忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。五話です

 ごめんなさいーーーー告知詐欺をしてしまいましたーーーー。

 ミリムの話が想定以上に長くなり、分割しました。

 本当に申し訳ないです!







5話 〝破壊の暴君〟

 

 

 この世界に転生して来て、千年以上経ったツキハとコハク。

 

 

 ヴェルドラと出会い、魔王ギィ・クリムゾンと出くわし、更に悪魔族の原初たちと遭遇してしまった二人。

 

 そんな二人だが、年数を帯びるごとに強さを増し、今ではヴェルドラとガチでど付き合いを出来るまでになっていた。

 

 人仕切り手合わせを終えたツキハは、ヴェルドラの頭の上で寝転がり昼寝を始めた。

 

「ツキハよ。我の頭の上は、寝床ではないぞ?」

「え? あー 気にしない気にしない。ここ、適度に魔素と妖気(オーラ)が漏れ出てて、心地いいんだよ~ ふぁ~ 少し寝るから、あんまり動かないでね。ん? コハク、あんた邪魔」

「うちも、添い寝――きゃうん!」

 

 ズズンッ! 大地を揺らす地響きが鳴る。

 

 百メートル離れた所に蹴られたコハクが飛来して来て、地面に突き刺さり、土砂を巻き上げめり込んでいた。

 

 深く大きな大穴が空き、穴の底には衝撃で目を回したコハクが埋まっていた。

 

 ツキハの横で寝ようとしたコハクを、容赦なく蹴り飛ばしたツキハは、欠伸をしながら眠り始める。

 

「相変わらず、容赦がないなコハクには。ふむ……もう寝たか。仕方のない奴だな、まったく」

 

 やれやれとヴェルドラはその場に座り、ポリポリと頬を搔いた。

 

(いつの間にか、寝ると言う行為をする様になって、困ったものだな。我と同じで、睡眠を取らなくても良いのだがな。永く生きてると、なんか暇だしとか言い始めて、低位活動状態(スリープモード)を意識的に起こして、好きな時に寝れるようにしたとか、言っておったな。ふーむ、馬鹿げてると言えばそうなのだが……今までの魔物には、無い発想ではあるか。やはり、転生して来たと言う事が、影響しておるのであろうか?……何にしろ、おもしろい魔物であるな、ツキハとコハクは。くはははっ)

 

 大森林の木漏れ日に、ヴェルドラは気持ちよさそうに目を細め、その巨体をゆっくりと横たえてみる。

 

 そこへ、穴から這い出して来たコハクが、懲りずにヴェルドラの頭の上までよじ登り。

 

 ツキハの横に添い寝しようとするや、またも蹴り飛ばされ、一直線に飛んでいくコハクをやれやれと言った顔で見送った。

 

 そんな二人の日常の中で。

 

 最強の一角であり最古の魔王の一人、〝破壊の暴君〟ミリム・ナーヴァと出会ってしまった。

 

 それも、最悪の形で。

 

 ミリムの支配領域に踏み込んだツキハとコハク。

 

 とある魔人から、ミリム・ナーヴァが支配する領域の情報が欲しいと依頼が来て。

 

 金貨三百枚で請け負った二人、ツキハのスキル〝猫騙し〟で妖気を極限にまで押さえ、気配すらも隠し偽って領地の奥深く迄来た二人だが。

 

 森の中に薬草を採取に来ていた龍人族の男三人を尋問しようと、二人を気絶させ、もう一人の意識のある男に支配領域の戦力を聞こうとした時――。

 

 凄まじい覇気が襲ってきて、二人の尻尾が一気にボワリと毛が逆立ち、背筋に冷たい物が走った。

 

 その覇気の正体は……ツキハとコハクの頭上にいた。

 

『……ねえ、いつの間に来たの? あの魔王』

『うちら、気配も妖気もほとんど絶ってましたえ? それを……探知しましたんか……まずいおすなぁ』

 

 『思念伝達』でこの状況をどうするか話してると、その覇気を放った魔王が二人に問う。

 

「なあ、何をしているのだ? 巧妙に気配と妖気を絶ってるみたいなのだが、ワタシにはお見通しなのだぞ? ん? んんー? お前達、〝番外魔王〟ツキハとコハクだろう?」

「ゲッ!? なんでわかったの?」

「うむ。ギィから、お前たちの事は聞いておったのだぞ?」

「あらま、そうおしたか。これは、やられましたなぁ」

「ワタシの領地で、争いはダメなのだ。しかし、気絶させただけで、それ以上の危害を加えてないのだな。それよりも、依頼主を言うのだ。今回は、それで勘弁してやるのだぞ」

「「えっ!?」」

 

 魔王ミリム・ナーヴァにいきなり依頼主を言えと言われたツキハとコハクは、一切の表情を崩さず、態度も一切の乱れも無いが、内心毒づいていた。

 

(おいおい、感が鋭いなんてもんじゃないよ! なんでいきなり確信を言い当てるのよー!)

 

(ギィが言ってた通りですなぁ。やたら、感が鋭いなんて、反則級おすな。そやけど……なんか、恰好が――エロいおすなぁ。ふふふふ)

 

 意識を回復した二人の男ともう一人の男は、ミリムの促しで足早にその場から離れて行った。

 

 そして、ミリムが二人に告げた。

 

「お前達。今回ワタシの領地の調査を依頼した依頼主を言えば、見逃してやるのだ。正直に言わないと、駄目なのだぞ?」

「いや、それは無理だわ。信用にかかわるし、こっちも商売なんでねぇ。無理なのよ」

「流石にそれは、聞き入れられまへんな」

 

 二人の返答を聞くと、スーッと口角を上げ、嬉しそうに笑みを浮かべると、静かに地面に降り立った。

 

「わかったのだ」

「え!? はや!」

 

 ツキハが声を上げると、ミリムはそれに返す。

 

「お前たち。ワタシの攻撃に耐えられたら、今回は許してあげるのだ!」

「ええええー!? ちょっとまって!! いくらなんでも、あんたとガチとか無理だわよ!」

「厄介な魔王はんやなぁ。むちゃいいなや!」

「わははははは! 知ってるぞ、お前たち、最近はギィともかなりガチでやれると、聞いてるのだ!」

「なっ! あんの野郎ーー なに言いふらしてんだよ!」

「なんか……大笑いしている、ギィの顔が浮かびますわ。あんの、スカタンが!」

「じゃあ、いくのだ! わっはははははは!」

「ちょっ!? しかたねえか、こんのぉーーーー」

「しょうもな、やりますえ。はわっ!?――」

 

 ブンッ 残像も残さない速さでツキハの前に来たミリムは、知覚もおぼつか無い速さの右ストレートをツキハに叩き込む。

 

 

 ドッパアアアンッ! 凄まじい轟音が鳴り響いた。 

 

 その衝撃波は、深く地面を縦長に抉り削る。

 

 

 咄嗟に腕をクロスしてガードしたツキハの両腕は、ベギギッと乾いた音を立て砕け変な方向に曲がり、その勢いはツキハをその場から吹き飛ばし。

 

 後方に並ぶ樹々たちを、ドミノ倒しのようになぎ倒しながら数百メートル以上も吹っ飛び。

 

 小高い丘の中腹に激突して、まるで火山が噴火したみたいに土砂を巻き上げめり込んでいた。

 

 コハクは反応が一瞬遅れて、ツキハが吹っ飛ばされてからの行動であった。

 

(うちが出遅れるなんて、なんという馬鹿げた体能力おすか。ギィが、出来るなら挑むなと言いはりましたのは、ほんまでしたなぁ。妖気(オーラ)も限界まで押さえて、気配も偽り隠してましたのに、うちらを探知するなんて。最古の魔王――ギィとおんなじおすな。強すぎますわ)

 

 ミリムに接敵するも、コハクは防戦一方に追いやられていた。

 

 ミリムの全力パンチを受け流すだけで精一杯のコハクの腕は、一発受け流すごとに軋みを上げていく。

 

(ツッ! あきまへん、パンチ受け流すごとに、腕が壊れていきますえ。再生が、追いつきまへん。アカン……)

 

 重く、神速で繰り出されるミリムのストレート連打。

 

 次第に、防御が追いつかなくなり、〝多重結界〟ごと貫かれてミリムのローブローがコハクの腹部を捉える。

 

「ギャウ!」

 

 ズンッ! 重音を響かせコハクの腹部がボコりとへこみ、コハクはその場に膝を付く。

 

「ほおぉ。凄いのだ! ワタシの全力パンチで、死ななかった魔物は久しぶりなのだ。お前、中々やるではないか。わあっははははは」

「う……あぁ……な、に……ゆう、てます、の……死にかけてます、えぇ……」

 

 両膝を付き、そのまま前のめりに倒れ込むコハク。

 

 倒れ込んだままダメージを回復しようとするも、精神体(スピリチュアボディ)までダメージを受けており、回復が追い付かなかった。

 

 そこへ。

 

 丘の中腹にめり込んでいたツキハが、周りの丘ごと体から発する魔力衝撃波で吹き飛ばし、降り注ぐ土砂の中立ち上がって来た。

 

「あーいーたたたー あぁーーーー ほんと、めんどくさいな~ 理不尽だわ――この世界の奴ら。もう、いいや。自重はやめだ! しらね、もう、しーらない。〝猫騙し〟解除」

 

《Yes 猫騙しの解除を……確認しました》

 

 

 世界の言葉が告げる。

 

 

《能力の全力解放をしますか? Yes/No》

 

「あぁ、やれ」

 

《能力の偽装隠蔽解除……確認しました》 

《続いて封印された能力の全力解放……確認しました》

 

 

 ピーーン 張り詰めた大気が震え……一気に破裂した。

 

 

 ツキハから溢れ出る魔素量(エネルギー)が、渦を巻いてツキハを包み込んでいく。

 

 ミリムは『竜眼』でツキハを見ながら、何故かワクワクした顔で嬉しそうに笑っていた。

 

「おおー 凄いのだ! どんどん魔素量(エネルギー)が膨れ上がっていくのだ。ふむふむ、ワタシに匹敵するほどではないが、ギィに聞いてた通りの〝規格外魔物(イレギュラーモンスター)〟だな! 気に入ったのだ! これに耐えれたら、友達にしてやるのだぞ?」

 

 そう言うとミリムは上空高く舞い上がり、ツキハが点になって見える位置で静止する。

 

「友達って……最古の魔王の友達とか、怖すぎるわよ!」

 

 上空にいるミリムにバカげた魔力が圧縮されていくのが感じ取られ、ツキハも自身の魔力を圧縮し始める。

 

(なんて魔力なの……アホか!って言いたいね。うー仕方ない あれ使うか。まだ未完成だけど。あれじゃないと、軽く千年は死ねるね。それでも凌げるか、なんだけど、間に合うか?)

 

 ツキハは両足を肩幅より大きく左右に開き、両手を腰に付けそのまま腰を少し落とし構えた。

 

 口を軽く開き、魔力球を口の中に作りだし圧縮していく。

 

 やがてそれは渦を巻き始め、唸りを上げ始めて行った。

 

 

 ヒイィーーンッ 甲高い音響かせ、蒼白く輝き始めていく魔力球。

 

 

(えーーと、ここで、『重力操作』でぇ……丸い輪っかを作ってぇ。そしてぇー……)

 

 ツキハの眼前に大小様々な重力リングが、八枚形成される。

 

(忍魔術・雷遁発動……体内で雷光エネルギーを溜めて~ 〝黒炎核(アビスコア)〟作ってー みんな合成して― 超圧縮かいしーー) 

 

 バチッ バチチッ バチッ ツキハの尻尾が放電現象を始め、細い雷撃にも似た放電が無数に走り始める。

 

(ぬっ? この凄まじい魔素量(エネルギー)は……なんと、そこまで魔力圧縮できるのだな! わはははは)

 

 ミリムは自身の魔力を圧縮しながら、眼下にいるツキハの魔力圧縮を感知して、歓喜の声を上げる。

 

「それじゃ、受けてみるがいいのだ! 〝流星拡散爆(ドラゴ・バスター)〟!!」

 

 それは、(まばゆ)く幻想的な光りだった。

 

 放たれた莫大な光のエネルギーは、拡散しつつ直下にいるツキハを包み込むように平がっていく。

 

(だめだわ、間に合わない!)

 

「やらせまへんえ! 忍魔術・呪符式結界 〝幻巳反鏡(ゲンシハンキョウ)〟! 全てを拒絶しなはれ!」

 

 まだダメージの抜けきっていないコハクがツキハの前に躍り出て、ババッバッ 素早く印を八つ結んだ。

 

 同時に、言霊(コトダマ)で結んだ呪文が宙に浮かび上がる。

 

 すべてをきょぜつせよ

 (すべてをきょぜつせよ)

 

 ザアァーッと紙が棚引くような音を立てながら、数百枚にも及ぶ呪符がツキハとコハクを囲んでいった。

 

『ツキハ、凌いでみせますさかい、やりなはれ!』

『ありがとうー! コハク!』

 

 ミリムの放った全てを破壊消滅させる拡散光が――

 

 コハクの張った呪符結界に、ぶつかった。

 

 その破壊の光は呪符が発生させる結界を、次々と砕いていく。

 

 ガラスの割れる音にも似た音を立て消える呪符結界を、コハクは限界まで魔力を高め、砕かれる側から呪符結界を作り出していた。

 

 凄まじい爆炎が二人を包み、そこはまるで溶岩の煮えたぎった釜のようで、更に収束された光がコハクを貫いた。

 

「あくっ! こ、れは……」

 

 その貫いた光はあろう事か、コハクの体を侵食し始め、『超速再生』する暇を与えない。

 

 体のあちこちが崩れ、崩れた部分が霧のように崩壊を始める。

 

「コハク! もういい、逃げて! そのまままじゃ、〝心核〟すら砕かれてしまう!」

「いやおす! ぐだぐだ言わんと、はよ、しよし!!」

 

 パンと眼前で両の手を合わせ、コハクは半球状の防御結界を張る。

 

 ミリムの〝流星拡散爆(ドラゴ・バスター)〟、その馬鹿げた威力は確実に二人を、追いつめていく。

 

 

 しかしそこへ、ツキハの魔力圧縮が臨界点を向かえようとしていた。

 

 

 ツキハは雷遁で発生する電気で、何か面白い事出来ないか色々試していて。

 

 ある時、大気中にある魔素を取り込んだ際にそれは、わかった。

 

 厳密に言えば、自分から漏れ出る特殊な魔素粒子が電気を帯び、熱を持つことを見つけたのだ。

 

 見つけたのはヴェルドラと手合わせ中の出来事で、まったくの偶然である。

 

 元は戦国乱世に生きた忍び。

 

 科学知識など有るはずも無く、ただその熱を帯びた魔素粒子を攻撃魔法に転換できないかと試行錯誤を、何百年も繰り返していた。

 

 

 〝荷電粒子砲〟。

 

 

 それは電気を帯びた粒子を加速させて打ち出す、SF世界の光学兵器。

 

 それを自身のスキル『重力操作』と膨大なエネルギーを持つ〝黒炎核(アビスコア)〟に、黒雷を組み合わせた、ツキハのオリジナル魔法、〝高加速魔電粒子砲〟。

 

 何の科学知識を持たないツキハが、このような攻撃魔法を作り出すなど元来不可能である。

 

 だが、寿命の無い魔物であり、長い年月を掛け、その卓越した戦闘センスで編み出した、奇跡の産物かも知れない。 

 

 

 魔力球――高圧縮臨界点突破!

 

 

「きたああああああ! 消し飛べー! 〝黒い砲哮(ブラックハウリング)〟」

 

 口の中に形成した魔力球の輝きが最高潮に達し――

 

 それは撃ち出された。

 

 紫に輝くその光線は、周りに蛇のようにうねる黒雷を纏い、一番大きい直径五メートルはある重力リングを埋め尽くすほどの太い光線となり。

 

 ツキハ達の周辺を覆い尽くす爆炎を斬り裂き、ミリムに向かって走る。

 

 上空にいるミリムは、その光線に向かって右手の平を差し出した。

 

 ジャギャウッ! ミリムの張る『多重結界』に遮られた光線は、轟音を上げながらエネルギーの飛沫を花火のようにまき散らしていった。

 

(うにゃーー これでも、押し切れないのかぁー! え? コハク!?)

 

『うちの……魔素量(エネルギー)も、も……って……いきな、は、れ』

『だめよ! ほんとに〝心核〟まで、ダメージを負ってしまう。やめて! コハク、それ以上はダメぇえー!』

 

 体の三分の一が崩壊仕掛かったコハクが地面に倒れたまま、魂の回廊を通じてツキハに自分の魔素量(エネルギー)を分け与えていたのだ。

 

 

 ミリムの結界に阻まれた魔電粒子ビームは、徐々に減退を始めていた。

 

 

『やめて! ね、やめろって、コハク! それ以上やると、マジに死んでしまうわよ!』

 

 キイィーーーーン ツキハの足元から魔素粒子が立ち昇り、うなるような音を立て渦を巻き始める。

 

『いいん……お、す。うちに、とって……あんさんが、一番、なんどす、え。や、り、なはれ。ツキハ……やりなはれ!』

『いやよ! 死ぬな、死なないで、だめえええええぇーー!!』

 

 

 ジッジジジッ ザッ ザザザッ ザッ

 

 

 空間にノイズみたいな音が、広がっていく。

 

 

《ザッザザザッ イレ……ギュ、ラー……発生……ザザザッ……中……》 

 

 世界の言葉が何かを告げていたが、激しいノイズで聞き取れなかった。

 同時に、ツキハとコハクが持つ権能の一つが、妙な変化を起こし始める。

 

 

 権能・〝法則??〟

 

 

 それが、ツキハの中で消えたり、元に戻ったりを繰り返し、ツキハの〝幻魔核〟の中をノイズで満たしていく。

 

(え? 何がおこってるの? この権能……用途不明だったやつだ……何で今更……でも、この頭の中に響く雑音、あぁー なに、やかましいわねぇ)

 

 ザザザッ 法則??……ザザザ……◎△??……ザッ……△状■ザザザッ。

 

 何かに変わりつつある権能。

 

 その時、いきなりツキハの魔素量(エネルギー)が有り得ない量に、跳ねあがった。

 

 有り余るほどの魔素量(エネルギー)は、魔電粒子ビームの威力を際限なく底上げしていく。

 

 

(ぬぬっ!? 威力が上がって行くだと? それに……あれは……。そうか、お前達があれ(・・)を、手に入れていたのだな、ギィよ、確かに――おもしろいのだ!)

 

 

魔素量(エネルギー)が溢れて来る……いける)

 

 口の魔力球から発射される魔電粒子ビームの音が甲高い音を上げ、八枚の重力リングが前後に動き、焦点を合わせるかの如く光線を収束していった。

 

 

 ギイイイイィィィンンンーーーーッ!

 

 

「うがあああああああぁーー! つーらぁーぬーけぇーーーー!」

 

 太い光線が徐々に収束され――

 やがてそれは一筋の光となり、ミリムの『多重結界』を貫通、する。

 

 ミリムの『多重結界』を貫通した魔電粒子ビームが肩に直撃する、が。

 

 ギャイン! 激しい火花を散らし、斜め上空へと弾かれていった。

 

 ミリムの肩には黒い鎧の肩当部分だけが具現化しており、その表面はひび割れ、白い煙を立ち昇らせていた。

 

 先程まで空間に響いていたノイズはいつの間にか消えていて、ツキハの中にある権能も〝法則??〟と、用途不明の権能に戻っていた。

 

 ツキハの魔電粒子ビームの熱で、周辺の大気中ある水分が蒸発して、水蒸気の霧を発生させていた。

 

 

 その水蒸気の霧の中に揺れる影が、一つ。

  

 

 ふらふらと体を揺らすツキハは、急激にダウンした魔素量(エネルギー)に膝を付き掛けたが、倒れているコハクの元へ向かい、抱き上げる。

 

 

「コハク! コハク! 返事して! 死んじゃダメ! このまま死ぬと、長い年月を掛けて復活再生しても、それは、もう――あんたじゃなくなる……。だから、目を開けて……コハク、死ぬなぁああああああッ!!」

 

 〝心核〟にダメージを負ったコハクに魔素を流し込むも、ツキハもほとんど魔素量(エネルギー)が、残っていなかった。

 

 

 そこへ。

 

 上空にいたミリムが静かに、二人の前に降り立つ。

 

 

 コハクを抱きしめながら魔素を流し続けるツキハの右手に、ミリムは自身の右手を重ねる。

 

 ポワァっと二人の右手が淡い光を放ち光り、スーッと光が収まると、コハクのダメージを負った〝心核〟が修復され、〝幻魔核〟が鼓動を始める。

 

「あんた……なんで?」

「ワタシの攻撃に耐えたのだ。約束通り、もうお前達は友達なのだぞ? 友達を助ける。当たり前のことなのだ」

「あ……あぁ、ありがとう」

「うむ。(大切な者を失うのは、とても辛いことなのだ)」

「え?」

「なんでもないのだ……」

 

 最後に言ったミリムの言葉が小さく聞き取れなかったツキハは、ミリムに聞き返したが、ミリムは少し(うれ)いた笑みを浮かべただけだった。

 

「ツキハ、これから、ワタシの事はミリムと呼ぶのだ。よいか?」

「え? あ、うん。ミリム、あんたの勝ちだ、従うよ」

「違うのだ! 友達だから許すのだぞ」

「え? あ、ごめん。そうだね。じゃあ、よろしくね、ミリム」

「うむ、よろしくなのだ! コハクにもちゃんと、言っておくのだぞ?」

「うん、わかった。言っておくよ」

「それじゃあ、ワタシはいくのだ。また、遊びに来るのだぞ? じゃ、またなのだ!」

「うん、たまにはいくよ、ミリム」

 

 ニカーッと満面の笑みを(たた)えたミリムは、その場から飛び去り、あっという間に見えなくなった。

 

 しばらくすると、コハクが目を覚ます。

 

 ツキハに抱かれたまま、そっと目を伏せ口を開いた。

 

「ツキハ……堪忍え」

「馬鹿コハク……次あんな無茶したら、許さないからね」

「あんさんの為なら、無茶もしますよって……」

「ほんと……馬鹿なんだから……あたしの相棒が出来るのは――あんただけなんだからね!」

「う、うれしいおす。ツキハ」

 

 馬鹿と言いながらツキハの顔は、微笑を浮かべていた。

 

 そこへコハクが先程起きた権能の事への疑問を、口にした。

 

「ところであれは……なんでしたんやろか? あの役立たずの権能、〝法則??〟、なにしましたん?」

「わからない。でも、何かに……なりかけてた気が、した」

「ほんまに、けったいな権能おすなぁ。『解析鑑定』で見ても、用途不明しかでまへんもの」

「それね。まあ、いいんじゃない、一応は使えるって事が、分かった訳だし。そのうちわかるよ、あの権能の正体」

「ですな~、気長に待つしかおへんなぁ」

 

 そう話してると、コハクがツキハの右頬にそっと左手をやり、潤んだ目でツキハを見る。

 

 まだ水蒸気の霧が残る中、二人の影が揺れ動く。

 

「ツキハ……ご褒美が、欲しいおす」

「あんたねぇ、抱き抱えてあげてるだけで、満足しないの?」

「欲しいおすえ、ツキハの……唇」

「はあぁーー……。何千年経っても、あんたは、あんただねぇ。観念はしないし、最初で最後だかんね。わかってる?」

「かましまへん」

 

 ツキハしょうがないと言った顔で言い放つと、すっと優しい顔付になり。

 

 そっと、コハクの唇に自分の唇を重ねていく。

 

 コハクがツキハの首に手を回し、水蒸気の中に映る二人の影が重なるように密着していく。

 

 

 

 権能・〝法則??〟……。

 

 この世界に偶発的に発生したのか、それともヴェルダナーヴァの創造の中で特殊な条件のもとに生み出されたスキルなのか? そのいずれとも当てはまらないスキルなのか? その正体は未だ謎である。

 

 だが、ギィとミリムは何かを知っていた。

 

 

 ツキハとコハクが――

 

 真なる覚醒を得た時に、それは正体を現すのかも知れない……。

 

 

 

 




 五話を読んで頂き、ありがとうございます!

 次回、風精人の女帝! 読んで頂けたら幸いです。


 
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