忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。68話です






68話 V duel T (後編 決着

 

 

 ヴェルドラが激突して出来た巨大なクレーターの中心の穴周辺からは、白い煙が立ち昇り焦げた臭いが充満していた。

 

 

 その穴の淵に手を掛け、ひょいとジャンプして地面に降り立つ影が一つ。

 

 ヴェルドラである。

 

「うぬー、流石に肝が冷えたぞこれには。相変わらず容赦がないなツキハは。クワッハハハハ」

 

 体に付いた土埃をパンパンと手で払いながら、何事も無かったように言うヴェルドラ。

 

 そこへ。

 

『なぁーにが肝が冷えただよ。ピンピンしてるじゃん。ほんと〝竜種〟って理不尽だわ~』

『いやいや、結構効いたぞこれは』

『どこがよ!』

 

 数百メートル先の盛り上がった地面の穴底からツキハが這い出て来て、『思念伝達』で言い放つ。

 

 這い出て来たツキハの身体は、首が後ろにねじ曲がり、右腕と左腕はどかこかに千切れ飛んでいて、左足は完全に骨が砕けた状態だった。

 

 無事な右足でぴょんぴょん飛びながら、壊れた体を再生していく。

 

 完全に体を修復したツキハはヴェルドラの手前数メートルの距離で足を止める。

 

「あれを喰らってこれかぁ。ヴェルドラさぁ、防御力が更に上がってない?」

「ふむ。我も究極能力(アルティメットスキル)を手に入れたし、色々と進化してるのだぞ?」

「ほおぉ、お茶目が進化したの?」

「ん!? 我がお茶目だとー!? ってかツキハよ。もっともお茶目でやらかし者であるお前に、言われたくはないのだが?」

「ええー? あたしよりヴェルドラの方がお茶目さんじゃん!」

「いや、それはないぞ! というより、これは時間稼ぎのつもりか、ツキハ?」

「え? くくっ、バレた?」

「五千年も一緒に〝遊んで(暴れて)〟おれば、それくらいはわかるわ。そうであろう? クワハハハハ」

「だねぇ~、こんなのには乗って来ないかぁ~。これでニ、三時間は時間稼ごうと思ったのになぁ。あはははは」

 

 ツキハが言葉遊びを仕掛けるも、それを見抜くヴェルドラ。

 そして、互いに大笑いを始めていた。

 

 やがて、ふと笑いを止める二人。

 

 そこには今まで笑い合っていた二人の姿はなかった。

 

 いつになく真剣な顔付でヴェルドラが、ツキハに話し掛けて来た。

 

「なあ、ツキハよ。一つ聞いてもよいか?」

「ん? なになに? とうとう愛の告白でもするの?」

「違うわ! 我にそのような感情はないと、いつも言っておるだろうが。それよりも、だ」

 

 と、返したヴェルドラが一呼吸置いて、話を続ける。

 

「ツキハ。この決闘でお前は、どこまで強くなったかを、我に見せてくれるのか?」

「今それ聞く? まあ、いいけど。あたしは――」

 

 ツキハは答えながら、最後は無言で右人差し指でヴェルドラを指す。

 

 それを見たヴェルドラは……。

 

「クックックックッ、フッハッハッハッ、クワアッハハハハハハハ」

 

 下を向きながら小さく笑い、やがてそれは豪快な笑いへと変わり、盛大な笑い声が辺りに響き渡る。

 

「本当にお前は面白いな。今回も、我との真剣なる戦いを望むか? ならば、見事三日間戦い切り、四日目の朝を迎えて見せるがよいぞ!」

「もとよりそのつもり。この世界最強の〝竜種〟が一人、ヴェルドラ・テンペスト。ツキハ・イザヨイ、参る!」

「参れ、ツキハ!」

 

 ブンッ。ツキハの身体が一瞬ブレた瞬間、その場から砂塵だけ残し消えた。

 

「うらぁー!」

 

 ズガガガガガッ!

 

 一瞬でヴェルドラの間合いに入り、パンチの連打を見舞う。

 

 しかし、ヴェルドラも超反応でそれを迎え撃つ。

 

 お互いの攻撃が残像だけを残し、凄まじい勢いでパンチとキックが乱れ飛ぶ。

 

 その攻防の中、ヴェルドラの左ストレートをいなした瞬間に。

 

「シッ!」

 

 ツキハはヴェルドラの左手首を掴み、右手の平でヴェルドラの左肘関節を押しながら一瞬で、押し折った。

 

 ベギィッ! 太い木が割れるような音が鳴り、ヴェルドラの左腕が外肘からくの字に折れ曲がる。

 更に折れた左腕を巻き込みながら一本背負いのように投げて、地面に叩き付けた。

 

 叩き付けられた地面が爆発したように陥没する。

 

 ツキハが追い打ちで踏み付けようとすると――

 

「甘いわ!」

 

 倒れたままヴェルドラがツキハの右足を掴み、その場で体を高速横回転させてツキハの右脚を根元からねじ切った。

 根元からは、パアッと疑似血液が鮮血のように吹き出る。

 

 すかさずヴェルドラは体を跳ね起こし、ツキハに右後ろ廻し蹴りを叩き込む。

 

 バガンッ!

 

 ツキハは顔面を両腕で防御するが、ヴェルドラの蹴り足はその両腕を砕き、蹴りの衝撃でツキハの身体がグラリと揺らぐ。

 

 ズムッ! そこへヴェルドラの左正拳突きがツキハの腹部に、打ち込まれた。

 

 ツキハは身体をくの字に折り曲げ吹き飛びながら樹々を薙ぎ倒し、地面にバウンドして倒れ伏す。

 

 二人の凄まじい攻防に、臨時会議室のベニマル達は一言も発せずに、その戦いに見入っていた。

 

 

「おいおい、そこまでやるか?」

 

 お互いを壊す程の戦いに、思わず声を出すリムル。

 

 それにコハクが。

 

「何()うてますのや。これは、〝決闘(Duel)〟なんやで? 手合わせとか違いますえ」

 

 冷ややかに答える。

 

「いや、それはわかってるが。ツキハはヴェルドラの事が好きなんだろ? 好きな相手にここまで戦えるものなのか?――」

「好きだからこそや。好きだからこそ、全力で戦うんやで。例えこの世界最強の〝竜種〟であろうと、好きになった相手なんやから、全力を出すんが当たり前や。それが魔物としての矜持であり、ツキハの愛情表現なんや……ほんま、妬けますなぁ、うちという者がおるのに……。はよ、観念して、うちの愛を受け入れたらええのに……」

 

 淡々と話すコハクの最後の言葉がどこか寂し気に聞こえ、その事が気になりリムルが静かにコハクに尋ねた。

 

「えーと、コハク。もしかして、お前ツキハの事が――」

「――愛してますえ」

 

 即答である。

 

「愛してる? えーと、好きとか、相棒としてではなく? えーと――」

「けったいなこと言いますなぁ、言葉通りやで? うちはツキハを愛してるんや、本来なら誰にも渡しますかいな! 相手がヴェルドラはんやから、目を瞑ってるんやで? じゃなかったら、ツキハにちょっかい出すスカタンは、みんなうちがぶっ殺してますさかいな。うふふ」

「え? あー、そうなんだ? 男には興味がないのかな?」

「はあ? おかしな事言いますなぁ、リムルはん。もちろん、男はんも好きどすえ。ただし、〝おなご(女の子)〟はツキハだけや。そこは、間違えたらあきまへんで?」

「あー、はい……(あれか、あれなのかー。いわゆる男は好きだけど、限定で女の子も好きだと。うーん、漫画とかアニメとかゲームとかにそんな娘が出て来てたけど、現実に出会うとはな。本当にいたんだな、そういう子)」

 

 いきなりのコハクの言葉にリムルは目が点になりながらも、見知った知識でそれを理解した。

 

「なあコハク。何でそこまでツキハの事が好きなんだ? もし差し支えなかったら、教えてくれないか――」

「なんや? 聞きたいんどすか? 聞きたいんどすな? ええで、教えてやりましょかー♪」

「え、え?」

 

 遠慮しがちに聞いたリムルは、コハクが拒否るどころか嬉々として話したがる素振りに、少し引いてしまうが、時すでに遅し。

 

 リムルはコハクの変なスイッチを押してしまったのだ。

 

 そこからは、自分が人間でいた六才の頃に野犬に絡まれてるところをツキハに助けてもらい、それからはツキハとべったりになり、好きになり、愛してしまったとうっとりとした表情で言葉を重ねていく。

 

 忍びであった頃の二人が如何に強く固い絆で結ばれていたか、どんな困難な御役目も(いくさ)も助け合い切り抜けて来たか等々を、熱く、熱く、身振り手振りで話していくコハク。

 

 かたや中継映像ではヴェルドラとツキハが激烈な戦いを繰り広げており、コハクの熱弁が走る中、臨時会議室は中々にシュールな光景になっていた。

 

 シュナやシオン、ハルナ以下数名のゴブリナ達はコハクの話を興味津々で聞いていた。そして、ベニマル以下男達はヴェルドラとツキハの戦いを見たいのに、映像を見ようとすると、コハクから無言の圧力(魔王覇気)が飛んできて、コハクの話を聞かざるを得なかった。

 

 だがしかし、やはりディアブロだけはそんな圧力を物ともせずに、涼しい顔でヴェルドラとツキハの戦いを見ていた。

 

「ディアブロ。ここからがええ話なんや、そんなん見ないで聞きなはれ」

「いえ、遠慮しておきますよコハク。そんなつまらない話には、全く興味はありませんから」

「ふふっ。その首ねじ切りますえ? うふふふふ」

「煩いですよ? 死にたいのですか? クフフッ」

 

 お互い冷淡な笑みを交わしながら一触触発状態になるかに見えたが、意外にもコハクがあっさりと「相変わらずどすな、ディアブロ。あんさんは聞かんでもよろし」と、退いたおかげで事無きを得て、いつ止めに入ろうかと構えていたリムルもホッと胸を撫で下ろす。

 

 そんなコハクを見ながらリムルは……

 

(それにしても、ディアブロのヤツ、相当アイツ等とやりあってたみたいだな。それにしてもコハクは……あぁ、これはあれだ、よくあるお約束だな。好きな相手とのなれそめや関係を、自分の願望を含めたもので埋め尽くすと。半分以上それだったりしてなぁ、ってか、今一瞬俺を睨んだか? アイツ、心を読めるのか?)

《告。そんな能力(スキル)は持たないかと。恐らく(マスター)様の微妙な表情の変化を読み取られたのではないかと推測します》

 

 何気にお約束みたいなものだよなぁと考えてたら、いきなり智慧之王(ラファエル)から告げられ、俺顔に出てたか? と内心焦るリムル。

 

 コハクの〝ツキハとうちの愛の軌跡〟とか言ういつの間にか付いた変なタイトルの話も、佳境を迎え終わりが近付いていた。

 

「と、まあ、こんなところや。ツキハに近付く男達は、みーんな、うちが始末して来たんや。あ、始末()うても、殺すわけじゃありまへんで。ただ、二度とツキハに近付く気がおきへんように、いわしたるだけやで? ふふふふ」

 

 妖艶な笑みを放ちながら、ここでコハクの話は終了した。 

 

 

 そして、ヴェルドラとツキハの戦いは一層苛烈さを増していた。

 

 魔国連邦(テンペスト)大広場の大地は、あちこちが抉れ、ジュラの大森林側の樹々は薙ぎ倒され、見るも無残な姿に地形を変えていた。

 

 しかし、ミリムの『結界』が無ければ、被害は魔国連邦(テンペスト)にまで及び、その被害は甚大なものになっていたであろう。

 

 互いに吹き飛ばされ、すぐさま接敵、激しい拳と蹴りの応酬。

 そんな攻防の中、ツキハが一度後方に飛び下がり。

 

 ヴェルドラ目掛けて突っ込んでいき、直前でスライディング状態になりながらヴェルドラの股下を潜り抜ける。

 潜り抜けた瞬間腹這いになり、両手をヴェルドラの両足首に掛けると――

 

 バシンッ!

 

 尻尾でヴェルドラの背中を勢いよく叩いた。

 重く乾いた音が響き、ヴェルドラが前のめりになったところを、両手でヴェルドラの両足首を払う。

 

 グワッとその場でヴェルドラの身体が回転して、逆立ち状態になる。

 

 両足を払ったと同時に立ち上がっていたツキハは、そのまま強烈な前蹴りを放った。

 

「ウオッ!」

 

 蹴られたヴェルドラは、逆立ち状態のまま一直線にその場から蹴り飛ばされる。

 

 そして、ツキハが身体を低く沈め全身に力を溜めると、ゴムで弾かれたように凄まじい憩いで飛び出していった。

 その速度はヴェルドラを追い越し、ヴェルドラの飛ばされた進行方向に降り立つと。

 

 体を左にひねりながら、右足で重く鋭い震脚を踏むと同時にヴェルドラに背を向けたまま体を(かが)め――

 迫って来たヴェルドラに対して突き上げる様に背中をぶつけた。

 

 ドズンッ!

 

 背中での体当たり打撃技。

 

 〝天牙影千流 柔術・打技 崩山靠(ほうざんこう)

 

 これも人間の頃大陸から来た無手の達人が使った技を、自分流に改良した技である。

 

 ズルズルとツキハの背中から地面に落ちていくヴェルドラ。

 

 追い打ちでヴェルドラの顔面に下段突きを入れようとするツキハだが、何かを察知しその場から勢いよく後方に飛び退(すさ)る。

 

「あっぶなー。あれ喰らって平気とかぁ、タフ過ぎじゃないの?」

 

 (なか)ば呆れたように言うツキハ。

 

 それにヴェルドラは、むくりと起き上がり首をコキコキいわせながら答える。

 

「いやいや、結構効いたぞ。打振と何か別なものを同時に我に打ち込んだな? それに、我がお前の追い打ち攻撃を待っていたのに、よく気付いたな。相変わらずの危険察知能力だな、ツキハ」

「へへー。さっきから尻尾の先の毛がチリチリするんだよね。だから、気付いたんだ。ヴェルドラがあたしの追い打ち攻撃を待っているとね。ヴェルドラ相手に油断なんかしたら、それこそ一瞬でやられるもの。それとね、その別なものは今回初お披露目だから、秘密だよ~」

「ククククッ、そうか、秘密か。しかし、己を知り相手を知るか……本当に変わらぬなあの頃から。我は本当に楽しいぞ、ツキハよ!」

「うん、あたしも凄く楽しいよ、ヴェルドラ!」

「さて、再開するか」

「だね」

 

 そう言うと、また二人は拳を交わせ、激しい戦いを始めていく。

 

 中継映像の戦いを見ながらリムルがポソリと呟いた。

 

「しかしあれだな。お前達の体術って柔術だよな?」

「せやで」

「古流柔術には徒手や短い武器での攻撃、それに投げ、関節技とかあるんだよな?」

「あらま、良く知ってますなぁリムルはん。概ねその通りやで。でもな、うちらの〝天牙影千流・柔術〟には投げて、関節を極め、折るもありながら、拳での突き技、蹴り技も多いんやで。なんせ戦場(いくさば)だけがうちら忍びの活躍の場じゃありまへんかったからな。要人暗殺、敵地潜入工作など様々や。その中で発展して来た剣術と体術が〝天牙影千流〟なんやで。そしてこれは、ツキハが免許皆伝持ちや。うちは、〝闇夜(やみよ)流・呪符忍術・小太刀術〟の免許皆伝持ちおす。あと〝天牙影千流・柔術〟だけは、うちも免許皆伝なんどすえ」

「ほおぉ。二系統の流派があるのか? ふむ、術関係がコハクの流派で、剣術と柔術がツキハの流派なのかぁ。でも、お前達の柔術に拳法の技があるよな? さっき使った技と、その前に使った技とか?」

 

 こういう話はリムルは嫌いではなかったので、気付くと色々とコハクに尋ねていた。

 

「あれか? あれはな大陸から来た無手の達人が使ってた技やで。それをツキハが自分流に取り入れて、使ってるんや。しかしリムルはん、あんさん色々と良く知ってますな、びっくりしますわ」

「え? ああ、俺が人間の頃はインターネットってあってな、誰でも簡単に色々なものが調べられるものがあったんだよ、そのお陰さ」

「へぇ、中々に便利な物があったんどすなぁ」

 

 コハクはリムルの話を聞きながら、自分がいた日ノ本と、リムルがいる日本の違いを比べ「面白い日ノ本おすな」、そう小さく呟いた。

 

「あ、そうそう。〝天牙影千流〟には、他流の技を入れても良かったのか? 普通は駄目な気もするんだけどな」

「入れてもかましまへんで。〝天牙影千流〟、読んで字のごとし。千の影なる技を持ち、千の天牙で敵を討つ、影は無形であり(なん)にでも変化する技と言われてたんや。型に囚われない柔軟な発想と、受け継がれし技の応用。ようするに、受け継がれし技を更に発展させ、敵の技も取り込めという事やな。〝技は与えられるものではない、生み出すもの〟。この言葉は〝天牙影千流〟開祖、ゲンサイ・イザヨイ(十六夜 元斎)の言葉なんや」

「ふむふむ。今ある技を元に更に強力な技を編み出し、敵の技も取り込めと言う事なのか? そして、免許皆伝と共に開祖の性を名乗るんだな?」

「せやでリムルはん。〝天牙影千流〟免許皆伝を得るには、奥義を一つ編み出さないといけませんのや。そして、ツキハは剣術の奥義を一つ編み出したんやで、すごいやろ? うふふふ」

「ほう、それは凄いな。ツキハは、剣の天才なんだな――」

「それは違いますえ、リムルはん。ツキハは、鍛錬に鍛錬を重ね血反吐を吐きながら、その奥義を編み出したんや……(たゆ)まぬ努力や。あの子は、(つよ)うなる為ならどんな艱難辛苦(かんなんしんく)すらも、ボヘッーとした顔で乗り切って来るんや……ほんま、恐ろしい子やでツキハは。忍びの頃、ツキハに斬られた天才剣士は、両の手を足しても足らんくらいや」

 

 シンとする臨時会議室、そこには中継映像から流れて来る戦いの音だけが響いていた。

 いつの間にか臨時会議室にいる皆が、コハクの話に聞き入っていたのだ。

 

 〝番外魔王〟の一人、ツキハ。

 このツキハの知らざれる過去が聞かれるとあれば、皆が耳を傾けるのは当然であった。

 

「それで、その編み出した奥義とは、どんな剣技なんだ?」

「低い姿勢からの、飛び込み抜刀斬りや。これを初見で防げるのは、ほぼいてへん。一撃目を運よく(かわ)しても、二撃目で必ず斬られる。これを完全に防ぎ切ったのは、剣豪と謳われたトモノリ・キタバタケ(北畠具教)只一人だけやったなぁ。でな、その奥義の名は――〝天牙影千流・抜刀術 紅蓮閃(ぐれんせん)〟。今は、魔物が使う剣術や()うて、刃魔(じんま)を付けて、〝天牙影千流・抜刀術 刃魔・紅蓮閃〟と()うてますえ」

トモノリ・キタバタケ(北畠具教)って言ったら、凄い剣豪じゃないか。そんな剣豪とも戦ってたのか?」 

「せやで。忍びやから、色々な武人とも戦ってますのやで? ふふっ」

「なるほどな。それで、何歳の時なんだその奥義を編み出したのは?」 

「んー、確か……十四才の時だったどすかねぇ、免許皆伝もろたのが」

「十四って、お前それを天才と言うんじゃないか?」

「まあ、天才()うなら、努力の天才やろな、ツキハは。ひたすら剣を振って(つよ)うなることだけ、考えてましたからなぁ」

 

 しみじみと語るコハクの言葉に、同じ剣の達人であるハクロウが感慨深く頷きながら静かに目を閉じ、在りし日の祖父の言葉を思い出していく。

 

 〝番外魔王〟魔人ツキハの剣は、一切のものを断ち斬る無情な剣だと、言ってたことを。

 

 そして、二日目の戦いも夜を迎え、夜空に光る魔力弾の放つ光がジュラの大森林を照らしていく。

 

《魔力、妖気(オーラ)、魔素粒子の圧縮が限界まで達しました。使用しますか Yes/No》

『とりあえずキープ』

《続いて混合制御術式構築完了。起動しますか Yes/No》

『うん、それは起動していいよ』

《最終術式、精神波動(サイコウェーヴ)増幅術式が完成しました。起動開始……成功しました》

『よし、出来た! これを待ってんだよー、くくっ。やっと、あらゆる生命体にダメージを与えられる手段が完成したよ』

 

 ツキハがバレない様に構築してた術式が完成した。

 それは、千年以上前から考えてたあらゆる生命体に攻撃を通す手段。

 

 この世界の生命体である、物理体(マテリアル・ボディー)精神体(スピリチュアル・ボディー)星幽体(アストラル・ボディー)に等しくダメージを与えられる攻撃手段がここに完成した。

 まだ雛型だが、魔法には属さない、全く新しい系統の試作でもある複合忍魔術式がここに完成したのだ。

 

 それは、霊子すら越え、果ては次元や時空すら越えて攻撃出来るものを、ツキハとコハクは目指しているのだった

 

 これを思いついたのは、ミリムの〝竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)〟に含まれる〝星粒子〟にヒントを見つけたからだ。

 

 初めは朧気ながらも、〝真なる魔王〟へと進化した事からそれは形が見えて来た。

 それはツキハとコハクにしか操れない特殊波動、精神を破壊波動へと変える技法と術式、精神波動(サイコ・ウェーヴ)を作り上げる事。

 

 これに圧縮した魔力と妖気(オーラ)、魔電粒子を混合し、精神波動(サイコ・ウェーヴ)へと合成、凝縮する術式である。

 

(さーて。丸二日は戦えるけども……三日目の朝からが未知の領域だわね。ヴェルドラの途方もない魔素量(エネルギー)に対抗する手段はまだないものねぇ……。でも、何とか四日目の夜明け前まで粘って――〝あれを放つ〟!)

 

 

 〝三日目の日の出〟を見ながら、秘策の一つを実行する準備を始めるツキハ。

 

 

 迫る魔力弾を躱し、ヴェルドラに空中近接戦を仕掛ける。

 ツキハとヴェルドラの放つパンチとキックは既に音速を突破し、パンパンと衝撃音を上げながら互いに打ち込んでいく。

 

 その攻撃の応酬の中、ヴェルドラの左ストレートがツキハを捉え顔面を貫くように打ち込まれた。

 ぐらりとツキハの身体が揺れ、そこへヴェルドラが右足を真上に上げ、そのまま右(かかと)をツキハの脳天に落とした。

 

 重く鈍い音が響き、ツキハは地面に叩き付けられる。

 

 ドーンッと激しい激突音が地面を揺らし、直径五十メートル程のすり鉢状のクレーターが出来て、その中心にツキハが倒れ伏していた。

 

 パラパラと吹き上がった土砂がツキハの上に落ちてくる。

 

 クレーターの縁へ降り立ったヴェルドラは、ツキハに近付かずその位置でツキハを見ていた。

 

「ククッ。そのくらいでは、意識すら失わぬだろう? ツキハよ」

 

 口端を上げ、ニヤリと言うヴェルドラ。

 

「ちぇっ。トドメ刺しに来たら、お返しでさっきみたいに足を取ったのにー。ふふっ」

 

 降り積もった土砂を払いながら、立ち上がるツキハ。

 

「さて、ここまではいつも通りなのだが――ここから先はまだ、持ち堪えた事がなかったな?」

 

 そう言いながら、ヴェルドラは右手の平を上にして、来いと言う様にピッピッと二回振る。

 

 クレーターからジャンプしてヴェルドラを飛び越し、反対側に降り立つツキハ。

 

「だよねぇ。いつも三日目で、ヴェルドラに負けていたんだよねぇ~」

 

 剣呑な言い方ながらも、ツキハの目がスーッと細く鋭利になっていった。

 

 その中継映像見ながらコハクが小さく呟く。

 

「うふっ、あれを出しますんやな。うちらが考えた、うちらだけの〝特殊攻撃〟――存分にかましなはれ」

 

 その言葉を聞き取ったリムルが「え?」とコハクの方に向いた瞬間。

 

 ツキハが動いた。

 

 ダンッと大地を蹴り、〝瞬歩〟でヴェルドラの間合いに一気に飛び込む。

 それを見越したヴェルドラは、左ジャブから右ストレートを放つ。

 

 ツキハはヴェルドラの左ジャブを躱し、右ストレートを左手でいなし掴み。ヴェルドラを自分の方に引き寄せながらヴェルドラの右脇腹に、雷鼓を打ち込んだ。

 

「ガハッ」

 

 肘出し体当たりで打振を打ち込まれ、ヴェルドラの身体が屈むように折れ曲がる。

 

 ヴェルドラの頭がツキハの眼前まで下がってくると、ツキハが右縦拳をヴェルドラの顔面に放った。

 それをヴェルドラは頭を右に傾け(かわ)すが、その瞬間バンッと弾けるような激音が大気を震わせる。

 

 身体を起こしたヴェルドラの身体がユラユラと揺れ動き、目がどこか焦点を結んでいなかった。

 

 そう、ヴェルドラは軽い脳震盪にも似た状態に陥っていたのだ。

 

 ツキハが放った技は――

 

 〝天牙影千流 柔術・打技 崩震掌〟

 

 ツキハの放った右縦拳は、(かわ)された瞬間に右腕を内にねじり、腕の部分でヴェルドラの左顔面に打振を打ち込んでいた。

 

 そして、同時に左掌底(しょうてい)にて特殊波動が右顔面に打ち込まれ、ヴェルドラの頭は右腕と左掌底の間で、凄まじい速度で揺れ動き、精神体(スピリチュアル・ボディー)を揺らされていたのだ。

 

 魂を揺らす。物理体、精神体、星幽体と貫き通る破壊波動ともいえる、〝精神波動(サイコ・ウェーヴ)〟が今ここに、放たれた。

 

(うし! 効いたな。でも、これくらいじゃ直ぐに回復してくるだろうし、まず一つ目の秘策。いやこれは奇策かな、くくっ。頃合いだからやろうかね)

 

 軽く目を回していたヴェルドラが頭を振りながら、意識をはっきりさせようとしてるのを見てツキハは、口端をニィッと上げ言う。

 

「それじゃ、ヴェルドラ。あたしは今から、逃げるからねぇー、うふっ。じゃーね、バイバイ~」

 

 ドンッという衝撃音を残し急上昇したツキハ、高度二千メートルで頭を先にした水平飛行に移り。

 

 空の彼方に消え去っていった。

 

「「「「「え?」」」」」

 

 ベニマル以下幹部達が呆気に取られた声を上げる。

 

「クックックッ。やはりルールの穴を突いてきましたか」

 

 ディアブロだけはどこか楽し気に笑っていた。

 

「ええ? 穴?」

《解。個体名:ヴェルドラと個体名:ツキハの決めた戦いのルールには、逃げるなという条件は出されてはいません。よってこれは、肯定される行為といえます》

『……あ!? そういえば……智慧之王(ラファエル)さんがあの時言っていた――〝ある事〟が含まれていないと言ってたのは、この事だったのかー!』

《……》

 

 リムルは思いだした、あの時智慧之王(ラファエル)が言った事を。

 そして、めちゃくちゃ後悔する、まさかここに来てツキハが逃亡するなど思いもしなかったから。

 

 このまま四日目の朝まで逃げ続けられると、ツキハの勝ちになる。

 もし、勝ってツキハがヴェルドラに、魔国連邦(テンペスト)の殲滅を命じれば……。

 

(ぬうおおおおぉ。めっちゃ不味くね? この国終わらね? いやいや、ちょっと待て……アイツがヴェルドラにこの国を滅ぼせと言わないかもしれないし、別の望みを言う……可能性は、あるのか? ってか、決闘なのに普通逃げるか……? いや、期限まで逃げ切れば、勝ちは勝ち。いやいやいや、待て待て、でもな――)

 

 一気に雲行きが怪しくなった魔国連邦(テンペスト)の命運。

 想定外の事に頭を悩ますリムルに、コハクが告げる。

 

「リムルはん。あんさん、まさかツキハの行為を卑怯とか言わしまへんやろな?」

「え? ああ、二人の決めた事に逃亡禁止は無かったからな……」

「今回は手合わせやあらへん。あんさんらは国の存亡を掛けた戦い、うちらは依頼を完遂する為の戦い、ただそれだけや。そこに、正々堂々も卑怯も存在はしまへんのやで。どんな手を使っても勝つ、そのくらいの気概がなくてどうしますのや?」

 

 ぽわぽわした笑みを浮かべ言うも、コハクの目は笑ってはいなかった。

 

 コハクの言葉に、臨時会議室内に重苦しい空気が漂う。

 しかし、その重苦しい空気を払う声が飛び込んでくる。

 

「確かに、コハク様の言う通りじゃな。策を持って敵に当たる、これも兵法の一つ。それがどんな手であれ、それを想定しなかった者が負ける……。ワシ等はあの時に、それを嫌という程に体験したはずじゃなかったかな? ツキハ様の四日目の朝まで逃げ切る――これも卑怯とは言わず、一つの兵法というべきじゃろうて」

 

 ハクロウがあの忌まわしい敗北を思いだしながら、皆に諭すように静かに言った。

 この発言により皆が、今一度あの惨劇を思いだし噛み締める。

 

「そうだな、ハクロウの言う通りだ。敵と戦うからには、あらゆる事を想定して戦いに挑まなければならない。クレイマンに勝利して少し気が緩んでいたようだ。勝ったからこそ、気を引き締めていかないとな」

 

 このリムルの言葉に、ベニマル以下幹部達やそこにいる者達が、一斉に頷いていった。

 

「なんや皆、ええ顔をしますやないか。ほんま、あんさんらは難儀な魔物やで。ふふっ(やっぱりこの子らは、他の魔物とは違いますな。日ノ本の転生者三上 悟ことリムル・テンペスト……。これは、時代が確実に動きますなぁ、それも加速度的にうちらを巻き込んで……この変革の嵐は、どこに向かうんどすかねぇ。ほんま、めっちゃ楽しなりますやないか。うふふふ)」

 

 コハクはブランデーのグラスを手に取ると、中の液体を一気に飲み干し、口端を薄く上げた。

 

 そして、一人残されたヴェルドラは――

 辺りをキョロキョロ見回したり、腕を組んで何か考え込んだりしていた。

 

 そこへ。

 

『ねえヴェルドラ君。何してるんだい?』

『ぬ!? おお、リムルか! いや何、ツキハがバイバイとか言って、飛んでいなくなったのだが……。勝負の最中にこんな事をするのは、今までなかったのだぞ?』

 

 リムルは『思念伝達』で、ツキハを追わないヴェルドラに何事かと尋ねるも、何やら少しびっくりして戸惑ってるような雰囲気をヴェルドラから感じた。

 

『あー、ヴェルドラ。いいか、これは決闘であっても決闘ではないんだ。国の存亡を掛けた戦争なんだぞ? 呑気に考えてないで、早くツキハを追いかけろよ! 三時のオヤツを一週間抜くぞ!』

『なに!? そうか、だから時間稼ぎで飛んで逃げたのだな? うーむ、ツキハがそんな手を使うとは、思ってもいなかったぞ。クワアハハハハ』

『――笑ってないで、いいから早よ追いかけろよ!』

『わかった! オヤツは抜くなよ? いいな!? 』

 

 ドドンッ。凄まじい轟音を上げヴェルドラは漆黒の空へ飛び上がり、一気に音速を突破してツキハを追って飛んでいった。

 

 

「ヴェルドラのヤツ、ツキハがまさか逃げるなんて思ってもなかったのか?」

「――せやねぇ。ツキハがヴェルドラはんと手合わせしてて、今までただの一度も逃げた事はなかったんやからな。そら、びっくりしますやろ? ふふふふふっ」

「見知った相手だから分かる事、か……これこそ、意表を突くだな。ククククッ」

「勝負に絶対はあらしまへんからな。見知った相手だからこそ、勝つ手段は用意しますんやで。うふふふ」

「ふむふむ。中々に勉強になるな。見知った相手が敵に回った時に、この考えは有効だな」

 

 リムルの言葉にコハクは訝し気な顔で返す。 

 

「あんさん、ほんまに柔軟な思考しておりますなぁ。まじもんで、脅威やでそれは――」

「え? 何でだ?――」

「はあっ。それやそれ! 人の良さそうな顔で何でも聞いて自分のもんにしよる。あんさん、中々の〝たらし〟やな」

「たらし? 何で!?」

「もうよろしおす。天然に何言ってもかないまへんわ」

「え、えぇ、天然って……」

 

 コハクから天然と言われ納得のいかないリムルであったが、とりあえずそれは置いておき、中継映像の方に視線を向ける。

 

 

 今宵の夜は満月。

 

 風を切り裂きながら満月が覗く雲の間を凄まじい速度で飛ぶヴェルドラ。

 

 それを半分いねむりをしながら追うミリム。

 

 

 そしてツキハは……。

 

 『空間迷彩』を掛けて西の果ての空二万メートル付近を、背中を大地に向けるような形を取り慣性飛行で漂っていた。

 

 右手を大きく開き、満月の方に向けていた。

 

「月が、大きいな。人間の頃は、あんなにも小さかったのにな。今はこんなにも近くて、大きい……」

 

 月光の差す空を漂いながらしみじみと呟く。

 

「転生して五千年かぁ~。よく生きてきたよなぁ、この世界で」

 

 チリリッ チリッ チリチリッ チリリッ チリッ

 

 ツキハの頭の中にノイズが走って来た、それも以前聞いたノイズが。

 

「ほえっ? こんな時に役立たずの番外権能め……今回はあんたの出番はないよ。動くんじゃないよ、大人しくしてな」

 

 チリチリッ チリッ チリッ 

 

「駄目だよ……あたしは、殺したいんじゃない。大好きな人に、勝ちたいだけなんだ」

 

 チリッ チッリリリリッ

 

 ツキハは胸に手を当て、そして――

 強い思念波を自分に放った。

 

 

『だから、大人しくしてな!』

 

 リッ チッ ッ……

 

 使おうと思っても反応しない番外権能『法則??』が、勝手に起動しようとしていた。

 これが起動すると何が起こるかわからない、未だにツキハとコハクはこの番外権能を把握できていなかったのだ。

 

 だから、ツキハは強靭な意思の力で起動をねじ伏せ、『法則??』を黙らせた。

 

「はぁ~。何で今起きようとするかな、コイツは。起きるなら、あたしらがマジにヤバイ時に起きろってんだよ。まったくもう……でも、ほんとこの番外権能って、何なのかなぁ……?」

 

 そんな疑問を持ちながら、ふと真下を見ると。

 

 高度一万五千メートル辺りを物凄い速度で通り過ぎて行くヴェルドラがいた。

 

「なーにやってんだか。くくっ」

 

 『空間迷彩』を掛けて『猫騙し』も併用しているツキハを、ヴェルドラは感知出来ずに通り過ぎて行って、それを見たツキハがクスリと笑う。

 

 ただ、ヴェルドラの後方に付いていたミリムが、通り過ぎ様一瞬ツキハがいる上空に首を向け飛び去っていった。

 

「……んん!? 気付いた? なんでミリムはわかるのよ?」

 

 ツキハは、ミリムの勘のよさというか、何かわからないものに驚くように呟いた。

 

 究極能力(アルティメットスキル)、これを持つ者同士の戦いは持っている権能の能力にもよるが、長年培った経験値の差と究極能力(アルティメットスキル)同士の相性による優劣も存在する。

 

 ミリムは持ち前の勘の鋭さもあるが、長年の経験と数値では表せられない何かを持っており、ツキハの『猫騙し』ですらも完全に騙し切れなかったのだ。

 

 であれば、究極能力(アルティメットスキル)を持ち、如何なる敵にも対応できる権能を有した者が最強なのかと問われれば、否なのである。

 

 何故なら、この世界の法則――能力(スキル)の進化があるからであり、それは強靭な精神と意思により進化が(うなが)されるのだ。

 

 ならば、究極能力(アルティメットスキル)もまた、新たな究極能力(アルティメットスキル)へと進化する可能性を秘めている事になる。

 

 〝技量を磨く〟、これにより究極進化を得た者が、真の最強への頂に到るのかも知れない。

 

 

 慣性飛行から通常飛行に切り替え、ヴェルドラとは反対方向に逃げるツキハ。

 

 一方ヴェルドラは――

 空中で止まるとそのまま直立した態勢を取り、腕を抱えて考え込んでいた。

 

(うーーむ……ツキハの気配がどこにも感じられぬ。これは、いつぞや聞いた『猫騙し』とかいう、権能の力であろうな。確か……)

 

 ヴェルドラは千年以上前に一度だけツキハの持つ権能について教えてもらった事を、必死に思いだそうとしていた。

 

(何であったか……気配を隠し……いやそんな生易しいものではなかったような……)

 

 頭をひなりながら、あーでもないこうでもないと考えていると。

 

 ポンと手を打ち、何かを思いだした。

 

(そうであったわ! ツキハの持つ権能『猫騙し』の本質は、あらゆる事象すらも騙すであったか? うーむ、思い出してみると、中々に厄介なものであるな。ならば――)

 

 そう心の内で思うと、腕を組んだまま静かに目を閉じていくヴェルドラ。

 

 高度一万五千メートル上空で、バサバサと金髪の髪が風に揺れ(なび)いていた。

 

 ヴェルドラは、自身の感知能力を最大限にしてツキハの気配を探る。

 

(魔力は……やはり感じられるな。妖気(オーラ)は……完璧に抑えておるか。ならば――)

 

 更に自身の感覚を鋭敏に研ぎ澄ませていく。

 

 

 ヴェルドラが空中に静止してから三時間は経過していた。

 

 既に零時を回り、時間は午前三時を過ぎて……そこへ。

 

 極々僅かな重力波の波動を感じ取るヴェルドラ。

 

 ツキハが飛行速度を上げる為に『重力操作』を使い、異常な重力波を一瞬出したのを捉えたのだ。

 

 ニィッと笑い、その重力波を感じた方に意識を集中すると、ふわりと微かに感じ慣れた何かを感知した。

 

(ククククッ。見つけたぞ、ツキハ!)

 

 クワッと目を開けるやその場で反転し、ツキハがいるであろう方角に一気に加速していく。

 

 そんなヴェルドラを追尾しながらミリムは、嬉しそうに呟く。

 

(さあさあ、ヴェルドラに見つかったぞツキハ。どうするのだ? まだ夜明けまで二時間以上あるぞ。いったい、どんな手を残しているのか? ワタシはワクワクしているのだ! 見せて見ろツキハ!)

 

 にんまりと笑みを湛え、来るであろう戦いの結末に心躍らせるミリムである。

 

 

 そして、臨時会議室にも緊迫した空気が漂い、皆真剣な顔付でこの戦いを見守る。

 

(見つかったでツキハ。準備は出来てるんやろ? 勝つにしろ負けるにしろ、ここにいるヤツ等の度肝を抜いたりや。あんさんとうちが考えた、アレでな。ふふふっ、あはははははは)

 

 中継映像の中に映るヴェルドラを見ながら、コハクは心の内で笑いを上げる。

 

 

 ヒィーーンッ。けたたましい飛行音を上げながら飛ぶヴェルドラは、視線の先にツキハを捉えた。

 

 

「あらあ、意外に早く見つかったねぇ。やっぱり、同じ究極能力(アルティメットスキル)持ちでも、生きてる経験の差なのか、なっ!――」

 

 最後の言葉を言った瞬間ツキハは上半身を上げ、両手両足を前に突き出すように急制動を掛ける。

 急減速したツキハは、迫るヴェルドラに目掛けて急加速で後退していく。

 

「見つけたぞ! って、ヌオッ!」

 

 見つけたと思ったツキハが、いきなり背中を見せながら自分に迫って来たので、ヴェルドラは慌てて回避行動を取った。

 

 目の前をツキハが通り過ぎた刹那――

 ヴェルドラに青白く輝く魔力弾がぶつかる。

 

 爆発した魔力弾が凄まじい火球になり、その周辺を稲妻に似た雷光が幾重にも走っていた。

 

 雷光球(プラズマ・ボール)

 

 これは魔力弾の一種で、ツキハの体内で生成した魔素粒子を魔電粒子化し用いた魔力弾であった。

 故に、これは魔法ではなく、通常の魔力弾として有効であった。

 

「ククッ、まだこんなものを隠し持っていたとはな。だが、日の出は拝ませぬぞ?」

 

 爆発した火球の中心から、無傷なヴェルドラが現れて不敵に告げる。

 

「それが切り札とは言ってないよ? うくくくっ」

 

 しばしお互い向き合っていると、唐突に戦いが始まった。

 

 ツキハが急上昇し、その頭を押さえる様にヴェルドラが飛んで来る。

 

 ヴェルドラが真上からの連続魔力弾を撃ちだし、激しい連続した爆発音の中、ツキハも雷光球(プラズマボール)を連続して撃ちだす。

 

 ヴェルドラは急旋回でそれを(かわ)し、ツキハに接敵しようとすると――

 躱したはずの雷光球が、軌道を変えてヴェルドラを追尾して来た。

 

「何っ!?」

 

 二十発の雷光球がまるで誘導ミサイルの如く、ヴェルドラを追尾する。

 

 ヴェルドラはあらぬ方向に急加速しながら振り切ろうとするも、雷光球(プラズマボール)は的確に追尾して来てヴェルドラの近くに来たところで、爆発していった。

 

 それを見たリムルは。

 

「なんで魔力弾が追尾なんて出来るんだよ!? それに、近接で爆発だとー!?」

 

 と、声を上げていた。

 

 そこへコハクが。

 

「あれはヴェルドラはんの妖気(オーラ)魔素量(エネルギー)を追尾してるんやで。逃げ切るのは簡単やないでぇ、くっくっくっ」

 

 どこか楽し気に笑い言う。

 

「どうやったらあんな事が出来るんだよ?」

 

 笑うコハクにリムルが問う。

 

「そんなん教えるアホが、どこにいてますのや? でも、ちょっとだけサービスで教えてあげましょかー! あれはな、思考操作してるんや。あの雷光球(プラズマボール)には、ちょちょいとな、そんな仕掛けを施してるんやでー」

「思考操作だと? そんなことが出来るのか――」

《解。恐らく『思念伝達』と何かを応用したものだと推測します》

 

 自慢げに話すコハクの言葉に不可思議なものを感じるリムル。

 

『その何かはわかるのか智慧之王(ラファエル)さん?』

《不明》

『え? 不明な力だ、と? 智慧之王(ラファエル)さんが不明なら、こりゃマジにやばくね?』

 

 そう考えるリムルだが、何か引っ掛かるものをツキハとコハクに感じた。

 

(うーん、その発想って近代的というか、撃ち出した魔力弾を思考誘導させるとか、どこからそんな発想が来るんだ?……本当に戦国時代の人間だったのか? あれはまるで誘導ミサイルみたいだし。近場で爆発は、近接信管みたいな発想だな。もしかして、俺と同じ時代の知識を持ってる者が仲間に、いる? まさかな、アイツ等は領地は持たない、し……。待てよ、確かラミリスのヤツが、何かを言ってたなあの二人に。これは、落ち着いたら調べてみる必要があるかもな……)

 

 そんな疑問を幾つも浮かべながら、とりあえずはこの件は後回しにしたリムル。

 

 魔力弾を撃つ攻防の中、ツキハが隙を突いてヴェルドラの背中に抱き付いた。

 

「させぬわ!」 

 

 背中に抱き付いたまま急上昇しようとするツキハに対してヴェルドラは、反対方向に飛行する力を集中した。

 

「はあっ!!」

 

 そして、ヴェルドラは自身の妖気(オーラ)を爆発するように一瞬解放して、ツキハを背中から弾き飛ばす。 

 

 弾き飛ばされたツキハ空中をくるくる回りながら体を起こし、怒ったように見せかけて 吐き捨てる。

 

「チッ! そんな簡単には背中は取らせないかぁ。クソッ(くくくっ)」

「ツキハ、遊びは終わりだ!」

 

 東の地平線に光の線がサーッと走り、薄っすらと輝いていく。

 

 日の出の始まり。

 それを見たツキハは、『思考加速』百万倍を発動した。

 

(さて、いこうか。高圧縮した魔力、妖気(オーラ)、魔電粒子の混合開始~)

《魔力、妖気(オーラ)、魔電粒子の混合開始……成功しました》

(次に、精神を特殊エネルギー、精神波(サイコ・ウェーヴ)に変換)

《精神を特殊エネルギーへと変換開始……精神波(サイコ・ウェーヴ)への変換成功しました》

(で、それらを合成しようか)

精神波(サイコ・ウェーヴ)と混合した高圧縮魔力、妖気(オーラ)、魔電粒子を合成……超精神波(スーパーサイコ・ウェーヴ)生成に成功しました》

(それじゃあ、特殊爆裂術式構築いこうかー)

《特殊爆裂術式構築開始……失敗》

(ありゃりゃ。うーん、じゃあ保護術式を全部取っ払ってぇ、制限解除で組もうか)

《再度特殊爆裂術式構築開始……成功しました》

(よっしゃー! なんか自爆技に近くなったけど、まあいいか。今までの攻撃魔法の常識を覆す、特殊攻撃魔魔術のお披露目だ!)

 

 ヴェルドラの周りを不規則軌道飛行しながら、仄かにツキハの身体が白く輝き始める。

 

(更に、超精神波(スーパーサイコ・ウェーヴ)の超高圧縮開始)

 

 フィーーーーンッ モーターが唸るようね音を上げ始めるツキハの身体。

 

「何ッ!? ツキハの身体が光り始めているだと?」

 

 ツキハを追いながら今まで見た事のない現象にヴェルドラは、警戒を強めていく。

 

 ヴェルドラの魔力弾を躱しながら、ジュラの大森林上空八百メートルまで降下して来たツキハ。

 

 その身体は徐々に輝きを増していった。

 

「何だ? あの輝きは……? 解析は……不能だ、と!?」

主様(マスター)。あの発光エネルギーの正体は不明です。この世界に現存する、魔素、魔力、妖気、霊子等、どれにも該当しません》

『マジ、か……』

 

 中継映像を見てリムルは訝し気に言い、『解析』を試みるが『解析』が出来ず。智慧之王(ラファエル)でさえ正体不明と告げたのに驚き、言葉を失う。

 ベニマル以下幹部達の『解析鑑定』持ちが同じように『解析』を試みていたが、リムルと同じく『解析』不能であった。

 ディアブロでさえも、ツキハが何を仕掛けて来るのかわからず、「チッ。あの発光エネルギーの正体がわかりませんね」小さく舌打ちを打っていた。

 

 そして、全員がコハクに視線を向けると――

 

「ふふふっ。『解析』できしまへんかったんやろ? あれは、うちらが考えた特殊破壊波動や」

 

 口角を上げ、冷え斬るような笑みを湛えコハクは言った。

 

「自分達で考えた特殊破壊波動だと?」

 

 リムルは内心焦っていたが、落ち着いた声でコハクに問う。

 

「せやで、見てたらわかりますえ」

「どうやって作り出したんだ?」

「……」

 

 そう言うとコハクは中継映像から目を離さず、それ以上は口を開かなかった。

 

 

 徐々に西の地平線が明るくなって来始める。

 

 ヴェルドラは不規則軌道飛行するツキハに、的確に魔力弾を当て始めていた。

 

 ドドドン! 何発もの魔力弾を喰らいながらもツキハは飛行速度は落とさず、何かを狙ってるようにヴェルドラの周りを飛び回る。

 

(ふむ。またあれを、狙っているのだろうな。ならば、敢えてその手に乗ってやろうぞ)

 

 ツキハの狙いが、低高度からの急上昇での〝威綱落とし〟だと読んだヴェルドラは、敢えてほんの僅かだけ隙を作った。

 

 そして――

 

 ツキハはその隙にまんまと食い付いた。

 

超精神波(スーパーサイコ・ウェーヴ)の超高圧縮率百二十%、臨界点突破しました》

 

 ツキハの身体は白い光に包まれて、一つの光り輝く光球と化していた。

 

 ヴェルドラの眼前で急制動を掛けてからの回り込みで、背中に取り――

 

 付けなかった。

 

 ヴェルドラが背中に取り付かれる刹那、体をくるりと回しツキハの頭を両手で挟んだのだ

 

「クワハハハハ! ツキハ、掛かったな! 零距離の魔力弾を喰らっては、流石のお前も耐えられぬであろう!」

 

 光り輝くツキハを捕らえ、ヴェルドラもその輝きに包まれていた。

 中継映像は薄暗い夜空を照らし出していく二人を映し出す。

 

「我の勝ちだ」

 

 ヴェルドラが両手から魔力弾を撃ち出そうとする、と―― 

 ツキハの口端がニィッと上がり、ふっと光り輝く電球が切れたようにその輝きが消え失せる。

 

 ヴェルドラが何かを察知した瞬間――

 

 「点火(イグニッション)、〝爆裂発勁・鳳穿火(サイコ・エクスプロージョン・ホウセンカ)〟!!」

 

 ツキハが技名を告げた同時に胸の辺りから光が溢れだし、それは一気に膨れ上がり巨大な青白く燃え上がる火球と化し、瞬く間に二人を包み込む。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 凄まじい轟音が大気を震わせ、轟き渡る。

 

 青白い炎を渦巻きながら膨れ上がり続け、その衝撃波は真下のジュラの大森林の樹々を円形状に薙ぎ倒していく。

 

「まずいのだ!」

 

 予想以上の威力にミリムが慌てて両手を広げ、強大な火球を『結界』で包み上げた。

 

「な、なんという威力なのだ……。ワタシの『結界』が押されてるだと!?」

 

 ミリムの『結界』を破壊しようとする火球は、その余波を魔国連邦(テンペスト)にまで届かせた。

 

 街の建物の窓がガタガタと揺れ、家々などが軋みをあげる。

 

 ゴオォゥッと地響きのような音を響かせながら、うねる様に回転する巨大な火球の周りには放電現象にも似た青白い雷光が無数に走っていた。

 

 

 やがて……。

 

 ミリムが必死に『結界』で抑え込んだ巨大な火球は次第に小さくなり、最後には完全に消え失せ、その中心だった辺りにはヴェルドラだけが宙に浮かんでいた。

 

 そのヴェルドラも、あちこちに傷を負っていて、グラリと身体が傾くと、一直線にジュラの大森林へと落下していった。

 

 ドーンという音と共にヴェルドラが大地に激突し、割れ砕かれた地面の破片がバラバラとヴェルドラの周りに降り積もる。

 

 西の地平線に太陽が頭を出し、ジュラの大森林に朝日が照らし出していく。

 

 

 臨時会議室にいるリムル達は一言も発せずに、地面に倒れたままのヴェルドラを、固唾を呑んで見ていた。

 

 このまま太陽が上がり切ったらツキハの勝利が確定してしまう。

 だが、そのツキハの姿がどこにも見当たらなかった。

 

 そこへ、ヴェルドラが頭を振りながら立ち上がって来るも、ガクッと片膝を付いてしまう。

 

「これは、効いたな。クックッ、こんな隠し玉を持っていたとはな……ん? そこ、か」

 

 乱れた魔力回路を修復しながら、眼前に渦を巻く魔素粒子に気付く。

 

 その魔素粒子は渦を巻きながら人の形を取っていき、それはやがて猫耳に尻尾を生やした女の子の姿を形成した。

 憑代を再構築した、魔人ツキハである。

 

 片膝を付くヴェルドラにツキハは右手でVサインを作り、無言でニコリと微笑んだ。

 

 朝日が段々と高くなり、完全に太陽が昇り切ったら。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「ヴェルドラ様が、負け、た……」

 

 力なくベニマルが言うと――

 

 いきなり、Vサインを出したままツキハがゆっくりと背中から、大地に倒れバフッと土煙が舞う。

 

 ツキハの意識は、完全に飛んでいた。

 

 限界ギリギリまで高圧縮した超精神波(スーパーサイコ・ウェーヴ)の爆発は、死なない特性を生かした自爆技であり、直ぐに復活は出来たのだが……精神を爆裂エネルギーに変換するこの攻撃は、ツキハの精神を過剰に消耗させ、憑代を再構築したところで、極度の精神疲弊を起こして意識を失ってしまっていたのだ。

 

 

 ヴェルドラが立ち上がったと同時に、西の地平線から完全に太陽が顔を出し。

 立ち上がったヴェルドラと、地面に倒れたツキハを柔らかく朝日で包んでいった。

 

 

「フフッ。良い顔をして寝ておるな」

 

 微笑んだまま意識を失っているツキハを見て、ヴェルドラがフッと笑みを浮かべ、言葉をふわりと投げた。

 

 そんな二人の所にミリムがやって来て、ツキハの顔をパシンパシンと叩いて意識があるかの確認をする。

 

 全く反応の無いツキハを見て、ミリムが高らかに告げた。

 

「この決闘、ヴェルドラの勝利なのだ!」

 

 

 このミリムの勝利の宣言に、臨時会議室にいるリムル達がわあっと声を出し、街全体が勝利を喜ぶ歓声に包まれる。

 

「負けましたな。これは、まだまだどすなぁ。まあ、形は出来たんどすから、色々改良せなあきまへんな」

 

 勝利に沸くリムル達を横目に、やれやれといったように言うコハク。

 

 

 最強の〝竜種〟が一体ヴェルドラに、片膝を付かせた〝番外魔王〟ツキハ。

 この一件でまた、〝番外魔王〟の恐ろしさが世に広まる事になるのであった。

 

 

 勝利に沸く魔国連邦(テンペスト)の魔物達。

 

 

 ここに、ヴェルドラとツキハの戦いの決着が付いた。

 

 

 満足気な笑みを湛えたまま意識を失っているツキハは、闇に閉ざされた意識の中でヴェルドラの言葉を聞いた。

 

 

 

 ツキハよ 今までで一番手強かったぞ 良い戦いであった!

 

 また やろうぞ クワッハハハハ!

 

 

 

 無意識化の中で、ツキハの唇が何かを言うように微かに動く……。

 

 

 うん また やろう

 

 

 ヴェルドラ

 

 

 

 

 




 この作品を読んで頂き有り難う御座います!

 次回の更新もよろしくお願いします!




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