忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。五十三話です


 ※作中で使用している特殊フォントは、〝ライム酒〟様作成の特殊フォントを使用させて頂いています。

 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。 








53話 Killier neko(殺し屋) 集団、襲来(後編

 

 

 クレイマン居城前に集結したロモコ以下、百匹の〝忍魔猫〟。

 

 

 皆の前でロモコが突入に関しての役割を振り分けていく。

 

『今から突入ですが、先にも言った通り〝殺焼陣形〟でいきます。証拠は何も残さず、死体も一体たりとも残しません。私達、いえ、〝傭兵商会・ルヴナン〟の暗部であり、裏部隊の恐ろしさを、存分にクレイマンの配下に思い知らせ。一片足りの慈悲も無く、その命を狩り取りましょう』

 

 皆に話しながらロモコは〝変幻(ヘンゲ)〟を使い、その姿を亜人形態へと変えていく。

 

 淡い光の魔素粒子が渦巻き、〝忍魔猫〟から亜人形態へと形取り、やがてその姿を現す。

 

 女性では高めの身長百六十八センチ・B八十九・W六十・H八十五という、中々のスタイルであった。

 

 顔付はは少しぽやっとした可愛い系、歳の頃は二十代前半くらいに見えた。

 着てる装束はツキハ達と同じで、色だけは紺色。

 猫耳は髪と同じで茶色だが、尻尾だけは白と茶色の茶トラ模様である。

 

 肩甲骨下まである長さの茶髪を首後ろで両手で纏め、右手で纏めた髪をスーッと引き下ろすと、一本の三つ編みが出来る。

 

 それを左肩から左胸前に垂らすように回し、鋭い眼光でクレイマン居城を睨む。

 

 

『あらーん。ロモコったら本気だしちゃって、いけない娘ね。ウフフ』

 

 ロモコから間延びした口調にオドオドした優柔不断さも無くなり、更に亜人化形態をとった事でロロロオが、嬉しそうに呟く。

 

 ロモコお仕事モード――こうなったロモコに茶々を入れる眷属は誰もいない。

 

『風遁・響音叉(きょうおんさ)

 

 さぐれ

 (探れ)

 

 

 ロモコは右片膝を付くと印を四つ結び、言霊(ことだま)を言うと同時におもむろに右拳で地面を軽く打った。

 

 コォーーーーン

 

 エコーが掛かったような反響音が鳴り、超音波の波がロモコを中心にして全周位三百六十度に向けて広がっていく。 

 

 その超音波の波はクレイマンの居城に届き広がり、居城の構造を丸裸にして行った。

 

 ロモコの視覚映像に3D映像の様なワイヤーフレームが、映し出されていく。

 

 それが立体的に組上がり――

 クレイマン居城の全構造が露わになる。

 

(一階から地下への階段は……地下二、三階、食糧庫と備品置き場に、地下牢ですか。上二階は……無いですね……。上三階、右奥廊下の突き当り……違う……)

 

 ロモコは独りブツブツと呟きながら、目的の部屋を探す。

 それを他の〝忍魔猫〟達は、周囲を警戒しながら黙って見守っていた。

 

(上五階……右の廊下を通り……更に左に、行き……行き止まり、象? 古代の戦士を表した彫像……。ん? これは……魔法陣の痕跡? 微弱な魔力……!? 転移陣? これは、どこに………………入り口の無い封印された地下十階にある……宝物庫。見つけましたよ。警護は、Aクラスの魔人十人ですか、問題ないですね)

 

 超音波の探査を終えたロモコが、ゆっくりと立ち上がる。

 

『目標の宝物庫を発見しました。それでは、前衛暗殺係は、私といつもの班三十名。中衛、焼却班、これもロロロオといつもの班三十名。そして、後衛清掃班はロモナオ(六百七雄)といつもの三十名。残り十名は取りこぼしが無いか全周警戒しつつ魂を確保、私達に追従。以上、いつもの〝お仕事〟です。それでは――闇に紛れ襲い来る恐怖を、味合わせにいきましょう!』

 

 皆が無言で、静かに(うなづ)く。

 

 ロモコ達が取る〝殺焼陣形〟とは――

 

 まず、前衛が素早く対象を暗殺。

 

 次に、中衛が火遁・黒炎系の術式で一瞬にして死体を灰に。

 

 そして、後衛が風遁・風系吸引術式で、巾着袋くらいの大きさの空間収納型皮袋に灰を吸引収納。

 

 最後に、最後尾の十名が討ち漏らしが無いかを確認しつつ魂を確保、追従する。

 

 これが、ロモコ達が用いる戦場攪乱や敵陣潜入暗殺をする時に用いる陣形。

 そして、任務に応じてその構成人数も臨機応変に変わるのである。

 

 単独要人暗殺などではこの陣形は用いられない、暗殺、焼却、灰の吸引を単独でやるのだが、これが出来るのも、この百匹だけなのだ。

 

 暗殺任務に特化した眷属――コハクが徹底して能力(スキル)を使った暗殺術を教え込んだ秘蔵っ子達。

 

 そう、眷属達の目撃や証言が乏しいのは、これによって証拠隠滅を徹底してるからである。

 

 〝傭兵商会・ルヴナン〟に所属する暗殺担当の裏部隊。

 〝忍魔猫〟達が、隠していた牙を静かに剥いていく。

 

 

 暗闇にほんのり光る金色の目、闇に紛れる影の集団。

 

  

 ロモコが右手を上げ、サッと前に振ると――

 一斉に〝忍魔猫〟の集団が三つに分かれ駆けだしていき、最後尾に小グループが追従する。

 

 そして、先頭をロモコが取り、クレイマン居城の正門目掛けて疾駆していく。

 

 その速さは風の如く音も無く、命を狩り取る影。

 

 迫る影は、殺意の影。

 

 影が過ぎ去りし後……。

 

 残るは、静寂な空間のみ。

 

 

 

 そして、最初の犠牲者が出る。

 

 クレイマン居城正門前の門番四名。

 

 魔法ランプの灯りの中、大欠伸をする門番達。

 

「ふぁあああ。おい、さっき斧で木を切ったような音が響かなかったか?」

「ああ? うーん、空耳だろ。俺は聞こえなかったぞ?」

「いや、何かコーンと木を叩いたような音が鳴ったような気がしたな、オレには」

「まあ、そんな気にするような事でもあるまいよ。それより――ん? 今首筋に、何か触れた、か?」

 

 流れるように影達が通り過ぎて行く――

 

 「ん?」と首筋を撫でられた感触に、門番達は首筋に手を当てるその時。

 

 パチンと何かが鳴る音が響いた――

 

 瞬間、首を回る様に細い線の火花が導火線のようにシュッと音を立て、一瞬で一周した。

 

 ゴロリと体から離れ落ちていく首が、四つ。

 遅れて霧状の鮮血が四つ、噴水の如く真上に吹き上がる。

 

 声を発する事も無く命を狩られた門番達。

 

 そして、その四つの屍は瞬く間に黒炎に包まれ灰になり、巻き起こった風に運ばれ、後衛の〝忍魔猫〟達が持つ皮袋に吸引されていった。

 

 

 正門を難なく突破し、クレイマン居城に侵入するロモコ達。

 

 城内を警護する魔人達の首や胴が、派手な血飛沫を上げ体から離れ落ちていく。

 

 そして、燃えがる黒炎がそれを滅却し、飛び散る鮮血を瞬時に蒸発させる。

 風に舞う灰が即座に消え、その場には何も残らない。

 

 どの魔人も一声も上げることなく、殺されていった。

 他の場所で警護する魔人達は、同じ城内で仲間が殺されていく事を、知る由もない。

 

 気が付いた時――それはもう、既に命を狩られているのだから。

 

 影が通り過ぎた瞬間に命が狩られ、屍は黒炎に包まれ灰に。

 そして巻き起こる風が灰を運ぶ。

 

 流れるような一連の動作が、一瞬で繰り広げられていく。 

 

 

 ロモコ達は一気に五階まで上がると、例の突き当りにある古代戦士の彫像前まで辿り着く。

 

 ここに来るまでの時間およそ一分三十秒の間に、城内警護する魔人百四十八名を血祭りに上げながら。

 

「さてと……」

 

 ロモコが彫像の周りを慎重に調べ、彫像のプレートアーマー胸の真ん中にあるブルーに輝く丸い宝石に魔力を流してみる……。

 

 すると――

 

 彫像の前に転移魔法陣が現れ、フウッと輝きながら回転していた。

 

『皆さん行きましょう』

 

 ロモコの『思念伝達』が皆に流れ、ロモコを先頭に次々と転移魔法陣に入り、宝物庫へと転移されていった。

 

 光る粒子の中から次々に現れる〝忍魔猫〟。

 

 ロモコは、無事全員の転送が完了したのを確認すると、前方百メートルの所にある宝物庫扉まで〝忍魔猫〟達を引き連れ進んでいった。

 

 半分まで来ると、扉前で警護していた十人の魔人達がロモコに達に気が付き、臨戦態勢を取っていく。

 

 そして、魔人達の数メートル先でロモコ達は歩を止める。

 

「ああ? 亜人型の魔人女が何で魔猫引き連れて、クレイマン様の宝物庫まで来てるんだ? 自殺志願者かぁ? ウヒャヒャヒャッ」

 

 細身で目付きの悪い魔人が、ロモコを見て下卑た顔で嗤う。

 

「どうやって来たのか知らんが、生きては帰れんぞ? 女」

 

 筋骨隆々な巨漢の魔人が言葉を言い放つ。

 

「まあまあ、皆の者。せっかく美人でむしゃぶりつきたくなる体の魔人女が来たんだ。楽しんでから、殺せば良かろう? ウヒヒヒ」

 

 背の小さい小柄な魔人が、ねめるような目つきでロモコを見て、嬉しそうに言う。

 

 そこへ――

 

「はあーーッ。何なんですか、このスカタンどもは……。これがAクラスの魔人? 何かの冗談ですか?」

「「「「「なんだとーー!?」」」」」

 

 凄まじく残念そうな顔で言い放ったロモコに、魔人達の怒号が宝物庫前の広い通路に響き渡った。

 

「もう、ロモコったら。そんなに言ったらこの子達が可哀そうじゃない。これでも、数百年は生きてるみたいよん」

 

 ロモコの横に来た白い大きな魔猫が喋ったのに対して、魔人達が驚きの声を上げる。

 

「何ッ? 何で魔猫が喋るんだ? 魔獣の中で最弱の奴だぞ、魔猫は!?」

 

 引き締まった体に美形の顔を持つ魔人が、疑問の言葉を吐いた。

 

「あら、あらあらあら、中々に美形の魔人ねぇ。ワタシの好みだわよ、ア・ナ・タ。ウフッ」

「うわっ、何だこの魔猫、オカマ魔猫か? ハッ、ワハハハハ。冗談にも――ええっ!?」

 

 ロロロオが妖艶に投げた言葉に、美形の魔神は笑いながらロロロオに目を向けると……。

 

 目に入ったのは――

 

 白髪ロン毛の背の〝高い(178センチ)〟スラリとした体形の美青年がそこにいた。

 

 白色の膝丈までの小袖で衿と袂の袖口が黒で縁取りされていた。

 

 小袖の下には、黒革のスリムなロンパンを穿き、足にはこの世界の皮で出来た黒いショートブーツを模した物を履いていた。

 

 その美青年は、〝変幻(ヘンゲ)〟で人化したロロロオである。

 

 お尻の辺りまで伸びた白く美しい髪を両手でかき揚げると、「うふん」と妖艶な溜息を吐くロロロオ。

 

『『『『『うげっ』』』』』

 

 ボワッ!! 一斉に(オトコ)達の尻尾の毛が逆立つ。

 

 

 クレイマン配下の魔神達は、いきなり魔猫が人化したのに何か嫌な違和感を覚える。

 

 そして、さっきの美形魔人がロロロオに問いかけた。

 

「お前……いったい、何者なんだ?」

 

 訝し気な顔の魔人にロロロオは―― 

 

「あら、ワタシ? それともワタシ達? そうねぇ~、どうしようかしら。ねえ、ロモコ。教えてあげても、いいかしら?」

 

 凛と透き通るような綺麗な声でロモコに尋ねるロロロオ。

 

「いいですよ。どうせ、このゴミどもに先はありませんからね」

「あらまあ、もうロモコったら、完全にお仕事モードなのねぇ。貴方達、ご愁傷様だわね」

 

 表情を全く変えずにロモコが吐き捨て、ロロロオの目が鋭く光る。

 

「クレイマンの手下共、よく聞きなさい。ワタシ達は、〝番外魔王〟の眷属であり、〝傭兵商会・ルヴナン〟所属の――裏部隊よ」

「「「「「なっ……」」」」」

 

 〝番外魔王〟の眷属と聞いて、魔人達は絶句した。

 

 今まで眷属の実体を見た者は、数少ない。

 生き延びたとしても、皆、一応に口を(つぐ)み絶対に話そうとしない。

 

 その眷属が今、十人の魔人達の前にいる……それも百匹の〝忍魔猫〟が。

 

 裏社会では、〝傭兵商会・ルヴナン〟に、秘密裏に存在する裏部隊がいると噂されていた。

 

 しかし噂は噂、見た者がいない以上、噂レベルでしか語られなかった。

 

 だが、その噂されている裏部隊が、目の前にいた――

 クレイマンがあらゆる手段を使っても捜し出せなかった、〝傭兵商会・ルヴナン〟の裏部隊。

 それが、姿を現したのだ。十人の魔人達の、目の前に。

 

 

 だがしかし、巨漢の魔人は目の前にいる眷属が、亜人形態の男と女で残るはただの魔猫にしか思えなくて、しかもロモコから漂う妖気(オーラ)がBクラス程度にしか感じ取れず。

 

 ロロロオの言った言葉を――愚かな事に、ただのハッタリだと勘違いしてしまう。

 

「ハッ、ハハッ! まてまて、どうみてもそこの女から感じ取れる妖気(オーラ)が、どう考えてもBクラス程度の強さしかない事がバレてるぞ。〝番外魔王〟の眷属、か……。そう言えば、俺達がビビるとでも思ったか? この、低ランクの魔獣共がッ!!」

 

 巨漢の魔人の言葉に他の魔人達も「だよな。何かおかしいと思ったんだ」「ハッタリか? この低ランクの魔獣如きが笑わせるぜ」など言い始め、戦意を取り戻していった。

 

 更に巨漢の魔人がロモコに、言葉を吐きぶつける。

 

「女、テメエの主が〝番外魔王〟だと? テメエ如きが眷属なら、〝番外魔王〟など噂ばかりのハッタリ魔人だな。ガハハハハハハハ!」

 

 ピキッ

 

 何かが切れかける音をロロロオと後ろにいる〝忍魔猫〟達が、耳にした気がした。

 

「まんまと騙されるとこだったぜ。降伏しろ、命だけは助けてやらんことも無い。お前の後ろにいる、ペット共々、降伏しろ。命だけは――」

「――ペット?」

「そうだ、ペット共々降伏しな。命を助けてやらん事もないぞ? ガハハハッ」

 

 プツン 完全に何かが切れた音がロロロオ達の耳には、聞こえた気がした。

 

 瞬間――ロロロオ以下、九十九匹の〝忍魔猫〟達の目が大きく見開かれ、魔人達を凝視していた。

 

 それを見た巨漢の魔人は、〝忍魔猫〟達が恐れをなしたと……更に勘違いを犯す。

 

「声も出ないか? そうだろうそうだろう、Aクラス魔人の俺達相手にテメエ等が束になっても、敵いやしねえしな。ウワッハハハハ」

 

 豪快に嗤い、ロモコ達を睨みつける巨漢の魔人。

 

 否、ロロロオ達は(何て馬鹿な事を言うんだ、お前は……)と、思いながら魔人達を見ていたのだ。

 

 もう、楽には死ねない。

 

 死ぬ瞬間まで恐怖を植え付けられ殺される、それはもう凄惨に。

 黙っていれば、苦しむ事なく死ねるのに……。

 

 その機会はもう、永遠に失われたのだ。

 

 スーッとロロロオがロモコの後ろに立ちながら、後ろ手に組んだ手で(下がれ)というようにピッピッと振りながら自分も下がっていき。

 

 それを見た〝忍魔猫〟達も、一斉に下がっていった。

 

「そうだ、大人しく下がって震えてな。最弱の魔猫風情――」

「黙れ」

「ああっ!?――」

「もういいです。つまらない御託は終わりましたか?」

「ハハッ! まだ虚勢を張るの――」

「黙れ!!!」

 

 キキイィッーーーーン

 

 ロモコの声が凄まじい大きさで空間に響き反響し、魔人達は余りの大きさに耳を押さえる。

 

「な、なんだ?――うわっ!?」

 

 反響音が響く中、巨漢の魔人の着けてるプレートアーマーが激しく振動を始め――

 瞬間、粉々に粉砕された。

 

 ロモコの声が超音波となり、巨漢の魔人のプレートアーマーに収束され粉砕したのだ。

 

 いきなり粉砕されたプレートアーマーを見て、巨漢の魔人と他の魔人達は声を失う。

 

「遅い。攻撃されたら直ぐに反撃に転じる。こんな基本めいた事も出来ないのですか、クレイマンの配下は?」

 

 いつの間にか巨漢の魔人の目の前に来たロモコ、その魔人の両太腿の付け根をスッと右人差し指で撫でていった。

 

 巨漢の魔人の太腿の付け根に、ぐるりと回る様に赤く細い線が描かれていく。

 そのまま撫で終わると、後ろにいる小柄な魔人の所へゆっくりと歩いていった。

 

 呆気に取られた巨漢の魔人が、背に担いだグレートアックスを手に取り。

 

 ロモコを後ろから一刀両断しようと振り上げたその時――

 瞬時に五つの印を結び、ロモコが言霊(ことだま)を発し指をパチンと鳴らす。

 

 きりはしれ

 (斬り走れ)

 

 〝火遁・炎環斬(バーン・ザ・リッパー)

 

 シュボッ 巨漢の魔人の太腿に付けられた赤い線が火花を散らし、付け根を一瞬にして一周した。

 

「えっ!?」 

 

 グレートアックスを振り上げたまま上半身ごと床に倒れる巨漢の魔人。

 少しの間をおいて、焼き斬られた両太腿の付け根から夥しい血が噴き出て来た。

 

「おがああああああっ! あし、俺の脚がああああああ!!」

 

 焼き斬られた傷口から血を噴き出しながら、床でのた打ち回る巨漢の魔人。

 

 

 ロモコは巨漢の魔人に目もくれず、自分を下卑た目で見た小柄な魔人の前まで来た。

 他の魔人達は、足が床に縫い付けられたかの如くその場から動けずに見ていた。

 

「ヒャッヒャヒャ。女、お前はもう俺様の間合いだ、死ね!」

 

 両手に隠し持った短剣を逆手に持ち、ロモコに斬りかかる魔人。

 その斬撃は残像を残す程に速く、ロモコを翻弄していき。

 

 ヒュヒュッ ロモコの顔を狙って繰り出した左手短剣を囮に――

 右手短剣で腹部を刺しにいく。

 

 が、スッとロモコの右手が短剣を持った魔人の右手首を掴み、瞬時に外側に捻り――

 左腕を短剣の刃横に当て、巻き込むように魔人の手から短剣を奪った。

 

 奪った短剣は左腕の肘の内側で挟んでいた。

 ロモコは左腕を振り、肘の内側に挟んだ短剣を横に投げ捨てる。

 

 それは魔人が腹部を刺しに行った瞬間に、行われた動作。

 

 〝ディザーム(武装解除)

 

 忍びの技術の一つ、素手で短刀や短い刃物を持った相手に対して使う防御技術であった。

 

「はえ?」

 

 右手を掴まれた瞬間に自分の手から短剣が奪い取られた事に、呆けた様に動きを止めた魔人。

 

 パンッ! 何かを叩くような音が鳴り、今度は左手から短剣を飛ばされ、床に落ちた短剣が乾いた音を立てながら転がる。

 

「はうあっ!?」

 

 動きの止まった魔人にロモコが右前蹴りを放つと見せかけて、そのまま右足を内から外に払うように魔人の左手ごと蹴り払ったのだ。

 

 短剣を握っていた魔人の左手は、蹴りの衝撃で五本の指があらぬ方向に曲がり折れていた。

 

「あひゃあああーー! 指、指、おれ、折れて――」

「――あまりにも、お粗末」

 

 魔人の鳩尾(みぞおち)にロモコが右縦拳を添えると――

 バガンッ! 震脚で大理石の床を踏み割り、零距離打撃を放った。

 

 魔人の体内に魔闘気の〝打振〟が打ち込まれ、振動波が内臓を掻き回す。

 

 〝天牙影千流・柔術拳技 尖孔烈華(せんこうれっか)

 

「ぼはっ……うぼあっーー あぁ……がはっぁぁぁ」 

 

 小柄な魔人は床に両膝を付き、腹を押さえたまま前のめりに倒れながら大量の血を口から吐き散らす。

 

 床に倒れたまま体をピクピクと震わせていて、辛うじてまだ生きていた。

 

「あぁ、何だお前は!? 何でBクラス程度の魔人が、俺達Aクラスの魔人を手玉に取れるんだ?……」

「はい? はぁ~……。貴方達、腐ってもAクラスの魔人なんでしょう? 敵の本当の力量も見極められないと、いうのですか?」

「あ、あ゛あ゛っ!? そのチンケな魔素量(エネルギー)で何を、を? おぉーーーー!?」

 

 引き締まった筋肉の体付きをした魔人がロモコに言うと、「〝猫騙し〟、解除」ロモコが呟いた。

 

 同時にロモコを中心にして、妖気(オーラ)の波動が全方位に広がった。

 その波動は、魔人達の服と髪をバタバタと揺らし、波動が通り過ぎていく。

 

 〝猫騙し〟を解除したロモコの魔素量(エネルギー)は、十人の魔人達の魔素量(エネルギー)を遥かに凌駕していた。

 

「え、えっ、え? 何だその馬鹿げた魔素量(エネルギー)、は……」

「後ろにいる魔猫共の魔素量(エネルギー)……ば、化け物かっ?……」

「無理だ、勝てねえ、無理だ!」

「直ぐにクレイマン様に報告を、え? 通じない? 魔法通信が妨害されている、のか?」

 

 自分達より圧倒的な妖気(オーラ)魔素量(エネルギー)

 今まで大抵の者は自分達を恐れ、付き従って来た。

 

 しかし、上には上がいる……見た目を偽り、本当の姿を隠す者がいるのだ。

 

 それを見抜けなかった、十人のAクラス級魔人達。

 持って生まれた能力に溺れたツケが今、巡る。

 

 

 勝てぬと分かり動ける八人の魔人達は、一目散に宝物庫扉から百メートル先の転移魔法陣目掛けてなりふり構わず駆けだしていった。

 

 だがしかし、三十メートル程まで行くと一瞬にして宝物庫扉前まで戻されていた。

 

 「「「「「うあっああああああああ!!」」」」」

 

 何度も同じ場所に戻されながら奇声を発し、ひたすら転移魔法陣目掛け必死に駆けていくが――

 そこに辿り着く事は出来ない。

 

 ロモコが創り出した幻想領域に、完全に捕らわれていたのだから。

 

 幅二十五メートル、長さ百メートルの大理石の廊下。

 その廊下の三分の一が、幻想領域の空間。

 

 逃げる事も適わない、隔離された空間に魔人達は、阿鼻叫喚になる。

 

 そんな魔人達を見ながらロモコは――

 

「楽には、死ねませんよ」

 

 印を三つ結び、言霊(ことだま)を放ち、二本指を立てた右手を真横に切る。

 

 もえさけ

 (燃え咲け)

 

「火遁・炎花颯(えんかそう)

 

 ロモコの足元にオレンジ色に燃え盛る無数の花が咲き誇りながら広がり、幻想領域内を埋め尽くしていく。

 

 そして――

 

 一斉に咲いた花が散ると、床一面を埋め尽くす火炎の花が爆発的に燃え上がり、空間を埋め尽くした。

 

「「「「「あぐわっあああああーー!!」」」」」

 

 膨れ上がった炎に包まれた魔人達の絶叫が空間内を満たす。

 

 だが、ほんの二秒ほどでその炎は鎮火する。

 

 そして、ロモコの足元の炎だけプスプスと(くすぶ)り、小さな炎を揺らしていた。

 

 体のあちこちが焦げて炭化し、黒くなった皮膚がポロポロと崩れ落ちる魔人達。

 

 巨漢の魔人と小柄な魔人は、完全に意識を失っていた。

 

 プルプルと震える手でポーションを飲む八人の魔人。

 

 炭化した部分が再生され、火傷も消えていった、が……。

 

 死んだと思った火炎系魔法で辛うじて生き残った恐怖は、消えなかった。

 

「わかった、降伏する、俺達はアンタ達に降伏する!」

 

 一人の魔人が声を上げ、懇願する。

 

「頼む。助けてくれ、オレも、降伏する……」

 

 這いつくばったまま床に顏を伏せ、別の魔人が力なく言った。

 

「助けてくれ? 仮にも魔王の配下でありAクラス級魔人が、命乞いですか? まだ、まともに戦ってもいないんですけども?」

「無理だ……俺達では、アンタには勝てん……というか、アンタの後ろにいる魔猫達は、何なんだ……?」

「ロロロオの言葉を聞いてませんでしたか? 私達は〝忍魔猫〟であり、〝番外魔王〟ツキハ様コハク様の眷属ですが」

「本当にいたのか……〝傭兵商会・ルヴナン〟の裏部隊。くそ……何てついてないんだ、俺は……? かはっ、息が?――」

「苦しいですか?」

 

 魔人が倒れ伏したまま話す魔人に冷淡な目を向け、淡々と返すロモコ。

 

「最後に一つ、面白い事を教えましょう」

 

 ロモコは倒れ伏したまま顔を上げる八人の魔人を見渡し、言う。

 

「まず、息が苦しいのは、この幻想領域内の酸素が欠乏したからです。まあ、精神生命体なら問題はないんですが。そして魔素粒子、これが大気中に存在するのは知ってますよね? 魔力に反応すると電気を帯び、熱を持つことを知ってますか? まあ、ある特殊な条件が必要になるんですけど」

「「「「「……?」」」」」

 

 聞き慣れない言葉に魔人達は、首を傾げる。 

 

 それを気にせず言葉を続けるロモコ。

 

「まあ、魔力といっても、かなり高密度に圧縮された魔力にだけですけどね。それも一度体内に取り入れた魔素粒子だけが、この高圧縮魔力に反応するんですよ、ねえ。おもしろいでしょ? これを千年以上前に我らが(あるじ)ツキハ様が見つけ――凄まじい技を開発したんです。凄いでしょ? もっとも、これはある特殊な体質が成せる技であり、貴方達には、いえ、ほとんどの魔物には、この特殊な魔素粒子を作り出す事は無理でしょうけどね。フフフッ」

 

 口端を軽く上げ、氷のような笑みを浮かべるロモコ。

 

 話の見えて来ない八人の魔人達はフラフラと立ち上がりながら、ロモコを恐怖に満ちた目で、ただただ見ていた。

 

 小さな炎が燻る幻想領域内、徐々に可燃性の魔力ガスが充満し始めていた。

 

 続くロモコの言葉。

 

「うーん。頃合いですか?」

 

 満足そうに言うロモコに、八人の魔人達は何か恐ろしい事が自分達のいる空間で起こってる事に、薄々気付く。

 

 段々と息苦しくなり、目眩にも似た感覚、響く頭痛に頭を片手で押さえ顔を(しか)めていく。

 

「今、この密閉された幻想領域内は空気が乏しくなり、可燃性の魔力ガスが充満しました。無味無臭の魔力ガス。感じなくても、目眩や酷い頭痛に襲われてませんか?」

「そ、それがなんだ? 俺達は状態異常耐性があるから、生半可な毒などは、聞かないぞ……」

 

 毒ガスくらい何だというように返す一人の魔人。

 

 しかし、これがそれだけとは到底思ってなく、言い様の無い恐怖がその魔人達の心を侵蝕していく。

 

「毒? そんな可愛いものではありませんよ。先ほど言った魔素粒子。これを体内に取り込み、私の中の酸素と魔力を組み合わせて魔力ガスを生成散布しました。そう、高圧縮された魔力に反応する魔素粒子で出来た、魔力ガスです」

 

 そう言うとロモコは右手の平を上に向け胸の前に持って来ると、蒼白く輝き渦巻く拳大の光球を生み出した。

 

「私はツキハ様みたいに、強力な術を持ち合わせてはいません。今から見せるのは、ツキハ様の技からヒントを得て、応用した小さな技。いえ、細やかな火遁系爆炎術式です。この光球は、魔力を練り込み高圧縮した魔力酸素の塊」

 

 言いながら、八人の魔人達に見えるように、左から右へと右手をゆっくりと動かし見せる。

 

「そして、この魔素粒子で出来た空間内を満たす可燃性魔力ガスと足元の小さく燻る魔炎、最後にこの魔力酸素球――これらを、合わせると――」

 

 両口端の口角が上がり、更に冷笑を深め言うロモコ。

 

 そこまで聞くと、流石に察しの悪い魔人達でも気が付いた。

 

 魔人達の額から、ツツーッと一筋の汗が床に流れ落ちる。

 

 そう、想像を絶する業火の嵐が吹き荒れる、この幻想領域内で。

 

 恐怖、今まで味わったことの無い恐怖に……。

 

 あらぬ叫び声を上げ幻想領域内を走り回る、四人の魔人。

 

 ロモコの足に縋りつき、命だけはと懇願する、一人の魔人。

 

 一人の魔人が持っていた剣で斬りかかろうとするも、足が床に縫い付けられたように動かない。

 

 死に物狂いで転移魔法陣へと行こうとする、二人の魔人。

 

 そこへ、無情な言霊(ことだま)が響き渡る。

 

 ばくえん

 (爆炎)

 

〝火遁・逆爆炎流(バックドラフト)

 

 ロモコが魔力酸素球を握りつぶす。

 

 瞬間、足元で(くすぶ)っていた炎が魔力酸素を得て、爆発的に燃え上がり――

 可燃性魔力ガスに、引火した。

 

 ロモコの立っている所から凄まじい爆炎流が、全周位に向けて噴射されるように吹き出された。

 

「「「「「ぎゃぁああああああーーーー!!」」」」」

 

 魔人達の断末魔が空間内に木霊(こだま)する。

 

 地響きの鳴るような轟音を響かせ荒れ狂う、摂氏三千度の爆炎流。

 

 人の形をした炎が不可視の壁に両手をバンバンと叩き付けながら、ずるずると渦巻く爆炎流の中に沈んで行く。

 

 荒れ狂う爆炎流は、魔人達を完膚無きまでに燃やし尽くし、灰すらも残さなかった。

 

 

『『『『『あの、おっかない(オンナ)、誰や?』』』』』

 

 わかってて言う、(オトコ)達。

 

『『『『『ロモコじゃん』』』』』

 

 呆れたように返す、(オンナ)達。

 

 

 吹き荒れる爆炎流は徐々に収まり、ゆらゆらと陽炎が立つ中ロモコが幻想領域を解除し、皆の所へ戻って来た。

 

「はあ……。また、やりすぎました。もう、何なんですかあの馬鹿魔人共は、はあッ~」

 

 疲れた顔で、右手に握った十人分の魂を見つめながら「お腹すいたな」と呟くも、ロロロオに「つまみ食いはお仕置きコースだわよ」と言われ。

 

 「わかってますよ」と言いながらロモコは、捕獲した魔人の魂十個を魂の回廊を通じて、ツキハとコハクに献上した。

 

 お仕事モードから、通常モードに戻ったロモコ。

 

「はあ、お腹すいた、じゃなく。皆さん、宝物庫から予定分だけ取ったら、とっとと帰りましょう」

『『『『『『にゃい(いつものロモコに戻ったにゃ。ウククク)』』』』』』

 

 皆が途端に悪い顔になってクスクスと笑う。

 

「えーと、これ? 違う、これじゃない……。あれ? このトラップは、こう? あーー、二重にロックされてましたか。こっちを解除して……これで、はえ? あらららら、えーと、どうしましょう? あらあら封印が更に増えましたよ? えーと、誰かぁ、代わってもらえますか?」

 

 いつものロモコに戻り、宝物庫の扉に掛けられた封印術式を解除するロモコだ、が……。

 

 次から次へと罠を作動させ、どんどん封印が厳重になるという悪循環に陥っていた。

 

 お仕事モードの時のロモコとは明らかに違う、お間抜けロモコ。

 そのロモコを、仲間達はこう呼んでいる――

 劣化ロモコ、と。

 

 流石に手に負えなくなり、恐る恐る後ろを振り向き助けを請うロモコ。

 

『『『『『何してるにゃ?』』』』』

 

 それを見た〝忍魔猫〟達は半目で吐き捨てる。

 

 見かねたロロロオが「しょうがないわねえ」と言いながら、手際よくトラップ術式を解除していき。

 

 宝物庫の扉が開いた。

 

 重く軋む音を上げながら、大きな扉が左右に開いていった。

 

 宝物庫の中には、歴史的遺産の絵画や彫刻に様々な宝石類に豪華な高級調度品、金貨の入った箱が山積みにされていた。

 

 財宝の山に〝忍魔猫〟達は喜び勇んで宝物庫に入り、〝がま口財布〟を取り出し宝石などを手当たり次第に放り込んでいく。

 

「あ、駄目ですよ。古代金貨は取っちゃ駄目です。そこのドワーフ金貨だけ頂いてくださいね。あ、そこ、宝石類は根こそぎ持っていかないでください。そこ! 何を運び出そうとしてるんですか? 絵画や彫刻はいりませんから! あー駄目ですって、だから、古代金貨は取らないでくださいと言いましたよね? もう、ほんと、お願いしますよ皆さん」

 

 深い溜息を付きながら宝物庫扉前に腰を下ろし、体育座りで膝に顏を乗せ「お腹すいた」とぽつり溢すロモコ。

 

 そこへ、ロロロオが横に来て同じように腰を下ろして来た。

 

「炎系術を得意とする流石のあんたも、三系統術式を同時起動展開するのは、大変だったみたいね、フフッ」

「はいぃ。あれは術の制御に精神力をごっそり持っていかれますから、凄く疲れるしお腹がすきます……」

「コハク様やツキハ様は、平気で何系統もの術式を同時起動展開出来ますもの。流石はワタシ達の主よねえ」

「ですよねえ。私なんか三系統同時展開しただけで、この有様ですよ……」

 

 そう言うとロモコはしょげたように膝に顏を埋める。

 

「魔炎、魔力ガスに魔力酸素と形態の違う術を掛け合わせて起動、それだけでも凄い事なのよ。もっと自信持ちなさいな。それに、主様を馬鹿にされて怒るのはわかるわ、ワタシも魔人の頭を握り潰してやろうかと思ったもの。でもね、ワタシ達が罵られたくらいは、ほっときなさいな。あんな馬鹿な魔人共に、あそこまで()る必要はないわよ」

「あーでも、何て言うか、そのぉ、やっぱり、仲間を馬鹿にされるのは、嫌です……」

「ほんと、千年以上経とうとも変わらないのね、貴女。フフッ(そんな貴女だから、みんな大好きなのよ。ロモコのことが)」

 

 優しく微笑みながらロロロオはロモコに言い、ロモコは膝に顔を埋めたまま()ねたように言う。 

 

 そんなロモコだからこそロロロオ達は、ロモコがリーダーでも付いて行くのである。

 

 それからは、他愛も無い会話をロモコとロロロオは交わしていく。

 

 そうしてる内に、満面の笑みを浮かべながら〝忍魔猫〟達が、宝物庫からゾロゾロと出て来る。

 

「終わりましたね、では皆さん、お役目終了です。帰り……ま……し……ょう、か?」

 

 言いながらロモコが宝物庫に目を向けると――

 明らかに、宝物庫にあった金品の数々が減り過ぎていた

 

 すかさずロモコは、バッと右手を真横に振り、幻想領域で皆を覆い隔離した。

 

「皆さん。やりましたね? 言いましたよね? 金品強奪は全体の三割までだ、と」

 

 ゆらりと立ち上がりながら、左足踵で床を軽く打った。

 

 コォーーン

 

 次元音波の波が全周位に広がり、仲間達が両前足に掴んでいる〝がま口財布〟を探査していった。

 

 亜空間反響(エコー)で仲間達の財布の中身が露わになる。

 

 そうすると、財布に古代金貨をしこたま詰め込んでいる者、どうやったのか絵画などを入れている者。

 

 更に、あろうことか人間の等身大の彫刻を入れている者、手当たり次第に宝を詰め込んだ者。

 

 そして、高級調度品などを〝がま口財布〟にぶち込んでいる者、等々。

 

 自分の趣味や、闇オークションに流して小遣い稼ぎ、仲間の眷属達に売り付けようと画策する者など。

 

 様々な理由で必要以上に金品強奪を働く、困った裏部隊の面々。

 

 一度〝がま口財布〟に入れた物は、死んでも出すか! とばかりに首に巻いた飾り紐の空間収納に財布をしまい込んで――

 

 毛を逆立て背を丸め伸びあがり尻尾を逆しの字に曲げて、皆が体を横に向けちょこちよことステップを踏む――

 

 〝やんのかステップ〟で、ロモコに対して威嚇を始める〝忍魔猫〟達。

 

 すると――

 

『えーと。コハク様、聞こえますか?』

『なんえ? ロモコ』

『お忙しいところ、すみません。あのですね、なんというか、そのぉ、皆が必要以上に金品強奪をしましてぇー。クレイマンの宝物庫の財宝が半分以下に減ったのですけどー。どうしましょう、か?』

『ロモコ。言い付け守らんスカタンは、この(いくさ)が終わったら、うちのところへ来るようにいいなはれ。ええな?』

『はいー、わかりましたー』

『『『『『『はうぁっ!?』』』』』』

 

 ロモコとコハクの『念話』を聞いていた仲間達の尻尾と背中の毛が、ボワワッと逆立つ。

 

 『念話』が終わった途端に、皆血相を変えて宝物庫に走り込み、必要以上に奪った金品を戻していく〝忍魔猫〟達。

 

 それを見てロロロオが「ほんと、困った猫たちよねえ」と右頬に手を当てながら、しみじみ言うと。

 

「ロロロオ。貴方も宝石の指輪、根こそぎいったでしょ? 返して来てくださいね。もう、ほんと、勘弁してくださいよぉ」

 

 心底疲れた声で言うロモコに、「あらあら、ごめんなさいねえ。つい出来心で。ウフッ」と小走りで宝物庫に入っていった。

 

 

 

 ロモコ以下、百匹の忍魔猫達。

 

 〝傭兵商会・ルヴナン〟の裏部隊にして、問題猫集団。

 

 

 時には恐ろしく。

 

 時にはだらけて自由奔放。

 

 自分の欲望に正直で、でも仲間想いであり、ロモコ大好きな九十九匹の忍魔猫。

 

 

 そんな愉快な暗殺集団は、今宵も闇に紛れて暗躍する。 

 

 

 シュナ達がクレイマンの居城に到着したのを察知した〝忍魔猫〟達は、次々と『空間転移』で宝物庫前から去っていく。

 

 

 最後に。

 

 ロモコが宝物庫の扉を閉めて……。

 

 

「あぁー、疲れたです……。帰ったら、お酒飲んで……寝よう」

 

 空間を歪ませ、パッと立ち昇る魔素粒子を残しロモコは宝物庫前から転移する。

 

 

 

 そして、〝魔王達の宴(ワルプルギス)〟が始まろうとしていた。

 

 

 

 




 五十三話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!


※猫を飼っていない皆様へ。
 作中に出てくる〝やんのかステップ〟ですが。
 〝やんのか〟で検索して、動画などを見てもらえると分かり易いかもです。

 うちの猫達もこれをやります(笑




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