忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 早いものでとうとう五十話に突入しました。

 処女作でもある前作は五十話まで約一年と三カ月……。

 うーん、書く事に慣れて来たのかなと思うのですが、今一ピンとこないと言うか、気が付いたら五十話に来てたという感じです。

 まだまだ続くこの物語、引き続きご愛読してくだされば幸いです。


 それでは、お待たせしました五十話です!











50話 狂 乱 猫:ニコ

 

 フットマン、ティアと対峙するゲルドとフォビオ。

 

 周辺の木々はへし折れ、地面は所々抉れ、その激しい戦いを思わせる光景がそこに広がっていた。

 

 

「ほ、ほほほ……。驚きましたね、ヤムザの裏切りは予想通りでしたが、まさかカリュブディスがこんなにもアッサリと……」

「だねえ。相性もあるけどさ、アタイ達にもアレは倒せないっていうのに。それに、忌々しい猫の気配がしたよね?」

「確かに、いましたね。何をしにきたのやら……。クレイマン軍の壊滅。作戦は失敗。この損失は余りにも大きく、あの方の言う通り大人しくしておくべきだった、という事です」

「だよね。ラプラスも忠告をしていたし、今回はクレイマンが悪いよね。でもでも、あの猫何しに来たんだろうね?」

「さあ? わかりません、あの御方達の眷属ですからね。実態は、未だ謎に包まれています」

「まさか……邪魔をしに来たとか?」

「ほっほほほ。それはあり得ません、ティア。契約が成されている以上、あの御方達は絶対に契約を自分から反故(ほご)にはしませんでしょうから」

「ふーん、ならいいんだけど」

 

 フットマンとティアは、互いに目配せし合いながら会話する。

 

 そんな二人の前には、満身創痍のフォビオと、それを庇うゲルドがいた。

 

「あの方に報告しなければなりませんので、お遊びはここまでにしましょう」

 

 余裕な態度で言うフットマン。

 ティアは多少の傷はあるものの、戦闘には支障なそうで、余裕なフットマンは無傷である。

 

 怪我の度合いから見れば、確実にゲルドとフォビオが押されていたのだ。

 

「逃がすかよ! お前達がヤバイのはわかってた。ここで足止めすれば、アルビスやスフィアが駆け付けるだろうぜ。それにな、ベニマル殿もいる。お前達は、終わりだよ」

 

 ふらつきながらもフォビアは立ち上がり、そう言い放つ。

 満身創痍ながらもその傷は、既に塞がっていた。

 

 異常な程の回復力である

 

 フォビオは一度この二人に乗せられ、カリュブディスの贄となった。

 カリュブディスに一時期飲み込まれていたお陰で、その能力(スキル)を少しばかり継承していたのだ。

 『自己再生』が『超速再生』にまで至っていたのである。

 

「いい加減しつこいよ、黒豹(クロネコ)!」

 

 ティアが叫び、フォビオを殴り飛ばした。

 

 しかし、その攻撃は致命傷にはならず、直ぐに再生されてフォビオが立ち上がって来る。

 

 スピードはティアが上、だが決定的なダメージを与えられずにいた。

 それに対しフォビオは、小さくとも確実にダメージをティアに与えていた。

 

 一見ティアが優勢に見えるが、時間が経てばその結果は違ったものになるかも知れない。

 

 

 一方フットマンとゲルドは。

 

 フットマン……ゲルドに取っては因縁の者であり、オーガの里を襲った時に一緒に来ていたのがフットマンだったのだ。

 

 フットマンは体を肉団子のように丸め、超速回転でゲルドを()き殺そうとする。

 その回転攻撃をゲルドは左手の大盾で防ぎ、右手に持った肉切包丁(ミートクラッシャー)で叩き潰そうと反撃をする。

 

 だがそれは、フットマンの分厚い肉鎧に阻まれて、致命傷を与えられずにいた。

 互角の攻防、そう呼ぶに相応しい戦いが繰り広げられていた。

 

 されど、フットマンは本気を出してはいなかったのだ。

 だが今、カリュブディスが倒された事により、フットマンから遊びの気配が消えた……。

 

「ムッ!?」

 

 ゲルドは即座に気付き、フォビオの前に出た。

 

「ゲルドさん、どうした?」

 

 フォビオが問うと同時に、フットマンの攻撃が襲い来る。

 

 極大の魔力弾。

 

 強大な魔力を練り込まれたその一撃は、周囲の地形を変えるには十分な威力を持っていた。

 

 眩いばかりの閃光と爆発音がゲルドとフォビオを覆い包み込んでいく。

 その閃光はやがて収束し、ボロボロになった二人を映しだす。

 地面は焦げ、抉られ、焦げた臭いの煙がそこには充満していた。

 

 ゲルドの大盾は一撃で粉砕され、全身の防具まで破壊されていた。

 片膝を付き息も荒々しいゲルド。

 

「ぬ……これ程とは、な……」

「げ……ゲル、ド……さん」

 

 ゲルドに庇われたフォビアも地面に倒れ伏し、大ダメージを負うも『超速再生』のお陰で、かろうじて生き残っていた。

 

「ほーーーーほっほっほっ。今回は貴方達の始末は依頼されておりませんが……。ほほっ、貴方達は生かしておくと、後々厄介な存在になりますね。ここで、死んでもらいましょう」

「だねえ。アタイ達が本気なら、もっと早くに死ねてたんだけど。もう、いいよね?」

 

 立ち上がる事も出来ぬ程にダメージを受けたゲルドとフォビオに、死の言葉が送られる。

 

 先程より、更に魔力を練り込まれた超極大魔力弾が、二人の頭上から降り注ぐ。

 

「ぬうォ!!」

 

 『胃袋』から二枚の大盾を取り出し、頭上に(かか)げるゲルド。

 

 だが、それも空しく超極大魔力弾の圧力には耐え切れず、あっけなく砕け散る。

 

 眩い閃光が二人を押し潰そうと……。

 

 

 カラ コロ カラ カカン

 

 …………

 ……

 

 それは、ゲルドの頭上ギリギリで止まっていた。

 

「ほっ!?」

「え、なんで?」

 

 超極大魔力弾が、ゲルドの頭上で止まっているのを見て、フットマンとティアが疑問の声を上げる。

 

 カラ コロ カラ コロン

 

「「!?」」

 

 フットマンとティアは、カラコロと鳴る木の音に聞き覚えがあった、それは……。

 

 軽やかに鳴る下駄の音。

 

 カラ コロ カラン

 

「ほっ、どうして、貴女がここに?」

「はあ? なんで、アンタがここにいるの?」

 

 超極大魔力弾の眩い光の中に浮かび上がる、一人の猫亜人少女。

 

 ブーンと羽虫のような唸りを上げる超極大魔力弾を、頭上に(かか)げた右人差し指一本で支えているニコが、そこにいた。

 

「は~い、オチビとオデブぅ。お元気かしらぁ、なーにしてるのかなぁ?」

 

 カラコロと下駄の音を鳴らし、にこにこと微笑みながらフットマンとティアの方へと歩いてくるニコ、その右人差し指には超極大魔力弾を支え持ちながら。

 

「ほっほほほ。何故に助けるのですか、その敵を?(ほほっ、厄介極まりない者が来たものです……)」

「そうそう、アンタ契約違反になるよ(アンタもチビだろうがー! ってか、凄くマズイよね、これ!?)」

 

 平静を装って言う二人だが、内心はこれはヤバイと焦り捲っていた。

 〝番外魔王〟の眷属ニコに、フットマンとティアは一度瀕死の状態に追い込まれている。

 そして、どんな言葉もニコの心を乱す事は出来ない。

 何故なら――ニコは常に狂気と正気の狭間にいるから。

 

 一度怒らせると、生きとし生きるものがその領域からいなくなるまで、その暴走を止める事は出来ない。

 そのニコを止めれる者は、今この場には、いない。

 

 あどけない顔から漏れ出る微笑は、死の微笑み。

 〝狂乱猫(フレンジーキャット)〟と異名を取るニコ、〝番外魔王〟の眷属の二番を預かる者。

 

 あの一件以来、フットマンとティアは〝番外魔王〟の眷属を刺激する事は、ボスとカザリームからきつく止められていたのだ。

 

「ねえーアンタたちぃ。勝手にコイツ等をー、殺されたら困るんですけどぉ。下手に魔王リムルをこれ以上怒らせてぇ、ガチの戦争を広められてぇ。人間が減ったらぁ……」

 

 フットマンとティアの近くまで来たニコは、上目遣いで二人を嗤い睨む。

 

 何かを言い掛けるフットマンとティアだが、言葉が出てこなかった。

 今の状態のニコに下手な言葉は、火に油を注ぐより凄まじく危険なのだから。

 

 そして――

 

「こっちの商売が、上がったりになるんだけどぉ。 もう一度ぉ、死の淵を覗きにいくうぅ? 今度は、確実にぶっ殺しちゃうよぉ?」

 

 静かに低い声で、ズシリと重く圧を込めた言葉を吐き捨てていく。

 

 動けない、フットマンとティアは動けなかった――

 今動けば、確実にニコが支え持つ超極大魔力弾が自分達に降り注ぐ、しかもその時ニコは無傷であろう……。

 

 前回の戦いで身に染みている二人は、無言でニコの動向を見ているしかなかった。

 

「うーん、この魔力弾邪魔だなぁ」

 

 ヒュゴウッ いきなり超極大魔力弾が消えた衝撃に激しい風が巻き起こり、周辺の木々が(ざわ)めく。

 

 ニコがおもむろに、その超極大魔力弾を消したのだ……。

 というより、超極大魔力弾そのものを吸収し、自分の体内で分解したのだ超極大魔力弾を。

 

「なんと!?」

「ええ!?」

 

 いきなりニコに吸収された超極大魔力弾を見て、フットマンとティアは驚愕の声を上げる。

 同じくそれを見ていたゲルドとフォビオは言葉を無くし、呆然とそれを見ていた。

 

「けぷぅ。マズいわねぇ、オデブの魔力。ねぇ、あんたらぁ報告があるのよねぇ? そろそろ、帰ったらぁ?」

 

 こてりと小首を傾げ、言い放つニコ。

 

 どうやらニコに戦う気が無いのを見て取ると、二人は――

 

「ほーほっほっほっ。そうですね、今回はその二人見逃して差しあげましょう」

「そうだね。感謝しなよ、コイツが来なかったらアンタ等死んでたんだからね」

「コイツ?」

「ひっ!?――」

 

 ティアにコイツ呼ばわりされたニコが首を傾げて嗤うと同時に、盛大な爆発が起こり粉塵が舞う。

 

 その粉塵が晴れると、もうそこにはフットマンとティアの姿はなかった。

 

「じゃあ、私もぉいくけどぉ。フォビオぉ大丈夫ぅ? それとぉ、そこのハイオークもぉ、死にそうでは、ないわねぇ。二人ともぉ死んだら怒るわよぉ~」

 

 そう言いながら浴衣下駄をカラコロと歩き鳴らし、『空間迷彩』を掛けながら揺れる空間がヂッヂヂッヂッと、ノイズ音を発し周囲の景色に足元から溶け込んでいった。

 

 最後にカランと下駄の音を鳴り響かせ、気配も完全に消え失せる。

 

「――完敗だな。オレも力を得たが、上には上がいるという事か」

「いや、ゲルドさんがいなかったら俺は、死んでいただろうぜ。悪いな、足を引っ張っちまった……」

「そんな事はないとも。勝負には負けたが、まだオレ達は生きている。次に勝てば問題なかろう。それに、あの〝番外魔王の眷属〟が来なかったら、確実にオレ達は死んでいた」

「ああ、ニコ殿か。あの方は、眷属の中でも一二の強さを誇ると聞いた事がある」

 

 言いながらフォビオは地面に胡坐をかき座り、同じようにゲルドもドカリと胡坐をかき座る。

 

「ニコと言うのか。あの超極大魔力弾を軽々と喰ってしまったのを見ると、その言葉も頷けるものがあるな」

「ああ。だが、絶対にその実力を見せない、怖い魔人だ……」

「そうか。初めに見た時は魔猫だったが、〝 亜人化〟形態も出来るのだな」

「あれか? そうだな、亜人から人化形態まで自由に姿を変えれるらしい。もっとも、亜人化形態や人化形態は滅多に見せないんだがな……」

「そうなのか。この間話してくれた、〝番外魔王〟が魔王カリオン様と度々手合わせしていたという話に、眷属達の戦う話しは無かったな?」

「そうだ。ツキハ様とコハク様しか、戦うのを見た事がなかったしな。眷属達は御供で来ていたが、一度も戦う姿を見せなかったんだ」

「ふむ……謎の多い眷属なんだな」

 

 そう話しながら二人は状況整理をし、ゲルドがベニマルに『思念伝達』で報告をする。

 

『ベニマル殿、道化は逃走した。それともう一つ、〝番外魔王〟の眷属が現われた』

『ああ、見ていたさ。眷属ならこちらにも来ていた。もっとも、先程連行されていったんだがな』

『連行だと?』

『多分そちらにいたのが姉のニコだな。で、こっちに来てた方が妹のサンコだ』

『なるほど。かなりの強者(ツワモノ)と見たが、その姉妹』

『そうだな。サンコの奴はカリュブディスを蹴っ飛ばしたからな。ハハハッ』

『蹴っ飛ばしただと!? ふーむ……計り知れない眷属なのだな』

『ともかくだ、道化はそれでいい。奴等の手の内を暴く事が目的だからな』

『うむ。二度も助けられたな、〝番外魔王〟の眷属に』

『ああ、ゲルドの方は姉のニコが来て、本当に助かった。だがな、ゲルド達の戦闘記録は俺が記録している。それはつまり、リムル様によって解析され、奴等の強さの秘密は暴かれるという事だ。だから、この敗北は無駄ではないよ』

『うむ。次に相対すれば、きっちりこの借りを返そう』

『ああ、ゲルドその通りだ、次に勝てばいい。生きてこその俺達だ』

 

 ゲルドは、自分達を利用しオーク一族の父王(ふおう)を死に至らしめた因縁の相手に、この地で決着を付けたかったのだが、残念ながら今回は力が及ばなかった。

 

 しかし――(次は勝つ!)

 

 その決意を胸に前を向く、ゲルドである。

 

『では、オレは指揮に戻る』

『そうしてくれ。もう一人厄介な奴が残っているので、俺はソイツの相手をするとしよう』

 

 そう言うと、ベニマルは『思念伝達』を終えた。

 

 この戦場には厄介な相手が何名か潜んでいた。 

 だが、その全てを同時に相手にする訳にはいかず、苦肉の策としてその全てに戦力を分散させるといった策を取っていたのだ。

 

 状況に応じて優先度を決めてからベニマルが救援に向かう手筈となっていたが、一歩間違えると取り返しのつかない状態になる危険性があった。

 

 しかし、サンコからこの戦場に全眷属が遊びに来ていると聞かされ、更に影からクレイマン軍の邪魔をしていると聞き、それらを含めて救援の手筈を練り直したのだ。

 

 だから、ゲルドの救援もニコがそこにいるとわかっていたので、サンコを信用し救援に向かわなかった。

 これこそが一歩間違えればと、いう状況なのだが……。

 

 初めてサンコに出会い変な奴だなと思うも、二度目はリムルの魔王化に立ち会ったサンコから、少し身の上話を聞き、敵ながら敵とは思えない何かをサンコに感じていたベニマル。

 

 今また、この戦場にやって来たサンコを見て、敵であれ信用に足る魔人だと判断したベニマル。

 

 そして、その判断は間違いではなかった。

 

 本来なら真っ先にフットマンを殺しに向かいそうなものなのに、個人の恨みより全体の勝利を優先したのだから。

 

 もはや、血気に(はや)るだけの将ではない。

 

 ベニマルもまた、驚く程の成長を遂げていたのだ。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 ――少し時間を遡り、戦場後方の最奥。

 

 

 ミッドレイとの戦闘が始まり、数分が経過していた。

 

 スフィアとガビルにとっては、果てしなく長い数分。

 

 

 だがそれは、唐突に終わりを告げる。

 

「ムッ!?」

「これは――ッ!?」

「ゼーハーゼーハー、い、一体、な、何事で――?」

 

 スフィアは数度投げらた時点で受け身を取れるようになっていた為、疲労も回復していた。

 実際ツキハからも投げられた時の受け身を教えてもらっていたが、初めは受け身も取れない程ミッドレイの投げが鋭く重かったのだ。

 

 対してガビルは、慣れない攻撃に戸惑い、がむしゃらに槍を振るっていたので、疲労困憊(ひろうこんぱい)といった有様だった。

 

 そんな二人を相手にしていたミッドレイは、一切の疲労も見せずに元気そのものである。

 ミリムやツキハ、コハクとの組手に比べれば、二人の相手など、どうという事はないのだ。

 

 そして、それに気付いたのもミッドレイが最初だった。

 

「総員、回復魔法の使用を許可する! 立てい! 立ってこの場にいる全員を叩き起こせい!!」

 

 ミッドレイの顔からは余裕が消え、その口からは怒号が飛び出し、その場に響き渡る。

 

「不味いっすよ、ミッドレイ様! コイツは、この反応は大物ですぜ」

「わかっておるわ! これは、つい先日ミリム様が仕留めたというカリュブディスだな。ん? いや、その残滓か?」

「そうっすね……。不安定みたいだから、一日と持たず消滅しそうですが……」

「いや、ここは戦場。下手をすれば、意外な進化を遂げる可能性がある。なるべく、エサは与えぬがよかろうて」

 

 ミッドレイといつの間にか回復していたヘルメスが、そんな会話を繰り広げる。

 

 そんな中、回復した神官達が回復魔法を行使し、自分達だけではなくガビル配下の〝飛竜衆(ヒリュウ)〟の者達も回復させていく。

 

 

「カリュブディスだと!? フォビアの馬鹿を憑代にして復活した化け物か! なあ、魔王ミリムが滅ぼしたんじゃなかったのかよ!?」

「カリュブディスなら、間違いなくミリム様が滅ぼしたのであるが……」

 

 スフィアとガビルも話に加わり、最早勝負にこだわってる場合ではないと判断した。 

 

「落ち着け、二人とも。本物ではなく、その力の断片のようなものだ。どうもヤムザを、その〝核〟の代用品にしたようだぞ……」

 

 『竜眼』を発動させたミッドレイは、事の本質を見極めつつそう説明した。

 ミリム程の性能を持つ『竜眼』ではないが、それでも十分に優れた『視野』と『解析』を併せ持つ能力(スキル)である。

 

「それで間違いなさそうっすね。ヤムザのクソ野郎は俺が殺そうと思っていたんすけど、既に魂も喰われちまってますわ。不本意ながら、被害を抑えつつ消滅を待つしかないっすね」

 

 そう冷静に結論を述べるヘルメス。

 

「聞いたな? 全員武装を許可する。欲張るなよ? 時間を稼ぐだけなら、なんとでもなろう」

「我輩達も役立ってみせよう。あの、鱗の攻撃に気を付ければ怪我などすまいよ」

「よし。オレも地上にいる奴等がエサになんねーように、今から――!?」

 

 そこまでスフィアが言うと。

 

 ドーン、ドーンドーンッ スフィア達がいる後方の戦場まで、サンコの起こしたソニックブームの衝撃音が轟き響く。

 

 そして、凄まじい破裂音が大気を震わせていった。

 

「なん……だと……!? あやつ、ら、信じ難い事を平然と行いおったぞ!」

「――なんすか、あれ? 一人はサンコ殿ですよね? もう一人は……魔王っすか? ミリム様ならともかく、ただの魔人にあんな真似が出来るっすか? 間違いなく、化け物っすよね……」

「イチコ殿のやんちゃ娘、サンコも来ていたのか……。ならば、ニコも来ているであろうな……」

 

 正確に事情を見ていたのは、ミッドレイとヘルメスの二人だけであった。

 

「おい、どうしたってんだ? オレにも教えろよ!」

「うむ。我輩にも、状況説明をお願いしたい」

「そうっすねぇ。そうしたいのは山々なんすけど……」

「その必要はなさそうだ」

 

 ミッドレイがそう答えると、スフィア達の前の空間が(ひず)み出し、燃え盛るような真紅の髪の魔人が現われる。

 

 それは、太刀を肩に担いだベニマルであり、この戦場の脅威ミッドレイを相手にする為やって来たのだ。

 

「よお、家の者(うちのもの)が世話になったみてーだな?」

 

 現れるなりミッドレイを睨んだベニマルだが、何か様子がおかしい事に気付いた。

 争っていた形跡はあるものの、誰一人として怪我人がおらず、お互い敵視しているという状態ではなかったのだ。

 

「お待ちをベニマル殿! こちらの方々はミリム様の配下であり、竜を祀る民の神官戦士団の皆様に御座います!」

「なにッ? ミリム様の!? それじゃあ――」

「我等の怪我も、神官戦士団の方々が、回復魔法にて治癒を!」

「そうか……なるほどな。どうやら俺が早とちりをしちまったみたいだ。アンタがこの戦場で一番厄介そうだったからな。つい、警戒しちまったぜ」

「わはははは、早とちりでもなかろうさ。つい今しがた迄戦っていたのは、事実よ。今はそれよりも、大きな災厄に備えようとしたからじゃい。もっとも、その必要はなくなったがのう。ところで、〝番外魔王〟眷属のサンコが来てたであろう?」

「――なるほど。ん? サンコか? アイツは母親が来て、連行されていったぞ?」

「そうか、わっはははは。イチコ殿が、捕獲に来たか。ほっておくと、何を仕出かすかわからぬやんちゃ娘じゃからのう」

 

 ベニマルの返答を聞きながら、とても愉快そうに笑うミッドレイ。

 そして、ベニマルがミッドレイに問うて来る。

 

「それで、どうする? 俺達とまだ、やりあうか?」

「そうさのう、どうしたものか……」

「俺としちゃあ、ミリム様の配下と事を構えたくないんだが?」

「ふむ、そうよな。戦ってみたい気持ちもある……が。されど、戦争がしたいって話でもないからのう。ただ、どっちが上か、力比べがしたいだけよ」

「確かにな、その気持ちわかるぜ」

 

 そう言いながら、ベニマルとミッドレイはニヤリと笑いを交わす。

 

 そんなやり取りにヘルメスが、「ちょーーい、それは不味いですって!」と即座に止めに入り。

 ガビルも「そうですぞ、ベニマル殿! ミリム様の手の者に怪我でもさせては――」と、ベニマルを慌てて止めに入る。

 

 

(クソ! 話しに入るタイミングを逃したぜ……)

 

 一人スフィアだけは、まざりたそうにしていたものの、機を(いっ)したもので仕方なく黙り込んでいた。

 

 

 

「わかってるっての。それに、戦う気なら殺す気で挑まなければ、負けるのは俺だろうからな。負ける戦いはしない主義なんだよ」

 

 そうベニマル言い、退いた。

 

「わはははは、確かに。あのカリュブディスを(ほふ)った攻撃は、流石のワシでも耐えられそうもないのう!」

 

 ミッドレイもそう笑い言うが、それを使用させずに勝つ自信はあるように見えた。

 

 実際それをやれば、本当に殺し合いになるので、気軽な力比べという枠組みから逸脱するだろう。

 だがしかし、今この場でやるのは場違いであり、それを今更やる意味もない。

 

 かくして、両者に戦う意思は消え失せた。

 

 

 ここに、この地――旧オーク王国オービックにおける戦いは、連合軍の圧勝で終結した。

 

 

 そして、残るもう一つの戦場でも――

 

 

『皆さん、来ましたよ。準備は、よろしいですか?』

『あら-ん。準備は万端よー』

『『『『『にゃい!』』』』』

 

 霧の立ち込める戦域で待機していた、〝忍魔猫〟達が……。

 

 

 静かに、動き出す。

 

 

 

 




 五十話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!








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