忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
荒れ狂う氷雪と暴風。
その中でアルビスは、カリュブディスが取り込んだ熱はどうするのか? それを考えていた。
恐らく
そうアルビスは読んだ。
(転移で逃げられる者はいいでしょうけど、そうでない者達は……全員、死ぬ)
「忌々しいクレイマンの、クソッタレめがぁーー!!」
その本性を剥き出しにして、アルビスは絶叫とともに飛び立とうとするカリュブディスに、全力で攻撃を叩き込む。
息を吐く暇もなく、それは何度も何度も続いていく。
されど――
それらの攻撃は全て徒労に終わった。
確かにカリュブディスの表面は削れている。
だがしかし、本体へのダメージは軽微。
カリュブディスの回復速度が、あまりにも速過ぎるのだ。
「くそ! 逃げられる者達だけでも逃がすしか――」
アルビスは絶望しつつも最善の手を打とうとし、この戦場からの全力での撤退命令をベニマルに申請しようとしたのだが……。
それは、行われることは無かった。
結論から言えば、する必要がなくなったのである。
「命令違反だぞ、アルビス。勝てぬと思ったら退けと言っておいただろう?」
「よおアルビス。頑張ってるかニャ? シシシシ」
そう言いながらベニマルがアルビスの前に忽然と現れ、あろう事かサンコまで一緒だったのである。
「――ベニマル様!? それにサンコ殿!?」
「ほう、カリュブディスか。前回は俺の攻撃は通用しなかったが、今はどうかな?」
「ベニマル。なんなら、アチシがちょっと蹴っ飛ばして来ようかニャ?」
ベニマルとサンコは不敵に嗤う。
「ベニマル様、サンコ殿。あの化け物は余りにも――」
「ああ、知っている。だからこそ、今の俺の力を試すのに丁度いい。サンコ、お前は手を出すと
「ニャ!? ニャー そうだったニャ……。でもニャ、あんな獲物を見るとウズウズするニャよ?」
「ククッ、忠告はしたからな。大っぴらに手を出すんじゃねえぞ?」
そう言われてサンコは腕を組んだまま頭を捻り、「でもニャ いやいや、お仕置きは勘弁ニャよ でもニャ……。うニャー蹴っ飛ばしたいニャー」と、ぶつぶつ言い始めていた。
そんなサンコを横目にベニマルは、右手を前に突き出し……。
フッと口端を軽く上げ、自身とカリュブディスの力を――
掌握した。
地上二十メートル程浮き上がったカリュブディス目掛け、ベニマルは軽々と飛んだ。
そして、右手に掴んだ漆黒の炎纏う太刀で、カリュブディスを斬り裂いていく。
しかし、ほぼ完全体となったカリュブディスの巨体を切断するまでには至らなかった。
だけど、以前とは違う点があった。
アルビスの攻撃と決定的に違う点とは、傷の再生が始まらない事である。
カリュブディスに付いた斬り傷には『黒煙』が纏わり付き、その身を焦がさんばかりに燃え
「チッ、やはりまだまだか。遊んでいる時間はないし、仕方ないから終わらせよう。ん? な!?――」
アルビスの前まで戻って来たベニマルがそう言うと、カリュブディスに異変が起きる。
断末魔とも獣の咆哮とも違う、凄まじく不快な絶叫を上げるカリュブディス。
グンと体をしならせると、一気に百メートルまで上昇した。
すると、カリュブディスの一つ目が赤く発光する。
ジャリジャリ ジャリリッ。
ガラスが擦れ合わさるような耳障りな音が、空間に広がっていく。
カリュブディスの全身を覆う鱗が軋み、一斉に逆立った。
「不味いっ!?」
「――え!?」
ベニマルが声を上げ、アルビスも目の前で地面が爆発したように土砂が舞い上がるのに驚き、声を上げた。
大地を蹴った者は――
サンコである。
カリュブディスの鱗が逆立ったのを見るや、その場から大地を蹴り飛び上がったのだ。
飛び上がったサンコは一気に加速する。
ドンッ、ドンッと、音速を突破する衝撃音を鳴らし、楕円状の雲の輪が一つまた一つと形成されていく。
サンコは瞬時にカリュブディスを通り越しカリュブディスの真上、上空五千メートルまで来る。
そこで、『思考加速』付きの『思念伝達』がベニマルに飛び込んでくる。
『ベニマル。アチシが蹴っ飛ばしたら、同時に
『ああ、わかった!』
それだけでサンコの『思念伝達』が終わると――
カリュブディス目掛け、一気に急加速して急降下をするサンコ。
ソニックブーム、凄まじい衝撃波を放ち
『あ? あれサンコじゃん』
『あらー、あれマズくね?』
『お仕置き確定じゃないの、あれ?』
『『『だな』』』
カリュブディスに急降下してくるサンコを見つけ、トウコが言い。
ナコ、イツコがそれに続き、呆れた顔で言い放つ。
それにムツオ、ヤオ、コオが、半目で言う。
今まさにカリュブディスの〝
「スゥーーーーーパァーーーーーネーーーコォーーーキィーーーーーークッ!!」
音速の十倍、極超音速の急降下飛び蹴り。
ズッドォンッ!! その凄まじく重く強大な衝撃波を纏った蹴りは――
カリュブディスの巨体をくの字に折り曲げ、あまつさえその飛び蹴りの加速エネルギーは、カリュブディスの巨体を、貫いた。
そのままサンコは大地に激突し、一気に地面が爆発したように土砂が吹き上がり、半径百メートル、深さ二十メートルのクレーターをそこに残す。
それと同時に――
黒い球体がカリュブディスを覆い尽くす。
「消えろ」
ベニマルが呟く。
瞬間――
広範囲焼滅攻撃――〝
威力は以前とは桁違いだった。
ベニマルの『炎熱支配』により、
『魔力妨害』、これは魔素を介する魔法や技などをほぼ無効化する
これを打ち破るには、カリュブディスが操る魔素操作を上回らなければ、破る事は不可能である。
だがこれは、ベニマルの魔素操作がカリュブディスを、完全に上回った証拠。
カリュブディスの巨体は、あっけなく黒炎に呑み込まれ、完全に焼失したのだ。
「嘘でしょう?」
アルビスが、驚きの声を上げるのも無理はない。
ベニマルの攻撃が通ったという事は、ベニマルの魔力がカリュブディス以上という事になる。
サンコに至っては、純粋な物理エネルギーだけでカリュブディスを蹴り貫いたのだから。
それはつまり――
ベニマルもまた、アルビス達の主たる魔王カリオンと同じく
そして、アルビスは今までサンコの真の実力を知る事は出来なかったが――
サンコもまた、
(ほんと、〝
アルビスは、目の前にいるベニマルを見て心の内で称賛の声を送る。
いつの間にかクレーターから這い出来て、
「アルビス、俺にも所用が出来た。現時点を以って、副官として全軍の指揮に当たれ」
「――承知ですわ、ベニマル様」
アルビスは『変身』を解き、
色々聞きたい事があるが、今は内心の動揺を押し隠しつつ、素直に命令を
一方サンコはというと、いきなり『念話』が強制的に送られて来ていた。
その送り主は――
『ねえサンコ。なにしてんの?』
『フギャッ!? つつ、つ、ツキハ様!! な、な、なんの用かニャ? ニャ?』
『なに鬼人と遊んでんのよ。目立つなと、言ったよね?』
『は、はいニャ。そう聞いたニャよ? だ、だから……ちょこんと、小突いただけニャ、よ?』
『ほぉー。あんたのちょこんは、大地にでっかい大穴を作るのが、ちょこんなんだ?』
『そ、そうニャよ? ちょこんニャよ、ツキハ様』
『ふーん。じゃあ、あたしもちょこんとお話があるから、全部終わったら――あたしの所に来るように、いいね?』
『え!? えぇー……。お許しは――』
『――ない。逃げたら、わかってるよ、ね?』
『は、はいニャ(うニャーー。どこに逃げるニャ? 逃げる場所……場所……ニャ!?)』
そこでプツリと『念話』が切れ、両猫耳を伏せ、尻尾の毛を盛大に逆立てながら、半泣き状態のサンコがいた。
なにやらぶつぶつと言っていたサンコが、急に変な声を上げ両肩を震わせていたので、その場から去ろうとしたベニマルがサンコに声を掛ける。
「おい、どうしたサンコ?」
「ニャ……。べ、ベニマル……今からそっちに、〝亡命〟してもいいかニャ?」
「「はあっ!?」」
いきなりの亡命宣言に、ベニマルとアルビスが裏返ったような声を上げた。
「ヤバいのニャ、非常に身の危険が迫ってるのニャよ! もう、命の危険が危ないのニャ! 超ヤバいのニャ!」
「いや、命の危険が危ないって、意味わかんねえぞサンコ!」
「だから、今すぐ亡命させろって、ってか、頼むニャ! お願い申し上げるぞコノぉなのニャーー!」
「いや、ちょっと落ち着けサンコ。状況がわからねえぞ、何が起こったんだ!?」
必死の形相で
「あらあら、サンコったら、何をしてるのかしら。うふふ」
「みぎゃああああああ!! か、か、か、
気配も無く一人の女性の亜人が、いつの間にかサンコの後ろに現れていた。
恐る恐る背後に立った人影に目を向けたサンコの、耳をつんざく叫び声が周辺に
そして、その女性に気付いたアルビスが軽く会釈をして挨拶をする。
「これは、イチコ殿。お久しぶりです」
「まあ、アルビス。息災にしてたかしら?」
「ええ、お陰様で、イチコ殿」
にこやかに挨拶を交わすアルビスを見て、敵ではないとベニマルは認識したが、本能が激しく警鐘を鳴らしていた。
(この魔人は……。サンコの母親、か? それよりも、なんだこの穏やかでいて、微かに漂う強烈な
一瞬太刀の柄に手を掛けかけたが、それをしなかったベニマル。
もし柄に手を掛けていたら、それを考えてゴクリと唾を飲み込む。
「あなたが、テンペストと獣王国の連合軍総指揮官、ベニマル殿ですね? 初めまして、私は〝番外魔王〟眷属の
アルビスとの挨拶を終えたイチコがにこやかに挨拶をして来た。
「これは丁寧な挨拶を。この軍勢の総指揮官を務めている、ベニマルです」
綺麗に腰を折り挨拶をして来たイチコに、ベニマルもまた同じように返す。
「来て早々なんですが。この子がお馬鹿な事を申しまして、大変ご迷惑をおかけしました。さあ、行きますよ、サンコ」
「ちょ、みびゃっ!」
イチコは左手でサンコの後ろ襟首を掴むと、ひよいと持ち上げてサンコを右小脇に抱える。
「あ、いや。こちらこそ、先程はサンコのお陰で助かりました」
「まあまあ、こんなお馬鹿な子が仕出かした事に賛辞など。うふふ」
「ちょ、ちょ、母様……。く、く、くる、くるし。はな、はなし、はなしてーー」
小脇に抱えられジタバタと暴れるサンコだが、がっちりと抱えた腕はロックされ、ビクとも動かなかった。
「
ほわほわと微笑みながらサンコを小脇に抱え、『空間転移』でその場を後にしたイチコ。
去り際に空しく、サンコの「はなせー」の絶叫だけが響いていた。
サンコの逃亡にいち早く気付いたイチコが、確保に来たのだ。
サンコ……逃亡失敗である。
二人が去った後、ベニマルとアルビスはお互い顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
「サンコの母親か……。末恐ろしい母親がいたもんだな」
「ええ。イチコ殿は、決してその実力を見せない、恐ろしい方ですわ」
ベニマルの呟きに、しみじみと返すアルビス。
この地に出現した
それは、その猛威を振るう前に二人の魔人によって、速やかに処理された。
ベニマルがその場から去った後、アルビスは……。
もし、こちらの軍勢と〝傭兵商会・ルヴナン〟の眷属達が激突したら。
アルビスは、そんな考えをチラリと思い浮かべる。
(下手な罠など、簡単に喰い破られるでしょうね……。恐らくは、力ある者同士の戦い……になる。テンペストの幹部勢に、私達三獣士で……)
上位の者同士の戦いを思い浮かべた瞬間、アルビスは思わず身震いに襲われ考えを中断した。
アルビス程の
未だに真の実力はわからず不気味なのである。
(フッ……。間違いなく、壮絶な殺し合いになるわね)
口元に薄い笑みを浮かべ、静かに瞼を閉じ……おもむろにカッと目を見開く。
その笑みが、何を意味するのかはわからない。
だが、そこには屈強な戦士、アルビスがいるだけ。
その場で
〝
彼女もまた、
四十九話を読んで頂きありがとうございます!
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