忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。63話です







63話 フレイの決意 カリオンの思い

 

 

 

 リムルがクレイマンを喰ったのを見届けると、ギィが立ち上がった。

 

 そして、リムルに対して厳かに告げる。

 

「見事だ。お前が今日から魔王を名乗る事を認めよう。異論のあるヤツはいるか?」

 

 その言葉に他の魔王達は無言で答え、ツキハは早よ終われと言う様に「もう帰っていいよね? ね? ね? ねっ!?」と横でギィを急かし立ててると。

 

 ズゴン! 「みぎゃっ!」

 

 ギィの鉄拳制裁が頭の上に落ち。

 

「ギィ……。てめえ、やる前に、一言、言え……よ……」

「もう少し我慢しろ。ほら、言ったぞ」

「あ、アホ……か……」

 

 ギィは事無げに返し、ツキハはそのまま目を回し、椅子にもたれ掛かる様にクタリと静かになった。

 

「しょうもな」

 

 大人しくなったツキハを見てコハクが、やれやれといったように言う。

 

 そんな中、隔離戦域を解除したリムルの前にラミリスが飛んで来た。

 

 キャイキャイとリムルに何か言ってるらしく、「流石リムルね! 弟子として認めてあげてもいいよ?」とかお調子めいた事を言って、「あ、間に合ってるから別で取ってね」と返され。

 

「なんでよ!? 素直に弟子になってくれてもいいじゃない」

 

 と、ぶーたれるラミリス。

 

 そこへ勝ち誇ったようにミリムが口を挟む。

 

「ふふん! リムルはワタシの友達だからな。諦めるのだ。お前とは仲良くしたくないそうだぞ?」

「えっ!? うそ、ちょ、ちょ! リムル嘘よね? ね?」

「わはははは! お前は仲間外れだな、ラミリス!」

「なんだとー!? てい!」

 

 ミリムの超発を受け、ラミリスがミリムの顔面に向けて飛び蹴りを放った。

 それを(かわ)しながらミリムは笑う。

 

 すると、ツキハがむくりと起き上がり――

 

「そっかー。魔人、じゃなく、魔王リムルと友達なのかー。うん、めでたいめでたい。と、言う事で。あたしの友達の座も魔王リムルに譲るから、良いよねミリム? にゃふ」

「なっ!? 何を言っておるのだツキハ? 友達を譲るとかそんなのはないのだぞ?」

「やーいやーい。ツキハに友達の座捨てられてるじゃん。ツキハはね、アタシの友達だもんね!」

「酷いのだツキハ! 友達になったらずっと友達なのだ! 捨てたら駄目なのだぞ!?」

「これでミリムも仲間外れね! ツキハはアタシとマブダチな――」

「え? 違うし」 

「え?………………なんでよ!?」

「しらん。ククククッ」

「あんたねー! てい!」

「ラミリス、ワタシも加勢するのだ!」

 

 ゆらーっとツキハの前に来たミリムは、ラミリスの飛び蹴りをひょいひょいと(かわ)すツキハにパンチを見舞っていく。

 

 ラミリスを避けながら繰り出されるミリムのパンチの応酬を手の平で捌きながら、たまにギィに向けてパンチの衝撃波だけを逸らし、軽い衝撃波がギィに届く。それにギィが「テメエ、何しやがる!」と怒り、ミリムが「ギィ、ツキハが悪いのだ。ワタシは悪くないのだぞ?」そう言いながらもパンチの連打を止めない。

 

「ツキハ、騒ぐなら余所でやれ!」

 

 明らかに先程の意趣返しと見抜いたギィはツキハに文句を言うが、ツキハは「あーごめん。今動くと、この会場全体に被害が出るかもよ?」とニヤニヤしながら言い放ち、ラミリスの飛び蹴りとミリムのパンチを(かわ)していく。

 

 

 ミリムがラミリスを挑発し、ラミリスがそれに乗り、ツキハがその二人を揶揄(からか)う。

 リムルは、そんな様を見ながら、あの三人思った以上に仲がいいなと思い、一人我関せずとしているコハクにも、アイツもその中に入るんだろうなと感じ、(三人じゃないな、四人か)と小さく呟いていた。

 

 そして、ヴェルドラというと、いつの間にか魔王ダグリュールと親しげに話していた。

 妖気(オーラ)を抑える訓練中だと、ダグリュールに自慢していたのだ。

 

 ヴェルドラはリムルを指差し、「見たかダグリュールよ? あれが、いい見本である」と、得意げに語る。

 

「確かにな。一瞬だが、爆発的な魔素量(エネルギー)を感じた。ああも見事に隠せるものなのだな。あの二人に匹敵する隠し方が出来るとは、見事だ」 

「クワッハハハハ! そうだろうそうだろう。ツキハとコハクもそれに関しては、我も舌を巻くほどだからな。それに匹敵するのだ、凄かろう? ワッハハハハ」

 

 ダグリュールはヴェルドラの言葉に頷き、ヴェルドラは返って来た言葉を聞き、更に自慢気に高笑いをする。

 

 リムルが魔王として認められた事にディーノは、眠そうに「ま、いいんじゃないの?」、そうアッサリと言った。

 

 そこにレオンが我関せずと言ったように、「フッ、私は誰が魔王になろうが興味は無い。好きにすればいい」と、どこか冷めたように言う。

 

 カリオンとフレイは異論はないという様に、もう別の話をお互いに始めていた。

 

 

 残る後一人は……。

 

 

 沈黙を守っていた魔王ヴァレンタインが、重々しく一歩前に進み出た。

 

「ふむ。余としては下賎(げせん)なスライムが魔王などと認めたくはないが――」

 

 (きらび)びやかな帝王の風格のあるヴァレンタインは、そう言ってリムルを見た。

 

(反対、か。まあ、多数決なら俺が魔王になるのは確定だから、気にしないでもいいか)

 

 リムルは場の雰囲気を見て、そう感じ取り、とりあえずそれは聞き流そうとした時――

 

「クワーーーーッハッハッハッ。下郎、我が友を侮辱するか? おいミルスよ。従者の(しつけ)がなっておらんぞ。我が教育をしてやろうか?」

 

 ヴェルドラが馴れ馴れしく魔王ヴァレンタインのメイドに話し掛けた。

 それにリムルは。

 

(ちょ、おい! 何してんだ、オッサン!?)

 

 心の叫びが炸裂したと同時に――

 

「うおぉいっ!? ヴェルドラ、言ってんのよ! アホか、あんたは!?」

 

 ツキハの焦った叫びが会場内に響き渡る。

 コハクは、顔に手を当て「アホ二人が、なにしてますのや……」と、呆れたように言い。尻尾で椅子をパシンパシンと叩いていた。

 

「なんの話でしょう? 私は魔王ヴァレンタイン様の忠実なる侍女ですが?」

 

 涼しい声に氷のような表情で、ミルスは答えた。

 

 そこにトドメの一声がミリムによって撃ち込まれ、アホの子ツキハが追加の()をぶち込んだ。 

 

「おい、駄目だぞ! バレンタインは正体を隠しておるのだ。ヴェルドラよ、ツキハの言う通り、それを言っては駄目なのだ!――」

「ミリム! なに盛大にバラしてんのよ! せっかくルミ、じゃなくって〝ミルス〟が正体を隠しているのに、何寝てる子を起こそうとしてるのよ!? ぁ……あっ!――」

「あっ!」

 

 ついうっかりが、うっかりを呼ぶこの現象。

 

 ツキハは言った後で気付き、ミリムはツキハの一声で気付くが、後の祭り。

 ミルスが視線だけで人を殺せそうな目で、ミリムとツキハを睨んだ。

 ツキハはプイッとそっぽを向き、ミリムは気まずそうに口笛を吹いて誤魔化していた。

 

(ミリム、それ音出てないぞ……)

 

 リムルがぽそりと呟く。

 

 

 忌々しそうに周囲を見回すミルス。

 全員を皆殺しにしてでも、証拠隠滅を図ろうとする雰囲気を撒き散らしながら、ミルスは何事かを思案し……。重く短い溜息を一つ吐いて。

 

「チッ、忌々しい邪竜と邪猫め。どこまでも(わらわ)の邪魔をする……。それに貴様、(わらわ)の名まで忘れたか。本当に、人を苛々(いらいら)させるのが上手いものよ」

 

 雰囲気をガラリと変え、ミルス、いや、魔王バレンタインが言った。

 ヴェルドラは結構いい加減なのか、名前を間違えて覚えていたようであった。

 そして、ツキハ、コハク、ミリムは正体を知っていたのである。

 

「もう良い。(わらわ)の事は、バレンタインと呼ぶが良い」

 

 不機嫌そうに告げるバレンタイン。

 

 その直後。

 

 バレンタインが膨大な魔力を解放すると同時に、その外観が一瞬にして変貌した。 

 服装もメイド服から豪華な漆黒のゴシックドレスへと様変わりする。

 

 魔法換装(ドレスチェンジ)――魔法による早着替えであった。

 この魔法はミリムも得意としていた。

 

 そして、出現したのは、傾国の美少女。

 魔王ヴァレンタインとは次元の違う、美と強さを兼ね備えた魔王がたった今、顕現(けんげん)したのである。

 

「ロイよ、貴様は先に戻っておれ」

 

 正体を現したバレンタインは、王者の風格で現魔王ヴァレンタインにへ命じた。

 

「しかし、バレンタイン様――」

「これだけの者を前に正体をバラされてしまっては、最早隠しておく意味などない」

 

 そう断言し、ヴェルドラとツキハを睨むバレンタイン。

 ヴェルドラは居心地が悪そうに「我、悪くないし、知らなかったし。ツキハが――」と、バレンタインから視線を逸らし言い訳とも言えぬことを呟き。

 

「はあ!? あんたが最初にバラしたんでしょうがー!?」とツキハがヴェルドラに噛みつくも、やはり同じようにバレンタインから視線を逸らす。

 

 そして、それにトドメを刺した張本人ミリムは、こっちはもう完全に他人事である。

 ミリムの中では、この話はもう終わった事になっているのだろう。

 ある意味、ヴェルドラ、ツキハより立ち回りが上手いのかも知れない、が――

 しかし、ミリムの場合力ずくともいう事がちらほら……。それでも、流石は最古の魔王ミリムといえよう。

 

 バレンタインは怒りつつも、これ以上文句を言うつもりはなく。気持ちを切り替える様に、今や隷従の礼を取るロイに対して厳かに。

 

「ロイよ、少し気になる事があるのじゃ。クレイマンの奴が、貴様を見て一瞬だが視線を止めたぞ? この前我が領地に侵入したゴミ虫と関係があるやも知れぬ故、戻って警備を厳重にするように伝えるのじゃ」

 

 と、告げた。

 

(クレイマンのヤツ、あちこちに喧嘩を売っていたみたいだな。これでは、魔王間の信頼もなくなるって訳だな。所在不明のバレンタインの領土を探っていたのだろうけど、情報マニアも度が過ぎるとアレだな。って、〝番外魔王〟の二人は、マジもんのプロということかぁ。もう、厄介を通り越して、めちゃくちゃ危険すぎるはあの二人。何とかアイツらとも和解がしたいよなぁ……)

 

 リムルはバレンタインの言葉を聞き、そんな事を思う。

 

「――承知」

 

 ロイはそう言うなり、一人で先にこの場から帰って行った。

 バレンタインの命令に逆らいもせずに。

 

 そしてそれは、ロイが魔王の座に一片の未練など無く、本当の影武者だった事を意味する。

 

 こうして、バレンタインは再び魔王の座に返り咲いたのだ。

 

 

 

 さて、ここで仕切り直しとなり、リムルが『胃袋』から円卓を取り出してセットした。

 

 セットされた円卓に魔王達と〝番外魔王〟の二人が座り、その席上にギィのメイド二人が紅茶を用意して回る。

 

 それを横目に、レオンがふと呟いた。

 

「――ああ、思い出した。カザリームという名に聞き覚えがあったが、俺が殺した魔王だな」

 

(なっ、に!? ぷっ、くっ)

 

 それを聞いたリムルが、思わず紅茶を吹き出しそうになる。

 

「知っているのか、レオン?」

 

 ミリムが小首を傾げ、不思議そうに言った。

 

(え? 何で君が知らないのかな、ミリムさん?)

 

 リムルが心の中で突っ込みを入れ、他の魔王達を見てみると。

 他の魔王の反応も似たり寄ったり。

 誰だ、それ? という感じだった。

 

 そして、〝番外魔王〟の二人はというと。

 ツキハはミザリーにお茶菓子が欲しいんだけどとねだり、コハクは静かに紅茶を飲んでいた。

 

 にこやかに紅茶を飲んでるラミリスなんかは、完全に忘却の彼方に記憶が吹き飛んでいるようだった。

 

(うーん。で、カザリームって何の話なんだ?)

 

《……解。クレイマンが助けを呼んだ名前に『カザリーム』という名前が在りました》

『あ、そうそう! 思いだした。うんうん、そんな名前を叫んでいたね。そう、ちゃんと覚えているさ』

《……》

智慧之王さん(ラファエル)さん。ミリムやラミリスと同類を見るような目で見るのは止めてもらいたい)

 

 それでリムルは、とりあえずそれは置いといてという感じで。

 

「それでそのカザリームだが、クレイマンとどんな関係なんだ?」

 

 と、聞いてみた。

 

「カザリームは、〝呪術王(カースロード)〟の事だよ。ミリムよ、お前とカザリームが俺を魔王に推薦してくれただろう?」

「ああ、アイツの事か。〝呪術王(カースロード)〟の事なら覚えているのだ。そうか、レオンが殺した魔王がアイツだったな」

 

 本名ではなく、二つ名で覚えていたミリムであった。

 

 それからカリオンは、自分が知り得る限りのカザリームの事を話していく。

 カザリームは、耳長族(エルフ)から自力で進化した特殊変異個体(ユニークモンスター)で、妖死族(デスマン)だという事。

 個人的に親しかったと言い、色々聞いてはいたとも話をする。

 クレイマンはカザリームの地盤を引き継いでいて、その事からも裏で繋がっていたんだろうとカリオンは話す。

 

(ん? まてよ……聞き逃しそうになったけど、カザリームも妖死族(デスマン)なら――)

 

 リムルがある事に気付き。

 

「もしかして、カザリームは生き残っていたのか? レオンに殺されたと見せかけて、どこかに隠れ潜んでいたとか?」

「ああ、そいつはあり得るかもな。カザリームの野郎はクレイマン以上に油断ならない、頭の切れる〝男だった〟からな」

「プフッ」

 

 カリオンがリムルの考えに同意し、何故だかツキハが紅茶を吹き出したのをリムルが何だ? と言う様に見る。

 

(カリオンもそう思うか。って、ツキハのヤツなに紅茶を吹き出したんだ? 変なヤツだな)

 

 そこへ。

 

「私が逃がしたように言われるのは心外だな」とレオンが口を挟んで来た。

 

 レオンは、カザリームに魔王になれと偉そうに勧誘されて、断るのも面倒だったので、カザリームを倒してその地を奪ったまでの事だと言い。

 生きていようが死んでいようが、私には関係ないと、さも当然のように言い切った。

 

「おいおい、レオンよ。そんな態度だから、クレイマンに恨まれていたんだろうが」

「フッ、興味ないな」

 

 (いさ)めるようなカリオンの言葉に、レオンはすげなく答える。

 

(なるほどねぇ。クレイマンのヤツ、全方位に喧嘩を売っていたのか。本当に賢かったのか? ちょっと疑問に思えてくるな。だが、これで何となくカザリームやクレイマンの目論見がわかった気がする。レオンが魔王になったのは二百年前くらいって話だから、カリオンやクレイマンを魔王にした上に、更に仲間を増やそうとしたのだろうな。今回クレイマンが企んだ豚頭帝(オークロード)魔王化計画も、それの焼き直しという感じか……。この魔王達の宴(ワルプルギス)で発言力を増す為に、協力者を増やそうとしたのだろう。姑息だけど、いい手ではある、か)

 

 大方の考えが纏まったリムルは。

 

「クレイマンの仲間には、〝中庸道化連〟という者がいた。そいつ等は人間にも協力者がいると(ほの)めかしていたから、ひょっとすると復活したカザリームが人間に憑依していた可能性があるな」

 

 そう自分の考えを述べたリムル。

 

 肉体が消滅したカザリームは、先ずは精神体(スピリチュアル・ボディー)からの復活となる。

 だとすれば、他の生命体に憑依したと考えるのが自然だった。

 それに、魔王達の住む領域では復活はすぐバレるだろうと。

 今まで気付かれなかったのは、魔の領域にはいないと、リムルは考えたのだ。

 

「その考えは正しいかもな。レオンの攻撃は精神すら破壊する。カザリームが生き延びたのを、褒めてやってもいいくらいだぜ? それによ、オレ達悪魔族(デーモン)でさえ、魂からの復活には数百年単位の時間が掛かる。妖死族(デスマン)なら尚更、自力で復活出来たとも思えないくらいだぜ。あ、言っとくが。コイツ等二人だけは、例外も例外だ。普通の殺し方じゃ、直ぐに復活して来やがる。忌々しいったらないぜ、ほんと」

 

 意外にもギィがリムルの考えに賛同し、最後にツキハとコハクを見て、本当に忌々しそうに言った言葉に、ダグリュールやバレンタインも同じく忌々しそうな表情で頷いていた。

 

(そうか、精神生命体の悪魔族(デーモン)と違って、肉体に依存するから星幽体(アストラル・ボディー)からの復活に時間が掛かるのか……。生き延びた事が奇跡なんだろうな。でも、アイツらは何で直ぐに復活出来るんだ?)

《解。精神生命体である〝番外魔王〟の二人は、依り代となる肉体を、魔素から作り出す事が出来ると推測します。『解析』の結果、あの身体は魔素を基本に構成されていました》

『なるほど。じゃあ、確実に殺す為の手段はあるんだろうか……?』

《否。現時点で、確実に〝番外魔王〟を殺す手段は存在しません。恐らく復活に掛かる時間を伸ばす事は可能かと推測します》

(マジかぁ。何か〝竜種〟みたいに不変なる者とか、か? いや、それはないな。不滅の存在はこの世界に存在する〝竜種〟のみだとヴェルドラが言ってたからな。何か〝秘密〟があるんだろうけど、今はいいか。殺し合いがしたい訳ではないし)

 

 そこで、一旦思考を切り替えるリムル。

 

「ま、なんにせよ、カザリームは復活していると考えて警戒するよ。クレイマンを殺した事で、俺は恨まれていそうだしな」

「わはははは! リムルよ、お前の方が強くなっているから、心配する必要はないのだぞ?」

「馬鹿野郎、そういう油断が敗北に繋がるんだよ!」

 

 リムルはそう言って、ミリムの言葉を流す。

 しかし、リムルの言葉には自分への戒めも込めていた。

 

 

 そんな雑談を終えて、再び会議が再開する。

 凄まじく嫌な顔をして座る、ツキハとコハクを置き去りにして。

 

 二人が苛々(いらいら)気味に尻尾で、パシンパシンと椅子を叩く音が会場内に響いていた。

 

 司会役のクレイマンが退場したので、ギィがこの場を仕切る事となる。 

 

「今回の議題はカリオンの裏切りと、そこのリムルの台頭(たいとう)についてだったが、その問題は片付いた。カリオンは裏切ってなかったし、リムルは魔王としての力を示したからな。オレとしちゃあ、これで終わりにしてもいいんだが、せっかくの機会だ、何か言いたい事があるヤツはいるかい?」

 

 その言葉にすかさずツキハが手を上げ。

 

「かえ――」

 

 バゴンッ 「ふぎゃっ!」

 

 ギィが軽く手を振ると衝撃波だけがツキハの顔面にヒットし、ツキハは椅子の上に崩れ落ちた。

 

「アホの子やな」

 

 コハクがトドメの言葉をツキハに投げつける。

 

 ギィは何事も無かったように再度皆に問うた。

 それを待っていたかのようにフレイが、口を開いた。

 

「いいかしら? 今は宴の最中で丁度いいから、私から提案というよりお願いがあるのだけれど?」

「いいぜ、言ってみろよ」

 

 ギィが応じて、フレイは頷き続きを話し出す。

 

「私は今日より、ミリムに仕える事にしたわ。という訳で、魔王の地位は返上させてもらうわね」

 

 フレイからいきなりの爆弾発言が飛び出した。

 

「おいおい、いきなりだな」

「待つのだフレイ! ワタシはそんな話、初耳だぞ!?」

「ええ、言ってなかったもの。でもね、前から考えていたのよ?」

 

 そう言いフレイは、目を細めて遠くを見るような仕草を取った。

 

 

 あの時を思いだすフレイ。

 

 それはミリムとの会話、フレイがミリムを信じると決めたきっかけとなる会話と、クレイマンの居城でコハクに会った時の事を。

 

『なあフレイ、ワタシと友達になってくれないか?』

『――どうしてそんな事を?』

『リムルがな、友達になってくれたんだ! ツキハとコハクも千年以上前から友達なのだ! 友達はいいものだぞ。困ったことがあったならな、お互いに助け合うんだ!』

『あら、そうなの? ねえ、ミリム……貴女が私を助けてくるなら、友達になっていいわよ?』

『本当か!? 勿論約束(・・)するのだ!』

『あら、嬉しいわ。でもね、私は用心深いから、貴女が約束(・・)を守ってくれたなら信用するわね』

『わかったのだ。! これでワタシ達も友達なのだ!』

 

 フレイはクレイマンを信用しなかった。

 だからミリムを信じ、自身の保身すらも天秤にかけてクレイマンの提案を吞んだフリをしたのだ。

 

 しかし――

 

 もしミリムが約束を守らなかったら……。

 もしも本当に操られてしまったら……。

 

 そんな不安がフレイを襲ったが、クレイマンの居城でツキハとコハクに会った時。

 コハクが去り際にフレイに見せた、小さく漏れ出るような笑みに得も言われぬ感覚を抱きながらも、ミリムは操られていないと確信出来たあの時。ミリムが友達だと言った者の一人、コハクのみせた笑みでフレイは覚悟を決め、ミリムに賭けた。

 

 そしてフレイは、賭けに勝った。

 

 それが、理由。

 

 フレイがミリムを信じると決め、そして仕えようと決心した理由。 

 誰も信じずに生きてきた孤高の女王が、初めて他人を信じた瞬間であった。

 

 フレイは何かを思いだしたようにクスッと笑い、決意を秘めた言葉を綴っていく。

 

「まあ、理由は色々あるわね。でも一番の理由は、私は魔王としては弱すぎると思うのよ。さっきの戦いを見ていて確信したのだけれど、クレイマンと戦ってもよくて互角だわ。まして、覚醒したクレイマンには、どうあっても勝てなかったわね。それに、魔王でもないのに魔王に匹敵する力を持つ〝番外魔王〟などという、ふざけた魔人もいるしね……」

「だがフレイよ、お主の得意とするのは、大空での高速飛行戦であろうが? そこまで自分を卑下する事はないのではないか? それにアヤツらは、常識の範疇から大きく外れておる非常識極まりない厄介者故、比較には値せぬ存在だぞ?」

 

 ダグリュールがそう取り成すも、フレイの決意は固かった。

 

 フレイは、ダグリュールの言葉に「それでも……どうしようもない場合があると、私は知ったのよ――」そう返し、フレイはチラリとリムルを見る。

 

(そうか、フレイは自分の為だけに言っている訳でもないのか。うーん、確かにミリムは危なっかしいし、放ってもおけない。誰か監視役というか、補助する者が必要なのは確かだな。でも、フレイって弱くはないだろう? っていうか、クレイマンと違った意味で策士であり、腹の内を見せない不気味さがあるんだよなぁ……。まあ、女は怖いという典型のようなタイプだから、そうみえるのかな。これは、ミリムの国とも国交を考えなければいけなくなるな)

 

 リムルは、フレイを見ながらそんな事を考える。

 

 そして、フレイがミリムを真剣な眼差しで見ながら――

 

「ねえ、ミリムだっていつまでも我侭(わがまま)ばかり言ってはいられないでしょう? そろそろ自分の領土の運営も考えるべきなのではなくて?――」

 

 一度言葉を切り、一息つくと間髪を入れずに続けるフレイ。

 

「どうかしら? この提案を受けてくれないかしら?」

「だ、だが、ワタシは民を持たぬ主義だし……」

 

 うろたえるミリムは、(助けてくれなのだ)とツキハとコハクを見るも、二人は(受けてしまえ)と目が訴えていて、(何でだ!?)と更にうろたえるミリム。

 

 そこへ、カリオンが会話に割り込んで来た。

 

「俺もよ、ミリムとタイマン張って負けた身だ。ここは潔く、軍門に下ろうと思う」と、そんな事を言い出し。

 

 建前上は、魔王同士は同格と言い、同じ魔王に負けたのだから、その地位は返上すべきだと言った。

 

「てな訳で、俺は今日からミリムの配下になる。宜しくな、大将!」

 

 相手の意思を確認する気も無いカリオン。

 

「ちょっと待てカリオン! タイマンはクレイマンが悪いのだぞ! ワタシは操られておったのだ。知らんぞ、そんな事!」

 

 流石にその言い訳は通るはずも無く。

 

「てめえ、知らばっくれるなよ。さっき自分で、『ワタシを支配するのは無理なのだ!』って、堂々と言ってただろうがよ!」

 

 異様に上手い声真似で、ミリムの台詞(セリフ)を再現するカリオン。

 

「む、む!? そ、それはだな……」

 

 言い訳が出来なくなりツキハに顏を向けると、ツキハが口だけを動かし、ミリムに何かを伝えて来た。

 

 あ・き・ら・め・ろ、と。

 

「ぬ!? うぬぬ……」

 

 (ツキハは、後で一発殴るのだ!)そう心に誓うミリムであった、が。

 

 そこへフレイが畳み掛けて来る。

 

「まあ、そこの筋肉馬鹿はどうでもいいから、私はいいわよね、ミリム?」

「そ、そんな事言って、ワタシを騙そうとしていないか? 部下や配下になると、気軽に話してくれなくなるだろ? 悪巧みもしてくれなくなるんだろ?」

 

 そんなミリムの言葉に、フレイはゆっくりと首を横に振った。

 

「いいえ、何時でも一緒にいられるし、もっと楽しい事が出来るかもよ? ツキハとコハクのところだって、眷属とよく悪巧みしてるじゃない?」

 

 と言いながらフレイは二人に視線を移し、ミリムも二人を見ると。

 ツキハとコハクは、にこやかに、うんうんと頷いていた。

 

「それに、きちんと領地を運営すると、今まで以上に二人が遊びに来てくれるわよ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ツキハとコハクは〝それは、ないない〟と、真顔で手を横に振り――

 いきなりミリムがグリッと首を動かし二人を見ると、にこやかに〝うんうん〟と頷くツキハとコハクが、いた。

 

「ね、二人も頷いてるでしょ? 本当に、楽しい事が多くなるわよ?」

 

 そう言いフレイは、ミリムを洗脳――いや、(そそのか)し始めた。

 

(あぁ……。ミリムのヤツ、もうフレイの術中に嵌ってるじゃないか。これだから油断出来ないんだよなぁ)

 

 リムルは、狼狽(ろうばい)するミリムを見てしみじみ思う。

 

 そして、カリオンの直球がミリムに突き刺さる。

 

「大体だな、お前が俺の国を吹き飛ばしたのが原因だろうが! リムルさんが助けてくれるって話だが、お前にも俺達を養う義務があるんだよ!」

 

 理詰めで来たカリオン、ミリムは難しい言葉に弱いのだ。

 

 カリオンの言葉にミリムは目を回す寸前である。

 

 そして、段々と、考えるのが面倒になり。

 

 …………

 ……

 

 ついに爆発した。

 

「ええーーーーいっ! わかったのだ。もう勝手に好きにすればいい!」

 

 火山の噴火のように頭から煙を吹き出して、考えるのを放棄したミリム。

 賢いようで、考えるのは苦手なミリムであったのだ。

 

「カリオンよ、本当にそれでいいのかよ?」

「ああ、俺様も色々考えたんだ。獣王国の王を辞めようって話じゃなくてな、ミリムを上に置く新体制を築けたらって思ってんだよ」

 

 ギィの問いに、カリオンがはっきりと答える。

 

「オレはお前を気に入っていたんだぜ。後数百年もすれば、お前も覚醒するだろうと期待してたんだがな」

 

 フンッと鼻を鳴らし、残念そうに呟くギィ。 

 

 だがその直後、ギィはニヤリと笑い高らかに宣言した。

 

「いいだろう! たった今より、フレイとカリオンは魔王ではない。貴様達の望みのままに、ミリムに仕えるがいいさ」

 

 ギィの宣言により、フレイとカリオンは正式に魔王の地位を退いたのだった。

 

 異論のある者は、誰もいなかった。

 勿論、リムルやツキハとコハクにも異論はなかった。

 

 

 こうして、リムルは魔王として正式に承認された。

 

 此度(こたび)の会議では、魔王一名が滅び、二名の魔王が退位し魔王ミリムの直属の配下となった。

 

 十大魔王は、現時点で八名となる。

 

 

 これで全てが終わったかに見えたが、もう一つの――

 

 クレイマンが残した、最後の置き土産。

 

 

 

 リムルに取って――魔国連邦(テンペスト)の運命を決める〝最後の戦い〟が、迫って来ていた。

 

 

 ヴェルドラと、ツキハの戦いが……。

 

 




 63話を読んで頂きありがとうございます!

 いつも誤字脱字報告をしてくれる皆様、感謝です!


 次回の更新もよろしくお願いします!





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