忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。六話です。







6話 風精人(ハイエルフ)の女帝

 

 

 ミリムに敗北してから、ツキハとコハクはたまにだが、ミリムの所へ手合わせと言う遊びに来訪していた。

 

 十年経って来たり、百年だったり、数百年だったり、大抵は何十年かおきにふらりと現れる事が多かったが。

 

 あまりにも来ないと、ミリムが二人を探し出す事もあった。

 

 そんな中。

 

 二人がこの世界に転生して、三千年近くが過ぎようとしていた。

 

 

 とある大国の酒場街の外れにある、地下に面した一軒の酒場。

 夜も更け、闇の深さが増した頃。

 

 その酒場は、様々な客で賑わっていた。

 

 傭兵や冒険者、果ては裏稼業の者や、いわくつきの者が集まる、ちょっと変わった酒場。

 

 その酒場に、歳は十六から十八位にしか見えない、二人の少女が扉を開け入って来た。 

 

 その少女は〝変化〟で人間に擬態したツキハとコハク。

 

 来てる装束(しょうぞく)はいつもの忍び装束であったが、小袖の色が紺から朱色に変わっていた。

 

 脛に巻いてる脚絆も白から黒に変わり、足首から膝下までの脛を覆う様に、少しもこもこした布で巻いてあり、等間隔で膝下から足首まで三か所を紐で巻いていた。

 

 一瞬店の中の喧騒が静まり、入って来た少女二人に、酒場にいる客全員の目が向けられる。

 

 だが、何かを確信したように皆が視線を外し、また喧騒が戻って来た。

 

 奥のテーブルに腰掛けた二人の所へ、店の給仕係の女性が注文を取りに来る。

 

「ご注文は、何に致しますか?」

「うーん、エールと塩ゆでソーセージとぉ、鶏鴨(ケガモ)のもも焼き、後は今日のお勧めを頼むよ」

「うちは、ワインと。そうおすなぁ、料理は同じ物で、いいおすえ」

「はーい。承りましたー」

 

 注文を取り終え、女性はカウンター奥の厨房へと向かう。

 

「あぁー あの伯爵、すっげぇー マジ渋ちんだったね~」

「おすな~ あんさんが、ブチ切れなかったら、値切られたまんまでしたな」

「だって、金貨二百って契約なのに、半値以下の八十にしろとか、馬鹿ぬかすんだもん。そんなのキレて当たり前よ」

「せやね。あの情報は、少なく見積もっても、金貨二百以上の情報おすもの。壱雄(イチオ)三子(サンコ)が苦労して手に入れた、情報やもの。まかりますかいな」

「だね~ あの子達が、頑張って仕入れて来た情報だものね。眷属たちも、結構増えて来たよねぇ」

「おすな~ 最初は死にかけていた、魔猫の子連れからでしたなぁ」

 

 しばらくして、運ばれてきた酒を飲み、料理を食べながら、依頼が終わった後の話をしていた。

 

 二人が話す魔猫。

 

 これは二人の眷属であり、名を与えた魔猫であった。

 この世界の魔猫は、ツキハ達がいた日ノ本にいた猫と酷似していて、性格は用心深いが、人には慣れるので、ペットとしてこの世界でも飼われていたのだ。

 

 しかし、魔猫といっても魔獣の中では下位に属し、体躯の小さい魔猫は、他の魔獣に襲われることも多かった。

 だから、魔猫は人の住む町や村などを住処とし、その身を守って来たのだが。

 ある時、野良の魔猫の親子連れが、町の外で餌を探してた時に、犬種の魔獣に襲われた。

 子供共々瀕死の所をツキハとコハクが通り掛かり、ツキハがその子連れ魔猫に、名を与えて命を助けたのがきっかけであった。

 

 名付けた名は、母猫に壱子、メスの子供二匹にニ子と三子と付け、オスの子には壱雄(イチオ)と名を与えた。

 

 しかし〝四番目なのに壱雄〟。後に、この事は眷属達に突っ込まれる事になる……。

 

 眷属になった魔猫親子はツキハに感謝し、忠誠を誓った。

 魔猫達は、普段人の住む国や村などを住処にするので、二人はある事を思いついたのだ。

 

『なあ、あんたたち。人間の言葉とか、わかる?』

『はい、ツキハ様。理解して御座います』

 

 母猫のイチコが答えた。

 

『じゃあさ、今から大きい国に連れて行くから、そこであたしらが言う者たちの、話を聞いて来て、それをあたしらに、教えてくれるかな? 隠密行動は、前の非じゃないくらい上がってるから、まず見つからないし。それに、戦闘力も――魔獣のCクラス位ならネコパンチで瞬殺よ! ふひひひ』

『確かに――今は力に溢れてるのがわかります。これで……もう、大きい魔獣に怯えなくて、よいのですね』

『うん。でもまあ、油断は禁物だからね。暇を見ては、戦いの訓練もするんだよ。あんたたちは、もうあたしの眷属なんだから。他の魔物や、人間共が危害を加えようとしたら――あたしとコハクが容赦しないから、安心しな』

 

 最後の言葉を言ったツキハから妖気(オーラ)が漏れ出し、魔猫の親子は恐怖のあまり全身の毛を逆立てて伏せていた。

 

 それからツキハとコハクは、気に入った魔猫を見つけては名付けをし、少しづつ眷属を増やしていき、人間に飼われている魔猫や野良魔猫を次々と傘下に入れて行った。 

 

 魔素を取られる事を考慮し、一度に名付けるのは五匹迄と決めていた。

 個体が小さい故五匹迄なら、低位活動状態(スリープモード)にならずに済んでいたのだ。

 

 これが強力な魔物なら、そうもいかないのである。

 

 名前は、オスなら数字の最後に雄と付けて五ならイツオとし、メスなら数字の最後に子と付け壱ならイチコとした。これはツキハが、人間の頃に飼っていた猫に付けていた名前のやり方と一緒であった。

 たんにツキハが飼い猫が多くなると、名前考えるのが面倒だしと始めたやり方である。

 

 そうして小国から大国、果ては村にまで住む厳選した魔猫達を、配下にしてしまった。

 

 現在眷属の魔猫達は、約千匹。

 

 その眷属達があちこちの国や村に住み着き、そこにいる魔猫達を自分の配下にして情報収集を(おこな)った。

 

 〝忍魔猫〟――

 

 それが眷属達の種族名である。

 

 〝忍魔猫〟と魂の回廊、果ては『念話』『思念伝達』で通じた、一大情報ネッワークの完成であった。

 

 表から裏社会の情報まで、ツキハとコハクは手にしてしまったのである。

 

 どこにでもいる魔猫――

 

 飼い魔猫、野良魔猫、それらが人間達の話を聞き、有益な情報をツキハとコハクに報告するのであった。

 

 これにより、特に裏社会の奥深い所までを手中に収めたツキハとコハク。

 その情報を求めて、各国の諜報活動専門の部署が欲し、裏社会の者までがその情報を求めた。

 

 〝傭兵商会・ルヴナン〟――

 

 ツキハとコハクが経営する商会。

 

 暗殺、潜入調査・工作、戦力提供、護衛、情報収集と、忍びの頃にやってた生業を、この世界でも始めたのだ。

 

 構成員はツキハとコハク、人間や亜人、魔物、後は眷属の〝忍魔猫〟達だけである。 

 

 実質ツキハとコハク以外の構成員は、明かされていない。

 

 美味い料理を食べ、美味い酒を飲む、それには銭がいる。

 

 その銭稼ぎが、〝傭兵商会・ルヴナン〟であったのだ。

 領地のないツキハとコハクには、商売こそが対価を得る手段であった。

 

 要は、稼いだ金を使い、好きな事をして自由に生きる――

 ただ、それだけなのである。

 

 そしてこの酒場は、商談や表、裏の人物との密会に使ってたりしてもいた。

 なお余談だが、下手な料理屋より美味い料理を出すので、お気に入りの酒場の一つでもあった。

 

「うーん、千匹かぁ。増えも増えたりだね」

「あの子ら、限定どすけど子も作りますからなぁ。まあ、めったに作らしませんけども、(ほとん)ど名付けした魔猫やし。ほんま、厳選したとはいえ、名付けしてたら増えましたなぁ。いつの間にか……」

「眷属になって天敵がほぼいなくなったし、寿命が無くなったもんね。ただ……ギィの小言が、耳に痛いわ」

「そら気が付けば、眷属がいつの間にか増えてますもの。うちらの眷属は、情報収集の根底を覆しましたからな。そのカラクリに気付けば、うちらを取り込もうと、国家が動きますえ。下手すると、国家間の争いに発展して、無駄な(いくさ)が起きて、ギィが頭悩ましますからなぁ。そら、小言も言いますやろ」

「だよね~ 家族しか知り得ないことまで、筒抜けだものね~。まさか、飼い猫や、側にいる猫達が聞いてるとは、思わないわよねぇ。くひひひひ」

「あの子らは、優秀おすからなぁ。うふふふ」

「今じゃ、商会の構成員を教育するまでに、育ったからねぇ。〝忍魔猫〟に教育される構成員って、中々にシュールで笑えるわ。くふふ」

「どすな。うふふ」

 

 自分達の言葉にだけ〝忍魔術〟で暗号変換を掛けて、他の者には他愛もない話しに聞こえる様にしていた。

 

 ひとしきり酒を飲み料理を食べた二人は席を立ち、部屋を取ってる宿に向かう為酒場を出る。

 

 人通りの多い路地を抜け、明かりが薄い裏通りに入る、ツキハとコハク。

 

 その離れた後ろから、一つの影が気配を完全に消し、ツキハとコハクを追っていた。 

 

 裏通りを照らしていた月明かりが、流れて来た雲に遮られ、真っ暗になる。

 

『うーん。酒場出てから、ずっと付けて来てるね』

『せやねぇ、()らはりますか?』

『じゃあ、あたしが――斬るよ』

『へぇ、まかしますわ』

 

 『思念伝達』でやり取りしてた二人は、歩みを止める。

 それに気付いた影も、離れた所で止まった。

 

 ツキハは角帯の左に軽く巻き付けている下緒を、ポンと軽く叩くと空間収納されていた時雨が現われる。

 左手で鞘を掴み、角帯の中で少し動かし、左親指で鯉口を切る。

 

 鯉口を切った瞬間ツキハは、後ろにいる影のところへ瞬歩で一瞬で移動し、抜き様に右横に薙いだ。

 

 ガキュンッ! けたたましい金属音が響き、激しい火花が散る。

 

 その火花に一瞬映し出された者は――

 

 長い髪を大きく三つ編みロングに纏めた、女性だった。

 

 袈裟斬り、逆袈裟、あらゆる角度から繰り出されるツキハの斬撃を、その女性は全て受け止め防いでいた。

 

 激しい火花と刃のぶつかる音が鳴り響く中、雲に隠れていた月が顔を出し、淡く裏通りを照らしていく。

 

 キインッ 最後に放ったツキハの斬撃を弾き、その女性は後ろに飛び少し距離を離した。

 

 月明かりに映し出されたその顔は。

 

「ん? んー!? あんた……『魔導王朝サリオンの、皇帝じゃないの!?』」

『あら、ご名答。流石、噂に聞く切れ者ね』

 

 月明かりの中、目の前の女性を見てツキハは、途中から『思念伝達』に切り替え問い、コハクが呆れ顔で言い放つ。

 

「な、なんおすか? こんなところへのこのこ来て良い身分では、ありまへんやろ?」

「うーん。それについては、なんだから。場所を変えないかしら? 出来るなら、秘密の話が出来る所が、よいのだけど?」

「はあぁ~ しかたありまへんな。うちらが部屋を取ってる、高級宿屋でよろしおすか?」

「ええ、よろしくてよ」

 

 あっさり素性を明かしたその女性は、ツキハとコハクが部屋を取ってる高級宿屋に着くと。

 二人に案内され部屋に来て、豪華な四角いテーブルにある椅子に促され座った。

 ツキハとコハクも椅子に座ると、コハクが部屋全体に『空間断絶』を掛ける。

 

 コハクが、「『空間断絶』したから、もう安心え」と言うと、柔らかな笑みを湛え女性が口を開く。

 

「ありがとう。先程の非礼は謝罪するわね。貴女たちの実力を、一度見たかったものでね。私は、シルビア・エル・リュ、よ」

「「ふあっ!?」」

 

 姿勢を正した目の前の女性の言葉に、ツキハとコハクは驚きの余り絶句した。

 

 シルビア・エル・リュ、魔導王朝サリオンが皇帝・エルメシア・エルリュ・サリオンの母親である。

 

 そして、魔導王朝サリオンの〝最高機密〟であり、サリオン最高の英知と言われた人物である。

 

 ツキハとコハクも、この情報はある程度掴んでいたが、その本人を見るのは初めてであった。

 

「あぁー なんで素性をこうも簡単に明かすかねぇ……。〝最高機密〟がにこやかに目の前にいるなんて、最悪だわ!」

「はぁー つまり何が何でも逃がさへん、という事おすなぁ。あんさん、うちらは魔導王朝サリオンと、事を構える気なんてあらしませんで? そら、あんさんらの所でも情報は集めてますけど、まだ――誰にも売ってませんのやけど?」

「わかってるわよー そんな事。今日来たのは、貴女たちにちょっとした依頼があるの。受けてくれるかしら?」

「内容による、かな」

「内容しだいおすなぁ」

 

 依頼と聞いた途端二人の顔付が変わり、お道化(どけ)た雰囲気が掻き消えた。

 

 人間の耳が崩れる様に無くなり、頭の上に猫耳が生えて来て、お尻の仙骨辺りから尻尾が伸びてきてゆらり揺れ、目が仄かに金色に輝き、瞳が縦長の猫目になる。

 

 〝変化〟を解いた二人を見て、シルビアは話しを続けていく。

 

「〝番外魔王〟、いえ、傭兵商会・ルヴナンの御二人にお話しがあります。我が魔導王朝サリオンは建国三百年を迎えたのだけど。これから先、その国家としての立場を盤石なものにしたく、貴女方の情報が必要なの。しいては、我が魔導王朝サリオンと秘密裏に、裏での仕事依頼と情報提供の長期契約を締結をしたく思います。いかがかしら?」

「ねえ、シルビア殿。一つ聞いてもいいかな?」

「ええ、答えられる事なら」

 

 ツキハがシルビアに真剣な眼差しで問う。

 それにシルビアも真剣な眼差しで答えた。

 

「現皇帝、エルメシア・エルリュ・サリオンと親子でありながら、瓜二つと言う事は――二人で国家を治めてると言う事なのかな?」

「う~ん。これを聞いたら、後戻りは出来なくなるゾ?」

「……いいよ、既に後戻り出来ないじゃん。当たりでいいんだね?」

「ええ。定期的に二人で入れ替わりながら、自由な時間を確保してるのよ。フフッ」

 

 にんまりと笑みを口端に浮かべ、シルビアが答える。

 そこへ、コハクが口を挟んで来た。

 

「わかりましたえ。でも、そちらにもかなりの諜報機関がありますやろ? うちの所でも、その全体像は掴めてないんおすえ。なんでうちらに、長期契約など持ちかけるんどすか? リスク高過ぎと違いますか? 〝番外魔王〟の悪評は、知らんわけあらしませんやろ?」

「そうね。でも、これは娘の勧めでもあるのよ。貴女たちの情報収集能力を、高く評価してるのよ。どうやっても、貴女たちの情報収集手段がわからないってね。特に裏社会の情報などは、どこも喉から手が出る程、欲しいのですもの」

「へぇ、そうどすかぁ。それと、裏の依頼もでしたな――どこぞの敵対派閥を暗殺すれば、よろしいんどすか?」

「まあ、そこらはこちらでほぼ対処できるから、むしろ――外の事になるかなぁ」

「外おすかぁ。あんさんも、喰えない〝風精人〟どすな~。よろしおす! 綺麗事では、(まつりごと)は出来しまへんからな。その依頼受けましょ! 但し、あんさんとこは、あくまでも秘密裏の契約おすから、料金は高くなりますえ?」

「ええ、構わないわよ。それじゃあ、娘にも一度会ってくれるかしら?」

「へぇ、わかりました。伺いましょ」

「いいよ。いこうか」

 

 シルビアからの長期契約の商談を軽く済ませ、三人は次の日の朝、魔導王朝サリオンへと向かった。

 サリオンへ到着すると、シルビアは「それじゃ、またね」と足早にサリオンを後にした。

 

 自由人シルビア――

 

 また、放浪の旅へと旅立っていったのである。

  

 シルビアから直でエルメシアの居室迄連れて来られた二人は、居室の前の扉にいる護衛の促しにより、開けられた扉の奥へと進む。

 

 居室の奥の、一際豪華な丸いテーブルに座る女性がいた。

 魔導王朝サリオンの皇帝、エルメシア・エルリュ・サリオンその人である。

 

 二人を見るやエルメシアは、椅子に座るよう手で(うなが)す。

 ツキハとコハクは軽く一礼すると、椅子に腰を下ろした。

 

 早速とばかりにエルメシアが口を開いた。

 

(ちん)の依頼に答えてくれて、感謝するわよぉ。お母様から大体聞いてるでしょうけど。その前に――貴女達の情報収集の手口を、教えてくれるかしらぁ?」

「「はい!?」」

 

 いきなりの情報収集の手口を教えろに、二人は変な声を出し固まる。

 

「あらぁ。お母様から、朕の秘密を聞いたのでしょう~ その見返りに、貴女達の情報収集の手口を教えてくれると、聞いたのだけど?」

 

 エルメシアは、右手の人差し指を(あご)に当てながら小首を(かし)げ言う。

 

「ふあっ!? いや、言ってないし、聞いてませんよ? 陛下」

「う~ん。でもぉー お母様と朕が交代で皇帝をやってると言う事実はぁ、〝最高機密〟であり、そちらも、それ相応の代価を支払ってもらわないとぉ、釣り合わないわよ~」

「あ……はぁ……(うにゃぁーー! あたしらの情報収集手口を知る為に、この秘密を明かしたんかぁーー! やられたわよ……)」

 

 ツキハは自分達の秘密と、エルメシア達の秘密が釣り合うか考える……。

 

「朕の情報網と、貴女達の情報網が合わされば、色々とおもしろいわよ~」

 

 にやりと口端を上げ、エルメシアは用意されたお茶に手を伸ばす。

 そこへ「はあぁ」と溜息を吐きながら、コハクが答える。

 

「よろしおす。確かにそちらの国家機密を知っておいて、知らぬ存ぜぬは無粋おすな。うちらの秘密を教えるにしても、もう一つ旨味がないと、おしえる訳にはいきまへん。長期契約をするんおすえ、皇帝はんは、何をうちらに、くれはるんや?」

「信用と、貴女達への影での支援って、ところかしら」

「そんなことで、あれを教えろと!? あ゛あ?」

「ツキハ! 陛下の御前ですえ。少しひかえなはれ!」

 

 ツキハが声を荒げかけるとコハクが即座に戒め、ツキハはキッとコハクを睨むも、はぁっと一つ息を吐き、お茶のカップを手に取り一気に飲み干した。

 

 カチャりとカップを置き、コハクに向かって右手をひらひらさせると、めんどくさそうに視線をエルメシアに戻す。

 

「陛下。支援、と言いましたな? 具体的になにしはるんどす?」

「そうね……貴女達の商会でやってる――雑貨部門の他国への入国の便宜を図る事もできるわよ。密入国ではなくて、正規に入れるわよぉ。それに、資金提供なども出来るかしらねえ。これは皇帝ではなく、朕個人の依頼になるかしらねぇ」

「ほんまに、喰えん御人やねぇ。うふふふ。ようするに、個人の資産でうちらを雇い、裏情報を手にし、皇帝の立場に生かす――あんさんら、気に入りましたえ! ええでしょ、明かしましょ。でも、皇帝の立場で、うちらと繋がってるなんて知れたら、大事にならしまへんか?」

「そこは大丈夫よぉ~。ふふふふ」

 

 大丈夫よ~ その言葉を口にしたエルメシアは、覇気を漏らしながら軽く笑い。

 

 コハクも同じように、微笑んだ。

 

 ツキハだけは「ああぁー また、めんどくさいことになったわねぇ。もう、好きにして……」と、テーブルに突っ伏した。

 

 

 そして、一度姿勢を正したコハクが、情報収集の手口を明かす。

 

「うちらの情報収集の手口は、眷属の〝忍魔猫〟と配下に置いた魔猫たちおす」

 

 それを聞いたエルメシアが、目を丸くして驚く。

 

「それって、ペットで飼ってる魔猫も入るのかしら?」

「せやで。〝忍魔猫〟がその国にいる魔猫達を配下に置いて、街中の住人が話してる事を聞いて、報告してきはりますんや。特に貴族などは、大概魔猫を飼ってますしな。飼ってない所は、〝忍魔猫〟が忍び込んで、盗み聞きしてきますのや。まあ、うちらの眷属は魔王クラスでないと、見つけるのは難しおすさかいな」

「ほーん。それは、盲点であり、恐ろしい事だわねえ。飼い魔猫や野良魔猫がスパイとは……どうりで、朕の情報網に引っ掛からないわけね。でも、天敵がいないと爆発的に魔猫が増えないのかしら?」

「それは、問題ないおすえ。眷属はめったに子を産まへんと言うか、殆ど子を作る必要はありまへん。眷属が配下に置いた魔猫は限定されてるから、正規の寿命を全うするだけやし。配下になりたくて来る魔猫は、うちの眷属が厳選しますからな。なんでもかんでもは、ないんおすえ。まあ、その地域に住んでる魔猫は掌握しますけども、それだけなんや。過度の保護はしませんし、生態系を壊す事もやらしません。まあ、それなりにと言う事おすなぁ」

「ほ~ん、そこまで考えてやってるのねえ」

 

 コハクの説明を聞き、エルメシアは感嘆の声を上げる。

 

「で、陛下。ここからが、重要どすえ! これが知れると、国を挙げての魔猫討伐に繋がります。そうなると、うちらは――その国を誰一人残さず、滅ぼしますえ」

 

 冷たく突き刺さるような笑みでコハクは、静かに言葉を吐く。

 それにエルメシアは顔色一つ変えず、にこりと返した。

 

「それは朕も望まないしぃ。知ってるのは朕だけだから、大丈夫よ~。お母様は、多分興味ないから聞いてこないわねぇ」

「そうどすか。陛下、それじゃあ、商談成立おすな?」

「そうねえ。では、細かい取り決めを詰めましょうかぁ~」

 

 それから三人で、情報料の値段設定や、突発的な依頼の事、秘密裏の護衛料はいくらとか、様々な値段設定を決めていく。

 

「ねえ、ところで――期限はどのくらいなの?」

「無期限とか、どうかしらねえ」

「ぶはっ!!」

 

 無期限と聞いて飲みかけの、お茶を吹くツキハ。

 コハクが「もう、好きにしよし」と言って、期限は無期限と決まった。

 

「そうそう、朕に会う時は、約束も何も無しで直で会えるようにしておくわねえ。その際は人間の姿でお願いよぉ」

「了解おす。陛下」

「うーん……コハクちゃん、これは朕の個人的依頼だから、敬称は無くてもいいわよ~」

「「はい!?」」

 

 いきなりのちゃん付けと、敬称無しでいいの言葉に、二人は面喰らう。

 

「朕の事も、好きに呼んでいいわよ~」

「いや、それマズくね? 仮にも皇帝を好きに呼んでいいとか――」

「ツキハちゃん。いいと言ったわよぉ。わかった~」

「ええぇ……あ、はい。じゃあ……エルメシアさん、?」

「何か、他人行儀ねえ」

「あー じゃあ、エル姐さん、で」

「エル姐さんどすなぁ。ちゃん付けは、堪忍しておくれやす」

「うーん。まあ、それでいいわよぉ」

 

 魔導王朝サリオンの皇帝エルメシアとの契約は、ここに締結し。

 あろう事か、皇帝を姐さんと呼ぶ事になるツキハとコハク。

 

 ここに、何とも珍妙な関係が誕生する。

 

 この無期限契約が、後にリムルとの出会いに影響することになるのであった。

 

 魔導王朝サリオン、建国から二千年までの間、裏で暗躍する〝忍びの傭兵〟の存在は、ごく一部の者しか知らず。

 

 〝国家最高機密〟の一つとなっていた。

 

 エルメシア個人の契約だが、そのもたらされた情報は確実にエルメシアの皇帝としての地位を盤石なものにし、〝女帝〟といわしめるまでになっていた。

 

 

 

 

 そして。

 

 月日は流れ、リムルが転生して来る三百年前に、ヴェルドラが……。

 勇者と戦い破れ、〝無限牢獄〟に囚われた。

 

 それを知ったツキハとコハクは、激怒し、ヴェルドラを〝無限牢獄〟に捕らえた勇者を探したが、その勇者はそれ以来、どこにも姿を見せなかった。

 

 特にツキハの怒りは尋常ではなく、運悪くそんなツキハに喧嘩を吹っ掛けた魔人達がアジトごと、この世から跡形もなく消え失せてしまう。

 

 

 ヴェルドラ、ごめん 勇者みつからないわ あたしには、それを解除するのは、無理だ……

 

 気に病むでない、ツキハよ。時を掛ければ、出る方法も見つかるかも知れぬしな

 

 そうだね あたしもさ 何とか解除できる方法を探してみるよ また来るね ヴェルドラ

 

 うむ 無理する出ないぞ 勇者はお前達でも 勝てぬ 絶対に挑んでは駄目だぞ!

 

 うん わかった ジュラの大森林は あたしとコハクも たまに見ておくから 心配しないでね

 

 こうしてツキハはまたと言って、三百年が過ぎていく。

 

 寿命のないヴェルドラ、ツキハとコハクに取って三百年は、人間の三十年位か二、三年位の感覚であった。

 

 ヴェルドラが〝無限牢獄〟で暇をしている間に、リムルがヴェルドラの魔素溜まりから、転生して生まれて来る――

 

 三体目の〝特殊な魔物〟として。

 

 そこでヴェルドラとリムルは出会い、友人となり、お互いに名付け合う。

 

 新しい名。

 

 ヴェルドラ・テンペスト。

 リムル・テンペスト。

 

 そうして、この物語の〝真の物語〟がここから始まるのであった。

 

 

 リムルが、ゴブリンやドワーフの職人、鬼人を仲間にし、街作りを始め。

 この世界初の、魔物の国が生まれた。

 やがてそれは、ドワーフの武装国家ドワルゴンと同盟を結び。

 

 ジュラテンペスト連邦国――

 

 通称、〝魔国連邦(テンペスト)〟が、誕生した。

 

 その国に突然ミリムが訪れ、住み着いてしまう。

 

 魔王クレイマンが、ジュラの大森林を手に入れようと暗躍し、魔王ミリム、カリオン、フレイの三人がこれに加担したのだ。

 

 後にこれが、大きな戦争へと発展するのだが……。

 

 

 

 夜の静寂が濃くなる頃。

 

 クレイマンの居城の私室に、明かりが灯っていた。

 

 魔法ランプの灯りに照らされたクレイマンの右手にはワイングラスが持たれており、ゆっくりと中の液体を回していた。

 

「そうですねぇ……。あと一つ、手を打っておきましょう。〝番外魔王〟ツキハとコハク。お二人に、依頼するとしますか。テンペストの破壊を……クックックッ」

 

 呟くように言葉を(つづ)ると、ゆっくりとワインを飲み干し。

 

 窓から映る月を見上げていた。

 

 

 

 

 

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〝忍魔猫〟全個体ステータス

 

EP:???

 

種族:眷属・忍魔猫

 

加護:忍びの守護

 

称号:無し

 

魔法:忍魔術

 

固有スキル:魔力感知 思念伝達 超速再生 思考加速 空間操作 

 

     

ユニークスキル:聞耳(スパイ)※全個体共通だが、個々の能力によって若干変化が生じる。

 

        多重結界 重力操作 気配操作 空間迷彩

 

 

耐性: 物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃耐性 自然影響無効         

 

    聖魔攻撃耐性 痛覚無効 耐熱耐冷耐性

 

 

 




 六話を読んで頂き、ありがとうございます!

 次回から、クレイマン編突入です! 読んで頂けたら幸いです。

 







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