忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。六十一話です








61話  Deterioration(ディテリオレイション)(劣化 )// 覚(Clayman)醒

 

 

 クレイマンの身体は分解され、そこには無数の光輝く魔素粒子が乱舞していた。

 

(あぁ、光が溢れてい、る……。私の為すべき事……は、ただ一つ)

 

 身体を分解されたクレイマンは、覚醒が始まったのを感じつつ、意識下の中で――

 

 高まった心とは裏腹に、冷静にこの場からの撤退を決意する。

 

(古き魔王達、中でもギィ、ミリム、ダグリュールは厄介ですね。覚醒に到っただけで勝てる相手ではない。それに不確定要素のツキハとコハク……あの者等の行動は、全く読めません。何よりも今は、慎重に行動すべき時。〝あの方〟に報告を入れる、それが何よりも重要なのだ)

 

 クレイマンは冷静に素早く、現状を分析していく。

 

見縊(みくび)っていたスライムの実力は……不明。その配下の魔人でさえ、魔王である私より強かった……。それだけではなく、あの復活したヴェルドラと親交を結んでいるとは予想も出来なかった。まさか、ツキハとコハク以外に懇意に出来る魔人がいるとは、な。ならば、あのヒナタとの戦いを生き延びたのも、決して偶然ではないだろう。色眼鏡で見ずに、冷静に分析すべきだったのだ、私は。だからこそ、この情報を持ち返る事を優先せねばならない)

 

 それらを踏まえて、クレイマンは作戦を決める。

 

 

 その作戦とは――

 

 最大出力で極大魔力弾を放ち、それによって生じる混乱に乗じて脱出を試みる。

 これが、クレイマンの出した作戦。

 

(もっとも警戒すべきは、ギィだが……)

 

 しかし、ギィは弱者には興味を示さない。

 故に自分の事など、眼中にないだろうと考えた。

 

(大丈夫。必ず、必ず脱出してみせます)

 

 そう決断を下すクレイマン。

 

(何人かを巻き込めれば、儲け物……ですね)

 

 そんな事を考えながら、クレイマンはゆっくりと立ち上がる。

 

 

 魔王達が見守る中、油断なくクレイマンを注視していたリムルが叫ぶ。

 

「離れろ、シオン!」

 

 リムルの命令に素早く反応し、リムルの隣まで下がるシオン。 

 

 その直後、シオンが立っていた場所を含めてクレイマンの周囲に膨大な魔素(エネルギー)が渦巻き、吹き荒れた。

 

 それは周囲から更なる魔素(エネルギー)を掻き集め、再びクレイマンへと収束し、再構成していく。

 

「どうやら本当に始まったみたいだな」

「リムル様? 一体、何が……?」

 

 慌てたようにシオンが問うが、リムルが落ち着いているので安心したようにリムルを見る。

 

「クレイマンが覚醒したんだ。予定通りだよ」

「予定通りでしたか、なら安心ですね!」

 

 リムルに全面の信頼を寄せているシオンが、軽快に答える。

 

 全ては智慧之王(ラファエル)の計画通り。

 

 そのリムルだが、内心一抹の不安もあった……。

 

 クレイマンを最初に見た時リムルには、その魂に付随(ふずい)するように大量の(ひずみ)が付着しているのが()えていた

 

 怨念とも呼べるそれは……。

 クレイマンが今まで殺した人々の、魂の残滓(ざんし)

 

 それは、そのままでは取り込めない。

 ましてや、成仏など出来るはずもなく、空に拡散もしない。

 クレイマンが死ねば、一緒に消滅するだけであった。

 

 リムルはその魂の残滓を、なんとか〝利用(かいほう)〟出来ないかと考えた。 

 

 その時に智慧之王(ラファエル)が、ある作戦を提案をする。

 

《解。クレイマンの覚醒エネルギーを『暴食之王(ベルゼビュート)』で『捕食』すれば、消耗している魔素量(エネルギー)を回復可能です》

 

 それは、とことんまでクレイマンを追い込み、覚醒させるというもの

 

 智慧之王(ラファエル)の予測では、クレイマンの進化は正当な手順を踏んでいない為、進化の眠りは不要だとリムルに告げていた。

 

 そう、限定的なパワーアップという事になると、予測したのだ。

 

 智慧之王(ラファエル)の予測演算では、クレイマンがどれだけパワーアップしようとも、楽勝との事だった。

 

 素体の強さ、得られる力、獲得しそうな能力(スキル)――それら全てを演算によって予測し、その最大限の脅威度で考えても尚、リムルの方が上回ると智慧之王(ラファエル)が出した答え。

 

(心配しても仕方ないし、やるしかないな)

 

 リムルの魔素量(エネルギー)が空に近いのは事実だった。

 回復速度は凄まじく速いのだが、満タンには程遠かったのだ。

 

 それだけミリムとの戦闘は、魔素量(エネルギー)の消費が激しかったのを物語っている。

 

 それでも覚醒前より多いのだが、それと知らずに利用していたヴェルドラという燃料庫がなくなった以上、自分の魔素量(エネルギー)を満タンにしておきたいというのは、当然なのだろう。

 

 これは、魔王達へのアピールになる。

 

 新参者としては、魔王の席は己の力で奪い取るべきなのだ。

 

 武威を示す、そうやれば魔王達に認められて、後腐れが少ないとリムルは考えた。

 アイツはヤバイと思わせるのが、今後の面倒を避ける為にもいいだろうと。

 

 そう、いい例がここには存在した。

 

 〝番外魔王〟の二人、ツキハとコハクである。

 魔王ではないのに、魔王達と同格扱いの二人。

 

 リムルの見立てでは、相当ヤバイ二人と魔王達に認識されてるようにみえていた。

 それを確信したのは、ギィの二人への対応だった。

 ツキハが悪態を突こうとも、ギィは怒りはするがそれ以上の事はしなかった。

 

 それを見てリムルは確信した、この二人はギィに認められた存在、他の魔王達にも。

 恐らくだが、ギィや他の魔王達にヤバイ二人と思わせる程には、力を持つ二人なのだろう。

 

 リムルの決断。

 

 ならば――

 

 覚醒したクレイマン相手に、自分の力を見せるのみ。

 

 リムルはここに力を示すだろう、究極能力(アルティメットスキル)暴食之王(ベルゼビュート)』を。

 

 

「おい、リムル! クレイマンが覚醒しただと? 信じられんが、凄まじい力だな。ここは俺様も協力を――」

「いや、カリオンさん。コイツは俺が相手をするよ。俺も魔王を名乗った訳だし、自分の席は自分で用意したい。コイツを排除して、俺の事を認めさせる事にするよ」

 

 リムルがそう言うと、カリオンは「仕方ねーな。負けるんじゃねーぞ」と言い、その場を譲る。

 

 そして、立ち上がったクレイマンの前に進んでいくリムル。

 

 ギィ以下他の魔王達は、様子見に徹する事にしたようだ。

 もちろん、ツキハとコハクも同様である。

 

 そんな中、ミリムは嬉しそうに笑い、ラミリスは能天気にツキハ、コハクと話し始めていた。

 二人は、リムルの勝利を確信しているのであろう。

 

(……あの二人。信頼されてるのかな、なら――尚更負ける訳にはいかないな)

 

「シオン、ランガ、下がれ」

「ですが――!?」

「いいから、任せろ」

「承知しました! 我が主よ」

「御武運を、リムル様」

 

 魔王達とツキハとコハクも一歩退き、シオン達も後ろに下がっていく。

 これにより巻き込まれる者もいなくなった。

 

 一人残ったリムルを見て、クレイマンが薄い笑いを浮かべる。

 

「フフフ、フハハハハハァーーーーッ!! 見よ、私は力を手に入れたぞ! 調子に乗っているからだよ、虫ケラが! さあ、矮小(わいしょう)なるスライムよ。今から、この私が捻り潰してやる!!」

 

 クレイマンの笑いは哄笑(こうしょう)となり、リムルに見下すような眼差しを向ける。

 

 だが、これは演技。

 悲しい程に、智慧之王(ラファエル)の予測通り。

 

 智慧之王(ラファエル)が予測した行動は、二つ。

 

 一つ目は、死に物狂いでリムルを殺しに来るか。

 

 二つ目は、リムルを挑発して油断させつつ、逃げる隙を捜そうとするか。

 

 今回は明らかに後者。

 

《告。隔離戦域結界の解除と同時にこの会場は、異界から通常空間へとシフトしています》 

『そうか、智慧之王(ラファエル)さん。やはり、ヤツは――』

 

 クレイマンが取る次の行動も、また……。

 

 リムルを口で(おとし)めつつ、クレイマンの目は油断なく、リムルの隙を窺っていた。

 そんなリムルは、クレイマンの演技に付き合って見せる。

 

「言っただろ? お前はもう詰んでるって。俺はお前より強いんだよ。諦めて、お前に指示を出している黒幕を教えろよ」

 

 この場合リムルには本心も含まれているのだが。

 演技に演技で答えるリムルにクレイマンは、まんまと乗って来た。

 

「フフフ、どこまでも生意気な。私が本気を――」

 

 余裕たっぷりな演技をしながらクレイマンは、いきなり動いた。

 リムルが油断していると踏み、極大魔力弾を放ったのだ。

 

(ククククッ、掛かったなスライム!)

 

 会話しつつ魔力を練り上げたのだろう、覚醒した力が全力で込められていた。

 超級の威力を秘めた極大魔力弾は、真っすぐにリムルに向かって迫る。

 

 クレイマンは、リムルが回避すると読んでいた。

 または、相殺すべくリムルが魔力弾を撃ち返す事も予想していたが、咄嗟に練り上げた魔力弾では相殺は不可能だと考えていた。

 

 だから、リムルが回避したならば空中で爆発させる。

 相殺しようとしたら、それこそ好都合。

 その爆発の隙に、この場から脱出出来ると――クレイマンは考え、確信していた。

 

 しかし……。

 

 その目論見は、あっけなく(つい)える。

 

 

「言ったよな? お前はもう詰んでいると。そんな攻撃は無駄なんだよ。俺に放出系は通用しないのだから、な」

 

 リムルは右手の平を軽く開け眼前に構え――

 

 そのまま、勢いよく右真横に振り抜いた。

 

「『暴食之王(ベルゼビュート)』」

 

 リムルに迫らんとした極大魔力弾は、僅かな魔素粒子の輝きを残し――

 

 空間ごと、一瞬にして『捕食』された。

 

「――はぁっ!?」

 

 驚愕し、言葉を失うクレイマン。

 

 そこへ、リムルが指をパチンと鳴らす。

 と同時に、リムルとクレイマンを隔離するように『結界』が生じる。

 

 隔離戦域結界、ギィが構築した術式をリムルが真似たのだ。

 これは、隔離戦域結界が展開されてから智慧之王(ラファエル)がリムルを支援しつつ解析し、リムル用に最適化した『結界』術式である。

 

「オレの技を盗むか、ずうずうしい野郎だ」

 

 面白そうにギィが呟いているけど、そこに不愉快な感じは見受けられなかった。

 

(これで、安心してクレイマンを喰えるな……ん? 今平然と思ってしまったけど、俺の思考も段々と悪者っぽくなってきているな。やっぱり、魔物だからか? あ!? そうか――これだ! ツキハとコハクに感じた違和感……。転生者でありながら、魔物の思考を持つ、というか……アイツ等もそれを受け入れ、この世界の住人になっている。ツキハとコハクに取って、前世ではなく――今なんだ……)

 

 そう思うリムルは、無意識に『思考加速』十万倍をかけていた。

 

 人間として転生したなら、人間としての思考が優先されるだろう。

 しかし、人としての思考を持ちながら、リムルは魔物に転生する。

 

 (すなわ)ちそれは、両方の思考を持ち合わせる事に他ならない。

 

 だがしかし、その思考の両立は成立しない。

 どちらに重きを置き優先するか、五対五ではなく、六対四、もしくは七か八をどちらの思考対比にするかである。

 そうしなければ――人としての思考と魔物としての思考がせめぎ合い、それはやがて精神のバランスを崩し、精神の崩壊を招きかねないのだ。

 

 これについては、シュナがいち早く気付き憂慮していた。

 

(人の定義……。魔物の定義……。この世界の定義と、(ことわり)……。人と魔物は相容れないのか?  いやそれならば、俺は、俺の……俺としての……)

 

 リムルは、魔物としての自分の在り方に、朧気ながら探り当てていく。

 ツキハとコハク、リムルに取ってこの二人との出会いは、これから先魔物として生きる自分の……。

 

 いや、リムルがリムルとして、魔物でありながら人としての思考を持つ自分を――

 この世界で魔王リムルとして在る為には、何が必要なのかを考えさせてくれる存在なのかもしれない。

 

 精神のバランス――リムルがこれから先選択するのは、五対五なのか? もしくは六対四なのか? あるいは……?

 

(この世界での俺は? 魔物か? 人……か? いや、俺はスライムの魔物――リムル・テンペスト、だ)

 

 この世界に三体しか存在しない、〝特殊な魔物〟リムル・テンペストにツキハとコハク。

 もしかすると、〝特殊な魔物〟の一体であるリムルであれば、その精神バランスすらも克服出来るのかもしれない……。

 

 

(そう、俺はもう魔王なんだ。だから、クレイマンを喰う事にも忌避感はない)

 

 ここでリムルの『思考加速』が解除される。

 

 

「な、なんだ、? 一体何が起きたと、いうのだ……」

 

 自慢の一撃が一瞬で掻き消され、理解が追い付かず動揺するクレイマン。

 

「おい、本気を出すんなら早くしな。待っててやるからよ。それともまさか、今の攻撃に紛れて逃げる気じゃないよな?」 

 

 知ってても尚、追い詰めるリムル。

 

 それでもまだクレイマンは、リムルを舐めていた。

 

 今や、覚醒して大きく魔素量(エネルギー)は増えたが、それだけである。

 それを制御する魔力も、有益な能力(スキル)も獲得出来ていない。

 

 かたやリムルは『思考加速』一つ取っても、知覚速度を百万倍まで高める事が出来、それは時が止まってるように感じる事が出来る。

 

 その状態で術式を構築出来るのだから、魔法とは念じると同時に発動するものになっている。

 気を練り込む魔力弾なんて時間的効率が悪過ぎて、この場合には選択はしない。

 

 意思――即ち、情報――のみで思い描ける術式構築とは違い、妖気(オーラ)の制御に時間が掛かるのだ。

 

 『詠唱破棄』と『森羅万象』。

 これがあれば、どれだけ時間が掛かる魔法であっても、百万倍の体感時間で発動が容易いのである

 一秒が、二百七十七時間に相当するのだから。

 

 どんな大規模な術式でも、0.1秒以下で発動できる計算なのだ。

 通常の魔法であれば、複数セットも可能で簡単である。

 

 

 そこで不可思議なのがツキハとコハクの、忍魔術である。

 

 何故、非効率な印を結び、言霊(ことだま)を乗せる行為をするのか?

 それは――権能『並列起動』、『気動操作』に秘密がある。

 

 印を結ぶ、ツキハとコハクはこれにより、体内の魔力回路を任意に切り替えたり繋げたりを、自在に行う。

 これは、術の威力を発動させてから威力の強弱を制御しているのだ。

 これにより魔素量(エネルギー)の消費を抑えていた。

 

 たとえば、発動して四割の威力を、発動中に一気に八、十と上げることが出来、逆も然りである。

 

 まだ二人が最弱だった頃に、上位の魔人を倒す為にはどうする? から考え編み出した〝忍魔術〟。

 こちらの(ことわり)に、忍びの頃の呪符忍術を掛け合わせ最適化した術式だった。

 

 魔素量(エネルギー)で劣っていても、上位の魔人を倒す――その為だけに磨いた技量(アーツ)

 それが、〝番外魔王〟となり、真なる魔王として覚醒してからは、尋常ならぬ技量(アーツ)となったのだ。

 

 言霊(ことだま)は、純粋に魔力を術式に変換し、そこへ妖気(オーラ)を上乗せをしていて、魔力と妖気(オーラ)を混合したもの。

 

 そして『並列起動』は、大規模、小規模問わず複数常駐させ、発動、待機をさせることが出来る。

 

 そう、ツキハとコハク、特にコハクは常に何らかの術式を常駐させ、展開、待機させている。

 それも無意識レベルで。

 因みに眷属達は、『簡略型・並列起動』を使用していたのだ。

 

 最後に『気動操作』、これは覇気、魔闘気、妖気(オーラ)などの気を自在に操る権能。

 たとえば、覇気や殺気などをある特定の対象にだけ飛ばす事が出来る。

 特に覇気は、弱い魔物や脆弱な人間なら、その覇気を浴びただけでも死に至るが、それをツキハとコハクは、一個人だけや、或いは任意に定めた者にだけその覇気を浴びせる事が出来た。

 

 覇気の強さも任意に設定出来るが、感情の高ぶりや、激しい怒りなどによる場合はその制御にブレが出る事もある。

 

 それから、妖気(オーラ)の制御。

 この権能により、妖気(オーラ)を一気に圧縮したり、爆発的に解放したり出来る。

 これにより、上記で述べた妖気(オーラ)制御の時間的問題点をツキハとコハクは克服していた。

 

 通常気を練り込む時間が百とすれば、その半分で出来るくらいには短縮出来るし、応用次第では一瞬で気を練り込む事も出来た。

 

 例に上げれば、打振での振動波操作で相手の内部を破壊する、これが『気動操作』を応用し、魔闘気を操作する技術(アーツ)

 

 これらを併用し、様々な術式と(アーツ)を使う〝番外魔王〟であり、ギィから認められた魔王ではない魔王のツキハとコハクなのだ。

 

 ここに、ただ覚醒しただけの〝劣化覚醒魔王〟と、真に覚醒した〝真なる魔王〟との差が明確に表れる。

 

 

 リムルがクレイマンを冷たく見据える。

 

(俺がクレイマンの立場なら、魔法の多重起動によって場を混乱させて、逃げるんだがな。それを選択しなったという時点で、お前にその力がないのはわかった。更に、俺が隔離戦域を構築した事にさえ気付いてないしな)

 

 これによりクレイマンは退路を完全に断たれ、リムルを倒すしか逃れる術がなくなった。

 そんな状況を知ってか知らずか、クレイマンの纏う雰囲気が変わった。

 

 「フ、フフフ、スライム如きが、大口を叩くものだ。確かに貴様は強い、それは認めてやろう。だがな、私の本気もこんなものではないのだよ、スライム!!」

 

 方針転換。

 

 クレイマンは、死に物狂いでリムルを殺しに来る。

 もう一つの方を、選択したのだ。

 

 逃げる事を諦め他の魔王達へ己の力を誇示する、これは賭けだが何か勝算があるのだろう。

 〝力こそ全て〟という魔王達であれば、強さで罪を帳消しに出来る事も不可能ではないだろうから。

 

妖気(オーラ)の制御に自信があるようだが、果たしてこれは受けられるかな? 喰らうがいい、この私の最高の奥義を!! 龍脈破壊砲(デモンブラスター)――ッ!!」

 

 クレイマンは長々と話を続けリムルの気を逸らし、必死で地脈を操りリムルの周囲へと張り巡らせ――

 一気にそれを解き放ったのだ。

 

 地脈を集積し自身の魔素(エネルギー)と織り交ぜ増幅させ、攪乱(かくらん)作用を持つ光線として放つ。

 

 それが龍脈破壊砲(デモンブラスター)の正体。

 

 この作用に捉われた者は魔素の配列を狂わされ内部から破壊され、物理的防御は意味を成さず、魔素を利用した『結界』すらも破壊する対魔攻撃。

 

 魔物への天敵とも呼べるその力は、流石魔王と頷ける力であった。

 

 

 だがしかし――

 

 リムルには通用しなかった。

 

「喰らい尽くせ、『暴食之王(ベルゼビュート)』!!」

 

 リムルの眼前で、空間が捻じれ(ひずみ)、中心が凄まじい速度で回転を始めていく。

 

 石床から、立ち上がる龍のような龍脈破壊砲(デモンブラスター)

 

 しかし今、その破壊の龍は断末魔の叫びを上げるかのように、リムルに届く前に空間の(ひずみ)に吸い込まれていく。

 

 それはまるで、光すらも抜け出せぬ暗黒重力渦(ブラックホール)に呑み込まれたかのようだった。

 

「無駄だよ、クレイマン。お前に俺は、倒せない」

 

 クレイマンの心を折る。

 

「な、な…………」

 

 クレイマンの心にじわりじわりと、恐怖が満ち始めて行った。

 

「…ば、馬鹿な……。そんな、馬鹿なぁーーーーーーっ!! 私の、私の、最高の、最高の奥義なんだぞ!?」

 

(奥義だろうとなんだろうと、俺に放出系は通用しないんだよ。もっと頭を使って、俺に直撃を与えられたら別なんだろうけどな)

 

「勝てないと理解したか? ならば問う。お前の知っている情報、お前の協力者の名を言え。洗いざらい喋れば、苦痛を与えずに殺してやるよ」

「フハハハハァ! 私は妖死族(デスマン)、ここで殺されようとも復活し、いずれ再び貴様を殺しに――オボァ!?」

 

 リムルの右拳がクレイマンの腹部に、叩き込まれる。

 

 そこからは無言で顔面に腹部と、連打、連打、連打、連打の暴風。

 殴ると同時に『思考加速』をクレイマンにも施し、百万倍に加速させるリムル。

 

 リムルの『智慧之王(ラファエル)』は、リムルだけではなく他者にも『思考加速』の影響を与えうるのだ。

 

 現実時間では、ほんの数秒間。

 

 クレイマンは体感時間で数十日もの間、殴られ続ける恐怖と苦痛を味わい。

 その恐怖と苦痛を魂に刻み付けられる。

 

『ねえ、あれ。あたしらと似たような事してるよね?』

『せやな。恐らくやけど、うちらが呪符忍術で精神的拷問をやる事に、酷似してますなぁ』

 

 ツキハとコハクは情報を得る為に、度々リムルと同じような手法を取っていた。

 この二人は、〝呪符忍術〟で他者に『思考加速』を与える事が出来たのだ。

 

 数秒間の極地獄――

 クレイマンの髪の毛は恐怖で抜け落ち、割れた仮面から覗く顔の表情は、屍人の如く変貌していた。

 

「クレイマン」

 

 リムルが静かに呼び掛ける。

 それに呼応するかのようにクレイマンの体がピクリと跳ね、恐怖で動きを硬直させた。

 

「最後にもう一度聞く。誰がお前に情報を流していた? 〝番外魔王〟じゃないぞ、別の誰かだ。そして、その者との関係は? それを話せば楽にしてやる」

 

 だがクレイマンは。

 

「――な、舐めるなよ。私が仲間を、ましてや依頼主を裏切る事などない。それが、それだけが、〝中庸道化連〟の絶対のルールなのだ!」

 

 悪党には悪党なりに曲げられぬルールがある。

 そして、クレイマンもそれを持ち合わせていた。

 

「そうか、それなら仕方ないな。あ、そうそう。一応教えておいてやるけど、お前、復活は出来ないぞ?」

 

 リムルの『暴食之王(ベルゼビュート)』で喰らうという事は、ヴェルドラでさえ脱出不可能だった『無限牢獄』に捕らえられるよりも悲惨な事になるから。

 

 それは、存在の消滅。

 

「な、な、何を? なんの話をしている?」

 

 リムルの言葉を聞いた途端、クレイマンに動揺が走る。

 

「お前のさ、さっきの言葉だよ。妖死族(デスマン)は死んでも復活するんだろ? だからお前は俺の意識をお前を殺す事に向けさせて、その時に星幽体(アストラル・ボディー)を離脱させて逃亡しようと企んでいる。違うか?」

 

 クレイマンの顔が一気に青褪める。

 

「――な、何を?」

 

 智慧之王(ラファエル)が『解析』したクレイマンの奥の手を、リムルが全て(さら)け出す。

 

「ええと? お前は、星幽体(アストラル・ボディー)で地脈に接続する事で、自我と記憶を保つ事が可能、なんだろ? だから、肉体が滅びても完全に死ぬわけじゃない、と。それで死んだフリをしようとしていたのか……(なるほどね。そういう事だったのか)」

 

 智慧之王(ラファエル)の説明をそのまま口にしたリムル。

 

 全てを見透かされたクレイマン。

 

「ま、待て……」

 

 その身体はワナワナと震えだし、両膝を石床に付いたまま力なく天井を、仰ぎ見る。

 

「さて、これ以上何も聞けそうにもないし、これよりクレイマンを処刑する。反対の者はいるかな? いるなら、相手するけど?」 

 

 ブツブツと何かを繰り返し呟くクレイマンを無視して、リムルは魔王達に問う。

 

「好きにしろ」

 

 ギィが代表して答える。

 他の魔王達も異論はないといった顔をしていた。

 

 そして、〝番外魔王〟の二人は……。

 

「やめろ! おい、やめろーー!!」

 

 必死に喚き、命乞いをするクレイマン。

 

「お前には散々迷惑をかけられて、うんざりしているんだ。楽に死ねると思うなよ?」

 

 そう言いリムルは、クレイマンの頭の上に右手を乗せた。

 

「魂が消滅するまでの僅かな時間を、せいぜい反省しながら過ごすといい」

「いやだ! やめ、やめてくれ!! おいぃ、やめろおぉぉーっ!!た、たす――」

「――まちなはれ」

 

 リムルがクレイマンを喰らおうとした時――

 それを止める声が、リムルの耳に飛び込んで来た。

 

 その声の主は。

 

 左目の瞳が縦に細長くなり仄かに金色に光らせた、コハクだった。

 

 

 リムルはコハクに振り向くと、静かな視線で見ながらコハクに問う。

 

「やるのか?」

「……」

 

 

 コハクは無言で、『隔離戦域結界』の前に立つ。

 

 

 

 




 六十一話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!




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