忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
ある集団は……だらけていた。
それは、もう凄まじくだらける――
〝忍魔猫〟達である。
そんな〝忍魔猫達〟を、森の管理者であるトレイニー達が、何故探知出来ないのか?
それは、ツキハの権能・〝猫騙し〟が――
〝魂の回廊〟を通じて、
その、異なる術式を幾重にも重ね同時展開させる事を可能にしているのが、権能・〝並列起動〟
それに加え、〝忍魔猫〟達は、気配を偽り他の気配と同化し隠す事も出来た。
これはツキハとコハクが忍びの頃に身に付けていた気配の隠し方で、それを二人は〝忍魔猫〟達に教え込んでいた。
そう、気配を消す事も隠す事も、自在なのである。
〝猫騙し〟、
同時に強ささえも偽り、隠し通す事も出来る権能。
ツキハとコハクはこの権能を使い、人化し人間社会に溶け込み――
魔物でありながら、身分を偽り傭兵商会を経営してるのであった。
この偽装隠蔽術式を
そのギィとミリム、ヴェルドラにしても最後に展開されてる偽装隠蔽術式を突破出来ていない。
だがしかし、ギィとミリムはこの最後の偽装隠蔽術式が、
最古の魔王と最強の〝竜種〟すら騙し通せる権能・〝猫騙し〟。
隠し、騙し通す事に特化したこの権能は、ある意味この世界では反則級かも知れなかった。
傀儡国ジスターヴの領地境界線辺りで、休息と言う名のだらけ行動を取るロモコ班。
正確には、ロモコ以外の〝忍魔猫達〟が待機状態に飽きて、勝手に行動し始めていたのだ。
『あ、あ、あなた達! もう、勝手に行動してはダメだと言いましたよね!? コハク様からは、別命あるまで待機と言い付けられたでしょうがあ!!』
寝ている〝忍魔猫〟はいいが、腹減ったと狩に出て未だに帰らない〝忍魔猫〟、四十匹。
その
連れて帰ってきたら、別の〝忍魔猫〟達がいないので、あった。
『もう、いい加減にしないと、コハク様に言い付けますよー! ハァハァハァ(つ、疲れる。捕まえて連れ帰れば、別のヤロウどもがいなくなるし。何ですか? このイタチごっこは……)』
『『『『『『ごめんにゃーー! もうしないにゃー(アホが、こんな愉快な暇潰しやめられるか! ニャハハハ)』』』』』』
これである。
暇つぶしと称した、〝忍魔猫〟達の遊びでロモコは振り回されていたのだ。
しかし、これはいつもの事である。
何故この生真面目で優柔不断なロモコが、六百一番から七百番までの眷属を率いれるのか?
それは、六百一番から七百番の眷属がロモコ以外の命令は、聞かないのである。
一度他の眷属が六百一番から七百番の眷属達を率いて、とあるお役目に就いたが、結果は散々であった。
ロモコ以外で、この九十九匹に言う事を聞かせられる〝忍魔猫〟は――
イチコだけである。
眷属の
ロモコがこの班のリーダーになれる理由。
それは、およそ三千年前に遡る。
ある事で、六百一番から七百番までの眷属達が、とある魔人の集団三百と揉め事を起こしたのだ。
そう、眷属達の中でも一際癖のある〝忍魔猫〟達が、六百一番から七百番までの眷属。
その時の六百一番から七百番までの眷属達は、まだDクラス程度の強さしかなかった。
あわや、皆が殺されるという時に、ロモコがニコとサンコを連れて助けに来たのである。
ロモコもその頃は、D+程度の強さしかなかった。
しかし、傷付いた仲間を助けつつ、自分も戦い。
ボロボロになりながらも、一歩も引かず戦った……。
結果、ニコとサンコがその魔人の集団三百をボコボコにシバキ倒して、その場は収まった。
深手を負いつつも仲間を気遣うロモコに、六百一番から七百番までの眷属達は、ロモコに一目を置くようになったのだ。
しかし、そこは一癖も二癖もある六百一番から七百番までの眷属達。
絶対に本心は、ロモコには見せないのであった。
それからは、ロモコがこの問題猫達を率いる事となり、今に到る。
因みに、六百から七百までは――
コハクが名付けをした魔猫達なのだ。
そんなロモコをからかいながらも、なんだかんだ言って付いて行く六百一番から七百番の〝忍魔猫〟達。
『いいですか? 私も結構疲れてるんですよ? お願いですから、目の届く所で勝手してくださいね? お願いしますよ!? ほんとにもう、なんでいつも……ブツブツブツ』
『『『『『『にゃーーい!(すまんにゃ~ でもにゃ、これはこれなのだ! ニャハハハ)』』』』』』
短毛茶トラ種〝忍魔猫〟、生真面目でありながら、どこか優柔不断なロモコ
眷属随一の問題猫九十九匹。
悪態も付く、悪さもする――
でも、〝ロモコ大好き〟六百一番から七百番の眷属達。
間もなく戦端が開かれようとする中、お気楽な〝忍魔猫〟達のしばしの休息なのであった。
一方、
リムル達の反撃の手立ては揃い、部隊編成も迅速に決まっていった。
部隊編成の指揮はベニマルに任せ、〝
そこへソウエイが、気になる事を報告して来た。
それは、竜を祀る民が、クレイマンの軍勢に合流したとの事だった。
「百名? その程度なら問題ないか……。ところでソウエイ、竜を
リムルは聞き覚えの無い、竜を祀る民についてソウエイに問う。
「はい。竜、つまり竜皇女であるミリム様を祀る者共です」
「なるほど、ミリムの配下か。いや待てよ、ミリムは配下はいないと言ってたし、勝手にミリムを敬っているだけかもな」
聞けば国の名もないような集団だと言い、その数は全体で十万に届くかどうか。
ひっそりと、自然と調和して生きる者達だとソウエイは説明する。
ソウエイもそれ以上の情報は掴んで無いらしく、リムルはこの件を一旦保留とした。
作戦会議が進む中、三獣士は先に退出し、部下の戦士達に作戦内容を伝えに行く。
ミュウランもファルムス王国出発の準備を手伝うべく、ヨウム達の所へ向かった。
身内だけになったリムルは、気が楽になったのか軽く伸びをして、リラックスした姿勢を椅子の上で取る。
「クレイマンの居場所が特定できれば、『空間転移』で殴り込んで終わらせられたんだけどな」
「申し訳ありません。魔素濃度が高い霧が発生している場所があり、危険と判断してその先には進めませんでした」
ソウエイが謝罪しながら言うも、問題ないとリムルは返す。
「何名かで、手薄になった敵の本拠地を探ってみますか?」
「ですが、クレイマンは
ベニマルの意見にシュナが涼しい顔で否定する。
それを聞いたベニマルは苦々しい顔を浮かべるも、更に。
「そうですな。それに、敵の軍勢を舐めて掛かって、敗北をしてもつまらぬ。ベニマル様には、しっかりと軍を纏めてもらわねば」
ハクロウがダメ押しをして、この案はボツになった。
そこへシオンが、「はい!」と、元気よく手を上げて来た。
リムルが発言を許可する。
「その
目をキラキラさせながら、のたまうシオン。
(馬鹿に聞いた俺が間違っていた……)
こめかみに血管が浮き上がりそうになるのを我慢するリムル。
「なあシオン、どうやって斬り捨てるんだ? 現実的な意見を言えよ? そんな事して見ろ、逆に俺が返り討ちにあうわ!」
クレイマンだけならまだしも、他の魔王達まではいかなリムルといえども、無理である。
リムルの叱責にショボンとなるシオン。
そんなシオンを見て、リムルはちょっとだけシオンにフォローを入れる。
なんだかんだ言って、シオンに甘いリムルなのであった。
「だが、乗り込むってのはいいかもな」
シオンの顔が見る見るうちに晴れやかになって来る。
「なあ、ラミリス。俺も参加できるかな?」
ラミリスに聞くリムル。
「うぇっ!? 参加する気なの、リムル?」
「いや、参考までに聞いただけなんだ。でも、こちらから出向くのも面白いかなって、な」
「うーん、多分大丈夫だと思うけど。でもね、付き添えるのは二人までだよ!」
配下を多数連れての参加は、要らぬトラブルが増えるからダメだとラミリスが説明する。
過去に幾度か、魔王同士のトラブルがあったとの事だった。
「これは、参加するのも面白いか?」
「クフフフ、素晴らしい案です。その時は是非、私が御供を――」
「馬鹿め、ディアブロ! 御供はこの私です。譲りませんよ!」
またも言い争いを始める二人。
リムルは、こんなの連れていくのは自殺行為だなと頭を抱えた、ら。
「いずれにせよ魔王の皆様と戦いになるならば、打ち破れば済む話。そもそも、魔王はリムル様御一人で十分でしょう?」
「その通り! 馬鹿かと思っていたが、新参にしては見所があるぞ! まさに今、私が言わんとした事を言ってくれた!!」
仲が良いのか悪いのか、この二人。
魔王達をぶちのめす事で意気投合した二人であった。
(なんでそうなる?)
リムルがジト目で二人を見ながら見回せば、何名かがその意見に同意していた。
そして、振り出しに戻りどちらが御供するかの争いが再燃するのだが、リムルの一言でディアブロは却下された。
何故なら、ディアブロはファルムス王国攻略へ行かねばならないからである。
そんなリムルにも、気掛かりな事が一つあった……。
それを――
「リムル様が心配しているのは、ミリム様の動向だ。ミリム様が裏切ったと思えないが、クレイマンに操られている可能性も否定できない。何らかの、御考えがあるかも知れないが……。少なくとも、魔王カリオン様を討ったというのは事実。自ら乗り込んで、その真意を探るのは悪くない手だと思うぜ」
「その通り、魔王ミリム様まで発議に名を連ねているというのが気になります。やはり、何らかの策謀があるのではないですか?」
驚く事に、ベニマルがリムルの心情を言い当て、ソウエイまでもが問題点を的確に指摘して来た。
ベニマル達はリムルを
「そうよね、ミリムがクレイマンの言いなりになるなんて、先ずあり得ないと思うよ。だって、ミリムってめちゃ我侭だし!」
ベニマル達の言葉にラミリスが続く。
リムルが(君が〝我侭〟って、それを言うかね?)と思ってるところへ。
「ミリム様がリムル様を裏切るなんて、絶対に考えられません! 根拠のない勘ですが、間違いないと確信します!」
そう断言するシオン。
(なるほど、根拠はないが、か。俺もそう思う――)
《告。データ不足ですが、〝番外魔王〟の二人が昔からの友達と、魔王ミリムが言っていた記録があります――》
『――ああ、あれな。俺が、お前友達いないんだろう? と、からかったら。昔からの友達もいるのだぞ! と言っていたな。〝番外魔王〟の二人が友達だと。軽く聞き流していたから、今まで忘れていたよ――』
《その友達である〝番外魔王〟の二人が、
『確かにな。思い出したけど、二人の事を話すミリムは、凄く楽しそうに話してたからな』
《了。それ故、〝番外魔王〟の二人は、魔王ミリムがクレイマンに操られてはいないと確信してるのではと、推測します。でないと、何らかの状況変化が起きない限り、あり得ないと判断します》
『……だよな』
(俺は、ミリムを信じることにする)
「ミリムが俺を裏切っていないという意見には賛成だ。だから、何かあったと考える。それに、クレイマンが原因だと考えるのも、いい読みだと思う。だから、
とにかく、リムルは何かがあったと考える。
ミリムの件を放置は危険すぎる、と。
それは、とても危険であり、下手をするとミリムにツキハとヴェルドラという、三つ巴の戦いが起きる可能性がある。
これは絶対に避けねばならない、リムルはそう判断した。
それからは、
先ず一人目は――
シオン。
連れて行かないと暴走しそうというのもあるが、もうベニマルではシオンを押さえるのが難しくなって来ていた。
以前より、格段に強くなっていたシオンなのだ。
それにシオンはクレイマンの策で、一度死んだ――
ならば、その恨みを晴らす機会があるかも知れないという事で、リムルはシオンを選んだ。
次に選んだのは……。
ランガ。
理由は、ランガが期待して聞耳を立てている気配が伝わったのもあるが、護衛としても頼もしいので連れていく事にした。
ベニマル、ソウエイ、ガビル、ゲルド達は、クレイマン軍勢との戦いがあるので、駄目なのであった。
「よし、俺も参加する。シオンとランガを連れて行く。俺も参加出来るか打診してくれるか?」
「うん、わかった!」
ラミリスが気安く請け負い、魔王専用回線で全魔王に向けてリムルが
リムルはそれを感心しつつ眺め、(空間干渉による、同時通信か?)などと考えていると。
「クアハハハハ! そうか、やる気になったか! 水臭いぞリムルよ、我も共に行こうではないか! 我が付いて行くのだ。魔王共など、恐るるに足りぬわ!! ついでにツキハとコハクを巻き込んで、魔王共を倒すのも面白いぞ!!」
いつの間にかマンガを読み終わったヴェルドラが、リムルに歩み寄りながら豪語する。
しかし、リムルはヴェルドラを連れて行く気は無く、次の言葉を言い放つ。
「まあ待てよヴェルドラ。お前にはこの街に残ってもらい、この街の防衛をお願いしたい」
「なにッ!? 我も行くと言ったであろう。我ならば魔王共にも引けは取らぬぞ!」
リムルの言葉が予想外だったのか、驚くヴェルドラ。
それをリムルは、街の防衛がいかに重要かを説明し。
特に、リムル達が留守の時に、西方聖教会による討伐部隊が来た時の危険性を語る。
しかし、ヴェルドラならば如何な討伐部隊が来ようとも、問題では無いとも言った。
「――てな訳で、留守番を頼む」
「ムゥ……」
どうも納得のいかないヴェルドラ。
そんなヴェルドラに、本当の理由を言おうとした時。
魔法通信を終えたラミリスが――
「ちょっとリムル! 参加はオッケーだったけど、酷くない? 師匠はアタシの配下として来てもらえばいいじゃん。それならアタシも安心だし!」
と、もっともな意見を言うラミリス。
だが、ラミリスには――〝脱ボッチ魔王〟という目論見が隠されていたのだ。
(……いや、それお前……あれだろ?)
それをすかさず見抜いたリムル……ヴェルドラも同様だったのだろう――
「……いや? 我は別に、お前のお守で付いて行きたい訳ではないのだが?」
アッサリ断るヴェルドラである。
「うぇえーー!? そんな……冷たいよ、師匠!?」
リムルが「師匠ってなんだよ?」と言うも、それを無視してヴェルドラに詰め寄るラミリス。
どうやら、ヴェルドラとラミリスはいつの間にか、漫画友達になっていたようだ。
そんなやり取りが暫く繰り広げられ、リムルがヴェルドラに本当の理由を告げた。
「実はな。ヴェルドラは俺の
「クアーーーーッハハハハ! なるほど、我は遅れて来るヒーローという事だな!」
都合よく納得をするヴェルドラを見ながら、リムルもそう納得してくれるならそれでいいかと、思う。
それにラミリスが呟くように文句を言った。
「それ、ズルくない?……」
「馬鹿だなラミリス。賢いって言って欲しいね」
ラミリスは不満そうにしてるが、ヴェルドラはなるほどと唸っていた。
そして、リムルは一枠空いた従者枠を誰を付けるか、ラミリスに言うと。
とたんにラミリスの機嫌が良くなる。
どうも、従者が二人いれば満足な様子である。
本当に単純に、他の魔王達に自慢したいだけなんだなとリムルは、小さくクスリと笑みを浮かべた。
「わかってるじゃん、リムル! で、誰をアタシに付けてくれるワケ?」
「そうだなぁ……ハク――」
「お待ちください!!」
ハクロウと言いかけた時、ラミリスの後ろで控えていた女性が声を上げた。
トレイニーである。
「リムル様、その役目は是非とも私に――!!」
「トレイニーちゃん、アンタって子は!」
嬉しそうに目をウルウルさせるラミリス。
「わかった。それじゃあ、トレイニーさんにお願いします」
こうしてラミリスの連れて行く従者も決まり。
リムルの、
リムルは、この戦争に決着を付けるべく動き出す。
一度は一番大事な者達を、殺された怒り――
それは、怒れる火の山の如く、沸々と内から沸き上がって来る。
クレイマン お前は 俺を敵にした
俺の仲間達に手を出した報いは
必ず受けてもらうぞ
そこには、細々と悩むリムルは、もういない。
しっかりと、為すべきことを見据えた――
魔王リムルが、いた。
三十九話を読んで頂きありがとうございます!
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