忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。三十四話です









34話 密 談

 大会議室の準備が整うまで、リムル達は休息部屋で一時の休息を取っていた。

 

 そんな中リムルは、エラルドに話し掛けていた。

 

「ところで、用件はエレンさんの件のみ、ですか?」

 

 そう聞くリムルに、エラルドが返す。

 

「ふふふ。当然そんな訳はない。今後、君の国との付き合い方を考える上でも、自分の目で見ておきたかったのだよ。娘が気に入った、貴殿という人物をな。その堂々たる盟主ぶりを見れば、貴殿がスライムなどと信じ難い事ではあるが(あの御二人も、認めておられましたからな)……。だが、貴殿の実力は見極めさせてもらいましたぞ」

 

 言いながらエラルドは、腹黒そうに笑う。

 

 そう、先程の高等爆炎術式は、ブラフ。

 

 その証拠に、側に控えていたベニマル、シュナ、シオン、幹部達は誰一人動かなかった。

 最初から高等爆炎術式が起動しない事に、幹部達は気付いていたのだ。

 

 シュナが「起動に足る魔素が足りてませんでしたね。なにより、その作り物の身体でそこまでの精度が出せるとは、畏れ入るばかりです」とエラルドが演技をしていたのを見抜いていた。

 

 エラルドが「まだまだですな、私も」と自嘲気味に言うとそれにシュナが、「流石は魔法大国の技術ですわね。見事なものです」と微笑みながら返す。

 

それを聞きリムルは(なるほどな、どうりで護衛が少ない筈だ)と小さく呟く。

 

 こうして、今後の魔国連邦の動向を決定する重要な会議が開催される運びとなった。

 

 ――それは後の世で脚色され、人魔会談と称される事になる。

 

 

 大会議室に入ると皆が起立してリムルを待っていた。

 

 各国の重鎮が来客用の席に着き、それに続きリムルが最奥の席に着くと、皆が一斉に着席をした。

 

 人魔会談の始まりである。

 

 まず最初にシュナが来賓の紹介から始め、次に参加者達の紹介をしていく……。

 来賓、参加者の紹介が終わり、一番大事な者の紹介に移る。

 

「シュナ、ヴェルドラの着替えは終わったか?」

「はい。終わっています――」

 

 シュナの言葉の途中で、「クアーーッハハハハハ」という豪快な笑い声と共にヴェルドラが大会議室へ入って来た。

 

 リムルがすかさず立ち上がってヴェルドラの所まで行き、皆に紹介する事にした。

 

(うーん。軽く流してくれたら、いいんだけどなぁ)

 

 そう考えながらリムルは――

 

「来客の皆さんにも紹介したい。多分、名前だけは聞いた事もある方もいると思うが、どうか驚かないで欲しい」

 

 リムルは前置きをして、一呼吸を置くと――

 

「俺の盟友のヴェルドラ君だ」

「ヴェルドラである! 我の事を〝暴風竜〟と呼ぶ者もおるようだな。まあ、我と語る事が出来た者は数える程しかおらぬ故、貴様達は幸運と言えるだろう。光栄に思うがよいぞ!! 因みに〝番外魔王〟とも旧知の仲である!」

 

 相変わらず尊大だが、そんな態度がよく似合うなとリムルは思う。

 

「よし、後の会議は大人しくしてくれてると、嬉しいなって事で、もう出て行ってくれてもいいんだぞ?」

「クワハハハハ、つれないなリムルよ! 我を仲間外れにするのは止めよ。コハクみたいだぞ?」

「いや、コハクって、お前アイツに何したんだ?」

「いやな、大事な商談とかがあるという時には、ツキハと二人っきりで話してばかりで、我を入れぬのだ。何故だ?」

「あぁー、それはだな……あれだ!」

「あれ?」

「そう、あれだ!」

「あれなのだな?」

「うむ、あれだ」

「そうか、あれか……」

 

 とりあえず〝あれ〟で押し通し、ヴェルドラの問いを何とか誤魔化したリムル。

 

「とにかく、俺達は真面目な話をするから、邪魔だけはするなよ?」

「我を信じよ! 邪魔などするはずがあるまい!」

 

 ヴェルドラがそう言い切ったので、リムルは信じる事にし。

 最悪の場合は、聖典(マンガ)でも渡して大人しくしてもらおうと、リムルは考える。

 

 そんなやり取りの中、場は静寂に包まれたままだった。

 誰も動いていないのだ。

 

 

 そして……。

 

 パタリ、誰かが倒れる音がする。

 見ると、フューズやエレン達が、気絶していた。

 

「ちょっと待て、話があるぞリムル!!」 

 

 ガゼルが叫ぶ。

 

 リグルド達は何故か平伏し始め――その場は混乱を極め収拾がつかなくなっていた。

 

 まだ始まってもいない会議は、一時中断を余儀なくされる。

 

(流石はヴェルドラ。この混乱ぶりは見事だね。まあ仕方ないよね、〝天災級(カタストロフ)〟の魔物が突然出て来たんだからなぁ。ん? そう言えばアイツ等も〝天災級(カタストロフ)〟だよな? なんだろうな、この差は……。上手くやってるという事か? 妖気も完璧に抑えてたからなぁ)

 

 この混乱ぶりを見てリムルは、他人事のように心の内で呟いていた。

 

 そこへ――

 

「リムルよ、少し話がある。会議を一時中断して、時間をくれ」

 

 ガゼルがリムルの肩をポンと叩き、凄みのある顔で言う。

 リムルは会議を一時中断すると宣言し、ガゼル、エラルドと会議室を出て行く。

 

 会議室から少し離れた部屋に、リムル達は入っていった。

 

 部屋に入るなりエラルドが口を開く。

 

「先に言っておきましょう。私は天帝陛下より、全権を任されております。私の言葉が魔導王朝サリオンの立場を決めるものとなる。その事を踏まえて、説明をお願いします」

 

 エラルドは親馬鹿の顔ではなく為政者、魔導王朝サリオンの大貴族の顔で述べた。

 

 この時点で魔導王朝サリオンは、まだ敵とも味方とも言えず、リムルの説明次第では敵になると言ってるのだ。

 

 ただし、エラルドの場合は、娘の仕出かした後始末をする必要もあった。

 

 そして最悪の事態に陥った場合には――

 

 天帝より――最強最悪には、最強最悪をぶつけてよい、と。

 最強の切り札を切る、権限をも与えられていた。

 

 天帝が隠し持つ最強の切り札――〝番外魔王〟である。 

 

 エラルドは、直接〝傭兵商会・ルヴナン〟に依頼を出せる特権を貰って来ていたのだ。

 

 だがしかし、この切り札を切れば――魔導王朝サリオンは間違いなく人類の敵とみなされるだろう。

 人類の敵、〝番外魔王〟と契約を結んでいるのがバレるであろうから……。

 

 だからエラルドなのである。

 彼ならば、冷静に状況を分析し、的確な判断をするであろうと。

 天帝から絶対的な信頼を得ている彼だからこそ、与えられた特権。

 

 〝愚者〟では、この特権は到底扱えない代物であるのだ。

 

 

 それにリムルは。

 

「わかった。ならば俺も、全て真実を話すと誓おう」

 

 リムルがそう約束を宣言し、ここに三者密談が始まった。

 

 

「それで、話とはなんだ?」

「とぼけるな。〝暴風竜〟復活とはどういう事だ!?」

 

 その問いにリムルは、かいつまんで事の経緯を説明した。

 

「想定外だぞ。お前が魔王になったというのも問題だったが、それ以上の難題を用意するとはな……」

 

 説明を聞きながらガゼルは難しい顔付になり、頭を抱える。 

 そこへエラルドが問うて来た。

 

「それで、リムル殿。あの方は本当に本物の――」

「ああ、そうだ。間違いなく、ヴェルドラだよ」

 

 人型であり妖気も隠しているから、にわかには信じられないでいるエラルドだが。

 

「いや、そうであろうな。邪竜の名を騙る愚か者など、人にも魔にもおるはずがないですな(邪竜などと、御二人に聞かれたら、怒り心頭で文句を言われるところ。まあ、この場では致し方ありませんな)」

 

 名前が重要な意味を持つ魔物は言うまでも無く、人間にとっても邪竜を騙るなど以ての外である。 

 

「しかし、どうしたものか……」

「そうですな。私としても、娘の仕出かした件の後始末で手一杯だというのに……」

 

 言いながら顔を見合わせる、ガゼルとエラルド。

 仲の悪そうで実は、意外に仲の良い二人であった。

 

「公表するか隠蔽するか、それが問題よな」

「西側諸国は問題あるまい。我が魔導王朝サリオンでも、天帝陛下に報告するだけでよい。問題は――」

「西方聖教会、か。あそこには隠し立ては通じぬ。教会は、〝竜種〟の中でも特に〝暴風竜〟を敵対視しておるからな。あの〝番外魔王〟とつるんでみろ、もたらされる被害は尋常ではなくなるしな。復活すればすぐに気付くであろうよ」

「隠蔽するならば、我々も知らなかった事にする他あるまいが、それは通じまい。どちらにせよ、〝神敵〟に認定されるだろうさ」

 

 交互に意見を出し合うガゼルとエラルド、それに合わせて頷くだけのリムルに二人が、「お主も考えぬか」「もっと、真剣考えてもらわねば」とか怒る様に言い、リムルはそれに答えた。

 

「どっちにしろ、ヴェルドラの事は隠し通せないのだから、公表するつもりだ。西方聖教会は避けて通れないだろうしな。まあ、なんとかするさ。それに〝番外魔王〟と復活したヴェルドラは、既に会っているからな」

「そうか……奴等は既に来ていたか。ふむ、貴様がそう決めたのなら、俺に文句はない」

 

 ガゼルが迷いなくリムルを後押しする。

 

「魔王と竜種が手を組む、笑えない冗談ですが……まあ、いいでしょう(こちらも、人の事は言えないですからな)。正直な話、想定以上に厄介な問題となってしまいましたが、逆に考えれば幸運でした。今、ここで、この会談に参加できたのですから。我が国の立場を決定するのに、これ以上のない情報を得られたのです」

 

 エラルドは人の悪い笑みを浮かべ、大国としての立場から意見を述べた。

 

 つまるところ――魔王たる災禍級(ディザスター)と、竜種たる天災級(カタストロフ)が共存する国に喧嘩を売るのは愚かな事だということで、それにはガゼルも同意で、重々しく頷いていた。

 

 だが、エラルドの場合は、〝番外魔王〟が持ち返った情報から、天帝が吟味し、エラルドもそれを元に下した判断であったのだが。

 

 その情報が記された文書の最後に記載された後書きが、決定打でもあったのだ。

 

 ――取り込むのはむりどす。出来る事なら、この国と手を組みなはれ。そうすれば、あんさんらの国は、更に盤石なものとなりますえ――

 

 この後書きであった。

 

 

「今の発言は、俺達が西方聖教会を敵にしても、味方してくれる、と受け取ってもいいのか?」

「それを、聞くか? リムルよ。貴様はもう少し、腹芸というものを覚えた方がいい。これが密談でよかったぞ……」

 

 ガゼルは苦々しく言いながらも、懇切丁寧に説明をリムルにする。

 

 まず、リムル達と敵対する理由も無いのに、国を危険に晒すなど理に適ってないと。

 西方聖教会には義理もなにもないから、そう言う事だと。

 

 これまで通り中立の立場から魔国との国交を維持すると、ガゼルはリムルと約束を交わした。

 

「ありがとう、ガゼルが協力してくれるなら、心強いよ。ところで、エラルドさん――殿は、どうしてそこまで親身に……?」

 

 そこでリムルがエラルドに問うと。

 エラルドは少し面白くなそうな顔で答える。

 

「〝さん〟でも〝殿〟でも、この場では好きに呼んでくれて結構。ですがリムル殿、公の場では名前と役職で呼んでください。貴殿は仮にも一国の主なのですから、公の場で他国の重鎮にへりくだる必要などないのです。属国になりたいのなら別ですがね。とまあそれはともかく、質問にお答えしましょう」

 

 そしてエラルドは、ここに来た理由と目的を語り始める。

 

 事の発端は、娘のエレン。

 

 エレンが魔王覚醒の情報を流した事で、その責任を追及されたのだ。

 言ってみれば、新たな魔王を生み出したようなもので、国としては放置できないと。 

 

 しかし、そこは大公爵エラルド。

 問題を握りつぶし、新実を知るのは天帝のみという状況を作り上げた。

 それにはツキハとコハクが売っていた情報の一部が使われたのは言うまでもないが、これに関しては話さず秘匿した。

 

 後は状況がどう動くか見極め、それに応じて動くのみ。

 あらゆる手を使い、リムルが魔王になった情報を得たエラルド。

 魔王化に失敗していれば、惚けていれば済んだと言うも。

 

 成功してしまったなら、国としては無視出来ない。

 リムルの性質を見極め、最悪の場合討伐部隊を派遣する事も、視野に入れていたと。

 

 この討伐部隊に関しては〝番外魔王〟の事なのだが、討伐部隊には変わりないので、敢えて言葉のままにした。

 

「そんな訳で、情報を知る者を増やしたくなかったのだ。それで私自ら出向いたという訳さ」

 

 そう言いエラルドは、話を締めくくった。

 

「それで、その判断は?」

「そうですな……。敵対よりも、友好を選びますな」

 

 これによりリムルが邪悪ではないと、魔導王朝サリオンは判断した事になる。

 

「まあ、当然の選択よな」

「勿論です。我が国は宗教の自由を認めていますし、ルミナス教のみ信仰してるわけではないですからな。なによりも、国家としての利益を優先させただけです」

「フンッ。貴様は気にくわないが、何故か意見は同じだな。我が国も西方聖教会と志を同じにしてはおらぬ。最初から友好国である魔国連邦(テンペスト)を支持するつもりであったわ」

 

 そう言いながらガゼルは、エラルドと笑みを交わした。

 

「だが、問題がない訳ではない。リムル殿が滅ぼしたファルムス王国軍だが、戦争だと言っても流石に死者が多過ぎです。それを提案したのが娘なだけに……」

 

 難しい顔でエラルドが言葉をこぼした。

 

(そうか……これが本当の目的か。俺が邪悪かどうかではなく、戦争被害の状況が西側諸国に広がる事こそ問題にしていたのか)

 

 エラルドのこぼした言葉を聞き、リムルはその心中を察する。

 

 そこでガゼルがニヤリと笑って言って来る。

 

「安心しろ、策は考えておる」

 

(んん? アレか!? さっきガゼルが言ってた、ファルムス王国軍が行方不明になったという。アレか!)

 

 ガゼルがさっき、しきりに強調していた軍勢が行方不明になったという、アレに気付くリムル。

 

「死体も全て消え、証拠はない。恐ろしい事に、誰一人として生存者はいないそうだな? それならば、どうとでも筋書きは変えられよう?」

 

 そうガゼルは言い、口端に笑みを浮かべる。

 

「ほほう、その話は実に興味深い。ガゼルよ、勿論だが私にも、脚色させてもらえるのだろうね?」

「うむ。勿論だ」

 

 エラルドが為政者の顔になり、ガゼルも王の顔になり――顔を見合わせてニヤリ頷く。

 

(そうか……これが政治かぁ。これ以上西側諸国に介入されない様に、自分達に都合のいい話をでっち上げる。これがエレンの為にもなるし、ひいては自国の利益に繋がるか……)

 

 綺麗事だけでは国は治められないと、リムルは改めて思い直し、主としての覚悟を決めた。

 

 そのリムルの顔を見て察したのか、ガゼルが言葉を掛ける。

 

清濁(せいだく)併せ呑む覚悟は決まったようだな、リムルよ。そうだ、それでいい。王たる者は、悔いてはならぬのだ」

「覚悟なら、もうとっくに出来ている。それで、どう説明するつもりなんだ、ガゼル?」

「フフ、ならば良い」

 

 リムルの覚悟を見て、満足そうに言うガゼル。

 

 それを見ながらエラルドは……魔国連邦(テンペスト)へ出発する直前に、いきなりツキハが来て言った言葉を思い出していた。

 

『久しぶりだね、エラルド公』

『おや、珍しいではないですかツキハ殿』

『忙しい時に悪かったね』

『いや、構いませぬぞ。今暫く時間はあります故』

『そう。なら手短に済ますね。もし、なんかあったらさ、あたしらをダシに使いなよ。どうせガゼル王も来るんでしょうから――その時に何か出たら、あたしらの名を使いなよ。〝番外魔王〟の名を、ね』

『え? それは、何故に――』

『エレン。あの()さ、優しいし人を見る目は確かだからね。その、あの()が気に入った国と魔物だもの。それに、〝エル姐さん〟も心配してるしね。もちろん、あたしもコハクもエレン好きだから。ふふ』

『それは……。ありがとうございます、ツキハ殿』

『いいよいいよ。なんせお得様だからね! きばりや、親バカ! うひひひ』

『そ、それは、あぁ……はい』

 

 ツキハの言葉を思い出しながら、心の内でフッと笑い気味に呟く。

 

(フッ……。陛下が個人で抱き込む訳ですな、どこまで見通しておるのやら。本当に、優しくも恐ろしい御方ですな、御二人とも) 

 

 それから短い時間の中で、綿密な打ち合わせを行う三人

 

 ………………

 …………

 ……

 

 そして、三者密談も終わり、大会議室へと戻るリムル、ガゼル、エラルド。

 

 

 魔国連邦(テンペスト)の進むべき道も決まり。 

 

 

 気を引き締めた顔で大会議室の扉を開ける、リムルであった。

 

 

 




 三十四話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!




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