忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
新月の夜。
ツキハとコハクは、隠れ家の庭にあるベンチに腰掛けていた。
何とはなしに夜空を見上げている二人。
その顔は……凄まじく、不機嫌な顔である。
「あぁー めんどくさぃー ねえ、あたしらが行く意味あるの?」
「そんなん知りまへん。ギィがなんか、企んでるんやろ」
「そう? で、クレイマンの奴さぁ。ミリムをあんなガラクタで支配とか、めっちゃ笑うんだけど?」
「せやねぇ。まあ、ミリムもあんな感じで〝支配〟されてますのやから、好きに遊ばしとき」
「そうなんだけどさぁ。なんかさ、最古の魔王舐め過ぎじゃない? たかだか魔王になって三百年あまり……勘違いもここまで行くと逆に清々しいわね」
「ええんちゃいます? しょせんうちらは魔物や、強いか弱いしかあらへん。ギィは、これを機に――魔王を名乗る資格が無い者を淘汰する腹ですやろな。それにうちらは、魔王ではあらしまへんが……あんま新参者に、軽う見られるのは腹立ちますから、なぁ」
「だねぇ~。なんなら、三千年前みたいにぶっ殺してもいいんだけどねぇ」
二人は話しながら剣呑な顔と、身を斬るような殺気を放つ顔を交互に見せながら、呟いていた。
三千年前、とある新参魔王から二人は喧嘩を売られた。
〝番外魔王〟? ふざけんてんのか? 事ある毎にそう因縁を付けて来ていたが、二人は相手にもしなかった。
ある日、その新参魔王は配下二千を引き連れ、 ツキハとコハクをとある平原に呼び出し――
愚かな事に、襲った。
結果は……。
配下共は、コハクが放った〝核撃魔法〟により、一瞬にして塵と消えた。
新参魔王は、ブーストされた知覚すら及ばない、ツキハの放つ神速の抜刀術により――
〝魔核〟ごと体を両断され、即死した。
そう、繰り返される〝天魔大戦〟を生き延びて来た魔王達と、〝番外魔王〟。
ここには、越えられない壁が確かに存在したのだ。
そして、今――
この壁に、手を掛けた者が現われた――
――それは、リムル――
準備も整い、
リムルは場所を知らないので、ラミリスに同行する形にしたのだが、因みにラミリスもその場所を知らないらしい。
なぜ知らないのか? とリムルが尋ねると。
「いっつも誰かが迎えに来てくれてたから!」
という、なんとも納得のいく返答が返って来た。
そろそろ二十三時を回る頃、お迎えではなくベニマルから連絡が入る。
『どうした? 何か問題か?』
何事かと応答すると、落ち着いた声でベニマルがリムルに要望を出して来た。
それは――
敵勢力との交戦が始まり、既にその戦力と力量を見切ったと――
ベニマルはリムルの覚醒で得た、〝
そう、
シュナ、ソウエイやハクロウなども
種としてはかなり高位の存在へと進化し、一種の精神生命体ともいえる。
ベニマルが得た
ユニークスキル『
力を制御する事に特化した
この力は、個人の戦闘だけではなく軍勢を率いた戦闘でも、その力を発揮する。
兵の動きを力の流れに見立て、予見に近い精度で勝敗を読み解けるのだ。
これは、あらゆる戦況に対して即座に対応し、全軍に指示を出せる。
更に率いる軍には、大幅な補正が掛かっていた。
このユニークスキル『大元帥』には、『軍勢鼓舞』という効果もあり、個々の力が三割増し、ひいては軍勢の強さも三割上昇するという、全軍バフ。
もうこれは、反則に近い力であった。
そんなベニマルだからこそ――
開戦と同時に勝利が見えたらしい。
そして、リムルにある提案をする。
『リムル様。こちらから敵本陣に攻め込みたい。せっかくだから、霧の先にあるクレイマンの城を落としてやろうと、思ってな』
『危険じゃないか? まだ開始早々で勝敗も決まってないし……ってか、なんで霧の先に城があるなんて、断定できるんだ?』
ベニマルの提案にリムルは、なんで敵の城の位置が確定でわかった? という疑問を口にした。
それにベニマルは――
『ああ、これは。〝
リムルはそこで気付いた、恐らく〝番外魔王〟の手の者だろうと。
ベニマルの自信に満ちた言葉にリムルは、それならばと許可を出す。
そこでベニマルが、攻め込む者の名を告げようとすると――
『お待ちを、お兄様!!』
リムルとベニマルの『思念伝達』に割り込んで来たのは、シュナだった。
一応秘匿回線なのに、簡単に割り込まれて驚くリムルとベニマル。
『お、おお。どうしたシュナ?』
うわずった
『どうした、ではありませんよお兄様! クレイマンという魔人は、人を操る危険な力を持つそうではありませんか。危険すぎます――』
『いや、それなら対策を講じて――』
『――駄目です!! どうしてもと言うのなら、私も参ります!』
『『え!?』』
普段大人しいシュナがとんでもないことを言い出し、タジタジになるリムルとベニマル。
更に――
『と言う訳ですのでリムル様、私に出撃許可を下さいませ!』
と、にこやかにシュナに言われ、戸惑うリムル。
危険な場所にシュナを生かせたくないが……シュナの言う分にも一理ある。
万が一、城に突入した者が操られても困るしなと、リムルは内なる葛藤で頭を悩ませる。
そこへ――
『リムル様、御心配には及びません。自分がシュナ様をお守りします』
『ワシもおりますれば、敵本丸の様子を覗くくらいならば問題ありますまい』
ソウエイとハクロウが『思念伝達』に加わり、リムルを説得する。
どうやらシュナが援軍として、二人を呼んだようだ。
シュナの我が儘は珍しいので、リムルは許可を出したい気持ちはあるが、もし万が一、という思いがリムルに二の足を踏ませていた。
「リムル様、私とて怒っているのです。クレイマンを許せぬこの気持ちを、抑えるのが難しいのです!」
(ああ……その気持ちはわかるよ……。俺だけじゃなく、皆もやるせない気持ちを抱いていたんだな)
そしてリムルは、シュナの思いに――
『わかった、シュナの参加を認めよう。ただし、ソウエイとハクロウはシュナの安全を優先する事。いいか、絶対に無茶はするな。想定外の戦力を確認した時は、迷わず引け。いいな?』
『私は転移出来ますので、万が一の時でも大丈夫です。リムル様』
『そうじゃな、ワシの方が逃げ遅れそうじゃ』
『我々は精神攻撃への耐性はありますので、そうそう遅れは取らぬでしょう。それに、シュナ様がいるので、その心配は皆無です』
シュナが微笑みながら返し、逃げる気などさらさらないハクロウが言い、ソウエイが言葉を付け加える。
オーガ――ジュラの大森林に住んでいた戦闘集団であった。その元オーガの里の姫、シュナ。
シュナも守られるだけの存在ではなく、武人ベニマルの妹であり――
妖鬼の姫であり、武人なのだ。
『では、許可を出す。しかし、くれぐれも状況は見極めるようにな。それでだ、念の為に作戦開始は
『『『了解しました!!』』』
こうしてクレイマン本拠地の探索及び襲撃が決まった。
0時を前にしてリムルは、ヴェルドラから魔王について聞いてみた。
「我は小物には興味はないのだ」
そう言いながらも、知っている事をリムルに話し始める。
ヴェルドラが封印された後に、魔王になったのはレオンのみ。
その後は、クレイマン、カリオン、フレイが魔王になったと、ツキハとコハクから聞いたらしい。
ヴェルドラは各地で暴れ回っていたので、戦った魔王もいると言った。
そう、その時はツキハとコハクが一緒に戦ってた時もあると、言う。
二千年近く前にツキハとコハクを誘い、吸血鬼族の都を一緒に攻め滅ぼした事があると、笑いながら話す。
その時は、マジ切れした吸血鬼族に追われて大変面白かったと、のたまう。
この吸血鬼族の都を滅ぼしたのは、ツキハとコハクのやらかしにカウントはされていない。
あくまでも、首謀者はヴェルドラなのだ。
吸血鬼族の中に華奢で美麗な吸血鬼がいて、他と隔絶する強さを誇っていた者がいたと言う。
そして、その吸血鬼をかなり煽っていたのが、ツキハとコハクだと言った。
その時以降吸血鬼達は姿を消して見ていないと、ヴェルドラは話す。
ただ、ツキハとコハクは知ってそうな事を言ってたような、そうでないようなと曖昧な事を言い、まあどうでもいいだろうと、笑い飛ばすヴェルドラ。
「名は何と言ったかな……。確か、ル、ルルナ? いや、ミルク? ミルスだったかな? うーん……。ともかく、本気ではなかったが我と遊べる程度には強いヤツだったので、せいぜい気を付けるのだぞ? 因みにその吸血鬼にツキハとコハクは、二人がかりでやっとだったな、あの時は。今なら、一人でも十分いけるだろうよ」
その話しに横から。
「ああ、今はヴァレンタインって男が魔王になってるよ!」
一緒に聞いていたラミリスがそう教える。
千五百年前に代替わりしたともラミリスは言った。
リムルは、ヴェルドラへの恨みが消えてるといいなと思い。
ヴェルドラとツキハとコハク……コイツら絶対に悪友だろと、苦笑いを浮かべるリムル。
次に巨人族の魔王ダグリュール。
この魔王とは、何度か喧嘩して勝負がついていないと話した。
ヴェルドラが名前を憶えているだけあって、かなりの強者だなとリムルは考えた。
後は
何度か集団の悪魔族を蹴散らしたと言い、悪魔族は肉体が滅びても時がくれば再生するとも説明をした。
そして、ツキハとコハクはもこの特性を持っていて、再生復活スピードは悪魔族より早いと笑い言う。
リムルがそんな事言って大丈夫なのか? と問うと。
ん? この事は二人と戦った事がある者には周知の事実だぞと、当たり前のようにリムルに言ったヴェルドラ。
ただし、その悪魔族達の王とは戦ってない、と。
北方の大陸の永久凍土に居城があると話し、あそこは寒くて人も住んでいないので行かなかったと、ヴェルドラの弁。
「まあ、あんな何もない所には、行く必要もないのだ。そうだ、ツキハとコハクに聞けばよいぞ。あの二人は、度々あそこに呼び出されているからな。クアハハハハハ!」
ヴェルドラは言葉を濁し、笑って誤魔化す。
リムルは、何があるんだろうと聞くが教えてもらえず。
なんでツキハとコハクが、度々呼び出されているんだ?と聞いても、本人達に聞くとよいぞと逃げ。
「いや、アイツらがどこにいるかわかんねえし! 味方でもないから教えてくれないだろう? 下手すると情報料と称して、法外な金額を請求されるんじゃねえか?」と押し問答を繰り広げるリムルとヴェルドラ。
そんなやり取りにラミリスが割り込む。
「そうだよね、ギィは強いからね。ギィとミリムとアタシが最古の魔王なんだよ!」
そのラミリスの言葉に、なんだか大した事がないように感じる感覚に、リムルは不思議に思う。
とりあえず、その話題は保留にしたリムル。
そうしてリムルは、残る魔王は後何人だ? と考える。
会った事があるのは、ミリム、ラミリス、カリオン。
話に出て来た、ヴァレンタイン、ダグリュール、ギィ。
フォビアが言っていた、フレイ。
そして、レオンに敵のクレイマン。
残る一人は……。 と考え呟いていると。
「ああ、それはディーノちゃんだね。アタシ以上にサボるのが好きな魔王だよ!」
「同類がいた」
ラミリスの言葉に、リムルがポソリと呟く。
「同類いうな!」
それにラミリスが怒りながら返す。
そんなラミリスを横目にリムルは、これで十人だなと聞いた情報を頭の中で纏めていく。
実力の高い魔王が多いし、これは注意しながら行かなければと気を引き締めるリムル。
そこでふと、気になった事を口にする。
「そう言えば、〝番外魔王〟の二人は来るのか? 仮にも魔王が付いてるんだし――」
「来ないわよ。ツキハとコハクは、魔王であって魔王じゃないもの。だから、来ないワケ。実力は
自分で言って、首を傾げるラミリス。
「いや、なんでだろうって、俺が聞いてるんだけど?」
「え? あ、うん。あれね、ギィが呼び出せば来るわね。あの二人、たまに呼び出されてギィのところに行ってるのよさ」
「その呼び出しって、なんの呼び出しなんだ?」
「え? 知らない」
「え……?」
リムルの問いに、知らないと答えるラミリス、しばしお互い顔を見合わせ固まってしまう。
そうしているところへ、突然空間の歪が起きる。
お迎えの時間が来たようだ。
禍々しい門が、リムル達の前に出現した。
空間が安定すると門が開き、中から
そして、ラミリスに向けて一礼する。
「お迎えに参りました、ラミリス様。そちらが例の方ですか? 宜しければ、御一緒にどうぞ」
それだけ告げると、門の脇に控えて目を伏せる。
この女悪魔にリムルは、只ならぬ雰囲気を感じた、それは……。
ディアブロと同じ、同種の威圧。
そう、この女悪魔はディアブロと同じ
危険な相手、そうリムルは判断した。
「お、ミザリーじゃん。久しぶり! ギィは元気?」
そんな危険な女悪魔を相手にしても、ラミリスは気にしない。
ある意味、大物かも知れないラミリスである。
「私如きが主様の心配をするなど、畏れ多き事で御座います故……」
「あ、そう。相変わらずだね、アンタも。まあいいけど」
そう言うとラミリスは、パタパタと門の中に飛んで行った。
それに、トレイニーとベレッタが続く。
リムルも、ここで置いていかれると場所がわからなくなると、慌ててラミリスに続いて門の中に入っていく。
この先に待つのは――
この世界の支配者達。
しかし、リムルは恐れはしない。
何故なら、この世界の最強の一角となったのだから。
隠れ家の庭のベンチに座っている、ツキハとコハク。
はぁ…… 時間だわ いくか コハク
せやね いきましょか ツキハ
四十四話を読んで頂きありがとうございます!
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