、そのディアブロが、げ――」
「――ツキハ。我と戦え」
ツキハが原初と言いかけた時、ヴェルドラがリムルに助け船を出す。
この事でリムルが、ディアブロが原初であるという事実を知るのが暫くお預けになるのであったのだ。
暫く静観していたヴェルドラだが、そろそろ自分が介入しないと――本気でツキハとコハクが暴れそうな雰囲気になって来たので、口を挟んだのだ。
「え? あぁー ヴェルドラとあたし?」
「そうだ。もう数百年以上、手合わせをしておらぬではないか。久しぶりに、我とガチでやってみないか? なんなら時雨も使ってよいぞ」
「ほえ? マジ、ってかさ。ヴェルドラは、なんの関係があるの?」
「我か? さっき話したではないか。我は、この国に世話になると決めた、と」
「そう言えば、そうだったよねぇ。うーん、どうすっかなぁー」
(おおー ナイスタイミングだオッサン! いやヴェルドラ君!!)
ここで渡りに船のリムル。
〝番外魔王〟とディアブロとの関係に、クレイマンと傭兵契約してる〝番外魔王〟
で、ヴェルドラとツキハにコハク。
えらく難解な三つ巴になりそうなこの雰囲気を打開してくれそうな、ヴェルドラの発言。
この間に有効な打開策を練ろうとするリムルだが、それは次の発言であっさり解決する。
「仕方ないなぁ。やろうか、ヴェルドラ!」
「うむ、やるか!」
「あ、でも――」
「でも?」
「あのね、今冷静に考えたらさぁ。ちとマズいわね。とりあえず、クレイマンの最後の依頼の日にちが確定していないから、決まったら来るよ。それでもいい? ヴェルドラ」
「うむ、構わぬぞ」
急に和やかに会話を始めるヴェルドラとツキハ。
内容はあれなのだが、ひとまず窮地を脱したリムルは人知れず胸を撫で下ろす。
「なあ、ヴェルドラはん。勝敗の付け方はどうするんや?」
「ぬ? ふーむ……。そうだのう、ツキハが我と昼夜問わず三日間戦えれば、お前達の勝ちでどうだ?」
「そうきましたかいな……。ツキハ、あんさん最長日数は今どのくらいおすか?」
「うーん。千年ちょっと前でぇ……まる二日の所で力尽きた、かな」
「プラス一日おすか……。果てしなく、遠い一日どすなぁ」
「どうするのだ? 二人共」
「ちょっとお願いして、いいかな? ヴェルドラ」
「よいぞ、なんだ?」
「えとね、ヴェルドラはその姿のまま戦う事。そして、あたしは時雨を使わない。後はいつも通りガチでいいよ」
「ぬ? 時雨を使わぬのか?」
「うん、使わない。お互い体術のみではどう? あたしは魔法系は一度のみ使用可で。ヴェルドラは魔法系は無し。そのくらいのハンデはいいよね? それで戦うのはもちろん、あたしだけ。そっちはヴェルドラのみ、で。あ、そうそう。あたしは魔法系以外は
「よかろう!」
「決まりだね!」
ヴェルドラとツキハは次々と条件交わし、一番大事な勝負が付いた時の事を話し始めた。
「ツキハよ。お前が負けたら、一つだけ――我の頼みを聞け。よいな?」
「いいよ。じゃあ、あたしが勝ったら、あたしの頼みを一つ聞いてね――それが、どんなことでも。嫌も、それだけはぁとかも、無しだよ?」
「うむ、よかろう――」
「――え? お前達、そんな条件で良いのか?」
国の存亡を掛けた戦いに、頼みを一つ聞くだけとの事にリムルは。
驚きを隠せず、つい口を挟んだのだ、が。
コハクの言葉で、それが如何に危険か分かる。
「魔王リムルはん。あんさん、この条件が一番危険だと思わへんのか?」
「ん? なんでだ?…………あっ!?」
そう言われてリムルは、事の重大さに気が付く。
余りの迂闊さに(くそヤベぇじゃねえかー)と心の内で頭を抱えてると――
《告。もし〝番外魔王〟が勝てば、ヴェルドラにこの国を滅ぼせと命じる事が出来ます》
(そうなんだよー もしヴェルドラが負けたら……。いやいや、この世界に存在する最強の〝竜種〟が一体だから、それはないな。うん、ない!)
とりあえずそう納得したリムルに追い打ちを掛ける様に――
《告。この戦いの条件には〝ある事〟が含まれてませんが。もしそれを、個体名:ツキハが使った場合――ヴェルドラが負ける確率が上がる可能性があります》
『いやぁ、それはないと思うぞ?』
《……》
『ん? なんでそこで黙るんだ?』
《……》
『
《……》
『ラファエルさん?』
《……》
ないぞと言ったら急に
そう信じるリムルであった。
「よし。では、次会う時が我との勝負になるな」
「うん、そうだね。でも……ほんと、無事でよかった……」
ヴェルドラがポンとツキハの頭に右手を置くと。
ツキハがヴェルドラを軽く抱きしめていく。
少し顔を赤らめながらヴェルドラはツキハに「近づき過ぎだ、馬鹿者! 離れぬか、全くお前は」と言うが、ツキハから無理に体を離そうとはしなかった。
ベニマル達皆は、〝最強の竜種〟?ってと、いうような顔つきになるが、トレイニー達だけは「「「まあまあまあ」」」と言いながら笑みを浮かべ見ていた。
そう、トレイニー達だけはこのようなヴェルドラとツキハのやり取りを、幾度となく見てきていたのだ。
この事でヴェルドラに対する皆の印象が、恐れ敬うから――ちょっとお茶目さんなの? に変わったのは言うまでもない。
そうして、
会話を終えると、二人は
〝番外魔王〟が去った後、リムルは
それに向けて、本格的な作戦会議の準備に入っていく。
この世界に生まれ
――ツキハ コハク リムル――
この世界に変革をもたらそうとする――リムル。
その変革に意図せずとも、巻き込まれていく――ツキハとコハク。
〝特殊な魔物〟三体が交わり色為す世界は……どんな世界色に染まるのだろう?
さてさて
ツキハとコハクの異世界転生〝珍道中〟。
ここから、いったい何処に向かうのであろう……か?。
三十二話を読んで頂きありがとうございます!
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