忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

72 / 149
 お待たせしました。72話です

 
 ※作中にでる脚絆(きゃはん)は、鬼滅の刃の禰 豆子が脛に巻いている物と同じものです。

 この脚絆は少しネットで調べてみたのですが、寒い地方の防寒用らしいです。間違っていたらごめんなさい。

 後、(すね)にピッタリ巻き付ける物もありますね。

 作中ではこの二種類を書き分けて使ってます。










72話 ペントハウス最上階てっぺん争奪戦とツキハとリムル

 

 ツキハとコハクが魔国連邦(テンペスト)へ移住してから三日が経っていた。

 

 昨日は、魔国連邦の住人達をクレイマン軍との戦いの為に混成軍を送った大広場に集め、番外魔王ツキハとコハクがこの国に移住する事になったと、リムルが皆に告げた。

 

 その時にコハクが壇上から挨拶をするも、盛大にやらかしたのだ。

 

「今日からこの国に世話になる、〝番外魔王〟コハクどす。あんじょうよろしゅうな。それでや、コホン。皆に、いやここに住む男達全員に()うときますけどな。ツキハに近づき、手を出そうとする(やから)は、うちが許しまへんで! ツキハはうちの愛す――キャンッ!」

 

 ズゴンと凄まじい音がして、コハクが頭を抱えてその場にしゃがみ込む。

 

 その場にいた者全員が何が起こったのかと、目を丸くしてコハクを見ていた。

 

 そして音の正体とは――

 ツキハがコハクの頭に勢いよくゲンコツを落とした音であった。

 

 ツキハはしゃがみ込んだコハクに目もくれず、怠そうに皆に告げる。

 

「あー、〝番外魔王〟ツキハだ。とりあえず、よろしくぅ。それと、あたしの事でこの超ド変態が言う言葉には、一切耳を貸さないように。もう一度言うよ? この超ド変態が言う事は全て妄想だから、わかった?」

 

 はぁーっと溜息を付きながら、ツキハは壇上から皆を見回す。

 

 いきなり番外魔王の一人がおかしな事を言い出して、相棒のツキハがコハクを殴り飛ばすとい展開に、その場にいる住人達の目が点になっていた。

 

 壇上にいるリムル以下幹部達には、コハクの〝正体(ツキハLove)〟は既に知れていたので、皆苦笑いを浮かべていた。

 

 そこへ。

 

「わかったよね? いいね?」

 

 低い声で気怠そうに言い捨てるツキハ。

 その圧力に、集まった住人全員が無言で首をカクカクと動かし頷いていく。

 

 

 番外魔王の挨拶も終わり、大広場にはツキハとコハク、リムル以下幹部達だけが残っていた。

 

「じゃあリムル。うちの眷属達を紹介するよ」

 

 ツキハがそういうと、いつの間にか起き上がっていたコハクが印を五つ結び、『幻想領域』でその場を包んだ。

 

 〝幻遁・万華鏡壁(まんげきょうへき)

 

 現世から完全隔離された空間。 

 

 そして、空間を揺らしながら次々と忍魔猫達が姿を現していく。

 

 その数千体の忍魔猫。

 

「凄いな、お前達の眷属達は。『空間操作』が使えるのか?」

「そだよ。この子達は皆、『空間操作』を応用した『空間迷彩』を張れるんだよ」

 

 ふふっと笑みを漏らしながらツキハがリムルの問いに答える。

 

「なるほどなぁ。シュナが言ってたクレイマンの居城に潜入していた眷属達は、これで姿を消していたのか」

「へぇー。眷属達の気配を察知した者がいたんだ。やっぱりリムルの配下もただものじゃないねぇ」

 

 潜入した眷属に気付いたリムルの配下に対して、ツキハが軽く驚きの声を上げる。

 

 そこへコハクがイチコの紹介をする。

 

「リムル、こちらが眷属達を束ねる(おさ)のイチコや。イチコ、こっちに来なはれ」

「はい。コハク様」

 

 一体のキジ猫種忍魔猫がコハクの前に出て来た。

 そして、花弁が舞うように青白い魔素粒子を緩やかに纏いながら亜人化形態へと姿を変えていく。

 

 スラッとした体形に茶髪ロン毛の猫耳と尻尾を生やした美女がそこに立つ。

 着ている装束は、藍色半丈の小袖に、黒色の角帯を巻き、スパッツみたいな半股引きを穿いて、足には白い生地のルーズソックスみたいな脚絆を紐で(すね)に巻いていた。

 

 この装束は、コハクとツキハが普段着ている装束と同じの色違いであった。

 

 リムルの前まで来たイチコは(ひざまず)き、挨拶を述べた。

 

「お初に御目にかかります、魔王リムル様。主様からご紹介をされた通りに眷属達の(おさ)を務め、壱番を授かったイチコで御座います」

「うむ。これからよろしく頼むよ。イチコ殿」

「はいリムル様。主様がこの国との契約を続ける限り、我等眷属一同は魔国連邦(テンペスト)に対して友好を貫く事をお約束致します」

 

 ほわりと微笑みながら挨拶を終えるイチコ。

 

(主が契約を続ける限りか。契約期限を無期にして良かったな。しかし、このイチコという魔人は、ベニマルと同等……いや、それ以上のものを感じるな。千体の眷属か、これ俺達とガチで戦ったらヤバくねえか? 少なとも全眷属は――)

《告。鑑定結果ですが、妨害効果もあり正確な能力は不明ですが。少なく見積もっても千体の忍魔猫達はAからBランク相当の能力は持つと推測出来ます》

『おいおい、それアイツ等だけで大国と戦争出来るんじゃないか?』

《解。恐らく可能かと》

『ふーむ……。敵に回すと厄介だが、味方にしたら頼もしい限りだな。ほんとヴェルドラ、グッジョブだわ。そう言えば、子持ちだったなイチコは。ニコにサンコに、イチオだったか? 美人の母親かぁ、これはこれで、ケモミミ好きにはたまらないシチュエーションかもな。クククッ』

 

 そんな事を思いながらイチコを見てると、それを察知したシオンが不穏な妖気を漏らし出し、(シオン、感良すぎじゃねえか!?)とすぐに、その思いを掻き消した。

 

 それからお互いの配下の紹介も終え、正式に番外魔王ツキハとコハクに眷属達は魔国連邦(テンペスト)の住人となった。

 

 

 

 それから更に三日後。

 

 ツキハとコハクが買った土地も、ゲルド自ら土地の地ならしをして、リムルが『暴食之王』で樹々や雑草、岩などを喰らい、既に整地されていた。

 

 建築資材を運び込み、ゴブキュウ達がツキハとコハクの家や傭兵商会・ルヴナンの支店を建てていく。

 

 リムルはというと、高さ三十メートルのキャットタワー建設の陣頭指揮を執り、既に土台とツリーは出来ており、魔法と能力(スキル)を組み合わせた建築方法は、リムルのいた世界の建設機械を使った建築とは、効率も建築スピードも段違いであった。

 

 

 そして、番外魔王専用用地と名付けられた土地の端っこで、ある者達が争っていた。

 

 

 それは、サンコ達がキャットタワーの最上階をペントハウスと呼び、その十部屋用意された個人小屋に誰が住むか? 争奪戦を繰り広げていたのだ。

 

 とりあえず、建築現場に被害が及ばない様にコハクが『結界』を張っていた。

 それもギィが魔王達の宴(ワルプルギス)で使用した『結界』を、寸分たがわずに再現したものである。

 

 

「なんニャ。テメエらアチシに挑んで来るとは、良い度胸ニャ! 消し炭にしてやるニャ!」

『うるせー! このいつまで経ってもお子様猫が!』

「そうよそうよ! 無い(チチ)子猫が生意気言うんじゃないわよ!」

「ペントハウスは渡さない。大人しく死んでもらうよ」

『こればっかりは譲れません! いくらサンコでも、私達に勝ってから最上階に住む権利を主張しなさいよね!』

「こんのアホどもがぁああああ! アンタらには正々堂々と戦うとかないのかニャ!? 言っとくけど、無い乳じゃにゃいわ! まだ成長期ニャよ!」

『ねえわ、千年以上も成長しねえ成長期とかアホか! 貧乳雌猫が!』

「あるわけないわよ! まずアンタを潰さないとね!」

「そう。まずサンコ死んでね」

『何言ってますの? 強いヤツには多数で掛かる。常識でしょ?』

「はニャあああああ! テメエらこんな時だけ共闘するのかぁー!」

 

 亜人化したサンコに、魔猫形態、亜人化形態の忍魔猫達がサンコを取り囲み、強襲していた。

 この容赦のなさが忍魔猫達であり、ツキハとコハクの眷属である。

 

 最上階は個室の小屋が十。

 その下が、十匹の忍魔猫が入れる小屋が十。

 更にその下が二十匹が入れる小屋が十。

 

 計三百十の忍魔猫が住める小屋を数百匹の忍魔猫達が争い、残る最上階に住める権利を求めてサンコ達が争っていたのだ。

 

 そう、別にこのキャットタワーに住まなくても、皆自分の家があるのだが。そこは元魔猫として、高い所に持つ別荘として、猫の本能が求めていたのである。

 

 ニャギヤァアアアアア! 

 

 地響きと轟音と共に、数十匹の忍魔猫が吹き飛んでいく。

 

 ミギャアアアアアアアア!

 

 凄まじい爆裂音が連続で響き、バラバラと吹き飛ばされた忍魔猫達が空中から降り落ちて来る。

 

 あニャァあああああああ!

 

 数十匹の一斉忍魔呪術、爆裂呪符が炸裂し、放物線を描きながら吹き飛んでいくサンコ。

 

 ズズンと響く地響きの中、ゴブキュウ達は気にも留めずに作業に(いそ)しんでいた。

 最初こそは驚きもしたが、今では忍魔猫達の争いにも慣れてしまい、作業にも支障は出ていなかった。

 

 作業を時折見に来るリムルが、ツキハに。

 

「お前達の眷属って、仲が悪いのか?」

 

 と、尋ねると。

 

「いんや、仲は良いよ。でも、それはそれ、これはこれなんだよ。眷属達は、ね。〝お役目(お仕事)〟以外はさ、自由に生きて欲しいんだよ。あたしもコハクも、それを眷属達に望んでるんだ。まあ、悪さが過ぎるとお仕置きはするけどね。くくっ」

 

 少し気怠そうに笑みを浮かべ言うツキハ。

 

「そうか。眷属達はツキハとコハクにとって、大事な家族なんだな」

 

 それにリムルがほわりとした笑みで返した。

 

 リムルの言葉にツキハは目を細め、サンコ達のペントハウス争奪戦を見ながら微笑んでいた。

 

「しかし、ほんと容赦がないなアイツら。クククッ」

「あれも、鍛錬の一環だよ。リムル」

「鍛錬だと?」

「そう。能力(スキル)を最大限に生かし、工夫してそれを使いこなす。能力(スキル)に使われない。能力(スキル)は使いこなしてこその、力なんだよね。ようはさ、〝技量を磨く〟、この一言なんだよ」

「ふーむ。なるほどなぁ。それがお前達の強さであり、眷属達の強さなのか……。ほんと、魔物が人間のように鍛錬して、〝技量を磨く〟かぁ。千年以上も鍛錬を続け、尚且つ、その技法を秘密にしてきたとか、空恐ろしいものがあるな」

「何言ってんのよリムル。その空恐ろしい事を、アンタのとこの配下も近い事をやってるじゃん。あたしからすれば、ほんとアンタの配下達とは事を構えたくないくらいなんだよ? それに、ミリムとこのミッドレイなんかも、長年にわたって鍛えてるからねぇ。あんま魔物でこれ考えるのいないんよ?」

 

 リムルが言った言葉に、ツキハが何を言ってんの? というように小首を傾げリムルを見て言う。

 

 リムルはベニマル以下配下達の異常なまでの進化に多少ならずとも疑問を覚えていた。

 

 だがしかし、リムルはツキハの言った言葉に頷ける部分があった。

 

 例に挙げるとシオンである。

 リムルに美味しい料理を食べさせたい作りたい、その強固な願いが『料理人(サバクモノ)』という冗談のようでいて、あらゆる事象を自分の思い通りに最適解出来るという最強の部類に入る能力(スキル)を手に入れた。

 

 もしこのユニークスキルが鍛錬により究極能力(アルティメットスキル)に進化すれば……。

 そうなのだ、シオンにしろベニマルしろ、ハクロウ、ゲルド、ガビル、ゴブタ達も今より強くなろうと今も鍛錬を重ねている。

 

 

 思いは人も魔物もそれぞれなのだが、リムルが名を授けた者達は他の魔物とは一線を画している。

 それは、ツキハとコハクの眷属達にも言える事で、今まではツキハとコハクの眷属達が他の魔物とは違う思考で千年以上も生きて来て、規格外的な強さを見せつけて来た――

 

 だが今そこに、リムルの名を授けた者達が加わったのだ。

 

 

 元人間であり、魔物に転生したツキハとコハクにリムル。

 この人間としての思考を持ちながら魔物であるという、稀有な事例が(もたら)すのは――

 名を与えた魔物が、主の思考に影響される事にある。

 

 この世界の魔物は、大抵が持って生まれた能力(スキル)に確固たる自信を持ち、それを使いこなすも、その力をそれ以上に鍛えようとはしない。

 大半の魔物達は持って生まれた力に溺れがちなのだ。

 もし敵と戦い負けたら、それはたんに自分の能力(スキル)が相手の能力(スキル)より劣っていたのだとしか考えない。

 

 しかしそんな魔物とは違う者もいるのも確か。

 そう、ミッドレイ達などは人間と変わらぬ見た目だが龍人族であり、(たゆ)まない努力と鍛錬により、驚異的な強さを持つ。

 

 だから鍛錬=〝技量を磨く〟なのだ。

 

 この〝技量を磨く〟という行為こそが人間が持つ思考であり、魔物より劣る身体能力を鍛錬により技を磨き、対魔物用の魔法や技を編み出していった。

 

 そう、これがもしも、なのである。

 

 もしも魔物が人間のように鍛錬を重ねたらを、やってきたのがツキハとコハクであり、リムルの配下達やミッドレイ達なのだ。

 

 それから、リムルに出会う前からそれに近い考えを持つ者が一人。

 ディアブロである。

 

 ディアブロもまた、長らく自分の力に制限を掛け悪魔界で戦って来ていた。

 進化した今でもその考えは変わらず、更なる強さを求め探求している。

 

 

 そうしてる内にサンコ達のペントハウス争奪戦も、終わりが見えて来た。

 

 サンコがくるくると回転しながら、次々と襲い来る忍魔猫達を蹴り飛ばしていく。

 

 〝猫鉄拳 蹴技 舞乱・独楽(こま)流し〟

 

 優雅に回転しながら蹴り技を放つその姿は、まるで舞い踊ってるように見えた。

 四方から襲い来る忍魔猫達は、サンコに蹴られ皆結界の不可視の壁に激突していった。

 ニギャ、ミギャッと短い声を上げ、地面に転げ落ちて目を回す忍魔猫達。

 

 そして、誰も向かって来ないのを確認してサンコが勝どきを上げる。

 

「ニャッハッハッハッ! これで最上階ペントハウスのてっぺんはアチシの――プギァッ!」

 

 その時、いきなりサンコが白目を剥いて前のめりにバサリと倒れ伏す。

 

「あまいわよ~サンコちゃん~。てっぺんはお姉ちゃんが頂くわよぉ~」

 

 『空間迷彩』と気配を偽り隠し、ずっとサンコが勝つまで待っていたニコであった。

 勝って油断していたところに、最大火力の打振を込めたゲンコツをサンコの頭に打ち込んだのだ。

 それは精神体(スピリチュアル・ボディー)を揺らし、サンコに脳震盪に似た現象を起こしていた。

 

「ニャ……に、ニコ、お姉……卑怯ニャ、よ……」

 

 混濁する意識の中サンコは途切れ途切れの言葉で文句を言うも、ニコはそれを軽く笑い飛ばす。

 

「なにいってるのかなぁ? 勝負は最後までぇ、気を抜いたらダメなのよぉ~。バカなのかなぁサンコちゃんは? ウフフ」

「こ、この、イカレ、バカお姉が――」

「――うるさいよ? サンコちゃん――」

「――ギャブッ!」

 

 ズン 重々しい音と軽い地響きが敷地内に伝わる。

 

 ニコが、何かを言いかけたサンコを容赦なく震脚で踏み付けた音であった。

 

 ここにペントハウス争奪戦は本当に決着が付き、頂上の小屋はニコ、その下がサンコに決まった。

 残るペントハウス八つの内七つはイチオ以外の一桁番号が交代で使う事になった。

 そして、ちゃっかり残る一つを掻っ攫っていったのはロモコであり、これは他の眷属達も予想外であった。

 

 争奪戦が始まり、他の忍魔猫達が脱落していく中、途中からニコと同じように気配を偽り隠し、『空間迷彩』を張って身を潜めていたのだ。

 

 そして、最後に勝ったニコの前に現れ交渉をして、ペントハウスの一つを使う権利をもらったロモコであった。

 

 ようは、最後までこの場に立っていた者が勝者であり、その手段は問わない。

 

 忍びには、卑怯も正々堂々も存在しないがツキハとコハクの教えであった。

 その手段があまりにも外道でなければ、この位は許容範囲なのだ。

 

 単純に、勝つ為には頭を使えという事である。

 

 それを見ていたリムルが、苦笑い気味にツキハに問う。

 

「なあツキハ。あれで、本当にいいのか?」

「ん? うん、あのくらいなら別段問題ないよ。油断したサンコが悪いもん」

「それはそうなんだけど、なんだかなぁ」

「リムルの言いたい事はわかるよ。普通はあんな事卑怯だもんね。でもね、本当の殺し合いに卑怯も正々堂々もないんだよ。あるのは、持てる力を全て出して、あらゆる手を使って敵を倒す。敵を前にして躊躇したり下手な論理を振りかざしたら、死ぬよ? 一度敵と認識したら全力で殺しにいく。これが、あたしが忍びの頃に師から教わった戦い方なんだよ」

 

 ツキハの言葉に次の言葉がでないリムルであったが、既に自分もファルムス軍二万を単独で殲滅している事から、ツキハと同じく手段を選ばないという事に関しては同じだなと思った。

 

「リムル?」 

「え? あぁ、いやすまない。ちょっと考え事してたんだ。すまん」

「そう。やっぱりさ、(いくさ)とはいえ二万の人間を殺した事を後悔してる?」

「いや、してないよ。あれは覚悟の上にやった事だしな」

「そっか。平和だった日ノ本から転生して来て、いきなりあれだもん。普通なら、良心の呵責に押し潰されて、精神が崩壊してるんだけどね。魔物になったとはいえ、人間の頃の記憶と倫理は残ってるんだし、むしろリムルはよく精神を保てたと思う」

 

 リムルが、自分の言葉で何か思うところがあったのかとツキハは心配して、労わる様にリムルに話した。

 それを聞いたリムルは、ツキハにある事を尋ねる。

 

「なあツキハ。一つ聞いていいかな?」

「なに?」

「お前達忍びは、やっぱり人を殺す練習というか、なんだ……心構えとかあるのか?」

「あるよ。あたしが忍びだった頃は、段階的に心の(かせ)を外していくんだ」

「心の枷を段階的にか?」

「そう。慎重に一つ、また一つと外していくんだ。忍びの訓練をしながら少しづつにね」

「それは、小さい時からなのか?」

「うん。七才になると一つ目の枷外しが始まるんだ。そこから徐々に十三才の成人までに、人を殺す事に心を慣らしていくんだよ。この枷外しは一つ間違うと、ただの殺戮者になるからね。血の匂いを欲し、肉を斬る喜びの為に人殺す、化け物に、ね」

「……それって、もしそうなったらどうなるんだ?」

「始末されるよ。里の手練れが、その任を任されるんだ」

「始末か……。戦国乱世、ほんと人間の頃なら想像も出来ない世界だな」

「ふふっ。でも、今なら少しはわかるんじゃない?」

「そうだな。今なら少しわかるな」

 

 ツキハの説明にリムルは、今の自分ならツキハの言った事が少しは理解出来ると思った。

 この世界も、ツキハのいた日ノ本の戦国時代とそう変わらぬからと。

 

 リムルは、ゴブキュウ達の作業をツキハと一緒に眺めながら、この国を背負い生きていく事を思い、何故かふっと笑みを口端に浮かべた。

 

 そう、人間の頃の三上悟からは想像も出来ない事を、今のリムルとしての自分がしているのだから。

 

 〝界渡り〟、魂だけでこの世界に来て転生した時に、リムルの精神もまた強靭に鍛えられていたのかもしれない。

 

 

「ねえリムル」

「ん?」

「これから、もっと色んな戦いが起きると思う。そして、怨みや憎しみも受けると思う。でもね、国を背負い、自国の民を守る為なら飲み込まなければいけない事も出て来る。そんな時に、非常な決断もしなければいけない時も必ず来るよ。だから、その時が訪れたなら、その汚れ仕事はあたし達が引き受けるよ」

「え? それって――」

「敵対者の排除。簡単に言えば、敵対者の一族皆殺しだよ」

「な!?……」

「なるべくなら、リムルの配下にはさせない方がいい。その為のあたし達だからね」

 

 リムルは、人間の頃に映画やテレビの時代劇で見た敵対一族の皆殺しを思い浮かべ、次の言葉が出なかった。

 

 しかし、ツキハの言葉を否定は出来なかった。

 

 何故なら、国を動かすとは――綺麗事では出来ないからである。

 

 これから、色々な問題に直面する事になるのは明らかであり、その決断を間違うと、魔国連邦(テンペスト)が他国から舐められることになるのだから。

 

 

「まあ、そんなに深刻に考えないでいいよリムルはさ。いつも通りに、自分のやりたいようにやればいいと思うよ。って、不穏な事を言ったあたしが言う事ではないか。てへへ、ごめん」

 

 肩を(すく)め舌をペロッと出して、恥ずかしそうに謝るツキハの姿に、リムルも思わず笑いを漏らしてしまう。

 

「ククッ。それ全然悪びれていないだろう? こっちこそ、考え込んですまなかったな」

「いいっていいって。暗殺などは、このツキハ姉さんに任せなさい。ふふふ」

「それ笑いながら言うセリフじゃねえぞ。ハハハッ」

 

 顔を突き合わせて笑うツキハとリムル。

 

 そこへシオンが、リムルに来客があると伝えに来た。

  

 それ聞いたツキハは、「あたしは、コハクが来るまでここで作業を見てるよ」と言い、サンコ達の方へと向かって行った。

 

 

 シオンと話しながら中央都市リムルに歩いていくリムル。

 

 楽し気に話すシオン見て、あの時のシオンの顔が一瞬頭を過る。

 二度と繰り返してはならない、自分の過ち。

 

 今一度それを噛み締めて、リムルは国を背負う魔王としての自分の思いを見つめていく。

 

 

 次なる災いは既に動き出し、リムルへと手を伸ばし始める。

 

 

 

 




 この作品を読んで頂き有り難うございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。