忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。五十九話です








59話 〝喜狂の道化(クレイジーピエロ)

 

 

「ンゴォーッ、酷い目にあったわ。んん? おお、ツキハとコハクではないか。こんな所で何しておるのだ?」

 

 頭を抱え蹲るヴェルドラがスクッと立ち上がり、ツキハとコハクの方を向いて、呑気に答える。

 

 そこへツキハとコハクが、『思考加速』を軽く一万倍ほど掛けて『思念伝達』で話しかけて来た。

 

『いや、それこっちのセリフだし。ここ異界なんだけど……。いきなり湧いて出て来るなんて、非常識じゃない?』

『いや、湧くとか? 我は魔虫ではないぞ?』

『いや、そんなの知ってるし。なんで湧いてきたのって、聞いてんのよ?』

『いや、だから我は魔虫ではないと、言ってるおるのだが?』

『いや、だから何で湧いて来たのって、聞いてるのよ?』

『いや、だから湧くとか魔虫ではないと何度も――』

『――あんさんらいい加減にしなはれ! 何、いやを連発してアホなこと言い合ってますんや? しばきますえ!』

 

 一向に話が進まないツキハとヴェルドラに、コハクが怒ったように言い放つ。

 

『あ、ごめん』

『ぬ、ぬう、すまぬ』

『はあーほんま……。で、ヴェルドラはん。どうやってここに来れたんや? 一応ここは異界やで?』

『ふむ、それはな――』

 

 コハクの問いにヴェルドラがここに来た経緯を二人に説明し始めると、話が進むにつれツキハとコハクは、徐々に呆れた表情を浮かべていく。

 

 

 そこへ、隙を見て態勢を立て直したリムルが、ミリムに向けて身構えながらヴェルドラに問うて来た。

 

「おいヴェルドラ、なんでここに来たんだ?」

「『いやだからな、お前らよく聞け、お?』、ん? おおリムルか。ほんと酷い目にあったぞ」

「それはいいから、街に何かあったのか?」

『すまぬが、ちとリムルにも説明しなければならぬでな、切るぞ』

『あー、うん』

『へぇ』

 

 リムルからの問いに慌てて答えながらヴェルドラは、ツキハとコハクの『思念伝達』を切った。

 

 

「何もないわい。ディアブロとやらが戻ってきたので、守りも強化されてるよ」

「はああ? ディアブロが戻っているだと!?」

 

 ヴェルドラが言ったいきなりの言葉に、目が点になるリムル。

 

(そんなに早くファルムス王国の攻略が完了する訳……ないよな? ふーむ、まあいい、とにかく今はヴェルドラだ)

 

 とりあえずディアブロの事は置いておいて、ヴェルドラに再度問うリムル。

 

「とにかく何しに来たんだ? 冷やかしなら帰れよ」

「リムルよ、お主も大概酷いな……。それよりも、用件はコレだ!」

 

 バアーーーーン! という効果音が聴こえそうな感じにヴェルドラが突き出した者、それは―― 

 

 リムルがヴェルドラ用に用意していた、マンガ本だった。

 その最終巻をヴェルドラが突き出していたのだ。

 

『ねえヴェルドラが言ってたマンガって、なに? 絵巻草紙みたいなもん?』

『あれやな、〝少年〟の執務室にあった、アレやおまへんか?』

『ああ! あの部屋の机に積んでた本みたいなアレかぁ』

『せやな。まさか出所が魔王リムルやなんて、ほんま転生者の知識使いまくりおすな。うちらも人の事は言えまへんけど。フフッ』

 

 ツキハとコハクは、ヴェルドラとリムルの会話を聞きながら、苦笑いを浮かべていた。

 

「コレがなんなんだ?」

 

 リムルが訳がわからないと再度問うと。

 

「なんなんだでは、ないぞ! 中身が別物ではないか! こんないいところでお預けなど、我に対する嫌がらせか?」

『だろうね』

『せやろ』

『はあ!?』

 

 ヴェルドラが文句をリムルにぶつけた後、ツキハとコハクがそれを肯定するように言葉を言う。

 グリッとツキハとコハクの方へ首を向け、恨めしそうに二人を見るヴェルドラ。

 

(あ、あーあ! 思いだしたわ。うん、ごめん。嫌がらせで間違いない)

 

 リムルはヴェルドラが大人しく留守番をしてくれるように、言う事を聞いたら続きを渡すと、そう(しつ)けるつもりでイタズラを仕込んでいたのだ。

 

(あー、まさか置いて来たマンガがそれだったとはねぇ。というかヴェルドラの奴、それが読みたいが為だけに、ここまでやって来たのか……。この隔離された戦域まで。俺の究極能力(アルティメットスキル)暴風之王(ヴェルドラ)』なら、『無限牢獄』からも呼び出せるらしいけど……呼び出さなくても、ヴェルドラの方からやって来れるとは、ね)

 

 リムルはそう思いながらも、街にはディアブロがいるならば、この際だからこの状況を利用しようと思い立つ。

 

「よし、続きを渡す前に頼みがある」

「む? なんだ?」

「そこのミリムと、少しの間遊んでやってくれ。ただし、絶対に怪我をさせないようにな」

「ミリム? おお、我が兄の一粒種(ひとつぶだね)か。会ったのは初めてだが、まだまだ子供だな。良かろう、我に任せよ!」

 

 ヴェルドラは即答でリムルの頼みに答える。

 

(フッ、マンガの続きが読みたいからか、ミリムに興味を持ったのか、どっちでもいいけどね。しかし、我が兄の一粒種(ひとつぶだね)――というのは気になるな。けど、それは後回しだ) 

 

 ミリムは油断なくリムルを窺っていたが、ヴェルドラに興味を持った様子で目をキラキラさせていた。

 

 

 そうしてリムルは、一番切迫してるように見えるランガに目を向けてみる。

 

「ランガ、大丈夫か?」

「おお。リムル様。我は問題ないのですが、少し困った状況です」

 

 リムルの予感は当たっていた。

 そうリムルには、ランガの攻撃に精彩さが欠けていたように見えていたのだ

 

「どうした――?」

 

 リムルがランガに問おうとした時、その理由がわかった。

 

 

 ――すけて た――けて 助けて 助けて!!――

 

 リムルの頭の中に飛び込んで来た、泣き叫ぶ幼子のような声。

 その声は『思念』となって、九頭獣(ナインヘッド)から漏れ出ていた悲痛な声であった。

 

 白猿(ビャクエン)月兎(ゲット)は、怯える主を必死に守ろうとしていただけ。

 だから、負けを認めず必死の抵抗を続けていたのだ。

 

(そうだったのか、今助けるよ)

 

「ランガ、白猿(ビャクエン)月兎(ゲット)を押さえろ。俺の邪魔をさせるな」

「御意」

 

 ランガが白猿(ビャクエン)を、星将狼(スターリーダー)二体が月兎(ゲット)を押さえる。

 

 牙を剥き威嚇する九頭獣(ナインヘッド)に、リムルは静かに近付いていき――

 クレイマンに操られている、可哀相な幼子の前で歩を止める。

 

 

《告。『解析鑑定』結果……支配の呪法(デモンドミネイト)です。解呪しますか? Yes/No》

 

「ああ、もちろんYesだ」

 

 リムルが支配を解いた途端、九頭獣(ナインヘッド)は嬉しそうに一声鳴いて、疲れ果てたのかその場に崩れるように倒れ眠りについてしまう。

 

(へえー可愛いもんだな。尻尾が三本に毛並みが金色かぁ、それ以外は本当に可愛い子狐だな)

 

 そんな思いで九頭獣(ナインヘッド)を見ていると、その横でなにやらランガが対抗心を燃やしているように感じたリムル。

 

(お前はお前で恰好可愛(かっこかわい)いよ)

 

 リムルはクスリと笑みを浮かべランガを見る。

 

「ランガ、この子を守ってやれ」

「わかりました、我が主よ」

 

 リムルはランガを撫でながら、子狐を託す。 

 

 

 次にリムルが目を向けたのは、ベレッタ。

 

 だがこちらは既に終わっていた。

 ベレッタが嬉々として、特質級(ユニーク)の武器や防具を並べていたのだ。

 

「おい、おいぃ! 何をやってるんだ!?」

「おっと、これはこれはリムル様。ワレの活躍をお見せ出来なくて残念ですが、この様に戦利品を御用意致しました」

 

 (うやうや)しく一礼をして、ベレッタはリムルに告げる。

 

 リムルはそんなベレッタを見ながら、視線を横にずらすと。

 クレイマンの最高傑作ビオーラは、見るも無残にバラバラに分解され、ラミリスへの御土産になっていた。

 

(ベレッタも強いと思っていたけど、まさか傷一つなくあの兵器庫のような魔人形を倒すとは……。しかし、それよりも――) 

 

「おいベレッタ、お前さあ、こう言ったらなんだけど、ラミリスの悪いところばかり真似してないか?」

「――ッ!?」

 

 ベレッタは仮面に素顔を隠してはいるが、明らかに驚いた表情をしているのがリムルには伝わって来た。

 

(やはりここは、俺が忠告しておかねばな。このままではベレッタが、ラミリスの悪いところばかり見習う様になってしまうぞ)

 

「なあベレッタ、俺の気のせいならいいんだけど、その戦利品をどうするつもりだったんだ?」

「こ、これはですね……リムル様に献上しようと思っております……。それを収めて頂いた上で、ワレとラミリス様の居場所を提供してもらえないかと愚考しておりました」

 

(ん? 居場所を提供……?)

 

 ラミリスはリムルの街に移住したがっていたが、何でベレッタが? と、リムルは思い。

 とりあえず、ベレッタに聞いてみた。

 

「何でお前がそんな事を気にするんだ?」

「――実はですね」

 

 そう切り出すと、ベレッタは――

 ギィからリムルの手助けに行くならば、主をどちらかに決めろと言われたと話す。

 

 そこでベレッタは、今回だけリムルを助けた後、ラミリスに仕えると宣言したと言う。

 しかし、そこは悪魔族(デーモン)――狡賢(ずるがしこ)く抜け道を考えていたのだ。

 

 ラミリスがリムルの街に住み着けば、そのまま自分も付いていける訳なので、ラミリスを通してリムルの役にも立てると計算したと、リムルに告げる。

 

 詭弁に近い言い訳を堂々と述べるベレッタ。

 ある意味その手があったかと(うなづ)けるものもあるのだが、リムルは得意げに語るベレッタを見て、ある事を思う。

 

「お前ね……いや、本当にラミリスに似て来たよな?」

「褒められている気がしませんが、光栄です」

 

(褒めてねーよ! まったく……。ちょっと見ない間に、ふてぶてしく成長しちゃって。だけど、その成長ぶりは、中々に面白いかもな)

 

 どんどんラミリスに似て来るベレッタを心配する一方、ベレッタの成長を嬉しく思うリムルであった。

 

「ま、その件はとりあえず保留にする。居場所って言っても簡単に用意出来ないし、考えておくよ」

「はは、了解であります」

 

 ベレッタの事は後で考える事にして、リムルは最後に残るシオンへと視線を向ける。

 

 

 シオンとクレイマンの戦い。

 そろそろ決着がつきそうな状況であった。

 

 肩で大きく息を吐くクレイマン。

 その目は憎々し気にシオンを睨む。

 

 どうやらクレイマンは、シオンの強さを認めたようだった。

 

 シオンとクレイマンの攻防。

 一見、拮抗してるように見えていたが、ある決定的な差があったのだ。

 

 それは、継戦能力。

 

 力は互角でも、シオンには『超速再生』という、とんでもない切り札があるからである。

 

 どんなに致命傷を与えようとも、シオンは『超速再生』で瞬時に損傷した部位を再生してしまう。

 一方クレイマンも再生能力を持つ、短時間であればシオン並みの再生力はあるが、連続した攻撃を長い時間受けると再生能力も落ちて来る、故にシオンのそれには遠く及ばない。

 

 だからクレイマンは、シオンと違って徐々に疲弊が目立って来ていたのだ。

 

 

 そして、シオンの優勢がハッキリした今、クレイマンに焦りが生じて来る。

 

「この程度ですか? ハァ……魔王を名乗るには弱すぎる」

 

 容赦ない言葉を吐き捨てるシオン。

 

「き、貴様、許さんぞ! 行け、踊る人形達(マリオネットダンス)!!」

 

 クレイマンの怒号が響く。

 

 放たれたのは五体の魔人形。

 それらは瞬時に魔人へと変貌し、シオンに襲いかかった。

 

 一体一体が上位魔人クラス。

 

 クレイマンが取り込んだ魔人達の魂を人形に込めた、魔人形。

 切り札的に隠しておいた、隠蔽戦力。

 

 それを、出し惜しみも無く出して来たクレイマン。

 一気にシオンを殺しに来たのだ。

 

 だがしかし――

 

 シオンは愛刀の大太刀を眼前に構え、刃を抜いていく。

 左手に持った大太刀の鞘が、鈍い音を立て床に落ちる。

 

 左肩を前に、左半身を取り、柄を両手で持ち大太刀を肩に担ぐ様に構える。

 

 シオンを囲むように襲い来る、五体の魔人達。

 

 刹那――五つの剣閃がシオンの周囲に走る。

 六つ目の剣閃が横に走り、低めの姿勢で右脚を前に出し、左足を後ろに大きく伸ばした形で、右片手に掴んでいる大太刀を右横()ぎに振り抜いていた。 

 

 眼前に広がるは――

 バラバラに斬り捨てられた魔人形達が、ガシャガシャと音を響かせ床に散らばっていた。

 

「下らん。本当に大した事がないようですね」

 

 右片手に持った大太刀を、峰の部分で肩に担ぎながら言葉を吐き捨てるシオン。

 

『へえー、あの大太刀使い、中々に出来るね』

『あらま。さっきもどすが、あんさんが魔物の剣術使いを褒めるなんて、ほんま珍しいどすなぁ』

『え、そう? でも、ハクロウといい、あのシオンとかいうデカ女妖鬼も、剣術をちゃんと鍛錬してるんだなーと、思っただけよ?』

『そうどすかぁ。でも、あの大太刀、あんさんの〝時雨〟と似たような性質もってまへんか?』

『だねぇ。しかしあの人形……対抗術式一つも無いから、もうガラクタじゃん。それに、多分だけど、あの大太刀さ。調査中に見つけた、もう一人の刀鍛冶の妖鬼が打った大太刀だろうね』

『せやねえ。匠の技を持つ、刀鍛冶の妖鬼……ほんま、あそこの魔物はなんなんどすかね?』

『うーん。多分だけど、転生者の眷属という事が、関係あるんじゃないかな? あたしらの眷属も、異質な進化を遂げているから、ね……』

『せやな。異質、うちらは元人間の魔物……なんの因果なんやろねぇ』

 

 ツキハとコハクはシオンの大太刀の性質に気付き、リムルに連なる眷属達の進化が、自分達の眷属の進化と同じ、異質だと感じた。

 

 『思念伝達』で話すツキハとコハクの表情からは、完全に笑みが消えていた。

 それに気付いたギィが『手え出すんじゃねぞ』と『思念伝達』に割り込んで来て、釘を刺す。

 

 

 床に散らばる魔人形の残骸に、わなわなと震え屈辱に満ちた表情で叫ぶクレイマン。

 

「ふ、ふざけるなよ、貴様! 勝ち誇るのはまだ早いわ! 踊る人形達(マリオネットダンス)は瞬時に回復して、お前を狙うのだ。これからが本番なのだよ!」

 

 クレイマンは、自分の作った魔人形に絶対的な自信を持っていた。

 そして、確かにそういう機能も持ち合わせていた。

 だから、魔人形の回復を待つのだが……。

 

 シオンは、肩に担いだ大太刀で肩をトントンと軽く叩きながら、フーンという感じで待っていた。

 

 しかし……。

 

 いつまで待っても、人形達が起き上がって来る気配はなかった。

 

「な、ば、馬鹿な……。何故、復活しない?」

 

 焦りと困惑の表情で呟くクレイマン。

 

 そこへリムルが、何故復活しないかの種明かしをする。

 

「うーん。面倒だから教えてやるよ。シオンの持つ大太刀は〝魂喰い(ソウルイーター)〟なんだ。その人形、物理、精神の両面で防御術式組んでなかったろ? 作り方が甘すぎるから、一撃で破壊されるんだよ(この程度は隠す程じゃないからいいだろう。どうせアイツら、ツキハの方は気付いてるみたいだしな。もしかして、アイツの持つ打刀も似たような特性をもってるんだろうか……?)」

 

 リムルはこのくらいなら問題ないさと思いながら説明する。

 

「せ、精神攻撃も備えた剣だと!?」

「珍しくないだろ。人間も持ってたぜ?」

「ば、馬鹿な! それは特質級(ユニーク)の中でも希少な力ではないか!」

「ふーん、そうなのか? ま、どうでいいよ、俺の仲間が打った刀だし」

 

 シオンの大太刀。

 これは、リムルがヒナタの剣を参考に改良したもので、クロベエが打った大太刀を、精神体(スピリチュアル・ボディー)そのものへの攻撃が可能となるよう手を加えたのだ。

 

 本当に魂を喰らう訳ではないが、精神生命体へもダメージを与える事が出来る刀であった。

 

(まあ、ヒナタが持つ剣の特殊能力、〝七彩終焉刺突撃(デッド・エンド・レインボー)〟みたいに七発当てるとかの制限は無いし。威力によっては抵抗(レジスト)しなければ即死するくらいには凄まじいのだけれど……。確実に殺せはしない……でも、シオンは不器用だからこれでいいのさ。それ以前に、物理と精神の両面攻撃なので、七発も必要としないしな)

 

 何かを呟き続けるクレイマンを見ながらリムルは、シオンの大太刀の性能を思い浮かべる。

 

 尚、ツキハの〝妖刀・時雨〟は物理体(マテリアル・ボディー)はもとより、精神体(スピリチュアル・ボディー)星幽体(アストラル・ボディー)へもダメージを与えることが出来、魂すら斬る事が出来ると言われているが、その力の全貌は未だ明らかになっていない。

 

 リムルの説明を聞いていたシオンは、自分の大太刀を眺めながら次の言葉を言った。 

 

「ほう、そうだったのですか。これは〝剛力丸・改〟だったのですね!」

 

(え、知らなかったのか? と、いうより。渡す時に俺、説明したよね? ほんと、シオンらしいというか、今の性能で合ってるみたいだな)

 

 小難しい理屈などにこだわらないシオン。

 この〝剛力丸・改〟は、今のシオンにピッタリの刀なのだろう。

 

 後にこの〝剛力丸・改〟は、とんでもない性能を発揮するのだが……。

 それは、まだ先の事である。

 

 

 リムルの説明を聞き終えたクレイマン。

 下を向いたままで、何やら笑い声を漏らし出していた。

 

「ク、クックックッ、そう、そうでしたか。その剣の力で、私と戦えていた訳ですね。ならばその小癪(こしゃく)な剣すらも、私のコレクションに加えてやろう! 喰らえ、〝操魔王支配(デモンマリオネット)〟!!」

 

 盛大なクレイマンの勘違い。

 

 ガバッと顔を上げ、両手を広げ前に突き出すクレイマン。

 その両手から禍々しい黒糸状の光が放たれる。

 

 それを見たシオンは、〝剛力丸・改〟をガンッと床に突き立て腕組みをし――

 クレイマンの攻撃を、敢えて受け入れた。

 

 黒糸状の光は、シオンをくまなく繭状に包んでいく。

 

(おいおい、回避しろよって話だけど……。まあ、それも必要ないか)

『アホかクレイマン。どうみても、あの鬼のデカ女の方が格上じゃん』

『どすな。ほんま、なにしてますんやろかね』

 

 リムルは、一応回避しろよと半分呆れ気味に思い。

 ツキハとコハクは、もう気付けよとばかりに『思念伝達』で、お互い言い放つ。

 

 しかし、クレイマンはそう思ってはいなかった。

 シオンが回避しなかったのは、反応出来なかったと思っていたのだ。

 

 繭状になったシオンの様子を見て、ご満悦なクレイマン。

 

「ククククク。喜べ、魔王さえ支配する究極の呪法だ! 貴様如き魔人に使用するのは勿体ないが、まあいい。五本指も一新せねばならないし、私の配下として重宝してやろう」

 

 完全に勘違いしたクレイマン。

 

 他の魔王達も気付いてはいるが、敢えて口には出さない。

 知らぬはクレイマンのみ、あまりにも滑稽(こっけい)と言わざる得ない光景だった。

 

 シオンは動けないのではなく、動かないだけ。

 

 クレイマンが究極の呪法とか言っていたのにも関わらず、いまだに目立った効果も発生せず、逆に戸惑っているかも知れないシオン。

 

 シオンが進化で得た能力(スキル)『完全記憶』。

 

 それは星幽体(アストラル・ボディー)に記憶する力。

 脳が完全に破壊されても、記憶が残る特殊能力なのである。 

 

 意思たる魂と記憶が揃えば、肉体が完全に破壊されても再生する、半精神生命体ともいえる、特殊な種族になっていたのだ。

 

 そう、魂での思考が可能になったという事。

 つまり、それが意味するところは、精神系支配の効果を一切無効化するという事であった。

 

 クレイマンの支配の呪法は、シオンには一切効果が無いのである。

 

「えーと、おい、これはなんのつもりです? 痛くも痒くもないし、もう少し待てばよいのですか?」

 

 シオンがイライラしたように、黒糸の繭に包まれたままクレイマンに問う。

 

(えーっと、そのプロレス的な思考はやめようよ、シオン。ガチの戦いの最中、何でわざわざ相手の技を喰らおうとするんだよ……。あれだ、シオンといいミリムといい、あっ! スフィアもだったな。バトルマニアの考えは、理解出来ん……勘弁してくれよと思うわ。ほんと……)

 

主様(マスター)。個体名:シオンに呪法の影響は皆無です。何も問題はありません》 

 

 智慧之王(ラファエル)がリムルに、呪法が効いていない事を告げて来る。

 

 

「そ、そんな馬鹿な……。私の〝操魔王支配(デモンマリオネット)〟が通用しない、だと? そんな事、ありえるか! 魔王すらも支配する究極、の……究極の支配の呪法(デモンドミネイト)なんだぞ!?」

 

(確かに災厄級(カラミティ)くらいなら簡単に支配出来そうなんだが、魔王たる災禍級(ディザスター)には、まず通用しないだろうな。己の力を過信し過ぎたな、クレイマン)

 

 リムルが冷めた目でクレイマンを見つめ、感情も無く小さく呟いていた。

 

 

「もういいでしょう……。ハアッ!!」

 

 待つのに飽きたシオンは、黒糸の繭を妖気(オーラ)で簡単に吹き飛ばしてしまった。

 

「本当に下らない。こんな小手先の技に頼るなど、魔王を名乗るに値しません」

 

 明らかに侮辱するように吐き捨てるシオン。

 

 その言葉を聞きクレイマンは恐慌状態に陥ったのか、呆然と立ち尽くしていたかに見えたが。

 

 ――違った。

 

 

 シオンの言葉で、クレイマンに変なスイッチが入ってしまった。

 

「ククッ、ククク、クッハッハッハッハァーーーー!! 魔王を名乗るに値しない、だと? 許さん、許さんぞ、虫ケラがぁ! この私に、本気を出させた事、存分に後悔させてやる」

 

 肩を大きく震わせ、吹っ切れた様に凄惨に笑うクレイマン。

 そして、着ている上品なスーツとシャツを脱ぎ去り、上半身裸になる。

 

 隠し持っていた様々なアイテム類も使う気がないのか、床に派手な音立てて転がり散らばっていく。

 

 クレイマンは、最後の奥の手を出した。

 

 裸となった上半身、その背中からボコリボコリと二対の腕が生えて来た。

 細長く、黒い外骨格に守られた二対の腕が。

 

 クレイマンの本性――今までの飾った姿ではなく、荒々しい狂気すら感じさせる姿であった。

 

「そうか、そうだな。そうだったよ。魔王、私は魔王なのだ。だから戦い方にこだわり、上品に優雅に敵を葬って来た。だが、それも、もういい。こんな気持ち、久しく忘れていた……。貴様はこの手で捻り潰してやるぞ!!」

 

 激昂したクレイマンが、素を表す。

 天井を仰ぎ見るクレイマンが、大切そうに何かを右手に握っていた。

 

 それは、仮面。

 

 笑みを(かたど)る、道化の仮面。

 

 

 クレイマンは、ゆっくりと迷わずに、それを被った。

 

 

「ほう? 少しはマシになったみたいですね、見直しました。魔王リムル様の近衛秘書シオン、貴方の相手を致しましょう!」

 

 シオンは嬉しそうに、クレイマンに対して名乗りを上げた。

 

 

 それを聞いたクレイマンも――

 

「魔王――いや、〝喜狂の道化(クレイジーピエロ)〟クレイマンだ。殺してやるぞ、魔人シオン!!」

 

 シオンに応じて名乗り返す。

 

 

 

 対峙する二人の間に斬り裂くような妖気(オーラ)が渦巻き、空間を震わせていった。

 

 

 そして、何秒かの静寂が一瞬訪れ……。

 

 

 二人は、同時に動いた。

 

 

 

 

 

 




 五十九話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!





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