忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。四十一話です

 ※作中に出てくる、〝丹前帯〟と〝下緒〟の簡単説明です。

 〝丹前帯(たんぜんおび)〟//巾5cm 長さ240cm程の帯です。
 この帯は、温泉旅館などで浴衣と一緒に置いてある帯です。

 〝下緒(さげお)〟//刀の鞘に巻いてある紐です。この紐を帯に軽く巻き付け、刀が帯から不用意に抜けたり、落ちたりしない様にするもので。
 帯から垂れ下げて巻いたり、鞘に半分以上巻いたまま帯に軽く巻くだけとか、流派やその当時の流行りで色々あったみたいです。
  ※〝打刀〟
【挿絵表示】


 ツキハの巻き方は、軽く垂れ下げて巻いてある感じです。
 帯から抜いて、逆手抜刀で斬りかかる時は、紐を帯には巻いていません。

 描写的にはこんな感じで書いています。







41話 早朝変態目覚ましの襲来

 

 空が白み始めていく頃。

 

 とある隠れ家にある、一つの寝室。

 ベッドには、一人の亜人の少女が寝ていた。

 

 藍色の甚平を寝間着に、掛け布団を横に蹴り飛ばして大の字で寝ている少女は――ツキハであった。

 

 時折お腹をポリポリと搔き、寝返りを打ち、左肩を上に横向きになる。

 

 任意に低位活動状態(スリープモード)を起こし、ここまで出来るようになったツキハ。

 あたかも寝ているようにしか見えないこの状態は――ある意味、無駄に〝芸〟を極めているともいえた。

 

 因みに、コハクも同様にこの状態を作り出せる。

 

 そのツキハの寝室に、誰かが、音も無く静かに――侵入して来た。

 

 薄い桃色の浴衣に藍色のアサガオの花の柄が入っていて、濃い桃色の丹前帯を締めている少女。

 ツキハの枕もとに立つと、帯をスルスルと解き、パサリと下に落とし。

 着ている浴衣もスルリと脱ぎ落す。

 

 全裸になり、頬をほんのり赤く染めるその少女は――コハク。

 

 コハクは、そっとツキハの背中側に沿う様に、寝る。

 

 そして……。

 

 そろーりそろーり、と。

 左手で、ツキハのお尻を柔らかく優しく、撫で回していく。

 

 ツキハの尻尾がピクピクっと波打ち、スーッと上に立つ。

 

 左手が次に狙うは――ツキハの胸。

 

 ゆっくり、悟られぬように、ゆるるる~と這う様に左手が、ツキハの胸の前に来ると。

 

 パチッ パチッ パチチッ パリッ 

 

 上に立てたツキハの尻尾の先が小さく、放電を始める。

 

 ツ~キ~ハ~ カ・ン・ネ・ン・シ・ナ・ハ・レ~ 

 

 コハクが甘く囁くように呟き、ツキハの胸元を広げ――

 左手を胸に、差し込もうとした瞬間――

 

 バヂッ!! バチチチチッ!

 

 きゃうん!

 

 〝コハク撃退用雷遁・お仕置き電撃尻尾(スタンテイル)

 ツキハの尻尾電撃が、コハクの尻に直撃していた。

 

 更にツキハの尻尾の先が、窓の方へ向くと、一人出にガシャッと音を立て開き―― 

 

 バガンッ!!

 

 凄まじい音が寝室内に響く。

 全裸のコハクが窓から外に向けて、もの凄い速度で張り飛ばされていった。

 

 ズズズン 地面を揺らす程の振動が寝室まで届き、隠れ家の家を揺らす。

 

 精神体(スピリチュア・ボディ)まで貫通感電して目を回したコハクを、ツキハの尻尾が『重力操作』でコハクを持ち上げ、思い切り外に向けて尻尾でコハクを張り飛ばしていたのだ。

 

 窓から叩きだされたコハクは、数十メートルも地面を抉り、そのまま地面に抉り込むようにめり込んでいた。

 まるでモグラが穴を掘ったかのように地面が盛り上がり、その穴の底にコハクが埋まっていた。

 

 寝ぼけ眼で窓まで来たツキハが、半目で吐き捨てる。

 

「毎朝毎朝、〝変態目覚まし〟は、いらんちゅーの。アホか」

 

 そう言い放つと、パタンと窓を閉め。

 いつもの装束に着替えて、朝ご飯を食べにどこかの街へと『空間転移』していった。

 

 ツキハがいなくなると、埋まった地面の穴からゴソゴソと出てくるコハク。

 何事も無いように体を軽く振り、体に付いた土塊と(ほこり)を体から飛ばす。

 

「アホちゃいます。一途と、言って欲しいどすなぁ。フフフ」

 

 身を(よじ)りながら言い、全裸のまま隠れ家まで戻り。

 風呂にでも入りましょかぁと独り()ちながら、風呂場に向かうコハク。

 

 この世界に転生して来てから、五千年。

 相も変わらぬ、ツキハとコハクの関係である。

 

 

 ほわり差す朝焼けの光の中、ブルムンド王国の露天街に露店の店主達が続々と集まり。

 今日売る品物を、担いだバックパックや馬車から降ろし、露店の商品棚に様々な食べ物や雑貨等を並べていく。

 

 その立ち並ぶ露店街から少し離れた飯屋に、人化したツキハが来ていた。

 

 真ん中辺りの小さな四角いテーブルに座り、ほんのり甘く酸味の利いた果汁の飲み物とカリカリに焼いたベーコンに目玉焼きを乗せたベーコンエッグと焼いたソーセージに、何種類かの野菜に塩を振ったサラダを食べていた。

 

 明後日に迫った魔王達の宴(ワルプルギス)に出るの、めんどくさいなぁと思いながら、フォークにソーセージを刺してもぐもぐと食べるツキハの前に、二人の男が立つ。

 

 一人は目が少し吊り上がった、若い二十代位の男。

 もう一人は、三十代前半位の身長百八十はある筋肉質の男。

 

 若い男が、不躾(ぶしつけ)に口を開く。

 

「おい、ガキ。久しぶりだな、ようやく見つけたぜ。いつぞやの剣のお礼、利子を付けて払って貰おうか。ああ?」

 

 そうこの男は、ツキハが〝妖刀・時雨(シグレ)〟で、特質級(ユニーク)の剣を一刀両断した剣の持ち主、二刀使いの男。

 もう一人は、大剣を一刀両断された男だったのだ。

 

 あれから一旦引いたものの、特質級(ユニーク)の剣を一刀両断された恨みを、忘れてはいなかったのだ。

 

 行商人の護衛でブルムンド王国に来ていた二人の男は、ツキハが飯屋に入るのを偶然見かけ。

 すぐさま他の仲間達に声を掛け、仲間を引き連れ戻ってきたのだ――ツキハに、剣を切られた恨みを晴らす為に。

 

「ん? だれ?」

 

 ツキハは男を見もせずに、果汁の飲み物を飲みながら言葉を吐く。

 

「なあ、姉ちゃんよ。少し位強いからといって、あんまり大人を舐めてると――痛い目を見る事になるぞ。ククッ」

 

 今度は、大剣使いの男が、下卑た嗤いを浮かべながら、ツキハを見下ろす。

 時雨を持っていないのも確認した、この行為である。

 ツキハは〝下緒〟の〝空間収納〟から時雨を出そうともせず、朝食を食べ続けていた。

 

「とりあえず、金貨百枚置いていきな。お前なら、そのくらい何でもないんだろう? 無いなら、どこかの娼館にでも、売り飛ばしてやろうか? フヒヒッ」

 

 ツキハの身体を嘗め回すように見ながら、薄く含み笑いを漏らす二刀使いの男。

 

(あぁー 朝っぱらから、うざっ! もう、殺してしまうかな、こいつら)

 

 剣呑な表情を表し、ツキハは一瞬殺そうかなと思うも、(でも、一銭にもならんしなぁ。コハクが後で煩そうだし、どうすっかな……)など考えていると。

 

 そこへ。

 

「シカトすんじゃねーよ、このガキっ!! おいお前ら!」

 

 大剣を持つ男が、後ろにいる十人の男達に声を掛ける。

 ブロードソードやバスタードソード、ショートソードなど持った年齢様々な男達がツキハのテーブルを囲む。

 その中に魔法使いが一人いて、全部で十人。

 二刀使いの男と大剣の男を入れると、全部で十二人であった。

 

 ツキハの近くにいる客達が席を立ち、皆そこから離れていく。

 

 朝食を食べ終わり、ウッドジョッキに入った果汁の飲み物を飲み干し。

 コトリとウッドジョッキをテーブルに置き、男達を見回しながら――

 

「ねえ。ここじゃ、店の迷惑になるからさ、表に出なよ」

「ああぁ゛!? 表だとぉ? いいだろう。後悔するんじゃねえぞ、クソガキがッ!!」

 

 ツキハが相変わらず剣呑そうに大剣使いの男に言い、右人差し指で入り口をクイックイッと指す。

 大剣使いの男は声を荒げ返し、連れて来た男達に、表に出るように指示をする。

 

 ツキハはゾロゾロと十二人の男達を引き連れて、表通りの広い所に出て来た。

 今この通りは、古い石畳を張り替える作業の途中で、地面が剥き出しになっていた。

 

 朝市が始まり、人の賑わいが増すところにいきなり十二人の屈強な男達を引連れて現れた少女に周りの者達が一瞬ギョッとするも。

 ツキハの姿を確認すると露店の店主達は口々に、馬鹿だなあいつ等、知らないよ 見た目で喧嘩ふっかけるなんて、ああ アイツら死んだな、など小さく呟きながら店から離れて、遠巻きにツキハと十二人の男達を眺める。 

 

 ツキハとコハクは、ここブルムンド王国の露天街や酒場にも、人化した姿でよく出没していたのだ。

 ここら辺りでも傭兵少女の二人組として、顔が知れていた。

 因みに名は、幾つかの偽名を使っている。

 この世界では、十代の傭兵や冒険者などは珍しくも何ともなく、ツキハとコハクも例外ではなかった。

 これも、権能・〝猫騙し〟の効果で、魔物である事を隠しているからこそ、出来る事なのだ。

 

 周りの露店の店主達に、「すぐ、終わるからごめんねー」と声を掛けて回るツキハ。

 

 そして、顔見知りなのか、果物を売る一人の女性の所に行き、ツキハが「ごめんねぇ。ちょっと危ないから離れておいてね。この間の果物、美味しかったよ」とにこやかに話し、「また喧嘩かい? まだいるんだねぇ、あんたらの事知らない奴らが。気を付けるんだよ? ハハハッ」と豪快に笑いながら、その女性は店から離れて行った。

 

 それを見ていた二刀使いの男が、魔法使いの男に目配せをする。

 ツキハが、男達のところへ来ると――

 

火炎大魔槍(ファイヤーランス)!」

 

 ツキハの後ろに回った魔法使いの男が、不意打ちでツキハに炎系魔法を放つ。

 

 ドドドンッ!

 

 無数の炎の槍がツキハを覆う様に、襲い来る。

 着弾した炎の槍は、凄まじい火球となりツキハを包み込んだ。

 

 渦を巻くようにうねりを上げる火球が、次第に小さくなり。

 やがて火球が消え失せると、そこには――

 身体からシューッと白い煙を立ち昇らせながら、不敵に笑みを浮かべるツキハが――何事も無く立っていた。

 

 白い煙を上げながらも、身体のどこにも焦げ目すら付いていないのを見て、驚愕の表情を浮かべる男達。

 それでも、一端(いっぱし)に傭兵をやってる男達は、すぐに気を取り直しツキハを囲むように動いていく。

 

 ツキハは後ろにある露店の所に行くと、飲み水を入れている直径四十センチ高さ六十センチの水桶の取っ手を掴み。

 

 おもむろに口元まで水桶を持ち上げ、水をゴクゴクと飲んでいく。

 次にその水を頭からザバリと掛け。

 バシャバシャと流れ落ちる水が黒髪を濡らし滴り落ち、少し俯き加減に顏を下げる。

 濡れた前髪が顔を覆い、その前髪の隙間から、鋭い眼光が男達を睨む。

 

 その鋭い眼光に男達は、一瞬怯むも――

 

「やれっ!!」 

 

 大剣使いの男が叫び、一斉に男達がツキハへと斬り掛かっていく。

 

 先ず左側から来る、ブロードソードを振り上げる男に――

 ツキハは持っている水桶を、男の胸元にポンと放り投げる。

 

 反射的に投げられた水桶を、男が胸元で受け止めた瞬間――

 

 ゴシャッ! 「うぎゃッ」

 

 その水桶ごとツキハの左横蹴り(サイドキック)が、男を蹴り抜いた。

 

 派手な音を響かせて水桶が砕け。

 残った水を地面にぶちまけながら、蹴られた男は身体をくの字に曲げ、数メートル吹き飛んで地面に落ち、ザザーッと横滑りで滑りながら止まる。

 

 そしてツキハは、左半身で顔も左に向け両足は肩幅より大きく開き、腰を深く落としながら。

 左手は軽く開いたまま前に伸ばし、右手も軽く開いたままへその辺りに構え。

 

 シーッと、小さく息を吐き、左半身の構えを取るツキハ。

 

 右からショートソードを持った男が飛び込んでくる。

 ツキハは左半身から素早く右半身に切り替え、突き出されたショートソードを握る右手の内側を左足で外に払うように蹴る。

 蹴られたショートソードが横に飛び落ち、そこへツキハの右回し蹴りが男の左顔面を蹴り抜く。

 蹴られた衝撃で男はその場で一回転し、背中から地面に叩き付けられ。

 

 「ぐほッ……」 気絶する。

 

 更にグレートソードを上段に構えた男の方へ、瞬動で一瞬にして懐に入り。

 

 ダガガガガガッ ズムッ!

 

 鼻から鳩尾(みぞおち)まで降りるように、縦拳の五連打を浴びせ、(とど)めに右掌底を腹部に打ち込む。

 

「がはッ……」

 

 男は声もだせず、グレートソードを上段に上げたまま、崩れるように前のめりに地面に崩れ落ちた。

 

 あっという間に武装した三人の男達を、叩き伏せたツキハ。

 この時の身体能力は、ほぼ最低のレベルまでに引き下げられていた。

 ほぼ、人間の頃に忍びであった位の身体能力であった。

 もちろん、打振も魔闘気も使ってはいない。

 

 ツキハの後ろにいる魔法使いの男が、魔石の(はま)った杖をツキハに向け、水氷大魔散弾(アイシクルショット)を放とうとすると。

 

「死ねっ! 小娘がぁ! !?――」

 

 ブンッ ふわりと舞う土煙だけを残し、ツキハの姿が消えた。

 

 え?っと、消えたツキハの姿を捜そうとした刹那――

 

 ズンッ! いきなり背中を襲う重い衝撃。

 

 魔法使いの男は万歳をするように両手を広げ、両足をバタバタさせながら、吹き飛んで行った。

 

 バムッ 真向かいにあった建物の壁に貼り付く様に全身を打ち付け、ズルズルと地面に落ちていき。

 右手に持った魔法の杖がカランカランと地面に落ち、乾いた音を立て転がる。

 魔法使いの男は、そのまま白目を剥いて意識が飛んだ。

 

 四人目が戦闘不能になる。

 

 魔法使いの男が杖を向けた瞬間ツキハはその場から地面を蹴り、男が背にした壁まで一瞬で飛んでいき。

 壁を蹴り方向を変えて、魔法使いの男の背中に飛び蹴りを叩き込んでいたのだ。

 

「うらああああぁー!」

 

 ロングソードを持った男が奇声を上げて、左から斬りかかる。

 

 それを、左足で振り被ったロングソードの柄を蹴り、男の右手から真上にロングソードが飛ぶ。

 蹴った左足を戻しながらそのまま膝の返しだけで、更に男の右頬を左足で蹴り飛ばす。

 

 意識が飛び掛けてふらふらになった男の右手首を、ツキハは自分の右手で掴み。

 下方向に引き落としながら、左足を男の右腕に絡め、関節を極める。

 

「あがぁああー! やめ、腕が、おれ、おれ、折れるぅー」

 

 次に来たブロードソードの男に、関節を極めた男を向けながら牽制し。

 左に回った男がブロードソードを、横に切り払おうとした時。

 (から)めた左足を解き、ツキハの左横蹴りが男の鼻頭を蹴り砕く。

 

「あがッ は、鼻がぁ……」

 

 その蹴り足をすかさず返すように戻しながら、関節を極めた男の右足を蹴り払う。

 

「ゲフッ」

 

 足を蹴り払われた男は後頭部から地面に叩き付けられ、意識を失う。

 

 そして、鼻から大量の血を流しながら両手で鼻を押さえ呻く男の顔を、右後ろ回し蹴りで打ち抜く。

 

「血が、血がとま――ぐあッ!」

 

 男は横に回転しながら地面に叩き付けられ、ピクピクと体を震わせていいた。

 

 これで六人。

 

 すると、一気に四人がツキハに斬りかかっていった。

 

 先ず一人目に上段右廻し蹴りを見舞う、が。

 スッと身を沈めツキハの上段右回し蹴りを(かわ)すも。

 回転の勢いを殺さずにツキハは、下段水面蹴りに繋げる。

 

 足を水面蹴りで払われた男は倒れ受け身を取るが、そこをツキハが上から右踵で胸を踏み抜いた。

 「グエッ」と潰れたような声を上げ、口から胃の中の物をぶちまける男。

 

 二人目の男の剣を蹴り飛ばし。

 左腕の関節を極めながら振り回し、三人目の男にぶつけるツキハ。

 

「うらぁ 来るなお前!」

「お前こそ邪魔だ!」

 

 ぶつけられた男達がもつれ合う様によろよろとする中、ツキハがタタッとサイドステップで接敵し。

 ポンと軽く飛び、左飛び後ろ回し蹴りをもつれ合う男の背中に叩き込み、蹴りの衝撃が二人の男を貫いていく。

 

「「ぶぎゃッ!」」

 

 抱き合ったまま二人の男は、ズザーッと地面を十数メートル程横滑りしていき、そのまま二人は気を失う。

 四人目は、戦意喪失して逃げようとするところを、ツキハの飛び蹴りが後頭部を蹴り抜く。

 

「う、うわあああ! 助けて、たす――ぎゃうッ!」

 

 後頭部を蹴られた男は、棒倒しのようにその場に前倒しに倒れ、泡を吹き気絶する。

 

 これで十人。

 

 残るは、二刀使いの男と、大剣使いの男だけ。

 

「なんなんだ!? お前はよぉー!?」

 

 両手に持ったロングソードをツキハに向けながら、驚愕に目を剥く二刀使いの男。

 素手で剣を持った男達と、魔法使いの男をあっけなく倒したツキハに、訳がわからないと言ったように喚き散らす。

 

 しかし、ツキハは何も答えず、ただ薄い笑みを口端に浮かべるのみ。

 

 その得体の知れない笑みに、底知れぬ恐怖が内から沸き上がり。

 二刀使いの男の心を、恐怖が喰い荒らす。

 

「く、くそがあああああっ!!」

 

 恐怖で剣技も何も無く、二つの剣をめちゃくちゃに振り回す二刀使いの男。

 

 そんな男の剣を、二本とも軽気にひょいひょい(かわ)しながら、男の手から剣を蹴り飛ばしていった。

 剣が両手から蹴り飛ばされ、唖然とする二刀使いの男。

 そこへ、ツキハの右中段蹴り(ミドルキック)が腹部に刺さる。

 

 ウゲェッ 前のめりになる男の腹部を更に蹴り上げると、ふわりと男の身体が宙に浮きあがる。

 その瞬間、ツキハの左回し蹴りが男を蹴り飛ばす。

 

 一直線に飛んでいく二刀使いの男。

 

 ダガンッ! ワイン樽を積んだ荷車にぶつかり、積まれたワイン樽が激しい音を立てゴロゴロと崩れ落ちていく。

 ワイン樽に埋もれいく二刀使いの男。

 ワイン樽に埋もれた隙間から左手だけが見えていて、何度かピクピク動いていたが、すぐに動きを止め、男の意識が消えたのを知らせる。

 

「うらあーっ!! 死ねやーっ!」

 

 大剣使いの男が大きく振りかぶった大剣をツキハの右後方から、振り下ろした。

 

 それを、ツキハは半歩後ろに身を引いただけで(かわ)す。

 

 ズガンッ 地面にめり込んだ大剣の刃が土塊を巻き上げる。 

 すぐさま大剣を振り上げ、ツキハに向かって横薙ぎに刃を払う。

 

 横薙ぎにされた刃を、ツキハはポンとその場でジャンプして横になった両刃の真ん中に片手を当て、そのまま側転でひらりと反対側に降り立つ。

 

 素手のツキハが、事無げに刃を(かわ)すのを見て大剣使いの男は、顔を真っ赤にして声を荒げる。

 

「ありえねぇ……。お前はユニークスキル持ちなのか!? ああっ? 答えろガキっ!」

「はぁー……めんどくさ。ねえ、なんで絡んでくるのよ? あんた、バカなの?」

 

 質問に質問で返すツキハに、大剣使いの男は更に声を荒げていく。

 

「あ゛あ゛っ!? 人の大事な剣を叩き切っておいて、それか? あの剣はな、やっと手に入れた特質級(ユニーク)の剣なんだぞ!! その価値もわからないガキが何をほざく! いいか、あれはな――」

「もういい、黙れ。あの時も、先に剣を抜こうとしたのは、お前だよな。殺される覚悟は、あるのか?」

 

 ツキハが黙れと言ったと同時に、〝気動操作〟で殺気を大剣使いの男にだけ飛ばす。

 剣呑な表情から、一切の感情が抜け落ち――鋭く切れるような眼光が、大剣使いの男を捉える。

 

「なに!? え?……ひいぃーっ」

 

 今までに味わったことの無い、凄まじいまでの殺気。

 

 その死の手触りにも似た殺気に、大剣使いの男は……心が、握りつぶされ、た。

 

「あ、あっ、あぁ、あぁぁっ……。う、うわああああああああっ!!!」

 

 一気に正気を失った大剣使いの男は、ツキハに向かって狂ったように大剣を振りまわし、斬りかかっていった。

 

 大剣がツキハに向かって振り降ろされた刹那――

 (かわ)したと同時に、その刃の横側を前蹴りで蹴り抜いた。

 

 ガランガランと重く鈍い音を立てながら、地面を転がる大剣。

 大剣が無くなった両手を、信じられないといった顏で見る大剣使いの男。

 

 そして、目の前のツキハに、叫び声を上げ殴り掛かっていく。

 

「お゛わ゛ああああああっ!!」

 

 右ストレートをツキハの顔面に放つ。

 その右ストレートを、ツキハは左手の甲の内側で受け流し、同時に右掌底を男の腹部に打ち込む。

 

「ごふっ……」

 

 ゴワンッ 男の付けている胴を前後から挟むブレストプレートアーマーが、打撃の衝撃でたわみ震える。

 

 そこからツキハの――

 

 縦拳、掌底、裏拳、孤拳、など多彩な拳打が打ち込まれていく。

 

 ガッ ドンッ ガガッ ゴッ 目にも止まらぬ早さで打ち込まれる拳打。

 

 その度に、百八十センチの屈強な身体の男が後ろへと後ずさる様に追いやられていく。

 

 ふらふらになりながらも、両拳を振り回す男。 

 

 その振り回す拳の、右手首をツキハは左手で掴むと、男の右手首を内側に曲げ、関節を極めると。

 自分の右手を貫き手の型にして、へそ辺りのブレストプレートアーマーの隙間の内側から右貫き手を差し込み。

 

 一気に喉元目掛け、突き上げる。

 

 男の喉を、親指と中指、人差し指をカギ爪状に曲げて、喉を掴み――

 そのまま一気に腕を上げると、バガンッと弾けるような音を上げ、前部のアーマーが弾け飛んだ。

 

 弾け飛んだ前部アーマーは、ゴワンゴワンと地面で跳ね回り。

 アーマーの下に来てい緑色のシャツは、ツキハが貫き手でアーマーの内側に腕を突き入れた時にシャツの中まで通っていたのでボタンが全部弾け飛び、だらしなくシャツがはだけていた。

 

 この時のツキハの握力は、優に二百キロを軽く超えていた。

 最大限に加減して、これである。

 

 男の喉を潰さない様に、絶妙に加減して喉を掴み締めていく。

 

「あ、あがっ、ひゅぅひゅぅ……。ぐ、ぐる゛、じぃぃぃ」

「いいか、よく聞きな。一度しか言わないよ」

「は、いぎっ、ひゅぅぅ、いぎっ」

「もう、二度とあたしの前に現れるな、いいね?」

「はぎっ……ひゅぅひゅぅ」

「今度、あたしに喧嘩を売ったら――問答無用で殺すから、わかったね?」

「ば、い゛。ばが、りま、じだ。あがっがっ」

 

 言い終えるとツキハは、男の喉から指を離した。 

 大剣使いの男は指の跡が付いた喉を両手で押さえ呻きながら、ゆらゆらとその場で体を揺らす。

 

 スッと右半身を取るツキハ。

 

 そして、右横蹴り(サイドキック)を大剣使いの男の胸に放った。

 

 胸を蹴られた男は、くの字に体を折り曲げながら吹き飛び。

 真後ろにある露店の品を置く、傾斜が付いた陳列棚に激突する。

 

 様々な果物が置かれた陳列棚が男が激突した衝撃で壊れ、棚に乗せていた果物が盛大に飛び散った。

 バラバラと飛び散った果物が振り落ちる中、大剣使いの男は壊れた陳列棚と果物に埋まりながら、完全に意識を失っていた。

 

 先に倒された男達が五人程意識を取り戻し、逃げようとする所をツキハが呼び止める。

 逃げない様〝気動操作〟で、加減した覇気を飛ばされ動けなくなり。

 ツキハがコイツ等全員連れてここから去れと言い、覇気縛りを解く。

 その男達は、他の男達を起こしながら二刀使いの男と大剣使いの男を抱え、這々(ほうほう)(てい)で、その場から去っていった。

 

 

 騒ぎの収まった露天街は、何事も無かったように店主達が自分の店に戻り。

 その店主達にツキハが「迷惑かけたね」と言いながら、金貨を一枚ずつ渡していった。

 

 店に被害が出た店主達には、金貨三枚を渡す。

 これは破格の迷惑料だが、ツキハとコハクは、こういう場合は惜しみなく銭を払っていたのだ。

 

 コハク曰く、「これは信用と言う、先行投資や」らしく。

 人化している時に、商売をやり易くする為だとも、言う。

 

 これのお陰で二人は――街の人間から疑われる事なく、傭兵をしていられたのだ。

 

 そんなちょっとした騒動も収まり、ツキハも隠れ家に戻り――

 コハクと共に、魔王達の宴(ワルプルギス)の開催を、待つ。

 

 

 そして、そんな騒動があった頃。

 魔国連邦(テンペスト)のリムルは――

 整備されていない広場にいた。

 

 そこに集まるリムルの配下、一万に。

 獣人の戦士達、一万。

 

 合わせて二万の軍勢が整列し、出発の時を待っていた。

 

 リグルドの準備完了の報告を聞き――

 リムルは『広域転送魔法』の魔方陣を起動させる。

 

 二万の軍勢の足元に、超巨大な魔法陣が描かれる。

 積層型に、下から上へとその超巨大な魔法陣が昇っていく。

 

 描かれた正方形の魔法陣には、解読不能な幾何学模様が積み上がっていた。

 

 正方形の超巨大魔法陣が、全員の頭頂部を越えた瞬間――

 眩い閃光と共に二万の軍勢は、獣王国野営地へと転送された。

 

 無事軍勢の転送も終わり、リムルはその場を後にした。

 

 それから二日経ち……。

 

 そして――

 魔王達の宴(ワルプルギス)の当日を迎える。

 

 ある物を作成したリムルは、ラミリスを連れてトレイニー達が住まう樹人族(トレント)の集落へと向かっていた。

 

 集落に着くと、蟲型魔獣(インセクト)のアピトとゼギオンが出迎えた。

 それを見たラミリスは――

 

「ちょ、ちょっとリムル――いや、リムルさん? お聞きしたいんですけど……」

 

 ラミリスが焦った口調で、リムルに尋ねる。

 

「何かね?」

「そ、その魔蟲ってさ、もしかして軍団蜂(アーミーワスプ)だったりするんじゃあ……?」

「さあ、どうなんだろ?」

「さあ? って、アンタねえーーーーッ!?」

 

 ラミリスが驚いたように声を荒げる。

 

 軍団蜂(アーミーワスプ)

 もし、この魔蟲を人里で見かけたら、騎士団総出で討伐しなければいけない位、危険な魔蟲なのだが。

 そんな事をリムルは、知る由も無かった。

 

 それを聞いていたアピトがその通りだと言い、しかも自分は女王麗蜂(クイーンワスプ)だと、リムルに告げた。

 

「お前の言う通り、軍団蜂(アーミーワスプ)だってさ。それも女王らしいぞ?」

「聞いてたわよ! ってか、アンタね……って、もういいわよ。アンタならなんでもアリだろうさ。それにしても、もう一匹の方も……いや、そんなマサカね……」

 

 この、ラミリスの嫌な予感は、後に判明する事になるのだが、それはまだ先の事である。

 

 ラミリスの言葉を、今は気にしないでおこうと聞き流し。

 さっそく、目的の場所へと向かう。

 

 そこは――トレイニーの本体、大霊樹の下。

 リムルは、『胃袋』から一つの宝珠を取り出した。

 

 それは、トレイニーの本体である大霊樹から、この宝珠へ本体を移す事であった。

 これにより、トレイニーは自由にどこへでも行けるようになるのだ。

 

 そう、新たなる核の作成である。

 

 トレイニーは一切の迷いなく自信を霊気化させ、器へと自身を封入していく。

 同時に遅れることなく、リムルも妖気を封入していった。

 

 大霊樹から生命力が失われ枯れていく中、宝珠が明滅を繰り返し始めた。

 次第に輝きを増し、光と闇が織り成す螺旋が描かれる。

 

 そして――

 宝珠が薄く、緑色に輝きだす。

 

《告。個体名:トレイニーの属性が混ざりましたが、〝聖魔核〟の作成に成功しました》

 

 智慧之王(ラファエル)が、〝聖魔核〟の完成を告げて来る。

 

 それからリムルは、トレイニーの魔力で染まった大霊樹を利用して木の人形を作り。

 トレイニーの〝聖魔核〟をこの人形に、融合させた。

 

 これで、この人形がトレイニーの本体となった。

 木の人形が〝聖魔核〟との融合により、以前と変わらぬトレイニーの姿を作り上げる。

 

 ここに、完全自立型ドライアドが生まれたのであった。

 

 この体を手に入れたトレイニーの強さは、以前の二倍はあった。

 更に、聖と魔の両属性を得た事で、その存在感を増していた。

 

 その強さは魔王カリオンには及ばないもの、S級である災禍級(ディザスター)には相当しそうであるが。

 リムルは、淳魔王級の強さはあると見ていた。

 

 霊樹人形妖精(ドリュアス・ドール・ドライアド)――英知ある魔物にして、魔王種に匹敵する者。

 こうしてトレイニーは、ラミリスに付き従う強力な魔人へと、生まれ変わったのであった。

 

「ありがとう、リムル!! これでトレイニーちゃんを連れて行っても大丈夫だね!」

 

 パタパタとトレイニーの周りを飛び回り、大喜びするラミリス。

 それを笑みを浮かべながら見ている、リムル。

 

 これで、魔王達の宴(ワルプルギス)へ行く準備は整った。

 

 リムル達が、街へ帰還した時は、既に日が沈み、夜を迎えていた。

 

 ふと見上げた夜空に、リムルは思う。

 

(月が無いな……新月、か。星の瞬き……綺麗だな。俺が人間の頃いた街では、こんな綺麗な星空は見れなかった、な……)

 

 

 今夜は、新月。

 

 この綺麗な星空の下で――開戦の鐘が、今鳴り響く。

 

 

 リムルは――

 自分の戦場へと、星空を背に進んで、いく。

 

 

 さてと いくか

 

 

 

 




 四十一話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!







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