忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
闇の
〝忍魔猫〟達百匹は、濃い霧の立ち込める湿地帯の領域ギリギリまで来ていた。
『さて、皆さん。ここからは、お遊びは無しです。我等が主からの命を、実行に移します』
『『『『『にゃい』』』』』
いつもの優柔不断でどこか頼りげないロモコが、雰囲気を変え引き連れた仲間達に呼び掛ける。
滅多には入らないロモコの、超真面目スイッチが入った瞬間である。
このモードに突入したロモコをからかう者は、一匹たりともいない。
超真面目モードのロモコは、一桁番号五から九番眷属に匹敵する強さを発揮するからである。
〝番外魔王〟の眷属達は、眷属になった番号が若いほど強い。
五番から十番までの強さは、特A級・災厄級《カラミティ》。
十一から百までは、A⁺級・
百一から九百九十九までも、A級・
四桁である千番の眷属もA級である。
一から四は――
S級・
そして、五から千番までの眷属達は、一番から四番までを一桁番号とは呼ばず、番外眷属と呼んだ。
何故なら、一から四番は同じ一桁番号でも、ツキハとコハクを相手にガチで手合わせが出来るからである。
その中でも一番を持つイチコは、完全に魔王級の強さを持つ。
これは、イチコ達を眷属にして数百年鍛えた結果でもある。
そして、この後にまた五番からの眷属を見つけていく事になったのだ。
そんな眷属達の中でも変なスイッチが入ると、例え番号が三桁眷属であろうとも、二桁や一桁番号に近い強さを発揮する〝忍魔猫〟もいた。
普段の〝忍魔猫〟達は、〝猫騙し〟の効果でその能力に制限を掛け、あたかも弱く見せている。
実際戦闘力もそれなりに制限されており、よっぽどの事が無い限りその真の力は見せない。
戦いにおいて、〝日々技量を磨かぬ者はただの愚か者 力に溺れるな 力は使いこなしてこその力〟これはツキハとコハクの持論であり、眷属達も日々技量を磨く事は大事だと考えている。
この考えはディアブロの、〝自分が強くなりすぎると戦いが面白くない〟という考えと似ていて、ツキハとコハク、ディアブロも、〝敢えて限界に甘んじる〟という事を実践して来ていたのだ。
しかし、ツキハとコハクは三百年以上前に覚醒してしまい、ディアブロも進化した。
だがそれでも、ツキハとコハクは〝猫騙し〟で能力を隠し、更に力の制限を掛けている。
そして眷属達もそれに
ディアブロも進化して尚、戦いにおいての強さの探求をするだろう。
結局、ディアブロもツキハとコハクも、純粋に戦いが好きなのである。
相手が強ければ強いほど、その戦いも面白いと言えるほどに。
『サンコから、ある情報が来ました。この霧の湿地帯に、魔王リムルの配下の妖鬼が三人来ます。その者達が戦闘を始めたら、この湿地帯を全速で駆け抜けクレイマンの居城へ潜入します』
『ねえロモコ。潜入だけなの? 暗殺は無しなのかしら?』
六百六十六番眷属の
体長百センチの大型魔猫のメインクーン長毛種であり毛色は白、
『いえ、立ち塞がる者は皆殲滅です、が。あの妖鬼達にバレない様、〝
『あら~ん、暗殺は許されるのねぇ。しかも、久しぶりの〝殺焼陣形〟なんて、興奮しちゃうわぁ。ウフフフ』
ロロロオは大きく長いふさふさした尻尾を左右に揺らしながら、妖しくニャ~オと一声鳴く。
『それで、その部屋っていうのは、宝物庫なのかしら?』
『ご明察です。そこを強襲し、お仕事の代金分の金貨の回収及び、迷惑料の接収です』
『『『『『にゃほーい!』』』』』
暗殺に敵の宝物庫から強奪と聞いて、〝忍魔猫〟達が歓喜の声を上げる。
『ただし! いいですか? 取り過ぎ厳禁ですよ。宝物庫にある物の数を百としたら、私達が取るのは三十です。
『『『『『にゃい』』』』』
静かに頷く九十九匹。
ロモコの説明が終わると、皆気配を隠し偽りシュナ達の到着を待つ。
開戦、戦闘が始まり一時間足らず経った頃。
空に浮かんだまま眼下で繰り広げられる戦いを見ながら、ベニマルは口元を綻ばせる。
全てがこちらの計算通りに動いていく敵軍。
各要所に布陣したゲルド率いる部隊が張り巡らせた罠へと、敵軍が誘い込まれ撃破されていく。
「流石はリムル様だ。ここまでお膳立てされていたら、負ける方が難しいぞ」
「だニャ。
ベニマルの呟きに、同じように横に浮かび立つ可愛らしい十二才くらいの、猫耳と尻尾がある亜人が答える。
肩より上の長さの黒髪をショートボブにしていて前髪は眉上辺りで切ってあり、顔の左横に白毛の小さな三つ編みを一本編んで垂らしている少女。
着ている装束は、上は膝上までの紺色の小袖に、下は黒い丈が短めのハーフパンツみたいな物を穿き。
素足に、魔素で作った
この亜人の少女は、亜人形態に
眼下に見えるクレイマンの軍勢は自分達が数で勝っていると信じ込んでいるからか、面白いように油断していてくれた。
〝忍魔猫〟達が作り出した避難民の幻影を、追い詰めているつもりで罠に進んでいく。
その事を教えにサンコは、ベニマルの所に来ていた。
「しかし、驚いたぞ。お前達が俺達に味方してくれるなんてな――」
「ベニマル、味方じゃないニャ。ただの暇つぶしの遊びニャ。ツキハ様もコハク様も、遊んできていいと言ったニャよ」
「ははっ。遊びか、それはまた盛大な遊びだな。でも、お前のその姿意外だな。もっと大人の姿になるかと思ってたんだがな――」
「これニャ? あぁー 実はなぁ。どうも、精神年齢に作用されると、コハク様に言われたニャ。アチシの精神年齢は十二才くらいしかないとは……む、無念なりニャよ……」
ガックリと肩を落とし、呟くサンコ。
「いや、無念って、そこで使うのは少し違うと思うぞ?」
「ニャ? そこは、気にしたら負けニャよ? アチシは千年以上生きているのに、間違いなく素敵な
サンコは腕組みをしたまま猫耳をピコピコさせながら、なんでだ?というように首を傾げのたまう。
「いや、おかしいって、自分から。くっ……はははっ」
またも
そんなやり取りの中――
「勝負ありましたわね。ここまで来ると、もう敵方に挽回の余地など御座いませんわ。それと、サンコ殿お久しぶりで御座います」
「ニャー。元気してたかニャ、アルビス」
「ん? お前達知り合いなのか?」
「ニャ? ツキハ様とコハク様のお供で獣王国に、度々遊びに行ってたニャよ」
「ほう、そうなのか?」
「ええ、サンコ殿はツキハ様コハク様と御一緒に、よくいらっしゃってましたもので」
空に浮かんで戦況を見ていたベニマルとサンコの横に、いつの間にか飛来して来ていたアルビス。
背の羽根を静かにはためかせて、ベニマルの思考を邪魔しない様にサンコに挨拶をし、サンコが右手を上げてそれに応える。
ベニマルは、サンコから獣王国には度々ツキハ達と一緒に遊びに行っていたと説明され、アルビス達共たまに手合わせもしていたと話す。
そこへ、アルビスが厳しい顔になりサンコに問うた。
「サンコ殿。
「ニャ? 参加はしないニャ。これは、あくまでもアチシらのお遊びニャよ。戦うのはツキハ様とテンペストの代表であるヴェルドラ様だけニャ。アチシらは、クレイマンの邪魔をするという、お遊びをしに来てるだけニャよ。だから、心配しなくていいニャ。それとも、一戦交えたいかニャ? ……冗談ニャ。ニャフフッ」
最後の言葉を、悪戯をする子供のように上目遣いで笑みを漏らし言うサンコ。
そのサンコの笑みと漏れる殺気に、ベニマルとアルビスは背筋にゾクリとするものを感じる。
あどけない顔から漏れ出る殺気はとてもアンバランスなものであり、不気味な怖さを放っていた。
しかし、すぐその殺気を引っ込め、いつものポヤポヤとしたサンコに戻る。
「そうですか……。安心しましたわ、サンコ殿」
「サンコ、その冗談はシャレにならんぞ。まったく……」
「ニャハハ。すまんニャ、ベニマル」
その返答と、いつものサンコに戻ったのを確認したアルビスは、厳しい顔から一転顔を綻ばせ安堵の溜息を一つ吐く。
アルビスの懸念、もしサンコ達がこの戦争でクレイマン側についたら――
この優利な戦況を一瞬にしてひっくり返して、テンペスト側を逆に劣勢に追い込む事が出来る事を知っているからである。
だがその懸念も払拭され、アルビスはテンペストの勝利の確信を今得た。
アルビスの厳しい顔を見たベニマルが、アルビスに話し掛ける。
「どうした、アルビス殿?」
「いえ、なんでもありませんわベニマル様。それと、アルビスとお呼び下さい」
そう言われたベニマルは、紅の瞳をアルビスに向け――
「お前は、俺の部下ではない」
それを冷たく拒絶し、サンコはそれを黙って見ていた。
「ええ、そうですわね。ですが、今我等獣人は、指揮権を貴方様に委ねています」
「ククッ。ベニマル、一本取られたニャ」
アルビスの言葉になるほどとベニマルは頷き、サンコがニャニャッと笑う。
「よかろう。お前をこの
「拝命致しますわ、ベニマル様」
連合軍の指揮権は、名目上ベニマルあったが、今獣王国ユーラザニア軍の統括たるアルビスがベニマルの下につくと宣言した事で、この連合軍の総大将もベニマルと決定された。
総大将の言葉に、反論は許されない――
強者に従うのが魔物のルールなのだ。
「副官に任じておいてなんだが、仕事はほとんど残っていないぞ?」
するとサンコが。
「ニャッ? うーん、そこそこ出来る奴が残ってるニャよ。ベニマル」
「ええ、まだ数名強者の気配が残っておりますわ」
「ああ、
二人の言葉に迷いなく答えるベニマル。
そこへ、ベニマル達の所へ飛んで来たスフィアとフォビオが会話に割り込んで来て、アルビスに抜け駆けは止めて欲しいなと言い募り、サンコがいるのに気付くと二人揃って慌ててサンコに挨拶をする
「うおっ、サンコ殿来てたのかー。お久しぶりです、ツキハ様コハク様も来てるんですか?」
「おおースフィア。相変わらず元気そうだニャ。いや、別件で今忙しいニャ」
「サンコ殿お久しぶりです。今日はなに用でいらしたのですか?」
「フォビオも元気そうというか、えらく大人しくなったニャ? 遊びに来てるだけニャよ。ニャフフッ」
「え? あ、いや……はい。色々ありましてぇ……」
スフィアは嬉しそうにサンコの傍に行き、フォビオはやらかした時の事を思い出ししどろもどろになる、
フォビオは一度、中庸道化連のフットマンとティアに
そんな二人を見ながら、アルビスが苦笑いしつつベニマルに言う。
「ベニマル様。軍の指揮は貴方様にお任せしますので、我等三名に、敵軍
アルビスの言葉と同時に、三獣士は揃って頭を下げた。
チッと、舌打ちを打つベニマル。
それを、腹を抱えて笑い見るサンコ。
「貴様、それが狙いで俺に総大将を譲ったのか!」
「あら、何のことでしょう?」
「ニャヒャヒャヒャッ」
怒るベニマルに、
「わかった。お前達にも参加してもらう予定だったし、問題あるまい。ただし、勝てぬと思ったら直ぐに退け。敵の中には、油断ならぬ者が混じってるようだぞ」
そう告げベニマルは、アルビス達の行動を黙認する事にした。
敵軍勢の中に複数名、確かに戦闘能力が未知数の者がいた。
誰が誰に当たるかによっては、苦戦は免れない状況だったのだ。
しかし――
(まあいいさ、どうせ俺がいる。苦戦の気配を察知出来さえすれば負けは無い。それに……)
ベニマルは不敵に嗤いながら、サンコを見る。
そのサンコはベニマルと同じように不敵な嗤いを浮かべ、眼下を見下ろしていた。
恐らく参戦はしないが、こちらの苦戦には、なにかしらの邪魔をクレイマン軍勢に仕掛けるだろうと踏んでいた。
事実、それは当たっていた。
この戦場に遊びに来ている忍魔猫達は、この戦域にいる強者の存在を完全に把握していたのだ。
もし、ベニマル達に不利な状況が発生すれば、即座に〝忍魔猫〟達の邪魔が入るだろう。
クレイマンのツキハとコハクに対する言動と数々の暴言に、イチコ以下眷属達は激怒していた。
ツキハとコハクの不参加という言葉がなければ、全眷属総出でクレイマン軍を強襲していたであろう。
そのくらい眷属達は怒っていたのだ。
だから、嬉々としてクレイマン軍の邪魔をしているのである。
そう、この戦場には――
全眷属千匹が、遊びに来ていたのであった。
前哨戦も落ち着きを見せ始め、クレイマン軍の本体が罠に飛び込んでいく。
ここで本隊同士の戦端が開かれた。
そして……
戦場全域に散らばった、忍魔猫達が妖しく嗤いを浮かべていった。
四十五話を読んで頂きありがとうございます!
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