忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

52 / 239
 お待たせしました。五十二話です


 ※作中で使用している特殊フォントは、〝ライム酒〟様作成の特殊フォントを使用させて頂いています。

 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。 





52話 Killier neko(殺し屋) 集団、襲来(中編

 

 

 シュナは顔色一つ変えずに、アダルマンと対峙していた。

 

 その姿は優雅でありながらも、隙が無い洗練された佇まいにも見えた。

 

 

 そんなシュナをアダルマンは、睥睨(へいげい)する。

 

「ほう? どうするつもりだね、お嬢さん。君一人で、何が出来るというのだ? どうやって、この万の兵を相手にするのかな?」

 

 アダルマンの声には楽し気な響きがあり、事実アダルマンは楽しんでいた。

 

 魔王クレイマンの命令は絶対だが、アダルマンには自由意志が残されていたのだ。

 だが、その行動は完全に限定されたものである。

 

 侵入者の抹殺、それがアダルマンに許された全て。

 

 力は膨大だが知能が低いと――クレイマンの配下から蔑まれているのだが。

 これは、アダルマンがこの地に縛られ、一切の自由行動が取れないのが原因。

 

 アダルマンは魔人というより、兵器――この地に縛られた拠点防衛機構。

 

 魂まで縛られていないが、組み込まれた命令に従い自動で迎撃を行う兵器である。

 しかし、アダルマンの本心ではこの束縛から解放されたいと、願ってもいた。

 

 侵入者への迎撃行動も自動で行われる為、手心を加える事は出来ない。

 

 ただし、侵入者との自由な会話のみは、誰にも邪魔される事のない、アダルマンに許された唯一の楽しみであり、趣味であった。

 

 それは……この機構を作り上げた人物――魔王カザリームの慈悲。

 本当は違うかもしれないが、アダルマンはそう思う様にしていた。

 そのお陰で、狂うことなく千年の永き時を生きてきたのだから。

 

 機構を長持ちさせる――その為の方策だとしても、アダルマンは本心からその事だけに関しては、本心から感謝していた。

 

 だからこそ、自分の意思とは関係なく、侵入者は全力で叩き潰す。

 

 万を超える不死系魔物(アンデッド)が、シュナを目掛け襲い来る、その時――

 

「心配無用ですわ。〝対魔属性結界(アライメントフィールド)〟!!」

 

 右手を胸前から、空間を切るようにピシッと真横に切り、シュナが術名を発した瞬間。

 シュナを中心にして、半径百メートルの外周を光の軌跡が走る。

 

 そして、その光が半径百メートルの円を描き終えると、地面から眩い光の粒子が巻き起こり。

 シュナとアダルマンを囲む結界が完成する。

 

 これは、魔素という物質に反応する結界。

 

 〝魔法不能領域(アンチマジックエリア)〟と〝聖浄化結界(ホーリーフィールド)〟を『解析鑑定』して、これらを融合させ編み出し、シュナが独自に開発したオリジナル魔法である。

 

 今回は魔素全てを妨害しているが、火などの四属性の一つに絞って発動させる事も可能な、とんでもない防御魔法であった。

 

 

「これで邪魔は入りません。私が貴方を倒せば、貴方を核としているこの防衛機構も破壊出来ますね」

「――ほう、見事だ。……余の秘密を、見抜くとはな。娘よ、名は?」

 

 そう、アダルマンが滅べば、この地の防衛機構は破壊される。

 

 この地の地脈にアダルマンの魂を縛り付け、膨大な魔素量(エネルギー)を循環させる、これこそがこの防衛機構の肝なのだ。

 

 当然、アダルマンを慕う死霊竜や死霊騎士も、この呪縛から解放される事になる。

 

 それを一目で見抜いたシュナに、アダルマンは素直に敬意を抱く。

 

 そして……もしかしたら、この呪縛から解放してくれるのではと、一縷(いちる)の希望を……持つ。

 

「シュナ、と申しますわ」

「シュナ、シュナ殿か。では、尋常に勝負といこうか。もしも、余に勝てたなら、貴女の望みに従おう」

「それはそれは、丁寧な申し出ですこと。ですが、私達の望みはクレイマンを滅ぼす事のみ。邪魔をしないというならば、貴方のこの地での生は認めて差し上げますが?」

「フフフ……。それが叶わぬのは、御存じだと思うが?」

「そうですか。貴方なら、その呪縛に打ち勝てると思ったのですが、私の思い違いなのですね。それでは仕方ありません。予定通り、貴方を倒すとしましょう」

 

 迷いなく言い切るシュナ。

 

(フフッ、簡単に言ってくれる……。打ち勝てるものなら、とうにやっておるわ。魔王カザリーム……恐るべき男。人の及ぶ相手では、ないというのに……)

 

 そう思うアダルマンだが、何故か悪い気はしなかった。

 

「話しは終わりだな。では、力の限り余に抗ってみせるがいい!!」

 

 そして、激烈なる戦いが始まった。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 人間だった頃のアダルマン。

 

 元は小国の王子だった。

 

 当時、西方聖教会は今ほどの権威は誇っておらず、聖騎士団(クルセイダーズ)は存在しなかった。

 

 優秀と認められた者だけが、聖堂騎士(パラディン)という一代限りの名誉騎士の称号を与えられるのみであった。

 

 そんな中、アダルマンは飛びぬけて優秀であり、当時親友だった〝ガドラ〟とも魔法について語り合い、切磋琢磨のすえ……仙人へと至った。

 

 そこから更に研鑽(けんさん)を積み、聖人へと至ろうとしていたが……。

 

 ある日、霊峰の頂上にある〝奥の院〟に呼ばれる事になる。

 

 アダルマンは歓喜した――

 

(これでついに、ルミナス様にお目通りが叶う!!)、と。

 

 

 そして、それが悲劇を呼ぶ事になる――。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 …… 

 

 

 

 シュナとアダルマンの激しい戦いは続いていた。

 

 

「全てを溶かし、侵蝕せよ――侵蝕魔酸弾(アッシドシェル)!!」

 

 アダルマンが元素魔法:侵蝕魔酸弾(アッシドシェル)を放つ。

 

 空に浮かぶ多数の水球から、骨まで溶かす魔の散弾をシュナに向かって撒き散らす。

 雨のように降り注ぐ、魔散弾。

 

 だが、シュナは慌てず術式を起ち上げる。

 

幻炎の防壁(フレイムウォール)

 

 幻の炎壁によって、魔散弾のことごとくが弾かれ蒸発していく。

 すえた臭いが辺りに漂いどす黒い水蒸気の煙が立ち昇るが、シュナは意に介さない。

 

 千倍に加速された思考速度、高い『解析鑑定』能力、更に『詠唱破棄』と『法則操作』による事象改変。

 

 シュナのユニークスキル『解析者(サトルモノ)』は――

 魔法戦闘特化型の能力(スキル)であった。

 

 故に、アダルマンが魔法を構築している段階から、対処法を導き出していた。

 

「ふむ。ならば、茨の楔(ソーンパイル)!!」

 

 土属性の魔法:茨の楔(ソーンパイル)

 

 シュナを覆う様に周囲の地面から、幾本もの細長い円錐形のパイルが伸びて来る。

 

 そして、円形状にパイルが合わさる様にシュナを覆うと、パイルの表面に無数の突起物が現れ、シュナを刺し貫こうと――

 

「火遁・爆轟炎!」

 

 三つの独特な印を瞬時に結び眼前でパンと両手を叩き合わせる。

 同時に言霊(ことだま)が宙に走る。

 

 はぜなさい

 (爆ぜなさい)

 

 無数の(とげ)がシュナを刺し貫こうと棘を伸ばすより速く、シュナの体が蒼白い炎に包まれ――

 

 刹那、凄まじい爆炎と熱波を放ち(とげ)を放つパイルごと焼き飛ばした。

 

 これは、ベニマルがサンコに助けられた時に見た戦闘が記録され、魂の回廊を通じてリムルにて保管されたものを、シュナは見せてもらっていたのだ。

 

 その中で、こちらの世界とは系統が違う魔法に似た術にシュナが興味を持ち、『解析鑑定』でそれを再現、自分様にアレンジしたものを使用したのだ。

 

 現段階でまだ三分の一程しか解析出来てないが、独特な印を結ぶ行為が体内に流れる魔力を緻密に制御し、威力の調節が出来る事を見抜いたシュナは、ハクロウ達より魔素量(エネルギー)が少ない自分でも、少ない魔素(エネルギー)で十分な威力が出せる事に着眼したのだ。

 

 そして、言霊(ことだま)を術に乗せる事で、更に威力が増す事も解析していた。

 

 〝忍魔術〟――それは、強制的に体内に流れる魔力の流れを変えるのである。

 

 要は、体内の魔力回路を部分的に繋げたり遮断したり、威力を増す為に魔力回路の負荷を防ぐ為のバイパスを経由せずに短いバイパスで一気に魔力を放出等々、それらをツキハ達は印を結ぶ行為で魔力回路を自在に操っているのである。

 

 だから、この世界の印を結ぶ術式と、ツキハ達が使う印を結ぶ呪符忍術は似て非なるものであったのだ。

 

 そう、この〝呪符忍術〟から発展した〝忍魔術〟は、この世界の魔物には常に魔力暴走の危険が付き纏い、尚かつ魔力回路の崩壊といった致命的な事態を招く事もある。

 

 故に、術の構築と魔力回路の制御にただならぬ精神力を要するので連発は出来ないと判断し、今は切り札的な使い方しか出来ない。

 

 しかし、それを単発でも扱えるシュナの脅威は、ツキハとコハクがシュナを初めて見た時に〝油断ならない〟と言った言葉に尽きるのであった。

 

 

「何っ!? その魔法は……?」

「これですか? 〝忍び〟という魔人が使う〝忍魔術〟という魔法です。それを、再現、いえ、模倣したものでしょうか」

「シノビ……。〝番外魔王〟の使う魔法の一種であったな……」

 

 アダルマンは数百年前に一度だけ〝番外魔王〟ツキハと、戦った事があった。

 

 結果は………………

 

 惨敗。

 

 あわや滅されるという瞬間、ツキハが刃を納め「すっきりしたから、帰る」と言い、その場から立ち去ってしまったのだ。

 

 気まぐれか? 慈悲か? それとも……? とにかく、暴れるだけ暴れてツキハはその場から去り、アダルマンはそのお陰で今もここにいるのだ。

 

 余談だが、この時のツキハはコハクと大喧嘩してすこぶる機嫌が悪く、空の散歩をしていてたまたま異様な妖気(オーラ)を探知してこの地に舞い降り、侵入者迎撃として出て来たアダルマンを見て、これ幸いと大暴れをしただけなのである。

 

 ようは、盛大なやつあたりをされたのだ、アダルマンは。

 

 知らぬが仏とは、こういった事なのかも知れない。

 

 

 

(〝番外魔王〟。あの凄まじき力は、今思い出しても寒気がするものであるな……だが今は――)

 

 そう思いながらも即思考を切り替え、シュナに次なる魔法を放つ。

 

「ならば、これでどうだ! 怨念の亡者共、生贄を授けよう――呪怨束縛(カースバインド)!!」

 

 死霊魔法――精霊魔法の亜種にして、悪霊や亡霊といった負の怨念を利用する。

 

 人であれ魔人であれ生きている者に()りつき、その生気を吸い取る亡者を召喚する魔法である。

 

 しかし、それさえも――

 

聖なる福音(ホーリーベル)

 

 リンゴ―ン リンゴ―ン リンゴ―ン

 

 シュナの涼やかな声が響き。

 その直後、アダルマンに聞き慣れた聖なる鐘の音が鳴り響いた。

 

 そして、邪念に満ちた亡者達が成仏していく。

 

「――馬鹿なッ!! 何故だ、何故魔物が<神聖魔法>を操れるのだ!?」

 

 目の前で展開された神の奇跡を見て、アダルマンは驚愕する。

 

 魔に属した少女が編み出したとは思えぬような、神聖魔法。

 その信じ難い現実を魔に、アダルマンは思わず叫ばずにはいられなかった。

 

 そんなアダルマンを見てシュナは、フッと笑みを浮かべて答える。

 アダルマンの疑問を……解き明かすように。

 

「不思議ですか? それは貴方の頭が固いだけです。<神聖魔法>は人間だけに許された魔法ではありません。奇跡を信じ願う者ならば誰にでも、その想いの強さに応えてくれるのですよ? (もっとも私のそれは、少し違うのですけれど)」

 

 <神聖魔法>――世間一般では聖霊との契約で成されると言われている。

 この認識はある意味正しく、ある意味では間違っていた。

 

 魔人でも回復魔法が使える者がいる。

 

 ならば、その事実が指し示すのは――聖なる存在以外との契約以外でも<神聖魔法>が操れるという事なのだ。

 

 これは、大半の人や魔物達が理解していない事実であった。

 実際コハクも<神聖魔法>を操れる。

 

 信仰の力――言ってみれば奇跡を信じる力こそが、<神聖魔法>を習得する条件なのだ。 

 

 そう、そこには善も悪も存在はしない、あるのは想いの強さが力へと、変わるのである。

 

 因みに、ミリムを信仰する竜を祀る民が<神聖魔法>を操れるのも、これが理由だ。

 

 

 シュナの話しを聞いたアダルマンは、思わずよろめいた。

 

(余は、私は間違っていたのか……。裏切られ、神ルミナスへの信仰を失った。だから、私には二度と扱えぬものと、思っていたのに……)

 

 

 アダルマンは、神ルミナスが実在すると信じていた。

 この思い込みこそが、彼の信仰の源になっていたのだから当然ではある。

 

 

 裏切り。

 

 神ルミナスに仕える者に、仕掛けられた――

 

 罠、アダルマンはルミナス教の最高指導者により、卑劣な罠に()められたのだ。

 

 しかし、何故罠に嵌めらたかは、その理由が今になってもわからない。

 

 〝七曜の老師〟――この最高指導者に騙され、民の為に大規模な死霊災害を鎮めにこの地に来たのだが、待っていたのは……大量に発生した不死系魔物(アンデッド)腐肉竜(ドラゴンゾンビ)であった。

 

 腹心にして友たる聖堂騎士(パラディン)のアルベルトに四人の騎士達、そしてアダルマンを慕う遠征軍の面々と必死に戦うも、この地に倒れる。

 

 その時、死んだアダルマンは、もう一人の友ガドラから施されていた神秘奥義:輪廻転生が発動し蘇生に成功。

 

 しかし、この地の瘴気(しょうき)を浴びて死者の怨念に捕らわれた事で、人手はなく骸骨の容貌(ようぼう)をした死霊(ワイト)へと転生する結果となる。

 

 

(思えば、滑稽よな。〝七曜の老師〟に騙されて、民の為にと大規模な死霊災害を鎮めに向かったが……それが罠とは思わなんだわ。ガドラの奴から魔法の実験を受けていたせいで、(いびつ)に復活する羽目になったしのう……)

 

 そうして、そんなアダルマンが魔王カザリームの目に止まり、今現在へと至るのだ……。

 

 

「ですから、貴方が<神聖魔法>を扱えぬというならば、私の敵ではないと確信したのです」

 

 シュナの追い詰める言葉がアダルマンの耳に刺さり、今が戦闘中だという事を思い出す。

 

「な、何故だ? なぜ私が、<神聖魔法>の使い手だと思ったのだ?」

 

 思わずシュナに問いかけるアダルマン。

 

 しかし、それに対するシュナの返事は冷ややかなもの。

 

「その姿です。高位の司祭級以上の者しか羽織れぬ、その純白の聖職衣。それを着る資格がありながら、この程度の呪縛すら打ち破れぬと嘆く軟弱者。<神聖魔法>への未練だけでその衣を纏うなど、警戒する必要もなかったようですね」

 

 と、何を今更とばかりに、言い捨てた。

 

「――ぬぅ……言わせておけば、好き勝手なことを!!」

 

 アダルマンは激怒した、が。

 

 それはシュナに対してではなく、それは自分に対してであり、言われるまで気付かなった自分の本心を知った事に。

 

 そして、その不甲斐なさを感じたと同時に自分に、激しい怒りを覚えたのだ。

 

 

 だが、アダルマンは……。

 

 ここ千年の永きに渡り心を曇らせていた霧が晴れるような、そんな爽快極まりない心地よさを味わっていた。

 

 

「神へ祈り捧げ給う。我は望み、御魂の御力を欲する。我が願い、嬉々と届け給え――」

 

 その心地よさのまま感情が高ぶり、アダルマンは魔法の詠唱を開始した。

 

(そうか、私には覚悟が足りなかったのだな。皆を……私を慕ってくれた仲間達が不死系魔物(アンデッド)と化した事で、彼等を残して逝く事も出来ないなどと……甘かったのだな、私は……)

 

 アダルマンがこの地に縛られた理由、その一つが仲間達だった。

 

 死んで、呪われた死者として在る彼等を、アダルマンは見捨てる事が出来なかったのだ。

 

 だが、それが結果としてこの地に彼等を縛り付ける(くさび)になっていたのである。

 

 アダルマンは気付いたのだ、それが間違いだった、と。

 

 骨だけの両手で複雑な印を結び、朗々と神に祈りを捧げる。

 

(シュナといったか、貴女に恨みはない。むしろ、私の目を覚まさせてくれて恩義すら感じる。だがしかし、私は自殺が禁じられているのだ。悪いが……付き合ってもらうとしよう)

 

 心の中で謝罪をする、アダルマン。

 

 魔王カザリームの強制力は多岐に渡る。

 その為に、自殺する事すら禁じられていた。 

 

 されど、敵への攻撃に巻き込まれたならば、話は別なのだ。

 

 そう、シュナを道連れに自身も滅ぼし――そうする事で巻き添えになった仲間達を、解放しようと……。

 

 

 それは今、シュナとアダルマンを包み込むように、積層型魔法陣が展開されていく。

 

「――万物よ尽きよ! 〝霊子崩壊(ディスインテグレ―ション)〟!!」

「それを待ってました! 〝霊子暴走(オーバードライブ)〟!!」

 

 アダルマンの魔法が完成する刹那――

 

 シュナがユニークスキル『解析者(サトルモノ)』で『法則操作』を行う。

 

 限界まで集められた霊子はアダルマンの制御を離れ……それはやがて、暴走を始めていく。

 

 荒れ狂う霊子の光の嵐。

 

「何ッ? 信じらぬ……私の十分の一にも満たぬ魔素量しかない貴女が、まさか、私の魔法を上書きしただとーッ!?」

 

 魔素や霊子の制御は魔力によって行われる、適切な魔力回路の導きによって。

 

 魔法を上書きされた――この事実は、シュナの魔力がアダルマンを上回ったという事に他ならない。

 

 これこそが、魔素量(エネルギー)=力とならない事実であり、結果なのだ。

 

 アダルマンには、シュナが圧倒的に格下に見えていた。

 

 しかし、それは間違いだと、悟る。

 

「私は……貴女の力量を、見誤ったのだ、な……」

「見事でした。その褒美に、この地から解き放って差し上げましょう!」

 

 そう言うやシュナは、左右に広げた両手を胸前で交差させた。

 

 荒れ狂う霊子の光が一つに纏まり、パッと桜吹雪が舞う様に散る。

 やがてそれは穏やかな光る粒子の風へと変わり。

 アダルマンは、穏やかに流れる光の風に飲み込まれてしまう。

 

 

 ああ……何て、暖かい光の風……なのだ………………

 

 …………

 

 ……

 

 訪れる、静寂。

 

 

 シュナはアダルマンの魔法を利用した。

 

 自分以上の聖なる魔法の使い手なら、この地を浄化出来る程のエネルギーを集める事が出来ると、踏んでいたのだ。

 

 それが神聖系最強魔法であるとは予想外であったが、幸いにもその魔法は知っていた。

 だからこそ、シュナは簡単に上書きが出来たのだ。

 

 その穏やかな光の風は、この地に余すことなく吹き流れ。

 

 アダルマンだけではなく……全ての不死系魔物(アンデッド)を飲み込み――浄化していった。

 

 

 こうして浄化されたように見えたアダルマン達だが……。

 

 浄化されずに生き残っていたのだ。

 

 

 そして――

 

 シュナの強さに感服したアダルマンが、シュナの信仰する神に会わせて頂きたいと懇願し、シュナ達を呆れさせる。

 

 シュナは「信仰する神はいませんよ」と断りを入れるも、それでもアダルマンは執拗に懇願し、最後はシュナが折れ、アダルマンは配下共々シュナの指揮下に入るのであった。

 

 

 

 

 同時刻――

 

 

 クレイマン居城前に着いたロモコ達が、いた。

 

 

『フフッ。やるわねあの鬼っ娘(おにっこ)、いや、シュナといったかしらね。これは、少なくともワタシ達と同格とみなさなければならないわね……』

『ですね……妖鬼シュナ。彼女もまた、魔国連邦(テンペスト)強者(ツワモノ)の一人として、認めざるを得ませんね。厄介なものです、あそこの魔物達は……』

 

 ロロロオの呟きにロモコが静かに返し、他の〝忍魔猫〟達も無言で(うなづ)いていった。

 

 

 千年以上もの永きを生きる眷属達。

 眷属達は、決して敵を侮らない。

 

 敵を侮れば、それは死を意味するから。

 

 眷属達はツキハとコハクの眷属になった日から、徹底的に二人から〝敵を侮るな、力量を見極めろ〟そう叩き込まれてきた。

 

 

 〝番外魔王〟の眷属、ツキハとコハクから忍びとしての技を教え込まれ、更に日々研鑽を積め、技を磨け、そう教えられ幾千年。

 

 

 今宵は、その眷属達がシュナの力を認めた日でもあったのだ……。

 

 

 ロロロオが〝架空領域結界〟を解除し、パシッと音を上げ拡散した淡いオレンジ色の魔素粒子が空間を揺らし飛び散った。

 

 

 揺れる空間が水面に移る姿を映しだすかのように、ロモコ達の姿を露わにしていく。

 

 

 

 ここに、もう一つの戦いが始まろうと、していた。

 

 

 

 

 

 




 五十二話を読んで頂きありがとうございます!


 では次回、 〝Killier neko(殺し屋) 集団、襲来(後編〟

 よろしくお願いします!





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。