忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。73話です







73話 法皇両翼会議 (前編

 

 番外魔王がテンペストに移住してから十日あまり。

 

 

 その報はヒナタの下に届く事になる。

 

 

 情報源の一つだった東の商人が使えなくなった今、ヒナタは自分の足で集めた情報こそ信用すべきものと判断していた。

 

 

 そして、月に一度の法皇両翼合同会議が始まっていた。

 

 集まったのはヒナタ直属の聖騎士団と、法皇直属近衛師団――法皇庁所属の近衛騎士団の面々であった。

 これはヒナタ・サカグチを頂点し、神聖法皇国ルベリオスの誇る両翼である。

 

 

 会議の議長はヒナタ。

 

 凹の字に並ぶ机の上座がヒナタの席。

 

 その右手側には、副団長のレナード・ジェスター。

 〝光〟の貴公子と呼ばれる甘い表情をした聖騎士。

 

 そして隣には、〝空〟のアルノー・バウマン。

 ヒナタに次ぐ最強の騎士と称され、部隊を率いる隊長格の中でも頭一つ抜きん出た男である。

 

 

 それからアルノーに続き、四人の隊長格がいた。

 

 〝地〟のバッカス。

 魔法の力が込められた神聖戦棍(ホーリーメイス)で敵を叩き潰す事を得意とし、寡黙で大柄な男。

 

 〝水〟のリティス。

 治癒魔法の使い手であり、麗しの美女。

 そして、水の聖女(ウンディーネ)を使役する精霊使役者(エレメンタラー)である。

 

 〝火〟のギャルド。

 炎術士にして、炎槍・炎獣牙槍(レッドスピア)を操る長身の騎士であり、真面目で常に仲間に気を配る男。

 

 〝風〟のフリッツ。

 風魔法と双剣を使いこなす魔法剣士。

 正統派の騎士が多い中では珍しい、邪道寄りのトリックスターでもある。

 基本自由人で、一人だけ正装を着崩しているが、誰よりもヒナタを崇拝する男。

 

 各々が二十名程度の聖騎士を従え、アルノーを筆頭にした五大隊長であった。

 

 

 それからヒナタの左側に並ぶのは、個人主義の集まりである法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)である。

 

 装束や装備までもが多種多様な三十三名。

 

 たった三十三名で師団を名乗るその理由は――

 一個人の戦闘能力の高さにあった。

 

 一人一人が一軍に匹敵する実力者であり、法皇より〝城砦〟という称号を与えられていた。

 全員がAランク以上の戦闘力を有し、数名で連携すれば災厄級(カラミティ)の脅威にも立ち向かえる英雄級の者達。

 

 その中でも特筆すべき者達がいた。

 

 

 〝蒼穹〟のサーレ。

 まだあどけない少年の姿をしているが、この中では一番の長命である。

 ヒナタが就任するまでは、法皇近衛師団筆頭騎士であった男。

 

 〝巨岩〟のグレゴリー。

 サーレの片腕であり、『万物不動』の剛性を備え持つ男。

 その肉体硬度は大抵の金属は上回り、肉体そのものが武器である。

 

 

 〝荒海〟のグレンダ。

 ヒナタよりも新参者でありながら、ここ数年で頭角を現した女。

 逆立つ赤毛が特徴的な、野性的な美女である。

 裏稼業の傭兵上がりである為、その戦い方はヴェールに包まれていた。

 

 この〝三武仙〟と呼ばれる三名が、六名の聖騎士の対面に座っていた。

 

 座に座るこの九名。

 

 この者達こそ、人という枠組みを超越した超人達であった。

 

 彼等は〝魔王〟と対になる存在――〝聖人〟と認定されていたのだ。

 

 ヒナタを加えて――十大聖人と呼ばれる、神聖法皇国ルベリオスの最強戦力。

 

 人は過酷な修練を積むと、長き時の果てに上位存在へと進化する事がある。

 それを為した者達は仙人(せんじん)と呼ばれ、寿命が大幅に伸びて半ば精神生命体に近い肉体構造へと変化する。

 

 肉体という枷から解き放たれた存在へと。

 

 仙人級の者が操れるエネルギー量は膨大であり、物理的な力や魔法の精度が人と比べようもない程に強化され、〝魔王種〟に匹敵する程の強者となるのであった。

 

 人類の守護者、人が正しく進化した神の使徒。

 

 だがしかし、それはあくまでも人が定めた基準なのである……。

 

 

 そして――

 ヒナタの後方、御簾(みす)の向こう側では法皇ルイが座して、会議の様子を見守っていた。

 

 会議は魔王リムルが治める、魔国連邦(テンペスト)の対処に、復活したヴェルドラとそれに伴い、何故か魔国連邦(テンペスト)に移住した〝番外魔王〟への対応を議論した。

 

 それからファルムス王国の現状についてである。

 

 まず〝水〟のリティスが、ジュラの大森林周辺の調査報告をした。

 ジュラの大森林は安定しており、商人の出入りが頻繁に見受けられたと告げた。

 特にブルムンド王国からの行商が多かったと続ける。

 

「それで、ブルムンド王国は国策として、魔国連邦(テンペスト)との国交樹立を宣言していました。それには安全保障も含まれていて、誰もが気軽に行き来出来るようになっておりました。また、街道などは美しく整備され、魔物が出没する気配などはなく、安全保障は口先だけのものではないと、確認も取れています」 

 

 これにヒナタが問い返す。

 

「行ってみたの?」

「はい。直にこの目で確かめようと、旅人を装い現地まで赴きました。街道の定点には警備の者が配備されており、旅人や行商人の安全は守られておりました。魔物の街は、予想以上の発展振りに驚きを隠せませんでした。流石に魔素の濃度は若干高めでしたが、人体に影響の出るレベルではありません。魔王リムルはその言葉通り、人との友好を望んでいるという印象を受けました」

「――そう。それで、ヴェルドラと〝番外魔王〟は?」

「は、はい。それなのですが……」

「どうした?」

「〝封印の洞窟〟への立ち入りは禁止されており、それ以外の場所にあの邪竜が好みそうな場所は見当たらず……その存在は確認できませんでした、が……」

「が?」

「その……なんというか、あの〝傭兵商会・ルヴナン〟の支店が、魔国連邦(テンペスト)に出来てまして――」

「なんですって!?」

 

 ヒナタの驚く声と共に、他の面々がざわついた。

 

 長きに渡り、その実態を掴ませなかった〝番外魔王〟が持つ最大戦力――〝傭兵商会・ルヴナン〟が堂々と看板を上げたからだ。

 

 そして、それと同時にヒナタは、〝番外魔王〟の意図がわからなくなった。

 何故今に? その疑問は幾重にも頭の中を過り消えていく。

 

(やはり、ヴェルドラは魔国連邦(テンペスト)のどこかにいる。番外魔王ツキハとコハクがあの国に移住なんてそれしか考えられない。はあぁ……。これは、厄介どころでは済まなくなるわね)

 

 ヒナタがそんな思案をしていると、「報告は以上です」とリティスの言葉がヒナタの耳に入った。

 

「ヴェルドラの存在が確認出来なかったとなると、復活はしたというのは間違いで、気まぐれ〝番外魔王〟の事だから、支店はフェイクでは?――」

 

 横から風のフリッツがそう問いかけようとするも、ヒナタに冷たく一瞥(いちべつ)され、黙る事になる。

 それに慌てて謝罪をしようとするフリッツを無視して、ヒナタは発言した。

 

「神託は絶対よ。魔王リムルの行動は理解したし。〝番外魔王〟の目的も、新たな傭兵契約を魔王リムルと交わしたのかも知れないわね。次に移りましょう」

 

 そして、サーレからの報告が始まる。

 イングラシア王国はライバルであるファルムス王国が傾いて、今後ますますイングラシア王国の勢力が力を持つでしょうと、報告が進む。

 

 次に、現ファルムス王国は、エドマリス王が退位して新王エドワルドが誕生したと告げる。

 その新王エドワルドが、腕利きの傭兵を掻き集めていると。これに関しては〝傭兵商会・ルヴナン〟の姿は無いとサーレが断言した。

 更に、これに呼応するかのように貴族達の動きも慌ただしくなり、内乱が起きるのではとも付け加えた。

 

「僕としては、これは――内乱が起きる前兆だと睨んでいるよ。西側諸国に、魔王リムル誕生の知らせが駆け巡っているし。あの〝番外魔王〟の二人がそこに住み着いたとの知らせも既に出回っている。それに、魔国連邦(テンペスト)との交流でブルムンド王国は、えらく活気に包まれているしね。ファルムス王国内部は、中々にキナ臭い事になってると思うよ」

 

 そう、今やファルムス王国は混乱の極みにあった。

 貴族達の動きはバラバラで、戦力確保に走る者も多く、現に〝傭兵商会・ルヴナン〟の支店が魔国連邦(テンペスト)に出来たと聞いた一部の貴族達は接触を図るべく密偵を出したが、ファルムス王国貴族と分かった時点で門前払いを喰らっていたのだ。

 

 民への影響も大きく、物価は高騰し物流が滞っていた。

 失った二万の兵の補充も、素人同然の民が徴兵される始末。

 戦力にならない者まで集める程、進退窮まっていたのだ。

 

 つまり、これがサーレの言う、内乱の前兆である。

 

 周辺の小国の反応はまちまちであった。

 何故なら、秘密裏に〝傭兵商会・ルヴナン〟との契約を結んでいる小国も存在し、何よりも警戒すべきはファルムス王国であり、巻き込まれない様自国の国境警備を厳重に行っていた。

 

 そう、不穏な空気をどの国も感じ取っていたのだ。

 

「しかしこれだけでは、そこに魔王リムルの意思が介在しているのかどうか判断するには情報が足りない。ましてや、あの〝番外魔王〟が絡んでいるかもと仮定したら、更に複雑になるね」

「そうね。それで?」

「新王エドワルドが接触した相手を洗い出してみた。評議会の重鎮に、自由組合の幹部。そして、〝傭兵商会・ルヴナン〟だけど。これは、秘密裏に密偵を送ったらしいけど、どうも門前払いをされたらしい。後は、東の商人達かな。そうそう、僕の部下にも接触を図ろうとしたようだね」

「すると、目的は戦力増強かしら?」

「流石だね。その通りだよ、筆頭(ヒナタ)

「では、確定ね。新王エドワルドには、戦争賠償を支払う意思はない。そして、それを許す魔王ではないでしょうから。それに、魔王リムルがそれを想定しない程の馬鹿だとは思えない。もっとも、〝傭兵商会・ルヴナン〟と契約をする為に密偵を送ったなんて、浅はかにも程があるわ。何故、商会の正体を明かすような真似をしたのか? そこに何者かとの契約が出来たという事よ。間違いなく、魔王リムルと何らかの契約を交わしたと考えるべきね」

「ふーん。つまり筆頭(ヒナタ)は、全てが魔王リムルの計画のうちだって言うんだね? そして、それに〝番外魔王〟の二人が、ガッツリ絡んでると?」

「そうね」

 

 サーレの言葉にヒナタは頷いた。

 

(少し歯がゆいわね……冗談みたいに足並みが揃っている。これらの情報を読み解く限り、あるべき結末に向かっているのかも知れない……。間違いない、これは何者かが裏で糸を引いている。誰が? 西側諸国で暗躍していた魔王クレイマンが消えた今、そんな事を出来る者は一人だけ――魔王リムル。それに〝番外魔王〟の二人が助言をしている可能性もある。厄介なことだわ。油断ならぬ性格といい、裏から用意周到に策を張り巡らせる智謀といい、元日本人だったというのは、本当のようね)

 

 ヒナタは冷静に、リムルの事をそう評するも、故に東の商人達の言葉を信じたのが自分の間違いだと思い返す。

 数年に渡る付き合いであり信頼もしていた。だからこそ、その情報を鵜呑みにしてしまった。

  

 本当に致命的な失敗だと、ヒナタは反省をする。

 

 何よりも性質(たち)が悪かったのは、その情報の大半が正しかった事だ。

 リムルに関してのみ、ほんの少し(ゆが)めて語られ、一つまみの嘘を仕込まれていた。

 その裏付けが取り様の無いほんの小さな嘘に、ヒナタは騙されたのだ。

 

 あの時、リムルの話を信じていれば少しは違った展開になったかも知れない。

 だがしかし、それも今更だとヒナタは考えた。

 

 そしてヒナタは、サーレの報告で気になる点に気付いた。

 

「それでサーレ。エドワルドは東の商人に接触したのよね? どのような内容だったかわかる?」

 

 ヒナタからの問いにサーレは「あいつらは、いつも金の話ばかりしてるんじゃないの?」と言い。

 それにヒナタが、自分が利用されたから貴方達も油断しない方がいいと言う。

 その言葉にサーレはグレンダに、「君の担当していた範囲には、商業都市があっただろう?」と、話を振った。

 

 サーレはヒナタの事を気に入らないと思いつつも、真面目に仕事は行う。

 しかしサーレは、逆にヒナタの事を認めてもいる。

 対魔物に容赦なく、民を守ろうとする姿を見ているから。

 そう、心のどこかでヒナタを認めていたのである。

 

 だから、ヒナタに命じられた調査もキッチリと行い、得た情報を隠す事もしない。

 

 その地位から追い落とそうと画策はしているが、足を引っ張る事はしないし、良くも悪くも裏表のない性格であり、実力主義者であった。

 

 ヒナタもそれを知っていた。

 

 対してグレンダは?

 

「そうだね……アタイの知る限り、怪しい動きはなかったさね」

 

 飄々としながら、嘘を吐く。

 

 傭兵として裏の世界を渡り歩き、様々な修羅場を経験して来た女傭兵のグレンダ。

 そんな傭兵としての勘が、今回の不穏な気配に金の匂いを感じ取っていた。

 

 信仰と金は別勘定、それこそがグレンダの信条。

 

 敬虔(けいけん)なルミナス教の信者と思われているが、それは偽りの姿。

 グレンダの本当の目的は、全世界に散らばるルミナス教徒の力であり、金であり、情報であり、武力であったりと様々な形をしているが、どれもグレンダにとっては必要なものなのだ。

 

 それらを自由に束ねることが出来る今の立場は、絶対に失ってはならないものであった。

 

 故に、グレンダはヒナタに隠し事をする。

 

 そうなのだ、サーレが言った商業都市で、グレンダは東の商人と接触をしていた。

 そしてそれだけではなく、評議会の長老と呼ばれる大物とも、密かに密談をしていたのだ。

 

 報酬は金。

 

 代価は、偽りの情報を流す事である。

 

 しかし、それを流すのは今ではない。

 時が来るのを見計らわないといけないのであった。

 

 だから今ヒナタに疑われるのは不味いと、グレンダは考える。

 

 ヒナタは敵には冷徹で容赦がない、しかし味方に対しては甘い側面があるとグレンダは感じていた。

 味方――(すなわ)ち、ルミナスを信じる者にはと、言えた。

 

 グレンダはそこを突く。

 

「そうさねぇ。筆頭がそんなに気になるってんなら、もう一度キッチリ調べてみるさね」

「そう? それじゃあ、お願いするわ。商人達の言葉に耳を貸して、油断しないように」

「任せな。コネもあるし、良い情報を持って帰ってくるさね」

 

 グレンダは、ヒナタ相手にあろう事か安請け合いをしてしまう。

 

 その軽口から、かなりの思惑をヒナタに読み取られてるとも知らずに……。

 

 そんなグレンダを見て、ヒナタは心の中でそっと溜息を吐いた。

 

(はぁ……舐められたものね。もしかして、私が甘いと勘違いしているのかしら? そうだとしたら、本当に残念だわ)

 

 ヒナタはそう思い、一度天井を仰ぎ見て視線を元に戻した。

 

 そもそもヒナタは、仲間を大切にしている訳ではないのだ。

 そこをグレンダは勘違いをしていた。

 

 ルミナスの為に働くからこそ、大切に扱い、時には気遣ったりもしているだけなのだ。

 

(まあ、好きにすればいいわ。でも――裏切り者ならば、話は別)

 

 師団のメンバーが何しようと、ヒナタがそこに口を挟むことはない。

 それが自分、ひいてはルミナスに仇をなさぬ限り。

 

 だがしかし、内通者の存在が疑われる今、グレンダの行動には警戒が必要だった。

 

 グレンダは利用されてるだけかも知れない、ヒナタはそうも考え、すぐにグレンダを粛清するつもりはないが、やはり警戒を強める事だけは必要だろうと考えた。

 

 だが今は、それよりも重要な問題があった。

 ヒナタは気持ちを切り替え、すぐに口を開いた。

 

「さて、これで報告は出揃ったわね。これで諸君にも現状が理解できたと思う」

「はい。〝暴風竜〟ヴェルドラヴェルドラが復活して、それに合流した〝番外魔王〟ツキハとコハクの影響は予想よりも小さく、被害報告は作戦行動中だったファルムス王国軍勢のみ。ただしそれも、魔王リムルが流した情報であろうと思われる為、被害は実質ゼロと、いう事になりますね」

「こうなると、生存者だったレイヒム大司教から直接話を聞きたいね。僕達はヴェルドラが復活し、〝番外魔王〟の二人がヴェルドラの下に合流したのを知っている。だから余計に、戦場で何が起きたのかを聞きたいし気になるね」

 

 ヒナタの言葉に副官レナードが続き、それにサーレが続いた。

 

「そう思って呼んでいるわ。もうそろそろ来る頃だとは思うのだけれど」

 

 ヒナタは腹心のニコラウス枢機卿に命じて、既にレイヒムを呼び寄せていた。

 

 そう、ヴェルドラが復活し、そこに〝番外魔王〟の二人が合流して、ファルムス王国軍勢だけの被害で終わった事が、実際にはあり得ない話であった。

 

 何故ならヒナタは、三度目の〝番外魔王〟討伐に派遣され〝番外魔王〟の二人と戦っており、その凄まじさを知っているから。 

 

 であるからこそ、戦場で生き残ったレイヒムから、有益な目撃証言を聞くべきだとヒナタは判断したのだ。

 

 

「なるほど、それは楽しみだね。どんな話を聞けるのかワクワクするよ」

「もしかしたらヴェルドラの復活と、〝番外魔王〟の二人に関して何かわかるかもな」

 

 サーレが嬉しそうに言い、レナードもレイヒムから何が聞けるのかと、どこかしら期待を寄せていた。

 

「〝ヴェルドラと番外魔王の二人を、魔王リムルが交渉して(なだ)めた〟という噂がありますが、これの判断も難しいところではありますね。しかし、復活が事実で、今もヴェルドラと〝番外魔王〟の二人が大人しくしている。これが正しい以上、その信憑性も増すってものです」

 

 〝空〟のアルノーが冷静に指摘して、その通りだと、皆が頷いた。

 

 魔王リムルと〝暴風竜〟ヴェルドラ、〝番外魔王〟ツキハとコハク、この四者は間違いなく繋がっていると、皆は暗黙のうちに悟っていたのだ。

 

 

 ならば隠す意味はないと、ヒナタは判断する。

 

 ルミナスより語られた言葉、リムルとヴェルドラは盟友であり、ヴェルドラとツキハとコハクもまた、特別な関係であると、特にヴェルドラに対してツキハは、特別以上の感情を持っているという、事実を。

 

「――そうね、それについては本当よ。貴方達には話しておくけど、神ルミナスより神託が下りた。〝暴風竜〟ヴェルドラと〝番外魔王〟ツキハとコハクを(ぎょ)せるのが魔王リムルである、と。故に『魔王リムルに手出しをするのはまかりならぬ』と、の事よ。皆も心するように」

「そ、それはつまり……なんということだ……」

「ハッキリと告げておくわよ。今回の件、我々は裏方に徹し、決して魔王とは表立って事を構えないものとします。以上」

 

 ヒナタは立ち上がりと、力強くそう宣言した。

 これは事実上の、魔王リムルへの不介入宣言である

 

 これには全員が驚きを隠せず、会議の間が騒然となった。

 

 その様を見ながら、ヒナタは思う。

 

(憐れなものね。昔の私みたいに、事実を知らないというのは……。神ルミナスが、実在するという、事実を……)

 

 そう、ここにいる全員、ヒナタ以外には誰も、神ルミナスが実在するという事実を知らないのだ。

 

「確かに魔王は不可侵存在(アンタッチャブル)だけど、それは表向きの話だろう? 十大聖人である僕等なら、魔王にも遅れは取らないはず、いや取らない!」

 

 サーレが言うのも事実である。

 

 魔王というS級の脅威に対して、人類は無策ではない。

 対抗できるだけの戦力を蓄えて来た。

 

 それこそが、十大聖人のように〝仙人級〟に到った者達なのだ。

 

 アルノー、レナード、グレゴリーの三名ならば、特A級の魔物達にも難なく勝利出来るだろう。

 

 ヒナタに次ぐ実力者のサーレならば、魔王相手でもそうそう遅れを取る事はない。

 物語の中のように一対一で戦う状況など起きないだろうし、たとえそうなったとしても良い勝負にはなるであろうとヒナタは考える。

 

 先だって倒されたクレイマンなどが相手ならば、勝利する確率も高いだろうと。

 

 だがしかし、悲しい事にそれは〝魔王種〟までの話。

 

 本物の魔王を前にしては、サーレ達ではまるでお話しにはならないのである。

 

 それは、魔王ルミナスを知り、〝番外魔王〟の二人の凄まじさを知るヒナタにとっては自明の理であった。

 

 そして、リムルもまた――

 そこに並ぶ。

 

 ルミナスから、魔王クレイマンをリムルが瞬殺したと聞かされ、更に〝番外魔王〟二人の怒りを買って、一夜にして滅ぼされた小国の話などから、今の名ばかりの〝十大聖人〟では、太刀打ちが出来ないと。

 

 本当の意味で更なる進化を()して、真なる〝聖人〟へと至らぬ限り。

 

 ――つまりは、ヒナタのように。

 

 ヒナタは、〝番外魔王〟ツキハが放った、青白い光線の事を思いだす。

 

 その膨大な熱量を持った光線は討伐隊の騎士達を一瞬にして蒸発させた。

 灰も残らずに……。

 

 討伐隊は半壊、ツキハと剣を交えたヒナタは、自分のユニークスキルが一切通用しなかったことも脅威に感じていた。

 

 魔王ルミナスと同等、考えたくはないが、もしくはそれ以上の物を隠し持ってるという、嫌な感触。

 

 ならば、今の魔王リムル相手ではヒナタを除く九名が全員で挑んでも勝てないだろう。

 

 ルミナスから聞かされた、〝真なる魔王〟の真実。

 

 間違いなくリムルは〝真なる魔王〟として覚醒している。

 

 そして、ルミナスが忌々し気に放った言葉が、今もヒナタの耳に引っ掛かっていた。

 

(わらわ)の見立てじゃが、あ奴ら(番外魔王)も、確実に〝真なる魔王〟に覚醒しておるじゃろうな』

 

 一国に、あまりにも強大すぎる戦力の集中。

 

 この事は、西側諸国においては看破できずに、今も西方聖教会に引っ切り無しに対応を求める声が上がって来ていた。

 

 

 魔王リムルへの不介入に対してサーレ達が議論を重ねる中、ヒナタは既に一歩先の事を考え始めていた。 

 

 

 自らが魔王リムルと、接触を図るべきではないか、と。

 

 

 

 

 

 




 この作品を読んで頂き有り難う御座います!

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