忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。69話です







69話 〝番外魔王〟 In Tempest

 

 勝利に沸く臨時会議室では、リムル達がヴェルドラを迎える準備を始めていた。

 

 そんなリムル達を見ながらコハクは気配を周囲に同化しながら、臨時会議室からそっと『空間転移』して行った。

 

 

 コハクがやって来たのは、ツキハが倒れている側だった。

 

 ヴェルドラがそんなコハクに声を掛けた。

 

「お! 来たかコハク」

「ヴェルドラはん。決闘の勝利おめでとさんどす」

「うむ。ツキハは今までで、一番手強かったぞ!」

「ふふっ、そうどすか。ツキハが聞いたら喜びますえ」

 

 両足を揃えツキハの隣にコハクは屈むと、右手でツキハの右頬を優しく撫でながら「おつかれさんどす」と、未だ意識の戻らないツキハに労いの言葉を掛ける。

 

「お!? コハクも来たか! なあなあ、あの技はなんなのだ? 教えて欲しいのだ? コハクあれはどういった技なのだ?」

 

 コハクが来たのでその場にいたミリムが、興味津々にコハクに問う。

 

 するととそこへ。

 

「それは俺も聞きたいなと、言いたいところだけど、一度街へ戻らないか?」

 

 いつの間にか『空間転移』して来たリムルも同様にコハクに問うた。

 

「リムルはん……。仕方ありまへんな、うちらは敗者やさかい、したがいますえ」

 

 そう答えたコハクがツキハを抱えようとすると、それをヴェルドラが手で制し、ツキハをおもむろに肩に担ぐ。

 

 お姫様抱っこではなく、そっと肩に担ぐ。

 いかにもヴェルドラらしく、それでいて見る者に不快感を与えない何かがあった。

 

 ツキハがヴェルドラに担がれた時、ツキハの顔が一瞬ニヘラと笑みを浮かべたのをコハクが見逃さなかった。

 

 コハクの右眉と猫耳がピクリと跳ね、ツキハに『思念伝達』を飛ばす。

 

『あんさん……意識が戻ってますな?』

『……』

『今、一瞬喜んではりましたやろ? はあ、これを狙ってましたんどすか……。しょうもな』

『なにー! しょうもないって、どういうことよ!? いいじゃん、ほんとはお姫様抱っこされたいのに、これで我慢してるんだぞ~♪ うへへへ』

『全然、我慢してるように聞こえまへんで? ってもうよろしわ。とりあえず、あそこに戻ったら、さっさと起きなはれ』

『へいへい』

『返事は、一回でよろし』

『へーーーーい』

 

 と言う、馬鹿なやり取りを二人がしていると、ミリムが「フレイから何か友達として大事な話があるから、早く帰って来なさいと『思念伝達』がきたのだ。だから一度戻って来るのだ。またなのだ!」と言い、慌てて空を飛んでものすごい勢いで帰って行った。

 

 そんなミリムを見送りながら、ヴェルドラ達は臨時会議室へと戻って行った。

 

 臨時会議室に着いたヴェルドラは、ツキハをどこかに寝かせる場所を探していると、ツキハが「もういいよ。ありがと、ヴェルドラ」と言いながら、肩から降りる。

 

「お? 気が付いたかツキハ」

「うん。もう大丈夫」

「そうか」

 

 短い言葉を二人は交わし、シュナに促されてそれぞれの席に座っていった。

 

 上座にリムルが座り、リムルから右側にツキハ、コハクが座りツキハの対面にヴェルドラが座った。

 残る幹部達は、左右に別れ席に着いていた。

 

 シュナが出来立ての朝食をリムルの席に持っていき、それを合図にハルナ達が各席に朝食を並べていく。

 

 今日の朝食は、カリっと焼いたベーコンに、鶏鴨(ケガモ)の毒抜した卵の目玉焼きを乗せた、ベーコンエッグにバターで焼いたトースト。

 それに野菜サラダ、マグカップに入ったコーンポタージュスープにコーヒーが付いた朝食であった。

 

「とりあえず、皆三日間ご苦労様だった。取り急ぎ簡単な朝食だが、(みんな)食べてくれ」

 

 軽くリムルが挨拶を済ませると、皆が朝食を食べ始める。

 

 皆が食べる中、ツキハとコハクだけは食べずにリムルを見ていた。

 

「ん? お前達も遠慮せずに食べてくれ。これからの事は、食べながらでも話そう」

 

 にこやかに二人に告げるリムルに、ツキハが口を開く。

 

「あー。魔王リムル、あたし達は捕虜になったんじゃないかな?」

「んん? いや、捕虜ではないぞ。ヴェルドラと決闘はしたが、お前達はヴェルドラの古い友人なんだろう?」

「違う」

「「「「「え!?」」」」」

 

 友人と問われ、それにツキハが否定した。

 驚いた表情のリムル達。

 

 そこにコハクが付け加える。

 

「せやなぁ。友人と()うより、悪友と言った方がしっくり来るかもしれまへんな。ふふっ」

「だね~。ヴェルドラとは千年以上も前から一緒に〝遊んで(暴れて)〟来たものね。くくっ」

「うむ。そう言われれば、お前達とはよく〝遊んで(暴れて)〟いたからな。クワハハハハ」

 

 ツキハとコハクの言葉にヴェルドラが同意する。

 

「ま、まあ、それでもヴェルドラの友人として扱うよ。俺達は」

 

 友人ではなく、自分達は悪友だと言う二人にリムルは、それでも友人として扱うと笑みを浮かべ言う。

 

「そう。でさ、ヴェルドラ」

「ん? 我?」

「負けたあたしに、何を一つ望むの?」

「んんん?」

 

 勝負に夢中になり、すっかり勝利した時の条件をどこかに落として来た、ヴェルドラ。

 

「あんたさ……やっぱ、お茶目さんじゃん」

 

 ジト目で言い放つツキハ。

 

「な!? ちょっと待て……そうだ! 勝ったら敗者に一つだけお願いを言えるだったな? それがどんな条件でも、だったであるな?」 

「はぁ~、そうだよ。でさ、ヴェルドラはあたしにどんなお願いするの?」

 

 ツキハがコテッと首を傾げ言い、そう言われたヴェルドラは、何か焦ったように視線を泳がせていた。

 

(ヴェルドラのヤツ、何も考えてなかったな。ククッ)

 

 そんなヴェルドラを見てリムルが、心の内でクスリと笑う。

 

 

「な、え、えーとだな……。うーむむむ……」

 

 あれを、いやこれをだな、と、ぶつぶつ言いながら頭をひねり出したヴェルドラを見て、リムルが『思念伝達』である事を提案する。

 

 

『なあヴェルドラ。出来たらでいいんだけど、アイツ等に二度と俺達と敵対しないように言ってもらえると助かるんだが、駄目か?』

『何ッ!? そんな事でいいのか?』

『ああ。敵対しなければ、俺達は良い商売相手になれると思うんだがな、傭兵商会・ルヴナンと。だけど、そこはヴェルドラの思う言葉で言ってくれても構わないよ。アイツ等とはお前の方が付き合い長いんだしな。二度と敵対しなければ、俺としては助かる』

『ふむ。わかった、ツキハに我の言葉を届けよう。それで構わぬかリムルよ?』

『ああ、任せるよヴェルドラ』

 

 二人は『思念伝達』を終え、ヴェルドラはツキハの顔を真っすぐ見て。

 

「ツキハよ」

「なに?」

「お前は前に、我といつまでも一緒に〝遊んで(暴れて)〟いたいと、言ったよな?」

「うーん、そこはいつまでも一緒にいたいと言ったんだけどぉ。まあ、間違いではないよ」

「そ、そうか? ならば、我と一緒にこの国の行く末を見ていかないか?」

「え? 魔国連邦(テンペスト)の未来をって事?」

「そうだ。ここは、美味い酒も料理もオヤツもある。中々に楽しい事が一杯なのだぞ?」

「ふーん。そうそう漫画って言ったっけ、ここにあるの?」

「おお! あるぞ! 漫画は面白くて最高なのだぞ! 後で見せてやろうぞ!」

「ほんと!? いいよ、ヴェルドラの言葉に従うよ。もともと敗者には是も否もないのが条件だもの」

「そうかそうか。と、言う事だリムルよ。これで良いか?」

「ああ、全然オッケーだヴェルドラ。ククッ」

 

 リムルは、ヴェルドラがツキハに、我の言う事を聞けと言う様に言わなかった事が内心嬉しかった。

 あの〝暴風竜〟ヴェルドラと人々に恐れられたヴェルドラが、ツキハには命令ではなく、どこか説得染みた事を言っていたのに少しお驚き、恋愛感情など持ち合わせていないヴェルドラが、これから色んな人や魔物と触れ合っていって、変わっていってくれたらいいなと、ヴェルドラの友人として思った。

 

 そしてその下地は出来ているんだなと、ヴェルドラとツキハの会話を見てリムルは、そう確信した。

 

 リムルは静かに席を立つと、皆を見回し次の事を告げる。

 

「それじゃあ、お前達〝番外魔王〟に、魔国連邦(テンペスト)への自由な出入りを認める。そして、〝傭兵商会ルヴナン〟と、いくつか契約を交わしたい。それと、お互い敬称無しでいこう。俺はツキハ、コハクと呼ぶ。お前達もリムルと呼んでくれ」

「へぇ、かましませんで、リムル」

「あたしもそれで構わないよ。でも、契約関係はコハクの担当だから。コハク頼むわよ」

「仕方ありまへんなぁ。でもなツキハ、あんさんもいつも遊んでないで、もう少しこういう事もやらなあかんで?」

「いやいい。遊ぶのがあたしの仕事だし、細かい事は任せる。どうしてもやれというならやるけど? 文句は言わないでよ? じゃあリムル――」

「――いや、やらんでよろし! リムル、後で契約を纏めましょ」

 

 ツキハが契約関係をコハクに丸投げして、それをコハクが諭すも、ツキハが不穏な事を言いだして、それをコハクが即止めて、リムル達の笑いを誘う。

 

「ククククッ、失敬。 よし! 今晩は細やかな宴を催すけど、お前達ももちろん出てくれるよな?」

「へぇ、よばれましょかぁ♪」

「うん、もちろん出るよ♪」

「シュナ。疲れてるとこ悪いけど、宴の準備を頼めるか?」

「はいリムル様。そう(おっしゃ)られると思って、既に準備に入っています。フフッ」

「おお、流石はシュナだな。じゃあよろしく頼む」

 

 そう告げたリムルは朝食を済ませると、執務館にある執務室へと場所を移し、〝傭兵商会・ルヴナン〟との契約に取り掛かる。

 

 

 まず、一つ目――魔国連邦(テンペスト)が危機に陥った時の、援軍要請を受け入れる契約。

 これについての期限は、リムルが生きている限り有効と項目が記された。

 

 二つ目――情報の売買。有益な情報は、条件付きで優先で流してもらう、売買契約。

 これは、主にソウエイ達が掴み切れない闇の情報であり、その情報の一端を聞いたソウエイが進言した事でもあった。

 

 三つ目――リムルが、〝傭兵商会・ルヴナン〟の支店をここに作らないかと提案して、少し考え込んだコハクだが、自分達にも利があると踏んでこの提案を受けた。

 この事は、表舞台に一切姿を見せなかった〝傭兵商会・ルヴナン〟が、魔国連邦(テンペスト)に支店を置いたと各国に伝われば、各国に対する抑止力の一つとなると判断したリムルの考えであった。

 

 四つ目――番外魔王の二人に、魔国連邦(テンペスト)へ定住してもらう契約。

 これは、ヴェルドラが魔国連邦(テンペスト)にいる限り、期限は無期限とされた。

 

 

「よし、これでいいか」

 

 リムルは、自分で作った特別な紙に、この項目を記した契約書を作成して、自分の妖気(オーラ)を込めた印を二枚の契約書に押す。

 

 コハクも同じようにして印を押し、一枚をリムルから受け取る。

 

「じゃあ、これで契約成立だな」

「へぇ、これで間違いありまへんな?」

「ああ、間違いない。でもいいのか? 期限が無期限なものもあるんだけど?」

「構わないよ。だって――」

「――ツキハ!」

「おっと」

「んん? なんだ?」

「なんでもあらへん。気にせんでええで、リムルはん」

 

 無期限の項目を気にしたリムルの言葉に、うっかりツキハが口を滑らしかけて、コハクに睨まれる。

 リムルが訝し気に問うも、コハクは「気にせんでええ」と、にっこり笑い、それ以上その事には触れなかった。

 

 後にこの意味は分かる事になる、とある人物が魔国連邦(テンペスト)に訪れる事になるから……。

 

 

 それからは、契約料の支払いについての話し合いになり。

 

 魔国連邦(テンペスト)の財政資金を稼ぐ政策が軌道に乗るまでは、現物支給での支払いも念頭において話し合った。

 これについては、金貨での支払いより、魔国連邦(テンペスト)産の品物での支払いでも構わないとコハクが提案した。

 

 財政資金がまだまだ少ないリムルに取ってこの提案は有難く、契約書に契約金や依頼料などの支払いは、金貨と魔国連邦(テンペスト)産の品物どちらでも良いと追記される。

 

 コハクは既に、魔国連邦(テンペスト)産の品々が大金を生むと見抜いており、〝傭兵商会・ルヴナン〟の表部門に流して、各国に売りさばく算段を立てていたのだ。

 

 主に、貴族達に売りつける為に。

 

 

 そして、契約料の支払いについての話し合いも、(とどこお)りなく終わり午後を迎える。

 

 ツキハとコハクはリムルに案内されて、出来たばかりの幹部とその配下用の大きな食堂へと案内された。 

 

 そこで昼食を取りながら、二人の住む所の話をしていく。

 

「それでな、住む所なんだけど。特例で幹部用の住居区画に住んでもいいんだけど、どうだ?」

「あぁー、それは()めておくわ。色々と、そうね、うーん、なんか〝ヤバイ事(主にコハク)〟が起きた時に、面倒だからねぇ。それよりも、どこか土地を一つ売ってくれないかな?」

「ヤバイ事?」

「ああ、こっちの事だから気にしなくていいよ、リムル」

 

 ツキハがコハクをチラリと見て言い、それにリムルが疑問を挟むがツキハはそれをさらりと流した。

 

「そうか? うーん気になるなぁ、争いとかとは違うんだよな?」

「違う違う、そこは安心してていいよ」

「ふむ、わかったよ。で、どの辺りの土地を買うんだ?」

「どこがいい? コハク」

「せやねぇ」

 

 どの辺りがいい? とリムルに聞かれ、ツキハはコハクに伺いを立てる。

 

 コハクは、しばらく思案した後。

 

「迎賓館北西にある一区画を売ってもらいましょか。広さは、せやねぇ……あんさんメートルという異世界の単語をこの国で使ってましたな?」

「ああ、俺に取ってはそれが一番馴染んでいたからな。で、どの位の広さなんだ?」

「そうやなぁ、一万三千平方メートル程売ってくれまへんか?」

「一万三千!? えーと確か……東京ドームのグランド面積と同じ位か(んんん? 何でコハクは俺が元いた世界の面積を表す単位を知っているんだ? 〝召喚者〟とかに聞いた事があるんだろうか……?)」

 

 コハクがリムルのいた日本で使っていた面積の単位を言った事で、不思議に思っていると。

 

「どしたんやリムル?」

「あ、いや何でもないよ。あそこは近くに封印の洞窟もあるし、近づく者の牽制にもなるから構わない。その場所でいいなら売ろう」

 

 訝し気に聞いて来たコハクにリムルは何でないと返し、希望の土地を売る事に了承した。

 

「でも広すぎるけど、何を作るんだ?」

「それやけど、あんさんとこで建築を頼めまへんか? もちろん代金はドワーフ金貨で支払いますえ」

「ほんとか? 助かる! 今続々と優秀な建築士が育って来ているから、ゴブキュウという建築士にやらせるよ」

「決まりやな。なら、金額の交渉を始めましょかぁ」

 

 土地の値段は、リムルが抱くこの世界での貨幣の国家的概算価値で計算して、金貨二百枚とした。

 

 リムルがいた世界での二千万円に相当する金額であった。

 

 (あと)、家や土地整備、敷地に個人用温泉露天風呂の設営などは金貨百枚とし、それらを含めて合計金貨三百枚とする。

 

「それでよろしいんか、リムル?」

「ああ、いいんだけど、大丈夫か?」

「ふふふっ。そんなんうちの小遣いで出ますさかい、逆に安い位やで?」

「えええ!? 金貨三百枚が、安いって?(どんだけ稼いでるんだ? コハク達って……)」

 

 クスクスと笑いながらコハクは袂から〝がま口財布〟を取り出し、テーブルの上にジャラジャラと金貨三百枚を落としていく。

 

 リムルは『胃袋』から大きな金貨袋を出して、その金貨三百枚を金貨袋に入れて、呼び寄せたリグルドに渡した。

 リグルドは「リムル様、確かにお預かりしました」と告げ、忙しそうにその場を去っていった。

 

「じゃあ、家なんだけど、さっき言ってた日本風古式家屋でいいのか?」

「せやな。入り口入って、真正面が台所、左側が板の間の囲炉裏端とその隣がツキハの寝室兼部屋やな。で二階がうちの寝室兼部屋や――」

「ちょっと待てコハク! アンタは隣に家を建てれば――」

「――いやや!」

「あたしもたまには、一人の家が欲しいんだけど――」

「――いやや!!」

「あたしもイヤなん――」

「――いややいやや、いややッ!!!」

 

 涙目で唇を噛み締め、肩をプルプルと震わせながらツキハを見るコハク。

 

「あー どうする? ツキハ」

 

 恐る恐るリムルがツキハに聞くと。

 

「はぁ~……。いいわもうそれで」

 

 諦めた様にツキハがリムルに返す。

 

 すると、コロッと態度を変えたコハクがウキウキとした顔で、さっきの続きを言い始める。

 

「こ、コイツはぁー。どうしてくれようか……」

 

 そんなコハクに、ツキハが右拳を握り締め怒ったように言うが、もうコハクは嬉しさ一杯で気にも留めなかった。

 

「でなでな、さっきの続きや。囲炉裏端とツキハの部屋の真向かいが縁側で頼みますえ。それで入り口入って右側が(かわや)と、檜木(ひのき)の風呂を作ってもらえますか?」

「厠? トイレか? お前達は、って、ああすまん、人間とかの来客用だな。檜木は同じような木があるから大丈夫だ。露天風呂は、この位の大きさでいいか?」

 

 リムルは『思念伝達』で、直径十メートル程の円形露天風呂のイメージを伝える。

 

「……せやな、これでよろしおす。後は洗い場と屋根を付けてくれたらええな」

「任せとけ。屋根は魔力で動く開閉式にしてやるよ。夜とかは、星空が拝めるぜ」

「まあー、なんやおもろいもん作ってくれますんやなぁ。おおきに、リムル」

「いやいいさ、コハク。後は、眷属の魔猫達用にリアルキャットタワーっていうのを作ってやるよ」

「それはなんおす?」

「高さ三十メートル位のツリーの形をした魔猫の遊び場みたいなもんさ。そうだな、魔猫位の大きさなら百匹程キャットタワーの上で寝られるちょっとした小屋も付けようか?」

「ほんにおおきにリムル。あの子達も喜びますえ」

「それはよかった。最後に〝傭兵商会・ルヴナン〟の支店もここでいいんだったな。それじゃあ、明日からでも作業に取り掛からせよう」

「へぇ、よろしゅう頼みますえ」

 

 建築の打ち合わせも終え、リムルは中央都市リムルの案内をしながら、三人で談笑を交わしていた。 

 

「お? 何かこの国も魔猫が結構住み着いて来たなぁ。俺の元いた世界でもペットして人気だったんだが、こっちでも結構人間が飼ってるよなぁ。コイツ等って数多いのか?」

「多くはないで。魔獣の中でも最低ランクやからな。格上の魔獣にぎょうさん狩られてましたからな」

「ほう、そうなんだ」

「個体数はほんまに多くはないんや。 今や人里周辺や町とかに、細々生息してるだけやし」

「なるほど。ちょっと疑問なんだが、お前らの眷属は元魔猫だよな?」

「せやで」

「じゃあさ、その仲間である魔猫を保護したりはしないのか?」

「しませんなぁ。うちらが保護して増えすぎると、生態系のバランスが崩れますやないか。自然に任すんがええんやで? たまに、ほんの少しだけ面倒を見る事があるくらいやな。だから絶滅はせえへんよ、リムル」

「ふーん。結構考えてるんだな。しかし、戦国時代の元忍びが生物の生態系バランスを考えるとか、本当に戦国時代の人間だったのか? ククッ」

「長く生きてるとな、色々覚えるもんなんやでリムル。それに女の秘密は覗くもんやないで? えらい目にあいますでぇ? ふふふっ」

「お、おお。そうだな、失敬失敬。ハハッ」

 

 妖しい笑みで言うコハクに、リムルも笑顔で返す。

 そんな話をしながらリムルは、コハク達の眷属が見当たらない事に気が付く。

 

 

「そういえば、眷属達の姿が見えないんだけど、どこにいたんだ?」

「ん? うーん、多分近場で見てたと思うけどぉ、あの子達基本自由猫だからねぇ。とりあえずお役目(お仕事)はしばらくないから、どっか遊びに行ったんだろうと思うよ?」

「え? 野放しなのか?」

「そだよ。大丈夫大丈夫、あの子達はたまに悪さはするけど、死人は出ないし、町も破壊はしないよ? とりあえず正体は隠せと言い付けてあるからね」

「えぇ……(何かすげぇイヤな予感がするのは、俺だけか?)」

 

 眷属野放しと聞いたリムルは、とてつもなく嫌な予感に襲われるが、それを二人が笑いながら否定する。

 

「まあ、そんなに心配せんでええでリムル。どうせあの子達、臨時収入が入ったから買い物や飲み食いにいったんやろな。ふふっ」

「臨時収入だと?」

「ああー、あの子らあたしとヴェルドラの決闘で賭け事してたんかぁ。とすれば、カモは一人か。はははっ」

「カモ? ってかヴェルドラとツキハの決闘で賭け事が成立するのか?」

「うん、多分一人だけあたしに賭けて、残りは皆ヴェルドラに賭けたんだと思うよ?」

「ええ? 普通は、主に全員賭けるんじゃないのか?」

「うちの子らは、そういうところは好きにさせてますからなぁ。猫は自由! これがうちとツキハのモットーなんやで。うふふふ」

「ハハハッ。猫は自由か、なんかいいなそれ。で、大負けしたのは誰なんだ?」

「サンコという眷属だよ。リムル」

「サンコ? ……ああ! ベニマルのところに遊びに来てたあの少女か。って、カリュブディスを蹴り貫いていた眷属だよな?」

「そそ。多分、金貨数百枚はカモられたんじゃないかな。くくくっ」

「金貨数百枚!?……。なあ、お前らさ、いったいどれくらい稼いでいるんだよ?」

「ふふっ、秘密や。企業秘密をそんな簡単に教えますかいな。千年以上前から〝傭兵商会・ルヴナン〟を営んでますのやで? うふふふ」

「はあ、何かうらやまって、いやいや、はぁ~。まあそうだよな、俺も頑張らないとな。しかし、ルヴナンか……確かフランス語で幽霊という意味だったような?――」

「せやで。もうかなり昔にどこぞの召喚者か迷い者かもしれん人間が、うちらを見てルヴナン!って()うたんや。なんやその言葉の響きが気に入ってなぁ、それで付けたんやルヴナンってな」

「へえー、そうなんだ。〝傭兵商会・ルヴナン〟、ソウエイでもここの情報はほとんど掴めていないから、ほんと幽霊みたいだな。存在はするがどこにもいない、けど実在はする、まるでルヴナンかぁ。名前の通りの傭兵商会で、ほんと驚くよ」

「正体がわからん、というとこがミソなんやで? リムル。敵はぎょうさんいてますからなぁ。ふふっ、うふふふ」

 

 そんな談笑をしながら街を散策し、やがて夕刻近くになり。

 リムル自慢の温泉風呂に入り、至極ご満悦なツキハとコハク。

 

 用意された浴衣に着替えて、宴会場に案内されて出された食事は。

 

 最近シュナが、ある料理の〝割り下(たれ)〟の再現に成功したもの。

 

 それは、すき焼き。

 

 鶏鴨(ケガモ)の卵を毒抜して小皿に溶き、鍋の具材をその卵に付けて食べる料理。

 

 これが絶品で、出された試作品のキンキンに冷えたビールにツキハとコハクが、感嘆の声を上げる。

 

「うま! なんだこのエール酒は、めっちゃ美味いじゃん!」

「ほんまに。このすき焼きも、肉が柔らこうてなんや箸が止まりませんえ! それに、このビールも美味しいどすなぁ。ここは、食の天国どす」

「フフフ。そのビールも魔国連邦(テンペスト)の特産品の一つだよ。他にも色々な料理や酒に武具に雑貨用品等、作ってるんだよ」

「へえー。それ売れば、一気に国庫が潤うじゃん。それに鉄道だっけ? あれも凄いお金を生む気がするよなぁ」

「え? お前らそんなところまで調べが付いていたのか? まったく、元忍びか……油断ならないなぁ。ククッ」

「今も魔物の忍びであり、それがうちらのメシの(タネ)の一つなんやで? リムル。うふふ」

 

 鉄道の事まで調べられていたリムルは、苦笑いを浮かべつつも二人に酒を勧めていく。

 

「あそうそう、林檎のブランデー百樽よろしくね」

「それは少し待ってくれないか? あれはまだそんなに生産してないんだ」

「そなの? うん、いいよ。出来たら優先的に回してよ」

「わかった。出来次第届けさせるよ。場所はテンペスト支店でいいのか?」

「いいよ~。とりあえず依頼してた倉庫を先に作ってね」

「了解だ」

 

 先程の契約で、さっそく林檎のブランデーの発注をしたツキハ。

 売りさばく品ではなく、自分達が飲む用に確保したものであり、料金も支払い済である。

 

 リムルは『状態異常無効』のお陰で酔う事が出来なかったが、ツキハとコハクは結構酔ってるようにリムルには見えていた。

 

(あの二人、毒耐性ないんだろうか? もしくは『状態異常無効』がないとか?)

 

 (何でだ?)と小さな疑問を持ちながら、シュナがグラスに注いでくれた林檎のブランデーを飲むリムル。

 半分酔っぱらったシオンがツキハに、あのヴェルドラ様と戦った体術はなんなのですか? と尋ねて来て、ツキハがあれは「〝天牙影千流・柔術〟の技だよ」と説明を始め、シオンが色々な技の事を尋ね、ツキハが笑顔混じりに教えていた。

 

 そんな楽し気なツキハとコハクとは対照的に、落ち込む者がいた。 

 

 それは、ベニマルの隣にいつの間にか座っていたサンコ、暗くモソモソと鍋をつついていた。

 どこか元気のないサンコにベニマルが声を掛ける。

 

「おいサンコ。どうしたんだ、なんか元気ないな? お前らしくもない」

「ニャぁ? 今アチシの懐は、極寒の氷河期なのニャ……」

「懐? 懐がどうしたんだ?」

 

 ベニマルが不思議そうにサンコに尋ねると、小袖の袂をゴソゴソとして〝がま口財布〟を取り出し、パチッと財布の口を開けて逆さまに振ると――

 

 チャリチャリンッ 小気味良い音を立てて銅貨三枚がテーブルに転がった。

 

 それを見たベニマルは「持ってるお金はそれだけなのか?」と聞き、何故それだけなのか理由をサンコに尋ねてみた。

 

「賭けに負けたのニャ……」

「賭けって、何の賭けをしたんだよサンコ?」

「ヴェルドラ様とツキハ様の決闘で、仲間達とどちらが勝つか賭けたのニャ、よ」

「ハッハハ。お前達は、主を賭けの対象にするのか? 命知らずだな、お前達って……」

「いいのニャ。ツキハ様もコハク様も、そこのところは寛容なのニャ。猫は自由! これが主と眷属達皆のモットーなのニャよ」

「モットーって、ハハハッ。ほんと面白い眷属達だな。それで、賭けはどっちに賭けたんだ?」

「アチシはツキハ様ニャ。他は……皆ヴェルドラ様に賭けたのニャよ! アチシはツキハ様が大好きニャ! 応援するのは当たり前ニャ。それなのに……アイツ等ときたらあー、裏切り者なのニャ、ぶっ殺すニャよ!」

「あーサンコ。それ、矛盾してないか?」

「ニャ? ニャんで?」

 

 サンコが怒り始めて、それをベニマルがちょっと違うだろうみたいに指摘して、サンコが首を傾げる。

 

「なあ、サンコ。猫は自由なんだろ? 主はそんなお前達に寛容なところもある。なら、他の眷属達がヴェルドラ様に賭けるのも自由なんじゃないか?」

「ニャ……? ニャんとそんな思惑が……」

「いや思惑とか違うだろ。んーあれだ、お前カモにされたんだろうな」

「カモ? アチシは忍魔猫なのニャ」

「いや、そのカモじゃねえよ。お前がツキハ様を大好きなのを逆手に取られて、賭けに乗せられたという事だ」

「ニャぁ……ニャ!? なんという巧妙な罠なのニャ。うニャぁーーーー、またカモられたのかぁー!!」

「お前、それ巧妙な罠でもないし……。でだ、カモられたという自覚があるなら、一度や二度じゃねえだろうカモられたの!」

「まあ、一杯やられてるかも、ニャよ?」

 

 キョトンと首を傾げてサンコはベニマルを見て、そのサンコの肩にポンと手を置いてベニマルがしみじみと言う。

 

「お前さあ、学習って言葉知ってるか?」

「ニャぁ……それはアチシの記憶にはないニャ」

「いやいやいや、記憶じゃねえよ! 学習! 学び覚える事だよ。いいか? 学んで同じ失敗を繰り返さない事だ。はあっー、お前なぁ、ほんとバカだろ?」

「バカ言うニャ! アチシをバカと言っていいのは――」

「――お前の姉だけなんだろ?」

「そうニャ。よく覚えてるニャ、ベニマル。ニャハハハハ」

「そこ笑うところじゃないだろう、まったくお前と来たら。ククククッ、ハハハハハ」

 

 相変わらず頓珍漢(トンチンカン)な事を言い出すサンコに、それに付き合うベニマル。

 

 そのサンコを見ながらツキハがコハクに笑いながら『思念伝達』で言った。

 

『サンコさ、ほんとベニマルのところに、よく遊びに行くよね。どこが気に入ったんだろね。くくっ』

『せやねぇ。自分と同格の強さを持つ魔物がいたから、嬉しいんとちゃいますか?』

『あーそれかぁ。あの子も、魔王を除けば太刀打ちできる魔物少ないもんね、それでか』

『あの子も、色々と覚えなあかん時期に来てるかもしれまへんな』

『そだね~。この国にいると飽きないから、色々と面白い事がこれから出て来るよねぇ』

『面白いというか、キナ臭い事がたんまりどすけどな。ふふっ』

『だね。まあ、成り行きでこの国に加担する事になったしって、あぁーエル姐さんとこの報告どうする?』

『どもこもありまへんえ、そのまま報告すればよろし。どのみち、遅かれ早かれエル姐さんは、この国に来ますえ』

『何か凄い興味を持ってたもんねぇ』

『せやな。まあ、今はこの料理を楽しみましょ♪』

『うんうん、食べよう、飲みまくろう~♪』

 

 そんな『思念伝達』の会話を終え、二人は鍋をつつき酒を飲んでいく。

 楽しい細やかな晩餐会も終わりをつげ、ツキハとコハクは、出来立ての高級宿泊施設にある高級宿に案内され、そこに泊まる。

 

 

 〝番外魔王〟の二人と友好を結んだリムル。

 

 その噂は瞬く間に、各方面の諸国に広まる。

 

 

 

 

 

 そして……。

 

 

 西方聖教会内部では、一部の者による不穏な影が動きだしていく。

 

 

 





 この作品を読んで頂き有り難う御座います!

 次回の更新でクレイマン編最終回です。

 では、次回 Epilogue(エピローグ) C&L(仮タイトル
 よろしくお願いします!
 





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