忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。六十話です

 




60話 覚《Clayman》醒 (破滅

 

 

 本性を見せたクレイマンは強かった。

 

 魔王に相応(ふさわ)しく、その強大な魔力でシオンに迫る。

 

 

 通常の腕にて、禍々しい黒糸状の光を操る。 

 上部両腕には斧と(つち)、下部両腕には剣と盾。

 

 魔法と物理、それを同時に操りシオンを苦しめたのだ、が。

 しかし――シオンも己の力を全解放していた。

 

「死ね! 魔人シオン!!」 

 

 (つち)を振り降ろし、それに続くように斧が振り下ろされた。

 床石が砕ける激しい音が響き、破片が飛び散る。

 

 シオンは〝剛力丸・改〟の刃を横にして破片を受けると、そのまま〝剛力丸・改〟を逆袈裟に斬り上げた。

 

 ゴガンッ! クレイマンが盾で〝剛力丸・改〟の刃を受け止める。

 すかさず剣でシオンを突こうとするが、それをシオンが〝剛力丸・改〟で弾き返す。

 

 幾度かの攻防を終え、対峙するクレイマンとシオン。

 

 すると、シオンの口端が上がり笑みを漏らす。

 

「それが、魔王としての全力ですか?」

 

 シオンが煽るではなく、静かに問うた。

 

「フッ。まだまだこんなものではないぞ、魔人シオン。次で、終わりにしてやろう」

 

 クレイマンも静かに返すも、禍々しい黒い妖気(オーラ)が全身から溢れ出す。

 

 ビキッ、ビキキッ、肉の軋む音と共に、クレイマンの上半身の筋肉がバンッと膨れ上がる。

 六本の腕も今の大きさより一回り筋肉が膨れ上がり、力を溜めていく。

 

 クレイマンの表情が喜狂の笑みで溢れる。

 

 瞬間――弾かれたように放たれる上部両腕の斧(つち)の激烈な上段振り下ろし攻撃。

 

 その激烈な一撃を、シオンは――

 〝剛力丸・改〟の刃で斧と槌を受け止め、そのまま弾き返した。

  

 弾き返された斧と槌は柄だけを残し砕け散り、〝剛力丸・改〟の刃は刃こぼれ一つなかった。

 

「なんだとー!?」

 

 斧と槌を凄まじい力で弾き返され砕かれたクレイマンは態勢を崩しながらも、剣でシオンを袈裟斬りにしようとした。

 

 横一閃!

 

 シオンは〝剛力丸・改〟を左から右へ薙ぎ、振られた剣を砕いた。

 刀身が砕け、バラバラになった破片がクレイマンの目の前で踊り散る。

 

 シオンは右足を前に〝剛力丸・改〟を上段に構えた。

 

 グンッと鍛え抜かれたシオンのしなやかな身体が、弾ける。

 残像すら残さない速度で、〝剛力丸・改〟が振り下ろされた。

 

 バガンッ! クレイマンが盾でそれを受け止めるが――

 受け止めた瞬間に盾は砕け散った。

 

 盾を砕いた〝剛力丸・改〟の刃はその勢いを止める事無く石床に激突、その刀身の三分の一を石床にめり込ませ、残存した衝撃が爆発したように周りの石床を破壊し破片を飛び散らせた。

 

「そんな馬鹿なぁーーーー!?」

 

 完全に態勢を崩したクレイマンは、たたらを踏んで後ろに後ずさる。 

 

 

 この出鱈目な力は、シオンの固有スキル『闘鬼化』の影響と、ユニークスキル『料理人(サバクモノ)』の『確定結果』と『最適行動』が合わさった結果、反則的な武器破壊効果を生み出していた。

 

 そう、本気を出しても尚、クレイマンはシオンの敵ではなかったのだ。

 

 態勢を崩したクレイマンに向かって一歩踏み出し、右手に〝剛力丸・改〟を掴んだまま左拳でパンチを見舞うシオン。

 

 それを、背から生えた二対の鋼腕を交差させて受け止めるクレイマン。

 だが、シオンの拳は重く激しく、烈火の如き連打が叩き込まれる。

 

 肉の潰れる音と骨の砕ける音が混じり、クレイマンの四本の腕は潰れへし折られていく。

 

 そこへ、右手に持った〝剛力丸・改〟の柄頭を電光石火の如く速さで突き出し。

 それはクレイマンの腹部にめり込んだ。

 

「オブゥおおおおお……」

 

 口から血泡を吐き出し、悶絶するクレイマン。

 

 更に――

 

「ゲブゥオォォォォアーーーー!!」

 

 追撃でシオンの右廻し蹴りが、クレイマンの左横顔を捉え蹴り抜く。

 

 壮絶な蹴りの勢いに、その場で横周りに回転しながら床に叩きつけられバウンドし、クレイマンは苦悶の表情で床を転げ回る。

 

 蹴りの衝撃で仮面はヒビ割れ、血走った眼が覗いていた。

 

「……ば、馬鹿、な……。あ、あり得ない。このわた、私が、魔王である私が……〝喜狂の道化(クレイジーピエロ)〟たる私が……!?」

 

 力の差を理解しても尚、その現実を受け入れられずに。

 クレイマンは動揺していた。

 

「リムル様。トドメを刺しても宜しいですか?」

 

 シオンがリムルに聞いて来た。

 

(うーん。聞きたい事がない訳ではないけども、大体の事情は予想できるしなぁ。後は黒幕の正体くらいだが、それを素直に答えてくれるかな? なら――)

 

 リムルがシオンに言葉を返そうとすると。

 

「く、クソッ! ミリム、ミリムは何をしている!? そんなヤツさっさと倒して――」

 

 自分の死が迫った事を理解したのか、クレイマンが慌てたように叫ぶ。

 

 

 しかし、そのミリムはヴェルドラが完全に押さえていた。

 

 「クワァッーハッハッハッ。中々に楽しいぞ!!」と、豪快に笑いながらミリムと互角以上の戦いを繰り広げるヴェルドラ。

 

 その異常な力に気が付いたのか、クレイマンは信じられぬものを見る目付きでヴェルドラを見る……。

 

「な、何者だ……? なんなのだ、あの、桁外れの力は――!?」

 

 ヴェルドラが単なる魔人ではないと、気付くクレイマンに。

 

「人の姿をしているけど、ヴェルドラだよ。言っただろ、俺と友達だって」

 

 それ聞き、絶句するクレイマン。

 

(まあ、無理もないよな。ミリムと互角に戦っているの見れば、納得せざるを得ないだろうよ。しかし、えらく派手な戦いだな。なんだか聞き覚えのある必殺技名が飛び交ってるけど……。ん? ミリムの奴それに驚いているような反応して、る? あれ、本当に操られているのか、って疑問に思うような、思わないような?)

 

《…………》

 

(しかし、本当に楽しんで戦ってるなヴェルドラのヤツ)

 

 リムルが、そんなミリムとヴェルドラの戦いを見ていると。

 

 ミリムに頼るのを諦めたのか、いつの間にかに隔離戦域の端まで逃げて叫んでいた。

 

「ふ、フレイ! 貴女、何をしているのです!? 貴女とは運命共同体なのだから、さっさと私に手を貸しなさい!」

 

 必死に(すが)るクレイマンにフレイの反応は、とても冷たい。 

 

「あら、悪いわねクレイマン。この『結界』は、ギィが認めないと通れないのよ。本当に残念だわ」

 

 まったく心のこもってない返事を返すフレイ。

 

 それに忌々しそうに舌打ちをし、ツキハとコハクの方を見る。

 

「貴女達、知っていたのですか? ヴェルドラとそこのスライムが友達だという事を!」

 

 吐き捨てるようにツキハとコハクに言葉をぶつけるクレイマンに、二人は。

 

「うん、知ってた。っていうか、そんなこと聞く暇、ないんじゃねえか?」

「はぁーしょうもない。自分の詰めの甘さを他人のせいにするのは、やめなはれ。魔王は魔王らしくせな、あきまへんで?」

 

 感情も無く淡々と言うツキハとコハク。

 

「ば、〝番外魔王〟ーー!!」

 

 狂ったように叫ぶクレイマン。

 そして、ミリムの方へと振り返った。

 

 クレイマンの目が、理性を失ったように痙攣し狂気を宿す。

 狂気に染まった笑みを浮かべ、ミリムに向かって叫んだ。

 

「クハ、クハハハハ! ミリム、ミリムよ! 私の命令に従い『狂化暴走(スタンピート)』しなさい!! この場にいる全員を殺し尽くすのです!!」

 

 形振(なりふ)り構わずここを生き延びようとする、クレイマンの暴虐。

 

(それは不味い、流石に不味い!)

 

 リムルが悠長に観戦してる場合じゃないと、参戦しようとすると、そこへ――

 信じられない言葉が聴こえて来た。

 

「なんでそんな事をする必要があるのだ? リムル達は友達なのだぞ?」

 

 リムルが驚いて振り向くと、ミリムがニンマリと笑みを浮かべ踏ん反り返っており。

 そして、腹を抱えて大笑いをしているツキハの笑い声が、リムルの耳に届いていた。

 

「ミリム!? ちょ、お前、操られていたんじゃ……?」

「わーーっはっはっ! 見事に騙されてくれたようだな、リムルよ! ワタシがクレイマンなんかに操られる訳がないであろう?」

(はあーーっ!? なんだとー? )

《………………》

(……何故だかわからないが、さっきから智慧之王(ラファエル)さんが怒っている気がする……)

「なあお前、クレイマンに支配されていなかったのか?」

 

 リムルは思わずもう一度ミリムに聞き返してしまった。

 しかしミリムは、得意そうに笑うのみ。

 

 混乱しているのはリムルだけではない。

 

 魔王達も混乱というか、状況整理をする中。

 若干一名程『え? だってさっき殴られてたのに、反応しなかったじゃん!?』と言い、驚いている者がいる。

 

 そんな中、一番驚愕しているのがクレイマンだった。

 

「そ、そうです。貴女は〝あの方〟より授かった〝支配の宝珠(オーブ・オブ・ドミネイト)〟で、完璧に私の支配下にあったはず……。私の命令でカリオンを殺したではないですか!?」

 

(あーあ、クレイマンのヤツ。自分で何を口走ったか、気付いてないよな)

 

 クレイマンは驚愕のあまり、自分で犯行を暴露し、しかも黒幕がいると自白してしまったのだ。

 

「そう、それだ! ワタシはそれが聞きたかったのだ。答えよ、クレイマン。〝あの方〟とは、一体誰の事を言っておるのだ?」

 

 ミリムは、何事も無かったように、鋭く問い返す。

 クレイマンからの質問は完全無視なのが、如何にもミリムらしかった。

 

(えーと、つまりミリムは操られていた訳じゃなくて、最初からクレイマンに、疑いを持っていたという事なのか?)

 

 そんなリムルの疑問に答えが出るより先に、別の声が割り入って来た。

 

「おいおい、誰が死んだって?」

 

 隔離戦域の向こう側で、渋い重低音の声が響く。

 その声の主は……。

 

 フレイの従者として来ていた獅子の仮面(ライオンマスク)の男。

 

(おいおい、まさか……。そんなバレバレの変装を――ッ!? ま、不味い。これでは、気付かなかった俺の方が……)

 

《…………》

 

(ヤバイ。智慧之王(ラファエル)さんが呆れているような気がする。そういえばあの時、智慧之王(ラファエル)さんが何か言いかけて……いや気のせいだ。うん、気のせい。まったくもって気のせい。忘れよう……。これからは、もっと注意すればいいのだ。ノープロブレム!)

 

 と、いう事にしたリムルであった。

 

 そしてリムルは、急に笑い声が途絶えたツキハの方を見ると、椅子に深くもたれ掛かり両足を投げ出し、笑い疲れでぐったりしていた。

 

(アイツらぁー。どこから知ってやがったんだ? まあでも、ミリムが操られてはいないと最初からわかっていたんだろうな。それに、ってミリムのヤツ、あの二人に「久しぶりなのだー」とか手を振ってるし。クククッ、ほんと、なんだかなぁ)

 

 ミリムを見ながら苦笑いを浮かべるリムル。

 

 そこへ、先程の男がおもむろにマスクを外す。

 男の気合一発、瞬時に本来の姿へと戻り、同時に溢れ出る凄まじい妖気(オーラ)

 間違いなく〝獅子王(ビーストマスター)〟カリオン本人である。

 

「無事だったんだな、カリオンさん」

「よお、リムル。無事、とは言えないがな。それはいいが、俺の部下達が世話になった」

「いいって」

 

 カリオンはリムルに礼を述べた後、クレイマンを見てニヤリと笑い。

 そのままコハクの方も見てニヤリと笑い、コハクもニヤリと笑い返した。

 

 これで、リムルの中で確定した。

 ミリムは支配などされていなかったのだと。

 

 

「な、そんな……では、本当に……? だが、フレイの報告では……そうか、フレイも。貴様も裏切っていたんだなぁーー!!」

 

 全てを理解したクレイマンは、憎悪と狂気が渦巻いた目でフレイを睨む。

 

 それでもフレイは何処(どこ)吹く風だ。

 

(これって、裏切ったというよりも……あれだよなぁ)

 

「あら、いつから私が貴方の味方になったと錯覚していたの?」

 

 フレイは、しれっとそんな言葉を吐き捨てる。

 

(ああ、やっぱり。女って、恐いわ。やはり最初から、クレイマンを欺いていたのか)

 

 リムルは半目でフレイ、ミリムとツキハ、コハクを見ていく。

 

「ふ、ふ、ふざけるなよ!? き、貴様ら……許さん、断じて許さんぞぉーー!!」

 

 その場に(あわ)れな道化(ピエロ)の絶叫が響き渡っ――

 

「シオン、やれ」

「お任せを!」

 

 リムルの命令でシオンが即座に動く。

 

 トドメを刺さずにずっと待て状態のシオンは、両手で握り締めた大太刀を全力で、クレイマンに向けて振り下ろした。

 

 大太刀〝剛力丸・改〟による、断罪の一撃。

 

 その刃を防御しようとしたクレイマンだったが。

 凄まじい剣閃が走り、防御した六本の腕は切断され――

 

 その刃は、そのまま袈裟懸けにクレイマンを斬って捨て、致命傷を負わせた。

 宙にクルクルと回りながら飛び散る六本の腕、袈裟懸に斬られた胴体からは真っ赤な鮮血が吹き上がる。

 

 精神をも壊すシオンの大太刀〝剛力丸・改〟、その一撃でクレイマンは声を発することなく、その場に崩れ倒れて行った。

 

 

 〝破滅〟。

 

 クレイマンは自ら破滅を招いた。

 カリオン生きており、リムルの証拠もある。

 

 既にクレイマンは、虫の息。

 

 もう打つ手など無い、ここから逆転など到底不可能。

 状況は既に確定し、今更どんな言い訳も通らない。

 

 魔王達を前に、盛大に自白したのだから。

 

 どう受け取るかは各々の魔王次第だが、クレイマンの信頼は完全に失墜した。

 故に、クレイマンを庇う魔王など、誰も、いないだろう。

 

 

 隔離戦域の『結界』が解除され、広げられた空間も元の広さに戻っていった。

 

 すぐにフレイが、ミリムのもとにやって来た。

 

「貴女なら操られないと信じていたけど、ひやひやしたわよミリム。でも、あの二人は全然貴女が操られてるとは全く思ってなかったみたいね。それと、私との約束(・・)を守ってくれたわね。感謝するわ」

「わはははは! 友達だからな、当然なのだ。それにあの二人とは、付き合いも長いからこれも当然なのだ。それよりもフレイ、アレ、ちゃんと大切に持って来てくれているんだろうな?」

「はいはい、コレでしょ? それにしても、支配の宝珠(オーブ・オブ・ドミネイト)に抗えるなんて、貴女は本当に凄いわね……」

 

 そんな会話をしながらフレイは懐から、ある物を取り出しミリムに手渡す。

 

 それは、リムルがミリムにプレゼントしたドラゴンナックル。

 ミリムは嬉しそうにそれを受け取り、そそくさと両手に()める。

 

 そしてニッコリと微笑み、ガチンと眼前で両拳を軽く叩き合わせた。

 

 ミリムとフレイのやり取りを見ていた魔王達も、それを見てようやく事態が飲み込めたようだった。

 

『三文芝居だったな』

『あ、アタシは見抜いていたさ!』

『嘘つけ。〝殴られて反応なかったじゃん〟とか言ってたくせに。くくっ』

『はあ!? ツキハあんたねえ――』

『そんなことだろうと思っていたぞ』

『フンッ。〝番外魔王〟の二人も、最初から知っていたという事か。茶番だな』

 

 等々、小さな会話が聞こえて来る。

 

 その時、足元から血を吐くような呻きが聞こえて来た。

 

「――い、いつからだ? いつから私を欺いていた……?」

 

 仰向けに倒れていた、クレイマンだ。

 上半身を捻り、顔を起こして、口を開いて来たのだ。

 

 そのクレイマンにミリムは、残酷な事実を突き付ける。

 

「うむ、苦労したぞ! フレイとの約束(・・)で、騙されたフリをしていたのだ。そして腕輪を嵌めて、お前の支配が有効だと思わせたのだぞ」

「ふ、ふ……ふざけるな……支配の宝珠(オーブ・オブ・ドミネイト)を用いた、私の全魔力を注いだ……最高にし――」

「クレイマン。あんさん、全魔力と()うとりますけど、あんさんの全魔力は、ミリムの〝通常魔力〟を超えてますんか?」

「え……?」

 

 クレイマンが全魔力と口にした時、コハクが会話に割って入りクレイマンに問う。

 コハクの言葉に理解が追い付かないクレイマンは一瞬言葉に詰まるが、次のミリムの言葉でそれを理解する。

 

「うむ! 魔力の差もあるが、ワタシはそういう魔法は大抵簡単に弾いてしまうからな。だからな、先ず全部の結界を外した上で、勝手に抵抗(レジスト)しないように意思の力で抑え付けて……。お前の目の前で呪法が成功したように見せねば、用心深いお前は信じないだろうからな。そうやって、頑張ったのだ!」

「な……なんだ、と? ワザと、ワザと受けただと!? あれは、最高級の魔法道具(アーティファクト)な……のだぞ。魔王すら支配する、私の、私の秘奥義を……」

「そうなのか? でも、ワタシを支配するのは無理なのだ! それとな、ワタシより前に同じものをコハクに使っただろう? 〝番外魔王〟も支配は無理なのだぞ」

 

 ミリムは胸を張って大威張りで言い放つ。

 

「本当にね。心配して損した気分よ。でも、あの二人が全然貴女の事心配しないのだから、大丈夫だとは思っていたけどね。それよりも、貴女。拳を握り締めてガッツポーズを取ったり、口元がにやけていたり、演技は全然駄目だったわね」

「しょうがなかろう。リムルがワタシの為に怒ってくれているのがわかって嬉しかったのだ」

 

 そんなミリムにフレイは肩を(すく)め、ふと思い出したように言った。

 

「それにしても、クレイマンがミリムを殴った時は焦ったわね。ミリムが我慢しなければ、私のお家が壊されるとこだったし。本当によく我慢したわね、その点だけは褒めてあげるわ」

「うむ! ワタシもな、大人になったのだよ。我慢の出来る大人にな!」

 

 大人感をこれでもかと強調するミリムである。

 

「どこがよ。まあ、いいけど。それにしても、私との約束の為だけに我慢していた訳ではないのでしょう? 本当は、何が目的だったの?」

「ん? いや何、前にクレイマンが怪しい会話をしていたのを思い出してな。なんでもリムル達を人間の敵に仕立て上げて、人魔戦争を画策していたようなのだ。そんな事をされたら面白くなくなるし。それにツキハとコハクが、人間が極端に減ったら商売上がったり? と前に言っていたしな。そういえば〝商売上がったり〟って、なんなのだ?――」

「いいから、続きを言いなさいな」

「うむ。だから、邪魔しようと思ったのだ!」

「なるほどね。貴女が自分の事以外で動くなんて……」

「わはははは! だから言ったであろう! ワタシは大人になったのだ!」

「はいはい。そういう事にしておきましょう」

 

(そうか……。ミリムは勘が鋭いから、クレイマンを操る黒幕がいると気付いたのか。それで、敢えて操られるフリをして、背後にいる黒幕の正体を突き止めようとしたんだな。まあ、フレイとの約束もあったようだし……。結論から言えば、最初からミリムの演技と、いう事か)

 

 リムルは、ミリムとフレイの会話を聞きながら、今まで起こった件を頭の中で整理していく。

 

 更に会話を聞くと、ミリムは無表情を維持する為に、こっそりピーマンを食べていたのだ。

 その、不味さを我慢する際に自然と浮かぶ表情で、皆を騙していた訳である。

 

 ツキハとコハクは、最初にその状態のミリムを見た時に気付いていた。

 ヴェルドラもまた、一目でそれを見抜き。身体を動かすのに慣れる目的で、ミリムの演技に付き合い戦闘を楽しんでいたのだ。

 

『それにしても、気付かなかったのかよ智慧之王(ラファエル)さん?』

《………………》

『あ、はい。そういえば、何か言おうとしてましたね……。はい、すんません』

《……》

(そうだよなぁ……。智慧之王(ラファエル)さんの検索結果なしという判定も、今考えれば当然か。呪縛されていなかったんだから、俺の思い込みってヤツだな)

 

 リムルは、今後は人間の頃の常識外もあると肝に銘じ、説明も注意して聞のと同時に、きちんと人の話は最後まで聞く癖をつけようと密かに反省するのであった。

 

 そんなミリムの前に、カリオンが立ち、「一つ聞きたい事があるんだがいいか?」と問い。

 ミリムが「いいぞ、何でも聞くのだ!」と返す。

 

 カリオンは笑顔だが、額に青筋を立てながら「操られてなかったのに、俺の国を吹き飛ばしたのか?」 と迫り。

 ミリムは言葉に詰まり、あれやこれやと言い訳して……。

 

「むうっ! カリオン、そんな小さな事はどうでも良かろう!?」

 

 最後には、逆切れする。

 

「小さな事じゃねーよ! お前なあ、下手したら俺様も死ぬところだったんだぞ!?」

「ええい、うるさい。うるさいのだ!!アレは演技に熱中――じゃなくて、クレイマンを騙す為に頑張っただけなのだぞ? なので、悪いのはクレイマンなのだ!!」

「おいおい、クレイマンのせいかよ……って、もういいや。どうせ文句を言っても聞く気なんざないんだろうぜ……」

 

 そう言ってカリオンは、ツキハとコハクの方に視線を移すと。

 二人共真顔で、ムリムリといったように手を横に振っていた。

 

「だよな……」

 

 精悍な顔つきで落ち込むカリオンにリムルが――

 

「まあまあ、カリオンさん。三獣士や他の皆さんも無事だし。貴方の復讐戦って事で今回も頑張っていたんだしさ。悪い事ばかりじゃなかったと思うよ?」

 

 慰めるような言葉を掛ける。

 

「おお、リムル。すまんな、慰めてくれて」

「だから気にするなって。それにさ、町ならまた造ればいいさ。その為に、クレイマンの配下を労働力として捕らえさせたんだし」

「はあ? おいおい、マジかよ……!?」

「ああ、技術協力は惜しまないし、当然俺達も手伝うさ。だからさ、前より立派で快適な国を作ろうぜ!」

 

 そう言いながらリムルは、にこやかにカリオンを見る。

 

 リムルの思惑。

 ここで恩を売るのも戦略的に有効で、何よりも今後の国交の充実と共に、獣人達とより親睦を深めたい。

 そんな思いが、あったのだ。

 

「わーーはっはっはっ! 良かったな、カリオン!。これもワタシのお陰だぞ?」

 

 無邪気に笑い飛ばすミリム。

 

「ねえ、何がミリムのお陰なんだ? あたしには大惨事を起こした張本人にしか見えないんだけど?」

「せやねぇ……。強いて()うたら、瓦礫も残らぬ平野になって、作業がやりやすいんやおまへんか?」

「あぁー。納得だわ、それ」

「むうっ? お前達、それは酷いのだ!?――」

 

 笑い飛ばすミリムに、ツキハとコハクが半ば呆れたように会話してると。 

 地獄耳のミリムがすぐさま、ツキハとコハクの前に飛んで来た。

 

 ミリムは話が上手く纏まったのを感じ取ったのか、もういつもの調子に戻り。

 ツキハとコハク相手にギャアギャアと、言い合いを始めていた。

 

 それを横目にギィが――

 

「それでかよ。魔人共を生かしておくなんざ、甘い野郎だと思っていたが……。なかなかどうして、面白い考え方をする野郎だぜ。原初の黒(ノワール)が懐いたってのも頷ける話だ」

 

 ギィが愉快そうにそう言った。

 

(んん? 原初の黒(ノワール)? なんのこっちゃ? まあいいや)

 

 リムルはギィが口にした原初の黒(ノワール)に、何だそれ? と疑問に思うも、今はクレイマンだとそれを流してしまう。

 

「ねえ、クレイマン。貴方、弱者や抵抗できない者には威張り散らすのね。私、貴方に魔王を名乗る資格は無いと思うのよ。ミリムが我慢していたから邪魔はしなかったけど……少し怒っていたのよ、私も」

 

 静かな怒りを言葉に込めて、フレイが告げる。

 それは、クレイマンを救う気は微塵も無いという、断罪の言葉。

 

「そうだな。弱肉強食がルールとはいえ、クレイマン、お前はやり過ぎた。俺様としても、国を荒らされた恨みは晴らさせてもらうぜ?」

 

 カリオンも町を吹き飛ばされた恨みがある。

 実際はミリムがやったのだが、その責任はクレイマンに転換するらしい。

 フレイと同じく、クレイマンを許すつもりはないようだ。

 

 ギィはそれを愉快そうに眺めているのみ。

 その他の魔王達も、クレイマンの処遇に口を出す者はいなかった。

 

 どうやらクレイマン、他の魔王達からの人望もなかったみたいである。

 

 ツキハはつまらなそうにクレイマンを見るだけ。

 そして、コハクは……。

 

 少し違った。

 

 クレイマンを見る目は他の者と違い、何かを探るような目をしていた。

 

 

 状況は、クレイマンに取って既に詰んでいる。

 

 後は、死を待つのみ。

 クレイマンの最後の時が近付いていた。

 

 

 

 クレイマンは、消えゆく己の命を感じ取りつつ、後悔の念で心を埋め尽くす。

 

 思いだす……仲間達の言葉……。

 

 それらは走馬灯のように、クレイマンの心を駆け巡る。

 

 

 ――せいぜい油断せんようにな――

(ああ……ラプラス、君の言う通りだったよ……)

(自分では慎重に事を運んだつもりなのに、どうやら……力に溺れていたらしい)

 

 クレイマンは、ミリムの超絶的な力を見て、それを我が物と勘違いした結果がこれだった。

 

(君が感じた通り、結果的に見れば、私が逆にミリムに操られていたようなものだったな。油断してるつもりはなかったんだ……だが、私はミリムに欺かれ、裏で動いていた〝番外魔王〟の二人にも欺かれた。君達に信頼されて任された魔王という役目なのに、どうやら私はここまでのようだ……)

 

 友の忠告を無視した時点で、こうなる事は決まっていたのだろう、クレイマンはそう思った。

 

 

 ――クレイマン、アンタはアタイ達より弱いんだからさ、一人で無茶したら駄目だよ?

 

 ――ほーーーっほっほっほっ。ティアの言う通りです。ちゃんと私達を頼るように。

 

(ああ、ティア。ああ、フットマン。そうだったな、忘れていたよ……)

 

 クレイマンは忘れている訳ではなかった。

 自分の誇りを重視して、仲間に頼るのを良しとしなかった、だけ。

 

 いや、頼ってはいたのだクレイマンは。

 しかし、本当に大切な時にそれを忘れる愚行を犯していた……言語道断とも言える愚行を。

 

(私はね、少しでも近付きたかったのさ。その為には無茶もする。当然だろう? 私だって、中庸道化連の一員なのだから……)

 

 そう。

 

 クレイマンは仲間達に、認めて欲しかったのだ。

 自分の力を認めて欲しくて、中庸道化連を表舞台に出さなかった。

 それが失敗だと気付いた時には、……もう、それは、遅すぎた。

 

 

 ――思いだす、〝あの方〟との初めての出会い。

 

『やあ、君がクレイマンだろ?』

『誰ですか、貴方は? 馴れ馴れしく私を呼ぶとは、どうやら死にたいのでしょうか?』

『おいおい、そう警戒するなよ。こっちは紹介されて来てるんだからさ』

『紹介、だと?』

『そうさ。君の親、魔王カザリームからね』

『なんだと?』

 

 いきなり声を掛けて来た少年を殺すつもりでいた、クレイマン。

 だが、懐かしいカザリームの名を出した事で、少年の話を聞く気になった。

 

 そして、知った。

 

 その野望と、力を。

 

 少年は、魔王カザリームの復活を報酬に、〝中庸道化連〟に依頼をして来た。

 望外の報酬、クレイマンにそれを断る理由はなかった。

 

 それが可能と判断したのは、少年の力を知ったが故。

 クレイマンは即断で、依頼を受けると決意した。

 

『そう言ってくれると思ってたよ。僕達で世界を手に入れよう。そして、面白可笑(おか)しく暮らそうぜ!』

 

 この世界を、まるでゲームを楽しむように生きる〝あの方〟。

 そんな〝あの方〟を見ていると、クレイマンにもそれが実現可能だと思えていた。

 

 障害は多い、だからこそ面白い。 

 そう思っていたクレイマン。

 

 だが今、自分の失敗で戦略の土台が崩れようとしている……。

 

 報酬の支払い――魔王カザリームの復活は成就した。

 

(私の迂闊さが、今回の事態を招いたのだな。これでは、申し開きすら出来ないでは、ないか……)

 

 カザリームが復活したのに、クレイマンはいまだお祝いを述べる事も出来ずにいた。

 

 自業自得。

 

 大人しくしておくべきという命令を無視して、勝手な判断で動いたのはクレイマンなのだから。

 

 思いだす、敬愛する魔王カザリームからの忠言。

 

 ――クレイマン。お前は俺に似ている。俺を真似るのはいいが、決して悪い面を真似しては駄目だぞ。

 

(ああ、カザリーム様……。申し訳御座いません。私は貴方の忠言を忘れ、最大の失敗を犯してしまいました……)

 

 そう、最悪の形での失敗。

 

 魔王カザリームと同じく、新たに生まれた魔王に敗退するという愚かしい真似を……。

 

 それは、最早(ごう)

 

 妖死族(デスマン)クレイマン。

 死体から魔王カザリームによって、頭脳に比重を置いた妖死族(デスマン)として生み出された。

 フットマンやティアとは違い、戦闘には向いていない。

 だから、策謀を巡らせて軍団を指揮する魔王になった。

 魔王カザリームの期待を一身に受けて。

 

(貴方様より預かった軍団すら、私のミスで失う羽目に……。死ねぬ、私は、まだ死ねないのだ。このまま何も()さずに死ぬなど、私が私自身を許せない……)

 

 今己が知り得た情報、それだけでも届けたい、なんとしても、仲間達に。

 敬愛する魔王カザリームと、〝あの方〟へ。

 

 その思いが、諦念(ていねん)に傾きかけていたクレイマンの心に灯をともす。

 

 

 そして、最後に思いだす〝あの方〟の言葉。

 

『いいかい、クレイマン。〝番外魔王〟の二人を、絶対に敵に回しては駄目だよ。あの二人とは依頼を通して中立を貫くんだ。いいね?』

『何故です?』

『〝番外魔王〟、あの二人が持つ〝傭兵商会・ルヴナン〟と、どれ(くらい)いるか不明の眷属達。僕の力を以ってしても、全貌が全く掴めないんだ』

『しかし、今私が全力で調査中で――』

『無理だと思うよ。千年以上前から、その実態を隠して来てるんだ。生半可な手じゃ、返り討ちに合ってこちらが潰されかねない。それに、あの魔物は魔王では無いのに、魔王と同格の力を持ち。得体の知れない不気味さを持つ。しかも、魔物でありながら――人間の事をよく熟知してる。あれは、とても危険だよ。魔物と人間、両方の思考を持つ……化け物さ』

 

(……そうでしたね。何故この事を忘れていたんでしょうね……。魔王ではないのに、魔王と同格かそれ以上の力を持つ魔人。私は、そんな二人を甘く見ていたのかも知れない。私なら、〝番外魔王〟を上手く使う事が出来ると……。これこそ、気付くべきでした。魔王ではないのに五千年もの長き時を生きて来て、あのギィやミリムと互角に戦えるという事を。そして、ヴェルドラと懇意にしてる二人。普通に考えれば、上手く使おうなど考えもしない事を……私は……。自惚れも過ぎれば、毒となり身を亡ぼす。ククククッ、ククッ。今の私がまさに、それ。しかし――)

 

 クレイマンの思考が――

 

 裏返る。

 

 

 力が足りなければ、どんな手を使っても手に入れればいい。

 そうすれば、フットマンとティアに並ぶ程、いやそれ以上に強くなれる。

 

 頭脳派の己が力を手に入れたならば、それは間違いなくあの者等を上回れるはずだと。

 クレイマンの脳裏の中で、何かが弾けた。

 

(そうだ、そうだとも。真なる魔王になど覚醒しなくてもいい。だから、寄越せ。この私に、力を……。何者もねじ伏せる圧倒的な力を、寄越せぇーーーーーーっ!!)

 

 魂の揺らぎ。

 連なる因果の咆哮。

 

(クレイマン。あんさん、自力で呼び起こしましたんやな。でも……) 

 

 コハクが何かを感じ取ると同時に――

 

《確認しました。魂を魔素(エネルギー)に変換……成功しました。受け皿としての肉体を分解、再構築を開始します――》

 

 世界の言葉が、空間に響き渡る。

 

 魂の覚醒、クレイマンは願いが叶うとは思ってもいなかった。

 だがしかし、世界の言葉はクレイマンに反応したのだ。

 

 

(不完全な覚醒、か……。取れる行動は……どうでる、クレイマン?)

 

 ツキハが覚醒を始めたクレイマンを見て、呟く。

 

 

 クレイマンの願いが土壇場で叶った。

 それは最早、執念とも呼べる願い。

 

(天は、まだ私を見放してはいなかったか!)

 

 クレイマンの思いはただ一つ――

 

(ク、ククク……。この私を散々虚仮(こけ)にした者共よ、必ず報いを受けさせてやる。だが今は、何としてもこの場から……)

 

 声も発せぬ程に衰弱していても、クレイマンの魂は熱く激しく、燃え盛っていく。

 

 魂の鳴動。

 

 徐々にクレイマン周辺に、凄まじい魔素(エネルギー)の嵐が渦巻き始める。

 

 

(……私は……私は……今ここに、覚醒する!!)

 

 

 

 クレイマンの最後の魂の叫びが、覚醒を祝福する。

 

 

 

 

 




 六十話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!






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